【課題】身元特定システム及び身元特定方法において、身元不明者の識別情報が記録された識別情報記録装置を前記システムの利用者の口腔内に設置する際、非侵襲的な手法で実施できるようにする。また、識別情報記録装置の設置後にそれが不要となった場合でも、健全な歯質をはじめ、修復物や補綴物を設置前の状態に戻すことが可能な可逆的な方法とする。さらに、識別情報記録装置を設置するタイミングやその設置位置を自由に選択可能とする。
【解決手段】身元特定システムにおいて、身元不明者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に、少なくとも歯科用接着材を含む歯科用材料により貼付されており、識別情報が記録された識別情報記録装置と、識別情報記録装置から無線通信により識別情報を読み出す識別情報読出装置と、身元情報データベースが記録され、識別情報読出装置が読み出した識別情報を取得可能な身元特定装置と、を設けた。
前記歯科用材料が、歯科用充填材と、当該歯科用充填材を前記天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に接着するための歯科用接着材とからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の身元特定システム。
前記RFタグが、前記識別情報が記録されたICチップと、当該ICチップに接続されたアンテナとを有するインレットの加工品である、請求項9に記載の身元特定システム。
請求項1〜11のいずれか一項に記載の身元特定システム又は請求項12に記載の身元特定方法で使用される前記識別情報記録装置を、前記身元特定システムの利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面へ貼付する識別情報記録装置の貼付方法であって、
前記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に前記歯科用材料を塗布する塗布ステップと、
前記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に塗布された前記歯科用材料に前記識別情報記録装置を接着させる接着ステップと、
前記接着された前記識別情報記録装置の表面を被覆するように、前記歯科用材料を再度塗布する被覆ステップと、
前記歯科用材料を硬化させる硬化ステップと、
を含むことを特徴とする、識別情報記録装置の貼付方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面においては、同一の符号が付された構成要素は、実質的に同一の構造または機能を有するものとする。
【0017】
なお、本形態に係る身元特定システム、身元特定方法及び識別情報記録装置の貼付方法については、以下の順序で説明する。
1 身元特定システムの構成
1−1 システム構成
1−2 ハードウェア構成
1−3 機能構成
2 識別情報記録装置の貼付方法
2−1 被貼付物
2−2 歯科用材料
2−3 貼付方法の流れ
3 身元特定方法
3−1 読出ステップ
3−2 取得ステップ
3−3 照合ステップ
3−4 出力ステップ
4 その他
【0018】
≪身元特定システムの構成≫
まず、
図1〜
図7を参照しながら、本形態に係る身元特定システム100の構成について説明する。
図1は、本形態に係る身元特定システム100の全体構成を示す説明図である。
図2は、同形態に係る識別情報記録装置110及び識別情報読出装置120のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3は、同形態に係る身元特定装置130のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4は、同形態に係る識別情報記録装置110の機能構成を示すブロック図である。
図5は、同形態に係る識別情報読出装置120の機能構成を示すブロック図である。
図6は、同形態に係る身元特定装置130の機能構成を示すブロック図である。
図7は、同形態に係る身元情報データベースの構成を示す説明図である。以下、身元特定システム100に関し、システム構成、ハードウェア構成、機能構成の順に説明する。
【0019】
<システム構成>
図1に示すように、本形態に係る身元特定システム100は、身元不明者の身元を特定するためのシステムであって、識別情報記録装置110と、識別情報読出装置120と、身元特定装置130と、外部接続端末140と、を備える。この身元特定システム100においては、詳しくは後述するが、識別情報記録装置110に記録されている身元不明者を識別するための識別情報を識別情報読出装置120により読み出し、身元特定装置130が、識別情報読出装置120により読み出された識別情報に基づき、当該識別情報に対応付けられた人の身元を特定するための身元特定情報から、身元不明者の身元を特定する。身元特定が必要な状況としては、特に制限されず、例えば、大規模災害時のみならず、認知症患者等が徘徊時に行方不明となったり事件や事故に巻き込まれたりした場合、重病を患っている患者が外出先で意識不明又は会話困難な状況となった場合、一人暮らしの高齢者等の所謂孤独死等の場合、交通事故、水難事故や山岳事故等の事故にあった場合や、事件等に巻き込まれて本人が意識不明の場合等、身元不明者に対して身元の特定が必要なあらゆるケースを含む。
【0020】
識別情報記録装置110と識別情報読出装置120とは、例えば、電波又は電磁波11等の無線により通信可能となっている。また、本形態では、識別情報読出装置120は、インターネット13を介して身元特定装置130と通信可能であるとともに、有線又は無線LAN15等を介して外部接続端末140と接続可能となっている。さらに、識別情報読出装置120は、後述するように、例えば、表示パネルやスピーカ等の出力装置(
図2の出力装置120e)を備えており、この出力装置を介して識別情報を出力することで、例えば、読み取り者151等が識別情報を認識可能となっている。
【0021】
身元特定装置130は、インターネット13を介して識別情報読出装置120と通信可能であるとともに、有線又は無線LAN15等を介して外部接続端末140と接続可能となっている。また、身元特定装置130は、後述するように入力装置130eを有しており、入力者161が、読み取り者151から所定の通信手段を通じて取得した識別情報を、入力装置130eにより身元特定装置130に入力可能となっている。なお、読み取り者151と入力者161との間の所定の通信手段としては、特に制限されるものではなく、例えば、読み取り者151の携帯電話150と入力者161の携帯電話160との間での通話19等、読み取り者151と入力者161との間で識別情報の伝達が可能な任意の通信手段を用いることができる。
【0022】
次に、各装置の形態や具体例等について説明する。
【0023】
[識別情報記録装置110]
識別情報記録装置110は、身元不明者(身元不明になる前に、自己の歯等に識別情報記録装置110を貼付することを希望した者=身元特定システム100の利用者)の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に、少なくとも歯科用接着材を含む歯科用材料により貼付されており、身元不明者を識別するための識別情報が記録された装置である。
【0024】
また、識別情報記録装置110は、識別情報読出装置120と比較的近距離(例えば、数cm)での非接触通信(無線通信)が可能な装置である。具体的には、識別情報記録装置110としては、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)におけるRFタグ等を使用することができるが、後述する識別情報記録装置110の機能を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0025】
(RFタグの形状)
RFタグの形状としては、例えば、コイン型、円筒型、ラベル型、カード型等があるが、身元特定システム100の利用者(以下、単に「利用者」と記載する。また、身元特定が行われる時点では「身元不明者」となる。)の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物(以下、「天然歯等」と記載する場合がある。)に貼付可能な大きさを有するものであれば、その形状は特に制限されるものではない。
【0026】
(RFタグの種類)
また、RFタグとしては、リーダ/ライタからの電波又は電磁波を電力に変換してエネルギー源として動作するパッシブタグ、内蔵された電源により動作(自発的に電波を発信)するアクティブタグ、上位システムへの通信をパッシブ方式で起動するセミアクティブタグ等がある。ここで、本形態に係る識別情報記録装置110は、利用者の天然歯等に貼付されるため、天然歯等に貼付可能な程度に小型である必要がある。これに対して、電源を内蔵するアクティブタグ及びセミアクティブタグは大型になり、利用者の天然歯等に貼付することが困難となることから、本形態に係る識別情報記録装置110としては、電源を内蔵する必要の無いパッシブタグが好適である。また、識別情報記録装置110としてパッシブタグを用いることで、平常時は識別情報記録装置110の電源が入らず、識別情報を読み出す際にのみ電源が入ることで、電波や電磁波等により、識別情報記録装置110が貼付されている利用者に悪影響を与えることもない。
【0027】
