【解決手段】トルクセンサ109が検出した操舵トルクに基づいて電動モータに供給する目標電流のベースとなる基本目標電流を設定する基本目標電流算出部と、トルクセンサが検出した操舵トルクに応じて基本目標電流を補正する車体流れ補正電流の基本となる基本車体流れベース補正電流と、車両の左側に配置された左側車輪の回転速度と右側に配置された右側車輪の回転速度との差に基づいて推定した推定舵角と、舵角センサ180が検出した検出舵角との舵角偏差とに基づいて車体流れ補正電流を設定する車体流れ補正電流算出部28と、基本目標電流算出部が設定した基本目標電流と車体流れ補正電流算出部28が設定した車体流れ補正電流とに基づいて目標電流を決定する目標電流決定部とを備える。
前記補正電流算出手段は、前記トルク検出手段が検出した操舵トルクに基づいて把握した前記ステアリングホイールの操舵方向と、前記舵角偏差の偏差方向とが逆である場合には前記補正電流が零となるように補正する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る電動パワーステアリング装置100の概略構成を示す図である。
電動パワーステアリング装置100(以下、単に「ステアリング装置100」と称する場合もある。)は、車両の進行方向を任意に変えるためのかじ取り装置であり、本実施の形態においては車両の一例としての自動車1に適用した構成を例示している。
【0011】
ステアリング装置100は、自動車1の進行方向を変えるために運転者が操作する車輪(ホイール)状のステアリングホイール(ハンドル)101と、ステアリングホイール101に一体的に設けられたステアリングシャフト102とを備えている。また、ステアリング装置100は、ステアリングシャフト102と自在継手103aを介して連結された上部連結シャフト103と、この上部連結シャフト103と自在継手103bを介して連結された下部連結シャフト108とを備えている。下部連結シャフト108は、ステアリングホイール101の回転に連動して回転する。
【0012】
また、ステアリング装置100は、転動輪としての左側前輪151,右側前輪152それぞれに連結されたタイロッド104と、タイロッド104に連結されたラック軸105とを備えている。また、ステアリング装置100は、ラック軸105に形成されたラック歯105aとともにラック・ピニオン機構を構成するピニオン106aを備えている。ピニオン106aは、ピニオンシャフト106の下端部に形成されている。これらラック軸105、ピニオンシャフト106などが、ステアリングホイール101の回転操作力を左側前輪151,右側前輪152の転動力として伝達する伝達機構として機能する。ピニオンシャフト106は、左側前輪151,右側前輪152を転動させるラック軸105に対して、回転することにより左側前輪151,右側前輪152を転動させる駆動力(ラック軸力)を加える。
【0013】
また、ステアリング装置100は、ピニオンシャフト106を収納するステアリングギヤボックス107を備えている。ピニオンシャフト106は、ステアリングギヤボックス107内にてトーションバー112を介して下部連結シャフト108と連結されている。そして、ステアリングギヤボックス107の内部には、下部連結シャフト108とピニオンシャフト106との相対回転角度に基づいて、言い換えればトーションバー112の捩れ量に基づいて、ステアリングホイール101に加えられた操舵トルクTを検出するトルク検出手段の一例としてのトルクセンサ109が設けられている。
【0014】
また、ステアリング装置100は、ステアリングギヤボックス107に支持された電動モータ110と、電動モータ110の駆動力を減速してピニオンシャフト106に伝達する減速機構111とを備えている。減速機構111は、例えば、ピニオンシャフト106に固定されたウォームホイール(不図示)と、電動モータ110の出力軸に固定されたウォームギヤ(不図示)などから構成される。電動モータ110は、ピニオンシャフト106に回転駆動力を加えることにより、ラック軸105に、左側前輪151,右側前輪152を転動させる駆動力を加える。本実施の形態に係る電動モータ110は、電動モータ110の回転角度であるモータ回転角度θmに連動した回転角度信号θsを出力するレゾルバ120を有する3相ブラシレスモータである。
【0015】
また、ステアリング装置100は、ステアリングホイール(ハンドル)101の回転角度である舵角を検出する舵角検出手段の一例としての舵角センサ180を備えている。舵角センサ180は、ステアリングシャフト102自体に取り付けられてステアリングシャフト102と同期回転する第1回転部材(不図示)と、この第1回転部材の回転に連動して回転する第2回転部材(不図示)と、この第2回転部材に固定された着磁部の磁界変化を検出する磁気抵抗素子(不図示)とを有する。そして、舵角センサ180は、ステアリングホイール101の回転角度に対応する正弦波および余弦波の信号を出力する。
【0016】
また、ステアリング装置100は、電動モータ110の作動を制御する制御装置10を備えている。制御装置10は、電動モータ110の制御を行う際の演算処理を行うCPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、を備えている。
【0017】
制御装置10には、上述したトルクセンサ109にて検出された操舵トルクTが出力信号に変換されたトルク信号Td、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaが出力信号に変換された舵角信号θas、レゾルバ120からの回転角度信号θsが入力される。なお、トーションバー112に捩れが生じていない中立状態から運転者がステアリングホイール101を左方向に回転させることによりトーションバー112に捩れが生じた場合に操舵トルクTの値が正となるように設定されている。また、ステアリングホイール101が回転していない舵角零の状態から運転者がステアリングホイール101を左方向に回転させた場合に検出舵角θaの値が正となるように設定されている。
