【解決手段】眼科手術用顕微鏡は、照明光学系と、観察光学系と、干渉光学系と、光スキャナと、コリメートレンズと、光ファイバと、移動機構とを含む。照明光学系は、照明光で患者眼を照明する。観察光学系は、照明光学系により照明されている患者眼を観察するために用いられる。干渉光学系は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、患者眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する。光スキャナは、測定光の光路に配置される。コリメートレンズは、光源と光スキャナとの間に配置される。光ファイバは、コリメートレンズに臨む位置に測定光の出射端が配置される。移動機構は、コリメートレンズと出射端とを測定光の光路に沿って相対的に移動する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明に係る眼科手術用顕微鏡の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、眼科手術において使用される。実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、照明光学系により患者眼(被手術眼)を照明し、その戻り光(反射光)を観察光学系に導くことにより、患者眼の観察が可能な装置である。
【0011】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、OCT光学系を含んで構成され、患者眼のOCT画像の取得が可能である。なお、撮影対象部位は、患者眼の任意の部位であってよく、たとえば、前眼部においては角膜や硝子体や水晶体や毛様体などであってよいし、後眼部においては網膜や脈絡膜や硝子体であってよい。また、撮影対象部位は、瞼や眼窩など眼の周辺部位であってもよい。公知の手法により、OCTの測定光の戻り光に基づき患者眼の断面像や3次元画像を形成することが可能である。
【0012】
この明細書では、OCTによって取得される画像をOCT画像と総称することがある。また、OCT画像を形成するための計測動作をOCT計測と呼ぶことがある。なお、この明細書に記載された文献の記載内容を、以下の実施形態の内容として適宜援用することが可能である。
【0013】
以下の実施形態では、フーリエドメインタイプのOCTを適用した構成について説明する。特に、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、公知のスウェプトソースOCTの手法を用いて患者眼のOCT画像を取得することが可能である。スウェプトソース以外のタイプ、たとえばスペクトラルドメインOCTの手法を用いる眼科手術用顕微鏡に対して、この発明に係る構成を適用することも可能である。
【0014】
以下の実施形態ではOCT光学系を眼科手術用顕微鏡に適用した装置について説明する。しかしながら、眼科手術用顕微鏡以外の眼科観察装置、たとえば走査型レーザ検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope:SLO)、スリットランプ、眼底カメラなどに、実施形態に係るOCT光学系を適用することも可能である。
【0015】
この実施形態において、上下、左右、前後等の方向は、特に言及しない限り術者側から見た方向とする。なお、上下方向については、後述の対物レンズ15から観察対象(患者眼E)に向かう方向を下方とし、これの反対方向を上方とする。一般に患者は仰向け状態で手術を受けるので、上下方向と垂直方向とは同じになる。
【0016】
〔外観構成〕
図1に、この実施形態に係る眼科手術用顕微鏡の外観構成を示す。眼科手術用顕微鏡1は、支柱2と、第1アーム3と、第2アーム4と、駆動装置5と、術者用顕微鏡6と、助手用顕微鏡7と、フットスイッチ8とを含んで構成されている。支柱2は、眼科手術用顕微鏡1の全体を支持する。支柱2の上端には、第1アーム3の一端が接続されている。第1アーム3の他端には、第2アーム4の一端が接続されている。第2アーム4の他端には、駆動装置5が接続されている。術者用顕微鏡6は、駆動装置5により懸架されている。助手用顕微鏡7は、術者用顕微鏡6に付設されている。フットスイッチ8は、各種操作を術者等の足で行うために用いられる。駆動装置5は、術者等による操作に応じて、術者用顕微鏡6と助手用顕微鏡7とを上下方向および水平方向に3次元的に移動させるように作用する。
【0017】
術者用顕微鏡6は、各種光学系や駆動系などを収納する鏡筒部10を有する。鏡筒部10の上部には、倒像として得られる観察像を正立像に変換する公知の光学ユニット(像正立プリズム)を収納したインバータ部12が設けられている。インバータ部12の上部には、左右一対の接眼部11L、11Rが設けられている。術者は、この接眼部11L、11Rを覗き込んで患者眼Eを両眼で観察する。
