【解決手段】移動空間に複数の基地局が設置され、当該基地局と無線通信し移動空間に設定された移動経路に沿って飛行する移動通信装置であって、現在通信している基地局との間の無線通信品質が所定値以下であるとき、現在位置から先の移動経路の近傍に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定し、当該評価ボクセル群の中で無線通信品質が総合的に高い基地局を切替先基地局として特定し、当該切替先基地局との間で通信が確立するよう通信チャネルを切り替える。
前記切替先基地局特定手段は、前記自己位置から近いボクセルにおける前記無線通信品質が高い前記基地局であるほど、前記評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高いと算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の移動通信装置。
前記切替先基地局特定手段は、前記移動経路から近いボクセルにおける前記無線通信品質が高い前記基地局であるほど、前記評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高いと算出することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の移動通信装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記IEEE802.11kを用いた方法でも、移動通信装置は基地局へ接続性を確認するためのスキャンを行うことから、その分ハンドオーバに時間がかかることから瞬断が発生することに変わりはない。そのため、例えば、移動通信装置の移動制御などに、このような通信方式を用いた場合、通信の瞬断が大事故に繋がりかねないといった問題があった。特に、高速で上空を移動する飛行型の移動通信装置では、安全性の面でハンドオーバ時における瞬断が問題視されていた。
【0006】
そこで、本発明は、移動空間における各位置(3次元位置)で各基地局の無線通信品質を予め記憶し、現在位置からの移動先(移動経路)における総合的な無線通信品質を考慮して、切り替える基地局を決定することにより、スキャンを必要とせずに素早いハンドオーバを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、移動空間に複数の基地局が設置され、該基地局と無線通信し該移動空間に設定された移動経路に沿って飛行する移動通信装置であって、前記移動経路と、前記移動空間を所定の大きさのボクセルによって分割したときに該移動空間における各ボクセルの位置を示したボクセル情報と、前記各ボクセルにおける前記各基地局との間の無線通信品質を示した無線通信品質情報と、を予め記憶した記憶部と、前記移動通信装置の自己位置を推定する位置推定手段と、現在通信している基地局との間の無線通信品質が所定値以下であるとき、前記ボクセル情報に基づいて前記自己位置から先の前記移動経路の近傍に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定する評価ボクセル群設定手段と、前記無線通信品質情報に基づいて前記評価ボクセル群の中で前記無線通信品質が総合的に高い前記基地局を切替先基地局として特定する切替先基地局特定手段と、前記切替先基地局との間で通信が確立するよう通信チャネルを切り替える通信チャネル切替手段と、を有することを特徴とする移動通信装置を提供する。
【0008】
かかる構成により、本発明の移動通信装置は、ハンドオーバ時のスキャンを行うことなく、これから移動する先の移動経路上における無線通信品質(例えば、無線電波強度など)が高い基地局に接続を切り替えることができるため、素早いハンドオーバによって通信の瞬断や遅延を抑制することができ、上空を高速で移動する飛行型の通信装置であっても安全に飛行することが可能となる。
【0009】
また、本発明の好ましい態様として、前記移動通信装置の現在の移動速度を推定する速度推定手段を更に有し、評価ボクセル群設定手段は、前記自己位置から前記移動速度に基づいて定めた所定範囲内に存在する各ボクセル群を前記評価ボクセル群として設定することを特徴とする。
【0010】
かかる構成により、本発明の移動通信装置は、例えば、移動速度が大きいほど、移動経路上のボクセルにおいて、より先(遠方)のボクセルについても評価ボクセル群として設定する。反対に、移動速度が小さいほど、移動経路上のボクセルにおいて、自己位置に近いボクセルについてのみ評価ボクセル群として設定する。これにより、評価ボクセルの範囲を適切に設定することが可能となる。すなわち、評価ボクセル群と設定するための範囲を必要以上に広げることによる不適切な基地局へのハンドオーバを抑制でき、また、評価ボクセル群と設定するための範囲を必要以上に狭めることによるハンドオーバの頻発を抑制することができる。
