【解決手段】鉄筋コンクリートを、予め定められた所定時間、電磁誘導加熱によって加熱される加熱し、コンクリートの表面の温度を計測し、時間と共に変化する前記コンクリートの表面の温度情報を取得し、コンクリートの表面の最高温度への到達時間の違いから、コンクリート内の空洞厚を算定し、空洞厚に応じて低下する温度上昇量の影響が除去された温度上昇量の補正値を算定し、鉄筋が腐食していない状態におけるコンクリート表面の最高温度と、補正上昇量算定ステップで得られた温度上昇量の補正値の最高温度とを用い、鉄筋の腐食率を算定し、得られた算定値から鉄筋腐食性状評価を実施する。
空洞厚算定ステップで空洞厚算定式が用いられ、この空洞厚算定式が、かぶり厚(φ)と、空洞が存在する場合の全体の熱貫流率(A)と、コンクリートの熱抵抗値(B)と空気の熱抵抗値(C)と、を変数として空洞厚(c)を求める式であり、
上記熱貫流率(A)が、鉄筋コンクリート構造物物質の境界ごとの熱の伝わりづらさを表すものであって、物質の熱伝導率を物質で割った値であり、
補正上昇量算定ステップで補正式が用いられ、この補正式が、空洞厚(c)と、かぶり厚(φ)と、温度上昇量の実測値(ΔT)と、コンクリートのかぶり熱抵抗値(K)と、コンクリートの熱抵抗値(B)と、空気の熱抵抗値(C)と、を変数として空洞の影響が除去された温度上昇量の補正値(ΔT’)を求める式であり、
腐食率算定ステップで腐食率算定式が用いられ、この腐食率算定式が、
空洞がない健全時のコンクリート表面の単位時間当たりの補正温度上昇量(α)と、
温度上昇量の補正値(ΔT’)から得られる、温度が計測されたコンクリートの表面の単位時間当たりの実測温度上昇量(α’)と、
健全時と実測時のコンクリートの表面温度差(Δθsurf)と、
コンクリートの熱容量(I)と、
熱伝達係数(J)と、
コンクリートに蓄えられる単位時間における単位面積あたりの熱量(L)と、
コンクリートおよび腐食生成物における熱容量に関する項(M)と
を変数として腐食率(%)を求める式である
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリートの鉄筋腐食性状評価方法。
【背景技術】
【0002】
橋梁やビルディング等のコンクリート構造物には、その内部に強度を保管する鉄筋や鉄骨が埋め込まれている。
このような構造を鉄筋コンクリート構造(RC構造)、鉄筋鉄骨コンクリート構造(SRC構造)という。
本明細書においては、これらRC構造およびSRC構造による構造物を「コンクリート構造物」と総称する。
【0003】
コンクリート構造物は、経年劣化のほか、早期劣化することがある。
早期劣化の大きな原因の一つとして、鉄筋および鉄骨(以下、単に鉄筋という。)の腐食が挙げられる。
鉄筋の腐食は、コンクリート構造物の損傷を与え、放置すれば、コンクリート構造物に致命的なダメージを与えることになりかねない。
そこで、鉄筋の腐食に起因するコンクリート構造物の損傷を未然に防ぐため、早期に鉄筋の腐食を診断する技術が提案されている。
【0004】
このような技術としては、コンクリート構造物のコンクリート表面を、赤外線カメラで撮影し、コンクリート表面の温度分布を示す熱画像を解析し、鉄筋の腐食性状を診断する技術がある。
このような熱画像の解析を用いた鉄筋の腐食性状診断では、コンクリート表面と鉄筋との間の空洞の有無や、空洞厚の把握ができなければ、鉄筋の腐食性状を正確に診断することができない。
【0005】
この点について、例えば、特開2014−206487号では、まず、ハロゲン加熱のようなヒータ等を用いて、コンクリート表面を加熱し、その加熱によるコンクリート表面の温度変化を示す第一の熱画像から、コンクリート内の空洞の有無を診断し、その後、改めて電磁誘導による鉄筋の強制加熱の実施によって、鉄筋の蓄熱に起因するコンクリートの温度変化を示す第二の熱画像から、空洞の有無、空洞割合に応じ、必要に応じて、第二の熱画像から得られる温度上昇量の実測値を補正した上で、腐食率推定式を用いて測定箇所ごとの鉄筋腐食率を算定して鉄筋腐食性状を評価する。
【0006】
しかしながら、上記の先行技術にかかる鉄筋腐食性状の評価方法では、鉄筋腐食率の算定のための加熱から診断に至るステップの前に、空洞の有無を診断するためだけに、別途ヒータを準備し、コンクリートを表面から加熱し、熱画像を取得して解析し、空洞の有無を診断する必要があって、大きく、空洞の有無の診断、および、腐食率の算定という独立した2系統の診断ステップが必要である。
