【実施例1】
【0033】
以下に、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
図1には、本発明の一実施例である脱硝装置の概略構成図を示す。また、
図2には、排ガス流れ方向(ノズル5側)から見た場合の旋回部と混合部からなる混合器の図(正面図)を示し、
図3には、排ガス流れ方向から見た場合の混合部の図を示す。
【0034】
本実施例の脱硝装置1は、排ガスダクト3内に還元剤としてアンモニアを注入する還元剤注入ノズル5と脱硝触媒からなる脱硝触媒層7とが排ガス流れに沿って設けられた構成である。また、還元剤注入ノズル5と脱硝触媒層7との間には、排ガスとアンモニアとの混合を促進するための混合器9が設置されている。
【0035】
図示しないボイラ(キルンなどの燃焼反応装置でも良い)から排出される排ガスは、水平方向(矢印A方向)に導入され、還元剤注入ノズル5から噴霧されるアンモニアと共に排ガスダクト3内を流れ、混合器9によって混合された後、脱硝触媒層7に流入する。アンモニアの噴霧量は、注入配管6の調整弁6aにより排ガス量に応じて調整される。尚、還元剤には尿素を用いても良い。
【0036】
本実施例の混合器9は上流側の旋回部11と下流側の混合部13との2段構えの構成であることに特徴がある。上流側の旋回部11は、排ガス流れ方向と略直交する方向に平面部を有する板状部材11aと、板状部材11aの外周に沿って形成された複数の小径の外周開口部11bと、板状部材11aの中心に形成された大径の中心開口部11cと、各外周開口部11bの排ガス流れ下流側に接して流体を周方向に案内する各案内部材11dとを備えている。
【0037】
案内部材11dは筒状であり、
図2に示すように、排ガス流れ方向から見て先端部から流体が時計回り(右回り)に流れるように周方向に配置されている。図示例では円筒状であるが、断面が四角形状などの多角形状であっても良い。尚、
図2では外周開口部11b及び案内部材11dが左右に偏った配置となっているが、周方向に等間隔で配置しても良い。また、これら外周開口部11b及び案内部材11dの数に限定はなく、排ガスダクト3の大きさや形状に合わせて設置すると良いが、概ね4の倍数が適している。
【0038】
そして、混合部13は、頂点13cを排ガス上流側に有し、側面13aに複数の側面開口部13bを有する、底面のない四角錐体である。尚、四角錐ではなくても、円錐や三角錐などでも良く、排ガスダクト3の形状に合わせると良い。このことは、旋回部11の板状部材11aについても同様である。即ち、板状部材11aの形状が正方形でも円形でも良く、特に限定はない。
【0039】
そして、混合部13の四角錐体の頂点13cが、排ガス流れ方向から見て旋回部11の中心開口部11cと重複するように配置されている。
アンモニアと排ガスとからなる流体は、まず上流側の旋回部11に流入する。旋回部11では、中心開口部11cから水平方向に流れる流体の流れと外周開口部11bから案内部材11dによって旋回が与えられる旋回流とが形成される。
【0040】
中心開口部11cを流れる流体は直進することで比較的高速を保ち、また中心開口部11cを比較的大径として開口率を上げることで、圧力損失の増加を抑えることができる。一方、外周開口部11bを流れる流体は比較的小径の外周開口部11bから、案内部材11dにより周方向の流れが与えられることで、流速が比較的高速に保たれる。特に、案内部材11dを先端ほど径が小さくなるようなノズル状とすれば、高速流となる。
【0041】
そして、下流側の混合部13では、旋回部11を通過した流体が側面開口部13bから排ガスダクト3の中心軸方向に流入する。旋回部11の中心開口部11cを通過した流体は錐体頂点13cから側面13aの傾斜に沿って流れ、側面開口部13bに流入する。一方、旋回部11の外周開口部11bを通過した流体は旋回流となって、旋回しながら側面開口部13bに流入する。
【0042】
従って、旋回部11の中心開口部11cからの水平方向の流れと外周開口部11bからの旋回流とが混合部13の側面開口部13bに流入して、排ガスダクト3の中心軸方向に流れることで、効率よく混合されて、変動係数も低下する。
【0043】
一般に流れの向きが変わって流線が長く伸びれば、その間に混合は進む。しかし流れの向きがヘアピンのように急激に屈折したり迷路のようであれば、圧力損失は上昇してしまう。これに対し、本実施例の構成によれば、このような極端な流れ方向の急変やそれに伴う過剰な渦の発生を抑制できるので、圧力損失は増加しない。
