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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-202283(P2016-202283A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】ボタン穴かがりミシン
(51)【国際特許分類】
   D05B 3/08 20060101AFI20161111BHJP
   D05B 3/06 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   D05B3/08
   D05B3/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-83934(P2015-83934)
(22)【出願日】2015年4月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】村井 健二
(72)【発明者】
【氏名】窪田 次勇
(72)【発明者】
【氏名】秋山 辰仁
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA05
3B150AA24
3B150BA06
3B150CB03
3B150CB23
3B150CE24
3B150DB04
3B150DE17
3B150DE20
3B150DE24
3B150DE27
3B150DE31
3B150DE33
3B150DF01
3B150DF08
3B150EB03
3B150EB04
3B150EE03
3B150EE08
3B150EE13
3B150JA02
3B150JA03
3B150JA07
3B150JA13
3B150LA05
3B150LA07
3B150LA10
3B150LA29
3B150LA30
3B150LB02
3B150MA03
3B150NA05
3B150NA07
3B150NA09
3B150NA28
3B150NA29
3B150NB02
3B150NB03
3B150NB12
3B150NB18
3B150NC02
3B150NC03
3B150NC06
3B150NC18
3B150QA02
3B150QA06
3B150QA07
3B150QA08
(57)【要約】
【課題】二重のボタン穴かがり縫い目を良好に形成する。
【解決手段】ボタン穴の形成位置の周囲にボタン穴かがり縫い目を形成するボタン穴かがり縫製制御を行うボタン穴かがりミシン1において、制御装置70は、ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、ボタン穴かがり縫い目をボタン穴の周囲に二重に形成すると共に、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成以前にメス機構30によりボタン穴を形成し、押さえ機構40に対して、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時よりも二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に押さえ機構によるボタン穴の開き量を大きくする開き量変動制御を実行することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
針振りを行いつつ針棒を上下動させる針上下動機構と、
ルーパとスプレッダとこれらを支持するルーパ土台とを備えるルーパ機構と、
前記針振りを行う針棒と前記ルーパ土台とを旋回させる旋回機構と、
被縫製物を載置する載置面に沿って前記被縫製物を移動させる送り機構と、
前記被縫製物にボタン穴を形成するメス機構と、
前記被縫製物の押さえを行いつつ前記被縫製物に対して前記ボタン穴を広げる方向に開くように移動可能な押さえ機構と、
前記ボタン穴の形成位置の周囲にボタン穴かがり縫い目を形成するボタン穴かがり縫製制御を行う制御装置とを備えるボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御装置は、
前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、
前記ボタン穴かがり縫い目を前記ボタン穴の周囲に二重に形成すると共に、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成以前に前記メス機構によりボタン穴を形成し、
前記押さえ機構に対して、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時よりも前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に前記押さえ機構による前記ボタン穴の開き量を大きくする開き量変動制御を実行することを特徴とするボタン穴かがりミシン。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、
前記メス機構に対して、前記一重目のボタン穴かがり縫い目の形成後であって前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成前に前記メス機構によりボタン穴を形成するように制御することを特徴とする請求項1記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項3】
前記開き量変動制御の実行の有無を設定する実行設定部を備え、
前記制御装置は、
前記開き量変動制御の設定が実行有りの場合には前記ボタン穴かがり縫製制御の実行時に前記開き量変動制御を実行し、
前記開き量変動制御の設定が実行無しの場合には前記ボタン穴かがり縫製制御の実行時に、前記一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時と前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時とを通じて一定の開き量を維持するように前記押さえ機構を制御することを特徴とする請求項1又は2記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項4】
前記ボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータを複数記憶するデータ記憶部と、
前記一重目のボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータと前記二重目のボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータとを前記データ記憶部に記憶された前記複数の縫製パターンデータの中から選択するデータ選択部とを備え、
前記制御装置は、前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、前記データ選択部で選択された二つの縫製パターンデータに基づいて二重のボタン穴かがり縫い目を形成する制御を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項5】
前記押さえ機構は、前記被縫製物に対する前記ボタン穴を広げる方向の開き量の大小を、複数のエアシリンダの動作を組み合わせることにより変動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項6】
前記押さえ機構は、前記被縫製物に対する前記ボタン穴を広げる方向の開き量の大小を、エアシリンダに対するエアーの供給量により変動させることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボタン穴かがりミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
電子鳩目穴かがりミシンは、送り台にセットされた被縫製物に、直線部と鳩目部とからなる鳩目穴かがり縫い目を形成するもので、針がつけられた針棒と針棒の下方に設けられたルーパ・スプレッダとを駆動するためのミシンモーター駆動機構と、放射状に縫い目を形成するために針棒とルーパ・スプレッダを旋回するための旋回機構と、送り台を前後左右に駆動するためのXY駆動機構と、送り台の上の被縫製物を左右から押さえる押さえ機構等を協動させて鳩目穴かがり縫いを行う。縫いの際には、穴かがりの縫い目のボリュームを出すために、芯糸を同時に縫いこむ様な芯糸供給機構も設けられている(例えば、特許文献1参照)。
