【解決手段】磁気ディスク10に対向して配置する平板状のプレート部41と、当該プレート部41を支持する支持部42とを備える磁気ディスク用整流部品であるスポイラ40とを備え、スポイラ40が、樹脂製の本体部401と、本体部401の表面全面を覆う金属めっき層402と、を含む。これにより、磁気ディスクへのパーティクルの付着を抑制することが可能となる。
断面画像における前記本体部の表面の長さをAとし、当該断面画像における前記本体部の表面の端部同士を結んだ直線の長さをLとしたときに、A/Lが1.35〜7.10である請求項1に記載の磁気ディスク装置用整流部品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、樹脂製の整流部品を備える磁気ディスク装置では、以下の問題が生じる可能性がある。すなわち、樹脂製の整流部品はプラスに帯電しているため、磁気ディスク装置内でプラスの電荷を帯びた塵埃(パーティクル)が、マイナスの誘導電荷を帯びた磁気ディスクに付着しやすくなる。磁気ディスクにパーティクルが付着すると、磁気ディスク又は磁気ヘッドを損傷させる可能性が生じる。
【0005】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、磁気ディスクへのパーティクルの付着を抑制することが可能な磁気ディスク装置用整流部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る磁気ディスク装置用整流部品は、磁気ディスクに対向して配置する平板状のプレート部と、当該プレート部を支持する支持部とを備える磁気ディスク装置用整流部品であって、樹脂製の本体部と、前記本体部の表面全面を覆う金属めっき層と、を含むことを特徴とする。
【0007】
上記の磁気ディスク装置用整流部品は、樹脂製の本体部における表面全面が金属めっき層に覆われている。このため、整流部品の表面抵抗を小さくすることができることから、プレート部が対向する磁気ディスクがマイナスの誘導電荷を帯電することを防ぐことができる。したがって、磁気ディスクへのパーティクルの付着を抑制することができる。
【0008】
ここで、断面画像における前記本体部の表面の長さをAとし、当該断面画像における前記本体部の表面の端部同士を結んだ直線の長さをLとしたときに、A/Lが1.35〜7.10である態様とすることができる。
【0009】
A/Lを上記の範囲とすることで、磁気ディスク装置用整流部品における表面抵抗が小さくなることに加えて、本体部と金属めっき層との密着性が良好となる。したがって、磁気ディスク装置に取り付けた際の金属めっき層の剥がれ等の発生を防ぐことができる。
【0010】
また、金属めっき層の厚みが0.4μm〜10.2μmである態様とすることができる。
【0011】
金属めっき層の厚みを上記の範囲とすることで、磁気ディスク装置用整流部品における表面抵抗を安定して小さくすることができるため、磁気ディスクへのパーティクルの付着に係る抑制効果を高めることができる。
【0012】
ここで、前記金属めっき層の硬度が300HV〜800HVである態様とすることができる。
【0013】
金属めっき層の硬度が上記の範囲であることで、本体部との密着性が向上し、磁気ディスク装置用整流部品としての耐久性が向上する。
【0014】
前記本体部はフィラーを含み、前記本体部と前記金属めっき層との界面には前記フィラーが露出している態様とすることができる。
【0015】
本体部がフィラーを含むことで、強度が向上する。また、フィラーが本体部の表面の金属めっき層との界面に露出していることで、本体部の表面の凹凸の隙間に金属めっき層が入り込みやすくなり、本体部と金属めっき層との密着性が向上する。
【0016】
前記金属めっき層は無電解めっき法により形成される態様とすることができる。
【0017】
