【実施例】
【0018】
実験試料として、ケール粉末、明日葉粉末および長命草粉末を用いた(表1)。
【0019】
【表1】
【0020】
実験飼料
基本飼料(C)としてAIN93Gに準拠した組成の精製飼料を与えた(表2)。
【0021】
【表2】
【0022】
実験動物及び飼育
実験動物は、すべての実験においてWistar系雄ラット(体重約140〜180g、日本クレア)を用いた(1群=5匹)。飼料には基本飼料(C)を用い、自由摂取させた。飲料水には水道水を与えた。飼料と飲料水は、毎日新鮮なものに取り換えた。ラットは、室温23±1℃、12時間明暗サイクル(明期:8:00〜20:00、暗期:20:00〜8:00)の環境下で、床面と前面がステンレス製メッシュの個別ケージで飼育した。
13C呼気分析及びOGTTの際は、前日の夕方(17:00)から絶食させた。
【0023】
(実施例1)耐糖能試験(OGTT)に及ぼす植物乾燥粉末の影響
15%グルコース/生理食塩水(対照溶液)及び対照溶液に5%濃度になるように試験試料を懸濁した5%ケール懸濁液、5%明日葉懸濁液ならびに5%長命草懸濁液を調製した。なお、セルロースは、食物繊維量を合わせるため2.5%懸濁液とした。ラットに胃管ゾンデを用いてそれぞれを1.5mL投与した(投与時刻10:30)。対照溶液および各試験試料懸濁液の温度は20℃とした。自己検査用グルコース測定器グルテストエースR(株式会社アークレイファクトリー)を用いて、空腹時血糖値および投与から15分、30分、45分、60分、90分、120分後に尾静脈より採血し、血糖値を測定した。
【0024】
結果を
図1に示した。測定時の体重は、対照溶液投与群は154±4g、5%ケール懸濁液投与群は144±4g、5%明日葉懸濁液投与群は146±2g、5%長命草懸濁液投与群は143±5g、2.5%セルロース懸濁液は149±3gであった。15%グルコース溶液と2.5%セルロース懸濁液との間に有意な差はみられなかった。15%グルコース溶液あるいは2.5%セルロース懸濁液と各実験試料の結果を比較すると、5%ケール懸濁液、5%明日葉懸濁液ならびに5%長命草懸濁液のいずれもOGTT開始15分と30分で血糖値の有意な低下がみられた。
【0025】
(実施例2)
13C呼気ガス分析法における胃排出速度の検討
胃排出速度への植物乾燥粉末の影響を調べるため、各試料を5%濃度になるように15μmolの[1-
13C]酢酸Naを含む生理食塩水に懸濁し、5%ケール懸濁液、5%明日葉ならびに5%長命草懸濁液を調製した。呼気△
13CO
2‰測定は、服部らの方法(服部成美、三浦紀称嗣、森川真帆(2013)
13C呼気ガス分析法の食物繊維研究への応用(経口投与、大腸投与)、第20回臨床栄養学科卒業研究発表会公演要旨集 31.)に準じた。胃では吸収されず、小腸で速やかに吸収された後、直ちに代謝されてCO
2となり呼気に排出される化合物として、
13C標識化合物である酢酸Na([1-
13C, 99%])(Cambridge Isotope Laboratories, Inc.)を用いた。呼気ガス収集装置の構成はUchidaらの方法(UCHIDA M and SIMIZU K (2007)
13C-Acetic Acid is More Sensitive than
13C-Octanoic Acid For Evaluating Gastric Emptyin
g of Liquid Enteral Nutrient Formula by Breath Test in Conscious Rats.Biol Pharm Bull1, 30(3): 487-489.)に準じた。あらかじめラットをデシケーター(9L)に約30分間入れて環境に順応させた後、投与直前にデシケーターから取り出した。試料懸濁液をできるだけ均一になるように攪拌し、胃管ゾンデを用いてそれぞれ1.5mLを胃内に投与した。投与後直ちにラットをデシケーター内に戻し、呼気の吸引を開始した。吸引速度は110mL/分に設定した。投与後、5分、10分、15分、20分、25分、30分、40分、50分、60分、90分、120分後に呼気約150〜200mLを呼気採取バッグ(大塚製薬会社)に収集し、呼気中の△
13CO
2‰を測定した。△
13CO
2‰は、赤外線分光分析装置POC one(大塚製薬株式会社)を用いて、呼気中の
13CO
2/
12CO
2比から
13CO
2(‰)の変化量として測定した。基準CO
2ガスとして、市販の95%0
2/5%CO
2標準ガスを使用した。
【0026】
結果を