パッシブタグの場合、ICチップを起動させるためにはリーダ/ライタからの電波又は電磁波を必要とするため、アンテナが必要となるが、アンテナがICチップと別体で構成されていると、利用者の天然歯等に貼付したICチップにさらにアンテナを接続させる必要がある。ここで、例えば、身元不明者が意識不明である等の理由で口を大きく開けていられないような場合に、身元不明者の天然歯等に貼付されたICチップにアンテナを接続することは非常に困難であり、現実的でない。従って、本形態に係る識別情報記録装置110としては、RFタグが、識別情報が記録されたICチップと、このICチップに接続されたアンテナとを、セロハン等で封入したフィルム状のインレットを加工したものであることが好適である。このようなインレットとしては、例えば、
図1に示すように、渦巻き状のアンテナ110aの先端にICチップ110bを接続したものがある。
【0028】
(RFタグの通信方式)
本形態に係る識別情報記録装置110としてRFタグを用いる場合、識別情報読出装置120として用いるリーダ/ライタとの通信距離が短すぎると、身元不明者の天然歯等に貼付した識別情報記録装置110から識別情報を読み出すことが困難となる。一方、通信距離が長すぎると(例えば、数十cm〜数m)、例えば、リーダ/ライタを有する第三者に離れた場所から識別情報記録装置110内の識別情報を知らないうちに読み出されてしまう恐れがある等、セキュリティ上の観点から問題がある。従って、本形態に係る識別情報記録装置110と識別情報読出装置120との通信距離は、概ね1〜数cm程度であることが好適である。
【0029】
ここで、RFIDの通信方式としては、電磁誘導方式(電磁波を用いる方式)と、電波方式(電波を用いる方式)とがある。電磁誘導方式で用いられる周波数帯としては、135kHz、13.56MHz等があり、電波方式で用いられる周波数帯としては、900MHz帯、2.45GHz帯等がある。
【0030】
電磁誘導方式で用いられる周波数帯のうち、13.5kHzの周波数帯は、波長が長く、電磁誘導により電磁波を発生させるためにはアンテナが大型化するため、一般に、携帯が求められる用途では用いられていない。また、13.56MHzの周波数帯(HF帯)は、Felica(登録商標)等に用いられるものであり、通信距離が元々短い。従って、身元不明者の天然歯等に貼付可能な程度にRFタグを小型化した場合、アンテナもそれに伴い小型化するため、通信距離が非常に短くなり(例えば、数mm程度)、身元不明者の天然歯等に貼付した識別情報記録装置110から識別情報を読み出すことが困難となる。
【0031】
これに対して、電波方式で用いられる周波数帯である900MHz帯(UHF帯)、2.45GHz帯(マイクロ波帯)は、通信距離もある程度稼げ、身元不明者の天然歯等に貼付可能な程度にRFタグを小型化した場合であっても、ある程度(1〜数cm程度)の通信距離を実現することができる。従って、識別情報記録装置110として用いるRFタグは、UHF帯又はマイクロ波帯の電波を利用した通信方式であることが好適である。また、UHF帯又はマイクロ波帯の周波数帯を用いる場合、通信に指向性があり、通信エリアの限定が比較的容易となることから、身元不明者の天然歯等に貼付した識別情報記録装置110から識別情報を読み出す用途として好適である。
【0032】
なお、UHF帯の電波は、波長が身の回りの物品のサイズと近いため、電波の回り込みが期待できる。そのため、多少の障害物があっても通信が可能である。従って、例えば、大規模災害時等の周囲に多数の障害物があることが想定される用途等で識別情報記録装置100を用いる場合、UHF帯の電波を利用したRFタグを用いることが好適であると考えられる。一方、マイクロ波帯の電波は、波長が短いため回り込みが起きにくく、900MHz帯の電波と比べ通信距離を稼げない。しかし、マイクロ波帯の電波は、金属に対する影響を受けにくく、アンテナの小型が容易であることから、例えば、金属に対する影響を受けやすいような場所で識別情報記録装置100を用いる場合、マイクロ波帯の電波を利用したRFタグを用いることが好適であると考えられる。
【0033】
以上のような識別情報記録装置100として好適なRFタグの市販品としては、例えば、UHF超小型パッケージタグ(日立化成(株)製)等が挙げられる。
【0034】
[識別情報読出装置120]
識別情報読出装置120は、識別情報記録装置110から、無線通信により識別情報を読み出す装置である。この識別情報読出装置120は、識別情報記録装置110と比較的近距離(例えば、数cm)での非接触通信(無線通信)が可能な装置である。具体的には、識別情報読出装置120としては、例えば、RFID(Radio Frequency Identification)におけるリーダ/ライタ等(本形態では、少なくとも「リーダ」としての機能を有していればよく、必ずしも「ライタ」としての機能を有していなくてもよい。)を使用することができるが、後述する識別情報読出装置120の機能を有するものであれば、これに限定されるものではない。
【0035】
リーダ/ライタには、主に、ハンディ型、据え置き型、ゲート型等がある。このうち、例えば、大規模災害時に多数の身元不明者の身元特定を行う場合等、移動しながら身元特定を行う場合等には、アンテナが内蔵され携帯性に優れるハンディ型のものを用いることが好適である。また、例えば、交番等で徘徊中の認知症患者の身元特定を行う場合等、固定された場所で身元特定を行う場合等には、据え置き型のものやゲート型のものを使用してもよい。なお、一般的に、ハンディ型は出力が低く、RFタグとの通信距離が比較的短いが、本形態に係る身元特定システム100で用いる場合には、通信距離が比較的短くても差し支えない。
【0036】
[身元特定装置130]
身元特定装置130は、識別情報が割り当てられた個人の身元を特定するための身元特定情報と、識別情報とが対応付けられた身元情報データベースを有し、識別情報読出装置120が読み出した識別情報を取得可能な装置である。この身元特定装置130は、身元特定システム100において、身元情報データベースを記録・管理するサーバ装置としての役割を有している。また、詳しくは後述するが、識別情報読出装置120が読み出した識別情報を身元情報データベースと照合することで、身元不明者の身元を特定する役割も有する。
【0037】
[外部接続端末140]
外部接続端末140は、主に、身元不明者の発見現場等において識別情報読出装置120と通信可能な端末であり、屋外で使用される用途も十分に想定されることから、携帯型の端末(例えば、ラップトップPC、タブレットPC、スマートフォン等)であることが好ましい。この外部接続端末140は、必ずしも本形態において必要な構成ではないが、外部接続端末140を用いることで、識別情報読出装置120が出力装置を有していない場合であっても、外部接続端末140のディスプレイ等の表示装置により、識別情報を認識(特定)することができる。また、外部接続端末140がインターネット13或いは有線又は無線LAN17を介して身元特定装置130と通信可能な状態にあれば、識別情報読出装置120がインターネット13に接続不能な状態(あるいは、インターネット13に接続されていたとしても、身元特定装置130と通信不能な状態)や、携帯電話150と携帯電話160とが通話不能な状態にあったとしても、外部接続端末140を介して取得した識別情報を身元特定装置130に送信することが可能となる。
【0038】
<ハードウェア構成>
次に、
図2及び
図3を参照しながら、本形態に係る身元特定システム100における主な構成要素である識別情報記録装置110、識別情報読出装置120及び身元特定装置130のハードウェア構成について説明する。
【0039】
[識別情報記録装置110]
図2に示すように、識別情報記録装置110は、アンテナ110aと、ICチップ110bとを主に備える。
【0040】
アンテナ110aは、識別情報読出装置120との通信を行うモジュールであり、後述する識別情報読出装置120のアンテナ120aから送信された電波又は電磁波11を受信する機能、受信した電波又は電磁波11を整流(電波の場合)又は共振(電磁波の場合)することで電力を発生させる機能、識別情報を電波又は電磁波11に乗せて送信する機能等を有する。
【0041】
ICチップ110bは、アンテナ110aに電気的に接続されており、アンテナ110aが識別情報読出装置120から送信された電波又は電磁波11を受信すると、アンテナ110aから供給される電力により起動する。このICチップ110bは、CPU(Central Processing Unit)110cと、記憶装置110dとを主に有する。
【0042】
CPU110cは、演算処理装置及び制御装置として機能し、記憶装置110dに記録された各種プログラムに従って識別情報記録装置110の動作(例えば、アンテナ110a、記憶装置110dの各装置の動作)を制御する。
【0043】
記憶装置110dは、CPU110cが使用するプログラムや演算パラメータ等や、識別情報等のデータを記憶している。記憶装置110dとしては、読出専用のROM(Read Only Memory)と、書込も可能なRAM(Random Access Memory)のいずれでも良い。ただし、本形態に係る身元特定システム100における識別情報記録装置110においては、識別情報は、識別情報記録装置110が貼付された身元不明者に固有の単一の情報であるべきであり、むやみに他の情報が書き込まれるべきではないため、記憶装置110dとしては、ROMを使用することが好ましい。ROMとしては、マスクROM、EPROM、EEPROM等があるが、これらのうち、識別情報がむやみに書き換えられることのないよう、書き換え不能なマスクROMを使用することが特に好適である。
【0044】
[識別情報読出装置120]
図2に示すように、識別情報読出装置120は、アンテナ120aと、CPU120bと、通信装置120cと、接続ポート120dと、出力装置120eと、記憶装置120fとを主に備える。
【0045】
アンテナ120aは、識別情報記録装置110との通信を行うモジュールであり、識別情報記録装置110のアンテナ110aに向けて、識別情報を要求する信号を乗せた電波又は電磁波11を送信する機能、識別情報を乗せた電波又は電磁波11を受信する機能等を有する。
