特開2016-192917(P2016-192917A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-192917(P2016-192917A)
(43)【公開日】2016年11月17日
(54)【発明の名称】反芻動物用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20161021BHJP
   A23K 10/32 20160101ALI20161021BHJP
【FI】
   A23K1/18 B
   A23K1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-74029(P2015-74029)
(22)【出願日】2015年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】飯森 武志
(72)【発明者】
【氏名】黒須 一博
(72)【発明者】
【氏名】簑原 大介
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005BA01
2B005BA05
2B150AA02
2B150AB10
2B150CA31
2B150CA34
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、安価な木材を原料とすることによって、ルーメンアシドーシスを起こさず、栄養価、飼料効率の高い飼料を提供することである。
【解決手段】本発明によって、樹皮を含む木材チップから製造される化学パルプを含む反芻動物用飼料が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹皮を含む木材チップから製造される化学パルプを含む反芻動物用飼料。
【請求項2】
樹皮を含む木材チップが、樹皮を1質量%以上含む、請求項1に記載の反芻動物用飼料。
【請求項3】
前記パルプが、アルカリ蒸解法によって得られるパルプである、請求項1または2に記載の反芻動物用飼料。
【請求項4】
アルカリ蒸解法がクラフト蒸解法である、請求項3に記載の反芻動物用飼料。
【請求項5】
木材チップおよび樹皮が広葉樹に由来する、請求項1〜4のいずれかに記載の反芻動物用飼料。
【請求項6】
木材チップおよび樹皮が針葉樹に由来する、請求項1〜4のいずれかに記載の反芻動物用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、牧畜分野においては、家畜の乳量の増加や増体重などを目的に、栄養価の高い濃厚飼料が、牧草などの粗飼料とともに使用されることが多い。
【0003】
濃厚飼料は、トウモロコシなどの易消化性炭水化物(デンプンなど)を多く含む一方、粗飼料は、牧草を乾燥した干草(乾草、わら類)や、青刈りした牧草を発酵させた(サイレージ化)ものなどを主とする。
【0004】
反芻動物が粗飼料を摂取し消化しうるのは、ルーメン(第一胃)を有するためである。ルーメンは、反芻動物が有する複数の胃のうち最大の容積を占め、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースなどの難消化性の多糖類を分解(ルーメン発酵)し得る微生物群(ルーメン微生物)が豊富に含まれている。
【0005】
しかし、粗飼料中のセルロースやヘミセルロースは、リグニン類と結合し、それぞれリグニン−セルロース複合体やリグニン−ヘミセルロース複合体として存在している場合が多い。このような複合体は、ルーメン発酵において十分に分解されないおそれがあり、粗飼料は、飼料効率が不十分になりやすいという問題点があった。また、未消化物が多くなると糞量の増加を引き起こすため、環境面においても望ましくないとされていた。
【0006】
さらに、牧草の中には多量の硝酸態窒素が含まれている場合があり、これを摂取した反芻動物が各種の亜硝酸塩中毒になることがある。亜硝酸塩中毒は、摂取した牧草の硝酸態窒素から体内で生産された亜硝酸が、酸素を運搬する血液中のヘモグロビンと化合してしまい、ヘモグロビンが酸素を受入れなくなるために生じるものである。亜硝酸塩中毒は、重篤な場合には窒息状態になり反芻動物が急死することもあり、また、乳牛の場合には乳量低下等の症状を引き起こすことがある。
【0007】
