(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-196895(P2016-196895A)
(43)【公開日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】フラット型波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20161028BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-21328(P2014-21328)
(22)【出願日】2014年2月6日
(71)【出願人】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】張 新月
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA04
3J027FA05
3J027FA37
3J027FB40
3J027GA01
3J027GC08
3J027GC22
(57)【要約】
【課題】波動発生器による可撓性外歯歯車の支持剛性を高めることのできるフラット型波動歯車装置を提供すること。
【解決手段】フラット型波動歯車装置の波動発生器5は、楕円状輪郭の外周面6aを備えた剛性プラグ6と、外周面6aに装着されて楕円状に撓められているボールベアリング7とを備えている。ボールベアリング7の外輪10の幅寸法W(10)は、外歯4aの歯筋方向の幅寸法W(4a)に対して、60%から100%の範囲内の値に設定されている。ボールベアリング7のボール中心O(9)に、外輪10の幅方向の中心および外歯4aの歯筋方向の中心が位置している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1剛性内歯歯車と、
前記第1剛性内歯歯車に同軸に並列配置した第2剛性内歯歯車と、
前記第1、第2剛性内歯歯車の内側に配置され、前記第1、第2剛性内歯歯車にかみ合い可能な可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の内側に装着され、当該可撓性外歯歯車を楕円状に撓めて前記剛性内歯歯車に対して部分的にかみ合わせている波動発生器と、
を有し、
前記可撓性外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒と、前記円筒の外周面に形成された外歯とを備え、
前記波動発生器は、楕円状輪郭の外周面を備えた剛性プラグと、前記剛性プラグの外周面に装着されて楕円状に撓められているボールベアリングとを備え、
前記ボールベアリングの外輪の幅寸法は、前記外歯の歯筋方向の幅寸法に対して、60%から100%の範囲内の値に設定されていることを特徴とするフラット型波動歯車装置。
【請求項2】
前記ボールベアリングの内輪の幅寸法は、前記外輪の幅寸法よりも小さい請求項1に記載のフラット型波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフラット型波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置としては、特許文献1、2に記載されたフラット型波動歯車装置が知られている。フラット型波動歯車装置では、同軸状に並列配置された2個の剛性内歯歯車の内側に円筒状の可撓性外歯歯車が配置されている。可撓性外歯歯車は、その内側に装着した楕円状輪郭の波動発生器によって楕円状に撓められ、その楕円形状の長軸両端において双方の剛性内歯歯車にかみ合っている。
【0003】
可撓性外歯歯車を楕円状に撓めて剛性内歯歯車にかみ合わせている波動発生器は、一般に、楕円状輪郭の外周面を備えた剛性プラグと、この外周面に装着したボールベアリングとから構成される。楕円状に撓められているボールベアリングの外輪の外周面の長軸両端の部分によって、可撓性外歯歯車が半径方向の外方に押されて、剛性内歯歯車に対するかみ合いが保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−180259号公報
【特許文献2】特開2009−156461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、波動発生器によって可撓性外歯歯車は楕円状に保持されて剛性内歯歯車にかみ合う。従って、薄肉弾性体の可撓性外歯歯車と剛性内歯歯車とのかみ合い状態、特に、それらの歯筋方向のかみ合い状態は、波動発生器の支持剛性に左右される。波動発生器の支持剛性を高めるためには、楕円状輪郭の剛性プラグの剛性を十分に高める必要がある。また、可撓性外歯歯車の歯底疲労強度を上げるためには、歯幅方向における外歯の歯面荷重分布を均一化して、その最大歯面荷重を下げることが必要である。
