【課題】脂肪族ジオールを酸化してヒドロキシ脂肪酸を製造する反応に好適に用いられ、前記反応においてヒドロキシ脂肪酸の収率及び選択率が高く、再使用可能な金属粒子担持触媒の提供。
【解決手段】金並びにパラジウムをモル比でAu:Ptが90:10〜30:70で含む貴金属とアミンオキシド型両性界面活性剤とを含む金属粒子、及び、金属粒子を担持するハイドロタルサイトを含む担体を有する金属粒子担持触媒を用いる。前記金属粒子担持触媒は、酸化剤さらに塩基を含む触媒組成物として作用する。
請求項1〜3および6のいずれか1項に記載の金属粒子担持触媒、または、請求項4、5、および7のいずれか1項に記載の触媒組成物の存在下において、脂肪族ジオールの一方の水酸基を酸化してヒドロキシ脂肪酸を製造する工程を含む、ヒドロキシ脂肪酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の金属粒子担持触媒、触媒組成物、および、ヒドロキシ脂肪酸の製造方法について説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の特徴点の一つとしては、金属粒子の保護剤として両性界面活性剤を使用している点が挙げられる。
【0011】
<金属粒子担持触媒>
本発明の金属粒子担持触媒は、金およびパラジウムを含む貴金属と両性界面活性剤とを含む金属粒子、および、金属粒子を担持するハイドロタルサイトを含む担体を有する。
以下では、まず、金属粒子担持触媒に含まれる各成分について詳述し、その後、その製造方法について詳述する。
【0012】
(金およびパラジウム)
金属粒子には、金およびパラジウムが貴金属として含まれる。
金とパラジウムとのモル比(金:パラジウム)は特に制限されないが、ヒドロキシ脂肪酸の収率および/または選択率がより高い点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、99:1〜1:99の範囲であることが好ましく、90:10〜10:90の範囲であることがより好ましく、90:10〜20:80の範囲であることがさらに好ましく、90:10〜30:70の範囲であることが特に好ましく、60:40〜40:60の範囲であることが最も好ましい。
金とパラジウムとのモル比の測定方法としては、例えば、金属粒子担持触媒を酸で処理して金およびパラジウムを溶出させ、該溶出液中の金イオンおよびパラジウムイオンを高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析により定量することにより、決定することができる。
【0013】
(両性界面活性剤)
金属粒子には、両性界面活性剤が含まれる。両性界面活性剤は、金属粒子に含有される貴金属を保護する保護剤として作用する。つまり、両性界面活性剤は、金およびパラジウムを含む貴金属の表面を覆うように配置される場合が多い。
両性界面活性剤とは、分子構造内にカチオン基とアニオン基との両者を併せ持っている界面活性剤であって、分子構造内では電荷の分離があるが、分子全体としては電荷を持たない物質を意味する。
両性界面活性剤としては、アミンオキシド型両性界面活性剤、アルキルベタイン型両性界面活性剤、脂肪酸アミドプロピルベタイン型両性界面活性剤、イミダゾール型両性界面活性剤、アミノ酸型両性界面活性剤等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0014】
アミンオキシド型両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミン−N−オキシド、オレイルジメチルアミン−N−オキシド等が挙げられる。
アルキルベタイン型両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、オクタデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン等が挙げられる。
脂肪酸アミドプロピルベタイン型両性界面活性剤としては、例えば、ココアミドプロピルベタイン、ココアミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン等が挙げられる。