【0011】
また、本発明の好ましい態様として、前記切替先基地局特定手段は、前記自己位置から近いボクセルにおける前記無線通信品質が高い前記基地局であるほど、前記評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高いと算出することを特徴とする。
【0012】
移動通信装置における移動経路は、必ずしも固定的ではなく、状況に応じて修正されることも考慮すると、一旦、移動経路に基づいて評価ボクセル群が特定されたとしても、後にこれらの評価ボクセル群の位置に移動通信装置が必ずしも移動しているとは限らず、自己位置から離れた位置にある評価ボクセル群のボクセルの位置であるほど、その位置に移動しない可能性が高くなるといえる。そのため、評価ボクセル群として設定されたボクセル群の中でも、自己位置に近いボクセルにおいて無線通信品質が高い基地局である程、総合的な無線通信品質が高いと評価することにより、より現実に即した形で切り替え先の基地局の選定を行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明の好ましい態様として、前記切替先基地局特定手段は、前記移動経路から近いボクセルにおける前記無線通信品質が高い前記基地局であるほど、前記評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高いと算出することを特徴とする。
【0014】
移動通信装置が、移動経路に沿って移動するよう制御されていたとしても、風などの外乱により移動経路から外れてしまうことも考慮する必要がある。そのため、移動経路上のボクセル群のみを評価ボクセル群として設定せずに、移動経路上における所定の幅を持たせたボクセル群を評価ボクセル群として設定する。そして、評価ボクセル群として設定されたボクセルの中でも、最も移動する可能性の高い位置のボクセルである移動経路に近いボクセルにおいて、無線通信品質が高い基地局である程、総合的な無線通信品質が高いと評価することにより、より現実に即した形で切り替え先の基地局の選定を行うことが可能となる。
【0015】
また、本発明の好ましい態様として、前記記憶部は前記基地局の設置位置を更に記憶し、空間内に出現した他物体の位置及び大きさからなる他物体情報を推定する他物体情報推定手段と、前記他物体情報と前記ボクセル情報と前記設置位置とに基づいて各ボクセルの位置において前記他物体により前記基地局が見通し外となったか否かを判定して前記無線通信品質情報を更新する品質更新手段と、を更に有することを特徴とする。
【0016】
バスやトラックなどといった大型の他物体が移動空間内に出現することによって、基地局から発した無線通信のための電波が遮られ、予め記憶した無線通信品質と実際の無線通信品質とは大きく異なる値になりうる。そのため、このような移動空間内に出現した他物体が無線通信に及ぼす影響を考慮して無線通信品質情報を更新することにより、高い精度で適切な切替先基地局の特定が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
上記のように、本発明の移動通信装置は、移動空間における各位置で各基地局の無線通信品質を予め記憶し、現在位置からの移動先(移動経路)における総合的な無線通信品質を考慮して、切り替える基地局を決定することにより、スキャンを必要とせずに素早いハンドオーバを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の移動通信装置1におけるシステム全体を示したシステム構成図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態における移動通信装置1は、クアッドロータ型の小型無人ヘリコプタである。なお、本発明の適用範囲は、クアッドロータ型の小型無人ヘリコプタに限定されるものではなく、シングルロータ型の無人ヘリコプタや、飛行船型のロボットについても同様に適用することができる。移動通信装置1は、
図1のシステム構成図に示すように、外部の警備センタ100や管理装置102と通信し、移動空間内に設定された移動経路に沿って飛行するように構成されている。
【0020】