さらにまた、粗飼料は、牧草の収穫量や作柄により影響を受けやすく、供給量が不安定である。特にわが国では粗飼料の多くを輸入にたよっているため、概して価格変動が大きく、また、輸出国の諸事情により輸入困難になる場合もあり、牧場経営を圧迫する場合がある。
【0008】
このため、牧草に代わりうる、飼料効率に優れ、亜硝酸塩中毒等の疾病を引き起こさない、安価であり、且つ安定的に入手可能な反芻動物用飼料が望まれている。
【0009】
ここで、飼料中の栄養濃度を高めるため、易消化性の炭水化物(デンプン)を多く含む濃厚飼料を粗飼料に配合することが一般に行われている。乳用家畜の乳量を維持し、或いは、肉用家畜の増体を維持するためは、飼料摂取量をも増加させる必要があるが、乳量の増加や体格の増強にともなうエネルギー要求量の増加率は、摂取飼料量の増加率を超えるためである。ところが、濃厚飼料中のデンプンなどの炭水化物は、第一胃(ルーメン)のpHを急激に低下させることがあり、結果としてルーメンアシドーシスが発生することがある。ルーメンアシドーシスは、反芻動物の疾病の一種であり、炭水化物に富む穀物、濃厚飼料、果実類などを急激に摂取することにより引き起こされる。ルーメンアシドーシスにおいては、ルーメン内において、グラム陽性乳酸生成菌、特にStreptcoccus bovisおよびLactobacillus属微生物が増加し、乳酸あるいは揮発性脂肪酸(volatile fatty acid:VFA)の異常な蓄積が生じ、ルーメン内のpH(5以下)が低下する。その結果、ルーメン内の原生動物およびある種の細菌の減少あるいは消滅を引き起こす。特に急性アシドーシスは、ルーメンの鬱血や脱水症(胃内容浸透圧の上昇に伴い体液が大量に胃内に移動)、さらには昏睡や死をもたらすため、極めて危険である。
【0010】
ルーメンアシドーシスの予防には、飼料配合の急激な変化を避け、ルーメン発酵を安定化させ、pHの変動を少なくすることが重量である。また、唾液には重曹が含まれpH調節に寄与するため、十分な反芻により唾液分泌のできる飼料を給与することも重要である。ただし、ルーメンアシドーシスを恐れ、飼料の栄養価を低くすると、エネルギーが不足して乳生産量が低下してしまうという懸念もある。
【0011】
ルーメンアシドーシスを予防する飼料として、特許文献1には、100重量部のビートパルプに対して5〜60の廃糖蜜を含む混合物からなる粉粒体の糖蜜飼料が開示されている。また、特許文献2には、セルロースおよび/またはヘミセルロースを、乾燥固形分として80重量%以上含有する反芻動物用飼料、特許文献3には、木質原料に高衝撃力を与えて粉砕し微粒子化した家畜飼料が開示されている(特許文献3には、木質原料に高衝撃力を与えて粉砕し微粒子化した家畜飼料が開示されている。
【0012】
さらに、特許文献4には、木材より飼料を製造する際に生成し、家畜に対して有害となるフルフラールを低減するため、木材チップを蒸煮してから擂り潰して家畜粗飼料を製造する方法、特許文献5には、リグノセルロース材料を蒸煮・爆砕することで動物飼料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−174796号公報
【特許文献2】特開2011−082381号公報
【特許文献3】特開2012−105570号公報
【特許文献4】特開2004−121118号公報
【特許文献5】特表2013−539959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した引用文献1のビートパルプと廃糖蜜の混合物からなる粉粒体の糖蜜飼料は、消化率をはじめとする飼料効率が十分ではなかった。また、引用文献2〜5の飼料は、いずれもリグニンを多量に含んでおり、反芻動物における消化性は良好ではない。
【0015】
そこで、本発明は、栄養価や飼料効率に優れた反芻動物用飼料を提供することを目的とする。特に本発明は、ルーメンアシドーシスを起こさず、また、反芻を促す物理性の高い飼料であって、牧草と比較しても亜硝酸中毒のような悪影響の可能性がなく、安価で安定供給可能で経済的にも有利な飼料を提供することを課題とする。さらに本発明は、反芻動物の嗜好性にも優れた飼料を開発することもその課題である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、樹皮を含む木材チップから化学的に製造したパルプを反芻動物用の飼料として用いると、驚くべきことに上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
