【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 〔ウェブサイトによる公開〕 電気通信回線発表:平成27年3月5日 掲載アドレス:http://www.jsbba.or.jp/2015
前記キノコがアンニンコウ(Grifola gargal)、マイタケ、マンネンタケ、テングタケのいずれかであることを特徴とする、請求項1記載の抗アレルギー剤。
前記高分子画分分離工程の排出水溶液から水溶性低分子画分を分離する工程を更に含み、キノコ由来の水溶性低分子画分を更に取得することを特徴とする、請求項10記載の方法。
前記キノコがアンニンコウ、マイタケ、マンネンタケ、テングタケ、ルッスラ・ビノサ、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、及びイグチからなる群から選択される1又は2以上のキノコであることを特徴とする、請求項10〜12のいずれか1項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の抗アレルギー剤は、キノコの有機溶媒抽出画分に含まれる1種以上の脂溶性化合物を有効成分として含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の抗アレルギー剤の有効成分が含まれるキノコは、特に限定するものではなく、例えば、アンニンコウ、マイタケ、マンネンタケ、テングタケ、ルッスラ・ビノサ、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、イグチ等が挙げられる。本発明において特に好適に使用されるキノコは、アンニンコウ及びルッスラ・ビノサである。
【0017】
抗アレルギー効果
アレルギー反応について、
図1を用いて説明する。アレルギーは、外来抗原(アレルゲン:101)による過剰な暴露から免疫組織での抗原特異的IgEの産生に至るまでの獲得免疫のステップ(感作相)と、抗原再暴露に伴う局所性あるいは、全身性の炎症惹起相からなる。アレルギーはその発生機序により大きくI型からV型に分類されている。
【0018】
アレルギー性炎症には、マクロファージ(102)、肥満細胞(マスト細胞:103)、好中球(104)や好酸球(105)といった細胞が非常に重要な役割を果たしている。免疫応答細胞の一つである肥満細胞(マスト細胞:103)は、IgEを介した1型アレルギー反応の主体である。マスト細胞は高親和性IgE受容体と異染性の分泌顆粒を持つ点で特徴的であり、IgEと抗体の刺激に応答し、数分でヒスタミンやプロテアーゼなどの顆粒内容物を遊離する(脱顆粒)と共に、プログランジンD2、ロイコトリエンC4、血小板活性化因子などの脂質メディエーターを産出する。また、数時間で様々なサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-10、IL-13などのTh2型サイトカイン)やケモカイン(CCL2/MCP-1、CCL4/MIP-1β、CXC8/IL-8)などを産生する(
図3参照)。これにより、血管拡張や血管透過性亢進などが起こり、浮腫、掻痒などの症状があらわれる。この反応は抗原が体内に入るとすぐに生じ、即時型過敏と呼ばれ、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹等の症状を伴う。
【0019】
肥満細胞から遊離されたケミカルメディエーターのうち、ヒスタミンやロイコトリエンC
4などは気管支平滑筋収縮作用、血管透過性亢進作用、粘液分泌作用などを有し、アレルギーにおける即時型反応を引き起こす。いっぽう、肥満細胞から遊離された血小板活性化因子やロイコトリエンB
4などは遊走因子として好中球(104)や好酸球(105)などの炎症細胞を反応局所に呼び寄せることで上皮細胞(106)が破壊される。このことでアレルギーの遅延層反応(アレルギー性炎症)を引き起こす。
【0020】
マスト細胞と共に、アレルギーの発症の過程で重要な役割を果たしているのが、好酸球(105)である。好酸球は炎症・アレルギー反応を促進・惹起する炎症細胞であり、寄生虫感染やアレルギー疾患で増加する。気管支喘息では炎症局所で増加して気道上皮細胞(106)の剥離を引き起こして、気管支平滑筋層の増殖や気道過敏性を惹起させることが明らかになっている(
図1)。また,活性酸素や気道のリモデリングに関与するTGF-βをはじめとしたサイトカイン・ケモカインの産生能をもつ。
【0021】
図2は好酸球から分泌されたTGF-βによって、気管支平滑筋層が増殖し、気管支喘息患者の気道が狭くなっている様子を示している。近年、Th1・Th2細胞の概念が提唱され、Th2細胞から産生されるサイトカインに加え、ケモカインや接着分子が好酸球の遊走・活性化においても重要であり、これらがアレルギー疾患の治療のターゲットとなり得ると考えられている(
図3)。
【0022】
本発明者等は、ヒトマスト細胞又は好酸球に上記のキノコ由来の脂溶性化合物を添加すると、トロンビン刺激によって細胞から分泌される炎症性サイトカインの量が有意に低下することを見出した。また、上記の化合物が、マスト細胞又は好酸球におけるこれらのサイトカインの発現を抑制することも併せて確認した。また、上記の化合物には、食用キノコ由来のステロイド化合物が含まれ、これらはエルゴステロール類でビタミンDの前駆体でもあるため、安全性が高く、副作用の懸念が極めて低い。これらエルゴステロール類は、他のキノコに比較してアンニンコウで非常に多く含まれている(270-938mg/100g乾燥子実体)(原田栄津子等、“日本きのこ学会誌”2007年、第15巻、No.3、137-143)。更に、こうした効果は、ロイコトリエン阻害剤である他の抗アレルギー剤、例えばモンテルカストと相乗的に発揮され、この薬剤の副作用を低減し得ることも確認した。
