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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-185941(P2016-185941A)
(43)【公開日】2016年10月27日
(54)【発明の名称】松樹皮抽出物含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/15 20060101AFI20160930BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20160930BHJP
   A61K 129/00 20060101ALN20160930BHJP
【FI】
   A61K36/15
   A61P19/02
   A61K129:00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-191106(P2015-191106)
(22)【出願日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-67231(P2015-67231)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敬
(72)【発明者】
【氏名】鍔田 仁人
(72)【発明者】
【氏名】山口 和也
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB03
4C088AC06
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA96
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、日常的に使用可能であり、かつ、安全性が高い、変形性関節症などの関節炎に対して有用である有効成分含有物を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、松樹皮抽出物を含有する関節炎用組成物、関節保護用組成物、軟骨保護用組成物、歩行機能維持用組成物、ロコモケア剤、ロコモティブ症状緩和剤、運動機能維持剤及び関節部位の運動時違和感の緩和剤により解決される。本発明によれば、日常的に使用し、かつ、安全性を高くして、関節炎やそれに伴う疼痛を緩和し、関節や軟骨を健全に維持して、関節炎を緩和、改善、抑制、予防及び治療することなどが期待できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
松樹皮抽出物を含有する、抗関節炎用組成物。
【請求項2】
松樹皮抽出物を含有する、関節保護用組成物又は軟骨保護用組成物。
【請求項3】
松樹皮抽出物を有効成分とする、歩行機能維持用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、関節に異常を有する者又は中高年者に用いられる組成物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
松樹皮抽出物を有効成分とする、ロコモケア剤。
【請求項6】
松樹皮抽出物を有効成分とする、ロコモティブ症状緩和剤又は運動機能維持剤。
【請求項7】
松樹皮抽出物を有効成分とする、関節部位の運動時違和感の緩和剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の用途に供される松樹皮抽出物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症は、加齢や機械的ストレスなどが原因となって、関節軟骨表面の崩壊、これに伴う関節辺縁の新たな軟骨の増殖、関節の変形、関節の軟骨の遅行変性などが生じることにより、しばしば痛みと機能喪失とを伴う関節炎疾患である。
【0003】
変形性関節症などの関節炎に対しては、アセチルサリチル酸、インドメタシン、ジクロフェナクなどを有効成分とする鎮痛剤及び抗炎症剤、エタネルセプトなどを有効成分とする関節リウマチ治療剤などが使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
確かに、関節炎については、上記した薬剤を用いれば改善が期待できる。しかし、これらの薬剤は、重篤な関節炎に対しては有効ではあるものの、副作用が伴うものであることから、日常的な使用に耐えられるものではない。また関節炎が重篤化するのを予防することを目的するか、又は日常的な関節の違和感を緩和する目的で使用できる副作用の少ない薬剤は有用である。
【0005】
そこで、本発明は、日常的に使用可能であり、かつ、安全性が高い、変形性関節症などの関節炎に対して有用である有効成分含有物を提供することを発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を積み重ね、種々の物質の変形性関節症に伴う疼痛や関節軟骨の組織学的変性への影響を調べてみたところ、驚くべきことに松樹皮抽出物は、該疼痛や関節軟骨の組織学的変性に対して緩和作用を示すことを見出した。このような松樹皮抽出物は、天然物である松樹皮に由来するものであることから、安全性が高く、日常的に使用可能なものである。
