特開2016-183432(P2016-183432A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-183432(P2016-183432A)
(43)【公開日】2016年10月20日
(54)【発明の名称】複合不織布
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/559 20120101AFI20160926BHJP
【FI】
   D04H1/559
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-64480(P2015-64480)
(22)【出願日】2015年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木原 幸弘
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AB02
4L047AB03
4L047AB07
4L047AB09
4L047BA21
4L047CA02
4L047CA05
4L047CA19
4L047CB02
4L047CB10
4L047CC10
4L047CC11
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、高い剛性を有しながら、嵩高い不織布を得ることにある。
【解決手段】 長繊維不織布の片面に湿式抄造法により得られる抄造ウェブが積層されてなる複合不織布であり、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した略Y4形状で、その単繊維繊度が10デシテックス以上であり、
抄造ウェブが、横断面形状が略Y4形状で、その単繊維繊度が10デシテックス以上である異型断面繊維によって構成されていることを特徴とする複合不織布。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維不織布の片面に湿式抄造法により得られる抄造ウェブが積層されてなる複合不織布であり、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
形状(以下、「略Y4形状」という。)で、その単繊維繊度が10デシテックス以上であり、
抄造ウェブが、横断面形状が略Y4形状で、その単繊維繊度が10デシテックス以上である異型断面繊維によって構成されていることを特徴とする複合不織布。
【請求項2】
長繊維不織布と抄造ウェブとは、長繊維不織布上で抄造した後に熱接着することによって積層一体化したものであることを特徴とする請求項1記載の複合不織布。
【請求項3】
抄造ウェブは、熱接着性繊維を含み、熱接着性繊維の熱接着成分が溶融または軟化することにより、抄造ウェブの構成繊維同士が接着一体化するとともに、長繊維不織布と抄造ウェブとが接着一体化していることを特徴とする請求項1または2記載の複合不織布。
【請求項4】
長繊維不織布の目付が20〜60g/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の複合不織布。
【請求項5】
長繊維不織布は、熱エンボス加工により部分的に熱圧着されて長繊維不織布として形態を保持していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の複合不織布。
【請求項6】
長繊維不織布を構成する長繊維が、略Y4形状の各々の略V字部が低融点ポリエステルよりなり、その他の略+字部が高融点ポリエステルよりなる複合型ポリエステル長繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の複合不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布の片面に抄造ウェブが積層一体化してなる複合不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維長が10mm未満のいわゆるショートカット繊維やパルプ繊維を用いて、湿式抄造することにより得られる湿式不織布は、抄造する際に、繊維が十分均一に懸濁してなるスラリーを用いるため、目付斑が少なく、地合いの良好な不織布が得られる。このような湿式不織布は、構成繊維の繊維長が短いため、強度に劣る場合がある。よって、湿式不織布の強度を補うために、たとえば、他の不織布を複合化する技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、抄紙不織布と熱融着性繊維不織布とを積層して、熱エンボス加工により積層一体化してなる不織布が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、湿式ウェブと、強化支持体である長繊維不織布とが、水流絡合処理を施すことによって一体化された不織布が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−291377号報
