(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-202102(P2016-202102A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】新規な香りを有する梅酒
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20060101AFI20161111BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-89600(P2015-89600)
(22)【出願日】2015年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】横山 明幸
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LG02
4B115LH04
4B115LP01
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】マンゴーやパッションフルーツを思わせるような南国果実様の香気を顕著に呈する新規な香りの梅浸漬酒を提供する。
【解決手段】梅浸漬酒中の1−ヘキサノール含有量が1.0〜3.0ppm、酢酸含有量が55.0〜75.0ppmとなるように梅果実をアルコール水溶液に浸漬する。梅の品種としては翠香を用いることが好ましい。浸漬開始時のアルコール水溶液のアルコール含有量は20〜30v/v%が好ましく、浸漬期間は2週間から2ヶ月未満が好ましく、浸漬の際の浸漬液温度は20〜25℃が好ましい。また、得られた梅浸漬酒の糖含有量は、10〜24w/v%が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅果実をアルコール水溶液に浸漬して得られる酒類であって、酒類中の1−ヘキサノールの含有量が1.0〜3.0ppm、及び酢酸の含有量が55.0〜75.0ppmである、酒類。
【請求項2】
梅の品種が、翠香である、請求項1に記載の酒類。
【請求項3】
梅果実を浸漬する際のアルコール水溶液のアルコール含有量が20〜30v/v%である、請求項1または2に記載の酒類。
【請求項4】
梅果実をアルコール水溶液に浸漬する期間が2週間から2ヶ月未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酒類。
【請求項5】
酒類の糖の含有量が10〜24w/v%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酒類。
【請求項6】
酒類のアルコール含有量が14〜20v/v%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酒類。
【請求項7】
梅果実をアルコール水溶液に浸漬している間の浸漬液の温度が、20〜25℃である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酒類。
【請求項8】
梅果実をアルコール含有量が20〜30v/v%のアルコール水溶液に2週間から2ヶ月未満の期間浸漬させること、及び
浸漬期間経過後に、梅果実をアルコール水溶液から取り出すこと、
を含み、梅果実が翠香を含む、南国果実様の香りを有する酒類の製造方法。
【請求項9】
浸漬期間中の浸漬液の温度が20〜25℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
浸漬期間経過後の酒類中の1−ヘキサノールの含有量が1.0〜3.0ppmであり、酢酸の含有量が55.0〜75.0ppmである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
浸漬期間経過後の酒類の糖含有量が10〜24w/v%となるように浸漬時のアルコール水溶液中への糖の添加量を調整することをさらに含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酒類を含有する、容器詰飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅果実を浸漬させることにより得られる酒類に関する。より詳細には、南国の果実、例えば、マンゴーやパッションフルーツを思わせるような、従来の梅果実を浸漬させて得た酒類(いわゆる一般的な梅酒)にはない新規な香りを有する酒類に関する。
【背景技術】
【0002】
梅果実を焼酎のような高アルコールの酒類に糖類とともに一定期間漬け込むことにより梅果実の成分を浸漬させた酒類(一般的には梅酒と呼ばれる。本願では梅浸漬酒とも呼ぶ。)は、梅由来の成分がアルコール中に抽出されており、梅果実の華やかな香りと風味を有するのに加え、整腸、老化予防、疲労回復等の健康に対する効果もあるとされ、古くから家庭内で作られたり、また、工業的に生産されたりして、広く親しまれており、その需要は増加傾向にある。