これに限定されるものではないが、本発明は、下記の発明を包含する。
(1) 樹皮を含む木材チップから製造される化学パルプを含む反芻動物用飼料。
(2) 樹皮を含む木材チップが、樹皮を1質量%以上含む、(1)に記載の反芻動物用飼料。
(3) 前記パルプが、アルカリ蒸解法によって得られるパルプである、(1)または(2)に記載の反芻動物用飼料。
(4) アルカリ蒸解法がクラフト蒸解法である、(3に記載の反芻動物用飼料。
(5) 木材チップおよび樹皮が広葉樹に由来する、(1)〜(4)のいずれかに記載の反芻動物用飼料。
(6) 木材チップおよび樹皮が針葉樹に由来する、(1)〜(4)のいずれかに記載の反芻動物用飼料
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反芻動物の嗜好性が高く、消化性にも優れ、反芻家畜の第1胃(ルーメン)を刺激して反芻を促す作用(物理性)を有する飼料を得ることができる。特に本発明に係る飼料は、従来の濃厚飼料や牧草の使用量を減らすことができるので、ルーメンアシドーシスや亜硝酸中毒などを防ぐことができる。また、本発明の反芻動物用試料は、木材原料から製造することができるので、安定かつ安価に供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の反芻動物用飼料は、反芻動物に適用される。反芻動物としては、例えば、乳牛及び肥育牛などの牛、羊、山羊などが挙げられる。本発明の飼料を反芻動物に給与する時期、すなわち適用対象である反芻動物の年齢、体格、健康状態等には特に制限はないが、通常は、ルーメンの機能が形成されてからであり、代用乳が給与される哺乳期が終わってからである。
【0020】
本発明の反芻動物用飼料は、樹皮を含む木材チップを原料として化学的に処理することで製造される化学パルプである。一般に樹皮は、木質部に比較するとリグニンを多く含み、セルロースの含有率は低い。そのため、物理的に粉砕したもの、あるいは蒸煮・爆砕処理しただけでは、リグニンの除去が不十分となり、消化率が低い。本発明では、木材チップを化学的に処理してリグニンを十分に除去したパルプとすることで、樹皮を含む木材チップを原料として反芻動物用飼料として好ましいパルプとすることが可能となった。
【0021】
本発明において、原料の木材チップ中の樹皮の含有率は特に限定されないが、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。なお、樹皮の含有率が40%を超えると消化性が低下するので、好ましくない。
【0022】
本発明において、化学的に処理することで製造するパルプとしては、クラフトパルプ(KP)、溶解クラフトパルプ(DKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解サルファイトパルプ(DSP)等が挙げられる。特に、リグニンの除去効果が高いクラフトパルプ、溶解クラフトパルプが好ましい。また、漂白パルプ、未漂白パルプのいずれも使用できる。
【0023】
本発明の反芻動物用飼料において、化学的に処理することで製造するパルプは1種類のものから成るものでもよく、複数のパルプを混合したものでもよい。例えば、原料や製造方法の異なるパルプ(広葉樹クラフトパルプ、針葉樹クラフトパルプ、溶解広葉樹クラフトパルプ、溶解針葉樹クラフトパルプ)、を2種以上混合して使用してもよい。
【0024】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0025】
クラフトパルプ
本発明におけるパルプは、好ましい態様においてクラフトパルプを含み、特に好ましくは木材由来のクラフトパルプを含む。
【0026】
木材チップからクラフトパルプを製造する場合、木材パルプは、蒸解液と共に蒸解釜へ投入され、クラフト蒸解に供する。また、MCC、EMCC、ITC、Lo−solidなどの修正クラフト法の蒸解に供しても良い。また、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相/気相型、2ベッセル液相型などの蒸解型式なども特に限定はない。すなわち、本願のアルカリ性水溶液を含浸し、これを保持する工程は、従来の蒸解液の浸透処理を目的とした装置や部位とは別個に設置してもよい。好ましくは、蒸解を終えた未晒パルプは蒸解液を抽出後、ディフュージョンウォッシャーなどの洗浄装置で洗浄する。