【0023】
本発明の抗アレルギー剤が免疫応答細胞における発現及び放出を抑制し得る炎症性サイトカインとしては、特に限定するものではないが、例えばMCP(単球走化性タンパク質)-1、IL-5、IL-8、IL-13、TGF-β1等を挙げることができる。
【0024】
MCP-1(CCL2)は76個のアミノ酸からなる塩基性タンパク質であり、単球の走化性因子として見出された炎症性ケモカインである。その作用は、ライソゾーム酵素や活性酸素の放出亢進、抗腫瘍活性の増強、インターロイキンIL-1及びIL-6の産生誘導など、単球活性化因子としての役割も明らかになっている。単球に対して特異的な遊走活性を示すと共に単球表面の接着分子の発現にも関与しており、炎症局所への単球の遊走プロセスに深く関わっていると考えられている。単球以外では、好塩基球による化学伝達物質の遊離促進、T細胞走化性活性がある。強力なヒスタミン遊離作用を持っていると報告され、MCP-1の産生・分泌は生体のさまざまな細胞に認められるほか、マスト細胞でも確認でき、遅延型アレルギー、関節リウマチ、あるいは肺疾患といった各種炎症性疾患において、単球及びT細胞の組織浸潤に関与すると考えられている。
【0025】
IL-5は、主として活性化T細胞及びマスト細胞より生産され、B細胞や好酸球の活性化、増殖・分化に重要な役割を演じるサイトカインである。アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎のようなアレルギー疾患においてIL-5の関連を示唆する報告が多い。IL-5は、好酸球の分化、成熟及び活性化、それによる好酸球炎症を惹起し,好酸球からのTGF-β産生を介して気道リモデリングを促進すると考えられる。
【0026】
好中球遊走因子炎症性サイトカインの一つであるIL-8は、CXC ケモカインの代表とされ、強力な白血球遊走能を持ち、単球、マクロファージ、好中球、血管内皮細胞、上皮細胞などから産生・遊離される。気管支喘息の患者の喀痰中には多数の好中球がみられるが、好中球が気道へ浸潤する際に、IL-8が関与していると考えられている。また、気管支喘息の慢性好酸球性気道炎症にもIL-8が関与しているとの報告がある。
【0027】
IL-13は、内皮細胞のVCAM-1発現や気道上皮細胞でのeotaxin-1/-3(CCL11/26)などのケモカイン発現による好酸球の気道への浸潤を惹起し、気道過敏性亢進、気道過分泌に関与することにより喘息病態を成立させている。Th2サイトカインの中でも、特にIL-13は重症喘息の病態や気道リモデリングにおいて中心的な役割を担っていると考えられている。気道リモデリングとは、慢性的な気管支の炎症によって気道に傷害が生じた場合、リモデリングによって、気道壁が肥厚し、気管支の内腔が狭くなる現象である。
【0028】
また、この気道リモデリングには、好酸球から分泌されるサイトカインTGF-βが重要な役割を担っている。TGF-βは、喘息患者の気管支肺胞洗浄液(BALF)中に大量に存在することや、TGF-βの発現と基底膜下の厚さ、線維芽細胞の数、喘息の重症度が相関することが報告されている(Atsushi Yasukawa等、“PLOS ONE”2013年、第8巻、5、e64281)ことから、好酸球からのTGF-β産生は、気道リモデリングを促進すると考えられる(
図2)。
【0029】
従って、本発明の化合物の抗アレルギー作用は、マスト細胞又は好酸球性白血病細胞からの炎症性サイトカインの放出、及び/又はマスト細胞又は好酸球性白血病細胞における炎症性サイトカインの発現を観察することによって確認することができる。
【0030】
細胞からの炎症性サイトカインの放出は、例えば、培地中で培養した細胞に本発明の化合物を添加した後にトロンビン刺激を行い、更に一定時間培養した後に上清中のサイトカインの量をELISA法等によって定量することで確認することができる。
【0031】
また、細胞における炎症性サイトカインの発現は、例えば、本発明の化合物の存在下又は非存在下でトロンビン刺激した後のマスト細胞からmRNA(messenger RNA)を抽出し、PCR(polymerase chain reaction)法で増幅してmRNAの存在量を定量することができる。この場合、当分野において通常行われているように、トロンビンの刺激の有無によって発現量が変化しないと考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の発現に対する比として発現量を表すことができる。
【0032】
アンニンコウ由来の本発明の化合物の単離
本発明の一実施形態において、本発明の抗アレルギー剤の有効成分が含まれるキノコは、アンニンコウ、マイタケ、マンネンタケ、テングタケのいずれかである。例えば、本発明の抗アレルギー剤の有効成分が含まれるキノコはアンニンコウであり、脂溶性化合物がステロールである。
【0033】
従って、本発明の実施形態において、本発明の抗アレルギー剤は、アンニンコウ由来の1種以上のステロール若しくは同じ化学的構造を持つ1種以上のステロールを有効成分として含むことを特徴とする。
【0034】
より具体的には、本発明の抗アレルギー剤に好適に含まれるステロールは、下記の式で表される化合物1〜4である。
【0039】
アンニンコウからの化合物1〜4の単離は、特に限定するものではないが、例えば以下のようにして行うことができる。
【0040】
アンニンコウ(株式会社岩出菌学研究所にて人工栽培したもの)の子実体に45℃の温風を一昼夜、その後70℃の温風を1時間あててアンニンコウ子実体乾燥品とし、これを粉砕機にて粉砕し、粉末とする。
【0041】
