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特開2016-201489巻鉄心の接合部分離方法、及び巻鉄心の最外周鋼板切断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-201489(P2016-201489A)
(43)【公開日】2016年12月1日
(54)【発明の名称】巻鉄心の接合部分離方法、及び巻鉄心の最外周鋼板切断装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20161104BHJP
   B23K 10/00 20060101ALI20161104BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20161104BHJP
【FI】
   H01F41/02 A
   H01F41/02 H
   B23K10/00 501A
   B23K26/38 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-81596(P2015-81596)
(22)【出願日】2015年4月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100064469
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100099612
【弁理士】
【氏名又は名称】菊池 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100073450
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 陽一
(72)【発明者】
【氏名】永作 種規
【テーマコード(参考)】
4E001
4E168
5E062
【Fターム(参考)】
4E001AA01
4E001BA04
4E168AD07
4E168JA02
5E062AB01
5E062AB11
5E062AB13
(57)【要約】
【課題】1ターンをなすように巻回されて両端がラップ接合または突き合わせ接合された帯板状の鉄心構成要素が複数積層された構造を有する積層体の最外周に帯状の最外周鋼板が巻回されて、最外周鋼板の両端が重ね合わされた状態で溶接部により接続されている巻鉄心に巻線を取り付けるために、各鉄心構成要素の接合部を分離する巻鉄心の接合部分離方法を提案する。
【解決手段】巻鉄心1の最外周鋼板1bの互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分1boを該最外周鋼板の溶接部Wの手前の位置で切断した後に、各鉄心構成要素の接合部を分離する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ターンをなすように巻回されて両端が分離可能な状態でラップ接合または突き合わせ接合された帯板状の鉄心構成要素の巻回体が複数積層された構造を有する積層体と、該積層体の外周に巻回されて両端が重ね合わされた状態で溶接部により結合されている最外周鋼板とを備えた巻鉄心に巻線を取り付けるために、各鉄心構成要素の接合部を分離する巻鉄心の接合部分離方法であって、
前記最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を、該最外周鋼板の溶接部の手前の位置で切断した後に各鉄心構成要素の接合部を分離すること、
を特徴とする巻鉄心の接合部分離方法。
【請求項2】
前記最外周鋼板の切断は、熱切断機により行うことを特徴とする請求項1に記載された巻鉄心の接合部分離方法。
【請求項3】
請求項1に記載された巻鉄心の接合部分離方法を実施するために、前記最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を、前記溶接部の手前の位置に設定した切断線に沿って切断する巻鉄心の最外周鋼板切断装置であって、
前記最外周鋼板の前記溶接部を上方に向けた状態で前記巻鉄心を保持する巻鉄心保持台と、
前記巻鉄心保持台により保持された巻鉄心の上方で前記切断線と平行な方向に移動自在なスライダを備えたスライドユニットと、
前記スライダに支持されて、前記巻鉄心保持台により保持された巻鉄心の最外周鋼板の切断線に沿って前記スライダとともに変位させられる可動フレームと、
前記可動フレームに支持されて先端が前記最外周鋼板に設定された切断線に指向される熱切断用トーチと、
前記熱切断用トーチとともに前記可動フレームに支持されて、前記巻鉄心保持台により保持されている巻鉄心の最外周鋼板に接触しつつ前記切断線に沿って転動して前記熱切断用トーチの先端と前記最外周鋼板との間の距離を一定に保つガイドローラと、
