【解決手段】溶接電源1はインバータ回路1021で発生した交流電圧に高周波発生部104で発生した高周波電圧を重畳するカップリングコイル105を備える。制御部107は高周波電圧を重畳した交流電圧を溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に印加してアークを発生させる。制御部107はアーク検出部1073が電流検出回路1043で検出した溶接電流を用いてアークの発生を検出すると、C・C切離し回路106に切離し制御信号を出力してカップリングコイル105の両端部を短絡する。これにより、アーク発生後のアーク溶接モードにおいては溶接電流の電流経路からカップリングコイル105が切り離され、溶接電流がゼロクロスをするときにカップリングコイル105の電気的な特性の悪影響によりアーク切れが発生するのを防止することができる。
前記回路切離し制御手段は、前記電流検出手段の検出値に基いて、前記トーチ先端と前記母材との間にアークが発生していることを検出するアーク検出手段を有し、前記アーク検出手段が前記アークの発生を検出すると、前記回路切離し手段を短絡状態にして前記交流電流の経路から当該高周波重畳手段を切り離し、前記アーク検出手段が前記アークの発生を検出しなければ、前記回路切離し手段を開放状態にして前記交流電流の経路に前記高周波重畳手段を挿入することを特徴とする、請求項1に記載の交流TIGアーク溶接電源。
前記回路切離し制御手段は、前記交流電流のレベルが一方のピーク値から他方のピーク値に反転するレベル反転期間に前記回路切離し手段を短絡状態にして前記交流電流の経路から当該高周波重畳手段を切り離し、前記レベル反転期間以外の期間では前記回路切離し手段を開放状態にして前記交流電流の経路に前記高周波重畳手段を挿入することを特徴とする、請求項1に記載の交流TIGアーク溶接電源。
前記回路切離し制御手段は、前記交流電流のレベルが一方のピーク値から他方のピーク値に反転するレベル反転期間内の当該交流電流のレベルがゼロレベルをクロスする所定のゼロクロス期間に前記回路切離し手段を短絡状態にして前記交流電流の経路から当該高周波重畳手段を切り離し、前記レベル反転期間以外の期間では前記回路切離し手段を開放状態にして前記交流電流の経路に前記高周波重畳手段を挿入することを特徴とする、請求項1に記載の交流TIGアーク溶接電源。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る交流TIGアーク溶接電源の実施の形態について、図面を参照して説明する。実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0022】
図1は、実施の形態に係る交流TIGアーク溶接電源の構成を示すブロック図である。
【0023】
図1に示す交流TIGアーク溶接電源1(以下、「溶接電源1」と略称する。)は、交流−直流変換部101、直流−交流−直流変換部102、直流−交流変換部103、高周波発生部104、カップリングコイル105、カップリングコイル切離し回路106及び制御部107を含む。
【0024】
溶接電源1は、入力側が三相交流電源に接続され、出力側が母材Bと溶接トーチ2に保持された電極Dに接続される。具体的には、直流−交流変換部103の出力端子dが母材Bに接続され、直流−交流−直流変換部102内のインバータトランス1022の出力端子nが電極Dに接続される。
【0025】
本実施の形態では、母材Bが接地(基準電位0[V])されており、交流−直流変換部101、直流−交流−直流変換部102及び直流−交流変換部103の一方の信号ライン(
図1では、下側の信号ライン)は、溶接電源1の筐体を介して基準電位(0[V])に設定されている。
【0026】
交流−直流変換部101は、商用電源(三相200/220[V])から供給される交流を直流に変換する。交流−直流変換部101は、配電用遮断器1011、一次整流回路1012、入力リアクトル1013及び平滑回路1014を有する。
【0027】
配電用遮断器1011は、過負荷や短絡などの要因で負荷側に異常な過電流が流れたときに、溶接電源1を配電線路から切り離すための機器である。一次整流回路1012は、周知のブリッジダイオードで構成される。
【0028】
入力リアクトル1013は、一次整流回路1012から出力される直流に含まれる高調波を除去する。入力リアクトル1013は、直流リアクトル(DCL)である。