得られたアンニンコウ子実体乾燥品(粉末形態)から、ヘキサン、酢酸エチル、及びエチルアルコールで順次抽出操作を行う。本発明の化合物はいずれも、アンニンコウの酢酸エチル可溶性画分から単離することができるものであり、特開2014-88358号に開示される熱水抽出液の高分子画分(GHF)とは全く異なるものである。
【0042】
化合物1〜4の単離はまた、アンニンコウ子実体の熱水抽出残渣から、例えば
図4に示す工程を経て行うこともできる。
【0043】
図4はアンニンコウ子実体から本発明に係る化合物1及び化合物2を分離する工程の例を示す。
図4(1)に示すように、アンニンコウの子実体乾燥品を粉砕したものを,熱水抽出処理により水溶性部を分離する。分離した水溶性部は高分子画分及び低分子画分の分離に用いることができる。その残渣をヘキサン抽出によりヘキサン可溶部とその残渣に分離する。ヘキサン抽出の残渣を酢酸エチル抽出により酢酸エチル可溶部と残渣に分離する。酢酸エチル抽出残渣をエチルアルコール抽出により、エチルアルコール可溶部とその残渣に分離する。この酢酸エチル可溶部に、本発明の化合物1及び2が多く含まれるものである。
【0044】
尚、上記の熱水抽出処理は省略し、直接ヘキサン抽出処理にかけることも可能であるが、熱水抽出処理を行うことで、水溶性部に含まれるものも含めて、キノコに含まれる有効成分を残すこと無く取り出すことができ、有効成分の抽出工程全体として効率を上げることができる。
【0045】
本発明の化合物1及び2の単離のためには、酢酸エチル可溶部から更に
図4(2)に示す工程を経ることができる。本発明者等は、種々の有効成分の単離及び同定のために
図4(2)の工程を実施しており、その中で化合物1及び2を取得した。従って、
図4に示す工程は、必ずしも全てが本発明の化合物の分離のために必要とする工程ではなく、例えば酢酸エチル可溶部、またはその後のエチルアルコール可溶部段階で分離を止め、化合物1、2の濃度がある一定量の中間体であっても本願発明の範囲である。また上記ではアンニンコウを例に説明したが、マイタケ、マンネンタケ、テングタケのいずれかであってもよいし、2種類以上を混合した子実体乾燥品を用いても良い。
【0046】
本発明者等のこれまでの研究により、アンニンコウは種々の活性を有することが判明しているため、それぞれの効果についての有効成分を併せて取得することを考慮することは効率的である。上記
図4(1)で説明したように、子実体の乾燥品、粉末を一旦熱水抽出処理し、高分子画分を抽出したものを再度乾燥させ、粉末体にした後、有機溶媒抽出を行うという)工程を備えることで、種々の画分からの複数の有効成分の単離が効率的に行える。
【0047】
すなわち、熱水抽出処理で得られた熱水抽出液からの水溶性高分子画分の分離のための工程と、上記アンニンコウの酢酸エチル等の有機溶媒による脂溶性抽出画分から本発明の化合物を単離する工程を並行して行うことにより、熱水抽出処理による高分子画分や低分子画分の成分と、脂溶性のステロール化合物の分離を並列処理化することにより、効率的な生産工程を組み上げることが可能になる。また、
図4のフラクションF9-3や、F9-3-5又はF9-3-6で得られた抽出物の段階で抽出作業を終了すること等で化合物1や化合物2の含有量がある程度高い画分を得ると共に、これに熱水抽出で得た高分子画分を配合する工程を備えることで、高分子画分の有する免疫強化機能と共に抗アレルギー機能を備えた付加価値の高い機能性素材を得ることも可能になる。
【0048】
尚、アンニンコウ子実体からのステロール化合物の単離は、特開2010-195697号及びJin Wu等、“Tetrahedron”2011年、第67巻、第6576-6581頁に記載されており、本願明細書の記載の他にこれらの文献の記載技術等に基づいて本発明の化合物を得ることができる。
【0049】
化合物1
本明細書において、下記の式
【化10】
で表される化合物を「化合物1」と記載する。化合物1は、上記の通り本発明者等がアンニンコウの酢酸エチル可溶性画分から白色粉末として単離・精製したステロール化合物である。NMR解析等による解析の結果、化合物1は分子式 C
28H
44O
3、分子量428を有する(3β,5α,6α,22E)-エルゴスタ-7,9(11), 22-トリエン-3,5,6-トリオール ((3β,5α,6α,22E)-Ergosta-7,9(11), 22-triene-3,5,6-triol)であると決定された。
【0050】
化合物2
本明細書において、下記の式
【化11】
で表される化合物を「化合物2」と記載する。化合物2は、上記の通り本発明者等がアンニンコウの酢酸エチル可溶性画分から白色粉末として単離・精製したステロール化合物である。NMR解析等による解析の結果、化合物2は分子式 C
28H
46O
4、分子量446を有する(3β,5α,6β,22E)-エルゴスタ-7,22-ジエン-3,5,6,9-テトロール((3β,5α,6β,22E)-Ergosta-7,22-diene-3,5,6,9-tetrol)であると決定された。
【0051】
化合物3
本明細書において、下記の式
【化12】
で表される化合物を「化合物3」と記載する。化合物3は、本発明者等がアンニンコウの酢酸エチル可溶性画分から白色粉末として単離・精製したステロール化合物であって、ガルガロールAと命名したものである(Jin Wu等、“Tetrahedron”2011年、第67巻、第6576-6581頁)。NMR解析及びX線結晶構造解析等による解析の結果、化合物3は分子式C
28H
44O
3、分子量428の4β,5β-エポキシ-(22E)-エルゴスタ-7,22-ジエン-3β,6α-ジオール(4β,5β-epoxy-(22E)-ergosta-7,22-diene-3β,6α-diol)であると決定された。化合物3は、特開2010-195697号においても式(4)又は式(4-1)の化合物として開示されている。