【0018】
術者用顕微鏡6には、前置レンズ13が保持アーム14を介して接続されている。保持アーム14の上端部は垂直方向に回動可能に枢設されており、前置レンズ13を患者眼Eと対物レンズ(図示せず)の前側焦点との間の位置から退避できるようになっている。この退避された前置レンズ13および保持アーム14は、図示しない収納部に収納される。
【0019】
〔光学系の構成〕
図2〜
図4に、眼科手術用顕微鏡1の光学系の構成例を示す。
図2は助手用顕微鏡7側からの側面図である。
図3は術者側からの側面図である。
図4は後述のOCTユニット70の構成例を示す。
【0020】
眼科手術用顕微鏡1の光学系は術者用顕微鏡6の鏡筒部10に収納されており、対物レンズ15と、照明光学系20と、主観察光学系30と、副観察光学系40と、OCT光学系60とを含んで構成されている。主観察光学系30は術者用顕微鏡6の光学系(観察光学系)であり、副観察光学系40は助手用顕微鏡7の光学系(観察光学系)である。
【0021】
(照明光学系)
照明光学系20は、対物レンズ15を介して患者眼Eを照明する。照明光学系20は、
図2に示すように、照明光源21、光ファイバ21a、出射口絞り26、コンデンサレンズ22、照明野絞り23、コリメートレンズ27およびダイクロイックミラー25を含んで構成される。
【0022】
照明野絞り23は、対物レンズ15の前側焦点位置と光学的に共役な位置に設けられている。
【0023】
照明光源21は、鏡筒部10の外部に設けられている。照明光源21には光ファイバ21aの一端が接続されている。光ファイバ21aの他端は、鏡筒部10内のコンデンサレンズ22に臨む位置に配置されている。照明光源21から出力された照明光は、光ファイバ21aにより導光されてコンデンサレンズ22に入射する。
【0024】
光ファイバ21aの出射口(コンデンサレンズ22側のファイバ端)に臨む位置には、出射口絞り26が設けられている。出射口絞り26は、光ファイバ21aの出射口の一部領域を遮蔽するように作用する。出射口絞り26による遮蔽領域が変更されると、照明光の出射領域が変更される。それにより、照明光による照射角度、つまり患者眼Eに対する照明光の入射方向と対物レンズ15の光軸Oとが成す角度などを変更することができる。
【0025】
コリメートレンズ27は、照明野絞り23を通過した照明光を平行光束にする。ダイクロイックミラー25は、コリメートレンズ27によって平行光束にされた照明光を対物レンズ15に向けて反射する。また、ダイクロイックミラー25は、後述のOCT光学系60からの測定光および患者眼Eからの測定光の戻り光を透過させる。平行光束になった照明光は、ダイクロイックミラー25にて反射され、対物レンズ15を経由して患者眼Eに投射される。患者眼Eに投射された照明光(の一部)は角膜にて反射される。患者眼Eによる照明光の戻り光(観察光と呼ぶことがある)は、対物レンズ15を経由して主観察光学系30および副観察光学系40に入射する。
【0026】
(主観察光学系)
主観察光学系30は、照明光学系20により照明されている患者眼Eを対物レンズ15を介して術者用顕微鏡6により観察するために用いられる。主観察光学系30は、
図3に示すように左右一対設けられている。左側の観察光学系30Lを左観察光学系と呼び、右側の観察光学系30Rを右観察光学系と呼ぶ。符号OLは左観察光学系30Lの光軸(観察光軸)を示し、符号ORは右観察光学系30Rの光軸(観察光軸)を示す。左右の観察光学系30L、30Rは、対物レンズ15の光軸O(
図2参照)を挟むように配設されている。
【0027】
左右の観察光学系30L、30Rは、それぞれ、変倍レンズ系31、ビームスプリッタ32(右観察光学系30Rのみ)、結像レンズ33、像正立プリズム34、眼幅調整プリズム35、視野絞り36および接眼レンズ37を有する。
【0028】
変倍レンズ系31は複数のズームレンズ31a、31b、31cを含んで構成されている。各ズームレンズ31a〜31cは、図示しない変倍機構によって観察光軸OL(または観察光軸OR)に沿う方向に移動可能とされる。それにより患者眼Eを観察または撮影する際の拡大倍率が変更される。
【0029】
右観察光学系30Rのビームスプリッタ32は、患者眼Eから観察光軸ORに沿って導光された観察光の一部を分離して撮影光学系に導く。撮影光学系は、結像レンズ54、反射ミラー55およびテレビカメラ56を含んで構成される。
【0030】
テレビカメラ56は、撮像素子56aを備えている。撮像素子56aは、たとえば、CCD(Charge Coupled Devices)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等によって構成される。撮像素子56aとしては2次元の受光面を有するもの(エリアセンサ)が用いられる。
【0031】