【0046】
CPU120bは、演算処理装置及び制御装置として機能し、記憶装置120fに記録された各種プログラムに従って識別読出記録装置120の動作(例えば、アンテナ120a、通信装置120c、接続ポート120d、出力装置120e、記憶装置120fの各装置の動作)を制御する。
【0047】
通信装置120cは、例えば、インターネット13に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置120cは、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、或いは、各種通信用のモデム等である。この通信装置120cは、例えば、インターネット13や他の通信回線(例えば、家庭内LAN、赤外線通信、又は衛星通信等)を介して他の機器(例えば、身元特定装置130)と識別情報等のデータを送受信することができる。
【0048】
接続ポート120dは、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポートや、i.Link等のIEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート、光オーディオ端子等の、機器を識別情報読出装置120に直接接続するためのポートである。この接続ポート120dに外部接続端末140等の機器を接続することで、識別情報読出装置120は、外部接続端末140等の機器に識別情報を提供したりする。
【0049】
出力装置120eは、例えば、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置等の表示装置や、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置等、取得した識別情報を読み取り者151等に対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。出力装置120eは、例えば、識別情報記録装置110から読み出した識別情報を出力する。
【0050】
記憶装置120fは、CPU120bが使用するプログラムや演算パラメータ等や、識別情報等のデータを記憶している。記憶装置120fは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、RAMやROM等の半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等のいずれか又はこれらの組み合わせにより構成される。なお、識別情報読出装置120は、識別情報を恒常的に記憶しておく必要はなく、身元特定装置130又は外部接続端末140等に提供するまで一時的に記憶しておけば十分であることから、記憶装置120fは、RAM等の一次記憶が可能な装置のみであっても差し支えない。
【0051】
なお、識別情報読出装置120は、図示していないが、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等の入力装置を備えていてもよい。
【0052】
[身元特定装置130]
図3に示すように、身元特定装置130は、CPU130aと、記憶装置130bと、通信装置130cと、接続ポート130dと、入力装置130eと、出力装置130fとを主に備える。
【0053】
CPU130aは、演算処理装置及び制御装置として機能し、記憶装置130bに記録された各種プログラムに従って身元特定装置130の動作(例えば、記憶装置130bと、通信装置130cと、接続ポート130dと、入力装置130eと、出力装置130fの各装置の動作)を制御する。
【0054】
記憶装置130bは、CPU130aが使用するプログラムや演算パラメータ等や、身元情報データベース(DB)等のデータを記憶している。また、記憶装置130bには、識別情報読出装置120から取得した識別情報が一次記憶されることもある。記憶装置130bは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、RAMやROM等の半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等のいずれか又はこれらの組み合わせにより構成される。
【0055】
通信装置130cは、例えば、インターネット13に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置130cは、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、或いは、各種通信用のモデム等である。この通信装置130cは、例えば、インターネット13や他の通信回線(例えば、有線又は無線LAN17、家庭内LAN、赤外線通信、又は衛星通信等)を介して他の機器(例えば、識別情報読出装置120や外部接続端末140)と識別情報等のデータを送受信することができる。
【0056】
接続ポート130dは、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポートや、i.Link等のIEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート、光オーディオ端子等の、機器を身元特定装置130に直接接続するためのポートである。この接続ポート130dに外部接続端末140等の機器を接続することで、身元特定装置130は、外部接続端末140等の機器から識別情報を取得したりする。
【0057】
入力装置130eは、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等のユーザが操作する操作手段である。また、入力装置130eは、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、身元特定装置130の操作に対応したスマートフォン、携帯電話やPDA等の外部接続機器(図示せず)であってもよい。
【0058】
出力装置130fは、例えば、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置等の表示装置や、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリ等、取得した識別情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。出力装置130fは、例えば、識別情報読出装置120等から取得した識別情報と身元情報DBとの照合結果(特定された身元情報)等を出力する。
【0059】
なお、身元特定装置130は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体用のリーダ/ライタであるドライブ等のモジュールを備えていてもよい。
【0060】
<機能構成>
次に、
図4〜
図7を参照しながら、本形態に係る身元特定システム100における主な構成要素である識別情報記録装置110、識別情報読出装置120及び身元特定装置130の機能構成について説明する。以下に説明する各機能は、上述したハードウェアにより実現され得るものである。
【0061】
[識別情報記録装置110]
図4に示すように、識別情報記録装置110は、記憶部111と、通信部113と、識別情報読出部115と、を主に備える。
【0062】
(記憶部111)
記憶部111は、上述したCPU110cと記憶装置110d等により実現される機能であり、識別情報記録装置110が貼付された利用者(身元不明者)の識別情報を記憶している。この記憶部111には、識別情報記録装置110が貼付された身元不明者を識別するための識別情報が、識別情報記録装置110の貼付前に予め記録される。この識別情報は、識別情報記録装置110が貼付された利用者(身元不明者)一人ひとりに個別に割り当てられたIDであり、例えば、数字(例えば、128ビットの番号)、アルファベット、記号等の文字列、利用者(身元不明者)の写真等の画像データ、及びこれらの組み合わせで表すことができる。また、識別情報には、利用者(身元不明者)の住所、連絡先等の個人情報(後述する身元特定情報に含まれるもの)が含まれていてもよい。ただし、識別情報記録装置110は、利用者の天然歯等に貼付されると、取り外さない限り常に利用者と共に移動する。そのため、セキュリティ上の観点からは、識別情報には、利用者の住所、連絡先等の個人情報や、利用者の写真等の個人が特定されるような情報は含まず、例えば、所定の数字、アルファベット、記号等の個人情報を含まない文字列のみが含まれることが好適である。
【0063】
(通信部113)
通信部113は、上述したアンテナ110aとCPU110c等により実現される機能であり、識別情報読出装置120と、電波又は電磁波11等の無線により通信することができる。この通信部113は、識別情報読出装置120から、電波又は電磁波11等に乗せられた識別情報を要求する信号(要求信号)を受信すると、識別情報読出部115に要求信号を伝送する。また、識別情報読出部115が読み出した識別情報を受け取り、受け取った識別情報を、電波又は電磁波11等に乗せて識別情報読出装置120に送信する。
【0064】
(識別情報読出部115)
識別情報読出部115は、上述したCPU110c等により実現される機能であり、通信部113から伝送された要求信号に基づき、記憶部111に記憶されている識別情報を読み出し、読み出した識別情報を通信部113に伝送する。ここで、識別情報読出部115は、記憶部111に記憶されている識別情報の全てを読み出すようにしてもよいし、その一部のみを選択して読み出すようにしてもよい。
【0065】
[識別情報読出装置120]