イミダゾール型両性界面活性剤としては、例えば、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−N’−カルボキシエチル−N’−ヒドロキシエチルエチレン等が挙げられる。
アミノ酸型両性界面活性剤としては、例えば、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸カリウム、ラウロイルメチル−β−アラニン等が挙げられる。
【0015】
なかでも、本発明の効果がより優れる点で、アミンオキシド型両性界面活性剤が好ましい。アミンオキシド型両性界面活性剤としては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
R
1は、炭素数8〜30のアルキル基またはアルケニル基を表す。
R
2およびR
3は、同一または異なって、炭素数1〜20のアルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。
【0018】
(ハイドロタルサイト)
金属粒子を担持する担体としては、ハイドロタルサイトが挙げられる。一般的には、ハイドロタルサイトの塩基性部分がアルコール性プロトンの脱プロトン化を促進することにより、貴金属による酸化反応の触媒活性を向上させる。
なお、本明細書において、「ハイドロタルサイト」は、一般式:
[(M
2+)
1-x(M
3+)
x(OH)
2]
x+[(A
n-)
x/n・mH
2O]
x-
〔式中、M
2+は2価金属、M
3+は3価金属、A
n-はn価(nは1以上の整数)のアニオンを表し、xは、0<x≦0.33の範囲であり、mは正の整数(好ましくは、0≦m≦2)である。〕
で表される塩基性の層状粘土化合物を意味する。
【0019】
ハイドロタルサイトとしては、上記一般式中、
M
2+が、Mg
2+、Mn
2+、Fe
2+、Co
2+、Ni
2+、Cu
2+またはZn
2+等であることが好ましく、
M
3+が、Al
3+、Fe
3+、Cr
3+、Co
3+またはIn
3+等であることが好ましく、
A
n-が、OH
-、F
-、Cl
-、Br
-、NO
3-、CO
32-、SO
42-、Fe(CN)
63-、CH
3COO
-、シュウ酸イオンまたはサリチル酸イオン等であることが好ましく、CO
32-またはOH
-であることがより好ましい。
【0020】
具体的には、上記一般式中、M
2+がMg
2+であり、M
3+がAl
3+であり、A
n-がCO
32-であって、Mg/Alが2〜5の範囲であるハイドロタルサイトが好ましく、Mg/Alが5であるハイドロタルサイトがより好ましい。例えば、Mg
0.75Al
0.25(OH)
2(CO
3)
0.125・0.5H
2O(式中、Mg/Al=3)で表される天然ハイドロタルサイト、またはMg
4.5Al
2(OH)
13CO
3・3.5H
2O、Mg
4.3Al
2(OH)
12.6CO
3(式中、Mg/Al=2.25)等で表される合成ハイドロタルサイト等を使用することができる。
【0021】
(金属粒子)
本発明の金属粒子担持触媒に含有される金属粒子の平均粒径は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜10nmが好ましく、1〜8nmがより好ましく、1〜5nmがさらに好ましい。
なお、金属粒子は、均質な粒径分布を有することにより、金とパラジウムとの間の接触面積の増加に伴って、生成されたアニオニックな金が触媒活性の向上に関連していてもよい。金の電子状態は、例えば、X線光電子分光分析(XPS)の結合エネルギーで表記すると、金の4f
7/2由来の結合エネルギーが81.5〜83.9eVの範囲であり、好ましくは82.9〜83.9eVの範囲である。この時、XPSの結合エネルギーは、C1s由来のピーク位置を284.6eVとして補正した時のものであり、バルク構造体の金では、金の4f
7/2が84.0eVを示す。
金属粒子の平均粒径の測定方法としては、例えば、金属粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、少なくとも200個以上の金属粒子を任意に選択して粒径(長径)を測定し、その平均を算出することにより、決定することができる。また、電子状態は、上記に記載のX線光電子分光分析(XPS)以外にも、例えば、金属粒子ないしは金属粒子担持触媒を、X線吸収スペクトル(XAFS)を用いたエックス線吸収端近傍構造(XANES)分析することで、評価することができる。