眼科手術用顕微鏡1の使用時には、撮像素子56aの受光面は、たとえば、患者眼Eの角膜の表面と光学的に共役な位置、または、その角膜曲率半径の1/2だけ角膜頂点から深さ方向に離れた位置と光学的に共役な位置に配置される。
【0032】
像正立プリズム34は倒像を正立像に変換する。眼幅調整プリズム35は、術者の眼幅(左眼と右眼との間の距離)に応じて左右の観察光の間の距離を調整するための光学素子である。視野絞り36は、観察光の断面における周辺領域を遮蔽して術者の視野を制限する。
【0033】
主観察光学系30は、観察光の光路から挿脱可能に構成されたステレオバリエータを含んで構成されてもよい。ステレオバリエータは、左右の変倍レンズ系31によってそれぞれ案内される観察光軸OL、ORの相対的位置を変更するための光軸位置変更素子である。ステレオバリエータは、後述の制御部210によって制御されたソレノイドによって観察光路に対して挿脱可能に移動される。ステレオバリエータは、たとえば、観察光路に対して術者側に設けられた退避位置に退避される。
【0034】
(副観察光学系)
副観察光学系40は、照明光学系20により照明されている患者眼Eを対物レンズ15を介して助手用顕微鏡7により観察するために用いられる。副観察光学系40は、照明光学系20により照明されている患者眼Eにより反射された照明光を助手用接眼レンズ43に導く。
【0035】
副観察光学系40にも左右一対の光学系が設けられており、双眼による立体観察が可能である。副観察光学系40は、助手が位置を変更できるように、主観察光学系30に対する位置を変更できるようになっている。特に、副観察光学系40は、対物レンズ15の光軸Oを軸として回動可能に構成されている。
【0036】
副観察光学系40は、プリズム41と、反射ミラー42と、助手用接眼レンズ43とを含む。副観察光学系40は、プリズム41と反射ミラー42との間に配置された結像レンズ44をさらに含んで構成されていてもよい。患者眼Eによる照明光の戻り光は、対物レンズ15を通過し、プリズム41の反射面41aにより反射される。反射面41aにより反射された照明光の戻り光は、たとえば結像レンズ44を通過し、反射ミラー42により反射され、助手用接眼レンズ43に導かれる。同様に、患者眼Eによる照明光の戻り光は、対物レンズ15を通過し、左観察光学系30Lおよび右観察光学系30Rの変倍レンズ系31に入射する。
【0037】
(OCT光学系)
OCT光学系60は、
図2に示すように、OCTユニット70と、光ファイバ70aと、コリメートレンズ101と、光スキャナ102と、第1レンズ群103と、第2レンズ群104と、リレー光学系105とを含む。
図2では、OCT光学系60により生成された測定光が患者眼Eに対して所定の入射角度を設けて入射するように図示されているが、実施形態の構成は測定光の入射角度に限定されるものではない。
【0038】
OCTユニット70は、
図4に示すように、干渉光学系を含む。干渉光学系は、OCT光源ユニット71からの光を参照光LRと測定光LSとに分割し、患者眼Eに導かれた測定光LSの戻り光と参照光LRとの干渉光LCを検出する。OCTユニット70には光ファイバ70aの一端が接続されている。OCTユニット70内の干渉光学系により生成された測定光LSは、光ファイバ70aの他端から出射する。後述のOCT光学系60により患者眼Eに導かれた測定光LSの戻り光は、同じ経路を逆向きに進行して光ファイバ70aの他端に入射する。
【0039】
光ファイバ70aの他端(測定光の出射端)は、コリメートレンズ101に臨む位置に配置されている。光ファイバ70aの他端から出射した測定光LSは、コリメートレンズ101に入射する。また、コリメートレンズ101を通過した測定光LSの戻り光は、光ファイバ70aの他端に入射する。
【0040】
コリメートレンズ101は、光ファイバ70aの他端から出射した測定光LSを平行光束にする。コリメートレンズ101と光ファイバ70aの他端とは測定光LSの光軸に沿って相対的に移動可能に構成されている。この実施形態では、コリメートレンズ101は、測定光LSの光軸に沿って移動可能に構成されているが、光ファイバ70aの他端が測定光LSの光軸に沿って移動可能に構成されていてもよい。
【0041】
光スキャナ102は、コリメートレンズ101により平行光束とされた測定光LSを1次元的にまたは2次元的に偏向する。光スキャナ102には、偏向面が1軸の回りに回動可能に構成された偏向部材、または偏向面が互いに直交する(交差する)2軸のそれぞれの軸の回りに回動可能に構成された偏向部材が用いられる。偏向部材の例として、ガルバノミラー、ポリゴンミラー、回転ミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラースキャナなどがある。この実施形態では、光スキャナ102は、ガルバノミラーを含んで構成される。すなわち、光スキャナ102は、第1軸の回りに偏向面が回動可能に構成された第1スキャナ102aと、第1軸に直交する第2軸の回りに偏向面が回動可能に構成された第2スキャナ102bとを含む。第1スキャナ102aと第2スキャナ102bとの間にリレー光学系105が設けられている。