【0044】
また、流体が上流側の旋回部11と下流側の混合部13を通過することで、流体の滞留時間を確保でき、混合を促進させると共に圧力損失の増加も防止できる。
尚、図示例では、板状部材11aに中心開口部11cを設けているが、中心開口部11cは必ずしも必要ではなく、中心開口部11cがなくても外周開口部11b及び案内部材11dによる旋回流により比較的高速を保ちながら混合部13の中心軸方向に流れることで、圧力損失の増加を抑えながら変動係数を低下させることができる。中心開口部11cを設けない場合は、外周開口部11bを比較的中心軸側に設けても良い。
【0045】
ここで、外周開口部11bを小さくすると高速流を保つことができるものの、圧力損失が増加しやすくなる。一方、外周開口部11bを大きくすると、圧力損失の増加は抑制されるが旋回流の勢いが弱まってしまう。そこで、更に板状部材11aに中心開口部11cを設けることで、圧力損失の増加を防止しながら、流体の混合も促進できる。
【0046】
上述の例では、排ガスダクト3内に混合器9を一つ設置した場合を示したが、混合器9は、排ガスダクト3内に複数配置すると、混合促進効果が高くなる。特に大型の脱硝装置で排ガスダクト3が大きい場合や、断面形状が長方形であって、短辺と長辺との比率の差が大きい場合などは複数設置すると良い。
【0047】
図4には、排ガスダクト3内に混合器9を横に二つ並べた場合の斜視図(ダクト3の内部)を示し、
図5(A)及び(B)には、
図4の混合器9を用いた場合の流体の流動解析結果を示す。また、
図6には、
図4の混合器9の旋回部11を排ガス流れ方向から見た場合の図を示し、
図7(A)には、
図4の混合器9の混合部13の平面図を示し、
図7(B)には、側面図を示す。
【0048】
縦800(mm)×横2100(mm)の断面長方形の排ガスダクト3内に、ダクト内壁に接するように混合器9を横に二つ設置した。各混合器9は、径約500(mm)の中心開口部11cとその横(左右方向)に径約200×100(mm)の楕円形の外周開口部11bを4つずつ配置した板状部材11aに300(mm)長さの筒状の案内部材11dを各外周開口部11bの下流側にそれぞれ斜めに取り付けた旋回部11と、径約350(mm)の円形の側面開口部13bを各側面13aに有し、高さ700(mm)で母線長さが800(mm)である四角錐体の混合部13とし、混合部13を、その頂点13cが旋回部11の中心開口部11cの中心に一致するように配置した。頂点13cを中心開口部11cの中心と一致させることにより、極端な流れ方向の急変やそれに伴う過剰な渦の発生を抑制できるため、混合を促進しつつも圧力損失の増加を避けることが可能となる。
【0049】
尚、流動解析では、混合器9の入り口における還元剤濃度の変動係数が20の偏りがある条件で解析を行った。流動解析での変動係数の設定は、ダクト断面の長辺、短辺、対角線に設定する方法が考えられるが、最も還元剤の混合が困難となるダクト断面の対角線に対して変動係数20を設定した。
【0050】
また、この解析は汎用流体解析ソフト(Ansys Fluent)(アンシス・ジャパン株式会社製)によりモデル化し、有限体積法による定常解析により実施した。条件は、後述の変動係数の解析(表1)と同様とした。
【0051】
図5では、概ね流速0.0m/s〜9.6m/sを青色、流速9.6m/s〜16.5m/sを緑色、流速16.5m/s〜19.2m/sを黄色、流速19.2m/s〜24.7m/sを燈色、流速24.7m/s〜27.5m/sを赤色で段階的に示している。
【0052】
図5によれば、旋回部11と混合部13との間の流体の流速は16.5m/s以上の比較的高速に保たれており、特に筒状の案内部材11dを通過する流体は24.7m/s以上の箇所が多くなっている。そして、混合器9出口流速も入り口(ほぼ9.6m/s以下である)と比べて9.6m/s以上、主に16.5m/s〜19.2m/sの箇所が多く、高くなっていることが分かる。
【0053】
従って、排ガスの圧力損失は低いものと推察される。また、流線には極端な流れ方向の急変も無く、過剰な渦の発生も無いことが確認できる。
そして、筒状の案内部材11dからは流体が左右上下方向に拡散された後、中心開口部11cから流入する流体と共に排ガスダクト3の中心軸方向に流れることで、混合が促進される。
