【解決手段】太陽ローラ11を有する第1回転軸10と、ケーシング2に対して周方向の移動が制限される第1インターナルリング12と、第2回転軸13に連結される第2インターナルリング14と、太陽ローラ、第1インターナルリング及び第2インターナルリングに接触する2以上の遊星ローラ15と、遊星軸部材3を介して遊星ローラを回転可能に支持するキャリア16と、第1回転軸に対してキャリアを回転可能に支持する軸受61、62とを備え、キャリアは、遊星ローラを貫通する遊星軸部材の第1端部を支持する第1キャリア部材161と、遊星軸部材の第2端部を支持する第2キャリア部材162とを有し、軸受は、太陽ローラよりも第1端部側において第1キャリア部材を支持する第1軸受61と、太陽ローラよりも第2端部側において第2キャリア部材を支持する第2軸受62とを有する。
前記遊星ローラの前記第1外周面は、前記第2外周面と隣接して位置し、前記太陽ローラ及び前記第1インターナルリングの前記第1外周面に対する接触面が径方向において互いに重複することを特徴とする請求項1に記載の遊星ローラ式の動力伝達装置。
前記遊星ローラと前記第1キャリア部材又は前記第2キャリア部材との間に配置され、前記遊星軸部材を外囲するスラスト軸受をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の遊星ローラ式の動力伝達装置。
前記ケーシングに対し、前記主軸を中心として前記第2回転軸を回転可能に支持するクロスローラベアリングをさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の遊星ローラ式の動力伝達装置。
前記第2インターナルリング及び前記第2回転軸は、別個の部材が連結された組立体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の遊星ローラ式の動力伝達装置。
前記第1インターナルリング又は前記第2インターナルリングは、前記ケーシングの内壁との間に空隙があることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の遊星ローラ式の動力伝達装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本明細書では、便宜上、主軸の方向を水平方向として説明するが、本発明による動力伝達装置の使用時における姿勢を限定するものではない。また、本明細書では、主軸の方向を単に「軸方向」と呼び、主軸を中心とする径方向及び周方向を単に「径方向」及び「周方向」と呼ぶ。
【0011】
実施の形態1.
<動力伝達装置1>
図1は、本発明の実施の形態1による遊星ローラ式の動力伝達装置1の一構成例を示した断面図であり、主軸Jを含む鉛直面により動力伝達装置1を切断した場合の切断面が示されている。
図1では、紙面の右側を入力側とし、左側を出力側として、動力伝達装置1が描画されている。
図2は、
図1の動力伝達装置1をA1−A1切断線により切断した場合の切断面を示す断面図である。
図3は、
図1の動力伝達装置1をA2−A2切断線により切断した場合の切断面を示す断面図である。
図2及び
図3には、矢印の方向から切断面を見た場合が示されている。
【0012】
主軸Jは、入力軸10、太陽ローラ11、出力軸13、可動リング14及びキャリア16に共通の回転中心を示す直線である。この動力伝達装置1は、電動モータ(図示せず)から入力される回転運動を減速して出力する減速機であり、2以上の遊星ローラ15と、ケーシング2、入力軸10、固定リング12、出力軸13、可動リング14及びキャリア16と、軸受5,61,62,7,8及び9とにより構成される。例えば、軸受5及び8は、2以上の球状転動体が外輪と内輪との間に配置される玉軸受である。
【0013】
<ケーシング2>
ケーシング2は、後述する転動部材を収容する筐体であり、電動モータのハウジング等に固定される。このケーシング2は、入力側に開口を有する筒状の本体部21と、本体部21の開口に配置される板状の蓋部22とにより構成される。本体部21は、軸方向に延びる円筒形状の内周面を有する。蓋部22は、入力軸10を配置するための貫通孔を有し、本体部21に取り付けられる。
【0014】
<入力軸10>
入力軸10は、遊星ローラ15を外接させる太陽ローラ11を有し、ケーシング2により主軸Jを中心として回転可能に支持される第1回転軸であり、電動モータから所定の回転力が入力される。例えば、入力軸10は、電動モータのシャフトに連結される。
【0015】
この入力軸10は、太陽ローラ11よりも入力側において、ケーシング2の蓋部22により、軸受5を介して回転可能に支持され、太陽ローラ11よりも出力側において、ケーシング2の本体部21により、軸受9、出力軸13及び軸受8を介して回転可能に支持される。
【0016】
軸受5は、蓋部22の径方向内側に配置される。軸受8は、入力軸10の出力側端部に配置される。軸受9は、ケーシング2の本体部21に対し、主軸Jを中心として出力軸13を回転可能に支持するためのクロスローラベアリングであり、本体部21の出力側端部の径方向内側に配置される。