警備センタ100と管理装置102とはインターネット等の情報通信網110を介して情報伝達可能に接続される。管理装置102は、複数の無線LANアクセスポイントなどの無線基地局(以下、「基地局105」という)と接続され、当該基地局105(105a,105b・・・)を介して、移動通信装置1と無線通信によって情報伝達可能に接続される。警備センタ100は、管理装置102を介して移動通信装置1と通信を行い、移動通信装置1によって撮像された撮像画像を受信する。警備センタ100は、撮像画像に対して画像処理を行い、警備センタ100にて異常監視している管理者等(図示しない)に警告を発するような機能を備えていてもよい。
【0021】
管理装置102は、地面や壁面等に設置された固定型の物体検出センサ104(104a,104b・・・)を備え、移動空間内に出現した車両や人物等の他物体の位置を検知する。物体検出センサ104は、例えば、レーザセンサとすることができる。レーザセンサは、一定の角度サンプル間隔の角度毎にレーザを二次元的にスキャンすることによって、地面(又は床面)から一定の高さの水平面における検知範囲内に存在する他物体(障害物)との距離情報を極座標値として取得する。レーザセンサは、放射状にレーザ光である探査信号を走査し、物体に反射して戻ってきた探査信号を受信して、送信と受信の時間差から物体までの距離を算出し、レーザセンサの設置位置の座標及び探査信号を送信した方向と算出した距離から当該物体の位置の極座標値を求め、当該極座標値をスキャンデータとして移動通信装置1へ送信する。
【0022】
以下、
図2の移動通信装置1の概観図及び
図3〜
図5の機能ブロック図を参照して、移動通信装置1の構成及び機能について説明する。
【0023】
移動通信装置1は、
図2に示すように、4枚のロータ(プロペラ)2(2a〜2d)を一平面上に有する。各ロータ2は、バッテリ(二次電池:図示しない)により駆動されるモータ4(4a〜4d)を用いて回転させられる。一般的に、シングルロータ型のヘリコプタでは、メインロータによって発生する反トルクをテールロータが生み出すモーメントで相殺することによって方位角を保っている。一方、移動通信装置1のようなクアッドロータ型のヘリコプタでは、前後・左右で異なる方向に回転するロータ2を用いることで反トルクの相殺を行っている。そして、各ロータ2の回転数(fa〜fd)を制御することにより、様々な機体の移動や姿勢の調節を行うことができる。例えば、機体をヨー方向に回転させたいときは、前後のロータ2a、2cと左右ロータ2d、2bの回転数に差を与えればよい。
【0024】
撮像部3は、例えばレンズなどの光学系および所定画素(例えば640×480画素)のCCDやCMOSなどの2次元アレイ素子を有する二次元イメージセンサで構成され、飛行空間の撮像画像を所定の時間間隔で取得するいわゆるカラーカメラである。本実施の形態では、撮像部3は、その光軸が移動通信装置1の正面方向を撮像するよう筐体部分に設置され、かつ、水平面(XY平面)から予め定めた俯角θにより斜め下方の空間を視野角φにおいて撮像するよう設置されている。取得した撮像画像は後述する制御部7に出力され、制御部7により記憶部8に記憶されたり、後述する通信部9を介して管理装置102に送信されたりする。
【0025】
位置検出センサ6は、移動通信装置1の現在位置を取得するためのセンサである。位置検出センサ6は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の航法衛星(人工衛星)から送信される電波(航法信号)を受信する。位置検出センサ6は、複数の航法衛星(人工衛星)から送信される航法信号を受信して制御部7へ入力する。なお、位置検出センサ6は、レーザスキャナ、ジャイロセンサ、電子コンパス、気圧センサ等の他のセンサを用いて既知の従来技術により自己位置を得るための情報を取得するものとしてもよい。
【0026】
通信部9は基地局105との間で、無線LANにより無線通信するための通信モジュールである。本実施形態では、撮像部3によって取得した撮像画像を通信部9により管理装置102に送信し、当該撮像画像を管理装置102から警備センタ100に送信することにより、警備員等が遠隔から侵入者を監視することを可能にする。また、通信部9は、管理装置102から物体検出センサ104にて取得したスキャンデータを受信することにより、後述するような移動空間に出現した他物体の位置と大きさを推定することを可能にする。
【0027】
記憶部8は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の情報記憶装置である。記憶部8は、各種プログラムや各種データを記憶し、制御部7との間でこれらの情報を入出力する。各種データには、基地局設置位置81、ボクセル情報82、移動経路83、無線通信品質情報84等の制御部7の各処理に用いられる各種パラメータ、各センサ等の出力値及び撮像画像等が含まれる。