【0054】
表1には、
図4に示した混合器9を用いて、混合器9出口の変動係数を調べた結果を示す。
【表1】
【0055】
なお、
図8には、比較として用いた、板状部材14aに中心開口部14bのみ設けた旋回部14と混合部13を備えた混合器10を示しており、寸法、形状は
図4に示した混合器9と同様である。また、解析は汎用流体解析ソフト(Ansys Fluent)(アンシス・ジャパン株式会社製)によりモデル化し、有限体積法による定常解析により実施した。そして、混合器9の入り口で対角線方向に還元剤濃度の変動係数が20%となるように設定し、混合器9の出口における還元剤濃度の変動係数を算出した。変動係数の算出は、前記式(3)及び(4)によるものとした。
【0056】
このサイズのダクトでは、手分析の場合、ダクトを6分割し、各分割面の中心(6つの測定値が得られる)の測定結果を基に実機で算出する。一方、解析では手分析の制限がないため、同サイズのダクトを数千に分割し、計算した。解析では、断面を数千に分割しているため、そのそれぞれのメッシュの初期条件の一つとして濃度(YとZ(
図5)を変数としたNH
3の濃度勾配を表す数式であって、単位は質量分率)を与えた。入り口条件は、変動係数の式を元に前記数式の係数を決定し、数式を解析ソフトに与えた。出口の結果は出口断面の数値(解析ソフトの計算結果)から変動係数の式を用いて計算した。
【0057】
また、条件として、混合ガス(N
2が75.54vol%、O
2が13.04vol%、H
2Oが8.22vol%、CO
2が3.20vol%、wet含んだもの)及び希釈NH
3ガス(体積分率0.03%)を設定し、350℃の物性値で解析した。
【0058】
混合ガスの密度は0.552kg/m
3、粘性係数は3.0325×10
-5kg/m・sとし、一方で希釈NH
3ガスの密度は0.329kg/m
3、粘性係数は2.161×10
-5kg/m・sとした。また希釈NH
3ガスの質量拡散係数は8.5×10
-5m
2/sとした。モデルに流入する全ガス量は、13354m
3N/hとし、乱流強度は標準的な乱れを想定し10%とした。
【0059】
表1に示すように、比較例の混合器10の場合は変動係数が10%と比較的高い値であったものの、本実施例の混合器9では5.8%と比較的低い値であった。従って、筒状の案内部材11dによる旋回効果により、混合率が高まることが確認された。尚、変動係数が5%程度であると、還元剤が十分に分散されていると言え、高い脱硝率を維持できる。
【0060】
特に、変動係数が5%程度では、脱硝触媒層7などの脱硝設備を複数段設置することで脱硝率を95%以上まで上げられることが実績から確認されている。
図1では脱硝触媒層7を一段しか設置していないが、この場合でも変動係数が低ければ高効率で脱硝ができる。
【0061】
例えば、還元剤注入ノズル5を格子状に数十本設置し、それぞれの注入配管6の調整弁6aもノズル毎に設置する。そして、注入配管6の調整弁6aの開度を微調整し、還元剤を均一に分散させた状態で脱硝触媒層7に流れるように調整する。このように、調整弁6aの開度調整と共に排ガス混合器9を使用することにより、より一層の高効率脱硝が実現できる。
【0062】
本実施例によれば、概ね目標値である5%程度まで変動係数が下がったことで、流体が均等に混合されていることが確認できた。従って、案内部材11dによって旋回流を引き起こすことで、脱硝触媒層7における触媒と流体との反応効率が向上し、高い脱硝率を保持できると言える。
【0063】
図9(A)には、旋回部11の他の例(正面図)を示す。
この図では、案内部材を旋回羽根(ベーン)11eとした場合を示している。
図9(B)に示すように、ベーン11eは半割れの板であり、筒状の案内部材11dと比べて勢いはなくなるものの、周方向の流れが形成されるため、それほど流速は低下しない。また、外周開口部11bの全周ではなく一部に取り付ければ済むため簡素な構成となり、製造も容易である。図示例では、外周開口部11b及びベーン11eを板状部材11aの角部に4つ設けた場合を示しているが、それ以上設けても良い。
【0064】
尚、混合器9を、排ガス流れ方向に複数設置しても良い。また、脱硝反応は排ガス温度にも依存するため、注入配管6の上流側にも混合器9を設置し、排ガス温度の偏りを平滑化する目的でも使用できる。これらのことは、他の実施例にも共通する。