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特開2016-202213下肢リンパ圧改善用具及び下肢リンパ圧改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-202213(P2016-202213A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】下肢リンパ圧改善用具及び下肢リンパ圧改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/08 20060101AFI20161111BHJP
   A61F 5/30 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   A61F13/08
   A61F5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-83140(P2015-83140)
(22)【出願日】2015年4月15日
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】502179282
【氏名又は名称】東レ・オペロンテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100108257
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 伊知良
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】海野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 良太
(72)【発明者】
【氏名】丸茂 智彦
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宏典
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA02
4C098BB11
4C098BC04
4C098BD15
4C098DD06
(57)【要約】
【課題】使用者の下肢におけるリンパ管内のリンパ圧を向上させる下肢リンパ圧改善用具を提供する。
【解決手段】使用者Mの下肢Lに適用されて、使用者Mの下肢Lにおけるリンパ管内のリンパ圧を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具1であって、下肢Lに接触する本体部2を備え、本体部2は、下肢Lに含まれた第1の部位L1を第1の圧力で押圧する第1の押圧部7と、第1の部位L1とは異なる位置であって下肢Lに含まれた第2の部位L2を第2の圧力で押圧する第2の押圧部8と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の下肢に適用されて、前記使用者の下肢におけるリンパ管内のリンパ圧を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具であって、
前記下肢に接触する本体部を備え、
前記本体部は、前記下肢に含まれた第1の部位を押圧する第1の押圧部と、
前記第1の部位とは異なる位置であって前記下肢に含まれた第2の部位を押圧する第2の押圧部と、を有する、下肢リンパ圧改善用具。
【請求項2】
前記本体部は、前記使用者の下肢に装着されて、少なくとも、前記使用者の下肢における足首からふくらはぎを締め付けるように覆う締付部を有し、
前記締付部は、前記第1の部位と、前記第2の部位とを含む、請求項1に記載の下肢リンパ圧改善用具。
【請求項3】
前記締付部は、前記第1の部位及び前記第2の部位とは異なる位置であって前記下肢に含まれた第3の部位を押圧する第3の押圧部を更に含む、請求項2に記載の下肢リンパ圧改善用具。
【請求項4】
使用者の下肢に適用されて、前記使用者の下肢におけるリンパ管内のリンパ圧を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具を用いた下肢リンパ圧改善方法であって、
前記下肢リンパ圧改善用具は、前記下肢に接触する本体部を備え、前記本体部は、前記下肢に含まれた第1の部位を第1の圧力で押圧する第1の押圧部と、前記第1の部位とは異なる位置であって前記下肢に含まれた第2の部位を第2の圧力で押圧する第2の押圧部と、を有し、
前記下肢リンパ圧改善用具を利用して、前記第1の部位を第1の圧力で押圧する工程と、