【0052】
化合物4
本明細書において、下記の式
【化13】
で表される化合物を「化合物4」と記載する。化合物4は、化合物3と同様に本発明者等がアンニンコウの酢酸エチル可溶性画分から白色粉末として単離・精製したステロール化合物であって、ガルガロールCと命名したものである(Jin Wu等、“Tetrahedron”2011年、第67巻、第6576-6581頁)。NMR解析等による解析の結果、化合物4は分子式C
28H
42O
4、分子量442を有する3b,14-ジヒドロキシ-5a,6a-エポキシ-(22E)-エルゴスタ-8,22-ジエン-7-オン(3b,14-dihydroxy-5a,6a-epoxy-(22E)-ergosta-8,22-diene-7-one)であると決定された。
【0053】
化合物1〜4は、いずれもアンニンコウの酢酸エチル抽出画分から単離することができるが、例えば化合物1は、マイタケ、テングタケ等の他のキノコ等からも単離されたことが報告されており、本発明はアンニンコウ由来のものの使用に限定されるものではない。また、これらの化合物は、適当なステロイド化合物を前駆体として合成することも可能であるため、天然由来の物に限られず、合成されたものであっても良い。
【0054】
R. vinosa子実体からの本発明の化合物5の単離
本発明の別の実施形態において、本発明の抗アレルギー剤の有効成分が含まれるキノコは、ルッスラ・ビノサ、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、イグチのいずれかである。例えば、本発明の抗アレルギー剤の有効成分が含まれるキノコはルッスラ・ビノサであり、脂溶性化合物はセスキテルペンラクトンである。
【0055】
従って、上記の実施形態において、本発明の抗アレルギー剤は、ルッスラ・ビノサ由来のセスキテルペンラクトンを有効成分として含むことを特徴とする。
【0056】
より具体的には、本発明の抗アレルギー剤に好適に含まれるセスキテルペンラクトンは、下記の式で示す化合物5である。
【0058】
ルッスラ・ビノサ(R. vinosa)からの化合物5の単離は、特に限定するものではないが、例えば、乾燥天然キノコとして入手できるR. vinosaの子実体から、ヘキサン、酢酸エチル、及びエチルアルコールで順次抽出操作を行い、酢酸エチル可溶性画分から単離することができる。
【0059】
より具体的には、化合物5の単離は、R. vinosa子実体から、例えば
図25に示す工程を経て行うこともできる。尚、
図4の工程と同様、ヘキサン抽出の前に熱水抽出処理を行うことも有用である。また、
図25に示す工程は、必ずしも全てが化合物5の分離のために必要とする工程ではなく、例えば酢酸エチル可溶部、またはその後のエチルアルコール可溶部段階で分離を止め、化合物5の濃度がある一定量の中間体であっても本願発明の範囲である。また上記ではR. vinosaを例に説明したが、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、イグチのいずれかであってもよいし、2種類以上を混合した子実体の乾燥品を用いても良い。
【0060】
化合物5
本明細書において、下記の式
【化15】
で表される化合物を「化合物5」と記載する。化合物5はR. vinosaの酢酸エチル可溶性画分から白色非晶質粉末として単離・精製したセスキテルペンラクトン化合物である。
【0061】
化合物5は HR-ESI-TOF-MS (+) において m/z 289.1387 (Δ -2.85 mmu) [M+Na]
+ の分子イオンピークが観測されたため、分子量を266、分子式を C
15H
22O
4 と決定した。IR スペクトルにおいて3221cm
-1 に吸収がみられたため、ヒドロキシル基の存在が示唆された。比旋光度は [α]
D27 = +19 (c = 0.10, CHCl
3) であった。
1H-NMR スペクトル、
13C-NMR スペクトルのデータが文献値とほぼ一致したことより、4,4α,5,6,7,7α,8,9-オクタヒドロ-4,8-ジヒドロキシ-6,6,8-トリメチル-(4S,4αR,7αS,8S)-アズレノ[5,6-c]フラン-1(3H)-オン(4,4α,5,6,7,7α,8,9-octahydro-4,8-dihydroxy-6,6,8-trimethyl-(4S,4αR,7αS,8S)-azuleno[5,6-c]furan-1(3H)-one)と同定した。
【0062】
上記の化合物1〜5は、製薬上、あるいは食品として許容される塩の形態であっても良く、配糖体として存在することもあり得る。また、加水分解、もしくは生体内での代謝によってこれらの化合物を生じ得る前駆体、いわゆるプロドラッグの形態であっても良い。また、これらの化合物は、適当なステロイド化合物又はセスキテルペンラクトン化合物を前駆体として合成することも可能であるため、天然由来の物に限られず、合成されたものであっても良い。目的の効果を生じさせるために、これらの化合物を改変することも可能である。例えば、製薬上、あるいは食品として許容される塩の形態としては、無機又は有機の塩が含まれ、例えばナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩、硫酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、化合物の安定性、生体適合性等を考慮して決定することができる。
【0063】