【0006】
剛性プラグと可撓性外歯歯車の間には、相対回転できるようにボールベアリングが装着されている。可撓性外歯歯車は、ボールベアリングを介して、剛性プラグによって楕円状に撓められた状態に保持される。すなわち、ボールベアリングの内輪は剛性プラグの楕円状の外周面に直接に装着されて楕円状に撓められており、ボールベアリングの外輪は、ベアリングボールおよび内輪を介して、楕円状に撓められている。可撓性外歯歯車は、ボールベアリングの外輪によって直接に支持され、楕円状に撓められた状態に保持される。
【0007】
したがって、波動発生器による可撓性外歯歯車の支持剛性を高め、また、外歯の歯幅方向の歯面荷重分布を均一にするためには、波動発生器のボールベアリングの外輪による可撓性外歯歯車の支持状態を適切に設定することが極めて有効である。
【0008】
しかしながら、従来においては、この点については着目されていない。フラット型波動歯車装置において、波動発生器による可撓性外歯歯車の支持剛性が十分でなく、ボールベアリング外輪による可撓性外歯歯車の支持状態が適切でないと、歯面荷重分布の均一化を図ることができず、可撓性外歯歯車の歯底疲労強度が低下する。また、高負荷トルク時あるいは高回転時において、ラチェティングが発生するおそれもある。波動歯車装置におけるラチェティングとは、高負荷トルクでの回転時に、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車の間
のかみ合い状態にある歯に滑りが発生して、相互にずれてしまい、正常なかみ合いを形成できない現象を言う。
【0009】
本発明の課題は、波動発生器によって可撓性外歯歯車を適切な状態で支持可能なフラット型波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のフラット型波動歯車装置は、
第1剛性内歯歯車と、
前記第1剛性内歯歯車に同軸に並列配置した第2剛性内歯歯車と、
前記第1、第2剛性内歯歯車の内側に配置され、前記第1、第2剛性内歯歯車にかみ合い可能な可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の内側に装着され、当該可撓性外歯歯車を楕円状に撓めて前記剛性内歯歯車に対して部分的にかみ合わせている波動発生器と、
を有し、
前記可撓性外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒と、前記円筒の外周面に形成された外歯とを備え、
前記波動発生器は、楕円状輪郭の外周面を備えた剛性プラグと、前記剛性プラグの前記外周面に装着されて楕円状に撓められているボールベアリングとを備え、
前記ボールベアリングの外輪の幅寸法は、前記外歯の歯筋方向の幅寸法に対して、60%から100%の範囲内の値に設定されており、
前記ボールベアリングのボール中心に、前記外輪の幅方向の中心および前記外歯の歯筋方向の中心が位置していることを特徴としている。
【0011】
従来における波動発生器のボールベアリングの場合には、可撓性外歯歯車を楕円状に撓めて剛性内歯歯車にかみ合わせる力(かみ合わせ力)が、可撓性外歯歯車における幅方向の中心部分の狭い領域に集中する。フラット型波動歯車装置では、可撓性外歯歯車が、並列配置された2個の剛性内歯歯車にかみ合っているので、外歯の歯幅が広い。よって、従来の波動発生器では、広幅の可撓性外歯歯車を、歯幅方向の全体において均一に支持できず、支持剛性が不足し、歯幅方向の歯面荷重分布の均一化を図ることができない。
【0012】
これに対して、本発明の場合には、可撓性外歯歯車に直接に接触しているボールベアリングの外輪の幅を、歯幅の60%から100%までの範囲内の値に設定している。これにより、可撓性外歯歯車の歯幅方向の各部分を、均一で十分な力で、剛性内歯歯車の側に押し付けて、確実なかみ合い状態を形成できる。この結果、可撓性外歯歯車の歯幅方向の歯面荷重の均一化を達成でき、これにより、可撓性外歯歯車の歯底疲労強度を高めることができる。また、フラット型波動歯車装置におけるラチェティングが発生する負荷トルクを高めることも可能である。
【0013】