図5に示すように、識別情報読出装置120は、記憶部121と、通信部123と、識別情報抽出部125と、識別情報記録部127と、識別情報出力部129と、を主に備える。なお、識別情報「読出」装置とはあるが、本発明に係る識別情報読出装置は、識別情報記録装置から識別情報その他の情報を読み出す機能だけで無く、識別情報記録装置の記憶装置が書き換え可能なものであれば、識別情報読出装置は、識別情報記録装置へ所定の情報を書き込む機能を有していてもよい(すなわち、単なるリーダだけでなく、リーダ/ライタであってもよい)。
【0066】
(記憶部121)
記憶部121は、上述したCPU120bと記憶装置120f等により実現される機能であり、識別情報記録装置110から読み出した識別情報を一次記憶する。なお、記憶部121に十分な記憶容量があり、セキュリティ対策もなされているのであれば、記憶部121は、一次記憶した識別情報を消去されるまで保持していてもよい。
【0067】
(通信部123)
通信部123は、上述したアンテナ120a、CPU120b、通信装置120c、接続ポート120d等により実現される機能であり、識別情報記録装置110と、電波又は電磁波11等の無線により通信することができる。また、通信部123は、インターネット13を介して身元特定装置130と通信可能であり、さらには、有線又は無線LAN15等を介して外部接続端末140とも通信可能である。
【0068】
この通信部123は、識別情報記録装置110に向けて、電波又は電磁波11等に乗せて識別情報を要求する信号(要求信号)を送信する。また、当該要求信号に基づいて読み出された識別情報が乗せられた電波又は電磁波11を識別情報記録装置110から受信し、受信した識別情報が乗せられた電波又は電磁波11を識別情報抽出部125等に伝送する。さらに、通信部123は、識別情報記録装置110から受信した識別情報を、身元特定装置130や外部接続端末140に提供してもよい。
【0069】
(識別情報抽出部125)
識別情報抽出部125は、上述したCPU120b等により実現される機能であり、通信部123から受け取った電波又は電磁波11に含まれている識別情報を抽出し、抽出した識別情報を識別情報記録部127及び識別情報出力部129に伝送する。なお、識別情報抽出部125は、抽出した識別情報を再び通信部123に伝送し、通信部123から識別情報を身元特定装置130や外部接続端末140に提供するようにしてもよい。
【0070】
(識別情報記録部127)
識別情報記録部127は、上述したCPU120b等により実現される機能であり、識別情報抽出部125から受け取った識別情報を記憶部121に記録する。この記録は、通常は一次記憶させるためのものであるが、上述したように、一次記憶には限られない。
【0071】
(識別情報出力部129)
識別情報出力部129は、上述したCPU120b、出力装置120e等に実現される機能であり、識別情報抽出部125から受け取った識別情報を、テキスト及び/又は画像として上述した出力装置120eに出力する。なお、識別情報出力部129は、出力した識別情報を通信部123に伝送し、通信部123から識別情報を身元特定装置130や外部接続端末140に提供するようにしてもよい。
【0072】
[身元特定装置130]
図6に示すように、身元特定装置130は、記憶部131と、通信部132と、入力部133と、識別情報取得部134と、識別情報記録部135と、照合部136と、身元情報出力部137と、データベース(DB)更新部138と、を主に備える。この身元特定装置130は、以下で詳細に説明するように、識別情報を取得した場合、取得した身元不明者の識別情報を身元情報データベースと照合し、身元不明者の識別情報に対応付けられた身元特定情報を抽出する。
【0073】
(記憶部131)
記憶部131は、上述したCPU130aと記憶装置130b等により実現される機能であり、識別情報記録装置110が貼付された利用者(身元不明者)、言い換えると、識別情報記録装置110に記録されている識別情報が割り当てられた個人の身元を特定するための身元特定情報と、識別情報とが対応付けられた身元情報データベース(DB)を記憶している。身元特定情報としては、利用者(身元不明者)の身元を特定することが可能な情報であれば特に制限されるものではないが、例えば、利用者(身元不明者)の氏名、住所、緊急時に連絡可能な連絡先(電話番号、電子メールアドレス等)、生年月日、勤務先名、勤務先住所、勤務先電話番号、免許証番号、パスポート番号、家族構成等が挙げられる。ただし、個人情報保護、利用者の心理的負担の軽減等の観点から、身元特定情報は、利用者(身元不明者)の身元を特定するのに最低限の情報(例えば、氏名、住所、緊急時の連絡先等)のみであることが好ましい。
【0074】
ここで、
図7を参照しながら、身元情報DBの構成について説明する。
図7に示すように、身元情報DBには、識別情報の一例としてID番号と、身元特定情報の一例として利用者(身元不明者)の氏名、住所及び連絡先電話番号とが登録されている。
図7に示した例では、ID番号として、アルファベット一桁+数字三桁の組み合わせを例示しており、各ID番号は、当該ID番号が割り当てられた個人に固有の番号となっている。また、身元特定情報として、身元を特定するために必要最低限と考えられる氏名、住所、連絡先電話番号を例示している。このように、身元情報DBには、一つのID番号(例えば、「a001」)に、当該ID番号が割り当てられた個人(例えば、「佐藤一郎」氏)の氏名、住所及び連絡先電話番号が対応付けられて記録されている。例えば、身元不明者の天然歯等に貼付された識別情報記録装置110から、識別情報読出装置120が、識別情報としてID番号「b001」を読み出した場合、このID番号を身元情報DBと照合することで、身元不明者が、ID番号「b001」が割り当てられた愛知県名古屋市に在住の斉藤太郎氏と特定でき、連絡先電話番号である「052−123−4567」に連絡すれば、斉藤太郎氏の家族や友人等にも斉藤太郎氏の所在を伝えるとともに、本当に斉藤太郎氏であるかどうかの確認を依頼することもできる。
【0075】
なお、後述するように、記憶部131に記憶されている身元情報DBの内容は、例えば、利用者の引越し、結婚、連絡先の変更等による身元特定情報の変更、新規利用者(登録者)の追加、利用者(登録者)の削除等の事情があった場合には、DB更新部137により更新され得る。
【0076】
(通信部132)
通信部132は、上述したCPU130a、通信装置130c、接続ポート130d等により実現される機能であり、インターネット13を介して識別情報読出装置120と通信可能であり、また、インターネット13或いは有線又は無線LAN17等を介して外部接続端末140とも通信可能である。
【0077】
この通信部132は、識別情報読出装置120や外部接続端末140から提供された識別情報や身元特定情報の追加・変更・削除等に関する更新情報等を受信し、入力部133、識別情報取得部134、DB更新部138等に伝送する。また、通信部132は、照合部136により身元が特定された身元不明者に関する身元特定情報を照合部136から受け取り、受け取った身元特定情報を外部接続端末140等に送信してもよい。これにより、身元特定現場において身元特定作業を行っている人が、外部接続端末140等を介して迅速に身元特定情報を得ることができる。
【0078】
(入力部133)
入力部133は、上述したCPU130a、入力装置130e等により実現される機能であり、入力装置130eにより身元特定装置130に入力された各種情報(識別情報、身元特定情報の更新情報等)を識別情報取得部134及びDB更新部138に伝送する。例えば、
図1に示した読み取り者151から携帯電話150,160により識別情報を伝えられた入力者161が、身元特定装置130に直接識別情報を入力する等の場合には、この入力部133から識別情報が入力される。
【0079】
(識別情報取得部134)
識別情報取得部134は、上述したCPU130a等により実現される機能であり、通信部132又は入力部133から識別情報を取得し、取得した識別情報を照合部136及び識別情報記録部135に伝送する。このように、識別情報取得部134が識別情報を取得するルートとしては、(1)入力者161による直接入力操作により入力部133から取得するルート、(2)識別情報読出装置120からインターネット13を介して識別情報を受信した通信部132から取得するルート、(3)外部接続端末140から有線又は無線LAN17等を介して識別情報を受信した通信部132から取得するルート等、様々なルートがあるが、結果的に識別情報取得部134が識別情報を取得することができれば、いかなるルートでも差し支えない。
【0080】
(識別情報記録部135)
識別情報記録部135は、識別情報取得部134から受け取った識別情報を記憶部131に記録する。なお、身元特定装置130は、身元不明者の特定ができればよく、身元特定装置130自体が身元不明者の識別情報を保存しておく必要は必ずしも無いので、この識別情報記録部135は任意で設けられる機能である。
【0081】
(照合部136)
照合部136は、識別情報取得部134から受け取った身元不明者の識別情報を、記憶部131に記憶されている身元情報DBと照合し、身元不明者の身元特定情報を特定する。また、照合部136は、特定された身元不明者の身元特定情報を記憶部131から抽出し、通信部132に伝送する。通信部132に伝送された身元特定情報は、通信部132により外部接続端末140等に提供される。また、照合部136は、特定された身元不明者の身元特定情報を身元情報出力部137に伝送してもよい。
【0082】
ここで、