【0042】
第1レンズ群103は、1以上のレンズを含んで構成される。第2レンズ群104は、1以上のレンズを含んで構成される。第1スキャナ102aの偏向面と第2スキャナ102bの偏向面とは、光学的に略共役である。第1レンズ群103の焦点距離と第2レンズ群104の焦点距離とによりOCT光学系60の倍率を定めることが可能である。
【0043】
ダイクロイックミラー25は、前述のように、可視光(照明光)を反射し、赤外光(測定光とその戻り光)を透過させる。ダイクロイックミラー25は、ビームスプリッタ、ハーフミラーであってよい。
【0044】
コリメートレンズ101の光軸方向の移動に代えて、第1レンズ群103および第2レンズ群104の少なくとも一方が測定光LSの光軸に沿って移動可能に構成されてもよい。また、コリメートレンズ101の光軸方向の移動に加えて、第1レンズ群103および第2レンズ群104の少なくとも一方が測定光LSの光軸に沿って移動可能に構成されてもよい。
【0045】
<OCTユニット>
OCTユニット70は、
図4に示すような干渉光学系を有する。干渉光学系により検出された干渉光LCの検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0046】
OCT光源ユニット71は、一般的なスウェプトソースタイプのOCT装置と同様に、出射光の波長を走査(掃引)可能な波長走査型(波長掃引型)光源を含んで構成される。OCT光源ユニット71は、人眼では視認できない近赤外の波長帯において、出力波長を時間的に変化させる。OCT光源ユニット71から出力された光を符号L0で示す。
【0047】
OCT光源ユニット71から出力された光L0は、光ファイバ72により偏波コントローラ73に導かれてその偏光状態が調整される。偏波コントローラ73は、たとえばループ状にされた光ファイバ72に対して外部から応力を与えることで、光ファイバ72内を導かれる光L0の偏光状態を調整する。
【0048】
偏波コントローラ73により偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ74によりファイバカプラ75に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0049】
参照光LRは、光ファイバ80によりコリメータ81に導かれて平行光束となる。平行光束となった参照光LRは、光路長補正部材82および分散補償部材83を経由し、コーナーキューブ84に導かれる。光路長補正部材82は、参照光LRと測定光LSの光路長(光学距離)を合わせるための遅延手段として作用する。分散補償部材83は、参照光LRと測定光LSの分散特性を合わせるための分散補償手段として作用する。
【0050】
コーナーキューブ84は、コリメータ81により平行光束となった参照光LRの進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ84に入射する参照光LRの光路と、コーナーキューブ84から出射する参照光LRの光路とは平行である。また、コーナーキューブ84は、参照光LRの入射光路および出射光路に沿う方向に移動可能とされている。この移動により参照光LRの光路(参照光路)の長さが変更される。
【0051】
コーナーキューブ84を経由した参照光LRは、分散補償部材83および光路長補正部材82を経由し、コリメータ86によって平行光束から集束光束に変換されて光ファイバ87に入射し、偏波コントローラ88に導かれて参照光LRの偏光状態が調整される。
【0052】
偏波コントローラ88は、たとえば、偏波コントローラ73と同様の構成を有する。偏波コントローラ88により偏光状態が調整された参照光LRは、光ファイバ89によりアッテネータ90に導かれて、演算制御ユニット200の制御の下で光量が調整される。アッテネータ90により光量が調整された参照光LRは、光ファイバ91によりファイバカプラ92に導かれる。
【0053】
ファイバカプラ75により生成された測定光LSは、光ファイバ70aによりコリメートレンズ101に導かれる(
図2参照)。コリメートレンズ101に入射した測定光LSは、光スキャナ102、第1レンズ群103、および第2レンズ群104を経由してダイクロイックミラー25に到達する。そして、測定光LSは、ダイクロイックミラー25を透過し、対物レンズ15を経由して患者眼Eに照射される。測定光LSは、患者眼Eの様々な深さ位置において散乱(反射を含む)される。患者眼Eによる測定光LSの後方散乱光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ75に導かれ、光ファイバ78を経由してファイバカプラ92に到達する。
【0054】