【0007】
このため、上記の先行技術では、診断に用いられる装置が大掛かりになり、さらに、診断のための工程数が多くなって最終的に鉄筋腐食性状を評価するまでに余計な時間がかかり、その上、情報の処理や作業員の作業内容も複雑になる、という問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、
図1に基づき、本発明の概要について説明する。
図1は、本発明にかかる鉄筋コンクリートの鉄筋腐食性状評価方法の流れを示すフロー図である。
本発明は、鉄筋コンクリートの内部の鉄筋の腐食率を、鉄筋コンクリートのコンクリートの表面温度を計測し、その温度変化の変遷からコンクリート内の空洞厚を算定し、空洞厚の影響を補正して鉄筋の腐食率を算定するものである。
【0015】
本発明では、空洞を伴う可能性のある鉄筋の腐食率を、空洞とその直上のコンクリートからなるかぶりコンクリート領域のコンクリート表面の温度変化を用いて推測する。
「鉄筋の腐食率」とは、「鉄筋の質量減少率」または「鉄筋径の減少率」ともいう。
【0016】
一般に、鉄筋表面からコンクリート表面までの距離を「かぶり厚」というが、本明細書では、かぶり厚の間に位置する空洞とコンクリートからなる一連の領域、すなわち、鉄筋表面に沿って発生した空洞とその直上のコンクリートからなる一連の領域も、併せて、「かぶりコンクリート領域」と称する。
【0017】
本発明では、まず、鉄筋コンクリートのコンクリート面上に温度履歴測定位置を設定し、その表面温度の測定を準備する。
この温度履歴測定位置は、コンクリート面が水平上面だとすれば、鉄筋に沿った鉛直面上、または、その鉛直面の近傍に設定されることが望ましい。
【0018】
次に、鉄筋コンクリートの外側から、例えば、電磁誘導コイルを備えた加熱ヒータを用い、電磁誘導加熱を実行し、内部の鉄筋の加熱を開始する(加熱ステップS1)。
次に、加熱の開始と同時に、温度履歴測定位置の温度の計測を開始する(温度計測ステップS2)。
【0019】
次に、計測されたコンクリートの表面の温度情報に基づき、後述する式に基づき、かぶりコンクリート領域内の空洞厚を算定する(空洞厚算定ステップS3)。
なお、ここでいう空洞厚は、例えば、コンクリートと鉄筋の境界に空洞が形成されている場合、温度履歴測定位置と、鉄筋の中心とを結んだ最短距離のうち、コンクリート内面と、鉄筋表面との距離を示すものである。
【0020】
次に、空洞厚算定ステップS3において、空洞厚が認められた場合、コンクリートの表面の温度の実測値に、得られた空洞厚に基づき、後述する式によって補正が実行される(補正上昇量算定ステップS4)。
【0021】
この補正により、温度上昇量の実測値から、空洞厚に応じて低下する温度上昇量の影響が、温度上昇量の補正値が算定される。
次に、温度上昇量の実測値と、補正上昇量算定ステップで得られた補正値とを用い、後述する式によって鉄筋の腐食率が算定される(腐食率算定ステップS5)。
【0022】
本発明の概要は、上記の通りであって、本発明では、鉄筋コンクリート内部の鉄筋が、電磁誘導加熱によって加熱されると共に、その熱が鉄筋に蓄熱される。
鉄筋の熱が、コンクリートに拡散されることにより、コンクリートの温度が、鉄筋の周囲から徐々に上昇し、その熱拡散が進行することにより、鉄筋コンクリートの温度履歴測定位置におけるコンクリートの表面温度が上昇する。
【0023】
このとき、鉄筋と、温度履歴測定位置との間のコンクリートに空洞がある場合、その空洞が断熱層として作用し、コンクリートの表面の温度上昇量に影響する。
具体的には、予め定められた時間、電磁誘導加熱を実施した場合、空洞がある場合、空洞がない健全時のコンクリートの場合より、一定時間の電磁誘導加熱の実施に伴い、コンクリートの表面の温度が最高温度に到達するまでの時間が長くなる。
【0024】
このため、予め、健全時と、空洞厚との最高温度に到達するまでの時間の相関関係を解析しておくことにより、健全時と空洞厚がある場合との最高温度に到達するまでの時間の差に基づき、コンクリートの表面温度の最高温度への到達する時間から空洞厚を算定し、存在するであろう空洞厚を推定することが可能になる。