【0027】
クラフト蒸解工程は、前加水分解処理した木材チップをクラフト蒸解液とともに耐圧性容器に入れて行うことができるが、容器の形状や大きさは特に制限されない。木材チップと薬液の液比は、例えば、1.0〜5.0L/kgとすることができ、1.5〜4.5L/kgが好ましく、2.0〜4.0L/kgがさらに好ましい。
【0028】
また、本発明においては、絶乾チップ当たり0.01〜1.5質量%のキノン化合物を含むアルカリ性蒸解液を蒸解釜に添加する。キノン化合物の添加量が0.01質量%未満であると添加量が少なすぎて蒸解後のパルプのカッパー価が低減されず、カッパー価とパルプ収率の関係が改善されない。さらに、粕の低減、粘度の低下の抑制も不十分である。また、キノン化合物の添加量が1.5質量%を超えてもさらなる蒸解後のパルプのカッパー価の低減、及びカッパー価とパルプ収率の関係の改善は認められない。
【0029】
使用されるキノン化合物はいわゆる公知の蒸解助剤としてのキノン化合物、ヒドロキノン化合物又はこれらの前駆体であり、これらから選ばれた少なくとも1種の化合物を使用することができる。これらの化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(例えば、2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)等のキノン化合物であり、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)又はそのアルカリ金属塩等(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)等のヒドロキノン化合物であり、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノール等の前駆体が挙げられる。これら前駆体は蒸解条件下ではキノン化合物又はヒドロキノン化合物に変換する可能性を有している。
【0030】
蒸解液は、木材チップが針葉樹の場合、対絶乾木材チップ重量当たりの活性アルカリ添加率(AA)を16〜22質量%とすることが好ましい。活性アルカリ添加率を16質量%未満であるとリグニンの除去が不十分となり、22質量%を超えると収率の低下が起こる。ここで活性アルカリ添加率とは、NaOHとNaSの合計の添加率をNaOの添加率として換算したもので、NaOHには0.775を、NaSには0.795を乗じることでNaOの添加率に換算できる。また、硫化度は20〜35%の範囲が好ましい。硫化度20%未満の領域においては、脱リグニン性の低下を招く。
【0031】
クラフト蒸解は、120〜180℃の温度範囲で行うことが好ましく、140〜160℃がより好ましい。温度が低すぎると脱リグニン(カッパー価の低下)が不十分である一方、温度が高すぎるとセルロースの重合度(粘度)が低下する。また、本発明における蒸解時間とは、蒸解温度が最高温度に達してから温度が下降し始めるまでの時間であるが、蒸解時間は、60分以上600分以下が好ましく、120分以上360分以下がさらに好ましい。蒸解時間が60分未満ではパルプ化が進行せず、600分を超えるとパルプ生産効率が悪化するために好ましくない。
【0032】
また、本発明におけるクラフト蒸解は、Hファクター(Hf)を指標として、処理温度及び処理時間を設定することができる。Hファクターとは、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、下記の式によって表わされる。Hファクターは、チップと水が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0033】
Hf=∫exp(43.20−16113/T)dt
[式中、Tはある時点の絶対温度を表す]
本発明においては、蒸解後得られた未漂白(未晒)パルプは、必要に応じて、種々の処理に供することができる。例えば、クラフト蒸解後に得られた未漂白パルプに対して、漂白処理を行うことができる。
【0034】
クラフト蒸解で得られたパルプについて、酸素脱リグニン処理を行うことができる。本発明に使用される酸素脱リグニンは、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できる。中濃度法の場合はパルプ濃度が8〜15質量%、高濃度法の場合は20〜35質量%で行われることが好ましい。酸素脱リグニンにおけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。