【0018】
また、制御装置10には、自動車1に搭載される各種の機器を制御するための信号を流す通信を行うネットワーク(CAN)を介して、自動車1の移動速度である車速Vcを検出する車速センサ170からの出力信号である車速信号vが入力される。
【0019】
また、制御装置10には、ネットワーク(CAN)を介して、自動車1の前後左右に配置された4つの車輪それぞれの回転速度を検出する車輪速度センサ190からの出力信号が入力される。車輪速度センサ190は、自動車1の左側の前に配置された左側前輪151の回転速度を検出する左側前輪速度センサ191(
図8参照)と、右側の前に配置された右側前輪152の回転速度を検出する右側前輪速度センサ192(
図8参照)とを備えている。また、車輪速度センサ190は、左側の後に配置された左側後輪の回転速度を検出する左側後輪速度センサ193(
図8参照)と、右側の後に配置された右側後輪の回転速度を検出する右側後輪速度センサ194(
図8参照)とを備えている。
【0020】
以上のように構成されたステアリング装置100は、後述するように、基本的にはトルクセンサ109が検出した操舵トルクTに基づいて電動モータ110を駆動し、電動モータ110の発生トルクをピニオンシャフト106に伝達する。これにより、電動モータ110の発生トルクが、ステアリングホイール101に加える運転者の操舵力をアシストする。
【0021】
次に、制御装置10について説明する。
図2は、制御装置10の概略構成図である。
制御装置10は、電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する目標電流算出部20と、目標電流算出部20が算出した目標電流Itに基づいてフィードバック制御などを行う制御部30とを備えている。
また、制御装置10は、電動モータ110のモータ回転角度θmを算出するモータ回転角度算出部71と、モータ回転角度算出部71にて算出されたモータ回転角度θmに基づいて、モータ回転速度Nmを算出するモータ回転速度算出部72とを備えている。
【0022】
目標電流算出部20は、トルク信号Tdおよび車速信号vに基づいて電動モータ110に供給する目標電流Itの基本となる基本目標電流Itfを算出(設定)する基本目標電流設定手段の一例としての基本目標電流算出部27を備えている。また、目標電流算出部20は、自動車1の車体流れに応じた電流である車体流れ補正電流Irを算出(設定)する補正電流設定手段の一例としての車体流れ補正電流算出部28を備えている。また、目標電流算出部20は、基本目標電流算出部27が算出した基本目標電流Itfと車体流れ補正電流算出部28が算出した車体流れ補正電流Irとに基づいて最終的に目標電流Itを決定する目標電流決定手段の一例としての目標電流決定部29を備えている。
【0023】
そして、目標電流算出部20は、基本目標電流算出部27、車体流れ補正電流算出部28および目標電流決定部29が後述する処理を予め設定された一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに繰り返し実行することにより電動モータ110に供給する目標電流Itを算出(設定)する。
基本目標電流算出部27、車体流れ補正電流算出部28および目標電流決定部29については後で詳述する。
【0024】
図3は、制御部30の概略構成図である。
制御部30は、
図3に示すように、電動モータ110の作動を制御するモータ駆動制御部31と、電動モータ110を駆動させるモータ駆動部32と、電動モータ110に実際に流れる実電流Imを検出するモータ電流検出部33とを備えている。
モータ駆動制御部31は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itと、モータ電流検出部33にて検出された電動モータ110へ供給される実電流Imとの偏差に基づいてフィードバック制御を行うフィードバック(F/B)制御部40と、電動モータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成するPWM信号生成部60とを備えている。
【0025】
フィードバック制御部40は、目標電流算出部20にて最終的に決定された目標電流Itとモータ電流検出部33にて検出された実電流Imとの偏差を求める偏差演算部41と、その偏差がゼロとなるようにフィードバック処理を行うフィードバック(F/B)処理部42とを備えている。
【0026】
フィードバック(F/B)処理部42は、目標電流Itと実電流Imとが一致するようにフィードバック制御を行うものであり、例えば、偏差演算部41にて算出された偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算する。
PWM信号生成部60は、フィードバック制御部40からの出力値に基づいて電動モータ110をPWM(パルス幅変調)駆動するためのPWM信号を生成し、生成したPWM信号を出力する。
【0027】
モータ駆動部32は、所謂インバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインと接続されている。そして、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、電動モータ110の駆動を制御する。
モータ電流検出部33は、モータ駆動部32に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から電動モータ110に流れる実電流Imの値を検出する。