前記下肢リンパ圧改善用具を利用して、前記第2の部位を第2の圧力で押圧する工程と、を有する、医療行為を除く下肢リンパ圧改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の下肢におけるリンパ管内を流れるリンパの圧力を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具及び下肢リンパ圧改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ管は血管とともに身体のあらゆる組織、臓器に張り巡らされており、外敵に対する防御、免疫、老廃物の排出、静脈への水分、タンパク質の還流を司っている。リンパ管内を流れるリンパは、集合リンパ管においてはリンパ管の自律収縮能(ポンプ機能)により押し出され、四肢末梢から体幹、そして胸管を経て静脈内へと流入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/137358号
【特許文献2】特開2007−63723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リンパ管は血管と異なり開放系であること、及び、血管造影のように造影剤を直接管内に注入することが難しいことから、画像を利用してリンパの流れを捉えることが困難である。また、リンパ流は動脈のように拍動流ではなく、リンパ流の音波探知技術も存在しないため、血圧測定とは異なりリンパ管内を流れるリンパの圧力(リンパ圧)を測定することも困難である。
【0005】
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、リンパ管の自律収縮能によるポンプ機能を測定する技術として、特許文献1に開示されたリンパ圧測定システムを開発した。このシステムによれば、リンパ管の自律収縮能によるポンプ機能をリンパの圧力として、より安全、安価且つ簡易に測定することができる。発明者らは、当該システムを利用して、リンパ圧が人間の健康状態に及ぼす影響を調査している。その結果、発明者らは、人間の下肢におけるリンパ圧が人間の健康状態と密接に関連することを見出し、使用者の下肢におけるリンパ圧を向上させることによって、良好な健康状態を回復及び維持することに思い至った。
【0006】
一方、特許文献2に示されるように人間の下肢に装着される医療器具は、静脈還流に着目したものが多く、リンパ圧に着目したものではない。また、リンパ浮腫を改善させる目的で販売されている弾性ストッキングやマッサージ法は存在するものの、リンパ圧の改善に着目した器具及び手技は存在しなかった。なぜならば、上述したように、従来は、リンパ圧を安価且つ簡易に測定することが難しかったからである。
【0007】
そこで、本発明は、使用者の下肢に適用されて、使用者の下肢におけるリンパ圧を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具及び当該下肢リンパ圧改善用具を利用した下肢リンパ圧改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、使用者の下肢に適用されて、使用者の下肢におけるリンパ管内のリンパ圧を改善させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具であって、下肢に接触する本体部を備え、本体部は、下肢に含まれた第1の部位を押圧する第1の押圧部と、第1の部位とは異なる位置であって下肢に含まれた第2の部位を押圧する第2の押圧部と、を有する。
【0009】
この下肢リンパ圧改善用具によれば、使用者のリンパ管の自律収縮能によるポンプ機能を改善させ、リンパ圧を向上させることができる。ひいては、下肢リンパ圧改善用具によれば、リンパ圧の低下に起因する種々の症状を改善することができる。
【0010】
本体部は、使用者の下肢に装着されて、少なくとも、使用者の下肢における足首からふくらはぎを締め付けるように覆う締付部を有し、締付部は、第1の部位と、第2の部位とを含んでもよい。このような構成によれば、使用者の下肢に容易に装着することが可能になり、下肢に対して継続的に圧力を付加することができる。
【0011】
締付部は、第1の部位及び第2の部位とは異なる位置であって下肢に含まれた第3の部位を押圧する第3の押圧部を更に含んでもよい。このような構成によれば、リンパ圧の低下に起因する種々の症状を好適に改善することができる。
【0012】
本発明の別の形態は、使用者の下肢に適用されて、使用者の下肢におけるリンパ圧を向上させるために用いられる下肢リンパ圧改善用具を用いた下肢リンパ圧改善方法であって、下肢リンパ圧改善用具は、下肢に接触する本体部を備え、本体部は、下肢に含まれた第1の部位を第1の圧力で押圧する第1の押圧部と、第1の部位とは異なる位置であって下肢に含まれた第2の部位を第2の圧力で押圧する第2の押圧部と、を有し、下肢リンパ圧改善用具を利用して、第1の部位を第1の圧力で押圧する工程と、下肢リンパ圧改善用具を利用して、第2の部位を第2の圧力で押圧する工程と、を有する。
【0013】