そして、最高温度への到達時間の差から算定された空洞厚に基づき、空洞の影響が除去された温度上昇量の補正値を算定できるようになる。
【0025】
次に、コンクリート表面の温度の健全値の最高温度と、温度上昇量の補正値の最高温度とを比較する。
鉄筋コンクリート内の鉄筋が腐食している場合、鉄筋の表面には腐食層が形成されている。
この腐食層は、空洞の空気ほどの断熱性はないものの、断熱層として機能するため、鉄筋の腐食率(腐食層の厚さ)に応じ、最高温度の実測値が低下する。
【0026】
このため、コンクリート表面の温度の健全値の最高温度と、温度上昇量の補正値の最高温度の差の相関から、鉄筋の腐食率を算定することができる。
このため、本発明では、電磁誘導加熱により、鉄筋コンクリート(内の鉄筋)を、加熱し、その後のコンクリート表面の温度を計測すれば、その温度の変遷から、鉄筋の腐食率を算定することができるようになる。
【0027】
このため、本発明では、内部に形成された空洞の状況を把握するために、鉄筋の腐食率を算定する以外の独立した加熱や測定を実施する必要がなく、1回の加熱と、その加熱に続くコンクリート表面の温度の計測によって鉄筋の腐食率を算定でき、簡単に鉄筋コンクリート内部の鉄筋の腐食性状を評価できるようになる。
【0028】
次に、本発明における空洞厚および鉄筋腐食と、温度上昇量との関係について説明する。
図2は本発明にかかる鉄筋コンクリートの鉄筋腐食性評価方法で試験される試験体の構成を示す正面図、
図3は
図2のA−A断面図である。
図中、1は鉄筋コンクリート、10はコンクリート、11はコンクリート10内の鉄筋、12はコンクリート10内に設けられる発泡ポリエチレン層、1aは温度履歴測定位置である。
【0029】
鉄筋コンクリート1は、中央を横断する鉄筋11を有する直方体状のブロックである。
鉄筋11には、その外周面に沿って、必要に応じ、所要の腐食率(厚さ)になるよう人工的に形成された図示しない腐食生成物が設けられる。
発泡ポリエチレン層12は、事前に所要の厚さに成形された発泡ポリエチレン製の板材である。
【0030】
発泡ポリエチレン層12は、鉄筋コンクリート1の製造時に、鉄筋11に接し、かつ、直方体状のブロックの上面と平行になるよう、型枠の中に載置される。
この発泡ポリエチレン層12は、本発明における擬似的な空洞に相当する。
温度履歴測定位置1aは、直方体状のブロックの上面であって、鉄筋11の上方、具体的には、
図2、
図3に示される鉄筋コンクリート1の上面の中央に設定される。
【0031】
この温度履歴測定位置1aの温度は、熱画像データの解析を用いる赤外線カメラなどの非接触式の温度計測装置や、温度履歴測定位置1aに接触センサーを設けるタイプのものなど、従来公知の計測装置が用いられる。
【0032】
試験体となる鉄筋コンクリート1の寸法は、横200mm、高さ150mm、奥行き600mmであり、鉄筋11はD16異形鉄筋である。
この鉄筋11は、鉄筋コンクリート1の奥行き方向に沿って配置される。
【0033】
また、各試験は、以下の条件のうちの所要の組み合わせとする。
・かぶり厚さ:30mm、50mm
・腐食率:0%、1%
・空洞厚(発泡ポリエチレン層12の厚さ):なし、1mm、5mm
・電磁誘導加熱に用いられる図示しないヒータの消費電力:1.8KW
・加熱時間:かぶり厚さ30mmのとき90秒、50mmのとき420秒
【0034】
なお、鉄筋コンクリート1を構成する各要素の物性は、以下の表のとおりである。
【0036】
上記の表から、発泡ポリエチレンは、単位時間当たりに伝導しうる熱量が小さく、空洞と同等であることがわかる。
したがって、発泡ポリエチレン層は、仮想の空洞として適切である。
【実施例1】
【0037】
〔鉄筋コンクリート内の空洞による影響〕
鉄筋コンクリート内の空洞が、コンクリート表面の温度上昇に及ぼす影響について検証する。
図4は実施例1の試験の30mmの群の温度の変遷を示すグラフ、
図5は実施例1の試験の50mmの群の温度の変遷を示すグラフ、
図6は実施例1の試験における空洞厚と温度の関係を示すグラフ、
図7は
図6に示される温度上昇量の違いの原理を説明する説明図、
図8は
図6に示される最高温度到達時間の違いの原理を説明する説明図、
図9は実施例1における温度上昇率の違いの関係を示すグラフである。