【特許文献2】特開2003−41472号報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特殊な横断面形状を持つポリエステル不織布を開発した(特開2013−76182号公報)。これは、ポリエステル長繊維を構成繊維とする不織布であって、該ポリエステル長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
【0007】
形状であることを特徴とするポリエステル不織布である。かかるポリエステル不織布は、高剛性であるという特性を持っている。
【0008】
本発明者は、このポリエステル不織布を用いて種々研究を行っていたところ、このポリエステル不織布の片面に同様の横断面形状を有するショートカット繊維からなるウェブを湿式抄造法により積層すると、均一な表面でありながら、高い剛性を有し、かつ嵩が高い不織布が得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。したがって、本発明の課題は、均一な表面でありながら、高い剛性と嵩高性を有する不織布を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を達成するものであって、
長繊維不織布の片面に湿式抄造法により得られる抄造ウェブが積層されてなる複合不織布であり、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
【0010】
形状(以下、「略Y4形状」という。)で、その単繊維繊度が10デシテックス以上であり、
抄造ウェブが、横断面形状が略Y4形状で、その単繊維繊度が10デシテックス以上である異型断面繊維によって構成されていることを特徴とする複合不織布を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の複合不織布は、長繊維不織布の片面に、湿式抄造法による抄造ウェブが積層されてなり、2層が複合一体化している。
【0013】
本発明における長繊維不織布は、その構成繊維の横断面形状に特徴を有するものである。この横断面形状は、図1に示すような略Y字を四個持つものである。そして、略Y字の下端1で上下左右に連結して、図2に示すような略Y4形状となっている。また、中央の略+字部5と、略+字部5の各先端に連結された四個の略V字部6により、高剛性となっている。すなわち、六角形やY字等の単なる異形ではなく、剛性の高い略+字部5と略V字部6の組み合わせによって、より高剛性となるのである。また、長繊維の異型度が大きいことや、繊度も10デシテックス以上と大きいことから、一定面積中の繊維が存在しない箇所の比率、すなわち二次元的に見たときに繊維が存在しない面積比率が大きく、また、繊維が存在しない箇所(長繊維不織布の空隙)の個々の面積が大きくなる。繊維が存在しない面積比率が大きく、かつ繊維が存在しない箇所(長繊維不織布の空隙)の個々の面積が大きいことにより、繊維懸濁液(スラリー)を長繊維不織布上に載置して抄造〜脱水する際に、水抜けが良好で、均一性が高い複合不織布を得ることができる。また、抄造〜脱水の際に、抄造ウェブを構成する繊維の一部は、長繊維不織布の空隙内に侵入するものもある。なお、長繊維不織布における繊維が存在しない箇所の個々の面積は大きいことから、「孔」ともいう。
【0014】
本発明に用いる断面が略Y4形状の長繊維から構成される長繊維不織布について、以下に説明する。基本的には、本件出願人が提案した前記特開2013−076182号公報に記載した長繊維不織布を用いるとよい。
【0015】
長繊維不織布は、剛性および形態安定性の観点から、構成繊維同士が熱接着により一体化してなるものが好ましく、構成繊維は、熱可塑性重合体によって構成され、機械的強度に優れ、剛性が付与できることから、ポリエステル系重合体であることが好ましい。ポリエステル系重合体により構成される長繊維(ポリエステル長繊維)は、一種類のポリエステルからなるものでもよいが、低融点ポリエステルと高融点ポリエステルとを組み合わせるのが好ましい。すなわち、ポリエステル長繊維の横断面形状の略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型を採用することが好ましい。複合型ポリエステル長繊維を集積した後、低融点ポリエステルを軟化又は溶融させた後、固化させることにより、ポリエステル長繊維相互間が低融点ポリエステルによって融着された不織布が得られるからである。
【0016】