【0003】
このような人気を受けて、近年では、特徴的な香味を有する趣向を凝らした新しい梅浸漬酒の開発が行なわれるようになっている。例えば、特許文献1には、青梅を4〜6日間保存熟成させた後に焼酎またはブランデーに漬け込むことにより、香りのよい梅酒を製造する方法が記載されている。特許文献2には、完熟梅及び/又は追熟梅を凍結し、アルコール水溶液に浸漬することにより、顕著な完熟香を有する梅酒を製造する方法が記載されている。特許文献3には、熟成させた梅酒に梅果汁を添加することにより、青梅果実本来の爽やかなフレッシュ感を梅酒に付与する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−57036号公報
【特許文献2】特開2011−115118号公報
【特許文献3】特開2004−337039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これまでの梅浸漬酒にはみられないような、新規な香りを有する梅果実を浸漬させて得た酒類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、翠香という品種の梅の果実をアルコール水溶液に浸漬させた場合に、これまでにはないマンゴーやパッションフルーツなどの南国果実を思わせるような香りを有する酒類が製造できることに着目し、この特徴的な香りを引き立たせることができる製造方法について検討した。まず、いわゆる一般的な梅酒の製造方法と同様に、アルコール含有量が35〜40v/v%のアルコール水溶液に半年から1年程度の期間、梅果実を浸漬したところ、たとえ翠香を用いた場合でも、南国果実様の香気が弱くなり、通常の梅酒(翠香以外の梅果実を用いて作成した一般的な梅酒)の味わいに近くなってしまうことがわかった。これに関し鋭意検討した結果、意外にも、通常用いられるものに比べて低いアルコール含有量のアルコール水溶液を用い、浸漬期間も短くしたところ、得られる梅浸漬酒の南国果実様の香気が顕著に高まることを見出した。具体的には、アルコール含有量が20〜30v/v%程度のアルコール水溶液を用いることが好ましく、また、浸漬期間は2週間から2ヶ月未満程度と短いことが好ましいことがわかった。この際、アルコール水溶液に浸漬させる梅果実は、特に冷凍などの処理をしていない。これまで、浸漬期間を短期化させる方法として、梅果実を浸漬前に冷凍することが知られていたが、今回、梅果実を特に冷凍することなく用い、浸漬期間を短くすることで、梅浸漬酒の南国果実様の香気が顕著に高まったことは意外な結果であった。
【0007】
また、得られた南国果実様の香気を顕著に呈する梅浸漬酒についてさらに検討した結果、本発明者は、南国果実様の香気を呈する梅浸漬酒の浸漬状態の指標として、浸漬酒中の1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量を用いることができることを見出した。具体的には、浸漬酒中の1−ヘキサノールの含有量が1.0〜3.0ppm、酢酸の含有量が55.0〜75.0ppmとなる場合に、南国果実様の香気が最もよく感じられることがわかった。1−ヘキサノールは芝を刈ったときのような葉の匂いを呈する成分であり、酢酸は鼻につくような酢の匂いを呈する成分であり、いずれもマンゴーやパッションフルーツといった南国果実様の香気とは直接に関係しないものと思われるので、これらの成分を南国果実様の香気を呈する酒類の浸漬状態の指標として用いることができることは、意外な結果であった。本発明は、これらに限定されないが、以下の態様を含む。
(1)梅果実をアルコール水溶液に浸漬して得られる酒類であって、酒類中の1−ヘキサノールの含有量が1.0〜3.0ppm、及び酢酸の含有量が55.0〜75.0ppmである、酒類。
(2)梅の品種が、翠香である、(1)に記載の酒類。
(3)梅果実を浸漬する際のアルコール水溶液のアルコール含有量が20〜30v/v%である、(1)または(2)に記載の酒類。
(4)梅果実をアルコール水溶液に浸漬する期間が2週間から2ヶ月未満である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の酒類。
(5)酒類の糖の含有量が10〜24w/v%である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の酒類。
(6)酒類のアルコール含有量が14〜20v/v%である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の酒類。