更に、本発明の化合物は、キノコから完全に単離・精製されたものでなくても良く、例えばキノコの酢酸エチル抽出画分、更に化合物の含有量が増大するように精製した画分に含まれた状態で、抗アレルギー効果を目的として好適に使用することができる。
【0064】
医薬組成物
本発明はまた、上記の抗アレルギー剤を有効成分として含む医薬組成物を提供する。
【0065】
また、本発明の抗アレルギー剤は、他の抗アレルギー剤と組み合わせて使用することで、他の抗アレルギー剤の用量を減量し、その副作用を低減させることができる。従って本発明はまた、上記の抗アレルギー剤と、ロイコトリエン阻害剤等の他の薬剤とを含む、抗アレルギー性医薬組成物を提供する。
【0066】
ロイコトリエン阻害剤は、気管支喘息の病態に深く関与するロイコトリエンを抑制する他、鼻みずや鼻づまりなど鼻粘膜で起こるアレルギー症状にも有効的であり、気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療に用いられる。ロイコトリエン阻害剤は選択的にロイコトリエン受容体に拮抗し、抗炎症作用、気管支収縮抑制作用を示すため、気道過敏性の亢進が抑制され、喘息発作が起こりにくくなると同時に、鼻粘膜においても抗炎症作用、過敏性抑制作用を発揮し、くしゃみや鼻水、鼻づまりを改善する。ロイコトリエン拮抗薬の代表的な製剤として、プランルカスト、ザフィルルカスト、モンテルカストがあるが、副作用として、吐き気や腹痛、胸やけ、下痢を起こすことがあり、まれに、劇症肝炎など重篤な肝障害も報告されている(Koa Hosoki等、Biochemical and Biophysical Research Communications, 2014年、第449巻、第351-356頁;Koa Hosoki等、Biochemical and Biophysical Research Communications, 449 (2014) 351-356)。
【0067】
本発明の抗アレルギー剤は、ロイコトリエン阻害剤と相乗的に作用し得ることが判明した。従って、本発明の抗アレルギー剤は、ロイコトリエン阻害剤と同じ医薬組成物に含めることができるが、別個の医薬組成物中にそれぞれ含めることもできる。従って、本発明は更に、ロイコトリエン阻害剤と組み合わせて投与されることを特徴とする、上記の抗アレルギー剤を含む医薬組成物を提供する。この場合、ロイコトリエン阻害剤と本発明の抗アレルギー剤とは、同時に投与しても、異なる投与スケジュールで投与しても良い。また、ロイコトリエン阻害剤と本発明の抗アレルギー剤とは、同じ投与経路で投与しても、異なる投与経路で投与しても良い。特に、本発明の抗アレルギー剤は、ロイコトリエン阻害剤を投与する患者に対して、以下に記載するように、保健機能食品や病者用食品等の飲食品として、あるいはサプリメントとして、提供することもできる。
【0068】
投与形態
本発明の抗アレルギー剤は、経口投与又は非経口投与(筋肉内、皮下、静脈内、坐薬、経皮、経胃管、経皮吸収等)のいずれでも投与することができ、また、湿布や塗布などの方法により局所投与することもできる。
【0069】
本発明の抗アレルギー剤の投与形態としては、その目的や投与経路等に応じて剤型を選択することができ、例えば錠剤、被覆錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤、坐剤、浸剤、煎剤、チンキ剤等が挙げられる。これらの各種製剤は、常法に従って必要に応じて充填剤、増量剤、賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、この医薬製剤中には人体への安全性が確認されている着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の薬品を含有させてもよい。
【0070】
本発明の抗アレルギー剤の投与量は、投与経路、投与対象動物の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができ、特に限定されないが、成人1日当たり、有効成分である化合物1〜4を単独又は組合せて1〜100 mg/kg体重程度とすることが好ましく、20〜50 mg/kg体重程度とすることがさらに好ましい。
【0071】
しかしながら、例えば長期間に亘って治療及び/又は予防の目的で経口的に摂取する場合には、上記範囲よりも少量であってもよい。あるいは、アンニンコウは食品としての安全性について問題がないので、抗アレルギー剤としての有効成分の量が上記範囲よりも多量となるように使用しても良い。
【0072】
従って、本発明の抗アレルギー剤は、単独で、アンニンコウに含まれる状態で、あるいは他の飲食品に添加する形態で、保健機能食品や病者用食品等の飲食品として、あるいはサプリメントとして、提供することもできる。この場合、通常用いられる飲食品もしくはサプリメントの状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状又は懸濁状、錠剤、カプセル剤等のいずれでもよい。
【0073】
キノコ由来有効成分の製造方法
上記した通り、本発明は更に、キノコ由来の複数種の有効成分を並行して取得する方法を提供する。本発明の方法によって有効成分を取得することができるキノコとしては、アンニンコウ、マイタケ、マンネンタケ、テングタケ、ルッスラ・ビノサ(Russula vinosa)、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、及びイグチからなる群から選択されるキノコが挙げられる。これらのキノコの1種または2種以上に対して、キノコ由来の有効成分の製造のための方法を提供する。
【0074】
具体的には、本発明の方法は、例えば
図4に示すように、以下の工程:
キノコから水溶性成分を抽出する熱水抽出工程と、