【0022】
金属粒子中の金およびパラジウムの結晶構造は、例えば、金およびパラジウムが不規則に配置された合金構造、または、パラジウムをコア層に、金をシェル層に有するコアシェル構造等であり得る。いずれの結晶構造も本発明の金属粒子に包含されるものとする。
【0023】
金属粒子担持触媒の形状および寸法は、特に限定されない。金属粒子担持触媒の形状としては、限定するものではないが、例えば、細粒状および粉末状等の形状を挙げることができ、いずれの形状の金属粒子担持触媒も使用することができる。粉末状の形状であることが特に好ましい。
本発明の金属粒子担持触媒において担体として含有されるハイドロタルサイトは、塩基性の固体触媒である。それ故、金属粒子担持触媒は、反応系から容易に分離および洗浄し、再利用することが可能となる。
【0024】
<金属粒子担持触媒の製造方法>
上記金属粒子担持触媒の製造方法は特に制限されないが、効率的に金属粒子担持触媒を製造できる点で、金属粒子を得る工程と、金属粒子とハイドロタルサイトとを接触させて、金属粒子担持触媒を得る工程とを有する態様が挙げられる。
以下、各工程の手順について詳述する。
【0025】
(金属粒子形成工程)
本工程では、金イオンとパラジウムイオンとを両性界面活性剤の存在下で還元して、金およびパラジウムを含む貴金属と両性界面活性剤とを含む金属粒子を製造する工程である。
両性界面活性剤は、上述の通りである。
本工程において使用される金のイオンの供給源としては、塩化金酸が好ましい。また、パラジウムのイオンの供給源としては、塩化パラジウムが好ましい。
【0026】
本工程において、金のイオンとパラジウムのイオンとを両性界面活性剤の存在下で還元する手段は、アルコール還元法による還元反応であることが好ましい。還元剤として用いるアルコールは、エタノール、プロパノール、エチレングリコールまたはグリセロールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。還元反応の具体的な条件は、使用される還元剤に基づき当業者が適宜設定することができる。例えば、上記の還元反応混合物を実質的に分散または溶解させる溶媒の存在下で加熱還流することが好ましい。この場合、溶媒は、水であることが好ましい。また、加熱還流の時間は、1〜5時間の範囲であることが好ましい。上記の還元反応混合物は、所望により無機塩等のさらなる成分を含有してもよい。上記の条件で金イオンおよびパラジウムイオンを還元することにより、金およびパラジウムを含む貴金属を両性界面活性剤に保護させることが可能となる。
【0027】
本工程において、金イオンとパラジウムイオンとを還元する順序は特に限定されない。例えば、金イオンおよびパラジウムイオンを同時に還元してもよく、金イオンおよびパラジウムイオンを別々に、すなわち金イオンおよびパラジウムイオンのいずれかを還元し、次いで他方のイオンを連続的に還元してもよい。通常、前者の場合は金およびパラジウムが不規則に配置された合金構造を、後者の場合は金とパラジウムとから成るコアシェル構造の貴金属粒子を形成し得る。いずれの場合も本工程に包含されるものとする。
【0028】
上記の条件で本工程を実施することにより、金およびパラジウムを含む貴金属を微細且つ均質な粒径で両性界面活性剤に保護させることが可能となる。
【0029】
(接触工程)
本工程は、上記金属粒子とハイドロタルサイトを含む担体とを接触させて、金属粒子を該担体に担持させて、金属粒子担持触媒を得る工程である。
本工程において使用されるハイドロタルサイトは、上述の通りである。
本明細書において、「接触させる」とは、例えば、ある成分に別の成分を加えることを意味するが、これに限定されない。例えば、金属粒子を含有する溶液中にハイドロタルサイトを含む担体を加えてもよく、ハイドロタルサイトを含む担体を含有する溶液中に金属粒子を加えてもよい。この場合、各成分を接触させる順序および速度は、使用される成分の化学的性質等に基づき適宜設定することができる。
【0030】