図7に示す身元情報DBを例にとって、照合部136が行う処理をより具体的に説明する。例えば、識別情報取得部134が、身元不明者の識別情報として、ID番号「a002」を取得したとすると、識別情報取得部134からID番号「a002」を受け取った照合部136は、まず、記憶部131から身元情報DBを読み出す。次いで、照合部136は、読み出した身元情報DBの中に、ID番号「a002」が存在するか否かを確認する。その結果、
図7に示すように、ID番号「a002」が存在するので、当該ID番号に対応する身元情報、すなわち、「鈴木花子」氏の身元特定情報を特定する。その結果、身元不明者が鈴木花子氏であり、鈴木花子氏の住所が大阪府大阪市であり、06−8765−4321に連絡をすればよいということがわかる。さらに、照合部136は、「鈴木花子」氏の身元特定情報(氏名、住所、連絡先等)を通信部132や身元情報出力部137に伝送する。
【0083】
(身元情報出力部137)
身元情報出力部137は、上述したCPU130a、出力装置130f等により実現される機能であり、照合部136から伝送された身元特定情報を、テキスト及び/又は画像として上述した出力装置130fに出力する。
【0084】
(DB更新部138)
DB更新部138は、上述したCPU130a等により実現される機能であり、通信部132や入力部133から伝送された更新情報に基づいて、記憶部131に記憶されている身元情報DBに登録されている情報を書き換えて更新する。更新情報とは、身元情報DBの内容変更に伴うもの全般を意味するが、具体例としては、利用者の引越し、結婚、連絡先の変更等による身元特定情報の変更要求、新規利用者(登録者)の追加要求、利用者(登録者)の削除要求等の情報が挙げられる。
【0085】
≪識別情報記録装置の貼付方法≫
続いて、
図8〜
図11を参照しながら、本形態に係る識別情報記録装置110を、身元特定システム100の利用者(身元特定段階では、身元不明者)の天然歯等に貼付する方法について詳細に説明する。
図8は、本形態に係る識別情報記録装置110の貼付方法を示す流れ図である。
図9は、識別情報記録装置110の貼付方法の一例を示す模式図である。
図10は、識別情報記録装置110の貼付部位の一例を示す写真である。
図11は、識別情報記録装置110の貼付部位の他の例を示す写真である。
【0086】
本形態に係る識別情報記録装置110の貼付方法は、前述した身元特定システム100又は後述する身元特定方法で使用される識別情報記録装置110を、身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面へ貼付する方法である。以下、識別情報記録装置110が貼付される被貼付物、当該被貼付物に識別情報記録装置110を貼付するための歯科用材料、当該歯科用材料を用いた被貼付物への識別情報記録装置110の貼付方法の流れの順に説明する。
【0087】
[被貼付物]
本形態に係る識別情報記録装置110を貼付する対象となる被貼付物は、身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物である。ここで、「天然歯」とは、利用者自身が元々有する歯のことである。「天然歯」であれば、う蝕の有無や歯科的処置(例えば、う蝕の治療)の有無等は問わない。また、「天然歯の健全な部分」とは、天然歯のうち、う蝕になっていない部分のことである。「修復物」とは、う蝕の治療等により生じた歯の欠損部を補うもので、材料としてコンポジットレジンや金属類が使用される。また、「補綴物」とは、義歯(全部床義歯、局部床義歯等)、クラウン、ブリッジ、インプラント(人工歯根)の上部構造物等を含むものであり、材料としてレジン、金属類、セラミック等が使用される。
【0088】
[歯科用材料]
本形態で使用可能な歯科用材料としては、歯科治療の際に使用され、被貼付物に対して識別情報記録装置110を貼付可能な材料であれば特に制限されるものではなく、例えば、レジンセメント等の歯科用接着材、コンポジットレジン等の歯科用充填材、歯科用接着材と歯科用充填材の機能を兼ね備える接着充填材、即時重合レジン等の歯科用材料を用いることができる。
【0089】
歯科用接着材の種類としては、歯科治療の際に使用される接着材であれば特に制限されるものではなく、識別情報記録装置110を貼付させる被貼付物(天然歯の健全な部分、修復物の材料であるコンポジットレジン等、補綴物の材料であるレジン、金属、セラミック等)を考慮して選択することができる。例えば、被貼付物が天然歯である場合、識別情報記録装置110と類似した材質である歯科矯正用の矯正器具を患者の歯に装着する際に用いる歯科接着用レジンセメント等の接着材を用いることができる。また、識別情報記録装置110の貼付作業を短時間で完了させたい場合、時間を要しても識別情報記録装置110が長期間脱落しないように強固な接着力を確保したい場合等、所望の条件に応じて適宜歯科用接着材の種類を選択するのがよい。
【0090】
また、本形態では、識別情報記録装置110を貼付させる被貼付物が天然歯の健全な部分である場合を始め、修復物や補綴物の材質がレジンである場合には、通常は修復物を形成するために用いる歯科用充填材(例えば、歯科充填用コンポジットレジン等)を使用してもよい。この場合は、歯科用充填材のみでは、被貼付物に対し接着力が不十分となる恐れがあるため、一般に歯科用充填材と共に使用される歯科用接着材を併用することが好ましい。このような歯科用接着材としては、上述したレジンセメント等とは異なる接着材が使用され、例えば、アクリル系又はメタクリル系の樹脂を接着成分とし、光照射により短時間で硬化する光硬化型の接着材が使用される。
【0091】
ここで、歯科用充填材は、一般的には、う蝕治療等の際に生ずる歯の欠損部等を充填するために使用されるものである。しかし、本形態における識別情報記録装置110の貼付方法においては、天然歯を削ったり、既に存在する修復物や補綴物を加工したりする等の侵襲的な行為を一切行うことなく、歯科用充填材を識別情報記録装置110の貼付に用いる。このように、通常は、歯の欠損部等の充填に用いる歯科用充填材を、貼付の目的で使用することは、歯科医師や歯科用材料の業界における当業者であっても想起できるものではない。また、歯科医師であれば、歯科用充填材及びこれと併用可能な歯科用接着材を日常の臨床において使用しているため、当然常備している。従って、歯科用充填材と歯科用接着材を併用する方法は、殆どの歯科医師にとって簡便なものである。
【0092】
また、接着充填材とは、レジンセメント系の接着材と同様の接着機構を有しつつ、コンポジットレジン等の充填材成分を含むものであり、本形態において識別情報記録装置110を被貼付物に貼付する場合には、歯科用接着材と同様、単独で用いることができる。
【0093】
さらに、即時重合レジンとは、義歯の修理や仮歯の作製等に使用される歯科用材料である。レジン製の義歯や人工歯、レジン冠等と接着性を有するため、識別情報記録装置110を貼付する際に用いることができる。この即時重合レジンも、殆どの歯科医師が常備しているため、これを用いるのは容易である。
【0094】
ここで、本形態に係る身元特定システム100においては、識別情報記録装置110を天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の表面、修復物又は補綴物の表面に貼付して固定する際、被着面(すなわち、天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の表面のうち、識別情報記録装置110の貼付に使用される歯科用材料と接触している面)の周辺部はプラーク(歯垢)が付着する場合がある。このような状態が長く続くと、う蝕を誘発する恐れがある。従って、その予防のために、上記歯科用材料として、フッ素イオン放出性を有する材料を使用することが好ましい。この材料の特徴は、持続的にフッ素イオンを口腔内に放出するため、う蝕の誘発を防ぐ点にある。特に、フッ素イオンの放出速度が遅い(フッ素徐放性)と、長期間に亘りう蝕の誘発防止効果が期待できる。フッ素イオン放出性を有する歯科用材料としては、一般に、フッ素徐放性接着材、フッ素徐放性充填材として市販されているものを使用することができる。
【0095】
なお、歯科用材料として、歯科用充填材と歯科用接着材を併用する場合には、これらのうちいずれか一方(すなわち、歯科用充填材又は歯科用接着材)がフッ素イオン放出性を有する材料であってもよいし、双方(すなわち、歯科用充填材及び歯科用接着材)がフッ素イオン放出性を有する材料であってもよい。
【0096】
また、上記のようなフッ素イオン放出性を有する歯科用材料を使用した場合であっても、当該材料中に含まれているフッ素イオン量は有限であるため、所定期間経過後はフッ素イオンが放出されなくなり、う蝕誘発防止効果が発揮されなくなる可能性もある。従って、識別情報記録装置110の貼付に用いる歯科用材料が、更に口腔内のフッ素イオンを取り込む(リチャージ)機能を有していることがより好ましい。フッ素イオンのリチャージ機能を有する歯科用材料は、例えば、フッ素イオンが含有されている歯磨剤を使用することで、当該歯磨剤中のフッ素イオンを取り込む作用を有する。また、このようなフッ素イオンのリチャージ機能を有する歯科用材料は、口腔内のフッ素イオン濃度に応じて、フッ素イオンの徐放(リリース)と取り込み(リチャージ)を可逆的に行うことができる。以上のように、フッ素イオンの取り込み機能を有する歯科用接着材を使用することにより、フッ素イオン放出性(リリース機能)を有する歯科用材料を使用するよりも、更に長期間に亘りう蝕の誘発防止効果を持続させることができる。
【0097】
上記のようなフッ素イオンの取り込み機能を有する歯科用材料としては、例えば、フッ素含有グラスアイオノマーフィラーを含む歯科用充填材(市販品としては、上述の「ビューティフルII」等)が挙げられる。
【0098】