金属めっき層を無電解めっき法により形成することで、本体部の形状に拘らず、表面全体に金属めっき層を容易に形成することができる。また、金属めっき層の厚さの制御も容易に行うことができるため、磁気ディスクにパーティクルが付着することを防止することができるより精度の高い整流部品を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁気ディスクへのパーティクルの付着を抑制することが可能な磁気ディスク装置用整流部品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気ディスク装置用を備えた磁気ディスク装置1の概略構成図である。磁気ディスク装置1(HDD)は、記録部分である複数の磁気ディスク10と、磁気ディスク10を回転させるスピンドルモータ20と、磁気ディスク10の主面に形成される磁気記録層と対向する磁気ヘッド32を備えるヘッドスタックアセンブリ(HSA)30と、複数の磁気ディスク10の回転による気流を整流する磁気ディスク装置用整流部品であるスポイラ40(ディスク・スポイラ)と、を有する。これらの構成要素は、筐体50に収容され、筐体50の上部をカバー52(
図3参照)により覆った状態で使用される。
【0022】
複数の磁気ディスク10は、互いに離間した状態でスピンドルモータ20の円柱部に固定される。本実施形態では、3枚の磁気ディスクが設けられている場合について説明するが、その数は適宜変更することができる。
【0023】
スピンドルモータ20は、駆動源であるモータと、複数の磁気ディスク10が取り付けられたスピンドルとを有し、駆動源の駆動によってスピンドルが回転することにより、複数の磁気ディスク10を回転させる。
【0024】
HSA30の磁気ヘッド32は、磁気ディスク10の主面に形成されている磁気記録層の表面に対して、アーム34により平行に移動可能とされている。回転している磁気ディスク10の磁気記録層に対して磁気ヘッド32が対向して浮上した状態とすることで、情報の記録を行うと共に、磁気記録層から情報の読み出しを行う。また、スポイラ40は、筐体50に対して取り付けられて、複数の磁気ディスク10の間にその一部が挿入されて、磁気ディスク10の回転により生じる気流を整流する機能を有する整流部品である。スポイラ40は、左回り(
図1のX方向)に磁気ディスク10が回転する場合に、磁気ヘッド32の上流側となる位置に設けられる。
【0025】
図2は、スポイラ40の構成を説明する概略斜視図である。また、
図3は、スポイラ40を磁気ディスク装置1に対して取り付けた際の配置を説明する概略断面図である。
図2,3に示すように、スポイラ40は、複数のプレート部41a〜41dと、プレート部41a〜41dを支持する支持部42と、を含んで構成される。
【0026】
プレート部41a〜41dは、それぞれ平板状の部材であり、互いに平行且つ離間した状態で支持部42に取り付けられる。支持部42には、下方の端部にネジ止め用の貫通孔43が設けられる。
【0027】
上記のスポイラ40は、樹脂製の本体部401と、本体部401の全面を覆う金属めっき層402とを含むことを特徴とする。すなわち、スポイラ40の表面は全て金属めっき層402により形成されている。スポイラ40に貫通孔43が形成されている場合、「全面」とは貫通孔43内壁も含む。スポイラ40の本体部401と金属めっき層402については後述する。
【0028】
上記のスポイラ40において、磁気ディスク装置1の組み立て時には、隣接するプレート部41a〜41dの間にそれぞれ磁気ディスク10a〜10cが挿入される。具体的には、磁気ディスク10a〜10cをスピンドルモータ20に取り付けた後に、スポイラ40を筐体50上に配置し、ネジを貫通孔43に挿入することで仮止めをする。その後、プレート部41a〜41dが磁気ディスク10a〜10cと重なる位置にまでネジを軸にスポイラ40を回転させた後に、ネジを固定する。本実施形態の磁気ディスク装置1では、
図3に示すように、プレート部41aと41bとの間に磁気ディスク10aが挿入される。同様に、プレート部41bと41cとの間に磁気ディスク10bが挿入され、プレート部41cと41dとの間に磁気ディスク10cが挿入される。これにより、プレート部41a〜41dの少なくとも一方の主面は、それぞれ磁気ディスク10a〜10cのいずれかの主面と対向して配置される。
【0029】
次に、スポイラ40の内部構造について説明する。スポイラ40は、樹脂製の本体部401と、本体部401の全面を覆う金属めっき層402とを含むことを特徴とする。すなわち、スポイラ40の表面は全て金属めっき層402により形成されている。なお、スポイラ40に貫通孔43が形成されている場合、「全面」とは貫通孔43内壁も含む。
【0030】