【0007】
さらに驚くべきことに、松樹皮抽出物は、関節炎を緩和することや炎症部位を鎮痛することが知られている消炎鎮痛剤であるイブプロフェンやジクロフェナクと比べて、格別顕著な疼痛緩和作用並びに関節及び軟骨の保護作用を有するものであることを見出した。結果として、本発明者らは、上記知見に基づき、疼痛を緩和し、関節や軟骨を健全に維持し得る松樹皮抽出物含有物を創作することに成功した。本発明は、この成功例に基づき、完成された発明である。
【0008】
したがって、本発明によれば、松樹皮抽出物を含有する、抗関節炎用組成物が提供される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を含有する、関節保護用組成物又は軟骨保護用組成物が提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、歩行機能維持用組成物が提供される。
【0011】
好ましくは、本発明の組成物は、関節に異常を有する者又は中高年者に用いられる組成物である。
【0012】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、ロコモケア剤が提供される。
【0013】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、ロコモティブ症状緩和剤又は運動機能維持剤が提供される。
【0014】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、関節部位の運動時違和感の緩和剤が提供される。
【0015】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、抗糖化剤又は抗老化剤が提供される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、糖化生産物阻害剤が提供される。
【0017】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物を有効成分とする、グルコシダーゼ阻害剤又は糖分解抑制剤が提供される。
【0018】
好ましくは、本発明の組成物は、前記松樹皮抽出物を1日使用単位として100〜1,000mg/kg含有する組成物である。
【0019】
好ましくは、本発明の組成物は、前記松樹皮抽出物を1日使用単位として100〜1,000mg/kg含有し、かつ、1週間に1度以上の割合で使用される組成物である。
【0020】
好ましくは、前記松樹皮抽出物は、フランス海岸松(Pinus martima)に由来する松樹皮抽出物である。
【0021】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物又は松樹皮抽出物を含有する組成物を使用させることを含む、関節炎若しくは関節炎に伴う疼痛又は関節軟骨の組織学的変性を緩和、改善又は抑制する方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。
【0022】
本発明の別の側面によれば、松樹皮抽出物又は松樹皮抽出物を含有する組成物を使用させることを含む、関節又は軟骨を保護する方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、日常的に使用し、かつ、安全性を高くして、関節炎やそれに伴う疼痛を緩和し、関節や軟骨を健全に維持して、関節炎を緩和、改善、抑制、予防及び治療することなどが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例の例1に記載の疼痛閾値の測定結果を示した図である。
図2】実施例の例2に記載のMankin Scoreの評価結果を示した図である。
図3】実施例の例3に記載の各群の膝関節組織のパラフィン固定切片を染色した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明は、松樹皮抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0026】
松樹皮抽出物は天然物である松の樹皮を抽出処理に供したものであれば特に限定されない。松樹皮としては、例えば、フランス海岸松、カラマツ、クロマツ、アカマツ、ヒメコマツ、ゴヨウマツ、チョウセンマツ、ハイマツ、リュウキュウマツ、ウツクシマツ、ダイオウマツ、シロマツ、カナダのケベック地方のアネダなどのマツ目に属する植物の樹皮が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、食用として安全性が確認されている観点から、南仏の大西洋沿岸などに生育している海洋性松であるフランス海岸松(Pinus maritima)の樹皮が好ましい。
【0027】