ファイバカプラ92は、光ファイバ78を介して入射された測定光LSと、光ファイバ91を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ92は、所定の分岐比(たとえば50:50)で、測定光LSと参照光LRとの干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。ファイバカプラ92から出射した一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ93、94により検出器95に導かれる。
【0055】
検出器95は、たとえば一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力するバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode:以下、BPD)である。検出器95は、その検出結果(検出信号)を演算制御ユニット200に送る。演算制御ユニット200は、たとえば一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器95により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等を施すことで断面像を形成する。演算制御ユニット200は、形成された画像を表示部300に表示させる。
【0056】
この実施形態ではマイケルソン型の干渉計を採用しているが、たとえばマッハツェンダー型など任意のタイプの干渉計を適宜に採用することが可能である。
【0057】
[演算制御ユニット]
演算制御ユニット200の構成について説明する。演算制御ユニット200は、検出器95から入力される検出信号を解析して患者眼EのOCT画像を形成する。そのための演算処理は、従来のスウェプトソースタイプのOCT装置と同様である。
【0058】
また、演算制御ユニット200は、OCT光学系60を制御する。たとえば演算制御ユニット200は、患者眼EのOCT画像を表示部300に表示させる。OCT光学系60に対する制御として、演算制御ユニット200は、OCT光源ユニット71の動作制御、コーナーキューブ84の移動制御、検出器95の動作制御、アッテネータ90の動作制御、偏波コントローラ73、88の動作制御などを行う。また、演算制御ユニット200は、コリメートレンズ101、第1レンズ群103、および第2レンズ群104の光軸方向の移動による合焦制御や、光スキャナ102によるスキャン制御などを行うことが可能である。
【0059】
演算制御ユニット200は、たとえば、従来のコンピュータと同様に、マイクロプロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイス等を含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、眼科手術用顕微鏡1を制御するためのコンピュータプログラムが記憶されている。演算制御ユニット200は、各種の回路基板、たとえばOCT画像を形成するための回路基板を備えていてもよい。また、演算制御ユニット200は、キーボードやマウス等の操作デバイス(入力デバイス)や、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示デバイスを備えていてもよい。
【0060】
〔制御系〕
図5に、眼科手術用顕微鏡1の制御系の構成の一例を示す。
図5において、
図1〜
図4と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0061】
(制御部)
眼科手術用顕微鏡1の制御系は、制御部210を中心に構成される。制御部210は、眼科手術用顕微鏡1を制御するための制御手段と、OCT光学系60を制御するための制御手段(演算制御ユニット200)の双方の機能を有する。これらの手段を実現するための1以上の要素は、眼科手術用顕微鏡1とその外部とに分散配置されてよい。制御部210は、たとえば、前述のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、通信インターフェイス等を含んで構成される。制御部210には、主制御部211と記憶部212とが設けられている。
【0062】
(主制御部)
主制御部211は前述の各種制御を行う。特に、主制御部211は、眼科手術用顕微鏡1の撮像素子56a、変倍レンズ駆動部31d、および照明光源21を制御する。また、主制御部211は、OCT光源ユニット71、偏波コントローラ73、88、アッテネータ90、レンズ駆動部101a、光スキャナ102、検出器95、画像形成部220、およびデータ処理部230を制御する。たとえば、主制御部211は、フットスイッチ8に対する術者の操作内容に基づいて前述の各種制御を行うことが可能である。
【0063】