本実施形態に係るスポイラ40は、従来の樹脂製のスポイラと比較して表面抵抗が小さい。スポイラ40の表面抵抗が小さいということは、スポイラ40表面がプラスの電荷に帯電することを防ぐことができる。これにより、磁気ディスク10がマイナスの誘導電荷を帯びることを防ぐことができる。その結果、磁気ディスク装置1内でプラスの電荷を帯びた塵埃(パーティクル)が磁気ディスク10に付着することを防止することができる。以下、表面抵抗が小さいスポイラ40を実現する内部構造及びスポイラ40の製造方法について説明する。
【0031】
スポイラ40の本体部401には、高精度寸法の加工ができ、且つ低コストであるという点から、樹脂が用いられている。本実施形態において「樹脂製である」とは、本体部401の総重量に対して樹脂の割合が10重量%以上であるもののことをいう。また、本体部401が「樹脂製である」場合には、本体部401における総体積に対する樹脂の割合が30体積%以上である。本体部401を形成する樹脂としては、例えば、耐熱性及び高弾性係数を有するものとして、ポリイミド樹脂又はポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂、及び、これら樹脂に強化繊維等のフィラーを配合した材料などが挙げられる。特に、ポリイミド樹脂又はポリカーボネート樹脂は、射出成型加工が可能であり、且つ、高弾性率の樹脂であることから、本体部401として好適に用いられる。射出成型加工により本体部401を形成することで、高精度寸法での成型を実現することができる。
【0032】
フィラーは、本体部401の強化のために配合される場合がある。フィラーとしては、例えば炭素繊維、ガラス繊維等を好適に用いることができる。フィラーを本体部401に配合することで、本体部401の強度を好適に高めることができる。本体部401がフィラーを含有する場合、その含有量は、フィラーの種類及び本体部401を構成する樹脂等に基づいて適宜設定することができる。
【0033】
金属めっき層402としては、ニッケルめっき層、銅めっき層等を採用することができる。金属めっき層402の厚みは、0.4μm〜10.2μmとすることが好ましい。金属めっき層402の厚みが0.4μm以上である場合、スポイラ40の表面抵抗を小さくすることができる。また、金属めっき層402の厚みを10.2μm以下である場合、本体部401との密着性が向上する。なお、金属めっき層402の厚みは、蛍光X線分析装置等により測定することができる。
【0034】
また、金属めっき層402は、硬度が300HV〜800HVであることが好ましい。硬度が上記の範囲であることで、本体部401との密着性が向上し、スポイラ40としての耐久性も向上する。なお、ここでの硬度とはビッカース硬さである。なお、金属めっき層402がニッケル−リン層又はニッケル−ボロン層である場合に、上記の硬度範囲であると、本体部401との密着性向上効果が特に大きくなる。密着性向上及び耐久性向上の観点から、硬度が400HV〜800HVであることが更に好ましい。
【0035】
図4は、本体部401と金属めっき層402の界面を拡大した断面画像である。
図4では、本体部401としてポリイミド樹脂401aに対して炭素繊維401bが混合しているものを採用している。
図4に示すように、本体部401がフィラーとしての炭素繊維401bを含有している場合、炭素繊維401bの一部が金属めっき層402との界面に露出していることが好ましい。フィラーとしての炭素繊維401bの一部が金属めっき層402との界面に露出している場合、金属めっき層402は、
図4に示すように本体部401のポリイミド樹脂401aと炭素繊維401bと隙間に入り込んだ状態で形成される。したがって、本体部401と金属めっき層402との密着性が向上する。
【0036】
また、断面画像における本体部401表面の長さをAとし、当該断面画像における本体部401表面の端部同士を結んだ直線の長さをLとしたときに、A/Lが1.35〜7.10の範囲となることが好ましい。上記のA/Lは、以下の方法により算出することができる。すなわち、研磨により断面を形成した後に、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて2次電子像を取得する。その後、2次電子像に対して画像解析ソフト(例えば、製品名:Mac−View、MOUNTECH社製)等を用いて、本体部401の表面をトレースすると、
図5(A)のような凹凸を有する線が得られる。これが、本体部401の表面の長さAであり、この線の長さをAとする。次に、断面画像における本体部401の表面の端部同士を直線で結ぶと、