この下肢リンパ圧改善方法によれば、使用者のリンパ管の自律収縮能によるポンプ機能を改善させ、リンパ圧を向上させることができる。ひいては、下肢リンパ圧改善方法によれば、リンパ圧の低下に起因する種々の症状を改善することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一形態に係る下肢リンパ圧改善用具、及び、本発明の別の形態に係る下肢リンパ圧改善方法によれば、使用者の下肢におけるリンパ圧を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リンパ圧と年齢との関係を示すグラフである。
図2】リンパ圧と健康関連クオリティオブライフとの関係を示すチャートである。
図3】実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具を示す斜視図である。
図4】下肢リンパ圧改善用具の着用時において押圧部に生じる圧力を示す表である。
図5】リンパ圧測定システムの構成を示す図である。
図6】実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具によるリンパ圧の改善効果を示すグラフである。
図7】実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具による健康関連クオリティオブライフの改善効果を示すチャートである。
図8】実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具による自覚症状に関する改善効果を示すチャートである。
図9】参考例に係る試験結果を示すグラフである。
図10】参考例に係る試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
まず、リンパ圧と使用者の年齢との関係について説明する。図1(a)は、年齢とリンパ圧との関係を調査した結果を示す棒グラフである。図1(a)を確認すると、リンパ圧は、20歳台では40mmHg程度であるが、加齢とともに減少し、70歳台以降では23mmHg程度に低下することがわかる。また、図1(b)には、年齢とリンパ圧との関係を示す近似曲線G1a,G1bが示されている。図1(b)の横軸は年齢を示し、縦軸はリンパ圧を示す。また、近似曲線G1aは男性の年齢とリンパ圧との関係を示す3次の近似曲線であり、近似曲線G1bは女性の年齢とリンパ圧との関係を示す3次の近似曲線である。
【0018】
近似曲線G1a,G1bを確認すると、男性及び女性のいずれであっても、加齢とともにリンパ圧が減少することがわかった。特に、女性は、60歳台以降においてリンパ圧の減少の度合いが男性よりも大きいことがわかった。
【0019】
次に、リンパ圧と使用者の健康状態との関係について説明する。図2は、発明者らの近年の研究を引用したもの(Takaaki Saito, et al.”Low lymphatic pumping pressure in the legs is associated with lededema and lower quality of life in healthy volunteers “ LymphaticResearch and Biology in press)であり、健常ボランティアをリンパ圧の大きさに基づいて3つのグループに分類し、それぞれのグループにおいて健康関連クオリティオブライフ(HRQOL:Health Related Quality of Life)をSF−36を尺度として利用して調査した結果を示すレーダーチャートである。グラフG2aは、リンパ圧が両脚共に40mmHg以上である被験者のHRQOLを示す。グラフG2bは、リンパ圧が両脚共に20mmHg以上40mmHg以下である被験者のHRQOLを示す。グラフG2cは、リンパ圧が両脚共に20mmHg未満である被験者のHRQOLを示す。チャートにおいて、PF(Physical functioning)は、身体機能を示す指標である。RP(Role physical)は、日常の身体的な役割機能を示す指標である。BP(Bodily pain)は、体の痛みを示す指標である。GH(General health)は、全体的な健康感覚を示す指標である。VT(Vitality)は、活力を示す指標である。SF(Social functioning)は、社会生活機能を示す指標である。RE(Role emotional)は、日常の精神的な役割機能を示す指標である。MH(Mental health)は、心の健康の度合いを示す指標である。
【0020】
チャートを確認すると、上記指標のうち、PFとGHとにおいて各グループの間で有意な差異が認められた。すなわち、下肢のリンパ圧は、HPQOLの尺度において、PFとGHとに関連する可能性があることが示唆された。
【0021】
上述の調査の結果、リンパ圧は加齢に伴って低下する傾向にあることが明らかになった。また、リンパ圧は、人間の年齢や健康状態に有意な影響を及ぼし得ることが明らかになった。そこで、発明者らは、リンパ圧の向上が人間の健康状態の維持向上に寄与し得ると考え、本発明の一形態に係る下肢リンパ圧改善用具及び、下肢リンパ圧改善用具を用いた下肢リンパ圧改善方法を発明するに至った。
【0022】