また、識別情報記録装置110を貼付した際に、平常時には識別情報記録装置110を貼付していることがあまり目立たない方が審美性の観点から好ましい。例えば、識別情報記録装置110として、金属製の筐体を有するRFタグを用いる場合には、この筐体の金属色がある程度遮蔽され、周囲の天然歯、修復物又は補綴物等と調和する色の歯科用材料(歯科用接着材、歯科用充填材等)を使用することが好ましい。一般には、識別情報記録装置110として、金属製の筐体を有するRFタグを用いる場合には、濃い目の色の歯科用接着材や歯科用充填材等を使用することが好ましく、このような色としては、例えば、シェードガイド(歯の色見本)のA3、A3.5、A4といった色が挙げられる。
【0099】
[貼付方法の流れ]
次に、
図8及び
図9を参照しながら、識別情報記録装置110の貼付方法の流れについて説明する。
図8に示すように、識別情報記録装置110の貼付方法は、主に、塗布ステップ(S111)と、接着ステップ(S113)と、被覆ステップ(S115)と、硬化ステップ(S117)の4つのステップを含むものである。以下、歯科用材料として歯科用接着材のみを用いる場合、歯科用充填材と歯科用接着材を併用する場合、その他の歯科用材料を用いる場合の順で説明した後に、本貼付方法の利点について詳細に説明する。
【0100】
(歯科用接着材のみを用いる場合)
歯科用接着材のみを用いる場合には、
図8及び
図9(a)に示すように、まず、塗布ステップにおいて、身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物20の外表面(貼付部位である被着面)に、歯科接着用レジンセメント等の歯科用接着材31(31a)を塗布する(S111)。なお、この塗布ステップの前処理として、識別情報記録装置110を貼付する天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の表面(貼付部位である被着面)をクリーニングし、さらに、天然歯の場合は、歯科用材料による識別情報記録装置110との接着力を向上させるために、貼付部位である被着面を酸処理することが好ましい。また、歯科用接着材31の塗布量は、(十分な接着力を有することを前提として)可能な限り少量であることが好ましい。これにより、識別情報記録装置110を貼付した際に、識別情報記録装置110と歯科用接着材31とにより被着面に形成される凸部を小さくすることができるので、口腔内で異物感を少なくすることができる。
【0101】
次に、接着ステップにおいて、上記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物20の外表面に塗布された歯科用接着材31(31a)に識別情報記録装置110を接着させる(S113)。
【0102】
続いて、被覆ステップにおいて、接着された識別情報記録装置110の表面を歯科用接着材31(31b)で被覆するように塗布するが、硬化後に口腔内で異物感を感じないように周囲の天然歯、修復物又は補綴物の面の形状に移行的となるように(識別情報記録装置110の貼付部位が大きく突出しないように)塗布する(S115)。この被覆ステップにより、識別情報記録装置110の周囲全体は、歯科用接着材31(31a及び31b)で覆われることになる。
【0103】
最後に、硬化ステップにおいて、上記塗布ステップ及び被覆ステップで塗布した歯科用接着材31(流動性がある状態のもの)を硬化させる(S117)。この硬化方法は、歯科用接着材31の種類により異なり、歯科用接着材31がイオン重合により硬化するものである場合には所定時間重合反応の進行を待ったり、歯科用接着材31がラジカル重合(光重合)により硬化するものである場合には、例えば、ハロゲン照射器やLED照射器(光照射器)を用いて歯科用接着材31に光照射することで硬化させる。
【0104】
以上のように、歯科用接着材のみを用いる場合には、接着部分(歯科用接着材31a)と被覆部分(歯科用接着材31b)とが同じ材料であり相溶性を有するため、歯科用接着材31aと歯科用接着材31bの境界部分が十分に密着する。従って、識別情報記録装置110の周囲全体を歯科用接着材31で確実に覆うことができる。その結果、防水効果(識別情報記録装置110が水分に触れないようにする効果)が付与され、識別情報記録装置110が、長期間安定してその機能を発揮することができる。さらに、識別情報記録装置110の周囲全体を歯科用接着材31で覆うことにより、上記利用者が食事をする際、固い食べ物等が識別情報記録装置110と直接接触し、識別情報記録装置110が脱落又は破損することを防ぐ効果もある。また、識別情報記録装置110が小型であればあるほど、歯科用接着材31で全体を覆ったとしても、歯科用接着材31の塗布量をより少なくすることができるため、貼付した際の異物感が軽減され、う蝕の誘発も抑制することが期待できる。
【0105】
また、後述する歯科用充填材と歯科用接着材を併用する方法では、使用する歯科用材料の種類によっては、金属、セラミック(ポーセレン)等の材質(被貼付物)に対して識別情報記録装置110を貼付(接着)できない場合がある。このような場合には、金属、セラミック(ポーセレン)等に対して接着力を有する上述の歯科用接着材のみを用いる方法により、識別情報記録装置110を被貼付物に確実に貼付することができる。
【0106】
(歯科用充填材と歯科用接着材を併用する場合)
歯科用充填材と歯科用接着材を併用する場合には、
図8及び
図9(b)に示すように、まず、塗布ステップにおいて、身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物20の外表面(貼付部位である被着面)にアクリル系又はメタクリル系の接着材等の歯科用接着材35を塗布する(S111)。なお、歯科用接着材のみを用いる場合と同様に、この塗布ステップの前処理として、貼付部位である被着面をクリーニングし、天然歯の場合は酸処理することが好ましい。また、通常は、歯科用接着材35の塗布後、歯科用充填材33の塗布前に、歯科用接着材35を光重合等により硬化させておく。
【0107】
さらに、併用の場合は塗布ステップにおいて、さらに、歯科用接着材35の表面に、コンポジットレジン等の歯科用充填材33(33a)を塗布する(S111)。なお、歯科用充填材33及び歯科用接着材35の塗布量は可能な限り少量であることが好ましい。
【0108】
次に、接着ステップにおいて、上記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物20の外表面に塗布された歯科用充填材33(33a)に識別情報記録装置110を接着させる(S113)。
【0109】
続いて、被覆ステップにおいて、接着された識別情報記録装置110の表面を歯科用充填材33(33b)で被覆するように塗布するが、この場合も前述の歯科用接着材を用いる時と同様に、硬化後に口腔内で異物感を感じないように、周囲の天然歯、修復物又は補綴物の面に移行的となるように塗布する(S115)。この被覆ステップにより、識別情報記録装置110の周囲全体が、歯科用充填材33(33a及び33b)で覆われることになる。
【0110】
最後に、硬化ステップにおいて、上記塗布ステップ及び被覆ステップで塗布した歯科用充填材33(流動性がある状態のもの)を硬化させる(S117)。この硬化方法は主に、ラジカル重合(光重合)反応を利用して硬化させることができる。
【0111】
以上のように、歯科用充填材33と歯科用接着材35を併用する場合には、接着部分(歯科用充填材33a)と被覆部分(歯科用充填材33b)とが同じ材料であり相溶性を有するため、歯科用充填材33aと歯科用充填材33bの境界部分が十分に密着する。従って、識別情報記録装置110の周囲全体を歯科用充填材33で確実に覆うことができる。その結果、防水効果が付与され、識別情報記録装置110が、長期間安定してその機能を発揮することができる。さらに、識別情報記録装置110の周囲全体を歯科用充填材33で覆うことで、上記利用者が食事をする際、固い食べ物等が識別情報記録装置110と直接接触し、識別情報記録装置110が脱落又は破損することを防ぐ効果もある。また、識別情報記録装置110が小型であればあるほど、歯科用充填材33で全体を覆ったとしても、歯科用充填材33の塗布量をより少なくすることができるため、貼付した際の異物感が軽減され、う蝕の誘発も抑制することが期待できる。
【0112】
(その他の歯科用材料)
本形態では、歯科用材料として、上述した接着充填材、即時重合レジン等を使用することもできる。この場合にも、歯科用接着材を使用する場合と同様に、接着充填材や即時重合レジン等を単独で用いて識別情報記録装置110を接着可能な被貼付物に貼付できる。接着充填材、即時重合レジン等を使用する場合の具体的な貼付方法は、歯科用接着材を使用する場合と同様であるので、ここではその詳細な説明を省略する。
【0113】
なお、本形態で使用する歯科用材料の種類を選択する際は、被貼付物の材質等に対して接着性を有するか否かを考慮する。また、その硬化速度についても検討することが好ましい。例えば、硬化速度の速い歯科用材料を用いれば、身元特定システム100の利用者が、識別情報記録装置110の貼付のために口を開けている時間が短くて済むため、操作性が良い。また、口を長く開けていると唾液が溜まりやすく、被着面に唾液が付着すると歯科用材料の接着力が低下する恐れがある。従って、識別情報記録装置110を確実に被貼付物に貼付するためにも、硬化の早い歯科用材料を使用することが好ましい。
【0114】
(本貼付方法の利点)
以上の貼付方法を採用し、歯科用材料を用いて識別情報記録装置110を利用者の天然歯等に貼付することで、貼付後に、識別情報記録装置110が不要となった場合には、従来のような埋め込み型とは異なり、歯科医師等により適切な処置を受ければ、容易に取り外すことができる。
【0115】