図5(B)に示すような直線が得られる。この直線の長さをLとする。これにより、A/Lを算出することができる。A/Lが1.35〜7.10の範囲にあるときに、スポイラ40の表面抵抗が小さくなると共に本体部401と金属めっき層402との密着性が良好となる。
【0037】
上記のスポイラ40は、以下の方法により製造することができる。すなわち、本体部401を形成する工程と、ブラスト処理により、本体部401の表面に凹凸を形成する工程と、本体部401の表面に金属めっき層を形成する工程と、を有する。
【0038】
本体部401を形成する工程は、公知の樹脂成形の方法であれば特に限定されないが、例えば、射出成型を用いることができる。
【0039】
本体部401の表面に凹凸を形成する工程において用いられるブラスト処理としては、ドライブラスト処理が好適に用いられる。ブラスト処理は、本体部401と金属めっき層402との密着性の向上のための処理である。ブラスト処理により、本体部401の表面における上記のA/Lが1.35〜7.10の範囲となるように表面を加工する。ドライブラスト法の場合、研磨粉の粒径を調整することで、A/Lを所望の範囲とすることができる。本体部401にフィラーが含まれている場合には、ブラスト処理を行うことで、フィラーを本体部401表面に露出させる。これにより、金属めっき層402との密着性がより向上する。また、フィラーが例えば繊維状の細長い物質からなり、本体部401の表面から大きく突出している場合には、ブラスト処理によって大きく突出している部分の一部を除去することもできる。
【0040】
金属めっき層を形成する工程ではその方法は特に限定されず、電解めっき法、無電解めっき法等の公知の方法を用いることができる。なお、金属めっき層を無電解めっき法により形成する場合、本体部の形状に拘らず、表面全体に金属めっき層を容易に形成することができると共に、厚さの制御等も容易に行うことができる。以下、無電解めっき法を用いた金属めっき層の形成方法の一例について説明する。
【0041】
まず、前処理としてめっき対象表面の脱脂処理を行う。脱脂液はアルカリ脱脂液又は酸性脱脂液を使用することができる。好適には、本体部401表面に付着した油脂分を除去するためにアルカリ脱脂液が有効である。なお、脱脂処理後は純水で洗浄を行う。
【0042】
次に、本体部401表面に触媒が付着しやすい表面に調整するためにアルカリ性水溶液処理を行う。その後、必要に応じて、本体部401表面の水分を除去するためにプリディップ処理を行う。
【0043】
次に、無電解めっき膜が形成される際の触媒核となる触媒を本体部401表面に付着させる。触媒としては銅、銅−ニッケル合金、白金、銀、パラジウム等の貴金属など公知の材料を用いることができるが、一般的に使用されているパラジウムが好ましい。本体部401表面を、パラジウム等の貴金属コロイドを含む触媒液に浸漬して処理することにより、表面に触媒を付着させることができる。なお、パラジウム触媒によるめっき析出性を高めるために、さらに密着促進処理を行ってもよい。その後、水洗を行う。
【0044】
次に、触媒を付着させた本体部401表面に無電解めっきを施し、無電解めっき膜からなる金属めっき層402を形成する。無電解めっきとしては特に限定されるものではないが、無電解銅めっき、無電解ニッケルめっき、無電解パラジウムめっき、無電解銀めっき、無電解金めっき、無電解白金めっき等を使用することができる。また、これら貴金属の合金めっきも使用することができる。なお、経済的な観点及び作業性向上の観点から、これらのめっきの中でも無電解ニッケルめっき(Ni−Pめっき、Ni−Bめっき等)又は無電解銅めっきが好適である。無電解ニッケルめっき(Ni−Pめっき)を行う場合、めっき液として、例えば、硫酸Ni及び次亜リン酸Naを含むめっき液を用いることができる。これらのめっきを組み合わせて複数層のめっき膜を形成してもよい。めっきの種類によっても異なるが、無電解めっき膜は、通常40〜90℃に調整しためっき液を用いて本体部401を20〜60分間処理することで形成することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る磁気ディスク装置1では、磁気ディスク装置用整流部品であるスポイラ40が、樹脂製の本体部401と、本体部401の全面を覆う金属めっき層402とを備えることにより、スポイラ40における表面抵抗が小さくなり、スポイラ40表面がプラスの電荷に帯電することを防ぐことができる。このため、本実施形態に係るスポイラ40を用いることで、スポイラ40と対向配置される磁気ディスク10がマイナスの誘導電荷を帯びることを防ぐことができる。その結果、磁気ディスク装置1内でプラスの電荷を帯びた塵埃(パーティクル)が磁気ディスク10に付着することを防止することができる。
