【実施例】
【0058】
[1.こごみが有する関節疼痛緩和作用]
こごみがモノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットに対し、格別顕著な関節疼痛緩和作用を有することを以下のとおりに実証した。
【0059】
(1)実験動物
6週齢雄性wistar系ラットを5日以上馴化させた。飼育環境として、照明時間は12時間とし、ケージは木材チップ(ソフトチップ;日本エスエルシー社)を床じきとしたポリカーボネイト製平底ケージ(W260×D420×H180mm;日本クレア社)を用い、1ケージあたりの収容個体数は2〜3匹とした。
【0060】
試験開始1、3、6日前にVon Frey式痛覚測定装置(DYNAMIC PLANTAR AESTHESIOMETER:37450)を用いて足底面にて疼痛閾値(右足)の測定トレーニングを行い、被験物質投与前データを取得した。また、試験前日に体重値を測定した。試験前日の疼痛閾値(右足)と体重値とがほぼ均一となるように1群12体で3群に分け、試験に供した(優先順位;疼痛閾値>体重値)。
【0061】
(2)モノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットの確立
試験開始日(0日目)よりジエチルエーテル麻酔下で右ひざ関節内腔へモノヨード酢酸(MIA;シグマ−アルドリッチ・ジャパン社)を3mg/50μL/ラットで投与することにより、モノヨード酢酸誘発関節炎モデルラットを確立した。
【0062】
(3)被験物質
被験物質としてこごみ(緑色の粉末)及びイブプロフェン(和光純薬工業社;白色の粉末)を用い、さらにコントロール物質として溶媒であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬工業社;CMC;白色の粉末)を用いた。こごみは以下の方法により調製した。
【0063】
こごみ乾燥品を洗浄後pH12の強アルカリ水(ホタテ貝殻焼成パウダー)で20分間除菌洗浄した。その後、真水で10分間洗浄し、95℃前後で30分間加熱した。冷水洗浄後、60℃〜70℃で20〜21時間、水分量が7〜8%になるように乾燥させた。乾燥後、ドリームパウダー(石臼式水冷製粉)にて破砕した。粉末を90℃で15分間加熱殺菌することで、緑色の粉末状のこごみを調製した。
【0064】
実験動物3群のそれぞれに、上記物質を下記表1に示した所定の濃度となるように、CMCに溶解又は懸濁して被験物質溶液を調製した。
【表1】
【0065】
(4)実験方法
被験物質溶液は強制経口投与とした。具体的には、至近日に測定した体重値に基づいて被験物質溶液を10mL/kgにてゾンデを用いて強制経口投与した。被験物質投与は、1日1回21日間行った。
【0066】
給餌方法は原則として自由摂取とした。飼料はMF固形飼料(オリエンタル酵母工業社)を用い、飲水は水道水を用いた。
【0067】
試験期間中はVon Frey式痛覚測定装置による疼痛閾値測定を実施した。すなわち、実験動物個体の右足の足底部について、Von Frey式痛覚測定装置による疼痛閾値を測定した。MIA投与前及びMIA投与後から7、14、21日目に測定した。各個体の後足の足底踵部1回測定した。疼痛閾値は痛みに対する退避行動、足のflinchingを確認することで決定した。
【0068】
(5)統計処理
得られた測定値について、各群で平均値(mean)、標準偏差(S.D.)及び標準誤差(S.E.)を算出した。検定は、コントロール群又はコントロール群と各群間との2群間比較(対応のないt検定)により行った。有意水準は、危険率5%とした。
【0069】
(6)実験結果
各週の疼痛閾値の測定結果を
図1に示す。疼痛閾値は値が小さいほど痛みを感じやすくなっていることを表わす。また、図中のバー及び記号は、それぞれ疼痛閾値の変化(g)及び有意水準(5%以下)を表わす。
図1に示されているとおり、こごみを用いた場合、コントロールに対して、2週目から有意に疼痛が抑制された。また、驚くべきことに、こごみは、疼痛抑制作用が知られているイブプロフェンよりも早期に疼痛抑制作用を示した。これらの結果より、こごみが格別顕著な関節疼痛緩和作用を有することがわかった。また、このような関節疼痛緩和作用により、こごみは、速効型の関節炎若しくは関節炎に伴う疼痛を緩和、改善又は抑制する作用を有し、さらに関節や軟骨を保護する作用を有することが示唆される。
【0070】
[2.こごみが有するコラゲナーゼ産生抑制作用]
こごみが軟骨細胞に対して格別顕著なコラゲナーゼ産生抑制作用を有することを以下のとおりに実証した。
【0071】
(1)実験材料
細胞は、Normal Human Articular Chondrocytes,Knee(継代数P4)(タカラバイオ社)を用いた。本細胞は、以下、NHAcとよぶ。
【0072】