【0028】
基地局設置位置81は、移動空間における基地局105が設置された位置を表す位置情報(座標情報)であり、各基地局105の識別情報に対応付けて記憶されている。本実施形態では、基地局設置位置81は、予め管理者等によって設定され、記憶部8に記憶されるものとする。
【0029】
ボクセル情報82は、移動空間をボクセル空間として複数のボクセルに分割して移動空間の障害物の構造等を表した情報であり、予め管理者等によって設定され記憶部8に記憶される情報である。本実施の形態では、移動空間を所定の大きさ(例えば15cm×15cm×15cm)の単位空間であるボクセルに等分割し、各ボクセルの識別子であるボクセルIDと、移動空間におけるボクセル位置(座標)と、ボクセル属性とを対応付けてボクセル情報82として記憶する。なお、本実施形態では、ボクセル位置をボクセルの中心(重心)位置の座標値とするが、これに限らず、ボクセルの8つの頂点において対角線をなす2つの頂点の座標値としてもよい。ボクセル属性には、建造物等の障害物に位置するボクセルを「占有ボクセル」と定義して、移動通信装置1が移動できない空間とする。そして、それ以外の自由に飛行可能なエリアに位置するボクセルを「自由ボクセル」として定義する。
【0030】
移動経路83は、移動空間内に設定された移動通信装置1が飛行する際の飛行経路となる経路情報である。本実施形態では、移動経路83は、ボクセル位置(座標データ)の集合データであり、管理者等によって予め設定され記憶部8に記憶される情報とする。移動経路83は、前述したように座標データの集合データであるが、当該集合データの中でも、最後の座標データが移動目標位置であり、当該移動目標位置に向かうように移動通信装置1は飛行する。
【0031】
無線通信品質情報84は、
図6に表すように、各ボクセルのIDと、各ボクセルにおいて予め測定した各基地局105との間の無線通信品質とを対応付けたテーブル情報である。本実施形態では、同図に表すように、無線通信品質情報84における無線通信品質を各基地局105からの受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)とする。しかし、これに限らず、パケットエラーレートや伝送遅延量などといった、他の無線通信品質の評価指標を用いてもよい。なお、無線通信品質情報84における無線通信品質は、自由ボクセルについてのみ設定することとし、占有ボクセルについては設定しないこととする。
【0032】
制御部7は、CPU等を備えたコンピュータで構成され、記憶部8には図示していないソフトウェアモジュールを読み出して、CPU等にて各処理を行うものである。
【0033】
移動制御モジュール7Aは、移動通信装置1が移動経路83に沿って移動するようモータ4を制御する、飛行のための一連の処理を行うソフトウェアである。移動制御モジュール7Aは、位置推定処理、速度推定処理、経路追従制御処理を行う一連の処理として、
図4に表すように、位置推定手段71、速度推定手段72、移動制御手段73を含んでいる。
【0034】
位置推定手段71は、位置検出センサ6の出力に基づいて、飛行空間における移動通信装置1の現在位置(自己位置)を推定する位置推定処理を行う。具体的には、位置検出センサ6から得られた複数の航法衛星からの航法信号に基づいて周知技術に基づいて推定した緯度・経度・高度から自己位置の座標(X
s,Y
s,Z
s)を計算する。さらに、電子コンパスやジャイロセンサなどの位置検出センサ6からの出力を受けて自己位置として姿勢YAWを求める。なお、自己位置の推定方法はこれに限定されるものではなく、他の方法を用いて移動通信装置1の現在位置を推定してもよい。位置推定手段71は、推定された自己位置(座標:X
s,Y
s,Z
s及び姿勢YAW)を速度推定手段72及び移動制御手段73に出力する。
【0035】
速度推定手段72は、後述する移動制御手段73における移動制御で利用するため、移動通信装置1の現在の移動速度(v
x,v
y,v
z,v
yaw)を推定する速度推定処理を行う。本実施の形態では、位置推定手段71にて推定した自己位置(座標:X
s,Y
s,Z
s及び姿勢YAW)の時間変化から飛行速度を求める。この際、測定誤差等の影響を考慮して拡張カルマンフィルタを利用して飛行速度を推定することが好適である。この他にも、GNSSにおけるドップラー効果を利用した速度推定方法を用いてもよい。
【0036】