【0028】
モータ回転角度算出部71(
図2参照)は、レゾルバ120からの回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θmを算出する。
モータ回転速度算出部72(
図2参照)は、モータ回転角度算出部71が算出したモータ回転角度θmに基づいて電動モータ110のモータ回転速度Nmを算出する。
【0029】
次に、目標電流算出部20の基本目標電流算出部27について詳述する。
図4は、基本目標電流算出部27の概略構成図である。
基本目標電流算出部27は、基本目標電流Itfを設定する上でベースとなるベース電流Ibを算出するベース電流算出部21と、電動モータ110の慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出するイナーシャ補償電流算出部22と、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出するダンパー補償電流算出部23とを備えている。また、基本目標電流算出部27は、ベース電流算出部21、イナーシャ補償電流算出部22、ダンパー補償電流算出部23にて算出された値に基づいて基本目標電流Itfを決定する基本目標電流決定部25を備えている。また、基本目標電流算出部27は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTの位相を補償する位相補償部26を備えている。
なお、基本目標電流算出部27には、トルク信号Td、車速信号v、モータ回転速度Nmが出力信号に変換されたモータ回転速度信号Nmsなどが入力される。
【0030】
図5は、操舵トルクTおよび車速Vcとベース電流Ibとの対応を示す制御マップの概略図である。
ベース電流算出部21は、位相補償部26にてトルク信号Tdが位相補償されたトルク信号Tsと、車速センサ170からの車速信号vとに基づいてベース電流Ibを算出する。つまり、ベース電流算出部21は、位相補償された操舵トルクTと、車速Vcとに応じたベース電流Ibを算出する。なお、ベース電流算出部21は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、位相補償された操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とベース電流Ibとの対応を示す
図5に例示した制御マップに、操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)を代入することによりベース電流Ibを算出する。
【0031】
イナーシャ補償電流算出部22は、トルク信号Tsと、車速信号vとに基づいて電動モータ110およびシステムの慣性モーメントを打ち消すためのイナーシャ補償電流Isを算出する。つまり、イナーシャ補償電流算出部22は、操舵トルクT(トルク信号Ts)と、車速Vc(車速信号v)とに応じたイナーシャ補償電流Isを算出する。なお、イナーシャ補償電流算出部22は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)とイナーシャ補償電流Isとの対応を示す制御マップに、操舵トルクT(トルク信号Ts)および車速Vc(車速信号v)を代入することによりイナーシャ補償電流Isを算出する。
【0032】
ダンパー補償電流算出部23は、トルク信号Tsと、車速信号vと、電動モータ110のモータ回転速度信号Nmsとに基づいて、電動モータ110の回転を制限するダンパー補償電流Idを算出する。つまり、ダンパー補償電流算出部23は、操舵トルクT(トルク信号Ts)と、車速Vc(車速信号v)と、電動モータ110のモータ回転速度Nm(モータ回転速度信号Nms)に応じたダンパー補償電流Idを算出する。なお、ダンパー補償電流算出部23は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)およびモータ回転速度Nm(モータ回転速度信号Nms)と、ダンパー補償電流Idとの対応を示す制御マップに、操舵トルクT(トルク信号Ts)、車速Vc(車速信号v)およびモータ回転速度Nm(モータ回転速度信号Nms)を代入することによりダンパー補償電流Idを算出する。
【0033】
基本目標電流決定部25は、ベース電流算出部21にて算出されたベース電流Ib、イナーシャ補償電流算出部22にて算出されたイナーシャ補償電流Isおよびダンパー補償電流算出部23にて算出されたダンパー補償電流Idに基づいて基本目標電流Itfを決定する。基本目標電流決定部25は、例えば、ベース電流Ibに、イナーシャ補償電流Isを加算するとともにダンパー補償電流Idを減算して得た電流を基本目標電流Itfとして決定する。
【0034】
<車体流れ補正電流算出部28の構成>
次に、車体流れ補正電流算出部28について詳述する。
図6は、車体流れ補正電流算出部28の概略構成図である。
車体流れ補正電流算出部28は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに基づいて後述する基本車体流れ補正電流Irbを設定する上でベースとなる基本車体流れベース補正電流Irbbを算出する基本車体流れベース補正電流算出部280を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、車輪速度の左右差から舵角を推定する舵角推定部281と、舵角推定部281が推定した推定舵角θcと、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaとの舵角偏差Δθを算出する舵角偏差算出部282とを備えている。
【0035】