本工程は、金属粒子とハイドロタルサイトを含む担体とを実質的に分散させる溶媒存在下で実施することが好ましい。本工程で使用される溶媒は、水であることが好ましい。
本工程は、金属粒子とハイドロタルサイトを含む担体とを加温条件下で接触させて混合物を得ることにより、金属粒子を担体に担持させることが好ましい。または、金属粒子とハイドロタルサイトを含む担体とを混合後、加温してもよい。混合物を加温する温度は、70℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、還流温度であることが特に好ましい。また、混合物を加温する時間は、0.5〜3時間であることが好ましく、0.5〜2時間であることがより好ましく、1時間であることが特に好ましい。上記の処理により得られた金属粒子担持触媒は、吸引濾過等の慣用の手段によって分離することができる。
【0031】
<触媒組成物>
本発明の触媒組成物には、少なくとも上述した金属粒子担持触媒が含まれる。
触媒組成物中における金属粒子担持触媒の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5〜200mgが好ましく、10〜50mgがより好ましい。
【0032】
本発明の触媒組成物には、上述した金属粒子担持触媒以外の他の成分が含まれていてもよい。
例えば、本発明の触媒組成物には、酸化剤が含まれていてもよい。
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過酸化物、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩が挙げられる。
触媒組成物中における酸化剤の含有量は特に制限されないが、1〜100mmolが好ましく、3〜20mmolがより好ましい。
【0033】
本発明の触媒組成物には、塩基が含まれていてもよい。
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基類、ピリジン、ジエチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類などを用いることができる。
触媒組成物中における塩基の含有量は特に制限されないが、0.1〜5.0mmolが好ましく、0.2〜0.6mmolがより好ましい。
【0034】
本発明の触媒組成物には、必要に応じて、溶媒(例えば、水や有機溶媒)が含まれていてもよい。
【0035】
<<ヒドロキシ脂肪酸の製造方法>>
上述した金属粒子担持触媒または触媒組成物は、ヒドロキシ脂肪酸の製造方法に好適に適用できる。より具体的には、金属粒子担持触媒または触媒組成物は、脂肪族ジオールを酸化してヒドロキシ脂肪酸を製造するために好適に用いられる。この製造方法では、脂肪族ジオール中の1つの水酸基のみが酸化されてカルボン酸基となり、分子内に水酸基とカルボン酸基とを有するヒドロキシ脂肪酸が製造される。
以下では、まず、本製造方法で使用される成分について詳述する。
【0036】
金属粒子担持触媒および触媒組成物に関しては、上述の通りである。
脂肪族ジオールとは、2個の水酸基(OH基)を有する脂肪族化合物であれば特に制限はされないが、炭素数の下限値が2以上であり、上限値が通常10以下、好ましくは6以下の脂肪族ジオールが挙げられる。
なお、脂肪族ジオールに2個の水酸基が含まれ、一方の水酸基が末端に位置する場合、他方の水酸基の位置は特に制限されず、末端であっても側鎖であってもよい。
脂肪族ジオールの具体例としては、例えば、1,2−エチレンジオール、1,3−プロピレンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサメチレンジオール、1,10−デカンジオールが挙げられる。
これらは、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。
脂肪族ジオールの好適態様としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。
式(1) HO−(CH
2)
n−OH
nは、2〜10の整数を表し、4〜8の整数が好ましく、5〜7の整数がより好ましく、6が最も好ましい。
【0037】