前記熱切断用トーチを前記切断線に沿って移動させるべく前記スライダを駆動するモータと、
を具備したことを特徴とする巻鉄心の最外周鋼板切断装置。
【請求項4】
前記巻鉄心の最外周鋼板の切断を開始する指令が与えられたときに、前記熱切断用トーチから前記最外周鋼板を切断するための熱出力を発生させると同時に、前記モータの駆動を開始して前記熱切断用トーチを前記切断方向に沿って設定された速度で移動させるように、前記トーチ及びモータを制御する切断制御装置が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の巻鉄心の最外周鋼板切断装置。
【請求項5】
前記熱切断用トーチはプラズマ切断トーチである請求項3又は4に記載の巻鉄心の最外周鋼板切断装置。
【請求項6】
前記熱切断用トーチはレーザ切断用トーチである請求項3又は4に記載の巻鉄心の最外周鋼板切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻鉄心に巻線を取り付けることを可能にするために巻鉄心の接合部を分離する巻鉄心の接合部分離方法、及び該接合部分離方法を実施するために、巻鉄心の最外周に巻回されて両端が溶接されている最外周鋼板を切断する巻鉄心の最外周鋼板切断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変圧器等の静止誘導電気機器に用いる鉄心として、帯板状のケイ素鋼板からなる鉄心構成要素を巻回、積層して構成した巻鉄心が多く用いられている。鉄心構成要素は、単一の帯板状鋼板により構成される場合もあり、特許文献1に示されているように、複数枚の帯板状鋼板を積層することにより構成される場合もある。巻鉄心を製造する際には、1ターンをなすように巻回して両端を分離可能な状態でラップ接合または突き合わせ接合した鉄心構成要素の巻回体を複数積層して鉄心構成要素の積層体を構成した後、該積層体の外周に帯状の最外周鋼板を巻回して、この最外周鋼板の両端を重ね合わせた状態でスポット溶接する。鉄心構成要素の積層体の外周に巻回した最外周鋼板の両端を重ね合わせた状態で溶接することにより巻鉄心を拘束して、巻鉄心を焼鈍するまでの間各鉄心構成要素の接合部が分離するのを防いでいる。
【0003】
静止誘導電気機器に用いる巻鉄心は、多くの場合、互いに平行に配置された一対の脚部と、両脚部の一端間及び他端間をそれぞれ連結する一対の継鉄部とを有して、全体がほぼ矩形状の形状を呈するように形成されていて、その一つの継鉄部に、巻鉄心を構成する複数の鉄心構成要素の接合部が配置される。
【0004】
この種の巻鉄心を用いて静止誘導電気機器を組み立てる際には、巻鉄心を焼鈍した後、最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解いて、各鉄心構成要素の接合部を分離し、接合部が分離された巻鉄心の脚部を別工程で巻回された巻線の窓部内に挿入して巻鉄心の脚部に巻線を取り付ける。このようにして巻鉄心の脚部に巻線を取り付けた後、各鉄心構成要素の接合部を再接合することにより、開かれていた巻鉄心の継鉄部を閉じて、巻鉄心を元の形に戻す。
【0005】
上記のように、巻鉄心に巻線を取り付けるに当っては、巻線の窓部内に巻鉄心の脚部を挿入することを可能にするために、最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解いて、各鉄心構成要素の接合部を分離する必要がある。従来は、最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解く作業を、最外周鋼板のスポット溶接部を手作業により剥離することにより行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−44199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、従来は、最外周鋼板のスポット溶接部を手作業により剥離することにより最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解くようにしていたが、スポット溶接部を剥離する作業は、巻鉄心を構成している鉄心構成要素を傷つけないように、手作業により慎重に行う必要があるため、熟練を要するだけでなく、作業工数が多くなり、面倒であった。また、最外周鋼板の溶接部を剥離する作業は、巻鉄心を一方の手で押さえた状態で、他方の手に持った工具を最外周鋼板の重ね合わされた部分の間にこじ入れて行うが、巻鉄心を構成している鉄心構成要素や最外周鋼板は端縁部に鋭いエッジを有しているため、作業者がエッジに触れて怪我をするおそれがあった。