また、車体流れ補正電流算出部28は、舵角偏差算出部282が算出した舵角偏差Δθに基づいて基本車体流れベース補正電流算出部280が算出した基本車体流れベース補正電流Irbbを調整するための舵角偏差ゲインGΔθを設定する舵角偏差ゲイン設定部283を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTと舵角偏差算出部282が算出した舵角偏差Δθとを乗算する乗算部284を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、基本車体流れベース補正電流算出部280が算出した基本車体流れベース補正電流Irbbと、舵角偏差ゲイン設定部283が設定した舵角偏差ゲインGΔθと、乗算部284が乗算することにより得た値とに基づいて車体流れ補正電流Irの基本となる基本車体流れ補正電流Irbを設定する基本車体流れ補正電流算出部285を備えている。
【0036】
また、車体流れ補正電流算出部28は、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaに応じて基本車体流れ補正電流Irbを補正するための舵角補正係数Kθを設定する舵角補正係数設定部286を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaの変化速度である舵角速度Vθに応じて基本車体流れ補正電流Irbを補正するための舵角速度補正係数Kvθを設定する舵角速度補正係数設定部287を備えている。
【0037】
また、車体流れ補正電流算出部28は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに応じて基本車体流れ補正電流Irbを補正するためのトルク補正係数Ktを設定するトルク補正係数設定部288を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、車速センサ170にて検出された車速Vcに応じて基本車体流れ補正電流Irbを補正するための車速補正係数Kvcを設定する車速補正係数設定部289を備えている。
【0038】
また、車体流れ補正電流算出部28は、基本車体流れ補正電流算出部285が算出した基本車体流れ補正電流Irbに、舵角補正係数設定部286が設定した舵角補正係数Kθと、舵角速度補正係数設定部287が設定した舵角速度補正係数Kvθと、トルク補正係数設定部288が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部289が設定した車速補正係数Kvcとを乗算することで仮車体流れ補正電流Irfを算出する仮車体流れ補正電流算出部290を備えている。
また、車体流れ補正電流算出部28は、仮車体流れ補正電流算出部290が算出した仮車体流れ補正電流Irfの複数の値を平均化するとともに、平均化した値を車体流れ補正電流Irとして出力する平均化部291を備えている。
【0039】
そして、車体流れ補正電流算出部28は、基本車体流れベース補正電流算出部280、舵角推定部281、舵角偏差算出部282、舵角偏差ゲイン設定部283、乗算部284、基本車体流れ補正電流算出部285、舵角補正係数設定部286、舵角速度補正係数設定部287、トルク補正係数設定部288、車速補正係数設定部289、仮車体流れ補正電流算出部290および平均化部291が後述する処理を予め設定された一定時間(例えば4ミリ秒)ごとに繰り返し実行することにより車体流れ補正電流Irを算出(設定)する。
【0040】
(基本車体流れベース補正電流算出部280の構成)
図7は、操舵トルクTと基本車体流れベース補正電流Irbbとの対応を示す制御マップの概略図である。
基本車体流れベース補正電流算出部280は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに応じた基本車体流れベース補正電流Irbbを算出する。基本車体流れベース補正電流算出部280は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、操舵トルクTと基本車体流れベース補正電流Irbbとの対応を示す
図7に例示した制御マップに、操舵トルクTを代入することにより基本車体流れベース補正電流Irbbを算出する。
なお、
図7においては、操舵トルクTの絶対値|T|が大きくなるに従って基本車体流れベース補正電流Irbbの絶対値が大きくなるように設定されている。
【0041】
(舵角推定部281の構成)
図8は、舵角推定部281の概略構成図である。
舵角推定部281は、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhを算出する車輪速度差算出部281aと、車輪速度差算出部281aが算出した車輪速度差ΔVhを舵角に換算する舵角換算部281bとを備えている。
また、舵角推定部281は、車速センサ170にて検出された車速Vcに応じて舵角換算部281bが換算した換算舵角θeを調整するための車速調整係数Kvaを設定する車速調整係数設定部281cを備えている。
また、舵角推定部281は、舵角換算部281bが換算した換算舵角θeと車速調整係数設定部281cが設定した車速調整係数Kvaとを乗算することにより仮推定舵角θcfを算出する仮推定舵角算出部281dを備えている。
また、舵角推定部281は、仮推定舵角算出部281dが算出した仮推定舵角θcfの複数の値を平均化するとともに、平均化した値を推定舵角θcとして出力する推定舵角平均化部281eを備えている。
【0042】