【0017】
クロスローラベアリングは、軸方向に対して傾斜させて配置される2以上の円筒形のころを転動体として有し、中心軸が交差するころが周方向に交互に配置されるころ軸受であり、出力軸13の曲げ力に対する剛性と、径方向のラジアル荷重及び軸方向のスラスト荷重に対する剛性とが高い。
【0018】
<太陽ローラ11>
太陽ローラ11は、軸方向に延びる外周面を有する円柱状の転動部材である。この太陽ローラ11は、外径が入力軸10よりも太い。この太陽ローラ11は、入力軸10と一体的に形成される。
【0019】
<インターナルリング>
固定リング12及び可動リング14は、いずれも遊星ローラ15を内接させる転動部材であり、ケーシング2内に収容される。固定リング12は、ケーシング2に対して周方向の移動が制限される環状の第1インターナルリングである。固定リング12の入力側端部は、入力軸10と同軸に配置される。
【0020】
可動リング14は、出力軸13に連結される環状の第2インターナルリングである。可動リング14は、ケーシング2の内壁との間に空隙がある。すなわち、可動リング14の外周面と本体部21の内周面とは、空隙を介して対向している。動力伝達装置1では、可動リング14の弾性を利用して遊星ローラ15を径方向内方へ付勢する際の押圧力が遊星ローラ15の周方向の位置によって変動するのを防止することができる。
【0021】
この動力伝達装置1では、固定リング12及び可動リング14が、径方向に弾性変形することによって遊星ローラ15を径方向内方に向けて付勢する弾性部材、例えば、可撓性を有する金属弾性体により構成される。固定リング12及び可動リング14が径方向に弾性変形することにより、遊星ローラ15を径方向内方に向けて付勢するため、付勢用の部材を別途設けなくても伝達トルクを増大させることができる。
【0022】
<出力軸13>
出力軸13は、ケーシング2により主軸Jを中心として回転可能に支持される第2回転軸であり、回転力を所定の負荷へ出力する。可動リング14と出力軸13とは、別個の部材が連結された組立体である。動力伝達装置1では、可動リング14と出力軸13とを別個の部材とすることにより、これらの部材に対し、必要に応じて焼入れ加工を個別に施すことができる。
【0023】
この出力軸13は、円環状のリング支持部131と、リング支持部131から出力側へ突出するボス部132とにより構成され、入力軸10と同軸に配置される。リング支持部131は、可動リング14の出力側端部を支持する支持部であり、可動リング14の出力側端部の径方向内方に配置される。
【0024】
ボス部132は、ケーシング2の本体部21により軸受9を介して回転可能に支持される。このボス部132は、外径が入力軸10よりも太く、電動モータの回転力により、入力軸10と比較すれば、ケーシング2に対して相対的に低速回転する。
【0025】
軸受9は、ボス部132の外周面と本体部21の出力側端部の内周面との間に配置される。軸受8は、ボス部132の内周面と入力軸10の外周面との間に配置される。軸受8は、少なくとも一部が軸受9と径方向において重複する位置にある。
【0026】
<遊星ローラ15>
遊星ローラ15は、太陽ローラ11の外周面と固定リング12の内周面と可動リング14の内周面とに接触する転動部材であり、キャリア16により回転可能に支持される。この遊星ローラ15は、太陽ローラ11に接触する外周面150と、固定リング12に接触する外周面151と、可動リング14に接触する外周面152とを有する。これらの外周面150〜152は、互いに軸方向の位置が異なる。また、外周面151及び152は、外径が外周面150よりも小さい。
【0027】
外周面151は、外周面150の入力端と隣接して位置し、外周面150よりも入力側に形成される第1外周面である。一方、外周面152は、外周面150の出力端と隣接して位置し、外周面150よりも出力側に形成される第2外周面である。この外周面152は、外径が外周面151よりも小さい。遊星ローラ15の外周面151と外周面152とで外径が異なるため、所望の減速比が得られる。
【0028】
この動力伝達装置1では、外周面150に対する太陽ローラ11上の接触面111と、外周面151に対する固定リング12上の接触面121とが径方向において重複することはなく、接触面121の軸方向の位置が接触面111よりも入力側へずれている。また、外周面150に対する太陽ローラ11上の接触面111と、外周面152に対する可動リング14上の接触面141とが径方向において重複することはなく、接触面141の軸方向の位置が接触面111よりも出力側にずれている。
【0029】
<キャリア16>
キャリア16は、遊星軸部材3を介して遊星ローラ15を回転可能に支持する支持部材であり、入力軸10と同軸に配置される。このキャリア16は、2以上の遊星ローラ15に共通の支持部材である。
【0030】