【0008】
また最外周鋼板の溶接部を剥離する際には、工具により最外周鋼板が変形させられるのを避けられないため、溶接部が剥離された最外周鋼板は廃棄せざるを得なかった。
【0009】
上記のように、巻鉄心に巻線を取り付けるに当たって、巻鉄心の接合部を分離する際には、最外周鋼板の溶接部を剥離して最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解く作業を行う際に多くの工数を必要とする上に作業に危険を伴うため、最外周鋼板の溶接部を剥離する作業を伴わずに最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解いて、巻鉄心の接合部を分離する方法を提案することが望まれていたが、そのような方法は未だ提案されていなかった。
【0010】
本発明の目的は、巻鉄心を焼鈍した後、巻鉄心に巻線を取り付けるに当たって、巻鉄心を構成している鉄心構成要素の接合部を分離する作業を、最外周鋼板の溶接部を剥離する作業を伴うことなく行うことを可能にする巻鉄心の接合部分離方法を提案することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、巻鉄心を焼鈍した後、巻鉄心に巻線を取り付けるに当たって、巻鉄心を構成している鉄心構成要素の接合部を分離する作業を、最外周鋼板の溶接部を剥離する作業を伴うことなく行うことを可能にするために、巻鉄心の最外周に巻回されて両端が重ね合わされた状態で溶接されている最外周鋼板を切断する巻鉄心の最外周鋼板切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、巻鉄心に巻線を取り付けるに当って、巻鉄心の接合部を分離する巻鉄心接合部分離方法を対象とする。本発明の分離方法で対象とする巻鉄心は、1ターンをなすように巻回されて両端が分離可能な状態でラップ接合または突き合わせ接合された帯板状の鉄心構成要素の巻回体が複数積層された構造を有する積層体と、該積層体の外周に巻回されて両端が重ね合わされた状態で溶接部により結合された最外周鋼板とを備えたものである。
上記鉄心構成要素は単一の帯板状鋼板からなっていてもよく、複数枚の帯板状鋼板を積層したものからなっていてもよい。
【0013】
本発明においては、最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を、該最外周鋼板の溶接部の手前の位置で切断した後に、各鉄心構成要素の接合部を分離する。
【0014】
上記のように、最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を該最外周鋼板の溶接部の手前の位置で切断すると、最外周鋼板の溶接部を剥離しなくても最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解くことができるため、最外周鋼板の溶接部を剥離する手作業を行うことなく、各鉄心構成要素の接合部を分離する作業を行うことができ、巻鉄心に巻線を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0015】
また最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解くために、最外周鋼板の溶接部を剥離するようにした場合には、最外周鋼板の剥離された溶接部付近が変形してしまうため、最外周鋼板は廃棄せざるを得なかったが、本発明の方法によれば、最外周鋼板をきれいに切断することができるため、該最外周鋼板を廃棄することなく、巻鉄心の一部として利用することも可能になる。
【0016】
上記最外周鋼板の切断は、エアプラズマ切断機やレーザ切断機などのように熱を用いて鋼板を切断する熱切断機を用いるのが好ましい。
【0017】
最外周鋼板を切断する切断機として熱切断機を用いると、最外周鋼板の被切断箇所に与える熱により切断厚さを容易にコントロールすることができるため、巻鉄心の鉄心構成要素を損傷することなく、最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分のみを容易に切断することができ、最外周鋼板の切断作業の自動化を容易に図ることができる。
【0018】
また本発明によれば、上記巻鉄心の接合部分離方法を実施するために、最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を、溶接部の手前の位置に設定した切断線に沿って切断する巻鉄心の最外周鋼板切断装置が提供される。
【0019】