【0029】
平滑回路1014は、一次整流回路1012から出力される直流の脈動分を除去する。平滑回路1014は、周知のチョークコイルやコンデンサを用いた回路で構成される。例えば、三相交流のU相とV相の線間電圧をv
uvとすると、交流−直流変換部101からは|v
uv|の最大値V
Pに相当するレベル値を有する電圧V
dc1が出力される。電圧V
dc1は、レベル値が一定の直流電圧である。
【0030】
直流−交流−直流変換部102は、交流−直流変換部101から出力される電圧V
dc1をレベル値の異なる電圧V
dc2に変換する。本実施の形態では、直流−交流−直流変換部102は、電圧V
dc1を当該電圧V
dc1よりもレベル値の低い電圧V
dc2に変換する。直流−交流−直流変換部102は、インバータ回路1021、インバータトランス1022、二次整流回路1023及び直流リアクトル1032,1033を有する。
【0031】
インバータ回路1021は、例えば、
図2に示すように、4個の半導体スイッチS1,S2,S3,S4をブリッジ接続したフル・ブリッジ回路で構成される。半導体スイッチS1〜S4には、例えば、IGBTが用いられるが、IGBT以外の半導体スイッチを用いてもよい。
【0032】
インバータ回路1021の駆動は、制御部107から出力される駆動信号S,/Sによって制御される。駆動信号Sと駆動信号/Sは、互いにレベルが反転した所定の周波数f
1のクロックパルスである。フル・ブリッジ回路の一方の対角位置に配置された一対の半導体スイッチS1,S4のオン・オフ動作は、駆動信号Sによって制御され、他方の対角位置に配置された一対の半導体スイッチS2,S3のオン・オフ動作は、駆動信号/Sによって制御される。従って、半導体スイッチS1,S4と半導体スイッチS2,S3は、交互にオン・オフ動作をする。
【0033】
インバータ回路1021の一方の出力端a’(
図2では、下側の出力端)に対する他方の出力端aの出力電圧をv
1とすると、インバータ回路1021からは、周期τ
1(=1/f
1)でレベル値が+V
P[V]と−V
P[V]の間で交互に変化する矩形波状の電圧v
1が出力される。電圧v
1は、レベル値が周期的に変化する直流電圧である。
【0034】
インバータトランス1022は、インバータ回路1021から出力される電圧v
1のピーク値+V
P,−V
Pをアーク溶接用のレベル値(+V
Q,−V
Q)に変圧する。インバータトランス1022は、例えば、2つの巻線を強磁性体の鉄心で磁気結合した周知の高周波トランスで構成される。インバータトランス1022の一次巻線の両端にインバータ回路1021の出力端子が接続され、インバータトランス1022の二次巻線の両端に二次整流回路1023の入力端子が接続されている。また、インバータトランス1022の二次巻線の中間位置に設けられた出力端子nがカップリングコイル105を介して溶接トーチ2に保持された電極Dに接続されている。
【0035】
インバータトランス1022の出力端子nと一方の出力端子b(
図1では、上側の出力端子)の間の巻数と二次巻線の出力端子nと他方の出力端子b’(
図1では、下側の出力端子)の間の巻数は、同一に設定されている。
【0036】
インバータトランス1022における変圧比をk(<1)とし、出力端子b’(基準電位)に対する出力端子bの電圧をv
2とすると、インバータトランス1022からは、
図3に示すように、周期τ
1でレベル値が+V
Q(=k×V
p)[V]と−V
Q[V]の間で交互に変化する矩形波状の電圧v
2が出力される。電圧v
2は、レベル値が周期的に変化する交流電圧である。電圧v
2のピーク値+V
Q,−V
Qの絶対値は、十数[V]〜数十[V]である。
【0037】
また、インバータトランス1022の出力端子b’に対する出力端子nの電圧をv
nv
nとすると、出力端子nからは、周期τ
1でレベル値が+V
Q/2[V]と−V
Q/2[V]の間で交互に変化する矩形波状の電圧v
nが出力される。電圧v
nは、レベル値が周期的に変化する直流電圧である。
【0038】
二次整流回路1023も周知のブリッジダイオードで構成される。直流リアクトル1024,1025は、二次整流回路1023から出力される直流のリプルを抑制したり、電極Dと母材Bとの間に発生したアークのアーク切れを抑制したりするためのリアクトルである。直流リアクトル1024と直流リアクトル1025のリアクタンス特性は、通常、可級的に同じ特性に調整されるが、同じ特性でなくてもよい。直流−交流−直流変換部102からは、+V