前記熱水抽出工程後の残渣から有機溶媒を用いて脂溶性成分を抽出する脂溶性成分抽出工程と、
前記脂溶性成分抽出工程で得られるステロール又はセスキテルペンラクトンを単離する化合物分離工程と
前記熱水抽出工程で得られる水溶液から、水溶性高分子画分を分離する高分子画分分離工程と
を含み、キノコ由来のステロール又はセスキテルペンラクトンと、キノコ由来の水溶性高分子画分とを並行して取得することを特徴とする。
【0075】
前記化合物分離工程は、酢酸エチル、メタノール、及び/又はジクロロメタンによる溶出工程を含む。
【0076】
キノコ由来の水溶性高分子画分には、本発明の化合物とは異なる有効成分が存在することが判明している。例えば本出願人は、アンニンコウ等の食用キノコの熱水抽出液の高分子画分(分子量6000以上)が免疫機能調整剤としての機能を有することを見出している(特開2014-88358号)。アンニンコウにおいては、この高分子画分が分子量400,000以上と分子量22,800の2つの成分からなることも判明している。本発明の方法によって、こうした水溶性高分子画分と本発明の化合物とを同時に取得できることは、非常に効率的である。
【0077】
本発明は更に、前記高分子画分分離工程の排出水溶液から水溶性低分子画分を分離する工程を更に含み、キノコ由来の水溶性低分子画分を更に取得することを特徴とする、上記方法を提供する。
【0078】
キノコ由来の水溶性低分子画分についても、本発明の化合物及び上記水溶性高分子画分とは異なる有効成分が存在することが判明している。例えば本出願人は、アンニンコウ等の食用キノコの熱水抽出物中に含まれる低分子画分が、脂肪減少活性、インスリン分泌促進活性及び血糖低下活性を有すること(特開2011-102286号)、更に、同様の低分子画分が、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、及び動脈硬化症の治療及び予防剤としての効果を有することも見出している(特開2014-240366号)。従って、本発明の方法によって、本発明の化合物及び水溶性高分子画分と共に、こうした水溶性低分子画分を併せて取得できることは、更に効率的である。
【0079】
以下に本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
アンニンコウ子実体からの化合物1の単離
化合物1は、アンニンコウ子実体の熱水抽出残渣の酢酸エチル可溶性画分から
図4に示す工程により得ることができる。
【0081】
図4(1)に示すように、アンニンコウの子実体乾燥品を粉砕したものを,熱水抽出処理により水溶性部を分離し、その残渣をヘキサン抽出によりヘキサン可溶部とその残渣に分離した。ヘキサン抽出の残渣を酢酸エチル抽出により酢酸エチル可溶部と残渣に分離しした。本発明の化合物1及び2の単離のために、酢酸エチル可溶部から更に
図4(2)に示す工程を実施した。
【0082】
図4(2)に示す工程では、アンニンコウ子実体の酢酸エチル可溶部をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーに供し、1〜14で示す14のフラクションを得ている。これら14サンプルを種々の活性試験に供した。活性試験の結果より、フラクション9(F-9)を70% MeOH(メタノール)、90% MeOH、100%MeOH、CH
2C
l2(ジクロロメタン)で順次溶出させ、フラクション9-3(F-9-3)を得た。次いで、F-9-3をODS ゲルフラッシュクロマトグラフィーに供し、フラクション9-3-1〜15(F-9-3-1〜15)を得た。
【0083】
フラクション9-3-6(F-9-3-6)を92% MeOH で溶解させてSep-Pak Plus C18 Cartridges(C18 Sep-pak、ウォーターズ株式会社)に通し、92% MeOH 可溶部をフラクション9-3-6-1(F-9-3-6-1)とした。F-9-3-6-1を逆相HPLC(High Performance Liquid Chromatography:高効率液体クロマトグラフィー)で分取し、フラクション9-3-6-1〜24を得た。そのうち、フラクション9-3-6-1-13/14 (F-9-3-6-1-13/14)を掻き取り、TLC(Thin-Layer Chromatography:薄層クロマトグラフィー)で分取し、化合物1を得た。
【0084】
図5〜
図7に化合物1のIRスペクトル、
1H NMRスペクトル、及び
13C NMRスペクトルを示す。CD
3OD/CDCl
3中の化合物1の
1H NMR及び
13C NMRデータをまとめると以下の表1のように示される。測定に使用した装置は以下の通りである。
NMR:JMN-EX- 270 FT NMR Spectrometer (JEOL社製)
Lambda 500 FT NMR Spectrometer (JEOL社製)
MS: JMS-T100LP (JEOL社製)
IR: A-102 Diffraction Grating Infrared Spectrometer (JASCO社製)
【0086】
これらの解析結果から、得られた化合物1の構造を以下のように決定することができた。
【0088】
[実施例2]
アンニンコウ子実体からの化合物2の単離
化合物2は、アンニンコウ子実体の熱水抽出残渣の酢酸エチル可溶性画分から
図4に示す工程により得ることができる。
【0089】
実施例1で説明した工程において、フラクション9-3-5 (F-9-3-5)を92% MeOH で溶解させて C18 Sep-pakに通し、92% MeOH 可溶部をフラクション9-3-5-1(F-9-3-5-1)とした。フラクション9-3-5-1 を逆相HPLC で分取し、9 フラクションを得た。そのうちフラクション9-3-5-1-6(F-9-3-5-1-6)を逆相HPLCで分取し、F-9-3-5-1-6-3 より化合物2を得た。