本発明のヒドロキシ脂肪酸の製造方法は、上述した金属粒子担持触媒または触媒組成物の存在下において、脂肪族ジオールの一方の水酸基を酸化してヒドロキシ脂肪酸を製造する工程を含む。
脂肪族ジオールと金属粒子担持触媒との量関係は特に制限されず、使用される脂肪族ジオールの種類によって適宜最適な条件が選択されるが、本発明の効果がより優れる点で、脂肪族ジオールと金属粒子担持触媒との質量比(脂肪族ジオールの質量/金属粒子担持触媒の質量)が1.0〜10.0であることが好ましく、2.0〜6.0であることがより好ましい。
上記反応条件は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、反応温度としては、10〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。また、反応時間としては、0.5〜24時間の範囲が好ましく、1〜8時間がより好ましい。
上記反応雰囲気は特に制限されず、例えば、空気、酸素および窒素を挙げることができ、空気雰囲気下で実施することが好ましい。
【0038】
本工程は、脂肪族ジオールを実質的に分散または溶解させる溶媒存在下で実施することが好ましい。本工程において使用される溶媒は、脂肪族ジオールの酸化反応を阻害するものでなければ特に制限されず、当該技術分野で慣用される溶媒を使用することができる。当該溶媒は、限定するものではないが、例えば、水、トルエン、キシレンおよびトリメチルベンゼンを挙げることができ、水が好ましい。
【0039】
上記手順によって、ヒドロキシ脂肪酸が製造される。上述したように、分子内に水酸基とカルボン酸基とを有する化合物である。
製造されるヒドロキシ脂肪酸の構造は、使用される脂肪族ジオールの構造によって変わる。例えば、脂肪族ジオールとして上述した式(1)で表される化合物を用いた場合、以下の式(2)で表される化合物が製造される。
式(2) HO−(CH
2)
n-1−COOH
式(2)中のnの定義は、上述した式(1)中のnの定義と同義であり、好適範囲も同じである。
【0040】
本発明の製造方法は、ヒドロキシ脂肪酸の製造を実施した後に、金属粒子担持触媒を反応系から分離する分離工程を含んでもよい。
金属粒子担持触媒は、実質的に溶媒に不溶性の不均一系触媒である。それ故、容易に反応系から分離することができる。金属粒子担持触媒を反応系から分離する手段は特に制限されず、デカンテーション、遠心分離また濾過のような、当該技術分野で慣用される通常の分離手段を使用すればよい。
反応系から分離された使用済みの金属粒子担持触媒は、アセトン等の水混和性有機溶媒および炭酸ナトリウム水溶液等の塩基性水溶液から選択される1種類以上の溶媒と接触させることにより夾雑物を除去および洗浄した後、本発明の製造方法に再使用することが好ましい。
よって、本発明の製造方法は、分離工程で得られた使用済の金属粒子担持触媒を、さらなるヒドロキシ脂肪酸の製造に再使用する、再使用工程を含んでもよい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実施例A>
(実施例A1〜A3)
所定量の塩化金酸(x:0.04mmol)および塩化パラジウム(y:0.06mmol)と、1gの塩化カリウムと、N,N−ジメチルデシルアミンN−オキシド(DDAO)(Sigma Aldrich社製)とを25mlの純水に溶解した。この水溶液に、25mlのエチレングリコールを添加して混合した。得られた混合物を2時間加熱還流して金およびパラジウムのイオンを還元し、Au
xPd
y−DDAO保護金属粒子を含有する分散液を得た。なお、上記Au
xPd
yは、AuとPdとのモル比(x:y)を表す。
なお、上記DDAOの量は、0.1〜0.3mmolと変更してAu
xPd
y−DDAO保護金属粒子を製造した。
【0043】
100mlのAu
xPd
y−DDAO保護金属粒子を含有する分散液に、0.5gのハイドロタルサイト(Mg/Al=5)を添加して混合した。得られた混合物を1時間加熱還流して、Au
xPd
y−DDAO保護金属粒子を担持するハイドロタルサイト(金属粒子担持触媒)を含有する反応組成物を得た。その後、反応混合物を吸引濾過して金属粒子担持触媒を濾液から分離し、純水で洗浄した。得られた濾過物を一晩減圧乾燥させて、金属粒子担持触媒を得た。