【0038】
〔かぶり厚さ30mmの群〕
・試験体1:K30−N−T0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:90秒
【0039】
・試験体2:K30−N−T1.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:90秒
【0040】
・試験体3:K30−N−T5.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:皮膚食鉄筋
空洞厚:5mm
加熱時間:90秒
【0041】
〔かぶり厚さ50mmの群〕
・試験体4:K50−N−T0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:420秒
【0042】
・試験体5:K30−N−T1.0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:420秒
【0043】
・試験体6:K30−N−T5.0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:皮膚食鉄筋
空洞厚:5mm
加熱時間:420秒
【0044】
各試験体の温度の変遷は、
図4および
図5のグラフに示したとおりである。
図4および
図5のグラフから以下の表が判明する。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
〔空洞の有無の判断〕
上記の結果から、空洞厚と、温度上昇量および最高温度到達時間との間には、以下の相関関係が判明する。
・空洞厚が大きいほど、温度上昇量は減少する。
・空洞厚が大きいほど、最高温度到達時間は遅くなる。
・したがって、空洞の有無は、温度上昇率から判断することが可能である。
【0048】
〔空洞の有無が温度上昇に及ぼす原理〕
空洞の有無に関し、コンクリートの表面温度の変遷と、経過時間の関係を整理すると、
図6に示すグラフとなる。
これは、空洞が増加することによって温度上昇量が減少すると同時に、最高温度に到達するまでの時間が増加することを示す。
【0049】
上記の温度上昇量の減少は、
図7に示したように、鉄筋11からの熱拡散が、断熱材として機能する発泡ポリエチレン層12によって妨げられるためである。
また、上記の最高温度到達時間の増加は、
図8に示したように、鉄筋11からの熱量の伝導が、断熱材として機能する発泡ポリエチレン層12によって妨げられ、伝導される熱量が小さくなるためである。
【0050】
このように、鉄筋コンクリート内に形成される空洞は、熱拡散を妨げることでコンクリート表面の温度へ影響を及ぼす。
したがって、本発明では、電磁誘導加熱で鉄筋を所定時間、加熱し、コンクリートの表面温度を監視することによって、鉄筋コンクリート内に形成される空洞(剥離・剥落)の有無を判定することができる。
【0051】
次に、鉄筋腐食性状を評価するために用いられる式について、順次説明する。
〔空洞厚の算定式〕
温度上昇率の違いは、
図9に示すように表れる。
また、この算定では、熱貫流率を利用する。
熱貫流率とは、鉄筋コンクリートを構成する物質の境界ごとの熱の伝わりづらさを表す。
熱貫流率は以下の式(1)で表される。
【0052】
【数1】
【0053】
そして、空洞厚は、下記の式(2)で表される算定式で求められる。
【0054】
【数2】
【0055】
c:空洞厚(mm)
φ:かぶり(mm)
A:空洞が存在する差異の全体の熱貫流率
B:コンクリートの熱抵抗値
C:空気の熱抵抗値
【0056】
〔空洞の影響の評価〕
次に、空洞があった場合の温度上昇量を、空洞がなかった場合の温度上昇量へ補正する。
この補正式は、以下の式(3)で表される算定式で求められる。
【0057】
【数3】
【0058】
c:空洞厚(mm)
φ:かぶり(mm)
ΔT:実測の温度上昇量(空洞)
ΔT’:空洞の影響を除去した温度上昇量
K:かぶり熱抵抗値(コンクリート)
B:コンクリートの熱抵抗値
C:空気の熱抵抗値
【0059】
この式を用いることにより、空洞の影響がない状態の温度上昇量が判明する。
【実施例2】
【0060】
〔鉄筋の腐食による影響〕
鉄筋コンクリートのコンクリートの表面の温度の変化に対する、鉄筋の腐食の影響について検証する。