長繊維不織布は、溶融紡糸する際に用いるノズル孔を変更する以外は、従来公知の方法で得られる。すなわち、熱可塑性重合体を溶融紡糸して得られた長繊維を集積して長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸する際に用いるノズル孔の形状が、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である
【0017】
形状(以下、「Y4形」という。)のものを用いるというものである。
【0018】
このノズル孔は、図3に示すY字を四個持つものである。そして、Y字の下端7で上下左右に連結して、図4に示すY4形となっている。このY4形は、隣り合うY字の/8,8同士が平行であり、また\9,9同士が平行となっている。かかるY4形のノズル孔に熱可塑性樹脂を供給して溶融紡糸することにより、横断面が略Y4形状の長繊維を得ることができるのである。特に、隣り合うY字の/8,8同士及び\9,9同士が平行となっていることにより、四個の凹部2を持つ長繊維を得ることができる。また、略+字部5と、その各々の先端に設けられた略V字部6とを持つ長繊維を得ることができる。
【0019】
Y4形のノズル孔に供給する熱可塑性重合体は、一種類であってもよいし、二種類であってもよい。特に、低融点ポリエステル樹脂と高融点ポリエステル樹脂の二種類を用いるのが好ましい。すなわち、低融点ポリエステル樹脂をY4形のV字部10に供給し、高融点ポリエステル樹脂をY4形の+字部11に供給するのが好ましい。かかる供給態様で溶融紡糸することにより、略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型ポリエステル長繊維が得られる。
【0020】
長繊維を得た後、これを集積して一般的に繊維ウェブを形成する。そして、繊維ウェブを少なくとも加熱することにより、長繊維を構成する熱可塑性重合体(二種の重合体によって構成されるときは、低融点の重合体)を軟化又は溶融させ、冷却して固化させることにより、長繊維相互間を熱接着して長繊維不織布を得る。熱接着処理は、熱エンボス加工によって部分的に熱圧着するものであっても、また、熱カレンダー加工による熱処理により熱接着しているもの、熱風処理により熱接着しているものでもよい。また、これらの方法を併用したものでもよい。本発明においては、長繊維不織布の形態安定性の点から、部分的に熱と圧力とを付加することにより熱圧着する熱エンボス加工が好ましい。用いるエンボスロールの圧着面積率(エンボスロールの凸部の面積率)は、15〜45%がよい。
【0021】
本発明において長繊維不織布の構成繊維の単繊維繊度は、剛性を考慮して10デシテックス以上とする。また、不織布の目付にもよるが、長繊維不織布において二次元的にみたときに繊維が存在しない箇所の面積比率がより大きくなることから、単繊維繊度は15デシテックス以上であることが好ましい。単繊維繊度は大きいほど、剛性に優れる傾向にあるが、長繊維不織布を得る際に、延伸可紡性を考慮すれば上限は30デシテックスとする。
【0022】
長繊維不織布の目付は、20〜60g/mが好ましく、単繊維繊度にもよるが、より好ましくは30〜50g/mである。この目付範囲とすることにより、長繊維不織布は、多くの空隙を有し、かつ剛性が高いため、湿式抄造工程での水抜けが良好であり、抄造ウェブにおいて均一な表面のウェブとなる。一般に市場で入手しうるスパンボンド不織布(単糸繊度が10デシテックス未満のもの)においても、目付が小さい(20g/m未満程度)場合は多少の開孔も存在するが、このようなスパンボンド不織布は剛性がなく、形態安定性に劣るため、複合不織布を製造する過程において、繊維懸濁液を載せたときの重みに耐えられないため、湿式抄造の際にワイヤーネットの目の形状跡が不織布に付くことがある。また、このような不織布では、目付が20g/mを超えると、繊維が存在しない箇所の比率やその箇所の面積は極端に小さくなるため、水抜けはさらに劣るものとなる。
【0023】
本発明においては、抄造ウェブを構成する繊維は、横断面形状が略Y4形状で、その単繊維繊度が10デシテックス以上である異型断面繊維である。すなわち、抄造ウェブの構成繊維もまた、上記した長繊維不織布の構成繊維と同様の横断面形状であり、単繊維繊度が10デシテックス以上と大きい繊度である。したがって、抄造ウェブの構成繊維は、上記長繊維と同様に、特定の異型断面であることから高剛性である。構成繊維間の空隙が大きく嵩高性に優れ、また、繊維自体が高剛性であるため、空隙は外力によって潰れにくく、嵩高性が維持される。
【0024】
抄造ウェブの構成繊維は、繊維長が2〜10mm程度のショートカット繊維が用いられる。また、水中で良好に分散しやすくするために、繊維には機械捲縮等のクリンプは付与させずノークリンプのストレートの形態であることから、特殊な異型断面の形状は変形することなく維持するため、異型断面に起因する効果を効率的に発揮できる。