【0046】
特に、本実施形態に係るスポイラ40は、全面が金属めっき層402で覆われていることを特徴とする。したがって、本体部401が外部に露出しないため、本体部401に用いる材料の選択肢が広がる。従来の樹脂製のスポイラにおけるパーティクルの付着という課題に対して、例えば、樹脂材料に対して導電性のフィラー等を配合すること等によりスポイラの帯電を抑制することも可能である。しかしながら、樹脂材料とフィラーとが混合された領域が外部(装置内部)に露出する場合には、フィラー等によるコンタミの発生が懸念される。これに対して、本体部401の全面が金属めっき層402により覆われたスポイラ40では、樹脂材料にフィラーを混合した場合でもフィラーが外部に露出することはないため、コンタミ等を懸念しなくてよい。
【0047】
したがって、本実施形態に係るスポイラ40は、金属製のスポイラと同様にパーティクルが磁気ディスク10に付着することを防止できると共に、樹脂製のスポイラと同様に金属コンタミの発生を回避しつつ低コスト化を実現することができる。
【0048】
また、スポイラ40の断面画像における本体部401表面の長さをAとし、当該断面画像における本体部401表面の端部同士を結んだ直線の長さをLとしたときに、A/Lが1.35〜7.10の範囲であることで、本体部401と金属めっき層402との密着性が向上する。
【0049】
スポイラ40等の磁気ディスク装置用整流部品として樹脂材料を使用する場合、高温環境で使用されることため耐熱性が要求される。また、その機能から高弾性係数をもつ樹脂材料が好適に用いられる。しかしながら、このような樹脂材料は一般的に難めっき性であり、金属めっき層を形成したとしても密着性が低いという課題があった。したがって、磁気ディスク10の回転により金属めっき層が脱落した場合には、金属コンタミやパーティクルが発生する可能性がある。これに対して、本実施形態に係るスポイラ40では、A/Lを上記の範囲とすることで、樹脂製の本体部401と金属めっき層402との密着性が大きく向上させることができる。したがって、金属コンタミやパーティクルの発生を抑制することができる。
【0050】
また、金属めっき層402の厚みを0.4μm〜10.2μmとすることで、スポイラ40の表面抵抗を小さくすることができると共に本体部401と金属めっき層402との密着性が向上する。このとき、金属めっき層402の硬度が300HV〜800HVである場合には、上記の効果をより高めることができる。
【0051】
また、本体部401に樹脂の他にフィラーが含まれていることで、本体部401の強度が向上する。このとき、本体部401において、フィラーが本体部401の表面、すなわち、金属めっき層402との界面に露出していることで、本体部401の表面の凹凸の隙間に金属めっき層402が入り込みやすくなり、アンカー効果により、本体部401と金属めっき層402との密着性が向上する。
【0052】
また、本実施形態に係るスポイラ40は、本体部401の表面全面が金属めっき層402により覆われているが、このようなスポイラ40は、無電解めっき法により好適に製造することができる。本体部401の表面に金属めっき層402を形成する方法は、無電解めっき法に限定されないが、例えば貫通孔43内のような細部にも金属めっき層402を形成する場合には、無電解めっき法が最も好適に用いられ、金属めっき層402の作成をより簡便に行うことができる。また、無電解めっき法によれば、金属めっき層402の厚さの制御も容易に行うことができるため、磁気ディスクにパーティクルが付着することを防止することができるスポイラ40をより高い精度で製造することができる。
【0053】
次に、本実施形態に係る磁気ディスク装置用整流部品の他の例であるディスクダンパについて説明する。
図6は、変形例に係る磁気ディスク装置の概略構成図である。また、
図7は、ディスクダンパの構成を説明する概略斜視図である。
【0054】
変形例に係る磁気ディスク装置2は、磁気ディスク装置1と比較して、以下の点が相違する。すなわち、磁気ディスク装置用整流部品として、スポイラ40に代えて、ディスクダンパ60を備えている。ディスクダンパ60は、磁気ディスク10の間に挿入されるプレート部61と、プレート部61を支持する複数の支持部62a〜62cと、を含んで構成される。