図3に示されるように、本実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具1(以下、単に「改善用具1」とも言う)は、いわゆるハイソックスタイプの着用具である。改善用具1は、使用者Mの両脚に着用され、下腿における足から膝の直下までを覆っている。改善用具1は、本体部2と、本体部2の膝Nの側に設けられた膝側口部3と、本体部2のつま先側に設けられたつま先側口部4と、を有する。本体部2は、高い弾性を有する繊維が編み込まれて形成され、使用者Mの下腿を所定の圧力で締め付ける締付部6を含む。本体部2の着圧を上げるために、例えば、挿入糸が使用されており、これにはDCY(ダブルカバードヤーン)が用いられている。DCYは芯糸にポリウレタン弾性繊維を用い、鞘糸であるナイロンを2重に被覆したもので、当該ハイソックスには芯糸に東レオペロンテックス社のライクラ・ファイバー T−127C 117DTEXを用い、これを3.5倍で伸長した状態で、下ヨリにナイロン6の13DTEX、7フィラメントのナイロンをSヨリで1800T/M、上ヨリに同ナイロンをZヨリで1530t/m巻きつけたものを使用した。このほかに、挿入糸として、挿入糸にポリウレタン弾性繊維(200〜900dtexクラスのもの)をそのまま挿入しても良い。
【0023】
この締付部6は、使用者Mの下肢Lに含まれる部位を所定の圧力で押圧する押圧部を複数含んでいる。図1に示された改善用具1の締付部6は、膝Nから足首までの距離の上側20%〜40%の範囲である第1の部位L1を押圧する第1の押圧部7と、膝Nから足首までの距離の下側20%〜40%の範囲である第2の部位L2を押圧する第2の押圧部8と、を含む。
【0024】
なお、締付部6は、第1及び第2の押圧部7,8に加えてさらに別の第3の押圧部を含んでいてもよい。また、第1及び第2の押圧部7,8は、第1及び第2の部位L1,L2に限定されず、下腿におけるその他の部位(第3の部位)を押圧するものであってもよい。
【0025】
この締付部6は、下腿に含まれた第1及び第2の部位L1,L2を所定の圧力で押圧する。ここで、所定の圧力とは、10mmHg〜30mmHgであり、一例として20mmHgである。また、第1の押圧部7(ふくらはぎ)における圧力と、第2の押圧部8(足首)における圧力と、は、同じであってよいし、異なっていてもよい。第1の押圧部7における圧力と第2の押圧部8における圧力とが異なる場合には、押圧部7(ふくらはぎ)の圧力は、押圧部8(足首)の圧力の7〜9割程度が好ましい。一般に、ソックスやストッキングを着用したときに使用者Mに作用する圧力(以下、「着圧」ともいう)は、人間の脚の形状を模した硬質の型にソックスやストッキングを取り付けて測定された値である。一方、本実施形態に係る改善用具1の締付部6における圧力は、実際の使用者Mに取り付けて測定された値である。
【0026】
ここで、下肢リンパ圧改善用具1を実際に使用者に着用させ、着用状態における第1の押圧部7と、第2の押圧部8とにおける圧力を実測したデータを示す。図4は、8人の使用者M1〜M8に下肢リンパ圧改善用具1を着用させて得た第1の押圧部7と第2の押圧部8とにおける圧力の測定結果である。押圧部位は、第1の押圧部7(足首)と、第2の押圧部8(ふくらはぎ)とである。また、図4の表において、第1の押圧部(足首)及び第2の押圧部8(ふくらはぎ)において、4か所の測定位置を設定した。測定位置A1は使用者M1〜M8の足の内側(図3のセンサS1,S2参照)であり、測定位置A2は使用者M1〜M8の足の後側であり、測定位置A3は使用者M1〜M8の足の外側であり、測定位置A4は使用者M1〜M8の足の前側(図3のセンサS3,S4参照)である。これら測定位置A1〜A4にそれぞれ圧力センサを貼り付け、その上から下肢リンパ圧改善用具1を着用させた。
【0027】
図4の表に示されるように、第1の押圧部7(足首)における圧力は20mmHg〜30mmHgであることが確認された。また、第2の押圧部8(ふくらはぎ)における圧力は15mmHg〜20mmHgであることが確認された。また、第1の押圧部7の圧力は、第2の押圧部8の圧力に対して、6割から8割程度であることが確認された。
【0028】
締付部6は、着圧分布が一定ではなく、その延在方向に沿って変化しているとも言える。例えば、図3に示された締付部6には、膝側口部3からつま先側口部4に沿って第1の押圧部7の圧力(例えば15mmHg)よりも小さい領域と、圧力が15mmHgである第1の押圧部7と、第2の押圧部8の圧力(例えば20mmHg)よりも小さい領域と、20mmHgである第2の押圧部8と、第2の押圧部8の圧力(例えば20mmHg)よりも小さい領域と、が設けられる。また、締付部6における圧力は、その周方向に沿って変化してもよい。例えば、締付部6において、脛側よりもふくらはぎ側の圧力が高くなるようにしてもよい。すなわち、これら押圧部は、使用者Mの下肢Lにおいてリンパ圧の改善に効果を奏する部分を押圧可能なように、締付部6において所望の位置に設定される。例えば、上述したように、第1及び第2の部位L1,L2の他、使用者Mの大腿であってもよいし、ふくらはぎ全体であってもよい。