本発明に係る最外周鋼板切断装置は、最外周鋼板の溶接部を上方に向けた状態で巻鉄心を保持する巻鉄心保持台と、巻鉄心保持台により保持された巻鉄心の上方で切断線と平行な方向に移動自在なスライダを備えたスライドユニットと、スライダに支持されて、巻鉄心保持台により保持された巻鉄心の最外周鋼板の切断線に沿ってスライダとともに変位させられる可動フレームと、可動フレームに支持されて先端が最外周鋼板に設定された切断線に指向される熱切断用トーチと、熱切断用トーチとともに可動フレームに支持されて、巻鉄心保持台により保持されている巻鉄心の最外周鋼板に接触しつつ切断線に沿って転動して熱切断用トーチの先端と最外周鋼板との間の距離を一定に保つガイドローラと、熱切断用トーチを切断線に沿って移動させるべくスライダを駆動するモータとを備えることにより構成される。
【0020】
上記のように構成すると、熱切断用トーチの先端と最外周鋼板との間の距離を一定に保って、熱切断用トーチにより最外周鋼板を切断するので、最外周鋼板のみを切断し得るように熱切断用トーチの熱出力を設定しておくことにより、最外周鋼板の内側の鉄心構成要素を損傷することなく、最外周鋼板のみを確実に切断することができる。
【0021】
本発明の好ましい態様では、巻鉄心の最外周鋼板の切断を開始する指令が与えられたときに、熱切断用トーチから最外周鋼板を切断するための熱出力を発生させると同時に、モータの駆動を開始して熱切断用トーチを切断方向に沿って設定された速度で移動させるように、トーチ及びモータを制御する切断制御装置が設けられる。
【0022】
上記のように構成すると、最外周鋼板を切断する作業を自動的に行わせることができるため、巻鉄心の接合部の拘束を解く作業を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る巻鉄心の接合部分離方法によれば、焼鈍された巻鉄心に存在する最外周鋼板の互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を該最外周鋼板の溶接部の手前の位置で切断することにより巻鉄心の拘束を解いて、各鉄心構成要素の接合部を分離するようにしたので、最外周鋼板の溶接部を剥離する面倒な手作業を行うことなく、各鉄心構成要素の接合部を分離する作業を行うことができ、巻鉄心に巻線を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0024】
また本発明によれば、最外周鋼板をきれいに切断して巻鉄心の拘束を解くことができるため、切断された最外周鋼板を廃棄することなく、巻鉄心の構成要素の一部として利用することを可能にすることができる。
【0025】
また本発明に係る最外周鋼板切断装置によれば、熱切断用トーチの先端と最外周鋼板との間の距離を一定に保って、熱切断用トーチにより最外周鋼板を切断するので、最外周鋼板のみを切断し得るように熱切断用トーチの熱出力と、トーチの移動速度とを設定しておくことにより、最外周鋼板の内側の鉄心構成要素を損傷することなく、最外周鋼板のみを確実に切断することができ、最外周鋼板の切断作業の機械化を容易に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る巻鉄心の接合部分離方法により最外周鋼板が切断される巻鉄心の構造の一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明に係る巻鉄心の接合部分離方法により図1の巻鉄心を切断した状態を示した断面図である。
図3】本発明に係る巻鉄心の最外周鋼板切断装置の一実施形態の要部の構造を示した斜視図である。
図4】(A)は図3に示した切断装置で用いる熱切断用トーチの先端部分と該トーチの側方に配置されるガイドローラとを示した要部の拡大正面図、(B)は、(A)の側面図である。
図5】本発明に係る巻鉄心の接合部最外周鋼板切断装置で用いることができるモータ制御装置の一構成例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面を参照して、本発明に係る巻鉄心の接合部分離方法及び該分離方法を実施するために用いる巻鉄心の最外周鋼板切断装置の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る接合部分離方法で接合部を分離する巻鉄心1の構造を模式的に示したものである。同図に示された巻鉄心1は、互いに平行に配置された一対の脚部1A,1Bと、脚部1A,1Bの長さ方向の一端間及び他端間を連結する一対の継鉄部1C、1Dとを有するほぼ矩形状の巻鉄心である。図示の巻鉄心は、1ターンをなすように巻回されて両端が重ね合わせた状態で接合(ラップ接合)された複数の帯板状の鉄心構成要素1a1,1a2,1a3,…の巻回体を内側から外側に順次積層して構成した積層体と、この積層体の外周に巻回された帯板状の最外周鋼板1bとにより構成されている。本実施形態では、各鉄心構成要素が、所定の厚みと長さとを有する帯板状のケイ素鋼板からなっている。