変倍レンズ駆動部31dは、変倍レンズ系31を構成するズームレンズ31a、31b、31cのそれぞれを独立に観察光軸OL、ORに沿う方向に移動させる。
【0064】
レンズ駆動部101aは、移動機構101bを制御する。移動機構101bは、コリメートレンズ101を測定光LSの光軸に沿って移動する。たとえば、移動機構101bは、コリメートレンズ101を保持する保持部材と、この保持部材を測定光LSの光軸方向に移動するスライド機構と、レンズ駆動部101aにより発生された駆動力をスライド機構に伝達する部材とを含む。主制御部211は、たとえば、患者眼Eからの測定光LSの戻り光や干渉光LCや検出信号の強度が所定の強度以上となるようにレンズ駆動部101aを制御することによりコリメートレンズ101を移動することが可能である。また、移動機構101bは、手動によりコリメートレンズ101を移動することが可能である。手動で移動する場合、移動機構101bは、フットスイッチ8または図示しない操作部に対するユーザ(たとえば、術者)の操作内容に基づいてレンズ駆動部101aを制御することによりコリメートレンズ101を移動することが可能である。
【0065】
移動機構101bは、第1レンズ群103および第2レンズ群104のうち少なくとも一方を測定光LSの光軸に沿って移動してもよい。この場合、主制御部211は、レンズ駆動部101aを制御することにより、第1レンズ群103および第2レンズ群104のうち少なくとも一方を測定光LSの光軸に沿って移動することが可能である。
【0066】
また、主制御部211は、記憶部212にデータを書き込む処理や、記憶部212からデータを読み出す処理を行う。
【0067】
(画像形成部)
画像形成部220は、検出器95からの検出信号に基づいて、前眼部や眼底などの断面像の画像データを形成する。この処理には、従来のスウェプトソースタイプの光コヒーレンストモグラフィと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理が含まれている。他のタイプのOCT装置の場合、画像形成部220は、そのタイプに応じた公知の処理を実行する。
【0068】
(データ処理部)
データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して各種の画像処理や解析処理を施す。たとえば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の各種補正処理を実行する。また、データ処理部230は、眼科手術用顕微鏡1により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施すことも可能である。
【0069】
データ処理部230は、断面像の間の画素を補間する補間処理などの公知の画像処理を実行して、前眼部や眼底などの3次元画像の画像データを形成する。なお、3次元画像の画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像の画像データとしては、3次元的に配列されたボクセルからなる画像データがある。この画像データは、ボリュームデータ或いはボクセルデータなどと呼ばれる。ボリュームデータに基づく画像を表示させる場合、データ処理部230は、このボリュームデータに対してレンダリング処理を施して、特定の視線方向から見たときの擬似的な3次元画像の画像データを形成する。レンダリング処理として、ボリュームレンダリングやMIP(Maximum Intensity Projection:最大値投影)などがある。表示部300等の表示デバイスには、この擬似的な3次元画像が表示される。
【0070】
また、3次元画像の画像データとして、複数の断面像のスタックデータを形成することも可能である。スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断面像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させることで得られる画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断面像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られる画像データである。
【0071】
以上のように機能するデータ処理部230は、たとえば、前述のマイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をマイクロプロセッサに実行させるコンピュータプログラムがあらかじめ格納されている。
【0072】