【0025】
抄造ウェブを構成する略Y4形状のショートカット繊維もまた、熱可塑性重合体によって構成されるが、機械的強度に優れ、剛性に優れることから、ポリエステルによって構成されることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレートによって構成されることがより好ましい。
【0026】
このような略Y4形状のショートカット繊維を製造するにあたっては、ノズル孔を変更する以外は、従来公知の方法で得られる。また、ノズル孔は、上記した長繊維不織布と同様の図4に示すY4形のノズル孔を用いるとよい。
【0027】
抄造ウェブには、略Y4形状のショートカット繊維以外に、本発明の目的が達成される範囲において、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の天然パルプ、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成パルプ等を混ぜてもよい。また、抄造ウェブには、構成繊維同士を接着して一体化するためのバインダーが含まれているとよい。このようなバインダーとしては、熱により溶融し熱接着剤として機能する熱可塑性重合体によって構成される熱接着繊維や、熱水により溶解して接着剤として機能するビニロンバインダー繊維等が挙げられる。熱接着繊維を用いる場合は、接着強力を考慮して、抄造ウェブの構成繊維や長繊維不織布の構成重合体と相溶性を有する熱可塑性樹脂をバインダー成分とするものを用いるとよい。なかでも、ポリエステル系の熱接着繊維であって、鞘成分が熱接着成分となる芯鞘型熱接着繊維を好ましく用いることができる。
【0028】
抄造ウェブの目付は、複合不織布の用途や要求性能に応じて、適宜設定すればよく、20〜200g/m程度がよい。
【0029】
本発明の複合不織布は、以下の方法により得ることができる。
【0030】
まず、抄造ウェブの原料となる繊維懸濁液を準備する。抄造ウェブの構成繊維である略Y4形状のショートカット繊維と接着剤となる接着繊維、必要に応じて分散剤等を水中に投入して離解し、均一な分散液を調製する。なお、長時間の離解作業により繊維同士がもつれることや繊維がダメージを受けることを防ぐためにも、離解はできるだけ短い時間で行うのが好ましい。この工程で繊維の束を極力なくし、単繊維状に分散させておく。離解を行った繊維分散液は、緩やかな攪拌のもと必要に応じて希釈し、高分子のポリアクリルアミド溶液、ポリエチレンオキサイド溶液等の粘剤を適宜添加することで、均一な分散状態の繊維懸濁液(スラリー)を調製する。なお、離解が容易な繊維や、原料段階で水分と繊維とが混合してなるものを用いる場合については、攪拌のみにて分散させるとよい。
【0031】
得られた繊維懸濁液は、手漉きでもよいが、効率的に得るには、機械漉きである円網、長網、短網、傾斜式等のワイヤーの少なくとも一つを有する抄紙機を用い、抄造ウェブとするとよい。このとき、ワイヤー上に前記した略Y4形状断面の長繊維からなる不織布を載置し、長繊維不織布上に抄造ウェブの原料となる繊維懸濁液を載置する。ワイヤー上の長繊維不織布上に繊維懸濁液を流すと、繊維懸濁液中の水は、長繊維不織布の孔とワイヤーの目から下に流れ込み、長繊維不織布上には水分を含んだ抄造ウェブ原料が残る。このとき、長繊維不織布に適度な空隙(孔)が存在しないと、懸濁液中の水が長繊維不織布上に残り、製造効率が非常に劣ることになる。また、長繊維不織布が剛性に劣るものであると、形態保持性に劣り、長繊維不織布下のワイヤーの目の跡が付与されることになる。本発明においては、特定の略Y4形状断面の長繊維からなる不織布を用いることから、長繊維同士の間に形成される適度な空隙から水を効率よく流れ落とすことが可能となり、抄造ウェブを構成する繊維の一部が長繊維不織布の空隙にも侵入して良好に一体化する。また、本発明で用いる長繊維不織布は、剛性に優れ、形態安定性が良好であるため、従来から繊維懸濁液を受けるための細かい目のワイヤーを用いなくとも製造することが可能になる。
【0032】
長繊維不織布と該不織布上の抄造ウェブ原料とからなる積層物は、次の工程(プレス工程、乾燥・熱処理工程)に移動し、原料中の水分を除去し、乾燥させて、複合不織布を得ることができる。このとき、抄造ウェブ中に、接着剤として、熱接着繊維やビニロンバイダー繊維を用いた場合は、含水状態にて乾燥工程での加熱されることにより、熱接着繊維の場合は熱接着成分が溶融または軟化して熱接着剤として機能し、また、ビニロンバインダー繊維の場合はビニロン繊維が溶解して接着剤として機能し、該接着剤を介して、抄造ウェブを構成するショートカット繊維同士が接着されて一体化し、また、長繊維不織布と抄造ウェブとの界面に存在する長繊維とショートカット繊維とが接着して、両層が一体化する。熱接着繊維を用いた場合は、乾燥工程での設定温度を、熱接着剤として機能する熱可塑性重合体が溶融または軟化する温度に設定するとよい。