移動制御手段73は、記憶部8の移動経路83と位置推定手段71にて推定された自己位置と速度推定手段72で推定された移動速度とを用いて、移動通信装置1が移動経路83に沿って飛行するよう経路追従制御処理を行う。具体的には、移動経路83、自己位置及び移動速度を用いて各時刻での飛行制御値である速度指令値を求め、当該速度指令値に基づいてモータ4を制御し、ロータ2の回転数を制御する。このような、設定された移動経路83に沿って飛行するようモータ4を制御する方法としては、例えば特開2014−149622号公報に記載された方法を用いることができる。
【0037】
通信制御モジュール7Bは、移動通信装置1と基地局105との間の無線通信を制御する一連の処理を行うソフトウェアである。通信制御モジュール7Bは、現在通信している基地局105との間の無線通信品質が予め定めた閾値以下となったとき、他の基地局105との間で通信が確立するよう通信チャネルを切り替えるハンドオーバ処理のために、
図5に表すように、評価ボクセル群設定手段74、切替先基地局特定手段75、通信チャネル切替手段76、他物体情報推定手段77、品質更新手段78を含んでいる。
【0038】
評価ボクセル群設定手段74は、現在通信している基地局105との間の無線通信品質が予め定めた閾値以下となったとき、ボクセル情報82及び移動経路83に基づいて自己位置から先(すなわち移動目標位置に向かう順路方向)の移動経路の近傍に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定する処理を行う。ここで、評価ボクセル群とは、後述する切替先基地局特定手段75にて切替先基地局を特定するに際し、評価対象となるボクセル群である。
【0039】
図7は、評価ボクセル群設定手段74における評価ボクセル群の設定について説明する図であり、3次元のボクセル空間で表示した移動空間の一部を真上の位置から見下ろしたときの図である。同図において、黒塗りされたボクセルは建物等の障害物に相当する占有ボクセルであり、白色のボクセルは自由に移動可能な自由ボクセルである。移動通信装置1は、移動経路83に沿って移動しており、Aの地点で現在通信している基地局105aとの間の無線通信品質が予め定めた閾値以下となったとする。この時、評価ボクセル群設定手段74は、現在の自己位置から先の移動経路83の近傍に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定する。同図において、ハッチングにて塗りつぶしたボクセルは評価ボクセルとして設定されたボクセルである。本実施形態では、現在の自己位置から先の移動経路83の近傍に存在するボクセル群として、自己位置から所定範囲内に存在する移動経路83と干渉するボクセル群(濃いハッチングで塗りつぶしたボクセル)、及び当該ボクセル群に隣接するボクセル群(薄いハッチングで塗りつぶしたボクセル)とした。
【0040】
また、評価ボクセル群設定手段74は、速度推定手段72にて推定した移動速度に基づいて自己位置から所定範囲内に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定するものとする。
図7のケースでは、自己位置から7ボクセルの範囲内に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定している。一方、
図7のケースよりも高速で移動している
図8のケースでは、自己位置から13ボクセルの範囲内に存在するボクセル群を評価ボクセル群として設定している。このように、移動速度に応じて評価ボクセルの範囲を変えることにより、評価ボクセル群と設定するための範囲を必要以上に広げることによる不適切な基地局へのハンドオーバを抑制でき、評価ボクセル群と設定するための範囲を必要以上に狭めることによるハンドオーバの頻発を抑制することができる。なお、本実施形態では、移動速度に応じて評価ボクセルの範囲を変えているが、これに限らず、予め定めた固定の範囲(固定値)としてもよい。
【0041】
切替先基地局特定手段75は、無線通信品質情報84に基づいて、評価ボクセル群設定手段74にて設定された評価ボクセル群の中で総合的に無線通信品質が高い(良い)基地局105を切替先基地局として特定する処理を行う。本実施形態では、総合的に無線通信品質が高い基地局105を特定するに際し、評価ボクセル群を構成する各ボクセルIDに基づいて、無線通信品質情報84を参照し、各ボクセルIDにおいて最も無線通信品質が高い(良い)基地局105を選定する。そして、全ての評価ボクセル群について同様に最も無線通信品質が高い(良い)基地局105を選定していき、最終的に最も多く選定された回数の多い基地局105を切替先基地局として特定するものとする。すなわち、各ボクセルにおいて最も無線通信品質が高い基地局105として選定された回数をカウントし、最終的なカウント数が最多となる基地局105を切替先基地局として特定する。