【0044】
(比較例C1)
DDAOの代わりに、ポリビニルピロリドン(PVP;分子量58,000、ACROS社製)を0.1mmol使用した以外は、上記(実施例A1〜A3)と同様の手順に従って、触媒組成物を得た。
【0045】
上記実施例A1〜A3、および、比較例C1にて得られた金属粒子担持触媒を、透過型電子顕微鏡(TEM;Hitachi H−7650(100kV))で観察し、それぞれの金属粒子担持触媒に含有されるAu
xPd
y−DDAO保護金属粒子またはAu
xPd
y−PVP保護金属粒子を少なくとも200個以上任意に選択して粒径を測定し、平均粒径を算出した。実施例A1〜A3および比較例C1の金属粒子担持触媒の組成式、および、金属粒子担持触媒に含有される金属粒子の平均粒径を表1に示す。
また、実施例A1〜A3の各金属粒子担持触媒のTEM画像、および、金属粒子担持触媒に含有される金属粒子の粒径分布を
図1に、それぞれ示す。
【0046】
なお、後述する実施例Bで示すように、上記実施例A2で得られた金属粒子担持触媒を用いてUV−Vis吸収スペクトル測定を実施したところ、Au粒子に由来するプラズモン吸収ピークは確認されなかった。
また、後述する実施例Bで示すように、上記実施例A2で得られた金属粒子担持触媒を用いてX線光電子分光分析(XPS; SHIMADZU・Kratos, AXIS-ULTRA DLD)で観察したところ、観察されたピークが、金のバルク構造体のAu 4f
5/2(87.7eV)および4f
7/2(84eV)由来の結合エネルギーよりもいずれも低エネルギー側にシフトしていた。
これらの結果より、得られた金属粒子には金およびパラジウムが含まれていることが確認された。
なお、実施例A1およびA3で得られた金属粒子担持触媒でも同様の測定結果が確認された。
【0047】
(酸化反応)
反応容器に、1,6−ヘキサンジオール(0.5mmol)、各実施例および比較例の金属粒子担持触媒(25mg)、30%過酸化水素水(0.75mL、6mmol)、0.5M NaOH水溶液(0.75mL)、および、水(3.5mL)を加えて、撹拌しながら、大気下にて、80℃で8時間反応させた。得られた反応混合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析して得られた生成物を定量した。なお、生成物は単離して、
1H NMRにより構造を確認した。結果を表1に示す。
【0048】
なお、表中、変換率は、使用した1,6−ヘキサンジオールの総モル数から反応後の反応混合物に含まれる1,6−ヘキサンジオールのモル数を減じた値を、反応により変換された1,6−ヘキサンジオールのモル数と仮定して、使用した1,6−ヘキサンジオールの総モル数に対する反応により変換された1,6−ヘキサンジオールのモル数の百分率を示した値である。
また、表中、収率%は、使用した1,6−ヘキサンジオールの総モル数に対する反応後の反応混合物に含まれる6−ヒドロキシカプロン酸(HCA)およびアジピン酸(AA)のモル数の百分率を示した値である。
さらに、表中、選択率%は、使用した1,6−ヘキサンジオールの総モル数に対する、6−ヒドロキシカプロン酸(HCA)およびアジピン酸(AA)のモル数の百分率を示した値である。
【0049】
また、金属粒子担持触媒は、酸で処理して金およびパラジウムを溶出させ、溶出液中の金およびパラジウムイオンを高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析(装置 :Shimadzu ICPS-7000 Ver.2、測定波長:Au(242.795nm)、Pd(340.458nm))により定量した。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1に示すように、本発明の金属粒子担持触媒(または触媒組成物)を用いた場合、優れた収率および選択率を示すことが確認された。上記のように、DDAOの量を変更した場合も所望の効果が得られた。
一方、特許文献1に記載の触媒組成物を用いた場合は、本発明の金属粒子担持触媒(または触媒組成物)を用いた場合と比較して、収率および選択率が劣っていた。
【0052】
