(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-193497(P2016-193497A)
(43)【公開日】2016年11月17日
(54)【発明の名称】成形用材料及び成形用材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 1/00 20060101AFI20161021BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20161021BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20161021BHJP
【FI】
B27N1/00
B27K5/00 F
C08J3/12 ACEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-73392(P2015-73392)
(22)【出願日】2015年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126169
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 淳子
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】松尾 久美子
(72)【発明者】
【氏名】新倉 宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕司
【テーマコード(参考)】
2B230
2B260
4F070
【Fターム(参考)】
2B230BA01
2B230BA17
2B230EB05
2B230EB06
2B230EB13
2B260BA01
2B260BA18
2B260EB02
2B260EB06
2B260EB12
4F070AA01
4F070AA02
4F070AA66
4F070DA41
4F070DA42
4F070DA60
(57)【要約】
【課題】 木材を原料として、自動車部品の材料から日用品まで幅広く使用することが可能であり、成形性に優れる成形用材料を提供する。
【解決手段】 木質系バイオマスを温度170〜230℃、圧力0.8〜3MPaで、5〜20分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって得られる爆砕処理物の平均粒径を30μm以下とすることにより、成形性に優れる成形用材料を得る。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスを温度170〜230℃、圧力0.8〜3MPaで、5〜20分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって得られ、平均粒径が30μm以下である成形用材料。
【請求項2】
木質系バイオマスを温度170〜230℃、圧力0.8〜3MPaで、5〜20分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理し、得られた爆砕物を粉砕し平均粒径を30μm以下とする成形用材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質系バイオマスを原料とする成形用材料、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業資源として、木材に代表されるバイオマス材が注目されている。バイオマス材とは、植物などの生物を由来とした材料を意味する。バイオマス材は有機物であるため、燃焼させると二酸化炭素が排出される。しかしこれに含まれる炭素は、そのバイオマスが成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素に由来するため、バイオマス材を使用しても全体として見れば大気中の二酸化炭素量を増加させていないと考えてよいとされる。この性質をカーボンニュートラルと呼ぶ。
【0003】
地球温暖化問題等の地球環境問題を背景として、省資源化、及び廃棄物の原材料を目指すマテリアルリサイクル、そして、生分解性プラスチックに代表される環境循環サイクルの推進が急務となっており、我が国でも改正リサイクル法やグリーン購入法等が整備され、これに対応した製品のニーズも高まっている。
【0004】
こうした状況において、自動車部品の材料から日用品まで幅広く使用されている樹脂成型品にバイオマス材を配合することは、カーボンニュートラルの理念の実践を促進するところであり、バイオマス材として最も多量に存在する木材を成形用材料として使用する、あるいは他の樹脂材料に配合することは、近年の環境循環サイクルの推進に合致するところである。
【0005】
しかしながら、木材を処理することなくそのまま粉砕したものでは、成形性が不十分であり、他の熱可塑性樹脂との混合も困難である。そこで、特許文献1には、木質系材料を水蒸気存在下で加熱および加圧後急激に減圧して爆砕し得られる粉末状の爆砕材料、樹脂、粉末状の木質系材料とを混合して成形することにより木質系成形体を製造する方法、特許文献2には、リグノセルロース含有材料を水蒸気処理(爆砕処理も含まれる)して粒径が45μm以上180μm以下の粉末としたリグノセルロース系熱可塑性材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−272696号公報
【特許文献2】特開2003−165844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は未処理の粉末状の木質系材料を多量に含むため成形性が不十分であり、特許文献2のリグノセルロース系熱可塑性材料も成形性の点で不十分である。
【0008】
そこで、本発明の課題は、木材を原料として成形性に優れる成形用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、木材を温度170〜230℃、圧力0.8〜3MPaで、5〜20分間、水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理することによって得られ、平均粒径を30μm以下とした爆砕処理物が良好な成形性を有する成形用材料となることを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木材質系バイオマスを原料として良好な成形性を有する成形用材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、木材を爆砕処理して得られる爆砕物から成る成形用材料である。本発明の爆砕処理は、木材を温度170〜230℃、圧力0.8〜3MPaで、保持時間5〜20分間水蒸気処理した後、瞬時に圧解放するものである。このような条件で爆砕処理を行うことにより、木材中のリグニンやヘミセルロースが部分的に分解及び/または変性することによって、粉砕性が向上し、結果的に微粒子化が容易となるので、成形用材料として好適となる。
【0012】
温度が170℃未満であるとリグニンの分解が不十分となり粉砕性が十分に向上しない。また、230℃を超えるとセルロースの分解が過度になり収率が低下する。
【0013】
保持時間が5分以内であるとリグニンの分解が不十分となり粉砕性が十分に向上しない。また、20分を超えるとリグニンが縮合するためリグニンが分解し難くなり粉砕性が十分に向上しない。
【0014】
本発明において、木材1質量部に対して水を0〜1000質量部添加して水蒸気処理を行うことが好ましい。
【0015】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、のいずれもが使用できる。消化性の観点からは広葉樹が好ましい。具体的には、広葉樹としては、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ユーカリ、アカシア、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等が例示される。針葉樹としては、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等が例示される。