また、上記電子鳩目穴かがりミシンは、布切り機構により、鳩目状の穴を被縫製物にあけることができる。そして、この電子鳩目穴かがりミシンは、縫いを行う前に布切りメスを動作させる先メス方式と縫いを行った後に布切りメスを動作させる後メス方式とが選択可能であった。
【0003】
また、他のボタン穴かがりミシンでは、一つ分の縫い目を形成する縫いパターンを二回繰り返して縫製していた(例えば、特許文献2参照)。
また、さらに他のボタン穴かがりミシンでは、左右の平行縫い部分に通常よりも針振り幅の狭い補強縫いを予め行ってから通常の縫いパターンによってボタン穴かがり縫い目を形成していた(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−252159号公報
【特許文献2】特開平11−333164号公報
【特許文献3】特開2009−006196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鳩目穴かがり縫いミシンでは、縫製物を左右から布押えで押えてこの左右の布押えの間で縫い目を形成するため、生地のばたつきを抑えるために、左右の布押さえで左右に広げるように布地を引っ張る布開きを行いながら縫い目の形成が行われていた。
また鳩目穴かがり縫いミシンでは、前述したように、先メス方式と後メス方式とを選択可能としている。
後メス方式では、ボタン穴が形成されていない状態の布地に対して縫い目形成が行われるので、縫い目が崩れないという利点があるが、メスにより縫い糸が切断されないようにボタン穴から離れた位置に針落ちを行う必要があり、ボタン穴の周囲において布地を縫い目に隠すことが困難であった。
これに対して、先メス方式では、縫い糸の切断を防ぎ、ボタン穴の周囲の布地を縫い目に隠すことができるため、仕上がりに高い品質が求められる場合には先メス方式が有効であった。しかし、先メス方式では、仕上がりの品質を高めるためにボタン穴の左右両側の平行縫い目の間隔を狭くすると、ボタン穴を超えて隣の平行縫い区間に針落ちが行われる場合があり、ボタン穴が塞がれるおそれがあった。
このため、先メス方式で縫いを行う場合には、ボタン穴の形成後に、左右の布押さえが左右に広げるように布地を引っ張る布開きを行いながら縫い目の形成が行われていた。
【0006】
このような鳩目穴かがり縫いミシンに対して、特許文献2又は3のボタン穴かがりミシンのような二重の重ね縫いを行うことにより、芯糸を用いる替わりに縫い目にボリュームを持たせることが検討されている。
しかしながら、二重の重ね縫いを鳩目穴かがりミシンに適用した場合、先メス方式において布開きを行った状態で縫製を行うと、一重目の縫い目の形成は布開きにより良好に行うことができるが、二重目の縫い目の形成の際には、既に一重目で布地が開き切った状態になるので、布開きの効果を十分に得ることができず、ボタン穴を超えた隣の縫い区間への針落ちを防ぐ効果が十分に得られないという問題があった。
【0007】
本発明は、良好な重ね縫いによる穴かがり縫い目の形成を行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
針振りを行いつつ針棒を上下動させる針上下動機構と、
ルーパとスプレッダとこれらを支持するルーパ土台とを備えるルーパ機構と、
前記針振りを行う針棒と前記ルーパ土台とを旋回させる旋回機構と、
被縫製物を載置する載置面に沿って前記被縫製物を移動させる送り機構と、
前記被縫製物にボタン穴を形成するメス機構と、
前記被縫製物の押さえを行いつつ前記被縫製物に対して前記ボタン穴を広げる方向に開くように移動可能な押さえ機構と、
前記ボタン穴の形成位置の周囲にボタン穴かがり縫い目を形成するボタン穴かがり縫製制御を行う制御装置とを備えるボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御装置は、
前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、
前記ボタン穴かがり縫い目を前記ボタン穴の周囲に二重に形成すると共に、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成以前に前記メス機構によりボタン穴を形成し、
前記押さえ機構に対して、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時よりも前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に前記押さえ機構による前記ボタン穴の開き量を大きくする開き量変動制御を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御装置は、
前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、
前記メス機構に対して、前記一重目のボタン穴かがり縫い目の形成後であって前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成前に前記メス機構によりボタン穴を形成するように制御することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記開き量変動制御の実行の有無を設定する実行設定部を備え、
前記制御装置は、
前記開き量変動制御の設定が実行有りの場合には前記ボタン穴かがり縫製制御の実行時に前記開き量変動制御を実行し、
前記開き量変動制御の設定が実行無しの場合には前記ボタン穴かがり縫製制御の実行時に、前記一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時と前記二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時とを通じて一定の開き量を維持するように前記押さえ機構を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記ボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータを複数記憶するデータ記憶部と、
前記一重目のボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータと前記二重目のボタン穴かがり縫い目を形成する縫製パターンデータとを前記データ記憶部に記憶された前記複数の縫製パターンデータの中から選択するデータ選択部とを備え、
前記制御装置は、前記ボタン穴かがり縫製制御を実行する場合に、前記データ選択部で選択された二つの縫製パターンデータに基づいて二重のボタン穴かがり縫い目を形成する制御を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記押さえ機構は、前記被縫製物に対する前記ボタン穴を広げる方向の開き量の大小を、複数のエアシリンダの動作を組み合わせることにより変動させることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記押さえ機構は、前記被縫製物に対する前記ボタン穴を広げる方向の開き量の大小を、エアシリンダに対するエアーの供給量により変動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、制御装置が、ボタン穴かがり縫製制御において、ボタン穴かがり縫い目を二重に形成し、押さえ機構に対して、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時よりも二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に開き量を大きくする開き量変動制御を実行している。