【0055】
プレート部61は、平板状の部材であり、磁気ディスク10の形状に沿った幅を有する円弧状をなしている。プレート部61は、磁気ディスク10の回転による気流を抑制する。また、支持部62a〜62cは、プレート部61の外周側に離間して設けられて、それぞれプレート部61よりも厚み(高さ)が大きい。支持部62a〜62cには、それぞれ貫通孔63が設けられている。なお、磁気ディスク装置2において筐体50の形状が磁気ディスク装置1と異なり、ディスクダンパ60を取り付けるための空間が形成されている。
【0056】
ディスクダンパ60を取り付ける際には、複数枚の磁気ディスク10の間にディスクダンパ60が挿入されるように複数準備され、複数のディスクダンパ60が互いに重なるように、磁気ディスク10とディスクダンパ60とが交互に筐体50に取り付けられる。その後、複数のディスクダンパ60の同一の支持部62a〜62cに設けられた貫通孔63をそれぞれネジ固定することにより、ディスクダンパ60が筐体50に対して固定される。これにより、複数の磁気ディスク10の間にそれぞれディスクダンパ60が挿入される。そして、ディスクダンパ60のプレート部61の少なくとも一方の主面は、複数の磁気ディスク10のいずれかの主面と対向して配置される。
【0057】
上記のディスクダンパ60においても、スポイラ40と同様に樹脂製の本体部の表面全面が金属めっき層で覆われている構成とすることで、ディスクダンパ60の表面抵抗を小さくすることができ、従来の樹脂製のディスクダンパにおけるパーティクルの付着に係る課題を解決することができる。また、ディスクダンパ60の本体部の全面が金属めっき層により覆われていることで、樹脂材料にフィラーを混合した場合でもフィラーが外部に露出することはないため、コンタミ等を懸念しなくてよい。また、樹脂の領域が一部でも露出している場合と比べて、金属めっき層自体の密着性も高くなるため、金属めっき層の剥がれ等による金属コンタミの発生も抑制される。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0059】
例えば、上記実施形態で説明した磁気ディスク装置用整流部品としてのスポイラ40及びディスクダンパ60の形状は一例である。したがって、その形状は適宜変更することができる。例えば、スポイラ40におけるプレート部41の数は、磁気ディスク装置1に用いられる磁気ディスク10の枚数によって適宜変更される。すなわち、磁気ディスク10の回転に由来する気流を制御するための整流部品であり、プレート部と支持部とを有するものであればその形状は特に限定されない。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
<サンプルの準備>
(実施例1)
(本体部の準備)
ポリイミド樹脂と炭素繊維とを混合したものを射出成型することにより、ディスクダンパの本体部としての樹脂成型物を得た。このとき、樹脂成型物の総重量に対して炭素繊維の割合を30重量%とした。
【0062】
(金属めっき層の形成)
脱脂処理として、本体部を脱脂液に5分浸漬後、純水で洗浄を行った。次に、本体部をアルカリ性水溶液に5分浸漬後、純水で洗浄を行った。その後、触媒を本体部表面に付着させる処理として、本体部をPdイオンを含む水溶液に5分浸漬後、純水で洗浄を行った。
【0063】
次に、本体部を無電解Ni−Pめっき液に60分浸漬後、純水で洗浄を行った。この結果、本体部の表面全面がNi−Pからなる金属めっき層に覆われた。金属めっき層に覆われた本体部を130℃で10分乾燥することにより、実施例1に係るディスクダンパのサンプルを得た。
【0064】
(実施例2)
樹脂成形物に対してブラスト処理(ドライブラスト)を行ったほかは実施例1と同様の方法により、実施例2に係るディスクダンパのサンプルを作成した。
【0065】
(実施例3〜5)
実施例1と比較して、ブラスト処理で用いる研磨粉の粒径を調整したほかは実施例2と同様の方法により、実施例3〜5に係るディスクダンパのサンプルを作成した。研磨粉の粒径を調整することで、A/Lが互いに異なるサンプルが得られた。
【0066】
(実施例6〜9)
めっき時間を調整したほかは実施例2と同様の方法により、実施例5〜8に係るディスクダンパのサンプルを作成した。すなわち、ブラスト処理で用いる研磨粉の粒径を実施例2と同一とした。めっき時間を調整したことで、金属めっき層の厚みが互いに異なるサンプルが得られた。