Q(<+V
P)のレベル値を有する電圧V
dc2が出力される。電圧V
dc2は、レベル値が一定の直流電圧である。
【0039】
直流−交流変換部103は、直流−交流−直流変換部102から出力される直流を所定の周波数f
2を有する交流(例えば、数十Hz〜数百Hzの交流)に変換する。直流−交流変換部103は、スイッチング回路1031、スナバ回路1032及び電流検出回路1033を含む。なお、直流−交流変換部103の出力段には、溶接電圧を検出する電圧検出回路が設けられているが、本発明に係るカップリングコイル切離し回路106の制御には関係しないので、
図1では、省略している。
【0040】
スイッチング回路1031は、
図4に示すように、例えば、同一タイプの2つの半導体スイッチSW
A,SW
Bを直列に接続したデジタルアンプで構成される。半導体スイッチSW
A,SW
Bには、例えば、IGBTを用いるとよい。上側の半導体スイッチSW
Aは、EN(Elecrode Negative)側のスイッチ素子であり、下側の半導体スイッチSW
Bは、EP(Elecrode Positive)側のスイッチ素子である。
【0041】
スナバ回路1032は、半導体スイッチSW
A,SW
Bのスイッチング動作時に過渡的に発生する高圧を吸収して当該半導体スイッチSW
A,SW
Bを保護する。スナバ回路1032は、半導体スイッチSW
Aと半導体スイッチSW
Bにそれぞれ設けられる。例えば、半導体スイッチSW
A,SW
AとしてIGBTを用いた場合、半導体スイッチSW
A,SW
Bには、例えば、RCスナバ回路(RC Snubber circuit。抵抗とコンデンサを直列に接続した回路)がそれぞれ並列に接続される(
図4参照)。
【0042】
スイッチング回路1031の駆動は、制御部107から出力される駆動信号S
A,S
Bによって制御される。駆動信号S
Aと駆動信号S
Bは、例えば、半導体スイッチSW
A,SW
AにIGBTを用いた場合、互いにレベルが反転した所定の周波数f
2のクロックパルスである。駆動信号S
Aと駆動信号S
Bで半導体スイッチSW
Aと半導体スイッチSW
Bをそれぞれ駆動すると、半導体スイッチSW
Aと半導体スイッチSW
Bは、周期τ
2(=1/f
2)で交互にオン・オフ動作をする。
【0043】
半導体スイッチSW
Aと半導体スイッチSW
Bの接続点d(出力端子d)からは、周期τ
2で+V
Q[V]と−V
Q[V]の間で交互に変化する矩形波状の交流電圧v
dが出力される(
図4参照)。
【0044】
アーク溶接中は、溶接トーチ2の先端にインバータトランス1022の出力端子nから電圧v
nが印加され、母材Bに直流−交流変換部103の出力端子dから電圧v
dが印加されるので、溶接トーチ2の先端と母材Bの間にはv
dの電圧v
dnが印加される。従って、0<v
dでは、
図5の実線で示す電流経路R
Aで溶接電流i
Wが流れ、v
d<0では、
図5の点線で示す電流経路R
Bで溶接電流i
Wが流れる。なお、小文字表記の「i
w」は、電極Dと母材Bとの間を流れる溶接電流が交流であることを示している。また、
図5では、電流経路R
A,R
Bを見易くするために、溶接電源1の構成の一部を省略若しくは簡略化している。
【0045】
電流経路R
Aは、直流−交流−直流変換部102の出力ラインからスイッチング回路1032、母材B、溶接トーチ2の先端、カップリングコイル105を経てインバータトランス1022の出力端子nに至る経路であり、電流経路R
Bは、インバータトランス1022の出力端子nからカップリングコイル105、溶接トーチ2の先端、母材B、スイッチング回路1032、直流−交流−直流変換部102の出力ラインを経てインバータトランス1022の出力端子b’に至る経路である。
【0046】
電流経路R
Aを流れるときの溶接電源i
Wの極性を「正極性」とし、電流経路R
Bを流れるときの溶接電源i
Wの極性を「負極性」とすると、アーク溶接中には溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に、
図6に示すような矩形状の交流電流i
Wが流れる。
【0047】