松樹皮抽出物は、例えば、松樹皮を溶媒で抽出して得られる。溶媒としては、例えば、水、有機溶媒、含水有機溶媒(含水エタノールなどの含水アルコール)が挙げられるが、これらに限定されない。水を溶媒に用いる場合には、温水又は熱水を用いてもよい。抽出に用いる有機溶媒としては、通常天然物成分を抽出するのに際して許容される有機溶媒が用いられ、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2−トリクロロエテンなどが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いられ得る。これらの溶媒の中でも、熱水、含水エタノール及び含水プロピレングリコールが好ましく用いられる。
【0028】
松樹皮抽出物を松樹皮から抽出する方法は、通常天然物成分を抽出するのに際して許容される方法であれば特に限定されないが、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などの固液抽出法が挙げられる。
【0029】
加温抽出法は、例えば、被験物質と溶媒とを接触させ、溶媒の沸点以下の温度などで処理して、被験物質に含まれる成分を溶媒に抽出する方法である。還流抽出法であってもよい。
【0030】
超臨界流体抽出法は、例えば、物質の気液の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を超えた状態の流体である超臨界流体を用いて抽出を行う方法である。超臨界流体としては、二酸化炭素、エチレン、プロパン、亜酸化窒素(笑気ガス)などが挙げられるが、好ましくは二酸化炭素である。
【0031】
超臨界流体抽出法では、目的成分を超臨界流体によって抽出する抽出工程と、目的成分と超臨界流体を分離する分離工程とを行う。分離工程では、圧力変化による抽出分離、温度変化による抽出分離、吸着剤・吸収剤を用いた抽出分離のいずれを行ってもよい。
【0032】
エントレーナー添加法による超臨界流体抽出を行ってもよい。この方法は、抽出流体に、例えば、エタノール、プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン、その他の脂肪族低級アルコール類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類を2〜20W/V%程度添加し、この流体を用いて超臨界流体抽出を行うことによって、OPC(oligomeric proanthocyanidin:オリゴメリック・プロアントシアニジン)、カテキン類などの目的とする抽出物の抽出溶媒に対する溶解度を飛躍的に上昇させる、又は分離の選択性を増強させる方法であり、効率的な松樹皮抽出物を得る方法である。
【0033】
超臨界流体抽出法は、比較的低い温度で操作できるため、高温で変質・分解する物質にも適用できるという利点、抽出流体が残留しないという利点、溶媒の循環利用が可能であるため、脱溶媒工程などが省略でき、工程がシンプルになるという利点がある。
【0034】
松樹皮からの抽出は、上述の抽出法以外に、液体二酸化炭素回分法、液体二酸化炭素還流法、超臨界二酸化炭素還流法などにより行ってもよい。
【0035】
松樹皮からの抽出は、複数の抽出方法を組み合わせてもよい。複数の抽出方法を組み合わせることにより、種々の組成の松樹皮抽出物を得ることが可能となる。
【0036】
抽出により得られた松樹皮抽出物は、限外濾過、吸着性担体(ダイヤイオンHP−20、Sephadex−LH20、キチンなど)を用いたカラム法、バッチ法などにより精製を行うことが安全性の面から好ましい。
【0037】
松樹皮抽出物は、保存性や加工性の観点から、粉末状のものであることが好ましく、乾燥粉末状のものであることがより好ましい。乾燥手段は特に限定されず、例えば、溶媒を含む松樹皮抽出物を、加温、日干し、熱風乾燥、減圧などによる乾燥手段を挙げることができる。乾燥の程度は、松樹皮抽出物の溶媒含有量が十分に低下したことが確認されるまでの程度であればよく、例えば、溶媒含有量が10wt%以下、好ましくは5wt%以下となるまでの程度である。
【0038】
松樹皮抽出物乾燥粉末を得るための粉末化の方法としては、例えば、当業者が通常用いる方法であるボールミル、ハンマーミル、ローラーミルなどにより、松樹皮抽出物を粉砕及び粉末化する方法が挙げられるが、これらに限定されない。乾燥と粉末化の順序を入れ替えて、乾燥前の松樹皮抽出物を予め粉砕しておき、この粉砕物を乾燥して松樹皮抽出物乾燥粉末とすることもできる。
【0039】
松樹皮抽出物は市販されているものでもよく、市販の松樹皮抽出物としては、例えば、フラバンジェノール(登録商標)(東洋新薬社)などが挙げられる。
【0040】