【0067】
(比較例1)
射出成型により得られた樹脂成型物を比較例1に係るディスクダンパのサンプルとした。比較例1のサンプルについては、ブラスト処理を行わなかった。
【0068】
<サンプルの観察及び評価>
(A/L)
得られたサンプルについて、研磨により断面を形成した後、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)(型式:JSM−6700F、日本電子株式会社製)により、視野倍率5000倍で断面の2次電子像を撮影した。サンプル断面の2次電子像に対して、画像解析ソフト(製品名:Mac−View、MOUNTECH社製)により、サンプルにおける本体部の表面をトレースし、サンプルの本体部表面の長さAを計測した。同様に、画像解析ソフト(製品名:Mac−View、MOUNTECH社製)により、画像におけるの本体部表面の両端を結んだ直線の長さLを計測した。これらの結果に基づいて、A/Lを算出した。
【0069】
(金属めっき層厚み)
金属めっき層の厚みは、蛍光X線分析装置等により測定した。
【0070】
(表面抵抗測定)
サンプルの金属めっき層における表面抵抗を測定した。測定は、抵抗率計を用いて、四端針法にて測定した。測定結果に対して、表面抵抗を以下の3段階のランクに基づき評価した。
ランクA:1.0×10
−1未満
ランクB:1.0×10
−1以上1.0×10
2未満
ランクC:1.0×10
2以上
【0071】
(クロスカット試験)
サンプルにおける金属めっき層の密着性について、クロスカット試験に基づいて評価した。具体的には、JIS K5600−5−6に従い以下の手順で試験を行い、評価を行った。
(1)まず、サンプル表面に対して垂直になるように刃を当てて6本切り込みを行なった。
(2)90°方向を変えて直行する6本の切込みを行なった。
(3)幅25mm、長さ75mmの長さのテープを金属めっき層におけるカットした部分に貼り付け、金属めっき層が透けて見えるようにしっかり指でテープをこすった。
(4)貼り付け後5分以内に60°に近い角度で、0.5〜1.0秒でテープの剥離を行った。
(5)テープ剥離後の金属めっき層の表面状態を目視で金属めっき層の剥がれ状態を確認した。
【0072】
以上のクロスカット試験に基づき、サンプルにおける本体部に対する金属めっき層の密着性を評価した。密着性は、以下の5段階のランクに基づき評価した。ランク1〜3と評価された金属めっき層は、密着性に優れていると判断できる。ランク4又はランク5であった金属めっき層は、密着性が劣るため、整流部品としての実用に耐えないと判断できる。
ランク1: 切込みの交差点における保護膜の小さな剥がれがある。剥がれ率が5%以下である。
ランク2: 保護膜が切込みの縁に沿って、及び/又は交差点において剥がれている。剥がれ率が5%超15%以下である。
ランク3: 保護膜が切込みの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥がれを生じており、及び/又は升目のいろいろな部分が、部分的又は全面的に剥がれている。剥がれ率が15%超35%以下である。
ランク4: 保護膜が切込みの縁に沿って、部分的又は全面的に大剥がれを生じており、及び/又は数か所の升目が部分的又は全面的に剥がれている。剥がれ率が35%超65%以下である。
ランク5: ランク4より剥がれ率が大きい。
【0073】
なお、「剥がれ率」とは、全升目の面積に対する「剥がれ」の面積の割合である。「剥がれ」の面積とは、格子内において保護膜が剥がれた部分の面積の合計である。
【0074】
上記の測定結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0075】
表1の結果から、比較例1と比較して、金属めっき層が全面に形成された実施例1〜5では、表面抵抗が低減することが確認された。また、A/Lが1.35〜7.01の範囲である実施例2〜4では、特に表面抵抗が低く、密着性が良好であることが確認された。
【0076】
また、表2の結果から、金属めっき層の膜厚が0.48μm〜10.11μmの範囲である実施例7,2,8では、表面抵抗が低く、密着性が良好であることが確認された。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】