二重のボタン穴かがり縫い目の形成時に一重目と二重目とを一定の開き量を付与する場合には、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に既に被縫製物のボタン穴が開き切ってしまって二重目のボタン穴かがり縫い目が良好に形成されない。しかしながら、上記開き量変動制御では、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成の際には、被縫製物のボタン穴を一重目の縫製時よりもさらに開くことができ、二重目のボタン穴かがり縫い目も良好に形成することが可能となる。またこれにより、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成の際にも被縫製物のばたつきをより良好に抑えることができ、縫い品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るボタン穴かがりミシンの側面図である。
図2図1のボタン穴かがりミシンの正面図である。
図3図1のボタン穴かがりミシンの制御系を示すブロック図である。
図4】送り台及び押さえ機構の平面図である。
図5】操作パネルの正面図である。
図6】操作パネルにより設定される縫製パターンデータの設定項目の一覧を示す説明図である。
図7図7(A)は鳩目穴かがり縫いの全体形状を模式的に示し、図7(B)は各部の寸法を示す説明図である。
図8図8(A)は鳩目部の基準となる鳩目穴の具体例を示し、図8(B)は当該鳩目穴の各サイズとを示す説明図である。
図9】ボタン穴かがりミシンの縫製パターンデータの設定入力からボタン穴かがり縫製制御までの全体的な処理を示すフローチャートである。
図10】ボタン穴かがりミシンの縫製パターンデータの設定入力からボタン穴かがり縫製制御までの全体的な処理を示す図9の続きのフローチャートである。
図11】縫製パターンデータの設定処理についてのフローチャートである。
図12】第一の開閉用エアシリンダのみで布開き量の大小を調節する構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態の全体構成]
本発明の実施形態たるボタン穴かがりミシン1を図1乃至図11に基づいて説明する。図1はボタン穴かがりミシン1の側面図、図2はボタン穴かがりミシン1の正面図、図3はボタン穴かがりミシン1の制御系を示すブロック図である。このボタン穴かがりミシン1は鳩目穴かがり縫いを可能とする鳩目穴かがりミシンである。
図1に示すように、ボタン穴かがりミシン1は、ミシン全体において下部に位置する箱状のベッド部2aと、該ベッド部2aの一端部に設けられた立胴部2bと、該立胴部2bからベッド部2aと同方向に延出して設けられたアーム部2cとを備えたミシンフレーム2を備えている。
【0017】
なお、以下の説明において、立胴部2bが立設された鉛直上下方向をZ軸方向とし、Z軸方向と直交すると共にベッド部2a及びアーム部2cの長手方向をY軸方向とし、Y軸方向とZ軸方向の双方に直交する方向をX軸方向とする。
また、Y軸方向であって立胴部2bからアーム部2cが延出された方向を前、その逆側を後とし、X軸方向であってアーム部2cの前端部に向き合った状態から見て左手側を左、右手側を右とする。
【0018】
上記ボタン穴かがりミシン1は、図1図3に示すように、上糸が通された縫い針11を保持する針棒12と、針棒12を揺動可能に支持する針棒旋回台13と、針棒12を上下動させると共に揺動を行う針上下動機構(図示略)と、ボタン穴かがり縫い目を形成するルーパ機構60と、針棒旋回台13及びルーパ機構60のルーパ土台61を旋回させる旋回機構20と、縫製動作の駆動源となるミシンモーター17と、縫い針側からの上糸の引き上げ又は糸供給源側からの上糸の繰り出しを行う天秤14と、上糸に張力を付与する糸調子装置(図示略)と、X−Y平面に沿って被縫製物としての布地を任意の移動量で移動して位置決めする送り機構としての布送り機構50と、上糸及び下糸の糸切りを行う糸切り装置(図示略)と、ボタン穴を形成するメス機構30と、布送り機構50の送り台51の上面で布地を押さえる押さえ機構40と、各部の制御を行う制御部としての制御装置70とを備えている。
【0019】
[針棒関係]
針棒12は、図1及び図2に示すように、内部中空の管状に形成されると共に、その上端部がミシンフレーム2のアーム部2cの上面から外部に突出しており、上端開口部から上糸が挿入され、その中空内部を通じて下端部の縫い針11まで上糸を案内する構造となっている。
【0020】
針上下動機構は、図1及び図2に示すように、縫い針11を保持する針棒12と、ミシンモーター17により全回転のトルクが付与される上軸と、上軸から上下方向の往復駆動力を取り出すクランク機構と、クランク機構により針棒12に連結された前端部が上下に揺動する揺動腕と、針棒を上下動可能に支持するスリーブと、当該スリーブを支持するX−Y平面に沿った薄板状の板バネとを備えている。
かかる針上下動機構は、クランク機構により針棒12にミシンモーター17の回転数に比例した往復数(単位時間当たりの往復数、以下「往復数」という場合には全て同様)で往復上下動の付与を行う。また、針棒12を支持するスリーブは、X−Y平面に沿った板バネにより揺動可能に支持されていることにより、針棒12の下端部の縫い針11側をX、Yのいずれの方向にも揺動させることができるように針棒12を支持している。
【0021】
さらに、針上下動機構は、針棒12の上下動を許容しながら当該針棒12にX軸方向に沿った往復揺動動作を付与する針棒揺動台と、ミシンモーター17により針棒揺動台に対して往復上下動を付与する伝達機構を備えている。かかる針棒揺動台は、X軸方向とZ軸方向の合成方向に傾斜しているカム溝が形成され、針棒旋回台13が針棒揺動台をカム溝に沿って移動可能となるように支持している。
そして、伝達機構により、針棒揺動台に下降動作が付与されると、当該針棒揺動台はカム溝に沿って左斜め下方向に移動し、針棒12には左方への揺動が付与される。また、伝達機構により、針棒揺動台に上昇動作が付与されると、当該針棒揺動台はカム溝に沿って右斜め上方向に移動し、針棒12には右方への揺動が付与される。
かかる伝達機構は、針棒12の上下動の往復数の1/2の往復数で上下動を付与するようになっており、これにより、針棒12は、左右のそれぞれに揺動するたびに下降し、針振りを行うことを可能としている。
【0022】
また、針上下動機構は、前述した板バネが撓まない状態において針棒12がZ軸方向(鉛直方向)となるように支持しており、この基本姿勢において、後述する針振り縫い目の内針の針落ちを行う。また、基本姿勢から揺動動作を付与されてX軸方向とZ軸方向の合成方向に所定の角度だけ傾斜した状態となり、かかる傾斜状態において、針振り縫い目の外針の針落ちを行うこととなる。
【0023】
針棒旋回台13は、ミシンフレーム2のアーム部2cの前端部近傍の下側においてZ軸回りに回転可能に支持されると共に、旋回機構20のタイミングベルト21が掛け渡されるプーリ131を固定装備している。これにより、旋回機構20から旋回動作が付与されると、前述した針棒揺動台を介して針棒12にZ軸回りの旋回動作を付与することを可能としている。
また、針棒旋回台13は、針棒揺動台を支持した状態でZ軸回りに旋回するので、針棒12を左右方向に限らず、Z軸を中心とする任意の方向に沿って揺動させることが可能である。
【0024】
[ルーパ機構]
ルーパ機構60は、図1に示すように、ミシンベッド部2aの上部であって後述する布送り機構50の送り台51の下側に配置されている。かかるルーパ機構60は、ミシンベッド部2aにZ軸回りで回転可能に支持されたルーパ土台61と、ルーパ土台61の上部に搭載され、上糸に下糸を絡げて二重環縫いを行う左ルーパ及び左スプレッダと、上糸により単糸環縫いを行う右ルーパ及び右スプレッダと、各ルーパ及び各スプレッダに対して縫いのための所定の揺動動作を付与する駆動機構とを備えている。
【0025】
ルーパ土台61は、前述した針棒旋回台13の旋回軸と同心で旋回可能に支持されると共に、旋回機構20のタイミングベルト23が掛け渡されるプーリ26を固定装備している。
左ルーパ及び左スプレッダと右ルーパ及び右スプレッダとは、ルーパ土台61の上部において、互いに旋回軸を中心とする円の半径方向両端に配置されている。そして、縫製時には、左ルーパ及び左スプレッダが針棒12の内針の針落ちに対して二重環縫いを行い、右ルーパ及び右スプレッダが針棒12の外針の針落ちに対して単糸環縫いを行う配置となるように、ルーパ土台61の基本旋回角度が設定されている。
【0026】
駆動機構は、ルーパ土台61の中心位置において上下動可能に支持された円管状のルーパ駆動軸62と、ルーパ駆動軸62の内側に挿通装備されたスプレッダ駆動軸63と、ルーパ駆動軸62の往復上下動により左右のルーパを揺動させる伝達機構と、スプレッダ駆動軸63の往復上下動により左右のスプレッダを揺動させる伝達機構と、ミシンモーター17により回転駆動が行われる下軸から各駆動軸62,63を上下動させる各々のカム機構とを備えている。