図10は実施例2における試験体7および8の温度の変遷を示すグラフ、
図11は実施例2における試験体9および10の温度の変遷を示すグラフ、
図12は実施例2における試験体11および12の温度の変遷を示すグラフ、
図13は実施例2における試験体13および14の温度の変遷を示すグラフ、
図14は実施例2における試験体15および16の温度の変遷を示すグラフ、
図15は本発明における表面温度と警官時間の関係を示すグラフ、
図16は本発明における鉄筋からの放熱および熱拡散の状態を示す模式図、
図17は本発明における空洞厚予測精度を示すグラフ、
図18は本発明における腐食率予測精度を示すグラフである。
【0061】
〔かぶり厚さ30mmの群〕
・試験体7:K30−N−TO
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:90秒
【0062】
・試験体8:K30−C1.0−T0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:腐食率1%の腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:90秒
【0063】
・試験体9:K30−N−T1.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:90秒
【0064】
・試験体10:K30−C1.0−T1.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:腐食率1%の腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:90秒
【0065】
・試験体11:K30−N−T5.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:5mm
加熱時間:90秒
【0066】
・試験体12:K30−C1.0−51.0
かぶり厚さ:30mm
鉄筋:腐食率1%の腐食鉄筋
空洞厚:5mm
加熱時間:90秒
【0067】
〔かぶり厚さ50mmの群〕
・試験体13:K50−N−TO
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:420秒
【0068】
・試験体14:K50−C1.0−T0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:腐食率1%の腐食鉄筋
空洞厚:なし
加熱時間:420秒
【0069】
・試験体15:K530−N−T1.0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:非腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:420秒
【0070】
・試験体16:K50−C1.0−T1.0
かぶり厚さ:50mm
鉄筋:腐食率1%の腐食鉄筋
空洞厚:1mm
加熱時間:420秒
【0071】
各試験体の温度の変遷は、
図10〜
図14のグラフに示したとおりである。
これらの図のグラフから、鉄筋を、腐食なしの鉄筋、または、腐食率1%の鉄筋に置き換えるだけで、他の条件を同一とした場合の、各比較試験の結果、各比較試験において、コンクリートの表面の温度上昇量が最高温度に到達するまでの、最高温度到達時間は、空洞厚(0mm〜5mm)によって大きく影響される一方で、腐食率の差異はほとんど影響しないことが示された。
【0072】
この各試験により、腐食率の有無の判別に、健全時鉄筋コンクリートのコンクリートの表面温度の温度上昇量の最高温度と、その鉄筋コンクリートにおける空洞の影響がない状態(健全時)の温度上昇量(実施例1におけるΔT’)の最高温度とを比較し、その差異から鉄筋腐食の有無の判別ができることが示された。
【0073】
〔鉄筋腐食による影響について〕
上記の鉄筋の腐食における影響に関する試験において、最高温度到達時間がほぼ同傾向な理由は以下のとおりである。
腐食鉄筋における腐食は、鉄筋の周面に沿って発生する。
このため、腐食鉄筋の断面では、腐食生成物は、断面の周縁に沿って腐食層として形成される。
【0074】