【0090】
図8〜
図11に化合物2のMSスペクトル、IRスペクトル、
1H NMRスペクトル、及び
13C NMRスペクトルを示す。化合物2の
1H NMR及び
13C NMRデータをまとめると以下の表2のように示される。尚、測定に使用した装置は実施例1と同様である。
【0092】
これらの解析結果から、得られた化合物2の構造を以下のように決定することができた。
【0094】
[実施例3]
マスト細胞からのMCP-1の放出に対する本発明の化合物の効果
ヒトマスト細胞(HMC-1、Mayo clicic, Division of Allergic Disease, Minnesota,USA)を10%(V/V)熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)を加えたIMDM培地中で37℃、5%CO
2下で前培養した後、12ウェルプレート上に1×10
6個/ウェルとなるように調整した。これら12ウェルを3ウェルずつ分け、「培地のみ」、「トロンビン」、「化合物」、「トロンビン+化合物」の試験に用いるウェルとして準備した。次いで、このプレートの「化合物」及び「トロンビン+化合物」のウェルに、化合物1〜4のいずれかを1μg/mlになるように添加した。その後、「トロンビン」と「トロンビン+化合物」のウェルに50U/ml トロンビン(牛血しょう由来, Wako Pure chemical 306-31941, Osaka, Japan)で刺激を行い、37℃、5%CO
2下で24時間培養後、上清中のMCP-1をELISA法によって検出し、その濃度を決定した。
【0095】
結果を
図12〜
図14に示す。これらの結果から明らかなように、本発明の化合物は、単独で添加してもマスト細胞からのMCP-1の放出に対する有意な影響は観察されないが、トロンビン刺激によって増加するマスト細胞からのMCP-1の放出を抑制することが、各図の「トロンビン」の示す値と、「トロンビン+化合物」の示す値の差から判明した。
【0096】
[実施例4]
マスト細胞におけるMCP-1発現に対する本発明の化合物の効果
実施例3で培養したHMC-1細胞を1,500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、細胞のペレットを回収した。その後、細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素 ReverTra Ace (Toyobo, Osaka, Japan)を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてPCR法を行い、MCP-1 mRNAの発現量を調べた。結果を
図15〜
図17に示す。尚、結果は、トロンビンの刺激の有無によって発現量が変化しないと考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の発現に対する比として表している。
【0097】
図15〜
図17に示す結果から明らかなように、本発明の化合物は、単独で添加してもマスト細胞におけるMCP-1の発現量に対する有意な影響は観察されないが、トロンビン刺激によって増加するMCP-1 mRNAの発現を抑制することが判明した。
【0098】
[実施例5]
マスト細胞からのIL-8及びIL-13の放出に対する本発明の化合物の効果
実施例3と同様にして、ヒトマスト細胞からのIL-8及びIL-13の放出に対する本発明の化合物の影響を調べた。結果を
図18及び
図19に示す。
【0099】
これらの結果から明らかなように、本発明の化合物は、トロンビン刺激によって増加するマスト細胞からのIL-8及びIL-13の放出を抑制することが判明した。
【0100】
[実施例6]
マスト細胞におけるIL-5発現に対する本発明の化合物の効果
実施例4と同様にして、ヒトマスト細胞におけるIL-5発現に対する本発明の化合物の影響を調べた。結果を
図20に示す。
【0101】
この結果から明らかなように、本発明の化合物は、トロンビン刺激によって増加するIL-5 mRNAの発現を抑制することが判明した。
【0102】
[実施例7]
ヒト好酸球性白血病細胞における各種mRNA発現に対する本発明の化合物の効果
ヒト好酸球性白血病細胞(EoL-1、Riken Cell Bank, Tsukuba, Japan)を10%(V/V)熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)を加えたRPMI1640培地中で37℃、5%CO
2下で前培養した後、48プレート上に1×10
6個/ウェルとなるように調整した。次いで、実施例3の手順に準じてこのプレートに、化合物1を5μg/mlになるように添加した後、10
-4M モンテルカストを加えた。30分後、50U/ml トロンビン(牛血しょう由来, Wako Pure chemical 306-31941, Osaka, Japan)で刺激を行い、37℃、5%CO
2下で24時間培養したEoL-1細胞を1,500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、細胞のペレットを回収した。その後、細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素 ReverTra Ace (Toyobo, Osaka, Japan)を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてPCR法を行い、IL-5、IL-13、TGF-β1、及びIL-8 mRNAの発現量をそれぞれ調べた。