【0028】
図示の例では、3つの鉄心構成要素1a1〜1a3が示されているが、実際には、鉄心の必要な断面積を確保するために、更に多くの鉄心要素が設けられることもある。巻線の窓部内における鉄心の占積率を高めるため、一連の鉄心構成要素の幅寸法を段階的に異ならせて、巻鉄心の脚部の横断面の形状を円形に近づける場合もある。
【0029】
なお各鉄心構成要素の両端のラップ接合部は、各鉄心構成要素の両端を一定の重ね代をもって単に重ね合わただけのものであり、拘束が解かれれば容易に分離し得る状態にある。
【0030】
なお図示の例では、各鉄心構成要素の両端がラップ接合されているが、各鉄心構成要素の両端が突き合わせ接合される場合もある。突き合わせ接合では、各鉄心構成要素の両端が単に突き合わされた状態(向かい合わせにされた状態)で配置される。各鉄心構成要素の両端の接合構造として何れの構造を採用する場合でも、一連の鉄心構成要素の両端の接合部は、巻鉄心の一つの継鉄部1Cに、階段状に位置をずらした状態で配置される。
【0031】
巻鉄心1は、巻線を取り付ける前に焼鈍されるが、焼鈍されるまでの間は、各鉄心構成要素の両端が拘束を解けば容易に分離する状態にあるため、鉄心構成要素1a1〜1a3の巻回体からなる積層体の外周に最外周鋼板1bが巻回されて、該最外周鋼板1bの両端が溶接されることにより巻鉄心の形状が保持される。最外周鋼板1bは、その両端が、鉄心構成要素のラップ接合部よりも大きな重ね代をもって重ね合わされた状態で配置されて、重ね合わされた部分がスポット溶接部Wにより結合される。最外周鋼板1bは、鉄心構成要素を構成する鋼板とは異なる材質の鋼板により構成されていてもよいが、本実施形態では、最外周鋼板1bが鉄心構成要素1a1〜1a3と同じ材質の鋼板からなっている。
【0032】
巻鉄心1を焼鈍した後、巻鉄心1に巻線を取り付ける際には、最外周鋼板1bによる巻鉄心の拘束を解いて(各鉄心構成要素の両端の接合部の拘束を解いて)、各鉄心構成要素の両端の接合部を開き、巻鉄心の脚部1A及び1Bを別工程で巻回されている巻線(図示せず。)の窓部内に挿入する。巻鉄心の脚部1A及び1Bを巻線の窓部内に挿入した後、各鉄心構成要素の両端を再接合して変圧器等の静止誘導機器を組み立てる。
【0033】
上記のように、巻鉄心に巻線を取り付ける際には、最外周鋼板1bによる巻鉄心の拘束を解いて、各鉄心構成要素の接合部を分離することができるようにする必要がある。従来は、最外周鋼板1bの溶接部Wを工具を用いて剥離することにより、最外周鋼板1bの両端を切り離して、一連の鉄心構成要素の接合部の拘束を解くようにしていたが、このようにした場合には、前述のような問題が生じる。
【0034】
そこで本発明においては、図2に示すように、最外周鋼板1bの互いに重ね合わされた部分1bi,1boのうち、外側に配置されている部分(外側部分)1boを、該最外周鋼板の溶接部Wの手前の位置で切断した後に鉄心構成要素1a1〜1a3の接合部を分離する。
【0035】
最外周鋼板1bの切断は、プラズマ化されたエアをワークの被切断部に供給してワークを溶断することにより行うエアプラズマ切断や、レーザ光をワークの被切断部に照射することにより行うレーザ切断のように、被切断部に熱を供給することによりワークを溶断する熱切断によるのが好ましい。
【0036】
最外周鋼板1bの互いに重ね合わされた部分の外側に配置された部分1boの切断を熱切断により行うと、最外周鋼板の被切断部に与える熱量と切断速度(切断用トーチの移動速度)とを調整することにより、切断される部分の厚さをコントロールすることができるため、図2に示したように、最外周鋼板1bの重ね合わされた部分1bi,1boのうち、内側に配置された部分(内側部分)1biを切断することなく、外側部分1boのみを容易に切断することができる。
【0037】
上記のように、最外周鋼板1bの互いに重ね合わされた部分のうち、外側に配置されている部分を該最外周鋼板の溶接部Wの手前の位置で切断すると、最外周鋼板1bの溶接部Wを剥離しなくても最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解くことができるため、最外周鋼板の溶接部を剥離する面倒な手作業を行うことなく、各鉄心構成要素の接合部を分離する作業を行うことができ、巻鉄心に巻線を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0038】