そして、腐食率1%のとき、その腐食層の厚さは、0.1mm、腐食率5%のとき、その腐食層の厚さは、0.3mmとなる。
このように、腐食生成物の厚さは空洞の厚さに比べて非常に薄いので、最高温度到達時間に大きな影響を及ぼすことはない。
【0075】
また、上記した表1の物性によると、腐食生成物と空洞(空気)の熱伝導率を比較すると、空洞(空気)の方が熱伝導率が圧倒的に小さいので、実構造物では、空洞(剥離空洞)の影響が、腐食生成物の存在に比較して、より支配的となる。
【0076】
〔空洞および鉄筋腐食による影響評価のまとめ〕
鉄筋コンクリートのコンクリート表面温度と、経過時間の関係を、空洞あり、空洞なし、非腐食、腐食の組み合わせでまとめると、
図15に示したグラフになる。
この
図15によると、空洞が存在するとき、表面の最高温度は低下し、最高温度到達時間は遅延する。
【0077】
また、腐食が存在するとき、表面の最高温度は低下し、一方で、最高温度到達時間には影響がない。
上記の結果から、最高温度到達時間から空洞厚を算出し、空洞によって低下する温度上昇量を算出し、空洞によって低下する温度上昇量をコンクリートの表面の実測値から除去すれば、腐食率算定式の適用が可能になることが判明した。
【0078】
〔腐食率の推定〕
本発明において、鉄筋からの放熱を妨げる抑制熱量は、コンクリートの表面温度の違いとなって出現する。
鉄筋コンクリートでは、コンクリートの熱容量が大きい。
非腐食鉄筋では、鉄筋から放熱し易い。
非腐食鉄筋において、蓄積熱量は、W
stである。
【0079】
一方、腐食鉄筋では、熱拡散は、鉄筋周面の腐食層によって、放熱が妨げられる。
腐食鉄筋における蓄熱量は、W
coである。
ここで、腐食率をnとすると、以下の熱量が導き出される。
・非腐食領域蓄積熱量:(1−n)W
st
・腐食領域蓄積熱量:nW’
co
【0080】
上記の場合の放熱および熱拡散の状態を模式的に示すと、
図16に示したようになる。
【0081】
〔腐食率算定式〕
熱量の釣り合い式は、コンクリートに蓄積される熱量と、コンクリート内に流入する熱量から、大気中に逃げる熱量を引いたものを等価とするものである。
上記を前提とすると、腐食率nは以下の式(4)で表される算定式で求められる。
【0082】
【数4】
【0083】
n:腐食率(%)
α:健全時コンクリート表面の単位時間当たりの温度上昇量
α’:実測コンクリート表面の単位時間当たりの温度上昇量
Δθ
surf:健全時と実測のコンクリート表面温度差
I:熱容量(コンクリート)
J:熱伝達係数
L:コンクリートに蓄えられる単位時間、単位面積あたりの熱量
M:熱容量に関する項(コンクリート、腐食生成物)
【実施例3】
【0084】
〔予測精度〕
上記の算定式を用い、空洞厚の予測精度、および、腐食率の予測精度を実証し、その結果を
図17および
図18に示した。
ここでは、上記した方法を用い、空洞が認められる鉄筋コンクリートを電磁誘導加熱し、コンクリートの表面温度の変遷のデータを取得した。
【0085】
このデータから、上記の式(3)を用い推定空洞厚を算定し、その算定結果2件を、横軸を実測空洞厚、縦軸を推定空洞厚とした
図17のグラフに×印で示した。
また、同様に、上記の式(4)を用い推定腐食率を算定し、その算定結果3件を、横軸を実測腐食率、縦軸を推定腐食率とした
図18のグラフに×印で示した。
【0086】
両グラフの斜めの直線は、実測値と推定値とが一致する線を示す。
この結果、推定空洞厚および推定腐食率は、共に、上記の一致する線に近接した領域に存在することが確認できた。
この結果、本発明では、得られた推定空洞厚は、実測空洞厚に近似し、また、得られた推定腐食率は、実測腐食率に近似することが判明した。
【0087】
したがって、本発明によると、空洞厚および腐食率は、電磁誘導加熱、さらには、1回の電磁誘導加熱と、1回の温度の変遷データを取得することによって評価することが可能になり、空洞厚と腐食率を評価するための装置を簡素な構成にし、また、評価完了までの工程を単純化して作業員の負担を軽減し、処理完了までの時間を短縮することができる。
【0088】
なお、本発明において、空洞厚が0と算定、即ち、空洞がない、と判定されたときにはも、上記の各算定式に沿って腐食率の算定を行うが、この場合、補正上昇量の算定が不要になり、空洞なしの判定の後、直接、腐食率の算定が実行される。