実施形態では、干渉光学系は、ファイバカプラ75および92、検出器95、並びにこれらの間で参照光LRや測定光LSを導く光ファイバや各種光学部材を含んで構成される。干渉光学系は、OCT光源ユニット71をさらに含んで構成されてもよい。この干渉光学系は、実施形態における「干渉光学系」の一例である。主観察光学系30は、実施形態に係る「観察光学系」の一例である。ダイクロイックミラー25は、実施形態に係る「光路結合部材」の一例である。移動機構101bは、実施形態に係る「第1移動機構」、「第2移動機構」の一例である。副観察光学系40は、患者眼に対する光の照射および患者眼からの光の受光の少なくとも一方を行う、実施形態に係る「補助光学系」の一例である。
【0073】
[動作例]
以上のような構成を有する眼科手術用顕微鏡1の動作例について説明する。
【0074】
まず、眼科手術用顕微鏡1による観察状態の調整が行われる。そのために、たとえば、術者は、眼科手術用顕微鏡1の調整を行う。すなわち、術者は、第2アーム4の位置や向きを調整した後、フットスイッチ8に対して操作を行うことにより術者用顕微鏡6や助手用顕微鏡7を上下方向や水平方向に移動させ、術者用顕微鏡6や助手用顕微鏡7を所望の位置で停止させる。その後、術者は、眼幅、観察角度、光量などを調節し、焦点と位置を合わせる。これにより、照明光学系20の照明光により患者眼Eが照明され、術者は接眼レンズ37を覗きながら患者眼Eの観察が可能になり、助手は助手用接眼レンズ43を覗きながら患者眼Eの観察が可能になる。
【0075】
OCT計測を行う場合には、OCT計測用の測定光のスキャン範囲とスキャンパターン(範囲の形状やスキャン領域のサイズ)を設定する。測定光のスキャン範囲の設定は、自動または手動で行うことが可能である。測定光のスキャン範囲を自動で設定する場合、たとえば、術前のOCT計測と同じ範囲を再現して設定したり、テレビカメラ56による現在の観察画像のフレームを解析して手術部位を検出し、検出された手術部位を含む範囲を設定したりすることが可能である。術前のOCT計測の範囲は、術前のOCTスキャン範囲を3次元画像または正面画像に記録しておき、現在の観察画像のフレームと比較することにより特定することができる。また、測定光のスキャン範囲を手動で設定する場合、たとえば、OCT画像のライブ画像を見ながら術者が所望のスキャン範囲を設定することにより行われる。なお、スキャンパターンの設定方法としては、術前と同様のスキャンパターンの自動設定や、フットスイッチ8を用いた手動設定がある。スキャンパターンを手動で設定する場合、スキャンパターンの選択肢が表示部300等に呈示され、フットスイッチ8等を用いて所望の選択肢が指定される。スキャンパターンの選択肢は、1次元パターンおよび2次元パターンの少なくともいずれかを含んでいてよい。
【0076】
測定光のスキャンに関する設定の完了後、OCT計測が開始される(ただし、当該設定にOCT画像のライブ画像が用いられる場合には、OCT計測は既に開始されている)。また、OCT計測を行うために、制御部210は、OCT光源ユニット71やコーナーキューブ84を制御するとともに、上記のように設定されたスキャン領域に基づいて光スキャナ102を制御する。画像形成部220は、OCT計測により得られた干渉光のスペクトルに基づいて患者眼Eの断面像を形成する。スキャンパターンが3次元スキャンである場合、データ処理部230は、画像形成部220により形成された複数の断面像に基づいて患者眼Eの3次元画像を形成する。
【0077】
術者は、眼科手術用顕微鏡1による目視観察、眼科手術用顕微鏡1により取得される可視画像の観察、OCT光学系60により取得されるOCT画像の観察を、選択的に行いつつ手術を行うことが可能である。
【0078】
[変形例]
OCT光学系60を構成する光学部材のうち少なくとも1つが鏡筒部10(顕微鏡本体)に対して着脱可能なユニット(アタッチメント)として構成されていてもよい。このような着脱可能なユニットは、コリメートレンズ101、光スキャナ102、第1レンズ群103、および第2レンズ群104を含んで構成される。
【0079】
また、前述の実施形態では、照明光学系20の光路にOCT光学系60の光路を結合する場合について説明したが、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡の構成はこれに限定されるものではない。たとえば、主観察光学系30の光路にOCT光学系60の光路を結合するように構成されていてもよいし、副観察光学系40の光路にOCT光学系60の光路を結合するように構成されていてもよい。また、照明光学系20の光路や観察光学系(主観察光学系30、副観察光学系40)の光路に結合することなく、OCT光学系60の光路が単独で構成されていてもよい。このとき、ダイクロイックミラー25に代えて全反射ミラーを配置することが可能である。
【0080】
[効果]
実施形態に係る眼科手術用顕微鏡の効果について説明する。
【0081】