【0029】
次に、試験データを示しつつ改善用具1の作用効果について説明する。改善用具1の作用効果を確認する試験は、使用者のリンパ圧の測定、及び使用者への聞き取り調査によって行われた。
【0030】
試験のため、30歳台から70歳台の約200名の被験者を募集した。まず、200名の被験者のリンパ圧を測定した。リンパ圧は、発明者らによって開発されたリンパ圧測定システム10を利用して測定された。図5に示されるように、リンパ圧測定システム10は、被験者の下肢Lに装着されるマンシェット11と、マンシェット11の圧力を測定する圧力測定部12と、マンシェット11の圧力を調整する圧力調整部13と、予めリンパ管に注入された蛍光色素(インドシアニングリーン)から発せられた蛍光を被験者の下肢Lにおいて検知する蛍光検知部14と、蛍光検知部14の検知結果に基づいてリンパ管内の蛍光色素の位置を示す画像を生成し表示するデータ処理部16と、を備える。このシステム10によれば、マンシェット11の圧力が第1の圧力から第2の圧力に減少するまで、リンパ管に注入された蛍光色素が繰り返し検知される。そして、その都度、蛍光色素の位置を示す画像と、そのときのマンシェット11の圧力とが表示される。この画像と圧力とを確認することにより、マンシェット11の圧力により遮断されていたリンパ流が再開した時点のマンシェット11の圧力をリンパ圧として容易に認定することができる。
【0031】
リンパ圧の測定結果に基づいて、約200名の被験者を、リンパ圧が20mmHg以下である被験者と、21mmHg以上である被験者とにグループ分けした。閾値として設定した20mmHgという値は、図1及び図2に示された結果からリンパ圧が低下している状態であると言え、リンパ圧の改善効果を得るために適しているとして設定した。グループ分けの結果、およそ53%の被験者が20mmHg以下のグループに属し、およそ47%の被験者が21mmHg以上のグループに属した。21mmHg以上のグループに属する被験者は、リンパ圧の改善効果を確認するための試験には適さないとしてこの段階で試験対象から除外した。
【0032】
次に、20mmHg以下のグループに属する被験者を対象として、二重盲検平行群間比較試験を行った。具体的には、20mmHg以下のグループに属する被験者を互いに同数の2つのグループに分けた。そして、第1のグループに属する被験者には、着圧が20mmHgである改善用具1を着用させた。一方、第2のグループに属する被験者には、着圧が10mmHgである改善用具1を着用させた。この試験では、着圧が20mmHgである改善用具1が、リンパ圧の改善効果が期待される改善用具である。一方、着圧が10mmHgである改善用具1は、着圧が20mmHgである改善用具1の効果と比較するための対照用の改善用具1である。改善用具1は、朝から夜まで着用させた。また、試験期間中は、普段通りの生活とし理学療法などの指導は行っていない。そして、それぞれの被験者に改善用具1を着用させ、試験開始時、試験開始から2か月経過後、及び試験開始から4か月経過後にリンパ圧の測定とHPQOLの調査を行った。
【0033】
ここで、試験に利用した改善用具1について詳細に説明する。試験に用いた改善用具1は、ハイソックスタイプであり、被験者の下肢Lにおいて下腿部を押圧するものである。より具体的には、改善用具1の締付部6は、下腿部のふくらはぎと、足首を押圧する。また、実際の着圧は、被験者の下腿におけるふくらはぎと、足首とに圧力センサを貼り付け、その上から改善用具1を着用して評価した。また、着圧が20mmHgの改善用具1と着圧が10mmHgの改善用具1とは、具体的には、弾性を有する挿入糸の密度が異なる。
【0034】
まずリンパ圧に関する結果を説明する。表1は、リンパ圧に関する結果をまとめたものである。また、図6は、試験経過後の期間とリンパ圧との関係を示すグラフである。横軸は期間を示し、縦軸はリンパ圧を示す。また、グラフG5aは着圧が20mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示し、グラフG5bは着圧が10mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示す。
【表1】
【0035】
表1及びグラフG5a,G5bを確認すると、着圧が20mmHgである改善用具1を着用した被験者では、試験開始時のリンパ圧が16.8mmHgであったのに対し、2か月後以降には26.3mmHgにまで増加した。従って、着圧が20mmHgである改善用具1を着用することで、リンパ圧が高められることがわかった。一方、着圧が10mmHgである改善用具1を着用した被験者では、着圧が20mmHgである改善用具1ほどではないものの、リンパ圧が高められる傾向にあることが認められた。具体的には、試験開始時のリンパ圧が14.8mmHgであったのに対し、2か月後には21.0mmHg程度に増加し、4か月後には22.6mmmHgにまで増加した。以上の結果より、10mmHg以上20mmHg以下の着圧を有する改善用具1を着用することにより、低下したリンパ管の収縮力が改善されて、リンパ圧を高める効果が得られることがわかった。