【0016】
本発明において、原料の木材は0.1〜100mmのサイズに粉砕された粉砕物を使用することが好ましく、0.1〜50mmのサイズのものを使用することがさらに好ましい。なお、本発明において、木材の粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。木材を粉砕するための装置としては、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。また、樹皮が混入していてもよい。
【0017】
爆砕処理を行うための装置としては、バルメット、日東高圧(株)、日本電熱(株)、(株)ヤスジマ、日本化学機械製造(株)のバッチ式の爆砕処理装置、あるいはバルメット、アンドリッツの連続式の爆砕処理装置等が挙げられる。
【0018】
本発明において、爆砕処理物の平均粒径を30μm以下とする必要がある。なお、平均粒径とは、レーザー光散乱法(レーザー回折法)により測定した体積50%平均粒子径(D50)であり、レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(マルバーン(株)製、機器名:マスターサイザー2000)等で測定することができる。爆砕物の平均粒径が30μmを超えると、成形性が低下する。
【0019】
爆砕処理物の平均粒径を30μm以下に粉砕するための装置としては、湿式粉砕機としては、マスコロイダー(増幸産業(株)製)、等、乾式粉砕機としては、セレンミラー(増幸産業(株)社製)、等、が挙げられる。
【0020】
本発明の成型用材料は、熱可塑性樹脂と混合して使用してもよい。で熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、L−LDPEが挙げられるが、これらに限定されず、熱により可塑化し成形が可能である樹脂であればいずれも用いることができる。中でも、ポリエチレン及びポリプロピレンは成形性の観点から好ましい。
【0021】
また、熱可塑性を有する生分解性樹脂と混合してもよく、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリグリコール、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール等、を使用できる。
【0022】
また、熱硬化性樹脂と混合してもよく、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂等、を使用できる。
【0023】
本発明の成形用材料を用いて、種々の成形物品を製造することができる。成形には、熱可塑性樹脂の成形に用いられる通常の方法を用いることができ、例えば、これらに限定されないが、射出成形、押出成形、ブロー成形などを行うことができる。
【0024】
本発明の成形用材料は、各種フィルム、建築材料、容器、自動車の内装部品、等に使用することが可能である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0026】
[実施例1]
ユーカリ ユーログランディスのチップをカッターミル(商品名:P−15、フリッチュ社製)で6mm以下に粉砕した。粉砕物の固形分100gに対して水を800g加え、蒸気爆砕装置(日東高圧(株)製)を用いて200℃まで加温し、圧力1.6MPa、10分間保持して水蒸気処理した後、瞬時に圧解放して爆砕処理を行った。得られた爆砕処理物に水を加えて濃度5%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMKG−C #80、増幸産業(株)製、クリアランス60μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物の平均粒径を下記の方法にて測定し、結果を表1に示した。
次に粉砕処理物を超純水で濃度0.2%に希釈し、メンブレンフィルター(使用フィルター:ADVANTEC H020A047A(親水性PTFE)、pore0.2μm、Φ47mm)で濾過した。得られた濾過物を濾紙に挟んで50tプレスで、1回目:120℃、2kgf/cm
2、10分、2回目:180℃、5kgf/cm
2、10分、の2回のホットプレスを行い、成形物を得た。得られた成形物の成形性、密度を下記の方法にて測定し、結果を表1に示した。
・粉砕処理物の平均粒径:レーザー回折/散乱式粒度分布測定器(商品名:マスターサイザー2000、マルバーン(株)製)を用いて、体積累積分布の50%点を平均粒径とした。
・成形性:成形物を目視にて、以下の基準で成形性を評価した。◎;均一なシート状に成形できる、Δ;シート状に成形できるが、不均一、×;シート状に成形できない。
・密度:成形物のノギスで厚さを測定し、その重量とから密度を算出した。
【0027】
[実施例2]
実施例1で得た爆砕処理物に水を加えて濃度10%のスラリーとして粉砕した以外は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0028】
[比較例1]
実施例1で得た爆砕処理物に水を加えて濃度5%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMK−E #46、増幸産業(株)製、クリアランス100μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0029】
[比較例2]
実施例1で得た爆砕処理物に水を加えて濃度10%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMK−E #46、増幸産業(株)製、クリアランス100μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0030】
[比較例3]
ユーカリ ユーログランディスのチップをカッターミル(商品名:P−15、フリッチュ社製)で6mm以下に粉砕した。この粉砕物に水を加えて濃度5%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMKG−C #80、増幸産業(株)製、クリアランス60μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0031】
[比較例4]
ユーカリ ユーログランディスのチップをカッターミル(商品名:P−15、フリッチュ社製)で6mm以下に粉砕した。この粉砕物に水を加えて濃度10%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMKG−C #80、増幸産業(株)製、クリアランス60μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0032】
[比較例5]
ユーカリ ユーログランディスを原料として製造したクラフトパルプをカッターミル(商品名:P−15、フリッチュ社製)で6mm以下に粉砕した。この粉砕物に水を加えて濃度5%のスラリーとして、湿式粉砕機(商品名:マスコロイダーMKG−C #80、増幸産業(株)製、クリアランス60μm)で粉砕した。得られた粉砕処理物は、実施例1と同様にして成形物を得た。粉砕処理物の平均粒径、成形物の成形性、密度を表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示されるように、実施例1〜2の平均粒径が30μm以下である爆砕処理物は成形性が良好であった。比較例1〜2の平均粒径が30μmを超えた爆砕処理物は成形性が劣っていた。また、比較例3〜4の未処理の粉砕物、比較例4のクラフトパルプも成形性が劣っていた。また、爆砕処理することによって、粉砕処理時の消費電力は低減された。