【0042】
この際、切替先基地局特定手段75は、自己位置から近いボクセルにおいて無線通信品質が高い基地局105であるほど、評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高くなるように計算してもよい。さらに、切替先基地局特定手段75は、移動経路83から近いボクセルにおける無線通信品質が高い基地局105であるほど、評価ボクセル群における総合的な無線通信品質が高くなるように計算してもよい。例えば、
図7及び
図8において、濃いハッチングにて塗りつぶした評価ボクセル群は、薄いハッチングにて塗りつぶした評価ボクセル群と比較して、自己位置から近く、かつ、移動経路83から近いボクセル群である。したがって、これらの濃いハッチングにて塗りつぶした評価ボクセル群のボクセルにおいて最も通信品質が高いとされた基地局105では、通常は1カウントされるものを、その倍の2カウントするように計算してもよい。これにより、より現実に即した形で最良の切替先基地局の選定を行うことが可能となる。
【0043】
なお、評価ボクセル群の各ボクセルにおいて最も無線通信品質が高い基地局105として選定されたカウント数に基づいて切替先基地局を特定するのではなく、評価ボクセル群における各基地局105毎の無線通信品質の平均値を求め、最も高い平均値となった基地局105を切替先基地局として特定してもよい。
【0044】
通信チャネル切替手段76は、現在の通信チャネルから、切替先基地局特定手段75にて特定した切替先基地局の通信チャネルに通信を切り替え、切替先基地局との間の通信を確立させる処理を行う。例えば、
図7及び
図8において、移動通信装置1は、これまで基地局105aと通信していたとき、切替先基地局特定手段75にて切替先基地局を基地局105bに特定されたとき、当該基地局105bとの通信が確立するよう、当該基地局105bの通信チャネルに切り替える。このように、移動通信装置1は、ハンドオーバ時のスキャンを行うことなく、これから移動する先の移動経路上における無線通信品質(受信信号強度)が高い基地局に接続を切り替えることができるため、素早いハンドオーバによって通信の瞬断や遅延を抑制することができ、上空を高速で移動する飛行型の通信装置であっても安全に飛行することが可能となる。
【0045】
他物体情報推定手段77は、物体検出センサ104からのスキャンデータを通信部9を介して受信し、当該スキャンデータに基づいて、移動空間内に出現した他物体の位置及び大きさからなる他物体情報を推定する処理を行う。他物体情報推定手段77は、物体検出センサ104の検知範囲内に出現した他物体の位置を表す点群データであるスキャンデータに基づいて、隣接する走査角において近い距離値となる点群については同一物体からなる点群とみなすことにより、移動空間内に出現した他物体の位置と大きさを推定し、これらを他物体情報として品質更新手段78に出力する。
【0046】
品質更新手段78は、基地局設置位置81、ボクセル情報82及び他物体情報に基づいて、移動空間に出現した他物体が無線通信に及ぼす影響を考慮して無線通信品質情報84を更新する更新処理を行う。
図9において、符号Xで示した占有ボクセルは、移動空間内に出現した車両を表すボクセルである。車両Xの出現によって、基地局105bからの無線通信の電波が妨害されることにより、同図においてハッチングにて塗りつぶしたボクセル、すなわち車両Xによって基地局105bの見通し外となったボクセルについては、基地局105bの無線通信品質(受信信号強度)が低下することが想定される。そのため、品質更新手段78は、このような他物体によって、基地局105の見通し外になったボクセルの無線通信品質(受信信号強度)を予め実験で定めた所定の値(例えば20dBm)だけ低くなるよう、無線通信品質情報84を更新する。しかし、これに限らず、電波伝搬モデルやレイトレース法等を使用して他物体の遮蔽による無線通信品質の低下レベルを推定してもよい。このように、更新処理では、ボクセル情報82、基地局設置位置81及び他物体情報に基づいて、各ボクセルの位置において、他物体によって各基地局105が見通し外となったか否かを判定し、他物体によって見通し外となった(他物体に遮られた)ならば無線通信品質(受信信号強度)が低くなるように更新するといった一連の処理を行い、無線通信品質情報84を更新する。