車輪速度差算出部281aは、右側前輪速度センサ192にて検出された右側前輪152の回転速度である右側前輪速度Vh2と右側後輪速度センサ194にて検出された右側後輪(不図示)の回転速度である右側後輪速度Vh4とを加算した値から、左側前輪速度センサ191にて検出された左側前輪151の回転速度である左側前輪速度Vh1と、左側後輪速度センサ193にて検出された左側後輪(不図示)の回転速度である左側後輪速度Vh3とを減算することにより車輪速度差ΔVhを算出する(ΔVh=Vh2+Vh4−Vh1−Vh3)。
【0043】
舵角換算部281bは、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhと舵角との間に相関関係があることに鑑み予め定められた換算係数αを、車輪速度差算出部281aが算出した車輪速度差ΔVhに乗算することにより車輪速度差ΔVhを舵角に換算する。舵角換算部281bが換算した舵角を換算舵角θeとすると、換算舵角θe=ΔVh×αである。
【0044】
車速調整係数設定部281cは、舵角換算部281bが換算した換算舵角θeに対して車速Vcに応じた調整を行うための車速調整係数Kvaを設定する。
図9は、車速調整係数Kvaと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速調整係数設定部281cは、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて車速調整係数Kvaを設定する。車速調整係数設定部281cは、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速調整係数Kvaと車速Vcとの対応を示す
図9に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速調整係数Kvaを算出する。この車速調整係数Kvaとの乗算により、低速、高速域における車輪速度差ΔVhによる換算舵角θeの減少特性分を補正する。なお、低速、高速域における車速調整係数Kva0は、1よりも大きな値に予め設定されている。Kva0は、5であることを例示することができる。
【0045】
仮推定舵角算出部281dは、舵角換算部281bが換算した換算舵角θeと車速調整係数設定部281cが設定した車速調整係数Kvaとを乗算することにより仮推定舵角θcfを算出する(θcf=θe×Kva)。
推定舵角平均化部281eは、仮推定舵角算出部281dが予め設定された一定時間ごとに繰り返し実行することにより算出した仮推定舵角θcfの現時点から過去N個分の値を平均化する。推定舵角平均化部281eは、FIRフィルタであることを例示することができる。また、Nは100であることを例示することができる。
以上のように構成された舵角推定部281は、例えば自動車1が傾斜した路面を走行しているときには車体が傾き、自動車1の左側に配置された車輪の回転速度と右側に配置された車輪の回転速度との車輪速度差ΔVhが零ではなくなることに鑑み、車輪速度差ΔVhに相当する舵角を推定する。
【0046】
(舵角偏差算出部282の構成)
舵角偏差算出部282は、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaから舵角推定部281にて推定された推定舵角θcを減算することにより舵角偏差Δθを算出する(Δθ=θa−θc)。
【0047】
(舵角偏差ゲイン設定部283の構成)
図10は、舵角偏差ゲインGΔθと舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|との対応を示す制御マップの概略図である。
舵角偏差ゲイン設定部283は、舵角偏差算出部282が算出した舵角偏差Δθに基づいて舵角偏差ゲインGΔθを設定する。舵角偏差ゲイン設定部283は、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|を算出するとともに、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角偏差ゲインGΔθと舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|との対応を示す
図10に例示した制御マップに、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|を代入することにより舵角偏差ゲインGΔθを算出する。
【0048】
図10においては、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が予め定められた第1基準舵角偏差Δθ1よりも小さい場合には、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が大きくなるに従って舵角偏差ゲインGΔθが零から徐々に大きくなるように設定されている。また、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が予め定められた第2基準舵角偏差Δθ2よりも大きい場合には、舵角偏差ゲインGΔθが1になるように設定されている。そして、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第1基準舵角偏差Δθ1以上第2基準舵角偏差Δθ2以下である場合には、舵角偏差ゲインGΔθは、舵角偏差ゲインGΔθが第1基準舵角偏差Δθ1であるときの値から1になるまで徐々に小さくなるように設定されている。なお、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第1基準舵角偏差Δθ1よりも小さい領域において、舵角偏差ゲインGΔθが1であるときの絶対値|Δθ|の値を第3基準舵角偏差Δθ3とすると、
図10においては、絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3未満である場合に舵角偏差ゲインGΔθが1未満、絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3以上である場合に舵角偏差ゲインGΔθが1以上になるように設定されている。