また上記のように、最外周鋼板1bの重ね合わされた部分の外側の部分を溶接部Wの手前の位置で切断することにより最外周鋼板による巻鉄心の拘束を解くようにすると、最外周鋼板の溶接部を剥離する場合のように、最外周鋼板が変形したり損傷したりすることがないため、最外周鋼板1bを巻鉄心の一部として有効利用することを可能にすることができる。最外周鋼板1bの重ね合わされた部分の外側部分を溶接部の手前の位置で切断すると、最外周鋼板1bには、溶接部Wにより溶接された部分が残留部分R(図2参照)として該最外周鋼板に結合されたままの状態で残ることになるが、最外周鋼板1bを巻鉄心の一部として利用する際に、この残留部分Rが鉄心の特性に影響を及ぼすことはないので、残留部分Rが最外周鋼板の有効利用の妨げになることはない。
【0039】
なお図1及び図2においては、鉄心構成要素1a1〜1a3のそれぞれが単一の帯板状鋼板により構成されているように図示されているが、各鉄心構成要素は、複数枚の帯板状鋼板を積層したものからなっていてもよい。
【0040】
上記の分離方法を実施するために最外周鋼板1bの互いに重ね合わされた部分1bi,1boのうち、外側に配置されている部分(外側部分)1boを、溶接部Wの手前の位置に設定した切断線に沿って切断する巻鉄心の最外周鋼板切断装置10の構成例を図3ないし図5に示した。
【0041】
図3において、11は、最外周鋼板1bの溶接部W(図3には図示せず。)を上方に向けた状態で巻鉄心1を保持する巻鉄心保持台である。図示してないが、巻鉄心保持台11には、巻鉄心1の最外周鋼板を切断するまでの間該巻鉄心を動かないように位置決めする位置決め手段が設けられている。巻鉄心1の最外周鋼板1bの溶接部Wの手前の位置には、該最外周鋼板の幅方向に伸びる直線状の切断線CLが設定されている。切断線を設定する個所は任意であるが、図示の例では巻鉄心1の脚部1Aの継鉄部1C側の端部付近に切断線CLが設定されている。
【0042】
巻鉄心保持台11は、その上面が水平面となるように設けられていて、その上方には、巻鉄心1を間にして該巻鉄心の脚部の長手方向に沿って互いに平行に延びる1対の固定フレーム12,12が配置されている。図示の固定フレーム12は帯板状に形成されていて、各固定フレーム12の長手方向の両端は、保持台11に下端が固定された支持ボルト13と、該支持ボルトに螺合されたナット14とにより保持台11に固定されている。固定フレーム12,12は、保持台11の上面と平行に延びるように設けられていて、これらの固定フレームに支持ポスト15,15を介してスライドユニット16が固定されている。
【0043】
スライドユニット16は、巻鉄心1の上方を切断線CLと平行に延びるように設けられて、長手方向の両端が支持ポスト15,15の上端に固定されたガイドレール17と、ガイドレール17によりガイドされつつ切断線CLと平行な方向に沿って移動させられるスライダ18と、スライダ18を駆動するスライダ駆動用モータ19とを備えている。モータ19の回転軸には、スライダ18に固定されたナット(図示せず。)に螺合されたねじ棒(図示せず。)が連結されていて、このねじ棒をモータ19により回転させることによって、スライダ18をガイドレール17に沿って往復移動させることができるようになっている。
【0044】
スライダ18には、巻鉄心保持台11上に保持された巻鉄心1の最外周鋼板1bの切断線CLに沿ってスライダ18とともに変位させられる可動フレーム20が支持されている。図示の例では、スライダ18に固定された支持金具21にピン22を介して可動アーム23の後端部が回動自在に支持され、可動アーム23の先端部に可動フレーム20が取り付けられている。可動アーム23は、切断線CLと直交する方向に伸びるように設けられていて、可動アーム23を回動させることにより、可動フレーム20を、巻鉄心1の切断線CLの近傍に設定された作用位置(図3に示された位置で、巻鉄心の最外周鋼板の切断を行う際の位置)と、ガイドレール16の上方に設定された退避位置とに変位させることができるようになっている。
【0045】
図4(A),(B)にも示したように、可動フレーム20には、熱切断用トーチ25とガイドローラ26とが支持されている。熱切断用トーチは、ワークの被切断部に熱を供給することにより、ワークを溶断する機能を有するトーチで、本実施形態では、熱切断用トーチ25として、プラズマ化したエアをワークの被切断部に供給してワークを溶断させるエアプラズマ切断用トーチが用いられている。熱切断用トーチ25は、図3に示したように可動アーム20が作用位置にあるときに、トーチ25の先端が切断線CLに指向した状態になるようにその取付位置が設定されている。
【0046】