(7)梅果実をアルコール水溶液に浸漬している間の浸漬液の温度が、20〜25℃である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の酒類。
(8)梅果実をアルコール含有量が20〜30v/v%のアルコール水溶液に2週間から2ヶ月未満の期間浸漬させること、及び
浸漬期間経過後に、梅果実をアルコール水溶液から取り出すこと、
を含み、梅果実が翠香を含む、南国果実様の香りを有する酒類の製造方法。
(9)浸漬期間中の浸漬液の温度が20〜25℃である、(8)に記載の方法。
(10)浸漬期間経過後の酒類中の1−ヘキサノールの含有量が1.0〜3.0ppmであり、酢酸の含有量が55.0〜75.0ppmである、(8)または(9)に記載の方法。
(11)浸漬期間経過後の酒類の糖含有量が10〜24w/v%となるように、浸漬時のアルコール水溶液中への糖の添加量を調整することをさらに含む、(8)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の酒類を含有する、容器詰飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来の梅を浸漬させて得た酒類にはないマンゴーやパッションフルーツを思わせるような南国果実様の香気を顕著に呈する新規な香りの梅浸漬酒を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の酒類は、梅果実をアルコール水溶液に一定期間浸漬することにより製造される。梅果実として用いる梅の品種は、特に限定されず、例えば、いわゆる梅酒の製造に用いられるものを用いることができる。そのような梅の品種としては、例えば、南高、古城、白加賀、鶯宿、橙高、露茜、藤五郎、剣先、翠香などが挙げられる。中でも、翠香を用いて製造した酒類は、マンゴーやパッションフルーツを思わせるような南国果実様の香気を最もよく呈するので、好ましい。
【0010】
アルコール水溶液に浸漬させる際の梅果実の状態は、青梅、完熟梅、または梅の収穫後15〜35℃で約2〜6日間保管熟成させた追熟梅のいずれであってもよいが、完熟梅または追熟梅を用いると、果実様の香気が高まるため、好ましい。梅果実は、凍結や粉砕といった処理を特に行うことなく、表面を清浄にした生梅をそのままアルコール水溶液に浸漬させればよい。
【0011】
梅果実を浸漬させるアルコール(エタノール)水溶液中のアルコールとしては、飲料に用いることができるものであればよく、特に限定されない。例えば、原料用アルコール(糖蜜を原料とするニュートラルスピリッツ、穀物を原料とするグレーンスピリッツ等)、蒸留酒(焼酎、ウイスキー、ブランデー、ジン等)などのアルコールを1種又は複数組み合わせて用いることができる。浸漬開始時の(すなわち、梅果実をアルコール水溶液に浸漬させる際の)アルコール水溶液のアルコール含有量は、20〜30v/v%程度が好ましい。アルコール含有量が30v/v%を超えると、従来の梅浸漬酒に近い香気となり、また、梅果実らしい味わいが目立つようになり、本発明に特徴的な南国果実様の香気が相対的に感じられにくくなることがある。アルコール含有量20〜30v/v%のアルコール水溶液に梅果実を浸漬させた場合、浸漬期間経過後の酒類のアルコール度数は、梅果実や糖の種類や量、また浸漬期間にもよるが、14〜20v/v%程度となる。なお、本明細書において、「アルコール」とは、特に断りのない限り、エタノールを指し、アルコール含有量とは、エタノールの容量%(v/v%)を指す。アルコール含有量(エタノールのv/v%)は、公知の手法を用いて測定することができる。例えば、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改定)に記載の方法によって測定することができる。
【0012】
浸漬開始時の梅果実とアルコール水溶液との量比は、特に限定されないが、通常、梅1kgに対して、アルコール水溶液が1〜3L程度である。
【0013】
梅果実をアルコール水溶液に浸漬する際には、糖を添加する。糖の種類は、飲食品に用いることができるものであればよく、特に限定されない。例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖などを1種または複数組み合わせて用いることができる。糖の量は、浸漬期間経過後の酒類中の糖含有量が、10〜24w/v%の範囲となるように調整することが好ましい。糖含有量がこの範囲を外れると、南国果実様の香気が低減することがある。なお、本明細書において、糖含有量(容量あたりの糖重量(w/v%))とは、ブドウ糖、果糖、及びショ糖の合計重量をいうものとする。糖含有量は、公知の手法を用いて測定することができる。例えば、関税中央分析所報第54号第57〜60頁に記載されるような高速液体クロマトグラフ(HPLC)示差屈折検出法を用いて測定することができる。