【0049】
(乗算部284の構成)
乗算部284は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTと舵角偏差算出部282が算出した舵角偏差Δθとを乗算する。
乗算部284が操舵トルクTと舵角偏差Δθとを乗算することで、操舵トルクTが加えられている操舵方向と、検出舵角θaから推定舵角θcを減算した舵角偏差Δθの偏差方向(検出舵角θa>推定舵角θcである場合はプラス、検出舵角θa<推定舵角θcである場合はマイナス)とに応じて、乗算することにより得た値の符号が定まる。例えば、操舵方向と偏差方向とが同符号である場合には乗算部284が乗算することにより得た値の符号がプラスとなり、操舵方向と偏差方向とが異なる符号である場合には乗算部284が乗算することにより得た値の符号がマイナスとなる。
【0050】
(基本車体流れ補正電流算出部285の構成)
基本車体流れ補正電流算出部285は、乗算部284が算出した値がプラスである場合、つまり、操舵方向と偏差方向とが同符号である場合には、基本車体流れ補正電流Irbを、基本車体流れベース補正電流算出部280が算出した基本車体流れベース補正電流Irbbと舵角偏差ゲイン設定部283が設定した舵角偏差ゲインGΔθとを乗算した値に設定する。他方、基本車体流れ補正電流算出部285は、乗算部284が算出した値がマイナスである場合、つまり、操舵方向と偏差方向とが異なる符号である場合には、基本車体流れ補正電流Irbを零に設定する。
これは、操舵方向と偏差方向とが同符号である場合には、車体が流れており、車体流れを抑制するためのアシスト力が必要であると考えられ、逆に、操舵方向と偏差方向とが異なる符号である場合には、運転者が旋回するなどのために操舵しており、車体流れを抑制するためのアシスト力は不要であると考えられるためである。つまり、誤判定により、不要なアシスト力を与えるのを防止するためである。
【0051】
(舵角補正係数設定部286の構成)
舵角補正係数設定部286は、基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbに対して検出舵角θaに応じた補正を行うための舵角補正係数Kθを設定する。
図11は、舵角補正係数Kθと検出舵角θaの絶対値|θa|との対応を示す制御マップの概略図である。
舵角補正係数設定部286は、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaに基づいて舵角補正係数Kθを設定する。舵角補正係数設定部286は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角補正係数Kθと検出舵角θaとの対応を示す
図11に例示した制御マップに、検出舵角θaの絶対値|θa|を代入することにより舵角補正係数Kθを算出する。
【0052】
舵角補正係数Kθは、運転者によるステアリングホイール101の回転角度の絶対値が予め定められた基準舵角θ0よりも大きい場合には車体流れ補正電流Irが小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、検出舵角θaの絶対値|θa|が基準舵角θ0以下である場合には舵角補正係数Kθは1で、検出舵角θaの絶対値|θa|が基準舵角θ0より大きい場合には舵角補正係数Kθは1から零まで漸減した後、零に設定されている。これは、検出舵角θaの絶対値|θa|が基準舵角θ0よりも大きい場合には運転者が故意に自動車1を旋回させるべくステアリングホイール101を回転させていると考えられるからであり、運転者の操作を阻害しないようにするためである。なお、
図11に示すように、検出舵角θaの絶対値|θa|が基準舵角θ0近傍である場合には検出舵角θaの絶対値|θa|が大きくなるに従って舵角補正係数Kθが1から徐々に小さくなるように設定され、舵角補正係数Kθが零近傍である場合には検出舵角θaの絶対値|θa|が大きくなるに従って徐々に舵角補正係数Kθが零に近づくように設定されている。
【0053】
(舵角速度補正係数設定部287の構成)
舵角速度補正係数設定部287は、舵角センサ180にて検出された検出舵角θaを微分することにより舵角速度Vθを算出するとともに、基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbに対して舵角速度Vθに応じた補正を行うための舵角速度補正係数Kvθを設定する。
図12は、舵角速度補正係数Kvθと舵角速度Vθの絶対値|Vθ|との対応を示す制御マップの概略図である。
舵角速度補正係数設定部287は、算出した舵角速度Vθに基づいて舵角速度補正係数Kvθを設定する。舵角速度補正係数設定部287は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、舵角速度補正係数Kvθと舵角速度Vθの絶対値|Vθ|との対応を示す
図12に例示した制御マップに、算出した舵角速度Vθの絶対値|Vθ|を代入することにより舵角速度補正係数Kvθを算出する。
【0054】
舵角速度補正係数Kvθは、運転者によるステアリングホイール101の回転速度の絶対値が予め定められた基準舵角速度Vθ0よりも大きい場合には車体流れ補正電流Irが小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が基準舵角速度Vθ0以下である場合には舵角速度補正係数Kvθは1で、舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が基準舵角速度Vθ0より大きい場合には舵角速度補正係数Kvθは1から零まで漸減した後、零に設定されている。これは、舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が基準舵角速度Vθ0よりも大きい場合には運転者が故意に自動車1を旋回させるべくステアリングホイール101を回転させていると考えられるからであり、運転者の操作を阻害しないようにするためである。なお、