このように、本形態に係る身元特定システム100においては、利用者の天然歯の健全な部分を削ったり、修復物又は補綴物を加工したりするといった侵襲的な行為を一切行うことなく、識別情報記録装置110が脱着自在に取り付けられて(貼付されて)おり、本形態における識別情報記録装置110の貼付は、非侵襲的な処置であると言える。ここでいう「非侵襲的」とは、利用者の天然歯等を削ったりする等、利用者の身体を傷つける行為を行わないことのみならず、利用者の口腔内に設置された修復物や補綴物等の人工物に対しても一切の加工(変形を伴うような加工)を加えない、ということも含む意味である。言い換えると、識別情報記録装置110を「非侵襲的に貼付する」とは、天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物を一切変形、加工等することなく、貼付前と変わらぬ状態で貼付するということである。
【0116】
従って、本形態に係る身元特定システム100においては、識別情報記録装置110を一旦貼付した後に、識別情報記録装置110を除去することになっても、天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物は、識別情報記録装置110の貼付前と同じ状態を保持することができる。すなわち、本形態に係る身元特定システム100で採用される識別情報記録装置110の貼付方法は、いわば「可逆的」な方法と言え、この点が、上述した特許文献1〜4で採用されているような埋め込み式の手法と大きく異なる点であり、従来の埋め込み式の手法では達成できないことは言うまでもない。
【0117】
以上のように、本形態に係る身元特定システム100(及び当該システムで採用される識別情報記録装置110の貼付方法)は、「非侵襲的」且つ「可逆的」であるという利点を有することから、利用者にとっては、従来と比較して格段に抵抗の少ないものとなることが期待される。
【0118】
(貼付部位)
次に、本形態における識別情報記録装置110の好適な貼付部位について説明する。
【0119】
ICチップ等の識別情報記録装置110の取り付け部位(本形態では、貼付部位)について、これまでに検討されている例はあまりないが、例えば、上記特許文献4の技術では、大臼歯部又は小臼歯部にICチップ等のID装置を取り付けることが最適であるとされている。
【0120】
しかしながら、本発明者が検討したところによると、例えば、大臼歯部等の口腔内の奥の部位にICチップを設けた場合、利用者(身元不明者)へのICチップの取り付けの有無の認識や取り付け位置の発見が困難となる、という問題があることが判明した。特に、身元不明者が死後硬直等により口を大きく開けられない場合には、身元不明者の口腔内の奥の部位は確認が困難となる。また、ICチップのサイズが超小型である場合には、ICチップの認識や発見が更に困難となる。
【0121】
以上の検討から、本発明者は、識別情報記録装置110を身元特定のために用いる場合には、利用者の口腔内に取り付けた識別情報記録装置110を如何に容易に認識(発見)することができるか(以降、このような課題を「認識性」と称する。)が非常に重要であることを知見した。
【0122】
他方、本発明者の更なる検討により、身元特定システム100のようなシステムの利用者は、そもそも身元不明となることを前提として生活しているわけでは勿論なく、日常の生活を考えると利用者の口元の審美面も重要であることが分かった。すなわち、本発明者は、上記認識性の課題に反し、利用者の口腔内に取り付けた識別情報記録装置110が普段いかに目立たない(目立ちにくい)ようにするか(以降、このような課題を「審美性」と称する。)も、日常生活においては非常に重要であることを知見した。
【0123】
このように、口腔内に設置したRFタグ(ICチップ)等の識別情報記録装置110を利用して身元特定を行う際には、上記「認識性」と「審美性」の相反する課題を同時に解決することが重要である。しかしながら、これまでには、RFタグ(ICチップ)等の識別情報記録装置110を利用して身元特定を行う技術として、上記「認識性」及び「審美性」の相反する課題に着目したものは存在しない(特許文献4においてID装置の取り付け位置を検討するにも、「認識性」と「審美性」については一切考慮されていない)。
【0124】
そこで、本発明者は、「認識性」及び「審美性」の相反する課題を同時に解決できるような識別情報記録装置110の貼付部位について検討を進めた。その結果、識別情報記録装置110が、身元特定システム100の利用者(身元不明者)の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物において、前歯部の唇側面(表側)又は小臼歯部の頬側面(表側)に貼付されることが好適であるとの知見を得た。ここで、「前歯部」とは、中切歯から犬歯までの部位のことを意味する。より好ましくは、犬歯又は第一小臼歯の位置であれば、「認識性」と「審美性」に特に優れるものとなる。また、歯並びの悪い人であれば、前歯部の歯並びの凹凸を利用して、前歯部の中でも、日常生活時には識別情報記録装置110が目立ちにくい部位に当該装置を貼付することで、「認識性」と「審美性」を両立させることも可能である。
【0125】
なお、前歯部の舌側(裏側)に識別情報記録装置110を貼付することでも、「認識性」と「審美性」を両立させることはできると考えられるが、歯の裏側に貼付すると、識別情報記録装置110に舌が接触しやすいため、異物感が強くなりあまり適していない。また、上顎前歯部の裏側に識別情報記録装置110を貼付すると、下顎の前歯が咬み込んでしまい、識別情報記録装置110が脱落又は破損してしまう恐れがある。さらに、下顎前歯部の裏側は、口腔内でも特に歯石が溜まりやすい部位であり、この部位に識別情報記録装置110を貼付すると、う蝕や歯周病を誘発する恐れがある。
【0126】
これに対して、前歯部の唇側面(表側)又は小臼歯部の頬側面(表側)に識別情報記録装置110を貼付することにより、「認識性」と「審美性」を両立させるとともに、「異物感」を極力なくし、且つ、識別情報記録装置110の脱落又は破損も防ぐことが可能となる。さらに、身元特定システム100の利用者自身が、ICチップの貼付位置を確認し易いため、日常のブラッシングでう蝕や歯周病の誘発を予防できる。
【0127】
また、前歯部又は小臼歯部の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物の外表面に識別情報記録装置110を貼付することにより、大臼歯部等の奥の方の部位に取り付ける場合と比較し、識別情報記録装置110の取り付け作業も格段に容易となる。
【0128】
さらに、使用するICチップの種類によっては、識別情報記録装置110(例えば、RFタグ)と識別情報読出装置120(例えば、RFIDにおけるリーダ/ライタ)との通信可能距離が短い(例えば、1〜2cm程度)場合もある。このような場合であっても、前歯部又は小臼歯部といった口唇に近い部位に識別情報記録装置110を貼付することにより、確実に識別情報読出装置120による識別情報の読み出しが可能となる。
【0129】
加えて、もし大臼歯部に識別情報記録装置110を貼付すると、身元特定システム100の利用者が食事をする際、固い食べ物等が識別情報記録装置110に直接強く接触し、識別情報記録装置110が脱落又は破損し易くなる。そもそも、大臼歯部は、前歯部や小臼歯部と比較して咬んだ時に強い力が働く部位であり、固い食べ物を介して、大臼歯部には強い力が加わることになる。そのため、大臼歯部に識別情報記録装置110を貼付した場合には、固い食べ物等の接触による識別情報記録装置110の脱落又は破損の危険性が、前歯部や小臼歯部に貼付した場合に比べはるかに高くなってしまう。
【0130】
ここで、
図10及び
図11を参照しながら、識別情報記録装置110の好適な貼付部位の検討例について説明する。
【0131】
一般に、歯が最も目立つ(露出する)のは、口を開けて笑ったときである。また、同じ笑ったときであっても、年代、性別、上下の顎の形態、歯並び等によって目立つ歯の部位が異なる。そこで、年代及び性別の異なる2人の人物に対し、実際に識別情報記録装置110として、2.5mm角のRFタグを歯科用充填材及び歯科用接着材を用いて貼付した例を挙げる。
図10は20代の女性の例を示し、
図11は50代の男性の例を示している。なお、
図10及び
図11において、(a)及び(b)は、通常の笑ったときの歯やRFタグの見え方を示す写真であり、(c)及び(d)は、身元特定時を想定して、RFタグの貼付部位を露出させるように唇をやや広げたときの歯やRFタグの見え方を示す写真である。
【0132】
図10に示す20代の女性の例では、笑ったときには上顎の前歯部が目立っていた。そのため、上顎にRFタグを貼付すると、認識性には問題ないが、審美性に劣ることになると考えられる。従って、RFタグを下顎右側犬歯の唇側と下顎左側第一小臼歯の頬側の遠心面(正中から遠ざかる方向、奥歯側)に貼付した。その結果、
図10(a)及び(b)に示すように、通常の笑ったときには、下顎の前歯部があまり露出しないため、RFタグを認識することはできない。このことから、審美性に優れていると言える。一方、
図10(c)及び(d)に示すように、身元特定時を想定して、下顎犬歯や小臼歯を露出させるように唇を開けた場合には、RFタグを容易に認識することができた。従って、認識性も高いと言える。
【0133】
また、
図11に示す50代の男性の例では、笑ったときには下顎の前歯部が目立っていた。そのため、下顎にRFタグを貼付すると、認識性には問題ないが、審美性に劣ることになると考えられる。従って、RFタグを上顎犬歯の唇側の遠心面に貼付した。その結果、
図11(a)及び(b)に示すように、通常の笑ったときには、上顎の前歯部があまり露出しないため、RFタグを認識することはできない。このことから、審美性に優れていると言える。一方、
図11(c)及び(d)に示すように、身元特定時を想定して、上顎犬歯を露出させるように唇を開けた場合には、RFタグを容易に認識することができた。従って、認識性も高いと言える。
