【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『活力ある生涯のためのLast 5X イノベーション』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【発明を実施するための形態】
【0014】
(多能性幹細胞)
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、少なくとも本発明で使用される膵島前駆細胞に誘導される任意の細胞が包含される。多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、多能性生殖幹細胞(「mGS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞である。
【0015】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。ここで、初期化因子とは、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等の遺伝子または遺伝子産物が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO 2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO 2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat. Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem
Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat. Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotechnol., 27:459-461、Lyssiotis CA, et
al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-74、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-9.に記載の組み合わせが例示される。
【0016】
体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)血液細胞(末梢血細胞、臍帯血細胞等)、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞
、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。疑似膵島作製に使用するiPS細胞を、疑似膵島を適用する患者本人由来の体細胞から作製することで、免疫拒絶が生じない移植用膵島を作製できる可能性が高いと期待されている。
【0017】
(培養器)
本発明の方法において使用される培養器は、1500個〜5000個/ウェルの細胞、好ましくは2000個〜3000個/ウェルの細胞を播種し、凝集体を形成させることのできるサイズの培養ウェルを有する。本発明の方法は、例えば、容積が、0.001μl/well〜10μl/wellの培養ウェルを用いて実現でき、また、例えば、0.001〜1μl/wellの培養ウェルを用いて実現でき、さらに例えば、0.005μl/well〜0.5μl/well の培養ウェルを用いて実現でき、さらに例えば、0.01μl/well〜0.5μl/wellの培養ウェルを用いて実現でき、さらに例えば、0.01μl/well〜0.1μl/wellの培養ウェルを用いて実現できる。また、例えば、細胞が底部に沈んで凝集体を形成しやすい形状、例えば、底部が底に向かって膨らんだ半球状の培養ウェルや、円柱状で底部が半球状になっている形状を有する培養ウェルを用いて実現できる。このような培養ウェルの直径は、例えば、200μm〜800μmであり、また、例えば、400〜800μmである。また、このような培養ウェルの深さは、例えば、400μm〜1000μmであり、また、例えば、400〜800μmである。また、上記のような形状のウェルを複数有するマルチウェルの培養器を用いて、多数の疑似膵島を得ることができる。
【0018】
培養器は、非接着培養を行うため、培養表面が細胞の非接着処理されているものでもよいが、細胞を非接着状態で培養できるような素材でできていることが好ましい。そのような素材としては、三次元構造を有する細胞毒性のない親水性素材が好ましく、さらには、培養状態を観察しやすくするために透明の素材であることが好ましい。より具体的には、ハイドロゲルが好ましい。
【0019】
ハイドロゲルを作製するのに用いる材料としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリ-2- ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ-2- ヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などの合成高分子の化学架橋体や放射線照射による架橋体、さらに、上記高分子を構成するモノマーの共重合体の架橋体など、ハイドロゲルを形成することのできる各種合成高分子材料を挙げることができる。また、天然高分子であるアガロース、アルギン酸、デキストラン、セルロースなどの多糖やその誘導体、また、ゼラチンやアルブミンなどのタンパクやその誘導体の架橋体なども用いることができる。
【0020】
(培養方法)
本発明の培養方法の一態様について説明する。
まず、あらかじめ接着状態で培養しておいた多能性幹細胞を、培養皿より剥離し、単一細胞に解離させる。この工程は、例えば、トリプシンなどの酵素を用いて行うことができる。そして、単一細胞に解離させられた多能性幹細胞を培地に懸濁し、1500個〜5000個/ウェルの細胞濃度になるように培養容器へ播種する。そして、この状態で一定期間、例えば、12〜36時間静置することで、凝集体を形成させる。
【0021】
なお、凝集体を形成させる際に使用する培地は、多能性幹細胞の培養に使用される一般的な培地を使用することができるが、培地にはRho-associated coiled-coil forming kinase (ROCK)阻害剤を添加することが好ましい。凝集体を形成させる際の培養条件は通常の細胞培養と同様の条件でよいが、培養温度は35〜39℃が好ましく、37℃がより好ましい。培養はO
2濃度約5〜20%、CO
2濃度約5%の通常の条件で行うことが好ましい。培養時間は凝集体が形成される時間であれば特に制限されないが、例えば、10〜30時間である。
【0022】
次に、所定サイズ、例えば、直径100μm〜500μmの凝集体を形成した多能性幹細胞に、培養液組成を変えることで分化刺激を与え、膵島前駆細胞または膵島細胞を含む細胞塊へと分化させる。
本工程における培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地に必要な分化誘導因子を添加することで調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Doulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、MCDB 131 培地、E8培地、mTeSR1培地およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のウシ胎児血清(FBS)の血清代替物)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3'-チオールグリセロール、ITS−サプリメントなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、B27-サプリメント、N2-サプリメント、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有しうる。
【0023】
多能性幹細胞を膵島前駆細胞または膵島細胞に分化させる工程では、生体内での膵発生の過程を模倣するように、培養液の組成を経時的に変化させるとよい。
このような方法としては、例えば、以下の文献に記載された方法や、これを適宜修正した方法を用いることができる。
[非特許文献2] Rezania A, Bruin JE, Riedel MJ, Mojibian M, Asadi A, Xu J, Gauvin
R, Narayan K, Karanu F, O'Neil JJ, Ao Z, Warnock GL, Kieffer TJ. Maturation of human embryonic stem cell-derived pancreatic progenitors into functional islets capable of treating pre-existing diabetes in mice. Diabetes 2012;61:2016-2029.