試薬は、次のものを用いた:Cell Counting Kit−8(同仁化学社)、クロロホルム(和光純薬工業社)、エタノール(ゴードー社)、セパゾールRNA(ナカライテスク社)、QuantiTect Reverse Transcription Kit(キアゲン社)、Rotor−Gene SYBR Green PCR Kit(キアゲン社)、Primer(キアゲン社)、MMP13(Human):Hs_MMP13_1_SG QuantiTect Primer Assay(200)(QT00001764)(キアゲン社)、GAPDH(Human):Hs_GAPDH_2_SG QuantiTect Primer Assay(QT01192646)(キアゲン社)。
【0073】
培養関連試薬は、次のものを用いた:Dulbeccoo’s Modified Eagle’s Medium(DMEM;シグマ社)、10×HBSS(−)Without Phenol Red(和光純薬工業社)(滅菌水にて10倍希釈し使用)、Fetal Bovine Serum(FBS;バイオウェスト社)、Trypsin−EDTA(シグマ社)、ブレットキットCGM 5%FBS(軟骨細胞用増殖培地:CBM培地+CGM添加因子セット)(エーディア社)。
【0074】
使用機器及び器具等は、次のものを用いた:37℃ CO
2インキュベーター(アステック社)、滅菌フィルター 0.20μm(アドバンテック社)、24well プレート(ファルコン社)、96well プレート(ファルコン社)、冷却遠心機(日立社)、顕微鏡(IX−70;オリンパス社)、75cm
2培養フラスコ(イワキ社)。
【0075】
(2)被験試料
被験物質として市販のこごみを用いた。こごみを10mg/mLとなるようにDMEMへ溶解し、1時間以上転倒攪拌を行った。攪拌後、滅菌フィルターでろ過滅菌した。滅菌後、終濃度(4、20、100μg/mL)の3倍濃度となるように10%FBS含有DMEMにて調製した。インターロイキン1β(IL1b)を2ng/mLとなるように10%FBS含有DMEMにて調製した。
【0076】
(3)NHAcにおけるMMP−13発現に対するこごみの影響評価
NHAcを37℃、5%CO
2インキュベーター内で、75cm
2フラスコを用いてCBM培地(CGM因子添加済)にて培養した。次いで、トリプシン処理により浮遊させた細胞を、75cm
2フラスコから96well プレートの各wellに10%FBS含有DMEM 100μL中にある1×10
4cells/wellを播種し、37℃、5%CO
2インキュベーター内で一晩前培養した。
【0077】
前培養後、培養上清をアスピレーターにて除去した後、10%FBS含有DMEM、終濃度の3倍に調製した被験試料及び2ng/mLのIL1bを30μLずつ記載順に添加し、37℃、5%CO
2インキュベーター内で18時間培養した。なお、コントロールとして、10%FBS含有DMEMを30μLずつ3回添加したもの(IL1b−)及び10%FBS含有DMEM30μLを2回添加後2ng/mLのIL1bを30μL添加したもの(IL1b+)を同様に培養した。
【0078】
培養後、培養上清を除去した後、セパゾールRNA及びクロロホルムを用いてRNAを抽出し、次いでエタノール沈殿にてRNA精製を行った。得られた総RNA全量とQuantiTect Reverse Transcription Kitを用いてcDNA合成を行った。
【0079】
cDNA溶液 10μLへ、NFW 80μL、1M NaCl 10μL、100%エタノール 300μLを添加してエタノール沈殿を行った。エタノールを除去した後、沈殿したcDNAに10μLのNFWへ再溶解して得られたcDNA溶液 2μLと、Rotor−Gene SYBR Green PCR Kitとを用い、リアルタイムPCRにてMMP13発現量を測定した。内部標準としてGAPDHを用いた。なお、PCRは以下の条件にて実施した:95℃、5分;(95℃ 5秒、60℃ 10秒、72℃ 10秒)×45サイクル。
【0080】
評価結果を
図2に示す。
図2が示すとおり、こごみを添加することにより、MMP13発現量を抑制することができた。しかも、驚くべきことに、こごみは濃度依存的にMMP13発現量を抑制することができた。この結果は、MMP−13は軟骨に存在するタイプIIコラーゲンの分解能が非常に高いことが知られており、このMMP−13の発現をこごみは抑制することができることから、こごみを用いれば、炎症などの刺激によるコラーゲン分解酵素の発現を抑制し、コラーゲンの分解を抑えることにより、軟骨の保護、関節機能の低下予防が可能であることが示唆される。
【0081】
[3.こごみが有する抗糖化作用]
こごみが格別顕著な抗糖化作用を有することを、Biol.Pharm.Bull.31(8) 1626−1630(2008)を参照して、以下のとおりに実証した。
【0082】
(1)被験物質