【0134】
以上のように、上記に挙げた例では、いずれの人においても、犬歯の唇側又は小臼歯の頬側の遠心面にRFタグを貼付した場合に、認識性と審美性を両立させることができた。ただし、これらはあくまで一例であり、識別情報記録装置110は、身元特定システム100の利用者の年代、性別、上下の顎の形態、歯並び等に応じて、認識性と審美性を両立させるような部位に貼付すればよい。
【0135】
≪身元特定方法≫
次に、
図12を参照しながら、本形態に係る身元特定システム、すなわち、上述した取り付け方法により利用者(身元不明者)の天然歯等に貼付された識別情報記録装置110と、識別情報読出装置120と、身元特定装置130とを備える身元特定システム100を用いた身元特定方法について詳細に説明する。
図12は、本形態に係る身元特定方法を示す流れ図である。
【0136】
本形態に係る身元特定方法は、主に、読出ステップと、取得ステップと、照合ステップと、を含む方法であり、この後に、さらに、出力ステップを含んでいてもよい。以下、各ステップについて詳述する。
【0137】
[読出ステップ]
読出ステップでは、識別情報読出装置120が、識別情報記録装置110に記録されている識別情報を読み出す。より詳細には、
図12に示すように、識別情報読出装置120の通信部123が、識別情報の要求信号を電波又は電磁波に乗せて、身元不明者の天然歯等に貼付されている識別情報記録装置110に送信する(S151)。
【0138】
この要求信号を識別情報記録装置110が受信すると(S153)、要求信号が乗せられている電波又は電磁波により、識別情報記録装置110のICチップ110bが起動する(S155)。ICチップが起動すると、通信部113が識別情報抽出部115に受信した要求信号を伝送し、要求信号を受け取った識別情報抽出部115は、記憶部111から身元不明者の識別情報を抽出し(S157)、送信部113に伝送する。次いで、送信部113は、受け取った識別情報を電波又は電磁波に乗せて識別情報読出装置120に送信する(S159)。
【0139】
識別情報読出装置120の通信部123が、識別情報記録装置110から身元不明者の識別情報を受信すると(S161)、通信部123が識別情報の乗った電波又は電磁波を識別情報抽出部125に伝送する。さらに、識別情報抽出部125が電波又は電磁波の中から識別情報を抽出し、抽出した識別情報を識別情報記録部127、識別情報出力部129及び通信部123に伝送する。必要に応じて、識別情報記録部125が記憶部121に識別情報を一次記憶させたり、識別情報出力部129が出力装置120eに識別情報を出力する(S163)。また、通信部123は、身元特定装置130に直接、或いは、外部接続端末140を介して、識別情報を身元特定装置に送信する(S167)。
【0140】
[取得ステップ]
取得ステップでは、身元特定装置130が、識別情報読出装置120が読み出した識別情報を取得する。より詳細には、
図12に示すように、身元特定装置130の通信部132が識別情報読出装置120又は外部接続端末140等から識別情報を受信するか、或いは、入力部133により識別情報が身元特定装置130に入力されると、通信部132又は入力部133は、識別情報取得部134に識別情報を伝送し、これにより、識別情報取得部134が識別情報を取得する(S167)。さらに、識別情報取得部134は、識別情報記録部135や照合部136に、取得した識別情報を伝送する。
【0141】
[照合ステップ]
照合ステップでは、身元特定装置130が、取得した身元不明者の識別情報を身元情報DBと照合し、身元不明者の識別情報に対応付けられた身元特定情報を特定する。より詳細には、
図12に示すように、照合部136は、識別情報取得部134から識別情報を受け取ると、記憶部131から身元情報DBを読み出す(S169)。次いで、照合部136は、識別情報をステップS169で読み出した身元情報DBと照合し、身元不明者の身元特定情報を特定する(S171)。また、照合部136は、特定された身元不明者の身元特定情報を記憶部131から抽出し、通信部132に伝送してもよい。通信部132は、さらに、インターネット13や有線又は無線LAN17等を通じて、他の機器に身元特定情報を提供してもよい。
【0142】
[出力ステップ]
出力ステップでは、身元特定装置130が、特定した身元特定情報を自身に設置又は接続された出力装置130f(例えば、表示装置、スピーカ、プリンタ等)を通じて、外部に認識可能なように出力する。より詳細には、
図12に示すように、照合部136が、必要に応じて、特定された身元不明者の身元特定情報を身元情報出力部137に伝送すると、身元情報出力部137が、受け取った身元情報を出力装置130fに出力する(S173)。
【0143】
≪その他≫
[識別情報記録装置110の定期点検と歯の健診]
なお、身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物への識別情報記録装置110の貼付から所定期間経過した後に、識別情報記録装置110に記録されている識別情報が読み取れるかどうかを定期的に確認することが好ましい。実際の身元特定時に、識別情報記録装置110の故障や破損等により識別情報が読み取れないことを防止するためである。また、識別情報記録装置110を利用者の天然歯等に貼付するための歯科用材料も、永久的にその接着力を保持できるわけではないので、歯科用材料の接着力が維持されているかどうかを確認することが好ましい。さらに、このような確認を定期的なものとし、その際に、利用者の歯の健診も併せて行うことにより、身元特定システム100の利用者は、歯周病や虫歯を予防することも可能となる。
【0144】
[身元特定システム100の安全性]
また、識別情報記録装置110を身元特定システム100の利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物に貼付しているのは歯科用材料であるので、歯科医師であれば治療器具等を用いて容易に取り外すことができる。一方で、上記利用者本人が、自分で識別情報記録装置110を取り外したりすることは極めて困難であるので、利用者本人が識別情報記録装置110を取り外した結果、当該装置を紛失し、識別情報が第三者に漏洩するといったことも防ぐことができる。このように、本形態に係る身元特定システム100では、識別情報記録装置110の着脱を行うことができるのは、ほぼ歯科医師のみとなるので、身元特定システム100は、識別情報や身元特定情報の管理面で安全なシステムと言える。
【0145】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
前記RFタグが、前記識別情報が記録されたICチップと、当該ICチップに接続されたアンテナとを有するインレットの加工品である、請求項9に記載の身元特定システム。
請求項1〜11のいずれか一項に記載の身元特定システム又は請求項12に記載の身元特定方法で使用される前記識別情報記録装置を、前記身元特定システムの利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物における前歯部の唇側面又は小臼歯部の頬側面へ貼付する識別情報記録装置の貼付方法であって、
前記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物における前歯部の唇側面又は小臼歯部の頬側面に前記歯科用材料を塗布する塗布ステップと、
前記利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物における前歯部の唇側面又は小臼歯部の頬側面に塗布された前記歯科用材料に前記識別情報記録装置を接着させる接着ステップと、
前記接着された前記識別情報記録装置の表面を被覆するように、前記歯科用材料を再度塗布する被覆ステップと、
前記歯科用材料を硬化させる硬化ステップと、
を含むことを特徴とする、識別情報記録装置の貼付方法。
無線通信により前記識別情報を読み出す識別情報読出装置と、前記識別情報が割り当てられた個人の身元を特定するための身元特定情報と、前記識別情報とが対応付けられた身元情報データベースを有し、前記識別情報読出装置が読み出した前記識別情報を取得可能な身元特定装置と、を備え、前記身元特定装置は、前記識別情報を取得した場合、取得した前記身元不明者の前記識別情報を前記身元情報データベースと照合し、前記身元不明者の前記識別情報に対応付けられた前記身元特定情報を抽出することを特徴とする、身元特定システムである。
前記身元特定システムにおいて、前記RFタグが、前記識別情報が記録されたICチップと、当該ICチップに接続されたアンテナとを有するインレットの加工品であることが好ましい。
また、本発明は、上述した身元特定システムを用いた身元特定方法であって、前記識別情報読出装置が、前記識別情報記録装置に記録されている前記識別情報を読み出す読出ステップと、前記身元特定装置が、前記識別情報読出装置が読み出した前記識別情報を取得する取得ステップと、前記身元特定装置が、取得した前記身元不明者の前記識別情報を前記身元情報データベースと照合し、前記身元不明者の前記識別情報に対応付けられた前記身元特定情報を特定する照合ステップと、を含むことを特徴とする、身元特定方法である。
また、本発明は、上述した身元特定システム又は身元特定方法で使用される前記識別情報記録装置を、前記身元特定システムの利用者の天然歯の健全な部分、修復物又は補綴物
に塗布された前記歯科用材料に前記識別情報記録装置を接着させる接着ステップと、前記接着された前記識別情報記録装置の表面を被覆するように、前記歯科用材料を再度塗布する被覆ステップと、前記歯科用材料を硬化させる硬化ステップと、を含むことを特徴とする、識別情報記録装置の貼付方法である。