駆動機構は、各駆動軸62,63を針棒12の上下動の往復数(ミシンモーター17の回転数と同じ)の1/2の往復数で上下動を付与するようになっており、これにより、針棒12が下降するたびに左右のルーパ及びスプレッダが交互に縫い針11から上糸の捕捉を行うことを可能としている。
【0027】
[旋回機構]
旋回機構20は、図1図3に示すように、ミシンベッド部2a内に配置された旋回モーター24と、旋回モーター24のトルクを針棒旋回台13側に伝達するための伝達軸25の上下に設けられた伝達プーリ22(下側のプーリは図示略)と、旋回モーター24の出力軸に設けられた主動プーリと前述したルーパ土台61に設けられたプーリ26と前述した下側の伝達プーリとの間に掛け渡されたタイミングベルト23と、上側の伝達プーリ22と前述した針棒旋回台13に設けられたプーリ27との間に掛け渡されたタイミングベルト21とを備えている。
旋回機構20は、旋回モーター24の回転駆動により、ルーパ土台61と針棒旋回台13とが同位相で回転を行うように各プーリの伝達比が設定されている。つまり、旋回機構20は、針棒の針振り方向と左右のルーパ及びスプレッダの並び方向が常に一致して旋回を行うように旋回動作の付与を行う。
【0028】
[布送り機構]
布送り機構50は、図1図3に示すように、X−Y平面に平行な布地の載置面を備える送り台51と、送り台51をX軸方向に沿って移動させる布移動モーターとしてのX軸モーター52と、送り台51をY軸方向に沿って移動させる布移動モーターとしてのY軸モーター53と、各モーター52,53の回転駆動力をX軸方向及びY軸方向に沿った直動駆動力に変換して送り台51に付与する周知の動力伝達機構から構成されている。
【0029】
[メス機構]
メス機構30は、図1図3に示すように、布にボタン穴を形成するために針棒12の後方に配置されている。
即ち、メス機構30は、アーム部2cの下部において昇降可能に支持されたメス受け32と、ベッド部2aの上部においてメス受け32に対向して固定状態で配置された布切りメス31と、メス受け32の昇降駆動源となるメスモーター33と、メスモーター33のトルクを昇降動作に変換してメス受け32に伝達する図示しないピニオン−ラック機構とを備えている。
【0030】
メス受け32は、形成するボタン穴の形状に対応して複数種類用意され、交換可能となっている。
布切りメス31は、送り台51のX軸方向中央部に形成された開放可能な開口部511の下方に配置されており、メス受け32が下降して布切りメス31に合致して布に対するボタン穴の形成を妨げられないようになっている。
【0031】
[押さえ機構]
図4は押さえ機構40の平面図である。押さえ機構40は、送り台51の上面の開口部511に対してX軸方向中央部に位置するメス機構30による切断位置Sを中心として左右方向に移動可能に支持された一対の布受け板41,41と、各布受け板41,41の後端上面に設けられた一対の布押さえ昇降機構42,42と、各布受け板41,41に左右方向の移動動作を付与する一対の開閉機構43,43とを備えている。
なお、布受け板41,41と布押さえ昇降機構42,42と開閉機構43,43とは、左右一対であって、その配置及び構造は、メス機構30による切断位置Sを中心に左右対称となっている。従って、図4では、布受け板41と布押さえ昇降機構42については左側の構成のみについて図示し、開閉機構43については右側の構成のみについて図示している。以下の説明でも、布押さえ昇降機構42については左側の構成のみについて説明し、開閉機構43については右側の構成のみについて説明するものとする。
【0032】
一対の布受け板41,41は、送り台51の開口部511を塞ぐように水平に配置された平板であり、メス機構30による切断位置Sを挟んで左右両側にそれぞれ配置されている。各布受け板41,41は水平に支持されており、その上面は布地を載置する載置面となっている。
各布受け板41,41は、送り台51に対してそれぞれ左右方向に移動可能に支持されており、互いに最も接近した場合でもメス機構30による切断位置Sの上方に隙間が形成される。そして、各布受け板41,41は、最も接近した位置から互いに離間する方向に移動する。このような各布受け板41,41の接離移動動作により、各布受け板41,41の上面に載置された布地は、ボタン穴の形成後、または縫製時に、当該ボタン穴をその長手方向に直交する方向に開閉させることができる。
【0033】
左側の布押さえ昇降機構42は、左側の布受け板41の後端上面に取り付けられている。この布押さえ昇降機構42は、底面が平滑な布押さえ421と、前端部で布押さえ421を支持する支持アーム422と、支持アーム422を水平軸423により揺動可能に支持する取付台424と、布押さえ421の昇降動作の駆動源となる布押さえ用エアシリンダ425と、当該布押さえ用エアシリンダ425から支持アーム422に動力を伝達する図示しないベルクランクとを備えている。
【0034】
布押さえ421は、切断位置S側の側縁部が、ボタン穴である鳩目穴を半割した形状で切り欠かれている。従って、右側の布押さえ昇降機構42の布押さえ421との協働により、布地の鳩目穴の周縁部近傍を上から押さえることができる。
布押さえ421は、X軸方向に沿った水平軸を介して支持アーム422の前端部に支持されており、布押さえ421の前後の端部が若干上下に揺動可能となっている。
【0035】
支持アーム422は、X軸方向に沿った水平軸423を介して取付台424に支持されており、前端部に支持された布押さえ421を昇降可能としている。また、支持アーム422の水平軸423よりも下側の端部から前述したベルクランクを介して布押さえ用エアシリンダ425により回動動作が付与され、これを駆動源として布押さえ421を昇降させる。
【0036】
開閉機構43は、布受け板41の下側で送り台51によりX軸方向に沿って往動可能に支持された一対のレール板431,431と、一対のレール板431,431の上面に固定連結された三角形状の布開き板432と、一対のレール板431,431及び布開き板432を一体的に切断位置S側に引き寄せる引っ張りバネ433と、各レール板431,431の下側で送り台51によりY軸方向に沿って往動可能に支持されたカム板434と、カム板434の二箇所のカム部にそれぞれ当接するコロ435,435と、各コロ435,435を個別にZ軸回りに回転可能に支持する調節板436,436と、その中間部において送り台51によりZ軸回りに回動可能に支持された駆動リンク437とを備えている。
【0037】
さらに、開閉機構43は、駆動リンク437に回動動作を付与する第一の開閉用エアシリンダ438と、当該第一の開閉用エアシリンダ438により付与される回動範囲の中間位置で駆動リンク437を制止させる第二の開閉用エアシリンダ439とを備えている。
【0038】
上記一対のレール板431,431は、いずれもX軸方向に沿った長尺の平板であり、その両端部に形成されたX軸方向に沿った長穴を介して送り台51に段ネジを介して取り付けられている。この取付構造により、各レール板431,431は、長穴の範囲でX軸方向に沿って往復移動が可能となっている。
【0039】
また、各レール板431,431のX軸方向の中間位置の下面側には、それぞれ、調節板436,436を介してコロ435,435が取り付けられている。
調節板436は、レール板431に形成された図示しない貫通孔を通じてネジ止めにより固定されている。レール板431の貫通孔の内径は、ネジの外径よりも十分に大きく、当該ネジを緩めると、X−Y平面に沿ってコロ435を任意に位置調節することができる。
【0040】
布開き板432は、略二等辺三角形状であり、その底辺部分を切断位置S側に向けた状態で、当該底辺部分の両端部において各レール板431,431の左端部にネジ止めにより連結されている。また、布開き板432は、底辺部分の両端部に上方に凸となる二つのボス部432a,432aを備えており、これらを布受け板41に形成された貫通孔411,411に嵌合させた状態で保持している。
つまり、一対のレール板431,431と布開き板432と布受け板41とは、一体となって切断位置Sに対する接離移動動作を行う。
【0041】