松樹皮抽出物は、後述する実施例に示されているとおり、モノヨード酢酸により誘発された変形性関節症によりもたらされる疼痛及び関節軟骨の組織学的変性を緩和する作用を示すことから、抗関節炎効果、関節保護効果、軟骨保護効果、歩行機能維持効果などが期待できるものである。また、松樹皮抽出物は、すでに生じている関節炎、疼痛及び関節軟骨の組織学的変性を改善することだけではなく、関節炎、疼痛及び関節軟骨の組織学的変性が起きる可能性のある部位に対して作用することによってこれらの徴候を未然に防ぐ蓋然性がある。さらに、松樹皮抽出物は、変形性関節症の改善効果を通じて、変形性関節症に伴う円背、易骨折性、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症などの運動器(ロコモ)に関する疾患やその機能不全であるロコモティブ症候群(ロコモティブ症)を緩和する効果や運動機能を維持する効果が期待できる。当然に、松樹皮抽出物はロコモケア効果や関節部位の運動時違和感の緩和効果を有する。そこで、本発明は、松樹皮抽出物を有効成分とすることにより、抗関節炎用組成物、関節保護用組成物、軟骨保護用組成物、歩行機能維持用組成物、ロコモケア剤、ロコモティブ症状緩和剤、運動機能維持剤、関節部位の運動時違和感の緩和剤、軟骨組織学的変性抑制剤、軟骨変性防止剤、軟骨変形防止剤、軟骨損傷防止剤、膝軟骨組織学的変性抑制剤、膝軟骨変性防止剤、膝軟骨変形防止剤及び膝軟骨損傷防止剤という態様を採り得る。
【0041】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤における松樹皮抽出物の配合量は、少なくとも疼痛緩和作用又は関節若しくは軟骨の保護作用を奏し得る有効量であれば特に限定されない。また、少なくとも疼痛緩和作用又は関節若しくは軟骨の保護作用を奏し得る有効量を含有するのであれば、松樹皮抽出物のみからなるものであってもよい。
【0042】
松樹皮抽出物の配合量は、1日あたりの使用量として下限値を松樹皮抽出物の乾燥質量で、例えば、100mg以上、好ましくは300mg以上、より好ましくは500mg以上となるように設定することができる。また、1日あたりの使用量として上限値を松樹皮抽出物の乾燥質量で、例えば、2,000mg以下、好ましくは1,500mg以下、より好ましくは1,000mg以下となるように設定することができる。
【0043】
具体的には、松樹皮抽出物の配合量は、1日あたりの使用量として松樹皮抽出物の乾燥質量で、100〜1,000mgであり、好ましくは500〜900mgである。ただし、本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤が他の疼痛緩和作用又は関節若しくは軟骨の保護作用を有する物質を含有する場合は、それに合わせて松樹皮抽出物の配合量を減らすなど適宜調整できる。
【0044】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、松樹皮抽出物に加えて、適宜選択したその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、添加剤、化粧品原料、医薬品原料などを挙げることができる。その他の成分の含有量は、本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の利用形態などに応じて適宜選択することができる。
【0045】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、変形性関節症などの関節炎やそれに伴う疼痛の緩和作用又は関節や軟骨の保護作用を得ることを目的とした種々の形態で利用することができ、例えば、経口用又は非経口用の形態とすることができる。本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、その形態に応じて、そのまま経口的又は非経口的に使用してもよいし、松樹皮抽出物を溶解するための溶媒などに溶解して経口的又は非経口的に使用してもよい。
【0046】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の形態は特に限定されず、任意の形態とすることができる。経口用の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の形態としては、例えば、経口的な使用に適した形態、具体的には、顆粒状、粉末状、タブレット状、チュアブル状、カプセル状、液状、シロップ状などが挙げられる。
【0047】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、関節炎の改善を目的とする経口組成物、関節の保護や維持を目的とする経口組成物、ロコモティブ症候群対策を目的とする経口組成物などとして利用することができる。
【0048】
非経口用の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の形態としては、例えば、非経口的な使用に適した形態、具体的には、ローション状、クリーム状、リキッド状、ファンデーション状、ミスト状、エマルション状、スプレー状、ムース状、ジェル状などが挙げられる。
【0049】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の包装形態は特に限定されず、剤形などに応じて適宜選択できるが、例えば、PTPなどのブリスターパック;ストリップ包装;ヒートシール;アルミパウチ;プラスチックや合成樹脂などを用いるフィルム包装;バイアルなどのガラス容器;アンプルなどのプラスチック容器などが挙げられる。