【0035】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、酸素圧は3〜9kg/cm、より好ましくは4〜7kg/cm、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、温度は80〜140℃、処理時間は20〜180分、この他の条件は公知のものが適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0036】
さらなるカッパー価の低下、白色度を向上させる場合、酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、多段漂白工程へ送られ、多段漂白処理を行うことができる。本発明の多段漂白処理は、特に限定されるものではないが、酸(A)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)、過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を組み合わせるのが好適である。例えば、多段漂白処理の初段は二酸化塩素漂白段(D)やオゾン漂白段(Z)を用い、二段目にはアルカリ抽出段(E)や過酸化水素段(P)、三段目以降には、二酸化塩素や過酸化水素を用いた漂白シーケンスが好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。また、多段漂白処理中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0037】
本発明のパルプを含有する反芻動物用飼料は、パルプ状、紛体状、フラッフ化の形態でもよいが、キューブ状又はペレット状に圧縮成型するか、断裁したシート状の形態とすることが、トウモロコシや牧草などの他の飼料と混合することが容易となり、さらに運搬や取扱いが容易となるので好ましい。
【0038】
キューブ状に圧縮成型する場合、縦5〜50mm×横5〜50mm×高さ5〜50mmのキューブとすることが好ましい。ペレット状に圧縮成型する場合、直径5〜50mm×長さ5〜80mmの円筒状とすることが好ましい。圧縮成型を行うための装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン製)等が望ましい。
【0039】
シート状の形態とする場合、坪量が300〜2000g/cmで、5〜50mm×5〜50mmのシート片とすることが好ましい。
【0040】
本発明の反芻動物用飼料は、パルプ分(粕を含む)が100%から成るものでもよいが、栄養や嗜好性を高めるために他の飼料成分を配合してもよい。その際、全試料の固形分に対するパルプの含有量が80重量%以上でありことが好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましい。他の飼料成分としては、粗飼料(例えば牧草)、濃厚飼料(例えばトウモロコシ、麦などの穀類、大豆などの豆類)、ふすま、米糠、おから、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラルなどや添加剤(保存料、着色料、香料等)、等が挙げられる。これらの他の飼料成分は圧縮成型を行う際に、パルプに混合させてもよい。
【0041】
本発明の反芻動物用飼料は、水分含有率を15%以下とすることが好ましい。水分含有率を15%以下とすることで、運搬性が向上し、微生物による腐敗を軽減できる。
【実施例】
【0042】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、%は特に断らない限り質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0043】
実験1:パルプの製造
まず、シラカンバ材から製造したチップ(厚さ3mm程度)を篩い分け試験機にて分画し、直径(Φ)が25.4mm〜9.5mmのシラカンバチップを得た。次に、シラカンバ材の樹皮を3cm角にチッピングし、これをシラカンバ樹皮とした。実験1−1では、シラカンバチップ:シラカンバ樹皮の重量比が9:1となるよう混合したシラカンバ樹皮混合チップを使用した。この混合チップ(絶乾300g相当)を耐圧釜に入れ、活性アルカリ添加率13.0%、硫化度25%、Hファクター830の条件にてクラフト蒸解を行い、シラカンバ未晒クラフトパルプを得た。