カム板434は、Y軸方向に沿った長尺の平板であり、その両端部に形成されたY軸方向に沿った長穴を介して送り台51に段ネジを介して取り付けられている。この取付構造により、カム板434は、長穴の範囲でY軸方向に沿って往復移動が可能となっている。
さらに、カム板434の両端部における切断位置Sとは逆側の端縁部には、傾斜面からなるカム部434a,434aが形成されている。このカム部434a,434aは、上方から見て、後方に向かうにつれて切断位置S側に寄っていく方向に傾斜している。
【0042】
従って、各カム部434a,434aに対して切断位置Sとは逆側からコロ435,435を当接させた状態でカム板434を後方に移動させると、各レール板431,431及び布開き板432を介して布受け板41を切断位置Sから離間する方向に移動させることができる。また、カム板434を前方に移動させると、各レール板431,431及び布開き板432を介して布受け板41を切断位置Sに接近する方向に移動させることができる。
なお、布開き板432には引っ張りバネ433が連結されて切断位置Sに接近する方向に張力を受けているので、各カム部434a,434aに対してコロ435,435を当接させた状態を維持することができる。
【0043】
駆動リンク437は概ねX軸方向に沿った状態で送り台51に段ネジを介して取り付けられている長尺のリンクである。段ネジはZ軸方向に平行であり、駆動リンク437の長手方向の中間部を回動可能に支持している。
これにより、駆動リンク437の両端部は前後に揺動可能である。そして、駆動リンク437の切断位置S側の端部は、カム板434の長手方向中間部に対してZ軸方向に沿った段ネジによりZ軸回りに回動可能に連結されている。なお、駆動リンク437の切断位置S側の端部はX軸方に沿った長穴を介して段ネジで連結されているので、駆動リンク437の揺動は妨げられない。
【0044】
また、駆動リンク437の切断位置Sとは逆側の端部の近傍は、第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャにナックル440を介してZ軸回りに回動可能に連結されている。また、駆動リンク437の切断位置Sとは逆側の端部は、第一の開閉用エアシリンダ438との連結位置よりもさらに遠方までに延出されており、当該延出端部437aは、第二の開閉用エアシリンダ439のプランジャに当接可能となっている。
なお、駆動リンク437の切断位置Sとは逆側の端部近傍もまた、X軸方に沿った長穴を介してナックル440に連結されているので、駆動リンク437の揺動は妨げられない。
【0045】
第一の開閉用エアシリンダ438は、駆動リンク437の後方に位置し、そのプランジャの進退移動方向がY軸方向に平行になるように送り台51に固定されている。
第一の開閉用エアシリンダ438は、プランジャの退避動作により、駆動リンク437の延出端部437aを位置P1に揺動させ、プランジャの突出動作により、駆動リンク437の延出端部437aを位置P3に揺動させることができる。なお、第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャのストロークは位置P1から位置P3までの範囲よりも広範囲で揺動させることが可能だが、駆動リンク437の延出端部437aが位置P1から位置P3までの範囲内でしか揺動しないように図示しないストッパーにより規制されている。
【0046】
そして、駆動リンク437の延出端部437aが位置P1に移動すると、カム板434が前進し、布受け板41が切断位置Sに最も近い「近接位置」に移動する。
また、駆動リンク437の延出端部437aが位置P3に移動すると、カム板434が後退し、布受け板41が切断位置Sから最も離間した「離間位置」に移動する。
【0047】
これに対して、第二の開閉用エアシリンダ439は、駆動リンク437の前方に位置し、そのプランジャの進退移動方向がY軸方向に平行になるように送り台51に固定されている。
第二の開閉用エアシリンダ439は、プランジャが退避した状態では、駆動リンク437の延出端部437aの揺動範囲P1〜P3よりも前方に位置しており、延出端部437aには届かない。そして、プランジャが突出した状態では、駆動リンク437の延出端部437aを位置P1と位置P3との中間の位置P2に移動させることができる。
そして、駆動リンク437の延出端部437aが位置P2に移動すると、カム板434が中間に移動し、布受け板41が前述した「近接位置」と「離間位置」との間となる「中間位置」に移動する。
【0048】
また、第二の開閉用エアシリンダ439が駆動リンク437に付与するトルクは、第一の開閉用エアシリンダ438が駆動リンク437に付与するトルクよりも十分に大きく、第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャが突出状態にあり、駆動リンク437の延出端部437aを前方に押圧している状態でも、第二の開閉用エアシリンダ439のプランジャを突出状態とすると、駆動リンク437の延出端部437aを位置P2まで押し戻すことができる。
【0049】
従って、布受け板41の位置を以下のように切り替えることができる。
第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャを退避状態、第二の開閉用エアシリンダ439のプランジャを退避状態とすることで、布受け板41を「近接位置」とする。
第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャを突出状態、第二の開閉用エアシリンダ439のプランジャを退避状態とすることで、布受け板41を「離間位置」とする。
第一の開閉用エアシリンダ438のプランジャを突出状態、第二の開閉用エアシリンダ439のプランジャを突出状態とすることで、布受け板41を「中間位置」とする。
【0050】
[糸切り装置]
上糸を切断する糸切り装置は、ルーパ土台61に設けられた動メスと、動メスに切断動作を実行させる上糸切りエアシリンダ15(図3参照)とを備え、これにより上糸の切断を行っている。
また、下糸を切断する糸切り装置は、送り台51の内部に動メスと固定メスとを備え、下糸切りエアシリンダ16(図3参照)を駆動源として動メスに切断動作を実行させる。これにより下糸が動メスに捕捉され、固定メスとの協働により切断される。
【0051】
[ミシンの制御系]
図3に基づいて、ボタン穴かがりミシン1の制御系について説明する。ボタン穴かがりミシン1の制御装置70は、ミシンモーター17を駆動させるためのミシンモーター駆動回路17aと、当該駆動回路17aを制御装置70のCPU71に接続するためのI/F17bと、布送り機構50に備えられたX軸モーター52を駆動させるためのX軸モーター駆動回路52aと、当該駆動回路52aをCPU71に接続するためのI/F52bと、布送り機構50に備えられたY軸モーター53を駆動させるためのY軸モーター駆動回路53aと、当該駆動回路53aをCPU71に接続するためのI/F53bと、旋回モーター24を駆動させるための旋回モーター駆動回路24aと、当該駆動回路24aをCPU71に接続するためのI/F24bと、メスモーター33を駆動させるためのメスモーター駆動回路33aと、当該駆動回路33aをCPU71に接続するためのI/F33bと、ミシンモーター17の出力軸角度を検出するエンコーダ18の出力パルスをカウントするエンコーダ回路18aと、当該エンコーダ回路18aをCPU71に接続するためのI/F18bとを備えている。
【0052】
さらに、ボタン穴かがりミシン1の制御装置70は、布押さえ用エアシリンダ425に空圧を供給するための電磁弁425cを駆動するための電磁弁駆動回路425aと、当該駆動回路425aをCPU71に接続するためのI/F425bと、第一の開閉用エアシリンダ438に空圧を供給するための電磁弁438cを駆動するための電磁弁駆動回路438aと、当該駆動回路438aをCPU71に接続するためのI/F438bと、第二の開閉用エアシリンダ439に空圧を供給するための電磁弁439cを駆動するための電磁弁駆動回路439aと、当該駆動回路439aをCPU71に接続するためのI/F439bと、上糸切りエアシリンダ15に空圧を供給するための電磁弁15cを駆動するための電磁弁駆動回路15aと、当該駆動回路15aをCPU71に接続するためのI/F15bと、下糸切りエアシリンダ16に空圧を供給するための電磁弁16cを駆動するための電磁弁駆動回路16aと、当該駆動回路16aをCPU71に接続するためのI/F16bとを備えている。