図12に示すように、舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が基準舵角速度Vθ0近傍である場合には舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が大きくなるに従って舵角速度補正係数Kvθが1から徐々に小さくなるように設定され、舵角速度補正係数Kvθが零近傍である場合には舵角速度Vθの絶対値|Vθ|が大きくなるに従って徐々に舵角速度補正係数Kvθが零に近づくように設定されている。
【0055】
(トルク補正係数設定部288の構成)
トルク補正係数設定部288は、基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbに対して操舵トルクTに応じた補正を行うためのトルク補正係数Ktを設定する。
図13は、トルク補正係数Ktと操舵トルクTの絶対値|T|との対応を示す制御マップの概略図である。
トルク補正係数設定部288は、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに基づいてトルク補正係数Ktを設定する。トルク補正係数設定部288は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、トルク補正係数Ktと操舵トルクTの絶対値|T|との対応を示す
図13に例示した制御マップに、操舵トルクTの絶対値|T|を代入することによりトルク補正係数Ktを算出する。
【0056】
トルク補正係数Ktは、運転者によるステアリングホイール101の操作負荷が予め定められた基準トルクT0よりも大きい場合には車体流れ補正電流Irが小さくなるように設定されている。つまり、理想的には、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0以下である場合にはトルク補正係数Ktは1で、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0より大きい場合にはトルク補正係数Ktは1から零まで漸減した後、零に設定されている。これは、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0よりも大きい場合には運転者が故意に自動車1を旋回させるべくステアリングホイール101を回転させていると考えられるからであり、運転者の操作を阻害しないようにするためである。なお、
図13に示すように、操舵トルクTの絶対値|T|が基準トルクT0近傍である場合には操舵トルクTが大きくなるに従ってトルク補正係数Ktが1から徐々に小さくなるように設定され、トルク補正係数Ktが零近傍である場合には操舵トルクTの絶対値|T|が大きくなるに従って徐々にトルク補正係数Ktが零に近づくように設定されている。
【0057】
(車速補正係数設定部289の構成)
車速補正係数設定部289は、基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbに対して車速Vcに応じた補正を行うための車速補正係数Kvcを設定する。
図14は、車速補正係数Kvcと車速Vcとの対応を示す制御マップの概略図である。
車速補正係数設定部289は、車速センサ170にて検出された車速Vcに基づいて車速補正係数Kvcを設定する。車速補正係数設定部289は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、車速補正係数Kvcと車速Vcとの対応を示す
図14に例示した制御マップに、車速Vcを代入することにより車速補正係数Kvcを算出する。
図14においては、自動車1が低速、高速の場合に、車体流れ補正電流Irが小さくなるように車速補正係数Kvcは設定されている。
【0058】
(仮車体流れ補正電流算出部290の構成)
仮車体流れ補正電流算出部290は、基本車体流れ補正電流算出部285が算出した基本車体流れ補正電流Irbと、舵角補正係数設定部286が設定した舵角補正係数Kθと、舵角速度補正係数設定部287が算出した舵角速度補正係数Kvθと、トルク補正係数設定部288が設定したトルク補正係数Ktと、車速補正係数設定部289が設定した車速補正係数Kvcとを乗算することにより仮車体流れ補正電流Irfを決定する(Irf=Irb×Kθ×Kvθ×Kt×Kvc)。
【0059】
(平均化部291の構成)
平均化部291は、仮車体流れ補正電流算出部290が予め設定された一定時間ごとに繰り返し実行することにより算出した仮車体流れ補正電流Irfの現時点から過去N個分の値を平均化し、平均化後の値を車体流れ補正電流Irとして出力する。平均化部291は、FIRフィルタであることを例示することができる。また、Nは100であることを例示することができる。
【0060】
以上のように構成された車体流れ補正電流算出部28においては、舵角推定部281が車輪速度差ΔVhに相当する舵角を推定し、舵角偏差算出部282が舵角センサ180にて検出された検出舵角θaと推定舵角θcとの舵角偏差Δθを算出する。この舵角偏差Δθが、例えば傾斜した路面を直進走行するために運転者が実際に操作して回転させている舵角に相当すると考えられる。言い換えれば、舵角偏差Δθの相当量、運転者がステアリングホイール101を回転させるために力を加えていると考えられる。かかる事項に鑑み、車体流れ補正電流Irが舵角偏差Δθの相当量の運転者負荷を減らす電流量となるように、基本車体流れベース補正電流算出部280が算出した基本車体流れベース補正電流Irbbを舵角偏差Δθに基づいて定められた舵角偏差ゲインGΔθで調整する。