【0033】
長繊維不織布と抄造ウェブとの2層を、例えば熱接着剤を介して接着させてもよい。例えば、長繊維不織布の片面に予め粉末状等の熱接着剤を散布し溶融一体化したものを用いてもよく、またクモの巣状の熱接着シートを長繊維不織布の片面に積層したものを用いてもよい。このような熱接着剤が付与された長繊維不織布や熱接着シートを積層した長繊維不織布を抄造工程で、ワイヤー上に載置して抄紙し、その後、熱接着剤が溶融して接着剤として機能する温度で乾燥させて一体化するとよい。乾燥工程では、加熱フラットローラー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥機等を用いればよいが、繊維の横断面形状が変形しにくく良好に維持しうることから、熱風を吹付けて熱処理を施す熱風乾燥機(エアスルー)を好ましく用いる。
【0034】
得られる複合不織布は、長繊維不織布と抄造ウェブとが複合したものであり、また、長繊維不織布と抄造ウェブの構成繊維がいずれも特定の略Y4断面形状の繊維により構成されていることから、長繊維不織布は、剛性とハリ・コシを有するとともに、抄造ウェブもまた剛性を有しながら高い嵩高性を有し、ウェブ表面は抄造シートの特徴である均一な表面形態を呈する。本発明の複合不織布は、剛性があり、かつ繊維間の空隙が大きいにも関わらず外力によって変形しにくく嵩高性を維持するため、各種フィルター、フィルター基材、フィルター補強材、農業資材、建築材料、ワイピングクロスやワイピングクロス材料等として好適に使用しうる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の複合不織布は、略Y4断面形状の長繊維からなる不織布の片面に、略Y4断面形状のショートカット繊維を構成繊維とする抄造ウェブが積層されてなり、両層が一体化してなる。本発明によれば、特定の長繊維不織布を用いたことにより、湿式抄造法により、抄造ウェブを製造する工程で、長繊維不織布と抄造ウェブとを良好に複合一体化することができ、効率良く、かつ容易に複合不織布を得ることができる。また、得られた複合不織布は、長繊維不織布による剛性と形態安定性を備え、かつ、抄造ウェブによる剛性と変形しにくい嵩高保持性とを併せ持つものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各特性値は、以下のようにして求めた。
(1)ポリエステルの相対粘度[ηrel];フェノールと四塩化エタンとの等質量比の混合溶媒100ccに試料0.5gを溶解し、20℃で測定した。
(2) 融点(℃);パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
【0037】
[長繊維不織布の準備]
長繊維不織布の製造例1
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)92mol%及びイソフタール酸(IPA)8mol%を用い、ジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、低融点ポリエステル(相対粘度〔ηrel〕1.44、融点230℃)を得た。この低融点ポリエステルに、結晶核剤として4.0質量%の酸化チタンを添加して、低融点ポリエステル重合体を準備した。一方、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸(TPA)100mol%とジオール成分としてエチレングリコール(EG)100mol%を用いて共重合し、高融点ポリエステル重合体(ポリエチレンテレフタレート、相対粘度〔ηrel〕1.38、融点260℃)を準備した。そして、図4に示したノズル孔を用い、V字部に低融点ポリエステル重合体を供給し、+字部に高融点ポリエステル重合体を供給して、紡糸温度285℃、単孔吐出量8.33g/分で溶融紡糸した。なお、低融点ポリエステル重合体の供給量と高融点ポリエステル重合体の供給量の質量比は、1:2とした。
【0038】
ノズル孔から排出されたフィラメント群を、2m下のエアーサッカー入口に導入し、複合型ポリエステル長繊維の繊度が16.5デシテックスとなるように牽引した。エアーサッカー出口から排出された複合型ポリエステル長繊維群を開繊装置にて開繊した後、移動するネット製コンベア上に集積し、繊維ウェブを得た。この繊維ウェブを、表面温度が213℃のエンボスロール(各エンボス凸部先端の面積は0.7mmで、ロール全面積に対するエンボス凸部の占める面積率は15%)と、表面温度213℃のフラットロールとからなる熱エンボス装置に導入し、両ロール間の線圧300N/cmの条件で熱融着して、目付40g/m、厚み0.34mmのポリエステル長繊維不織布を得た。