【0036】
次に、HPQOLの調査結果を説明する。図7(a)は、着圧が20mmHgである改善用具1を着用した被験者の調査結果を示すレーダーチャートである。図7(a)において、グラフG6aは、試験開始時におけるHPQOLの調査結果であり、グラフG6bは、4か月経過後におけるHPQOLの調査結果である。図7(b)は、着圧が10mmHgである改善用具1を着用した被験者の調査結果を示すレーダーチャートである。図7(b)において、グラフG6cは、試験開始時におけるHPQOLの調査結果であり、グラフG6dは、4か月経過後におけるHPQOLの調査結果である。
【0037】
図7(a),(b)を確認すると、着圧が20mmHg及び10mmHgのいずれの改善用具1においても、HPQOLの評価項目のうち、体の痛みを示す指標であるBPが有意に改善している傾向が確認できた。
【0038】
さらに、具体的な症状について被験者に対して聞き取り調査を行った。具体的には、リンパ圧と関係がある浮腫の自覚症状と、こむら返りの自覚症状の有無について被験者に対して聞き取り調査を行った。図8(a)は、浮腫の自覚症状に関する調査結果を示す。図8(a)において、グラフG7aは、着圧が20mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示し、グラフG7bは、着圧が10mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示す。図8(b)は、こむら返りの自覚症状に関する調査結果を示し、図8(b)において、グラフG7cは、着圧が20mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示し、グラフG7dは、着圧が10mmHgである改善用具1を着用した被験者の結果を示す。
【0039】
図8(a),(b)を確認すると、着圧が20mmHg及び10mmHgのいずれの改善用具1においても、浮腫及びこむら返りの自覚症状が有意に改善している傾向が確認できた。特に、着圧が20mmHgである改善用具を着用した場合には、着圧が10mmHgである改善用具を着用した場合よりも改善の度合いが大きかった。
【0040】
具体的には、着圧が20mmHgである改善用具を着用した場合、試験開始時において浮腫の自覚症状がある被験者の割合は63%程度であったが、4か月経過後には自覚症状がある被験者の割合は40%程度にまで減少した。着圧が10mmHgである改善用具を着用した場合、試験開始時において浮腫の自覚症状がある被験者の割合は60%程度であったが、4か月経過後には自覚症状がある被験者の割合は50%程度にまで減少した。また、着圧が20mmHgである改善用具を着用した場合、試験開始時においてこむら返りの自覚症状がある被験者の割合は80%程度であったが、4か月経過後には自覚症状がある被験者の割合は60%程度にまで減少した。着圧が10mmHgである改善用具を着用した場合、試験開始時においてこむら返りの自覚症状がある被験者の割合は78%程度であったが、4か月経過後には自覚症状がある被験者の割合は60%程度にまで減少した。
【0041】
上述の試験結果によって示されるように、本実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具によれば、使用者のリンパ管の自律収縮能によるポンプ機能を改善させ、リンパ圧を上昇させることが可能である。従って、下肢リンパ圧改善用具によれば、リンパ圧の低下に起因する種々の症状を改善することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る下肢リンパ圧改善用具は、着圧を10mmHg以上30mmHg以下とすることによりリンパ圧を効果的に改善することができる。
【0043】
本発明は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。下肢リンパ圧改善用具1は、ハイソックスタイプの着用具に限定されることはなく、使用者Mのつま先から大腿まで覆うストッキングタイプの着用具であってもよい。また、使用者Mの下肢を部分的に覆うサポータータイプの着用具であってもよい。さらに、下肢リンパ圧改善用具1は、使用者Mの下肢に対して継続的に圧力を加えるものに限定されず、マッサージ器のように使用者Mの下肢に一時的に押圧されて圧力を加えるものであってもよい。
【0044】
<参考例>
下肢に対して圧力を加えることによる効果を別の観点から評価した。上記実施形態では、下肢に対して圧力を加えることによる効果をリンパ圧に注目して説明した。参考例では下肢に対して圧力を加えることによる効果をリンパ流速に注目して確認した。
【0045】