電流検出回路1033は、直流−交流変換部103から出力される電流を検出する。溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生していなければ、電流経路R
A,R
Bが切断されているので、電流検出回路1033では溶接電源1の出力電流は検出されない。溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生すると、アーク溶接モード(アーク溶接が可能な状態のモード)に移行するので、電流検出回路1033で交流電流が検出されるが、その交流電流が溶接電流i
Wに相当する。
【0048】
電流検出回路1033は、例えば、ホール素子と環状コアを用いた電流センサで構成される。電流センサは、直流−交流変換部103の出力端dと母材Bを接続する信号線を流れる電流を環状コアで磁束の変に変換し、その磁束をホール素子で検出して出力する。電流検出回路1033による電流の検出値は、制御部107に入力される。電流検出回路1033の検出信号は、電流検出回路1033でA/D変換をした後に制御部107に入力してもよく、制御部107に入力した後に当該制御部107内でA/D変換をするようにしてもよい。
【0049】
本実施の形態では、電流検出回路1033としてはホール素子を用いた交流電流センサを用いているが、シャント抵抗を用いた交流電流センサなどの他の方式の交流電流センサを用いてもよい。
【0050】
高周波発生部105は、直流−交流変換部103から出力される電圧v
dの周波数f
2よりも高い周波数(例えば、数百Hz〜数十MHz)と高電圧(数kV〜十数kV)を有する高周波電圧v
fを発生する。高周波発生部105の高周波発生動作は、制御部107によって制御される。
【0051】
高周波発生部105で発生した高周波電圧v
fは、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークを発生させるために用いられるので、制御部107は、アーク溶接開始時や溶接中にアーク切れが発生してアークを再発生させる時などに高周波発生部105に高周波発生を指令する高周波制御信号S
fを出力し、アーク発生後は高周波発生部105に高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力する。
【0052】
高周波制御信号S
fには、例えば、ハイレベルを高周波発生の指令に割り当て、ローレベルを高周波停止の指令に割り当てた2値信号若しくはその逆の論理の2値信号を用いることができる。
【0053】
カップリングコイル105は、インバータトランス1022の出力端子nから出力される電圧v
nに高周波発生部105で発生した高周波電圧v
fを重畳するデバイスである。カップリングコイル105には、例えば、
図7に示すように、急峻な磁気飽和特性を有する環状コア1051の相対向する脚部にそれぞれ一次巻線1052と二次巻線1053を巻回した過飽和リアクトルが用いられている。
【0054】
一次巻線1052は、高周波発生部105で発生した高周波電圧v
fが印加される巻線であり、二次巻線1053は、直流−交流−直流変換部102の出力端子nから出力される電圧v
nが印加される巻線である。出力端子nからの出力は、低電圧大電流であるのに対し、高周波発生部105からの出力は、高電圧小電流であるで、一次巻線1052の線径は、二次巻線1053の線径よりも小さい。
【0055】
溶接電源1が起動すると、インバータトランス1022の出力端子nから電圧v
n(=v
1/2)が出力される。従って、カップリングコイル105の一次巻線1052の両端には、電圧v
nが印加され、これにより環状コア1051を介して一次巻線1052と二次巻線1053とが磁気結合する。
【0056】
制御部107からの高周波発生を指令する高周波制御信号S
fにより高周波発生部105が高周波電圧v
fを発生すると、その高周波電圧v
fが二次巻線1053の両端に印加される。二次巻線1053と一次巻線1052は磁気結合しているので、一次巻線1052の両端に高周波電圧v
fに基づく高周波電圧v
f’が誘起され、これにより一次巻線1052に印加された矩形波状の電圧v
nに高周波電圧v
f’が重畳される。電圧v
nのレベルは、−(数十[V]乃至は十数)[V]から+(数十[V]乃至は十数)[V]の範囲で変動するが、高周波電圧v
f’のレベルは、±数k[V]〜±十数k[V]の範囲で変動するので、高周波発生部105が高周波電圧v