なお、ボタン穴かがりミシン1は、実際には、布押さえ用エアシリンダ425と第一の開閉用エアシリンダ438と第二の開閉用エアシリンダ439とを左右に一つずつ備えているが、図3では、一つのみを図示している。
【0053】
上記布押さえ用エアシリンダ425、第一の開閉用エアシリンダ438、第二の開閉用エアシリンダ439、上糸切りエアシリンダ15及び下糸切りエアシリンダ16は、いずれも、複動式のエアシリンダであり、シリンダ内部のピストンを挟んだ両側の空気室に個別に空気圧を供給することでプランジャの突出と退避の動作を行う。
【0054】
また、上記布押さえ用エアシリンダ425、第一の開閉用エアシリンダ438、第二の開閉用エアシリンダ439、上糸切りエアシリンダ15及び下糸切りエアシリンダ16の電磁弁425c、438c、439c、電磁弁15c及び電磁弁16cは、いずれも、2位置5ポート単動ソレノイド型である(図4の電磁弁439c参照)。
【0055】
さらにまた、ボタン穴かがりミシン1の制御装置70は、各種の設定を入力するための操作パネル75と、当該操作パネル75をCPU71に接続するためのI/F75iと、布押さえ54を下降させるための押さえスイッチ76と、押さえスイッチ76をCPU71に接続するためのI/F76bと、縫製を開始させるためのスタートスイッチ77と、スタートスイッチ77をCPU71に接続するためのI/F77bとを備えている。
なお、上記X軸モーター52、Y軸モーター53、旋回モーター24はパルスモーターであり、原点検索をおこなうための原点センサとCPU71に接続するためのI/Fを備えているが図示は省略する。
【0056】
また、制御装置70は、各種制御プログラムや、プログラムで使用されるデータが記憶されたROM72と、ROM72から読み出したデータ、操作パネル75から入力もしくは設定されたデータ、演算結果の縫製縫い目データ、プログラムに基づく処理をCPU71が行うための作業領域となるRAM73と、縫製パターンデータ等の記憶が行われるEEPROM74と、プログラムに基づく各種処理を行うCPU71とを備えるものである。なお、EEPROM74は、これにより、データ記憶部として機能する。
【0057】
縫製パターンデータは一重のボタン穴かがり縫い目を形成するためのパターンデータであり、EEPROM74には、複数種類の縫製パターンデータが記憶されている。また、各縫製パターンデータは、個別に識別可能とするためにそれぞれ固有のパターンナンバーが定められている。
制御装置70は、選択された縫製パターンデータに基づいて針上下動機構、旋回機構20、メス機構30、押さえ機構40及び布送り機構50のアクチュエーターを制御する。
【0058】
[操作パネル及び縫製パターンデータ]
図5は操作パネル75の正面図である。操作パネル75は、縫製パターンデータのナンバーの表示部75a及びその選択を行う増減キー75bと、各縫製パターンデータの各種のパラメータの設定値を表示する表示部75c及び設定値の増減を行う増減キー75dと、各種のパラメータを特定する項目番号の表示を行う表示部75e及び設定項目の項目番号の選択を行う増減キー75fと、データ設定を行うデータ設定キー75gと、縫製可能状態に移行させる準備キー75hとを備えている。
この操作パネル75により設定入力された縫製パターンデータの各種パラメータの設定値により縫製の実行に必要となる各種の制御値が算出され、縫製縫い目データが生成される。つまり、操作パネル75が、鳩目穴かがり縫いの縫製パターンデータを設定するパターン設定手段である。
【0059】
次に、上記操作パネル75により設定される縫製パターンデータの各種の設定パラメータについて図6に基づいて説明する。図6は鳩目穴かがり縫いの縫製パターンデータの各種設定パラメータの内容一覧を示している。図7は、鳩目穴かがり縫い100の全体形状を模式的に示すとともに、各部の寸法を示している。
【0060】
この鳩目穴かがり縫い100は、旋回部としての円弧部101及び円弧部101の端部からY方向に対して内側に傾斜した一対の傾斜部102,103を有する鳩目部104と、一対の傾斜部102からそれぞれY方向に延びる一対の平行部105,106と、平行部105,106に対して円弧部101とは逆側に位置する丸閂部(丸閂止め部)108とを備えている。
なお、以下の説明において右側の傾斜部を鳩目右下部102と称し、左側の傾斜部を鳩目左下部103と称す。また、右側の平行部を右平行部105、左側の平行部を左平行部106と称す。さらに、図8は、鳩目部104の基準となる鳩目穴107の具体例と、当該鳩目穴の各サイズとを示している。
また、丸閂部108は一例であって、流れ閂や直線閂等の他の閂止めを形成する場合や閂止めそのものを行わない場合もある。
【0061】
まず、操作パネル75から入力する図6の縫製パターンデータとして以下の設定が行われる。
(1)鳩目形状:図8に示す眠目穴又はサイズの異なる五段階の鳩目穴107の形状を数値「0」〜「5」により選択する。
(2)穴かがり長さ:形成される穴かがり縫いのY方向における全長mlを数値入力する。
(3)布切りメス動作:布切りの実行の有無又はボタン穴かがり縫い目の形成の前後いずれで布切りを行うかを数値「0」〜「2」により選択する。
(4)平行針数:右平行部105+鳩目右下部102(左平行部106+鳩目左下部103は同じ数値で設定される)の針数lnを数値で入力する。
(5)鳩目針数:円弧部101の針数enを数値で入力する。
(6)平行部メススペース:平行部105,106の内側の針落ち位置と布切りメスとの間に形成される隙間lsを数値で入力する。
(7)鳩目部メススペース:円弧部101の内側の針落ち位置と布切りメスとの間に形成される隙間esを数値で入力する。
(8)閂止め種類:閂止めの形成の有無及び閂止めの種類を数値「0」〜「3」により選択する。
(9)流れ閂長さ:流れ閂の形成長さを数値で入力する。
(15)丸閂針数:(8)で丸閂止めを選択した場合にその丸閂針数cnを数値で入力する。
(20)針振り幅:針振り幅wwを数値で入力する。
【0062】
(21)二重縫い用パターンナンバー:二つの縫製パターンデータを選択して、一方の縫製パターンデータに従って一重目のボタン穴かがり縫い目を形成し、その上からもう一方の縫製パターンデータに従って二重目のボタン穴かがり縫い目を形成する二重縫いを行うことができる。
そして、当該二重縫いを行うか否かについては、一重目の縫製パターンデータ中に設定される。即ち、二重縫い用パターンナンバーとして「0」を設定すると二重縫いは行わないことが設定され、「0」以外の数値を入力すると、その数値に当たるパターンナンバーの縫製パターンデータが二重目のボタン穴かがり縫い目を形成するためのデータとして利用される。
なお、当該縫製パターンデータが二重のボタン穴かがり縫い目の形成における二重目の縫製パターンデータとして使用される場合にはこのパラメータは無効となる。
【0063】
(22)一重目の布開き量:当該縫製パターンデータが一重のボタン穴かがり縫い目の形成に使用される場合又は二重のボタン穴かがり縫い目の形成における一重目の縫製パターンデータとして使用される場合における、押さえ機構40による布開き量を数値「0」〜「2」により選択する。
即ち、「0」は布開きなし状態、即ち、前述した押さえ機構40により左右の布受け板41,41を「近接位置」とする。
「1」は布開き全開状態、即ち、左右の布受け板41,41を「離間位置」とする。
「2」は布開き半開状態、即ち、左右の布受け板41,41を「中間位置」とする。
なお、当該縫製パターンデータが二重のボタン穴かがり縫い目の形成における二重目の縫製パターンデータとして使用される場合にはこのパラメータは無効となる。
【0064】
[ボタン穴かがりミシンの制御装置における全体動作]
図9及び図10はボタン穴かがりミシン1の縫製パターンデータの設定入力からボタン穴かがり縫製制御までの全体的な処理を示すフローチャートであり、図11は縫製パターンデータの設定処理についてのフローチャートである。
これらに基づいて、ボタン穴かがりミシン1の全体的な処理を説明する。
まず、CPU71は、操作パネル75の縫製パターンデータのナンバー増減キー75bの押下が行われた否かを判定し(ステップS1)、押下されていない場合には、例えば初期値(パターンナンバー1を選択)を維持して当該パターンナンバーを表示部75aに表示すると共にステップS5に処理を進める。また、ナンバー増減キー75bが押下された場合には、キーの+−に応じてパターンナンバーを増減してパターンナンバーを表示部75aに表示すると共に(ステップS3)、ステップS5に処理を進める。