被験物質として市販のこごみを用いた。ポジティブコントロールとして、代表的な抗糖化剤であるアミノグアニジン(アミノグアニジン塩酸塩、Cayman Chemical社)を用いた。
【0083】
(2)実験方法
リン酸緩衝剤粉末(1/15mol/l;pH 7.2)(和光純薬工業社)を蒸留水に溶解して67mMリン酸緩衝液(以下、67mM PBと略する)を調製した。D(+)グルコース(ナカライテスク社)を67mMPBで溶解して200mg/mLグルコース溶液を調製した。アルブミン(ウシ血清由来コーンフラクションV、pH7.0、生化学用)(和光純薬工業社)(以下、BSAと略する)を67mMPBで溶解して40mg/mL BSAを調製した。
【0084】
こごみは67mM PBに溶解しないため、67mM PBを用いて32mg/mLとなるように調製し、室温で1時間ヴォルテックス攪拌した後に、10,000g、室温、5分間で遠心分離した。この上清液を採取して、32mg/mL溶液とした。その後、67mM PBを用いて16mg及び8mg/mLに系列希釈した。また、アミノグアニジンは67mM PBを用いて4.00mg/mLに調製した。これらのこごみ溶液及びアミノグアニジン溶液を被験物質溶液とした。
【0085】
被験物質溶液、グルコース溶液、BSA溶液及び67mMPBを用いて表2に示す割合で試験溶液及びコントロールを調製した。
【0086】
【表2】
【0087】
試験溶液又はコントロールを混合して、60℃で48時間インキュベートした。インキュベート後の試験溶液 30μLを精製水 270μLとBlack plateの各ウェル内でプレートシェーカーを用いて600rpm、1分間混合した。混合後の各ウェルについて、370nmで励起したときの440nmの蛍光強度を分光蛍光光度計で測定し、次の式により糖化産物生成の阻害率(%)を算出した。
【0088】
糖化産物生成の阻害率(%)
=(1−[(Sample
test−Sample
blank)/(Control
test−Control
blank) ])×100
(式中、Sample
test:試験溶液(test)の蛍光強度
Sample
blank:試験溶液(blank)の蛍光強度
Control
test:コントロール(test)の蛍光強度
Control
blank:コントロール(blank)の蛍光強度)
【0089】
(3)結果
結果を
図3に示す。
図3が示すとおり、こごみは、濃度依存的に糖化産物の生成を阻害する作用、すなわち、抗糖化作用を示すことがわかった。また、こごみ及びアミノグアニジンが有する抗糖化作用のIC50はそれぞれ4.84mg/mL及び0.32mg/mLであった。
【0090】
[4.こごみが有するグルコシダーゼ阻害作用]
こごみが格別顕著なα−グルコシダーゼ阻害作用を有することを、以下のとおりに実証した。α−グルコシダーゼは、ブドウ糖、デンプンなどの消化酵素であり、この酵素を阻害することによって、糖質の吸収が阻害される。
【0091】
(1)被験試料
被験物質として市販のこごみ(黄土色粉末)を用いた。こごみを0.1MPBにて50mg/mLに調製し、10分間、超音波処理後、1時間室温にてヴォルテックス攪拌した。得られたこごみ懸濁液を、10,000rpmにてl分間遠心した。得られた上清を原液として、0.1MPBにて終濃度が0.63、1.25、2.5及び5mg/mLになるように系列希釈した。なお、0.1MPBは0.1M NaH
2P0
4・2H
20水溶液と0.1M Na
2HP0
4・12H
20水溶液をpH7.0となるように混合して調製した。
【0092】
(2)実験方法
各被験試料を80μL分取した。次いで、このサンプル溶液に40μLの0.02Mの基質水溶液(基質:p−ニトロフェニル−α−Dグルコピラノシド;Calbiochem社)を添加して37℃で5分間保持した。
【0093】
その後、0.3μg/mLの濃度でα−グルコシダーゼ(和光純薬工業社)を含有する2mg/mLのBSA含有リン酸緩衝液を40μL加えて、さらに37℃で15分間保持した。
【0094】
次いで、停止液として0.2M炭酸ナトリウム水溶液 160μLを添加し、得られた溶液を試験液として400nmの吸光度を測定した(測定値Aとする)。対照として、上記サンプル溶液の代わりに、精製水を用いたこと以外は上記と同様の手順で得た対照試験液の吸光度を測定した(測定値Bとする)。
【0095】
さらに、試験液及び対照試験液の各ブランクとして、停止液を酵素溶液の前に加えること以外には上記と同様の手順で得た各溶液(ブランク)の吸光度を測定した(試験液のブランクの測定値を測定値C及び対照試験液のブランクの測定値を測定値Dとする)。
【0096】
上記の測定値A〜Dを用いて、以下の式からα−グルコシダーゼ阻害率(%)を求めた(n=2):
α−グルコシダーゼ阻害率(%)=(1−[A−C]/[B−D])×100
【0097】
(3)結果
結果を
図4に示す。
図4が示すとおり、こごみは、濃度依存的にα−グルコシダーゼ阻害作用を有することがわかった。