fを発生しているときには、実質的に0[V]を中心に±数k[V]の範囲で変動する高周波高電圧が溶接トーチ2の先端に印加されていると見なすことができる。
【0057】
一方、母材Bには、直流−交流変換部103から矩形波状の電圧v
dが印加されている。電圧v
dは、上述したように、周期τ
2で+V
Q[V]と−V
Q[V]の間で交互に変化する矩形波状の交流電圧である。電圧v
dのレベルの変動範囲も0から−(数十[V]乃至は十数)[V]から+(数十[V]乃至は十数)[V]の範囲であり、溶接トーチ2の先端に印加されている高周波高電圧のピーク値に対して非常に小さいので、高周波発生部105が高周波電圧v
fを発生しているときに母材Bと溶接トーチ2の先端との間に生じる電位差は、数k[V]〜十数k[V]の高電圧となり、この高電圧により母材Bと電極Dとの間の絶縁が破壊され、アークが発生する。
【0058】
カップリングコイル切離し回路106(以下、「C・C切離し回路106」と表記する。)は、カップリングコイル105の両端を短絡し、当該カップリングコイル105をインバータトランス1022の出力端子nと溶接トーチ2の先端を接続する信号線から切り離すための回路である。C・C切離し回路106は、半導体スイッチにより構成され、その半導体スイッチのON/OFF駆動は制御部107によって制御される。C・C切離し回路106には、例えば、IGBTの半導体スイッチを用いられるが、他の種類の半導体スイッチであってもよい。
【0059】
制御部107は、溶接電源1の動作を統括的に制御する。制御部107には、作業者が溶接電圧及び溶接電流などの溶接条件を入力する入力部、トーチスイッチ、入力部から入力された溶接条件や溶接中の溶接電圧及び溶接電流の検出値やアーク切れなどのステータス情報を出力する出力部などが接続されるが、
図1では省略している。
【0060】
制御部107は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びMPU(Micro−Processing Unit)を有するマイクロコンピュータで実現されている。なお、制御部22は、FPGA(Field−Programmable Gate Array)などのPLD(Programmable Logic Device)で実現してもよい。
【0061】
制御部107は、機能ブロックとして、駆動信号S,/Sを生成する第1駆動信号生成部171と、駆動信号S
A,S
Bを生成する第2駆動信号生成部1072と、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に発生するアークを検出するアーク検出部1073と、高周波制御部1074と、アーク検出部1073で検出したアーク検出信号を用いて、C・C切離し回路106の駆動を制御するC・C切離し制御部1075とを備える。
【0062】
第1駆動信号生成部1071は、制御部107に内蔵された基準クロックCLKを用いて駆動信号Sと駆動信号/Sを生成し、インバータ回路1021に出力する。第2駆動信号生成部1072は、同基準クロックCLKを用いて駆動信号S
Aと駆動信号S
Bを生成し、スイッチング回路1031に出力する。
【0063】
アーク検出部1073は、電流検出回路1033から出力される溶接電流i
wの検出信号を用いて、アークの有無を検出する。アーク検出部1073は、電流検出回路1033から出力される溶接電流i
wの絶対値|i
w|を所定の閾値I
arcと比較する。そして、アーク検出部1071は、溶接電流i
wの絶対値|i
w|が閾値I
arc以上の場合は、「アーク有り」を示すアーク検出信号を出力し、溶接電流i
wの絶対値|i
w|が閾値I
arcよりも小さい場合は、「アーク無し」を示すアーク検出信号を出力する。
【0064】
アークの有無を示すアーク検出信号としてフラグ信号を用いてもよい。この場合は、「1」が「アーク有り」を示し、「0」が「アーク無し」を示すとすると、アーク検出部1071は、溶接電流i
wの絶対値|i
w|が閾値I
arc以上であれば、「1」のフラグ信号を出力し、溶接電流i
wの絶対値|i
w|が閾値I
arcよりも小さければ、「0」のフラグ信号を出力する。
【0065】
高周波制御部1074は、作業者によりトーチスイッチからアーク発生の操作信号が入力されると、高周波発生を指令する高周波制御信号S