実施形態に係る眼科手術用顕微鏡(たとえば、眼科手術用顕微鏡1)は、照明光学系と、観察光学系と、干渉光学系(たとえば、ファイバカプラ75、92、検出器95など)と、光スキャナと、コリメートレンズと、光ファイバと、移動機構とを含む。照明光学系(たとえば、照明光学系20)は、照明光で患者眼(たとえば、患者眼E)を照明する。観察光学系(たとえば、主観察光学系30)は、照明光学系により照明されている患者眼を観察するために用いられる。干渉光学系は、光源(たとえば、OCT光源ユニット71)からの光を測定光(たとえば、測定光LS)と参照光(たとえば、参照光LR)とに分割し、患者眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(たとえば、干渉光LC)を検出する。光スキャナ(たとえば、光スキャナ102)は、測定光の光路に配置される。コリメートレンズ(たとえば、コリメートレンズ101)は、測定光の光路において光源と光スキャナとの間に配置される。光ファイバ(たとえば、光ファイバ70a)は、干渉光学系により生成された測定光を導光し、コリメートレンズに臨む位置に測定光の出射端が配置される。移動機構(たとえば、移動機構101b)は、コリメートレンズと出射端とを測定光の光路に沿って相対的に移動する。
【0082】
このような構成によれば、光スキャナよりも測定光の経路において上流側でコリメートレンズと光ファイバの出射端とを相対的に移動するようにしたので、移動機構やその駆動手段(駆動系)の配置の自由度を高めることができる。それにより、駆動系の配置の自由度が高く、患者眼の観察とOCT画像の取得が可能な眼科手術用顕微鏡を提供することが可能になる。また、照明光学系や観察光学系の既存の構成を大幅に変更することなく、高精度なOCT計測を行うことができる。さらに、駆動手段には、コリメートレンズ等の小型で軽量の光学部材を移動させるだけで済むので、高速な合焦動作や駆動手段の小型化、低コスト化等が可能になる。
【0083】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、光路結合部材(たとえば、ダイクロイックミラー25)を含んでもよい。光路結合部材(たとえば、ダイクロイックミラー25)は、患者眼に向かう測定光の経路において光ファイバよりも下流側に配置され、照明光の光路に測定光の光路を結合する。
【0084】
このような構成によれば、光路結合部材よりも測定光の経路において上流側でコリメートレンズと光ファイバの出射端とを相対的に移動するようにしたので、移動機構やその駆動手段(駆動系)の配置の自由度をより一層高めることができる。
【0085】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡では、光スキャナは、第1スキャナ(たとえば、第1スキャナ102a)と、第2スキャナ(たとえば、第2スキャナ102b)とを含む。第1スキャナと第2スキャナとは、光源側から順に配置され、互いに偏向方向が異なる。第2スキャナは、測定光を光路結合部材に向けて偏向する。
【0086】
このような構成によれば、第2スキャナを用いて偏向された測定光の光路が照明光の光路に結合されるため、測定光を偏向するための偏向部材等の光学部材の数を削減することが可能になる。
【0087】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡では、第1スキャナと第2スキャナとの間にリレー光学系(たとえば、リレー光学系105)が設けられている。
【0088】
このような構成によれば、リレー光学系を用いて第1スキャナと第2スキャナとの配置の自由度を高めるようにしたので、照明光学系や観察光学系から離れた位置に干渉光学系を配置することができるようになる。
【0089】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡では、患者眼に向かう測定光の経路において光スキャナよりも下流側に第1レンズ群(たとえば、第1レンズ群103)および第2レンズ群(たとえば、第2レンズ群104)が設けられている。
【0090】
このような構成によれば、照明光学系や観察光学系の既存の構成を大幅に変更することなく、所望の倍率でOCT計測を行うことができる。
【0091】
また、実施形態に係る眼科手術用顕微鏡は、対物レンズ(たとえば、対物レンズ15)を含む。照明光学系は、対物レンズを介して照明光で患者眼を照明する。観察光学系は、対物レンズを介して患者眼からの照明光の戻り光が導かれる。
【0092】
このような構成によれば、対物レンズを介して患者眼の観察およびOCT画像の取得が可能な眼科手術用顕微鏡を提供することができる。
【0093】
[その他の変形例]
以上に示された実施形態は、この発明を実施するための一例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内において任意の変形、省略、追加等を施すことが可能である。
【0094】
前述の実施形態において説明した構成を任意に組み合わせることが可能である。