図2に示した。測定時の体重は、セルロース投与群は168±14g、5%ケール懸濁液投与群は163±5g、5%明日葉懸濁液投与群は162±4g、5%長命草懸濁液投与群は160±3gであった。セルロース群の結果と各実験試料投与群の結果を比較すると、5%ケール懸濁液では20分〜45分間で有意な低下がみられた。5%明日葉懸濁液及び5%長命草懸濁液では5分〜45分の間で有意な低下がみられた。
【0027】
(実施例3)水中沈定体積法を用いた食物繊維の膨潤性の検討
不溶性食物繊維は水分平衡に対して一定の保水性を有し、膨潤してその体積を増す性質がある。不溶性食物繊維の膨潤性を定量化するために、水分平衡に達したときの水中沈定体積(settling volume, SV)を測定した。各植物乾燥粉末あるいはセルロースの各1gを三角フラスコにとり、50mLの人工胃液(pH1.2)を加え懸濁した。流水ポンプで脱気した後、メスシリンダーに移して100mLに定溶した。24時聞静置後、各試料の人工胃液中に沈定した嵩を測定した。なお、人工胃液(ペプシンは含まない)は日本薬局方の組成に準じた。
【0028】
24時間静置後に測定した嵩は、セルロースは4.5±0.4cmであった。それに対して植物乾燥粉末では、ケール8.3±0.2cm、明日葉13.3±1.5cm、長命草11.8±1.Ocmであり有意に膨潤した。食物繊維1gあたりに換算したSV(
図3)は、ケール21.8±0.5cm、明日葉27.7±3.1cm、長命草28.9±2.3cmであった。セルロースを1としたとき、ケールでは4.9倍、明日葉では6.2倍、長命草では6.4倍、嵩が膨潤した。
【0029】
(実施例4)SV法を用いた食物繊維に含まれるタンパク質の影響の検討
植物乾燥粉末には約15〜20%のタンパク質が含まれている。胃内を想定し、タンパク質分解酵素であるペプシンを加え、タンパク質を消化し、食物繊維の膨潤性におけるタンパク質の影響を検討した。各植物乾燥粉末あるいはセルロースの各1gを三角フラスコにとり、20mLの人工胃液(pH1.2)を入れ、さらにペプシン0.1g(1:10000, 和光純薬工業株式会社、大阪)を加えて懸濁した。37℃、30分間インキユベーター(IKEMOTO RIKA KOGYO CO, LTD)で保温振とうした後、沸騰湯で1分間煮沸して酵素反応を止めた。人工胃液30mLを加え、流水ポンプで脱気した後、メスシリンダーに移して人工胃液で100mLに定溶した。24時間静置後、各試料の人工胃液中に沈定した嵩を測定した。また、沈定後に残存した各試料を採取し、エタノールに懸濁した後、吸引ビンにブフナロートを装着した濾過器でアルコール脱水(3回)した。その後、105℃で一晩乾燥し、試料0.2gのタンパク質をケルダール法により定量した。
【0030】
ペプシン処理の結果を表3に示した。
【0031】
【表3】
【0032】
ペプシン処理によるタンパク質含量の変化は、ケールでは21.7%から10.2%(-53%)、明日葉では15.9%から9.8%(-38%)、長命草では19.8%から9.8%(-51%)であった。SVを測定した結果、セルロース5.4±0.2cm、ケール10.6±0.9cm、明日葉15.5±0.8cm、長命草15.1±2.4cmであり、ペプシン処理前より有意に膨潤した。また、実施例3と同様にセルロースと各植物乾燥粉末では、SVに有意な差がみられた。食物繊維1gあたりに換算したSV(
図4)は、ケール27.9±2.3cm、明日葉32.2±1.7cm、長命草36.9±5.8cmであった。セルロースの膨潤量を1としたとき、ケールでは5.2倍、明日葉では6.0倍、長命草では6.8倍、嵩が膨潤した。
【0033】
(実施例5)透析チューブを用いたグルコース遊離の検討
植物乾燥粉末における血糖上昇遅延作用のメカニズムには、グルコースの腸管からの吸収阻害も関与していると考えられている。そこで小腸内での吸収をモデル化して、15%グルコースを含む5%植物乾燥粉末あるいは5%セルロース懸濁液それぞれ1.5mLを透析チューブに入れ、純水20mLが入った遠心管に投入し、インキュベーターで保温(37℃)振とうした。実験開始後15分、30分、60分ごとに遠心管内の溶液20μLを試験管にとり、純水80μLを加え希釈した。希釈液20μLを別の試験管にとり、発色試薬1mLを加え、室温で15分放置した後、505nmに設定した吸光度計(Ultrostec 2100 pro, Amersham Biosciences)を用いて、遊離したグルコース濃度を測定した。なお、遊離したグルコース濃度は、市販のグルコース測定キット(グルコースCII一テストワコー、和光純薬工業株式会社、大阪)を使用した。
結果を
図5に示した。遊離したグルコースの量は、15分、30分、60分のいずれにおいても、セルロース及び3種類の植物乾燥粉末との間に有意な差はみられなかった。