遊星軸部材3は、遊星ローラ15を支持するためのキャリアピンであり、遊星ローラ15を貫通する。軸受61及び62は、入力軸10に対し、主軸Jを中心としてキャリア16を回転可能に支持する。このキャリア16は、遊星軸部材3の入力側の端部を支持する第1キャリア部材161と、遊星軸部材3の出力側の端部を支持する第2キャリア部材162とを有する。
【0031】
第1キャリア部材161は、円環形状であり、入力軸10により軸受61を介して回転可能に支持される。軸受61は、太陽ローラ11よりも入力側において第1キャリア部材161を回転可能に支持する第1軸受である。この軸受61は、径方向のラジアル荷重に対して剛性が高い玉軸受であり、第1キャリア部材161の径方向内方に配置される。第1キャリア部材161及び軸受61は、接触面121よりも入力側において、固定リング12の径方向内方に配置される。
【0032】
第2キャリア部材162は、円環形状であり、入力軸10により軸受62を介して回転可能に支持される。軸受62は、太陽ローラ11よりも出力側において第2キャリア部材162を回転可能に支持する第2軸受である。この軸受62は、径方向のラジアル荷重に対して剛性が高い玉軸受であり、第2キャリア部材162の径方向内方に配置される。第2キャリア部材162及び軸受62は、接触面141よりも出力側において、可動リング14の径方向内方に配置される。
【0033】
遊星ローラ15内には、ニードルベアリング41及び42が配置される。ニードルベアリング41及び42は、いずれも遊星ローラ15の自転軸の方向に延びる2以上の針状ころを転動体とするころ軸受であり、遊星軸部材3に対して遊星ローラ15を回転可能に支持する。
【0034】
ニードルベアリング41は、遊星ローラ15の自転軸に関し、少なくとも一部が遊星ローラ15の外周面151と径方向に重複する位置にある第1ニードルベアリングである。一方、ニードルベアリング42は、少なくとも一部が遊星ローラ15の外周面152と径方向に重複する位置にある第2ニードルベアリングである。
【0035】
また、遊星ローラ15と第1キャリア部材161との間には、スラスト軸受7が配置される。スラスト軸受7は、軸方向のスラスト荷重に対する剛性が高い軸受であり、遊星軸部材を外囲する形状である。例えば、スラスト軸受7は、2以上の球状の転動体と、周方向に一定の間隔を空けて転動体を保持する保持器と、入力側に配置される軌道板と、出力側に配置される軌道板とにより構成され、転動体が軌道板間に配置される。
【0036】
図示した動力伝達装置1では、4つの遊星ローラ15が周方向に等間隔に配置されている。各遊星ローラ15は、太陽ローラ11に外接させた状態で固定リング12及び可動リング14内に収容される。可動リング14は、接触面141の位置において、固定リング12よりも肉厚である。遊星軸部材3及びスラスト軸受7は、遊星ローラ15ごとに配置される。
【0037】
本実施の形態による動力伝達装置1を構成する各部品は、上述した通りである。以下では、これらの部品相互の関係や、それによって生じる作用効果について詳しく説明する。
【0038】
(1)伝達効率の向上
遊星ローラ15には、外周面151及び152の径差に応じて、固定リング12及び可動リング14から遊星軸部材3に対する捻りの力が作用する。また、遊星ローラ15の自転速度は、インターナルリングとの接触位置に応じて変化する。従来の動力伝達装置では、捻りの力に起因して前記接触位置が変化し、複数の遊星ローラ15間において自転速度のムラが生じる。このため、トルク伝達の相殺が生じ、伝達効率が低下するという課題がある。
【0039】
これに対し、本実施の形態による動力伝達装置1では、入力軸10に対し、軸受61を介して支持される第1キャリア部材161と、軸受62を介して支持される第2キャリア部材162と、複数の遊星軸部材3とにより、かご状の遊星支持機構が構成される。このため、複数の遊星ローラ15を支持する遊星支持機構の剛性が向上する。従って、捻りの力に起因する前記接触位置の変化が抑制され、自転速度のムラによるトルク伝達の相殺が生じ難くなることから、動力伝達装置1の伝達効率を向上させることができる。
【0040】
また、本実施の形態による動力伝達装置1では、軸方向の荷重をスラスト軸受7が受け止めるため、遊星ローラ15に軸方向の荷重が作用する場合であっても、遊星ローラ15が第1キャリア部材161に接触するのを防止することができる。
【0041】
遊星ローラ15には、固定リング12及び可動リング14から径方向内方に向けて荷重が作用する。一方、遊星軸部材3は、両端部がキャリア部材161及び162により支持される。このため、軸方向に延びるニードルベアリングの転動体には、曲げ応力が作用し、遊星ローラ15が自転する際の摩擦抵抗が増大する。本実施の形態による動力伝達装置1では、前記ニードルベアリングがニードルベアリング41及び42に分割されるため、転動体にかかる曲げ応力が分散し、摩擦抵抗の増大が抑制される。
【0042】
(2)負荷容量の向上
本実施の形態による動力伝達装置1では、クロスローラベアリングを軸受9として用いることにより、出力軸13に作用するラジアル荷重及びアキシャル荷重に対する剛性が上がるため、負荷容量を向上させることができる。
【0043】
実施の形態2.