【0065】
ステップS5では、CPU71は、設定キー75gの押下が行われた否かを判定し、押下されていない場合にはステップS9に処理を進める。また、設定キー75gが押下された場合には、前述した縫製パターンデータの設定処理を開始し(ステップS7)、設定処理後、ステップS9に処理を進める。
【0066】
ここで、ステップS7の縫製パターンデータの設定処理について、図11のフローチャートにより詳細に説明する。なお、ここでは図6の縫製パターンデータの設定を例に説明する。
設定キー75gが押下されると、CPU71は、まず、設定対象となる縫製パターンデータとして項目番号(1)の「鳩目穴形状」を自動的に選択し、表示部75eに「1」を表示する(ステップS61)。そして、増減キー75fの入力判定を行い(ステップS63)、入力がなければ処理をステップS67に進め、入力が行われた場合には設定対象となる縫製パターンデータの項目番号を変更してから(ステップS65)、ステップS67に処理を進める。
ステップS67では、現在選択されている設定パラメータについて、増減キー75dの押下による設定数値の増減の入力が行われたか否かの判定を行う。入力がなければ処理をステップS71に進め、入力が行われた場合には設定対象となる設定パラメータの設定数値の変更を行う。つまり、(1)鳩目穴形状、(2)穴かがり長さ、(3)布切りメス動作、(4)平行針数、(5)鳩目針数、(6)平行部メススペース、(7)鳩目部メススペース、(8)閂止め種類、(9)流れ閂長さ、(15)丸閂針数、(20)針振り幅、(21)二重縫い用パターンナンバー、(22)一重目の布開き量の内の選択されているパラメータについて、その設定数値が変更される(ステップS69)。
【0067】
次に、ステップS71では、データ設定キー75gの入力が行われたか否かの判定を行う。上記各設定パラメータ(1)〜(22)までの設定が全て完了すれば、データ設定キー75gが押下され、設定パラメータの更新が行われた後(ステップS73)、図9のステップS9の処理に進められる。
また、設定パラメータ(1)〜(22)までの設定が継続される場合には、データ設定キー75gの入力は行われず、処理をステップS63に戻して、変更を行う全ての設定パラメータについて、ステップS63〜S71の処理が繰り返し行われる。
【0068】
上述の設定パラメータの設定処理が完了すると、図9のステップS9に示すように、CPU71は、操作パネル75の準備キー75hの押下が行われた否かを判定し、押下されていない場合にはステップS1に処理を戻し、準備キー75hが押下された場合には、縫製縫い目データの生成処理を実行する(ステップS11)。即ち、前述したように、縫製パターンデータの設定内容に従ってデータ演算が行われ、縫製縫い目データが生成される。
なお、縫製縫い目データとは、縫製パターンデータの設定内容に応じた縫製パターンを形成するためのボタン穴かがりミシン1の前述した各部のアクチュエーターの動作量を演算して求めたデータである。
【0069】
そして、ボタン穴かがり縫いの縫製動作を開始するために、送り台51(X軸モーター52及びY軸モーター53)、針棒旋回台13及びルーパ土台61(旋回モーター24)、メスモーター33の各原点センサによる原点検索を実行する(ステップS13)。
【0070】
その後、ボタン穴かがりミシン1に設けられた押さえスイッチ76が押下されると(ステップS15)、CPU71は、布押さえ421,421を下降させて、布地を押さえる(ステップS17)。
なお、この時点では、押さえ機構40の左右の布受け板41,41は初期位置、即ち、「近接位置」となっている。
【0071】
次いで、ボタン穴かがりミシン1に設けられたスタートスイッチ77の押下待ちとなり(ステップS19)、スタートスイッチ77が押下されると、CPU71は、ボタン穴かがり縫製の動作制御を開始する。
まずCPU71は、選択された縫製パターンデータに先メスの実行が設定されているか否かを判断し(ステップS21)、設定されていない場合はステップS25に処理を進め、設定されている場合は、布切りメス19を上下動して、布地に穴開けを行う(ステップS23)。
なお、現在の縫製パターンデータが二重縫いの二重目である場合には、一重目の縫製パターンデータから既に穴開けが完了しているかを判定し、完了していない場合に限り、穴開けを実行する。
【0072】
次に、CPU71は、現在実行中のボタン穴かがり縫製が二重縫いの一重目であるか否かを判定する(ステップS25)。例えば、この判定は、これまでに行われた縫製の縫製パターンデータの(21)二重縫い用パターンデータの設定値の履歴から判断することができる。或いは、二重縫いの二重目の縫いを実行する際には、フラグを立てて当該フラグから判定可能としても良い。
そして、その結果、現在実行中のボタン穴かがり縫製が二重縫いの二重目又は一重縫いである場合には、左右の第一の開閉用エアシリンダ438,438のみをプランジャの突出状態として左右の布受け板41,41を「離間位置」とする。即ち、布開き全開状態とする(ステップS29)。
【0073】
また、ステップS25において、現在実行中のボタン穴かがり縫製が二重縫いの一重目であると判定した場合には、現在の縫製パターンデータの(22)一重目の布開き量の設定が布開き全開状態か否かを判定する(ステップS27)。
そして、その結果、(22)一重目の布開き量の設定が布開き全開状態である場合には、左右の布受け板41,41を「離間位置」として、布開き全開状態とする(ステップS29)。
【0074】
また、ステップS27において、(22)一重目の布開き量の設定が布開き全開状態ではない場合には、現在の縫製パターンデータの(22)一重目の布開き量の設定が布開き半開状態か否かを判定する(ステップS31)。
そして、その結果、(22)一重目の布開き量の設定が布開き半開状態である場合には、左右の第一の開閉用エアシリンダ438,438と左右の第二の開閉用エアシリンダ439,439の双方をプランジャの突出状態として左右の布受け板41,41を「中間位置」とする。即ち、布開き半開状態とする(ステップS33)。
【0075】
また、ステップS31において、(22)一重目の布開き量の設定が布開き半開状態ではない場合には、現在の縫製パターンデータの(22)一重目の布開き量の設定は布開きなしであると判定し、左右の第一の開閉用エアシリンダ438,438と左右の第二の開閉用エアシリンダ439,439のプランジャの退避状態を維持したままステップS35に処理を進める。
【0076】
ステップS35では、CPU71は、X軸、Y軸モーター52,53を制御して、原点位置の送り台51を縫い開始位置まで移動させる。
そして、CPU71は、ミシンモーター17を駆動し、ボタン穴かがり縫いを開始する(ステップS37)。CPU71は、毎針ごとに、縫製縫い目データに設定された、「X送り量」、「Y送り量」、「旋回量」を読み込んでX軸モーター52,Y軸モーター53、旋回モーター24に対する制御を行い、例えば、鳩目穴かがり縫い(又は眠目穴かがり縫い)の各部位について順番に縫い目を形成する。
【0077】
上記縫製縫い目データの全針数に基づくボタン穴かがり縫いの縫製動作が完了すると、CPU71は、送り台51(X軸モーター52及びY軸モーター53)を原点位置に戻してから(ステップS39)、上糸切りエアシリンダ15及び下糸切りエアシリンダ16を作動させて、上糸及び下糸の切断を行う(ステップS41)。
【0078】
そして、CPU71は、縫製パターンデータに後メスの実行が設定されているか否かを判断し(ステップS43)、設定されていない場合はステップS47に移行し、設定されている場合は、布切りメス19を上下動して、布地に穴開けを行う(ステップS45)。
なお、現在の縫製パターンデータが二重縫いの二重目である場合には、一重目の縫製パターンデータから既に穴開けが完了しているかを判定し、完了していない場合に限り、穴開けを実行する。
【0079】