【0014】
浸漬期間経過後の酒類の糖含有量は、用いる梅の品種、量、アルコールの種類、度数、糖の種類、浸漬期間等を考慮して、浸漬の際に添加する糖の量を調整することにより調整することができる。例えば、浸漬の際に添加する糖の量は、浸漬開始時のアルコール水溶液に対して15〜35w/v%程度とすることができる。
【0015】
糖の添加時期は、特に制限されず、梅果実をアルコール水溶液に浸漬する時点で添加してもよいし、梅果実をアルコール水溶液に浸漬した後、24時間以内程度に糖を添加してもよい。また、梅果実をアルコール水溶液に浸漬する前に、アルコール水溶液に予め糖を混ぜて溶解させておいてもよい。
【0016】
梅果実のアルコール水溶液への浸漬期間は、梅果実とアルコール水溶液との量比にもよるが、2週間以上2ヶ月未満程度が好ましい。2ヶ月を超えて浸漬すると、従来の梅浸漬酒に近い香気となり、また、熟成香が目立つようになり、本発明に特徴的な南国果実様の香気が相対的に感じられにくくなることがある。浸漬期間は、さらに好ましくは2週間から1ヶ月間である。
【0017】
浸漬期間中の浸漬液の温度は、20〜25℃が好ましい。20℃を下回り、かつ浸漬期間が2ヶ月未満と短いと、梅果実の成分が十分に抽出されないことがある。また、25℃を超えると、従来の梅浸漬酒に近い香気となり、また、熟成香が目立つようになり、本発明に特徴的な南国果実様の香気が相対的に感じられにくくなることがある。なお、「浸漬液の温度」とは、梅果実を浸漬したアルコール水溶液の温度をいう。浸漬液の温度の調整方法は特に限定されず、例えば、浸漬液を保管する室内の温度を制御したり、冷却水/温水のジャケット付容器を用いたり、また、熱交換機付の液循環装置などを用いることで調整することができる。
【0018】
本発明者は、南国果実様の香気を呈する酒類の浸漬状態の指標として、1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量を用いることができることを見出した。1−ヘキサノールは、芝を刈ったときのような葉の匂いを呈する成分であり、酢酸は鼻につくような酢の匂いを呈する成分であり、いずれも、マンゴーやパッションフルーツといった本発明の南国果実様の香気とは直接には関係しないものと思われるが、意外にも、これらの成分量が特定の範囲内にある場合に、南国果実様香気がよく感じられることがわかった。本発明の酒類(浸漬期間経過後に得られる酒類)中の1−ヘキサノール含有量は、1.0〜3.0ppmであり、好ましくは1.7〜2.3ppmである。また、本発明の酒類の酢酸含有量は、55.0〜75.0ppmであり、好ましくは56.8〜71.8ppmである。酒類の1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
酒類の1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量を上記の範囲内に調整するには、梅の品種、アルコール度数、糖の量、浸漬温度、浸漬期間などの浸漬条件を適宜調整すればよい。例えば、梅の品種として、翠香を用い、アルコール含有量20〜30v/v%のアルコール水溶液に2週間から2ヶ月未満の期間浸漬させることが好ましい。この際、浸漬期間中の浸漬液の温度は、20〜25℃が好ましく、浸漬期間経過後に得られる酒類の糖含有量は、10〜24w/v%程度が好ましい。翠香は、通常の梅とは異なりマンゴー様の香りを呈することが知られているが、上記の範囲よりアルコール含有量が多いアルコール水溶液を用いたり、上記の範囲より浸漬期間を長期化させたり、上記の範囲より浸漬中の浸漬液温度を高めたり、または上記の範囲より糖の含有量を増加させたりすると、1−ヘキサノール含有量または酢酸含有量が上記の範囲外となることがあり、その場合、たとえ翠香を用いたとしても、マンゴーのような南国果実様の香気が感じられにくくなり、通常の梅(翠香以外の梅)を用いて作った梅浸漬酒(いわゆる従来の梅酒)に近い香気となることがある。一方、上記の範囲よりアルコール含有量が少ないアルコール水溶液を用いたり、上記の範囲より浸漬期間を短期化させたり、上記の範囲より浸漬期間中の浸漬液温度を低下させたり、または、上記の範囲より糖の含有量を低下させたりすると、1−ヘキサノール含有量または酢酸含有量が上記の範囲外となることがあり、梅果実由来の成分がアルコール水溶液中に十分に抽出されず、南国果実様の香気が感じられないものとなることがある。
【0020】