[非特許文献3] Rezania A, Bruin JE, Arora P, Rubin A, Batushansky I, Asadi A, O'Dwyer S, Quiskamp N, Mojibian M, Albrecht T, Yang YH, Johnson JD, Kieffer TJ. Reversal of diabetes with insulin-producing cells derived in vitro from human pluripotent stem cells. Nat Biotechnol 2014;32:1121-1133.
[非特許文献4] Hrvatin S, O'Donnell CW, Deng F, Millman JR, Pagliuca FW, DiIorio
P, Rezania A, Gifford DK, Melton DA. Differentiated human stem cells resemble fetal, not adult, β cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 111, 3038-3043 (2014)
[非特許文献5] Pagliuca FW, Millman JR, Gurtler M, Segel M, Van Dervort A, Ryu JH, Peterson QP, Greiner D, Melton DA. Generation of functional human pancreatic β cells in vitro. Cell. 2014;159:428-439.
例えば、初期の段階で、Activin AやWnt3aを加えることが好ましく、その後レチノイン酸、ヘッジホッグシグナル阻害剤(例えばSANT-1やCyclopamine-KAAD)、線維芽細胞増殖因子を加えることも好ましい。
また、分化の過程では、生体内での膵発生の過程を模倣して、機能的な膵島を得るために、未分化性を維持して増殖を促進する物質や、増殖を抑制して分化を促進する物質、生体内の膵臓で発現するタンパク質、インスリン分泌を促進する物質等を、適切な時期に加えてもよい。かかる物質としては、GSK-3β(Glycogen Synthase Kinase 3β)阻害剤(例えばCHIR99021)、ALK阻害剤(例えばSB431542)、Notchシグナル阻害剤(例えばDAPT)、TGFβ阻害剤(例えばLDN193189)、AMPK及びBMPシグナル阻害剤(例えばDorsomorphin)、PKC活性化剤(例えばPdbu)、インスリン様増殖因子-1、上皮成長因子、肝細胞成長因子、グルカゴン様ペプチド-1、市販のサプリメント等が挙げられる。
【0024】
培養は凝集体がインスリン産生細胞を十分含有するようになる時期まで継続すればよいが、例えば、分化刺激開始より、20〜40日間、好ましくは25〜35日間の培養期間が例示さ
れる。
培養温度は35〜39℃が好ましく、37℃がより好ましい。培養はO
2濃度約5〜20%、CO
2濃度約5%の通常の条件で行うことが好ましい。
培地は定期的に交換することが好ましく、毎日交換することがより好ましい。なお、培養を微小ウェルを有するマイクロプレートで行うときは、マイクロプレートをシャーレなどの上に置き、シャーレの中に培地を入れてマイクロプレートのウェル内に培地が浸透するようにしてもよい。このようにすることで培地交換も容易に行うことができる。
培養液の供給方法としては、1日から数日ごとにピペット等を用いて新しい培養液に交換する方法、または、培養基板を流路内に設置して、液体ポンプによって培養液を一定速度で基板上供給する方法、または、ポンプを所定時間作動させて培養液を基板上に供給し、その後一定時間静置する方法、等、適宜の方法を用いることができる。
【0025】
分化工程では、複数の培養ウェルのそれぞれに培養された凝集体のサイズを略均一化して行うことが好ましい。凝集体のサイズは、分化誘導開始時において、直径が、例えば、100μm〜500μmであり、100μm〜400μmであることが好ましく、200μm〜400μmであることがより好ましく、200μm〜350μmであることがさらに好ましく、250μm〜350μmであることがいっそう好ましい。凝集体は、分化誘導開始後において、当該培養ウェル内で、当該分化誘導開始時のサイズの0.5〜2倍を維持することが好ましく、0.8〜1.5倍を維持することがより好ましい。
【0026】