fを高周波発生部105に出力し、アーク検出部1073よりアーク発生が検出されると、高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを高周波発生部105に出力して当該高周波発生部105の高周波高発生動作を停止する。
【0066】
作業者が入力部から溶接電源1の電源をONにする操作信号を入力すると、制御部107は起動し、溶接電源1から溶接トーチ2の先端と母材Bへの溶接電力の供給制御を開始する。溶接電力の供給制御においては、制御部107は、第1駆動信号生成部1071により駆動信号S,/Sを生成し、この駆動信号S,/Sを直流−交流−直流変換部102のインバータ回路1021に入力して当該インバータ回路1021の直流−交流変換動作を制御する。
【0067】
また、制御部107は、第2駆動信号生成部1072により駆動信号S
A,S
Bを生成し、この駆動信号S
A,S
Bを直流−交流変換部103のスイッチング回路1031に入力して当該スイッチング回路1031の直流−交流変換動作を制御する。
【0068】
制御部107は、作業者によりトーチスイッチからアーク発生の操作信号が入力されると、高周波発生部105に高周波発生を指令する高周波制御信号S
fを出力して当該高周波発生部105に高周波高電圧v
fを発生させる。制御部107は、高周波制御信号S
fを高周波発生部105に出力した後、アーク検出部1073でアークの発生の有無を監視し、アークの発生を検出すると、高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力して当該高周波発生部105に高周波高電圧v
fの発生を停止させる。
【0069】
高周波発生部105が高周波電圧v
fを発生すると、その高周波電圧v
fがインバータトランス1022から出力される電圧v
nに重畳され、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に数k[V]の高周波電圧が印加される。この高周波高電圧の印加によって溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生すると、電流検出回路1033から入力される電流の検出値(瞬時値)が閾値I
arc以上定のレベルに上昇するので、アーク検出部1073は、電流検出回路1033の検出値の変化によってアークの発生を検出する。
【0070】
アーク検出部1073がアーク発生を検出すると、高周波制御部1074は、高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを高周波発生部105に出力する。
【0071】
アークの発生後、高周波制御部1074が高周波発生部105に高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力して高周波電圧v
fの発生を停止させると、溶接電源1は、アーク溶接モードに移行する。アーク溶接モードは、アーク溶接をすることができるモードである。
【0072】
作業者が溶接トーチ2を操作して溶接を行うタイプの場合、アーク溶接モードに移行すると、作業者は、溶接トーチ2を母材Bの溶接位置(溶接ライン)に沿って移動させて溶接作業を行う。そして、溶接作業が終了し、作業者がトーチスイッチを操作してアーク停止の操作信号を制御部107に入力すると、第1駆動信号生成部1071と第2駆動信号生成部1072は、インバータ回路1021への駆動信号S,/Sとスイッチング回路1031への駆動信号SW
A,SW
Bの出力を停止して溶接トーチ2と母材Bへの溶接電力の供給を停止させる。
【0073】
なお、溶接ロボットが溶接トーチ2を操作して溶接を行うタイプの場合、溶接ロボットのアームが予め教示された溶接ラインに沿って溶接トーチ2を移動させて溶接作業を行う。そして、溶接作業が終了すると、第1駆動信号生成部1071と第2駆動信号生成部1072は、溶接終了信号に基づきインバータ回路1021への駆動信号S,/Sとスイッチング回路1031への駆動信号SW
A,SW
Bの出力を停止して溶接トーチ2と母材Bへの溶接電力の供給を停止する。
【0074】
C・C切離し制御部1075は、アーク溶接モードに移行すると、C・C切離し回路106によるカップリングコイル105の切り離しを制御する。C・C切離し回路106によるカップリングコイル105の切り離し制御は、本発明の特徴的な構成であるので、以下、その制御について説明する。