【0050】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、期待される作用効果が奏される限り特に限定はなく、ヒト以外の動物に対して適用することができる。本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の使用者は特に限定されず、例えば、健常者であってもよいが、関節炎や疼痛の緩和作用又は関節や軟骨の保護作用が期待される者であることが好ましく、関節炎などの関節に異常を有する者や40歳以上の中高年者に用いることがより好ましい。関節に異常を有する者や中高年者は、現に関節異常や疼痛を有する者に加えて、過去に関節異常や疼痛を有した者、遺伝や職業などで関節異常や疼痛を有するおそれがある者が包含される。本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の使用頻度は特に限定されず、例えば、1週間に1度以上であり、好ましくは1週間に2度以上である。
【0051】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤における松樹皮抽出物の配合量は、その投与形態や剤形などによって適宜設定することができ、特に限定されない。例えば、松樹皮抽出物の配合量は、全体を100質量部として、松樹皮抽出物の下限値は乾燥質量で、0.001質量部以上、0.01質量部以上、好ましくは0.1質量部以上と設定することができ、松樹皮抽出物の上限値は乾燥質量で、例えば、100質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは10質量部以下と設定することができる。
【0052】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、松樹皮抽出物に加えて、関節炎や疼痛を緩和する作用又は関節や軟骨を保護する作用を有する第2の生理活性成分を含有することができる。このような第2の生理活性成分としては、通常知られている関節炎や疼痛を緩和する作用又は関節や軟骨の保護作用を有する生理活性成分であれば特に限定されないが、例えば、鎮痛剤、抗炎症剤、関節症治療剤などを挙げることができる。松樹皮抽出物と第2の生理活性成分とを含有することにより、本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤は、相乗的な関節炎や疼痛を緩和する作用又は関節や軟骨の保護作用を示す組成物であり得る。第2の生理活性成分は、1種又は2種以上の成分であり得る。第2の生理活性成分の使用量は、本発明の課題の解決を妨げない限り特に限定されず、適宜調整される。
【0053】
本発明の松樹皮抽出物含有組成物や松樹皮抽出物含有剤の製造方法は特に限定されず、使用形態に応じて当業者に知られる一般的な製造方法に準じて製造される。例えば、顆粒状や固形状のものについては、松樹皮抽出物をそのまま又は上記のその他の成分や第2の生理活性成分と同時又は数段階に分けて混和したものを、流動層造粒法、攪拌造粒法、押出造粒法などの造粒方法に従って造粒して顆粒状とし、さらに打錠機などを用いる常法に従って圧縮成形することによって錠状に成形できる。
【0054】
本発明の別の態様は、松樹皮抽出物又は松樹皮抽出物を含有する組成物を使用させることを含む、関節炎若しくは関節炎に伴う疼痛、関節軟骨の組織学的変性などを緩和、改善又は抑制する方法である。ただし、本発明の方法は、ヒトに対する医療行為を除外するものである。
【0055】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0056】
[例1.松樹皮抽出物の関節疼痛に対する作用]
松樹皮抽出物がモノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットに対し、格別顕著な関節疼痛緩和作用を有することを以下のとおりに実証した。
【0057】
(1)実験動物
6週齢雄性wistar系ラットを5日以上馴化させた。飼育環境として、照明時間は12時間とし、ケージは木材チップ(ソフトチップ;日本エスエルシー社)を床じきとしたポリカーボネイト製平底ケージ(W260×D420×H180mm;日本クレア社)を用い、1ケージあたりの収容個体数は2〜3匹とした。
【0058】
試験開始1、3、6日前にVon Frey式痛覚測定装置(DYNAMIC PLANTAR AESTHESIOMETER:37450)を用いて足底面にて疼痛閾値(右足)の測定トレーニングを行い、被験物質投与前データを取得した。また、試験前日に体重値を測定した。試験前日の疼痛閾値(右足)と体重値とがほぼ均一となるように1群12体で3群に分け、試験に供した(優先順位;疼痛閾値>体重値)。
【0059】
(2)モノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットの確立
試験開始日(0日目)よりジエチルエーテル麻酔下で右ひざ関節内腔へモノヨード酢酸(MIA;シグマ−アルドリッチ・ジャパン社)を3mg/50μL/ラットで投与することにより、モノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットを確立した。
【0060】
(3)被験物質