【0047】
なお、
図9では、品質更新手段78は、ハッチングにて塗りつぶしたボクセル、すなわち基地局105bの見通し外となったボクセルについての無線通信品質(受信信号強度)を低下させる例について示しているが、基地局105a及び基地局105cについても同様に、車両Xによって見通し外となったボクセルを求め、それらのボクセルにおける基地局105a及び基地局105cの無線通信品質(受信信号強度)を低下させるよう処理するものとする。また、同図では、説明しやすいよう3次元のボクセル空間を上空から見ることによって、2次元的に説明しているが、実際は3次元の各ボクセルについて、基地局105からの見通しを判定して無線通信品質情報84を更新するものとする。このように、移動空間内に出現した他物体が無線通信に及ぼす影響を考慮して無線通信品質情報84を更新することにより、高い精度で適切な切替先基地局を特定することが可能となる。
【0048】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内で、更に種々の異なる実施形態で実施されてもよいものである。また、実施形態に記載した効果は、これに限定されるものではない。
【0049】
上記実施形態では、管理装置102に接続された物体検出センサ104を用いて移動空間に出現した他物体を検出している。しかし、これに限らず、移動通信装置1にレーザスキャナを搭載し、当該レーザスキャナの出力値と自己位置とを用いて他物体の位置及び大きさを推定してもよい。また、撮像部3で取得した撮像画像を画像解析することにより、移動空間に出現した他物体の位置及び大きさを推定してもよい。この際、移動空間内に複数の移動通信装置1を移動させ、各移動通信装置における撮像部3で取得した撮像画像を画像解析し、他物体の位置及び大きさを推定するのが好適である。
【0050】
また、上記実施の形態では、制御部7において移動制御モジュール7A及び通信制御モジュール7Bにおける一連の処理を行っている。しかし、これに限らず、図示しない制御用のPCを用意し、当該PCにこれらの一連の処理を実施させてもよい。すなわち、移動通信装置1は、PCによって行われた移動制御モジュール7Aに相当する処理によって得られた速度指令値を無線通信又は有線通信によりPCから受信し、当該速度指令値に基づいてモータ4の回転数を制御することにより、移動経路83に追従するよう飛行するようにしてもよい。また、移動通信装置1は、PCによって行われた通信制御モジュール7Bに相当するハンドオーバ処理によって、通信のハンドオーバを制御してもよい。このように、外部PCを用いて上記の一連の処理を分担することにより、移動通信装置1のCPU処理負荷を低減することができ、ひいてはバッテリの消耗も抑えることができる。
【0051】
また、上記実施の形態では、更新処理にて、移動空間に出現した他物体によって、基地局105の見通し外となった全てのボクセルについての無線通信品質情報84を更新するよう処理している。しかし、これに限らず、見通し外となったボクセルの中でも評価ボクセル群設定手段74にて評価ボクセル群として設定されたボクセルに対してだけ無線通信品質情報84を更新するよう処理してもよい。例えば、
図10に表すように、薄いハッチングで塗られたボクセルは基地局105bの見通し外となった全てのボクセルであるが、さらに評価ボクセル群として設定されたボクセル(濃いハッチングによって塗られたボクセル)に対してだけ無線通信品質情報84を更新する。すなわち、評価ボクセル群の各ボクセルについて、他物体によって各基地局105からの見通し外となったか否かを調べ、見通し外となったボクセルについてのみ無線通信品質情報84を更新する。これにより、全てのボクセルについて計算する必要がなくなるため、移動通信装置1のCPU処理負荷を低減することができ、ひいてはバッテリの消耗も抑えることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、移動通信装置1と基地局105との間で直接的に無線通信しているが、これに限らず、他の移動通信装置1を中継局とし、当該中継局を介して基地局105との間で間接的に無線通信してもよい。例えば、切替先基地局特定手段75にて特定した切替先基地局との間での無線通信品質が、予め定めた閾値以下であったならば、当該切替先基地局との間の無線通信をいったん中断し、自己位置の近く(所定範囲)に存在する中継局(他の移動通信装置1)との間に無線通信が確立するよう通信チャネルに切り替えてもよい。そして、当該中継局を介して基地局105と無線通信してもよい。