なお、上記実施例A1〜A3においてはハイドロタルサイト(Mg/Al=5)を用いたが、ハイドロタルサイト(Mg/Al=3)を用いた場合も同様に、優れた収率および選択率を示すことが確認された。
【0053】
<実施例B>
(実施例B4〜B5)
塩化金酸(x mmol)および塩化パラジウム(y mmol)の使用量(ここで、x+y=0.1mmol)を調製して、N,N−ジメチルデシルアミンN−オキシド(DDAO)の使用量を0.2mmolとして、後述する表2に記載の組成の金属粒子担持触媒を製造した以外は、上記(実施例A1〜A3)と同様の手順に従って、(酸化反応)を実施した。結果を表2に示す。
【0054】
なお、実施例B4〜B5の各金属粒子担持触媒のTEM画像、および、金属粒子担持触媒に含有される金属粒子の粒径分布を
図2に、それぞれ示す。
なお、
図3に示すように、上記実施例A2および実施例B4〜B5で得られた金属粒子担持触媒を用いてUV−Vis吸収スペクトル測定を実施したところ、塩化金酸のみを用いて別途作製したAu粒子(Au
100−DDAO(0.2mmol)/HT)に由来するプラズモン吸収ピークは確認されなかった。
また、
図4に示すように、上記実施例A2および実施例B4〜B5で得られた金属粒子担持触媒を用いてX線光電子分光分析(XPS; SHIMADZU・Kratos, AXIS-ULTRA DLD)で観察したところ、観察されたピークが、金のバルク構造体のAu 4f
5/2(87.7eV)および4f
7/2(84eV)由来の結合エネルギーよりもいずれも低エネルギー側にシフトしていた。
これらの結果より、得られた金属粒子には金およびパラジウムが含まれていることが確認された。
【0055】
【表2】
【0056】
上記表2に示すように、金およびパラジウムの組成を変更した場合も、優れた収率および選択率を示すことが確認された。
【0057】
<実施例C>
(実施例C6〜C11)
過酸化水素水およびNaOH水溶液の使用量を表3のように調整して(酸化反応)を実施した以外は、上記(実施例A2)と同様の手順に従って、(酸化反応)を実施した。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
上記表3に示すように、過酸化水素水およびNaOH水溶液の量を変更した場合も、優れた収率および選択率を示すことが確認された。
【0060】
<実施例D>
(実施例D12〜D14)
実施例A2において使用した各成分量を表4に示すように変更した以外は、上記(実施例A2)と同様の手順に従って、(酸化反応)を実施した。結果を表4に示す。
ただし、実施例D14に関しては、(酸化反応)の時間を8時間から12時間に変更した。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、各成分量を多くした場合(ラージスケール)においても、優れた収率および選択率を示すことが確認された。
【0063】
<実施例E>
実施例A2で(酸化反応)に使用された金属粒子担持触媒を用いて、再度(酸化反応)を同様の手順で繰り返し使用した結果を以下の表5に示す。なお、使用回数とは、金属粒子担持触媒を上記(酸化反応)に使用した回数を表し、例えば、「使用回数:2」とは(酸化反応)に1回使用した金属粒子担持触媒を再度(酸化反応)に使用した場合を意図する。
【0064】
【表5】
【0065】
上記表5に示すように、本発明の金属粒子担持触媒は繰り返して使用しても、優れた収率および選択率を示すことが確認された。
【0066】
<実施例F>
上記(実施例A2)で使用したAu
40Pd
60‐DDAO/HT触媒を用い、上記(実施例A2)と同様の手順に従って、分子内に隣接した1級水酸基と2級水酸基を併せ持つ1,2−ヘキサンジオールの(酸化反応)を実施した。その結果、1級水酸基のみが選択的に酸化された2−ヒドロキシヘキサン酸が収率84%、選択率99%で合成できた。
また、1,6−ヘキサンジオールと比較して、2つの1級水酸基の炭素数を2つ増やした1,8−オクタンジオールを用いて、上記(実施例A2)と同様の手順に従って、(酸化反応)を実施した。その結果、1つの水酸基がカルボキシル基に変換された8−ヒドロキシオクタン酸が収率82%、選択率92%で合成できた。