次いで、ステップS47では、現在の縫製パターンデータの(21)二重縫い用パターンナンバーの設定を読み込んで、二重目の縫製パターンデータのパターンナンバーが設定されているか否かを判定し、設定が0であればステップS49に処理を進め、パターンナンバーが設定されていればステップS21に処理を戻し、新たな二重目の縫製パターンデータに従って、ステップS21〜S45までの処理を行い、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成を実行する。
なお、このステップS47の判定は、現在の縫製パターンデータが二重縫いの二重目では無いことを前提としており、二重目である場合にはステップS49に処理を進める。
【0080】
ステップS49では、CPU71は、布押さえ421,421を上昇させて、布地に対する押さえを解除し、送り台51、針棒旋回台13及びルーパ土台61(旋回モーター24)を原点位置に戻し、左右の布受け板41,41が開いている場合には双方を「近接位置」としてから(ステップS51)、処理をステップS15に戻す。つまり、次の縫製のために押さえスイッチが押下されるまで待機状態となる。
【0081】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ボタン穴かがりミシン1では、読み込まれた縫製パターンデータが、
(1)当該縫製パターンデータが二重縫いの二重目の縫製パターンデータではないこと
(2)当該縫製パターンデータには先メス又は後メスの実行が設定されていること、又は、当該縫製パターンデータには布切りメスの実行が設定されておらず二重目の縫製パターンデータには先メスの実行が設定されていること
(3)当該縫製パターンデータには二重縫いの二重目の縫製パターンデータのパターンナンバーが登録されていること
(4)当該縫製パターンデータの(22)一重目の布開き量が「布開きなし」又は「布開き半開」であること
の(1)〜(4)の条件を満たす場合に、制御装置70が、押さえ機構40に対して、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成時よりも二重目のボタン穴かがり縫い目の形成時に押さえ機構40によるボタン穴の開き量を大きくする開き量変動制御を実行する(図10のステップS25の判定がNOである場合にステップS29に進められる処理が「開き量変動制御」に相当する)。
【0082】
上記開き量変動制御によって、二重目のボタン穴の開き量を一重目よりも大きくすることにより、二重目でボタン穴の開き量が変化しないことによる隣の平行区間への針落ちによってボタン穴を塞いでしまう等の縫製不良を効果的に低減することが可能となる。
また、二重目の縫製の際にも布押さえ421,421により布地を張った状態としてばたつきを効果的に抑えることができる。
【0083】
また、二重縫いでは、一重目の縫製パターンでは、針振り幅を狭くすると共に平行部メススペースを広めに設定し、二重目では針振り幅を広くすると共に平行部メススペースを狭めに設定することで、一重目の縫い目を二重目の縫い目の下に隠して、完成した二重のボタン穴かがり縫い目の見栄えを向上させることがしばしば行われる。
その場合には、一重目の縫製パターンデータと二重目の縫製パターンデータの(3)布切りメス動作の設定により、一重目のボタン穴かがり縫い目の形成後であって二重目のボタン穴かがり縫い目の形成前にメス機構30によりボタン穴の形成が行われるように設定される。
このように場合に、上記開き量変動制御を実行することにより、二重目のボタン穴かがり縫い目の形成直前に形成されたボタン穴をより効果的に開くことができ、縫製不良を低減し、より良好な二重縫いを実現することが可能となる。
【0084】
また、ボタン穴かがりミシン1では、操作パネル75により、縫製パターンデータの(22)一重目の布開き量を「布開き全開」を設定するか、「布開きなし」又は「布開き半開」を設定するかによって、実質的に、開き量変動制御の実行の有無を設定することができる。つまり、「布開き全開」を設定した場合には、二重目の縫製でも「布開き全開」で縫い目の形成が行われるので、開き量変動制御は実行されず、「布開きなし」又は「布開き半開」を設定した場合には、二重目の縫製では「布開き全開」で縫い目の形成が行われるので、開き量変動制御が実行されることになる。
従って、操作パネル75を「実行設定部」として機能させることができ、開き量変動制御の実行を任意に選択することができるので、より多彩な縫製を実現することが可能となる。
【0085】
また、ボタン穴かがりミシン1では、EEPROM74が縫製パターンデータを複数記憶するデータ記憶部として機能する。
さらに、操作パネル75は、ボタン穴かがり縫い目の(21)二重縫い用パターンナンバーで任意に二重目の縫製パターンデータを選択することができ、縫製時には、一重目の縫製パターンデータを選択することができるので、一重目と二重目の縫製パターンデータをEEPROM74に記憶された複数の縫製パターンデータの中から選択する「データ選択部」として機能する。
これらにより、二重縫いを行う際に、それぞれの縫製パターンデータを任意に選択することができ、より多彩で的確な二重縫いの縫製を実現することが可能となる。
【0086】
また、ボタン穴かがりミシン1は、押さえ機構40が、布地に対するボタン穴を広げる方向の開き量の大小を、第一の開閉用エアシリンダ438と第二の開閉用エアシリンダ439の二つのエアシリンダの動作の組み合わせにより変動させているので、迅速に目的とする開き量に切り替えることが可能となる。
【0087】
[その他]
なお、押さえ機構40において、第二の開閉用エアシリンダ439を除き、第一の開閉用エアシリンダ438のみにより、布受け板41の開き量の大小を調節可能としても良い。
例えば、図12に示すように、第一の開閉用エアシリンダ438のピストンの両側の空気室にエアーを供給する供給路にそれぞれスピードコントローラー438d,438eを設け、時間当たりのエアーの供給量を一定化し、エアーの供給時間を制御することによりプランジャのストロークを任意に制御することで布受け板41の開き量の大小を調節することができる。
その場合、第一の開閉用エアシリンダ438の電磁弁438cを3位置5ポート式として、ピストンの両側の空気室内に空気を封止状態とする切替位置を設けることが望ましい。これにより、布受け板41の開き量を調節後の位置に維持することができる。
これらの構成により、エアシリンダの使用個体数を低減し、ミシンの製造コストの低減を図ると共に、既存のボタン穴かがりミシンに対して、僅かな手間とコストで開き量変動制御が実行可能なボタン穴かがりミシン1に改造することが可能となる。
【0088】
また、押さえ機構40において、三つ以上のエアシリンダを使用して、開き量の大小をより多段階に調節可能としても良い。その場合、例えば、第二の開閉用エアシリンダ439に並んで同じ向きで第三以降の開閉用エアシリンダを配置すると共に、第二以降の開閉用エアシリンダはプランジャの突出位置が全て異なり、位置P1と位置P3の間のいずれかの位置で駆動リンク437の延出端部437aを停止可能とする。また、第二以降の開閉用エアシリンダは全て、駆動リンク437に付与するトルクは、第一の開閉用エアシリンダ438が駆動リンク437に付与するトルクよりも十分に大きくする。
これにより、第一の開閉用エアシリンダ438を突出状態とし、第二以降の開閉用エアシリンダのいずれか一つを選択的に突出状態とすることにより、「近接位置」から「離間位置」の間の複数位置に布受け板41を移動させることができる。
【0089】
また、駆動リンク437を回動させるアクチュエーターはエアシリンダに限らず位置制御可能なモーターを使用して任意に布受け板41を移動可能としてもよい。
【0090】
また、上記ボタン穴かがりミシン1の例では、主に、鳩目穴かがり縫いを行う場合について例示を行ったが、眠目穴かがり縫いを行う場合にも有効である。
【符号の説明】
【0091】
1 ボタン穴かがりミシン
2 ミシンフレーム
11 縫い針
12 針棒
13 針棒旋回台
17 ミシンモーター
20 旋回機構
30 メス機構
40 押さえ機構
41 布受け板
42 昇降機構
421 布押さえ
425 布押さえ用エアシリンダ
43 開閉機構
438 第一の開閉用エアシリンダ
439 第二の開閉用エアシリンダ
50 布送り機構
51 送り台
60 ルーパ機構
61 ルーパ土台
70 制御装置
74 EEPROM(データ記憶部)
75 操作パネル(データ選択部)
P1 位置
P2 位置
P3 位置
S 切断位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12