1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量が上記の範囲内となるように浸漬を行なったら、梅果実をアルコール水溶液から取り出し、また、不溶性固形分を除去する。不溶性固形分の除去手段は、不溶性固形分の生成度合に応じて適切な手段を選択すればよい。例えば、不溶性固形分の生成量が軽微であればオリ引きなどの手段で除去することができ、生成量が多ければ、固液分離手段を用いて不溶性固形分を除去することができる。固液分離手段としては、具体的には、遠心分離、膜濾過、珪藻土濾過、濾紙濾過など通常の分離手段を実施することができる。作業効率を向上させるために、複数の固液分離手段を組み合わせて実施してもよい。
【0021】
本発明により得られる酒類は、梅果実の品種、熟度、浸漬条件等によって水分含量が変化するため値がばらつくが、主に以下のような品質特性を有する。1−ヘキサノール含有量が1.0〜3.0ppm、好ましくは1.7〜2.3ppmであり、酢酸含有量が55.0〜75.0ppm、好ましくは56.8〜71.8ppmである。アルコール含有量は、14〜24v/v%程度で、糖含有量は10〜24w/v%程度である。マンゴーまたはパッションフルーツのような、南国果実を思わせるような特徴的な香気を顕著に有しており、従来の梅浸漬酒とは香気の点で、明らかに区別されるものである。
【0022】
本発明により得られる酒類は、そのまま飲料として用いることができ、また、他の飲料または水などとブレンドして用いてもよい。本発明の酒類には、本発明の特徴である南国果実様の香気を損なわない範囲で、一般的な梅浸漬酒に使用できる公知の原材料及び/又は添加物を使用してもよい。
【0023】
本発明により得られる酒類は、そのままで、あるいは水または他の飲料とブレンドした形態で、容器詰めされてもよい。用いる容器に特に制限はなく、瓶、缶、紙、ペットボトル等、種々の形態の容器を用いることができる。
【実施例】
【0024】
<1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量の測定方法>
試料となる液体組成物を以下の条件にて、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)に供した。
ガスクロマトグラフィー(GC)分析条件:
GC装置:Agilent Technologies GC−MSD
GCオーブン温度条件:40℃(5分)−6℃/min−240℃
質量分析(MS)条件:
四重極設定値:150 イオン源設定値:230
面積値算出条件:
トータルイオンモード 質量(LOW):35 質量(HIGH):550
カラム:DB−WAXETR 60m 内径320μm、膜厚0.25μm
試料前処理条件:試料80μLと内部標準物質(デカン酸メチルエステル20ppmアルコール水溶液)20μLを20mLスクリューキャップバイアル瓶中で混合
ダイナミックヘッドスペース条件:
装置:ゲステル社MPS
吸着剤:TENAX
試料気化温度:80℃
試料気化用ガス供給量:3000mL
試料気化用ガス供給速度:100mL/min
試料気化用ガス種類:窒素
ピーク保持時間:MSの解析によって成分および濃度の同定を行った。
標準物質:酢酸、1−ヘキサノール。
【0025】
<梅酒の製造>
以下の表1に示す条件で、各種酒類を調製した。なお、梅果実としては、表1に示す品種の梅の青梅または完熟梅を収穫し、室温で2〜3日追熟させたものについて、表面を水洗し、水気をふき取った後に用いた。凍結や粉砕は行っていない。アルコール水溶液としては、表1に示すアルコール含有量となるように水で希釈したニュートラルスピリッツを用いた。糖としては、グラニュー糖を用い、梅果実の浸漬前にアルコール水溶液中に溶解させた。アルコール水溶液に対する梅果実の重量は、450g/Lとした。浸漬中は、最初の3日間は毎日撹拌均一化を行い、その後は、1〜2週間に一度撹拌均一化を行った。
【0026】
得られた各種酒類について、1−ヘキサノール含有量及び酢酸含有量を上記の方法で測定した。また、各種酒類の南国果実様の香気(マンゴーやパッションフルーツのような南国果実を思わせる香気)について、「優れている」を3点、「どちらともいえない」を2点、「劣る」を1点として、専門パネラーにより官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1の結果より、1−ヘキサノール含有量が1.0〜3.0ppmであり、酢酸含有量が55.0〜75.0ppmである本発明品1〜5は、南国果実様の香気が優れていることがわかる。梅の品種として南高または白加賀を用いた比較例1、2は、梅浸漬酒らしい香りは有していたが、本発明に特徴的な南国果実様の香気ではなかった。比較例3〜5は、味わいの厚みが目立つようになり、南国果実様の香気が感じられにくかった。比較例6、7、10、14は、熟成香が目立つようになり、南国果実様の香気が感じられにくかった。比較例8、9、11〜13は、南国果実様の香気を引き立てる香気成分の抽出量が少ないように感じた。