被験物質としてフランス海岸松樹皮抽出物である松樹皮抽出物(東洋新薬社;フラバンジェノール(登録商標);FVG;赤色の粉末)及びイブプロフェン(和光純薬工業社;白色の粉末)を用い、さらにコントロール物質として溶媒であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業社;CMC;白色の粉末)を用いた。
【0061】
実験動物3群のそれぞれに、上記物質を下記表1に示した所定の濃度となるように、CMCに溶解又は懸濁して被験物質溶液を調製した。
【表1】
【0062】
(4)実験方法
モノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットへ被験物質溶液を強制経口投与した。具体的には、至近日に測定した体重値に基づいて被験物質溶液を10mL/kgにてゾンデを用いてモノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットへ強制経口投与した。被験物質投与は、1日1回21日間行った。
【0063】
給餌方法は原則として自由摂取とした。飼料はMF固形飼料(オリエンタル酵母工業社)を用い、飲水は水道水を用いた。
【0064】
試験期間中はVon Frey式痛覚測定装置による疼痛閾値測定を実施した。すなわち、実験動物個体の右足の足底部について、Von Frey式痛覚測定装置による疼痛閾値を測定した。MIA投与前及びMIA投与後から7、14、21日目に測定した。各個体の後足の足底踵部を、1回測定した。痛みに対する退避行動、足のflinchingを確認し、疼痛閾値を決定した。
【0065】
(5)統計処理
得られた測定値について、各群で平均値(mean)、標準偏差(S.D.)及び標準誤差(S.E.)を算出した。検定は、コントロール群又はコントロール群と各群間との2群間比較(対応のないt検定)により行った。有意水準は、危険率5%とした。
【0066】
(6)実験結果
各週の疼痛閾値の測定結果を図1に示す。疼痛閾値は値が小さいほど痛みを感じやすくなっていることを表わす。また、図中のバー及び記号は、それぞれ疼痛閾値の変動(g)及び有意水準(5%以下)を表わす。図1に示されているとおり、松樹皮抽出物(FVG)を用いた場合、1週目から有意に疼痛が抑制された。また、驚くべきことに、その程度は、疼痛抑制作用が知られているイブプロフェンよりも大きかった。これらの結果より、松樹皮抽出物が格別顕著な関節疼痛緩和作用を有することがわかった。また、このような関節疼痛緩和作用により、松樹皮抽出物が速効型の関節炎若しくは関節炎に伴う疼痛を緩和、改善又は抑制する作用を有し、さらに関節や軟骨を保護する作用を有することが示唆される。
【0067】
[例2.松樹皮抽出物による関節軟骨の組織学的変性度に対する作用]
松樹皮抽出物がモノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットに対し、格別顕著な関節軟骨の組織学的変性緩和作用を有することを以下のとおりに実証した。
【0068】
(1)実験方法
例1と同様にして、被験物質溶液をモノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットへ強制経口投与した。被験物質投与は、1日1回7日間行った。なお、被験物質としてイブプロフェンの代わりにジクロフェナク(和光社;白色の粉末)を用い、実験動物3群のそれぞれに、被験物質を下記表2に示した所定の濃度となるように、CMCに溶解又は懸濁して被験物質溶液を調製した。
【表2】
【0069】
投与開始から7日後に解剖を行い、ラットの後肢について膝関節組織部分を中心に採取し、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した。次いで、固定した膝関節組織を脱灰した後、パラフィンで包埋し、パラフィン固定切片を作製した。得られたパラフィン固定切片を、ヘマトキシリン・エオシン染色及びサフラニン−O−ファストグリーン染色で染色した。染色した切片について、関節軟骨の組織学的変性度を、Mankin法で評価し、スコア化して、Mankin Scoreを得た。なお、実験動物を用いて同様にして膝関節組織のパラフィン固定切片を作製し、これをノーマル群とした。
【0070】
(2)実験結果
関節軟骨の組織学的変性度を評価して得られたMankin Scoreを図2に示す。また、染色した切片を撮影した写真図を図3に示す。図2及び図3に示されているとおり、松樹皮抽出物(FVG)を用いた場合、関節軟骨の組織学的変性度は緩和された。また、驚くべきことに、その程度は、抗関節炎剤として知られているジクロフェナクよりも大きかった。これらの結果より、松樹皮抽出物が格別顕著な関節や軟骨の保護作用を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、関節疼痛緩和作用及び関節や軟骨の保護作用を有する松樹皮抽出物含有物が得られ、関節炎に罹った、又はその可能性のある者にとって有益な、関節の保護や維持を目的とする経口組成物、ロコモティブ症候群対策を目的とする経口組成物などとして使用することができる。また非経口組成物の場合には、医薬部外品、化粧品、医薬品として利用することができる。
図1
図2
図3