実施の形態1では、遊星ローラ15が外周面150〜152を有する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、遊星ローラ15の外周面151が外周面152と隣接して位置する場合について説明する。
【0044】
図4は、本発明の実施の形態2による遊星ローラ式の動力伝達装置1の一構成例を示した断面図であり、主軸Jを含む鉛直面により動力伝達装置1を切断した場合の切断面が示されている。
図4では、紙面の右側を入力側とし、左側を出力側として、動力伝達装置1が描画されている。
図5は、
図4の動力伝達装置1をB−B切断線により切断した場合の切断面を示す断面図であり、矢印の方向から切断面を見た場合が示されている。
【0045】
この動力伝達装置1は、
図1〜3の動力伝達装置1と比較すれば、遊星ローラ15の構成と、スラスト軸受7の位置と、出力軸13及び可動リング14の構成と、ケーシング2の蓋部22の構成とが異なる。ケーシング2の蓋部22は、入力側に突出するボス部221を有し、ボス部221の径方向内方に軸受5が配置される。
【0046】
固定リング12の入力側端部は、端面を蓋部22に接触させた状態で、ネジ等の締結部品23を用いて蓋部22に固定される。固定リング12の外周面と本体部21の内周面とは、空隙を介して対向している。出力軸13及び可動リング14は、同じ材料を用いて一体的に形成される。スラスト軸受7は、遊星ローラ15と第2キャリア部材162との間に配置される。
【0047】
遊星ローラ15は、太陽ローラ11と固定リング12とに接触する外周面151と、可動リング14に接触する外周面152とを有する。外周面151は、外周面152と隣接して位置し、外径が外周面152よりも大きい。この外周面151に対する太陽ローラ11上の接触面111と、外周面151に対する固定リング12上の接触面121とは、径方向において互いに重複し、接触面121の軸方向の位置と接触面111の軸方向の位置とが一致している。
【0048】
本実施の形態による動力伝達装置1では、遊星ローラ15の外周面151を固定リング12及び太陽ローラ11に接触させるため、太陽ローラ11に接触させる外周面を外周面151とは別個に設ける場合に比べ、軸方向のサイズを小型化することができる。
【0049】
また、本実施の形態による動力伝達装置1では、固定リング12とケーシング2の内壁との間に空隙があるため、固定リング12の弾性を利用して遊星ローラ15を径方向内方へ付勢する際の押圧力が遊星ローラ15の周方向の位置によって変動するのを防止することができる。
【0050】
また、本実施の形態による動力伝達装置1では、軸方向の荷重をスラスト軸受7が受け止めるため、遊星ローラ15に軸方向の荷重が作用する場合であっても、遊星ローラ15が第2キャリア部材162に接触するのを防止することができる。
【0051】
なお、実施の形態1及び2では、太陽ローラ11が入力軸10と一体的に形成される場合の例について説明したが、本発明は、太陽ローラ11と第1回転軸とが別個の部材により形成されるような構成であっても良い。
【0052】
また、実施の形態1及び2では、ケーシング2が電動モータのハウジング等に固定され、電動モータの回転力が入力軸10を介して太陽ローラ11に伝達され、可動リング14を介して出力軸13から回転力を出力する場合の例について説明したが、本発明は、動力伝達装置1の使用形態をこれに限定するものではない。
【0053】
例えば、入力軸10及び出力軸13の役割を変更し、電動モータの回転を増速して出力する増速機として動力伝達装置1を使用することができる。また、動力伝達装置1は、ケーシング2が、電動モータのハウジング又は変速機、増速機等の他の動力伝達装置のケーシングと一体的に形成されるような構成であっても良い。或いは、動力伝達装置1は、電動モータ又は他の動力伝達装置と共通の筐体をケーシング2として用いるような構成であっても良い。