ここで、波動発生器のボールベアリングの内輪の幅は、一般的には、剛性プラグの幅に対応して設定され、外輪よりも狭い寸法に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明を適用したフラット型波動歯車装置の概略縦断面図である。
【
図2】
図1のフラット型波動歯車装置における各部の寸法の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したフラット型波動歯車装置の実施の形態を説明する。
図1に示すように、フラット型波動歯車装置1は、同軸状に配列配置された第1剛性内歯歯車2および第2剛性内歯歯車3と、これらの歯車2、3の内側に同軸に配置さ
れた円筒状の可撓性外歯歯車4と、この歯車4の内側に装着した波動発生器5とを備えている。
【0016】
可撓性外歯歯車4は、楕円状輪郭の波動発生器5によって楕円状に撓められ、その楕円形状の長軸両端に位置する外歯4aが、双方の第1、第2剛性内歯歯車2、3の内歯2a、3aにかみ合っている。第2剛性内歯歯車3は可撓性外歯歯車4と同一の歯数を有している。これらの歯車3、4に対して、第1剛性内歯歯車2は、2n枚(n:正の整数)だけ多い歯数、例えば2枚多い歯数を有している。
【0017】
例えば、歯数の多い第1剛性内歯歯車2を回転しないように固定される。波動発生器5を回転すると、第1、第2剛性内歯歯車2、3と可撓性外歯歯車4との間のかみ合い位置が円周方向に移動する。これにより、波動発生器1回転当り、歯数の多い第1剛性内歯歯車2に対して、歯数の少ない可撓性外歯歯車4が歯数差に応じた分だけ相対回転する。この回転が、可撓性外歯歯車4と一体回転する同一歯数の第2剛性内歯歯車3から不図示の負荷部材の側に出力される。
【0018】
波動発生器5は、楕円状輪郭の外周面6aを備えた剛性プラグ6と、この外周面6aに装着したボールベアリング7とから構成される。ボールベアリング7の外輪10は、楕円状の外周面6aに嵌められて楕円状に撓められている。ベアリングボール9を挟み、楕円状に撓められているボールベアリング7の外輪10は、その長軸両端の外周面部分によって、可撓性外歯歯車4を半径方向の外方に押している。これにより、可撓性外歯歯車4と第1、第2剛性内歯歯車2、3とのかみ合いが保持される。
【0019】
図2は、可撓性外歯歯車4の外歯4aおよびボールベアリング7の各部の寸法関係および位置関係を示す説明図である。可撓性外歯歯車4の外歯4aの歯筋方向の長さ寸法である歯幅寸法をW(4a)とし、外輪10の中心軸線1aの方向の外輪幅寸法をW(10)とする。本例では、外輪幅W(10)を歯幅W(4a)の60%〜100%の範囲内の値に設定してある。また、ボール9の中心に、外輪10の幅方向の中心位置および外歯4aの歯筋方向の中心が一致するように、これらの部位9、10、4aが配置されている。また、内輪8の幅寸法をW(8)とすると、内輪幅寸法W(8)は外輪幅寸法W(10)よりも小さい。
【0020】
フラット型波動歯車装置において一般的に使用されている波動発生器のボールベアリングの外輪幅は、外歯の歯幅の50%程度と狭い。本発明では幅広の外輪10をもつ波動発生器5を使用している。これにより、外輪10による可撓性外歯歯車4の支持剛性を全体として高めることができる。
【0021】
また、波動発生器5のベアリングボール9の中心位置は、歯面荷重を分担する歯の歯筋方向の領域を左右する。この歯面荷重を分担する歯筋方向の領域は、歯底強度だけではなく、可撓性外歯歯車4のねじれ剛性にも影響を及ぼす。本例では、ベアリングボール9の中心に、幅方向の中心が位置するように外輪10を配置し、また、歯筋方向の中心が位置するように外歯4aを配置してある。よって、歯筋方向における外歯4aの歯面荷重の分布を均一化でき、歯底疲労強度を高め、また、可撓性外歯歯車4のねじれ剛性も高めることができる。
【0022】
さらに、可撓性外歯歯車4と、第1、第2剛性内歯歯車2、3との間における歯筋方向のかみ合いの改善も期待できる。すなわち、可撓性外歯歯車4と第1、第2剛性内歯歯車2、3との間のかみ合い部分において、歯のねじれが小さくなり、歯先干渉が起こりにくくなり、ラチェティング負荷トルクの向上が期待できる。
【符号の説明】
【0023】
1 波動歯車装置
2 第1剛性内歯歯車
2a 内歯
3 第2剛性内歯歯車
3a 内歯
4 可撓性外歯歯車
4a 外歯
5 波動発生器
6 剛性プラグ
6a 外周面
7 ボールベアリング
8 内輪
9 ベアリングボール
10 外輪
W(4a) 外歯の歯筋方向の幅
W(10) 外輪の幅
O(9) ボール中心