まず、リンパ流速の測定法について説明する。リンパ流速の測定には、上記実施形態におけるリンパ圧の測定でも使用したリンパ圧測定システム10を利用する。リンパ圧測定システム10では、被験者のリンパ管に注入された蛍光色素の位置を示す画像を得ることができる。そこで、被験者の足背部に蛍光色素を皮下注射し、足背部から膝部を経由して鼠径部にまで到達する様子を示した画像をデータ処理部により取得する。これら画像から、蛍光色素が被験者の足背部から鼠径部まで到達するために要する到達時間が得られる。また、被験者の足背部から鼠径部までの距離を測定する。そして、足背部から鼠径部までの距離を到達時間で除することによりリンパ流速が得られる。
【0046】
試験条件として、以下の4個の条件A,B,C,Dを設定した。ハイソックスタイプとストッキングタイプとの相違点は、ストッキングタイプが下腿と大腿とを押圧するものであるのに対し、ハイソックスタイプが下腿のみ押圧し大腿を押圧するものではない点である。
条件A:ハイソックスタイプ(着圧:20mmHg)
条件B:ストッキングタイプ(着圧:20mmHg)
条件C:ハイソックスタイプ(着圧:60mmHg)
条件D:ストッキングタイプ(着圧:60mmHg)
【0047】
条件Aにおける結果を説明する。図9(a)〜(c)は、20名の被験者に対して改善用具を着用させない場合のリンパ流速と、条件Aの改善用具を着用させた場合のリンパ流速とを示す。図9(a)は、足首部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図9(b)は、足首から膝部までのリンパ流速を示す。図9(c)は、膝部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図9(a)〜(c)を確認すると、いずれの範囲においても、改善用具の着用によりリンパ流速が増大することがわかった。
【0048】
次に、条件Bにおける結果を説明する。図9(d)〜(f)は、15名の被験者に対して改善用具を着用させない場合のリンパ流速と、条件Bの改善用具を着用させた場合のリンパ流速とを示す。図9(d)は、足首部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図9(e)は、足首から膝部までのリンパ流速を示す。図9(f)は、膝部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図9(d)に示されるように、足首部から鼠径部においては、改善用具の着用によりリンパ流速が増大する効果は認められなかった。図9(e)に示されるように、膝部から鼠径部においては、改善用具の着用によりリンパ流速が低下する傾向が認められた。図9(f)に示されるように、足首部から膝部においては、改善用具の着用によりリンパ流速が若干増大する傾向が認められた。
【0049】
条件Cにおける結果を説明する。図10(a)〜(c)は、11名の被験者に対して改善用具を着用させない場合のリンパ流速と、条件Cの改善用具を着用させた場合のリンパ流速とを示す。図10(a)は、足首部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図10(b)は、足首から膝部までのリンパ流速を示す。図10(c)は、膝部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図10(a)に示されるように、足首部から鼠径部においては、改善用具の着用によりリンパ流速が減少する傾向が認められた。図10(b)及び(c)に示されるように、膝部から鼠径部、及び、足首部から膝部のそれぞれにおいては、改善用具の着用によるリンパ流速の増大又は減少は認められなかった。
【0050】
条件Dにおける結果を説明する。図10(d)〜(f)は、8名の被験者に対して改善用具を着用させない場合のリンパ流速と、条件Dの改善用具を着用させた場合のリンパ流速とを示す。図10(d)は、足首部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図10(e)は、足首から膝部までのリンパ流速を示す。図10(d)は、膝部から鼠径部までのリンパ流速を示す。図10(d)〜(f)に示されるように、いずれの領域においても改善用具の着用によりリンパ流速が減少する傾向が認められた。
【0051】
上記条件A〜Dの結果をまとめると、リンパ流速の改善に対しては、ハイソックスタイプのように下腿部に20mmHg〜60mmHg程度、特に40mmHg程度の着圧を加えることが有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
1…下肢リンパ圧改善用具、2…本体部、3…膝側口部、4…つま先側口部、6…締付部、7…第1の押圧部、8…第2の押圧部、10…リンパ圧測定システム、11…マンシェット、12…圧力測定部、13…圧力調整部、14…蛍光検知部、16…データ処理部、L…下肢、L1…第1の部位、L2…第2の部位、M…使用者。
図1
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図10