【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。まず、実施例に使用した各種測定法の詳細を下記する。
<平均粒子径>
動的光散乱法を利用して、樹脂粒子のZ平均粒子径を測定し、測定されたZ平均粒子径を得られた粒子の平均粒子径とする。
すなわち、まず、以下の実施例及び比較例で得られたスラリー状の樹脂粒子をイオン交換水で希釈し、0.1重量%に調整した水分散体にレーザー光を照射し、粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。そして、検出された樹脂粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめて、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により樹脂粒子のZ平均粒子径を求める。
このZ平均粒子径の測定は、市販の粒子径測定装置で簡便に実施できる。以下の実施例及び比較例では、粒子径測定装置(マルバーン社製ゼータサイザーナノZS)を使用してZ平均粒子径を測定する。通常、市販の粒子径測定装置は、データ解析ソフトが搭載されており、データ解析ソフトが測定データを自動的に解析することでZ平均粒子径を算出できるようになっている。
【0027】
<平均一次粒子径に対するシェル厚み>
中空樹脂粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM:日立ハイテクノロジーズ社製H−7600)を用いて、加速電圧80kVの条件下、倍率1.5万倍でTEM写真を撮影する。この写真に撮影された任意の100個以上の粒子の一次粒子径及び内径を観察する。この時、粒子の中心を通るように5箇所以上の一次粒子径及び内径を測定、平均することで、平均一次粒子径、平均内径とする。更に、(平均一次粒子径−平均内径)/2の式より、シェルの厚さを求める。また、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比は、シェルの厚さ/平均一次粒子径により求める。
【0028】
<粒子の中空部と形状、潰れの有無>
粒子を乾燥粉体とし、エポキシ樹脂に包埋した後、四酸化ルテニウムにて染色を行う。粒子の超簿切片を作製し、サンプル片とする。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察し、得られた粒子の中空部の有無、形状及び潰れの有無を確認する。
【0029】
<微細貫通孔の直径>
中空樹脂粒子、平均粒子径10nmのSiO
2粒子含有分散液(日産化学工業社製IPA−ST)、UV硬化性モノマー、希釈溶媒としてのメチルアルコール、粒子分散剤及び重合開始剤と混合して混合溶液を得る。得られた混合溶液をガラス基板に塗布し、室温・常圧下で乾燥させ、UV重合機で硬化させることで、フィルム片を作製する。
また、平均粒子径50nmのSiO
2粒子含有分散液(日産化学工業社製IPA−ST−L)を使用すること以外は、上記と同様にしてフィルム片を作製する。
得られたフィルム片をエポキシ樹脂に包埋した後、四酸化ルテニウムにて染色を行う。粒子の超簿切片を作製し、サンプル片とする。TEMを用いてサンプル片の観察を行い、内部へのSiO
2粒子の侵入度合いから微細貫通孔の大きさを観察する。
中空樹脂粒子100個中において、内部にSiO
2粒子が侵入している粒子が20個以下の場合、×として対応するSiO
2粒子の平均粒子径の微細貫通孔は空いていないと判断する。また、内部にSiO
2粒子が侵入している粒子が80個以上の場合、○として対応するSiO
2粒子の平均粒子径以上の微細貫通孔が空いていると判断する。
【0030】
<熱分解開始温度>
中空樹脂粒子の加熱減量は示差熱熱重量同時測定装置 TG/DTA6200型(エスアイアイナノテクノロジー社製)を用いて測定する。サンプリング方法・温度条件に関しては以下のように行った。サンプルは白金製測定容器の底にすきまのないよう試料を約15mg充てんして、窒素ガス流量230mL/minのもとアルミナを基準物質として測定する。温度条件としては、速度10℃/minで30℃から800℃まで昇温した時のTG/DTA曲線を得る。この得られた曲線から装置付属の解析ソフトを用いて、熱分解開始温度を求める。ここでの熱分解開始温度とは、JIS K7120:1987「プラスチックの熱重量測定方法」(8「TG曲線の読み方」)に記載されている質量減少開始温度のことで、該規格より求めた値である。
【0031】
実施例1
50mlサンプル瓶に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学社製A−DPH)2.0g、トルエン1.7g、ドデカン0.3gを入れて混合した。得られた混合物を、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02g及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.06gが含まれたイオン交換水30gと混合し、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製、型式SONIFIER450)にて1時間、水浴下で強制乳化して混合溶液を得た。得られた混合溶液を攪拌しながら70℃で12時間加熱することで重合させてスラリー状の樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子を、ろ過、洗浄及び乾燥することで単離した。
得られた粒子は、平均粒子径が0.35μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.12(平均一次粒子径0.38μm、シェル厚み0.045μm)であった。
得られた粒子の熱分解開始温度は436℃であった。
【0032】
乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、
図1(a)及び(b)に示すように、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
図1(a)は乾燥粉体のTEM像であり、粒子内部が中空を有していることが示されている。
図1(b)は乾燥粉体をエポキシ樹脂に包埋した後、四酸化ルテニウムにて染色し、これの超簿切片を観察したものである。貫通孔からエポキシ樹脂が内部に侵入するため、粒子内部はエポキシ樹脂で満たされている。なお、
図1(b)の粒子のシェルの輪郭がはっきりしていないのは、シェルの微細貫通孔を通過して中空にエポキシ樹脂が存在しているためであると推測される。
また、
図2(a)に示すような内部に平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が92個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が3個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
なお、
図2(b)は、平均粒子径50nmのSiO
2粒子が侵入していない粒子のTEM像である。
【0033】
実施例2
50mlサンプル瓶に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート1.5g、メチルメタクリレート0.5g、トルエン3.4g、ドデカン0.6gを入れて混合したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.23μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.06(平均一次粒子径0.27μm、シェル厚み0.016μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は414℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が86個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が5個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0034】
実施例3
50mlサンプル瓶に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート1.2g、メチルメタクリレート0.8g、トルエン1.7g、ドデカン0.3gを入れて混合したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.40μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.17(平均一次粒子径0.33μm、シェル厚み0.056μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は406℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が84個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が10個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0035】