【0061】
ここで、
図10においては、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3未満である場合には、舵角偏差ゲインGΔθが1未満となるように設定されている。これは、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3未満となる小さい領域では、各種センサからの出力値に含まれているノイズなどにより舵角偏差Δθが生じるおそれがあり、かかる場合に、車体流れ補正電流Irを設定するのは妥当ではないためである。
一方、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第2基準舵角偏差Δθ2より大きい領域においては、舵角偏差ゲインGΔθは1に設定されている。これは、絶対値|Δθ|が第2基準舵角偏差Δθ2より大きい領域においては、運転者が旋回するためにステアリングホイール101を回転させている可能性が高いが断定できないことから舵角偏差ゲインGΔθでの調整を行わずに、補正する必要があれば各種補正係数を用いた補正に委ねるためである。
また、舵角偏差Δθの絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3より大きく第2基準舵角偏差Δθ2より小さい領域においては、舵角偏差ゲインGΔθが1よりも大きく設定されている。これは、絶対値|Δθ|が第3基準舵角偏差Δθ3より大きく第2基準舵角偏差Δθ2より小さい領域においては、運転者が旋回に要する力より小さな力を加えて保舵している可能性が高く、また、トルクセンサ109にて検出された操舵トルクTに応じた基本車体流れベース補正電流Irbbではアシスト力が十分ではない可能性が高いと考えられるため、基本車体流れベース補正電流Irbbを増幅するためである。
【0062】
また、本実施の形態に係る車体流れ補正電流算出部28においては、平均化部291が仮車体流れ補正電流Irfの現時点から過去N個分の値を平均化することにより、トルクセンサ109などの各種センサからの出力信号のノイズ除去を行い、信号分解能を向上させている。
また、本実施の形態に係る車体流れ補正電流算出部28においては、推定舵角平均化部281eが仮推定舵角θcfの現時点から過去N個分の値を平均化することにより、車輪速度センサ190からの出力信号のノイズ除去を行い、信号分解能を向上させている。
また、本実施の形態に係る車体流れ補正電流算出部28においては、舵角補正係数Kθ、舵角速度補正係数Kvθ、トルク補正係数Ktおよび車速補正係数Kvcなどを用いて基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbを補正して仮車体流れ補正電流Irfを決定する。これにより、運転者が故意に自動車1を旋回させるべくステアリングホイール101を回転させている場面では運転者の操作を阻害しないようにしている。
【0063】
そして、本実施の形態に係る目標電流決定部29は、基本目標電流算出部27が算出した基本目標電流Itfと、車体流れ補正電流算出部28が算出した車体流れ補正電流Irとを加算した値を、最終的な目標電流Itに決定する。
【0064】
以上のように構成された目標電流算出部20においては、例えば傾斜した路面を直進走行する場合など車体流れに伴う負荷が運転者に必要な状況においても、車体流れに伴う負荷を電動モータ110がアシストするので、運転者の負担を軽減することができる。つまり、例えば傾斜した路面を直進走行する場合など、車体流れ補正電流算出部28を備えていない構成ならば、運転者がステアリングホイール101に、力を加えて保舵を継続しなければならない場面においても、車体流れ補正電流Irが目標電流Itに加味されるのでその保舵に必要な力が電動モータ110からアシストされる。また、旋回(左折や右折)に要する力であれば、
図5に示すようにベース電流Ibの絶対値が零より大きくなる操舵トルクTとなるので基本目標電流Itfにより電動モータ110にアシスト力が生じる。そして、本実施の形態に係る目標電流算出部20においては、ベース電流Ibが零となる操舵トルクTの領域のように、旋回に要する力よりは小さな力を加えて保舵しなければならない場面であっても車体流れ補正電流Irが目標電流Itに加味されるので運転者の負担を軽減することができる。
【0065】
そして、本実施の形態に係る車体流れ補正電流算出部28においては、従来ABSなどに用いられるために自動車1に備え付けられている車輪速度センサ190が検出した車輪の回転速度の左右差に基づいて車体流れを把握して車体流れ補正電流Irを決定する。それゆえ、車体流れを把握するために別途ヨーレートセンサを備える必要がない。したがって、本実施の形態に係るステアリング装置100によれば、低廉に車体流れ時の運転者の負担を軽減できる。
【0066】
なお、上述した実施の形態においては、基本車体流れ補正電流算出部285にて算出された基本車体流れ補正電流Irbを、舵角補正係数Kθ、舵角速度補正係数Kvθ、トルク補正係数Ktおよび車速補正係数Kvcを用いて補正しているが、特にかかる態様に限定されない。車体流れ補正電流算出部28の仮車体流れ補正電流算出部290は、基本車体流れ補正電流算出部285が算出した基本車体流れ補正電流Irbと、舵角補正係数Kθ、舵角速度補正係数Kvθ、トルク補正係数Ktおよび車速補正係数Kvcの少なくとも一つの補正係数とを乗算することにより得た値を仮車体流れ補正電流Irfとして決定してもよい。