本発明の方法で得られる「疑似膵島」は、人工的に形成された細胞凝集体であって、少なくともグルカゴンを分泌するα細胞と、インスリンを分泌するβ細胞と、ソマトスタチンを分泌するδ細胞とを含み、生体内の膵島と類似した三次元構造を有するものをいう。好ましくは、グルコース応答性のインスリン分泌能を有する。膵島細胞にα細胞、β細胞、及びδ細胞が含まれることは、例えば、それぞれ、グルカゴン、インスリン、及びソマトスタチンに対する抗体を用いる免疫染色で確認できる。β細胞は、Cペプチドに対する抗体を用いた免疫染色で検出することもできる。Cペプチドは、インスリンの前駆体であるプロインスリンが、酵素によって分解されてインスリンとなる際に生成されるペプチドである。β細胞は、ジチゾン染色によって検出してもよい。
疑似膵島は、少なくともグルカゴンを分泌するα細胞と、インスリンを分泌するβ細胞と、ソマトスタチンを分泌するδ細胞とを含む膵島細胞を含むが、さらに、pancreatic polypeptide(PP)分泌細胞や膵島前駆細胞を含んでもよい。本明細書において「膵島前駆細胞」は、その後、膵島細胞へと分化していく細胞をいう。膵島前駆細胞は、例えば、PDX1(pancreas duodenal homeobox gene 1)陽性、及びPTF1a(pancreas transcription factor 1a)陽性の細胞とすることができる。また、NKX6.1陽性であることを指標としてもよい。PDX1陽性且つNKX6.1陽性、又は、PTF1a陽性且つNKX6.1陽性であることを指標としてもよい。
【0027】
本発明の方法で得られた疑似膵島は、糖尿病患者に対する移植医療に好適に使用できる。また、本発明に係る膵島細胞の製造方法は、糖尿病(特に1型糖尿病)患者由来の人工多能性幹細胞にも適用することができる。これにより得られる膵島細胞は、糖尿病発症機構の解明や、新薬の探索など、様々な研究に有用である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について実施例を参照して説明するが、本発明の態様は以下の態様には限定されない。
【0029】
1.アガロースマイクロウェルの準備
マイクロティシューズ社の3D Petri Dishを用い、メーカーのプロトコル(http://www.funakoshi.co.jp/contents/5556)を参考にしてアガロースマイクロウェル作製した。
具体的には、以下の手順でアガロースマイクロウェルを作製した。
小さな細胞凝集体用には、ウェル直径400μm、256 well/plateの鋳型を使用した。また、大きな細胞凝集体用(3000 cells/well以上)には、ウェル直径800μm、81 well/plateの鋳型を使用した。
【0030】
まず、鋳型に加温したアガロース溶液(2.5%アガロース/生理食塩水)を流し込む。
次に、室温で冷却し、アガロースがゲル化したら、アガロースマイクロウェルを鋳型から取り外す。
アガロースマイクロウェルを細胞培養用の12 well plateに移し、周囲に培地(DMEM/F12)を添加し、アガロースマイクロウェルを浸漬させる。
一晩以上インキュベータ(37℃、5%CO
2)に入れ、アガロースプレートを周りの培地と平衡化させる。
これにより、直径400μm、深さ800μmの円柱部と、半球状の底部を有するウェルを256個有するアガロースマイクロウェルが得られた(大きな凝集体用は直径800μm、深さ800μmのウェルを81個)。
図1にアガロースマイクロウェルとウェルの形状を示す。
【0031】
2.凝集体形成及び分化誘導
iPS細胞(253G1 Riken Cell Bankより入手)をGeltex(Life Technologies社)でコートされた培養容器を用い、E8培地(Life Technologies社)で3〜4日間培養した。
70〜80%コンフルエントの状態でTrypLE(Life Technologies社)を用いて細胞を剥がし、単一細胞に分離した。細胞を10μMのY-27632(ROCK阻害剤:和光純薬)を含むE8培地に懸濁し、上記で調製した12 well plateのウェル上に設置した256ウェルのアガロースマイクロウェルプレートに、2500細胞/ウェル、1250細胞/ウェルまたは5000細胞/ウェルで播種した。
10分間静置して細胞を底に沈ませたのち、アガロースプレートの周りに培地(E8培地+ROCK阻害剤)を添加し、プレートごと浸漬させた。37℃、5%CO
2の条件で24時間培養して細胞を凝集させたのち、
図2の手順で分化誘導を行った。具体的には、下記のごとく、経時的に培地組成を変化させた。培地を毎日吸い出し、交換した。なお、分化誘導直前の凝集体のサイズは、約200〜350μmである。なお、
図3の播種直後、Day 0、Day 3、Day 10およびDay 20の下段の画像の縮尺は、共通である。
【0032】
第1段階(3日間)
RPMI+1.2g/L NaHCO
3、0.1% fat-free BSA、1/5000 ITS supplement 、3μM CHIR99021、100ng/mL Activin A(CHIR99021は初日の培地にのみ加えた)。
第2段階(3日間)