実施例4
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートに代えてトリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製A−TMPT)を使用したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.38μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.14(平均一次粒子径0.42μm、シェル厚み0.059μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は439℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が95個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が3個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0036】
実施例5
過硫酸カリウムに代えて過硫酸アンモニウムを使用したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.31μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.17(平均一次粒子径0.32μm、シェル厚み0.054μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は427℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が92個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が5個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0037】
実施例6
50mlサンプル瓶に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート1.0g、イソボルニルメタクリレート1.0g、トルエン1.7g、ドデカン0.3gを入れて混合したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.45μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.15(平均一次粒子径0.41μm、シェル厚み0.062μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は405℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が96個存在していることから、10nm以上の微細貫通孔を有する粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が7個とほとんど存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0038】
比較例1
50mlサンプル瓶に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート0.2g、メチルメタクリレート1.8g、トルエン1.7g、ドデカン0.3gを入れて混合したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.40μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.15(平均一次粒子径0.38μm、シェル厚み0.057μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は342℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、
図3(a)及び(b)に示すように、粒子は潰れのない真球状であり、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
図3(a)は乾燥粉体のTEM像であり、粒子内部が中空を有していることが示されている。
図3(b)は乾燥粉体をエポキシ樹脂に包埋した後、四酸化ルテニウムにて染色し、これの超簿切片を観察したものである。実施例1で得られた中空樹脂粒子により作製した超簿切片のTEM観察像
図1(b)と比較し、
図3(b)では中空部が白く見える像が観察された。これは微細貫通孔が存在せず、エポキシ樹脂が内部に侵入しないため、中空部が空気となっているためであると推測される。
また、内部に平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が5個とほとんど存在していないことから、10nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が0個と存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
なお、
図4(a)は平均粒子径10nmのSiO
2粒子が侵入していない粒子のTEM像であり、
図4(b)は平均粒子径50nmのSiO
2粒子が侵入していない粒子のTEM像である。
【0039】
比較例2
メチルメタクリレートに代えてブチルメタクリレートを使用したこと以外は比較例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均粒子径が0.43μm、平均一次粒子径に対するシェル厚みの比が0.22(平均一次粒子径0.41μm、シェル厚み0.090μm)であった。得られた粒子の熱分解開始温度は313℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は潰れており、1つの中空を有するコア・シェル型の粒子となっていた。
また、内部に平均粒子径10nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が3個とほとんど存在していないことから、10nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。更に、平均粒子径50nmのSiO
2粒子の侵入した粒子が0個と存在していないことから、50nmより大きな微細貫通孔が存在しない粒子であった。
【0040】
比較例3
50mlサンプル瓶に、メチルメタクリレート2.0g、トルエン1.7g、ドデカン0.3gを入れて混合したこと以外は実施例1と同様にして樹脂粒子を得た。
得られた粒子は、平均一次粒子径が0.54μmであった。得られた粒子の熱分解開始温度は335℃であった。乾燥粉体及び超簿切片をTEM観察したところ、粒子は中実の真球状であった。
以下の表1に、中空樹脂粒子の製造に使用した原料及び物性をまとめて示す。
【0041】
【表1】
【0042】
<徐放性評価>
実施例1と比較例1で得られた中空樹脂粒子の粉体を用いて徐放性の評価を次のようにして行った。まず、中空樹脂粒子の粉体約100mgにイオン交換水約10000mgを加えて、超音波照射(45kHz)を5分間行った。その後、24時間静置することで中空樹脂粒子内にイオン交換水を内包させた。この中空樹脂粒子を含む水溶液を高速遠心分離機(日立工機社製高速冷却遠心機HIMAC CR22GII)を用いて回転速度18,000rpmで30分間遠心分離し、中空樹脂粒子を沈降させた。沈降後、上澄みを除去したものを、イオン交換水を内包した中空樹脂粒子とした。この中空樹脂粒子を温度20±3℃、湿度40±10%で静置し、静置時間に対する重量減少を測定することでイオン交換水が中空樹脂粒子から徐放される様子を観測した。イオン交換水の内包量は静置開始直後の中空樹脂重量から、添加した中空樹脂粒子の粉体重量を引いた値とした。静置開始から一定時間経過後の内包量を、静置開始直後の内包量で割った値を、時間に対するイオン交換水の内包率として求めて、徐放性の評価として用いた。
24時間の測定を行った結果、実施例1で得られた中空樹脂粒子のイオン交換水内包率は22.2%、比較例1で得られた中空樹脂粒子のイオン交換水内包率は33.0%であった。これは実施例1で得られた中空樹脂粒子のシェルには10〜50nmの範囲内の微細貫通孔があるため、微細貫通孔が存在しない比較例1で得られた中空樹脂粒子に比べて速く内包物の徐放ができたことを示唆しており、シェルに微細貫通孔を持つことで徐放性の向上ができたと推測できる。
【0043】
上記表及び図から、実施例の中空樹脂粒子は、10〜50nmの微細貫通孔をシェルに有しており、そのため優れた徐放性を有していることが分かる。