【0039】
長繊維不織布の製造例2
上記長繊維不織布の製造例1において、溶融紡糸において、孔径φ0.3mmの円形の芯鞘型複合紡糸口金を用いたこと、単孔吐出量1.67g/minの紡糸条件としたこと以外は、同様にして単糸繊度3.3デシテックスからなる目付40g/m、厚み0.21mmのポリエステル長繊維不織布を得た。
【0040】
長繊維不織布の製造例3
上記長繊維不織布の製造例2において、目付を15g/mとしたこと以外は、同様にして厚み0.10mmのポリエステル長繊維不織布を得た。
【0041】
[ショートカット繊維の準備]
ポリエチレンテレフタレート(相対粘度〔ηrel〕1.38、融点260℃)を準備し、図4に示したノズル孔を用いて、紡糸温度285℃、単孔吐出量6.67g/分で溶融紡糸し、速度1000m/分で引き取った。引き取った未延伸糸は、延伸温度140℃で延伸し、次いで熱ローラーで緊張熱処理を行い、分散油剤を付与した後、カットして、単繊維繊度16.5デシテックス、繊維長5mmの横断面形状が略Y4形のショートカット繊維を得た。
【0042】
[複合不織布の製造方法]
実施例1
抄造する面積が500cmのタッピ手漉き装置を用い、抄造装置の容器底部(ワイヤーが格子状に取り付けてなるもの)全面に、長繊維不織布の製造例1で得られた略Y4断面形状の長繊維からなる不織布を設置し、12500ccの水を投入した。
また、一方で繊維懸濁液を準備した。前記で横断面形状が略Y4形のショートカット繊維と、熱接着繊維として、芯鞘型のポリエステル系熱接着繊維(ユニチカ製 商品名「メルティ4080」単繊維繊度3デシテックス、繊維長5mm)を用い、略Y4形のショートカット繊維/熱接着繊維の混合比率を80/20として、パルプ離解機に投入し、3000rpmにて2分間撹拌して繊維懸濁液とした。
【0043】
得られた繊維混濁液を、長繊維不織布が設置してなる抄造装置の容器内に投入し、多孔板かき混ぜ器を用いて1分間撹拌した後、抄造装置下部の排水バルブを開けて、3分間水抜きを行った。次いで、長繊維不織布上に抄造ウェブ原料が載置された積層物を抄造容器から取り出し、130℃に設定した熱風乾燥機内に投入し、水分を除去するとともに熱接着させるための熱処理を施し、複合不織布を得た。得られた複合不織布は、剛性と形態安定性に優れ、非常に嵩高なものであった。また、製造工程における水抜きは良好であった。
【0044】
比較例1
実施例1において、長繊維不織布として、長繊維不織布の製造例2で得られた長繊維不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、抄造したところ、排水バルブを開けて水抜きを行ったものの、長繊維不織布の空隙が小さ過ぎて長繊維不繊布下に水が抜けず、抄造ウェブ原料と長繊維不織布との間に水が溜まり、良好に水抜きを行うことができなかったため、次第に抄造ウェブ原料の均一分散性も劣り、効率的に複合不織布を得ることができなかった。
【0045】
比較例2
実施例1において、長繊維不織布として、長繊維不織布の製造例3で得られた長繊維不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、抄造したところ、排水バルブを開けて水抜きを行ったものの、目付が小さい長繊維不織布であったにも関わらず、長繊維不繊布下に水が抜けず、抄造ウェブ原料と長繊維不織布との間に水が溜まり、良好に水抜きを行うことができず、効率的に複合不織布を得ることができなかった。また、長繊維不織布の剛性がないため、容器下部のワイヤーネットの形状跡が付き、長繊維不織布は、補強材としての役目さえも果たすことができないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明における長繊維またはショートカット繊維の横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字を示した図である。
図2】本発明における長繊維またはショートカット繊維の横断面形状である略Y4形状を示した図である。
図3】本発明における長繊維またはショートカット繊維を得るためのY4形のノズル孔のひとつのY字を示した図である。
図4】本発明における長繊維またはショートカット繊維を得るためのY4形のノズル孔を示した図である。
【符号の説明】
【0047】
1 繊維横断面形状である略Y4形状の一つの略Y字の下端
2 略Y4形状で形成された凹部
3 略Y4形状で形成された凸部
4 略Y4形状で形成された小凹部
5 略Y4形状中の略十字部
6 略Y4形状中の略V字部
7 溶融紡糸する際のノズル孔の形状であるY4形状の一つのY字の下端
8 Y字の/
9 Y字の\
10 Y4形のV字部
11 Y4形の十字部
図1
図2
図3
図4