【0103】
結果を
図21〜
図24に示す。尚、結果は、トロンビンの刺激の有無によって発現量が変化しないと考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の発現に対する比として表している。
【0104】
図21〜
図24の結果から明らかなように、化合物1は、トロンビン刺激によって増加する好酸球からのIL-5 mRNA、IL-13 mRNA及びIL-8 mRNAの発現を抑制することが判明した。さらに、抗アレルギー剤(モンテルカスト)を添加した場合は、mRNAの発現量において、抗アレルギー剤単独での添加よりも、化合物1と組み合わせて添加した場合に、より発現量を抑えることが判明し、抗アレルギー剤との併用したときの相乗効果が確認できた。尚、
図23の結果から、IL-5やIL-13の結果とは異なり、化合物1は、単独で添加した場合、好酸球からのTGF-β1の産生を促す傾向にあることが判明した。トロンビン刺激によっても好酸球からのTGF-β1 mRNAの発現を抑制することはないが、抗アレルギー剤(モンテルカスト)を添加した場合では、TGF-β mRNAの発現量において、相乗的な抑制効果があることが確認できた。
【0105】
[実施例8]
R. vinosa子実体からの化合物5の単離
R. vinosa 子実体乾燥品 5.0 kg をヘキサン、酢酸エチル、及びエチルアルコールでそれぞれ2回抽出して分画した(
図25(1))。得られた酢酸エチル可溶部(41.5 g)をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーに供し、画分1〜17を得た(
図25)。画分9(F-9)をフラッシュクロマトグラフィー (ODS) で分画した。
【0106】
更にフラッシュ画分9-1〜20のうち、画分9-2/3(F-9-2/3)を60% MeOH、90% MeOH に順次溶解させ、C18 Sep-pak を通した。60% MeOH 可溶部を画分9-2/3-1(F-9-2/3-1)とした。これを55% MeOH、逆相HPLC にて分取し、1〜23の画分を得た。このうち、画分13(F-9-2/3-1-13)を更に逆相HPLC で分取し、得られた1〜9の画分より化合物5を得た(
図25(2))。尚、
図25(2)に示す工程は、必ずしも全てが本発明の化合物の分離のために必要とする工程ではなく、例えば酢酸エチル可溶部、またはその後のエチルアルコール可溶部段階で分離を止め、化合物5の濃度がある一定量の中間体であっても本願発明の範囲である。また上記ではR. vinosaを例に説明したが、チチタケ、ササクレヒトヨタケ、オオイチョウタケ、オオシロアリタケ、イグチのいずれかであってもよいし、2種類以上を混合した子実体の乾燥品を用いても良い。
【0107】
化合物5は白色非晶質として単離された。化合物5は HR-ESI-TOF-MS (+) において m/z 289.1387 (Δ -2.85 mmu) [M+Na]
+ の分子イオンピークが観測されたため、分子量を266、分子式を C
15H
22O
4 であると決定した(
図26)。IR スペクトルにおいて3221cm
-1 に吸収がみられたため、ヒドロキシル基の存在が示唆された(
図27)。比旋光度は [α]
D27 = +19 (c = 0.10, CHCl
3) であった。
1H-NMR スペクトル(
図28)、
13C-NMR スペクトル(
図29)のデータ(表3)が文献値とほぼ一致したことより、得られた化合物5を4,4α,5,6,7,7α,8,9-オクタヒドロ-4,8-ジヒドロキシ-6,6,8-トリメチル-(4S,4αR,7αS,8S)-アズレノ[5,6-c]フラン-1(3H)-オンと同定した。
【0110】
[実施例9]
マスト細胞におけるMCP-1及びIL-5発現に対する本発明の化合物の効果
ヒトマスト細胞(HMC-1、Mayo clicic, Division of Allergic Disease, Minnesota, USA)を10%(V/V)熱不活性化ウシ胎児血清(FCS)を加えたIMDM培地中で37℃、5%CO
2下で前培養した後、12プレート上に1×10
6個/ウェルとなるように調整した。次いで、実施例3の手順に準じてこのプレートに、化合物5を5μg/mlになるように添加した。その後、50U/ml トロンビン(牛血しょう由来, Wako Pure chemical 306-31941, Osaka, Japan)で刺激を行い、37℃、5%CO
2下で24時間培養後、培養したHMC-1細胞を1,500rpm、4℃、5分間の遠心分離に供し、細胞のペレットを回収した。その後、細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素 ReverTra Ace (Toyobo, Osaka, Japan)を用いてRNAを鋳型としたDNAを合成し、そのDNAを鋳型としてPCR法を行い、MCP-1 mRNAの発現量を調べた。結果を
図30及び
図31に示す。尚、結果は、トロンビンの刺激の有無によって発現量が変化しないと考えられるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GADPH)の発現に対する比として表している。
【0111】
図30及び
図31に示す結果から明らかなように、本発明の化合物5は、単独で添加してもマスト細胞におけるMCP-1の発現量に対する有意な影響は観察されないが、トロンビン刺激によって増加するMCP-1 mRNAの発現を抑制することが判明した。同様に、IL-5 mRNAの発現に関しても、抑制効果が認められた。