【0044】
また、実験1−1と同様にしてスギ材からクラフトパルプを製造した(実験1−2)。具体的には、スギ材から製造したチップ(厚さ3mm程度)を篩い分け試験機にて分画し、直径(Φ)が25.4mm〜9.5mmのスギチップを得た。次に、スギ材の樹皮を3cm角にチッピングし、これをスギ樹皮とした。実験1−2では、スギチップ:スギ樹皮の重量比が9:1となるよう混合したスギ樹皮混合チップを使用した。この混合チップ(絶乾200g相当)を耐圧釜に入れ、活性アルカリ添加率20.0%、硫化度25%、Hファクター1800の条件にてクラフト蒸解を行い、スギ未晒クラフトパルプを得た。
【0045】
さらに、上記シラカンバ樹皮混合チップ(絶乾300g相当)および上記スギ樹皮混合チップ(絶乾200g相当)を蒸煮および粗粉砕した飼料サンプルを調製した。すなわち、混合チップを蒸煮釜(直径25cm、長さ40cm)に入れ、2MPaにて20分間蒸煮した後、ハンマーにて粗粉砕して、木質飼料サンプルを製造した(実験1−3、実験1−4)。さらに、シラカンバ木質チップのみ(絶乾300g相当)およびスギ木質チップのみ(絶乾200g相当)から、蒸煮・粗粉砕により、木質飼料サンプルを製造した(実験1−5、実験1−6)。
【0046】
得られた木質飼料は、遠心脱水によって水分率を70±3%とした後、角型バット(外形寸法:255mm×320mm×63mm)に置き、恒量に達するまで乾燥した。
【0047】
実験2:耐ホロセルロース糖化率の測定
実験1で得られたパルプ6種について、セルラーゼによる糖化率を測定した。パルプ(風乾重量400mg)を、樹脂製サンプル瓶(50ml容)に正確に秤量した。pH4.8、セルラーゼ酵素(商品名:102321 セルラーゼ オノズカ R−10、メルク株式会社)0.1%を添加した懸濁液45mlを容器に添加し、45℃にて48時間糖化処理を行った。
【0048】
2時間後、4時間後、8時間後、24時間後、48時間後の時点でサンプルを採取し、糖化されたパルプの割合(セルラーゼ糖化率)を測定した。具体的には、あらかじめ恒量を求めたろ紙上でろ過し、4回水洗を行った後に、135℃の通風乾燥機中で2時間乾燥し、残渣の乾物重量を測定した。
【0049】
セルラーゼ糖化率は、反芻動物における消化率と高い相関があり、糖化率が高いほど、反芻動物において消化されやすいと考えられる。
【0050】
表1に試料のセルラーゼとの反応時間と糖化率を示した。表1に示すように、48h後の糖化率は実験1−3のパルプ、次いで実験1−4のパルプが高かった。また、樹皮の混入の有無に関わらず蒸煮処理で得られたパルプは、クラフト蒸解で得られたクラフトパルプと比較して、糖化率が低い傾向にあった。以上から、クラフト蒸解によって樹皮を混合しているにも関わらず高い糖化率を示す反芻家畜用飼料を製造できた。
【0051】
【表1】
【0052】
実験3:in situでの消化性評価
ルーメン内における消化性を、in situ法で測定した(Nocek 1988)。
【0053】
供試動物(牛)のルーメン内に、サンプル5g(風乾重)を秤量したポリエステルバッグ(#R1020、ポリエステル、10cm×20cm、平均孔径50±15μm、ANKOM Technology Corp.、Fairport、NY、USA)を投入した。投入後、2時間、4時間、8時間、24時間、48時間の時点でルーメン内からポリエステルバッグを取り出し、水で洗浄し、60℃で乾物恒量を求めた。また、ルーメン内には投入せず、水で洗浄しただけの飼料の入ったポリエステルバッグを、分解時間0時間の試料とした。各試料の測定は、実施日を異ならせて3連で行った。なお、市販のバミューダグラス乾草(市販品)についても、同様に試験した。
【0054】
試験結果を表2に示す。表に示されるように、木材クラフトパルプ(実験1−1、実験1−2)は、市販の乾草と比較しても高い消化率を有し、樹皮を含むにも関わらず高栄養価な粗飼料となると考えられる。
【0055】
また、蒸煮処理で得られたパルプは、樹皮の混合によって消化率が低下した。一方、クラフト蒸解で得られたクラフトパルプは、蒸煮処理で得られた飼料と比較すると、高い消化率を有していた。
【0056】
以上の結果より、樹皮を含む化学パルプは、消化率が高い反芻動物用飼料となることが見出された
【0057】
【表2】