DMEM/F12+0.1% fat-free BSA+1/5000 ITS supplement +50ng/mL FGF-7
第3段階(4日間)
DMEM+1% B27 supplement+50ng/mL FGF-7+0.25μM SANT-1+0.5μM LDN193189+2μM
レチノイン酸
第4段階(3日間)
DMEM+1% B27 supplement+0.25μM SANT-1+0.5μM LDN193189+0.2μM PdBu(phorbol 12,13-dibutyrate)
第5段階(7日間)
DMEM+1% B27 supplement+1μM Alk5 inhibitor+0.25μM LDN193189
第6段階(14日間)
DMEM+1% B27 supplementまたはDMEM+10%FBS
【0033】
3.結果
図3(A)に分化誘導過程における細胞凝集体の様子(上)及び分化34日後にアガロー
スプレートから回収した細胞凝集体の形態(下)を示す。これにより、凝集体は分化初期は直径が大きくなり、その後、徐々に直径が小さくなり、よりコンパクトに凝集していくことがわかる。また、
図3(B)に分化誘導過程における細胞凝集体の直径の分布を示す。凝集体の直径は、分化誘導開始時点(Day0)では約250〜350μmで、分化誘導開始から3日後(Day3)では約350〜475μm、10日後(Day10)では約250〜400μm、20日後(Day20)では約175〜350μm、34日後(Day34)では約200〜325μmと、変動した。
【0034】
図4には、分化誘導3日目(a)と分化誘導20日目(b)の凝集体の免疫染色の結果を示す。培養3日目には、90%程度の効率で胚体内胚葉(SOX17,FOXA2陽性)へ分化し、培養20日目には、インスリンを産生する膵島細胞へ分化していることが分かった。
【0035】
また、分化誘導34日目に得られた凝集体を用いて、インスリン分泌を調べたところ、糖の濃度に依存したインスリン分泌が確認できた(
図5)。
【0036】
図6には、細胞初期濃度を、1250細胞/ウェル、2500細胞/ウェル、又は5000細胞/ウェルとした時の、分化誘導18日目に得られた膵島細胞凝集体について、細胞生存アッセイを行った結果を示す。生細胞をCalcein-AM(商品名)で染色し、死細胞をヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。
その結果、1250細胞/ウェルで播種した時は凝集体のほとんどの細胞が死滅し、5000細胞/ウェルで播種した時は凝集体中央部で細胞の死滅が多く見られた。一方、2500細胞/ウェルで播種した時は凝集体中央部での細胞の死滅はほとんど見られなかった。
この結果から、細胞数が少ないと分化誘導の途中で多くの細胞が死滅し、逆に凝集体が大きすぎると、中央部まで酸素や栄養素が行き届かなくなり、凝集体中心部の細胞の生存率や分化効率が低下することが分かり、高活性の膵島細胞を得るには細胞の播種濃度が一定の範囲であることが重要であるということが分かった。
【0037】
次に、凝集体培養での分化(本発明の方法)と接着培養での分化(比較例)について、分化誘導初期段階(3日目)における胚体内胚葉細胞への分化効率を比較した。
図7に、胚体内胚葉細胞マーカーであるSOX17とFOXA2についてのFACSの結果を示す。この結果から、凝集体培養での分化の方が胚体内胚葉細胞への分化効率がよいことが分かった。
【0038】
また、凝集体培養での分化(本発明の方法)と接着培養での分化(比較例)について、誘導後期段階(20日目)における膵島細胞への分化効率を比較した。
図8に、膵島細胞マーカーであるPDX1とC-peptideについてのFACSの結果を示す。この結果から、凝集体培養での分化の方が膵島細胞への分化効率がよいことが分かった。
【0039】
また、同様に、本発明の方法で得られた膵島(分化20日後)と接着培養で分化させて得られた膵島(比較例:分化20日後)について、定量RT-PCRで、膵島マーカー遺伝子の発現を調べた。結果を
図9に示す。その結果、インスリン(INS)、グルカゴン(GCG)、ソマトスタチン(SST)、PDX1、NGN3、PTF1A、Nkx6.1、Nkx2.2のいずれも本発明の方法で得られた膵島の方が発現量が多く、凝集体培養での分化の方が膵島細胞への分化効率がよいことが分かった。
なお、データには示さないが、接着培養で分化させて得られた膵島では外分泌マーカーの発現も増えていることが分かった。
【0040】
以上より、本発明によれば、播種細胞数を制御し、均一な大きさの細胞凝集体を作製し、1つのウェル内に1つの細胞凝集体を保持した状態で(すなわち、別の細胞凝集体とは接触しない状態で)分化誘導を行うことで、従来の接着培養での分化誘導と比較して、より効率よく膵島細胞が誘導できることが分かる。