ガイドローラ26は、上端が可動フレーム20に固定されたブラケット28の下端に、切断線CLと直交する方向に伸びる回転軸29を介して回転自在に支持されている。ガイドローラ26は、トーチ25の近傍で巻鉄心の最外周鋼板1bに接触しつつ、スライダ18の変位に伴って切断線CLに沿って転動して、熱切断用トーチ25の先端と最外周鋼板1bとの間の距離を一定に保つ。
【0047】
図5は、本実施形態で用いる最外周鋼板切断装置の制御系の構成を示したもので、同図において30は、熱切断用トーチ25及びスライダ駆動用モータ19を制御する切断制御装置、31はモータ19の回転速度を検出して、検出した回転速度の情報を切断制御装置30に与える回転速度センサである。
【0048】
熱切断用トーチ(エアプラズマ切断用トーチ)25には、図示しないエア供給源から圧縮エアが供給されている。エアプラズマ切断用トーチは、図示しない電源装置32から該トーチとワークとの間に与えられた電圧により、トーチ25とワークとの間にアークを発生させて、このアークにより、エア供給源から供給されたエアをプラズマ化し、プラズマ化したエアを最外周鋼板1bの被切断部に照射して最外周鋼板1bを切断する。トーチ25から最外周鋼板1bに与える熱量は、エアの供給量と、トーチ25と最外周鋼板1bとの間に与える電圧と、トーチ25の移動速度とを調整することにより微調整することができる。最外周鋼板1bを切断する際には、最外周鋼板1bのラップされている部分1bi,1boのうち、外側部分1boのみを溶断するように、トーチ25から最外周鋼板1bに与える熱量を調整しておく。
【0049】
切断制御装置30は、巻鉄心保持台11の上に保持された巻鉄心1の最外周鋼板の切断を開始する指令(切断開始指令)が与えられたときに、熱切断用トーチ25から最外周鋼板1bを切断するための熱出力を発生させると同時に、モータ19の駆動を開始して熱切断用トーチ25を切断方向に沿って設定された速度で移動させるように、トーチ25及びモータ19を制御する。切断制御装置30は市販のシーケンサを用いて構成することができる。
【0050】
本実施形態の切断装置により巻鉄心の最外周鋼板を切断する際には、先ず巻鉄心保持台11上に巻鉄心1を搬入して図示しない位置決め手段により巻鉄心1を定位置に位置決めする。巻鉄心保持台11上に巻鉄心1を保持する作業を行う際には、トーチ25やガイドローラ26が作業の妨げにならないようにするために、可動フレーム20をガイドレール17の上方に設定された退避位置に位置させて、トーチ25及びガイドローラ26を作用位置(図3に示した位置)から退避させておく。
【0051】
巻鉄心保持台11上に巻鉄心1を搬入して定位置に位置決めした後、可動アーム23を回動させることにより可動フレーム20を図3に示す作用位置に位置させて、トーチ25を切断線CLに指向させると共に、ガイドローラ26を巻鉄心の最外周鋼板1bの上に接触させる。この状態で押ボタンスイッチ等により切断制御装置30に切断開始指令を与える。切断制御装置30は、トーチ25と巻鉄心1との間に電圧を与えてトーチ25から巻鉄心の最外周鋼板1bを切断するための熱出力を発生させると同時に、モータ19の駆動を開始して熱切断用トーチ25を切断方向に沿って設定された速度で移動させるように、トーチ25及びモータ19を制御する。
【0052】
上記のように切断制御装置30を設けておくと、巻鉄心の最外周鋼板を切断する作業を自動的に行わせることができるため、巻鉄心の接合部の拘束を解く作業を容易にすることができる。
【0053】
上記の実施形態では、巻鉄心1の最外周鋼板を切断するトーチとしてエアプラズマ切断用トーチを用いたが、熱切断用トーチとしては、切断厚さをコントロールするために被切断部に与える熱量を調整できるものであればよく、レーザ切断用トーチなどの他の熱切断用トーチを用いることもできる。
【0054】
従来の巻鉄心製造方法により巻鉄心を製造した場合、巻鉄心の最外周鋼板の重ね合わされた部分の内側部分1biと外側部分1boとが直接接触した状態にあるが、最外周鋼板1bを巻回する工程で、最外周鋼板の重ね合わされる部分の内側部分1biと外側部分1boとの間に保護板を挿入する工程を付加することが可能な場合には、該保護板を挿入した部分で外側部分1boを切断するようにすることにより、最外周鋼板の切断を容易にするとともに、切断の際に内側部分1biが損傷するのを確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 巻鉄心
1a1〜1a3 鉄心構成要素
1b 最外周鋼板
10 最外周鋼板切断装置
11 巻鉄心保持台
12 固定フレーム
16 スライドユニット
17 ガイドレール
18 スライダ
19 スライダ駆動用モータ
20 可動フレーム
21 支持金具
22 ピン
23 可動アーム
25 熱切断用トーチ
26 ガイドローラ
CL 切断線
図1
図2
図3
図4
図5