【0075】
まず、C・C切離し回路106によるカップリングコイル105の切り離し制御の概要について説明する。
【0076】
図8は、カップリングコイル105の一次巻線1062に流れる電流Iと当該一次巻線1062のインダクタンスLと関係を示す特性を示す図である。
【0077】
図8に示すように、過飽和リアクトルを用いたカップリングコイル105は、電流Iが増加するとインダクタンスLが急減し、電流Iが減少するとインダクタンスLが急増する特性を有する。この特性は、カップリングコイル105の一次巻線1052に交流の溶接電流i
wを流した場合、その溶接電流i
wがゼロレベルをクロスする所定の期間で一次巻線1052のインピーダンスZ
Lが急増する特性である。
【0078】
このため、溶接電流i
wがゼロレベルをクロスする付近では、
図9に示すように、インピーダンスZ
Lの急増に応じて溶接電流i
wが緩やかに減少ながらゼロレベルをクロスするようになる(楕円で示す期間t
kの電流i
wの波形参照)。
図9の点線で示す波形は、カップリングコイル105がない場合の波形であるが、カップリングコイル105がある場合は、溶接電流i
wの絶対値|i
w|が所定の閾値I
TH以下となる期間t
k(時刻T
cから時刻T
dまでの期間)が、カップリングコイル105がない場合の期間t
k0よりも長くなる。期間t
kが長くなると、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に発生しているアークが切れ易くなる。
【0079】
例えば、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間を流れる溶接電流i
Wの周波数f
Wを50[Hz]すると、溶接電流i
Wは、1秒間に100回の割合でゼロレベルのクロスを行うので、アーク切れの発生し易い状況が頻繁に繰り返され、アーク溶接中もカップリングコイル105を接続していると、アーク切れが発生する可能性が高くなる。
【0080】
アーク切れが発生する可能性が高くなる期間t
kの閾値をt
THとすると、t
k0<t
TH<t
kである(
図9参照)。本実施の形態に係るカップリングコイル105の切離し制御は、溶接電流i
wがゼロクロスを行う際の溶接電流i
Wの絶対値|i
w|が閾値I
TH以下となる期間t
kが閾値t
TH以下となるようにして、アーク溶接モードにおけるアーク切れを防止するものである。
【0081】
カップリングコイル105は、アーク溶接開始時にアーク発生用の高周波電圧v
fをインバータトランス1022から出力される電圧v
n(アーク溶接用の溶接電圧v
wに相当)に重畳するために必要な回路で、アーク溶接モードにおいてはアークが発生していれば必要とされる回路ではない。
【0082】
従って、アーク溶接モードにおいて溶接電流i
wがゼロクロスを行う際の期間t
kを閾値t
TH以下とするためには、少なくとも溶接電流i
wが周期的に生じる時刻T
c(以下、「タイミングT
c」という。)から時刻T
d(以下、「タイミングT
d」という。)までの期間t
kにカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す制御をすればよいことになる。
【0083】
上記の条件を満たす具体的なカップリングコイル105の切離し制御の方法として、本願では、3種類の方法を提案する。
【0084】
第1の制御方法は、アークが発生してアーク溶接モードに移行すると、カップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離し、アーク溶接作業が終了してアーク溶接モードを抜けると、カップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入する方法である。
【0085】
この制御方法では、アーク溶接の開始から終了までの期間でカップリングコイル105が電流経路R
A,R
Bから切り離されるので、アーク溶接中はカップリングコイル105のインダクタンスLが電流経路R
A,R
Bに存在しない。従って、アーク溶接モードにおいて、周期τ
i/2(=1/(2f
i))で繰り返される溶接電流i
wのゼロクロスの全てについて、溶接電流i
wのレベル反転時の波形を
図9の点線で示した波形(溶接電流i
Wの絶対値|i
w|が閾値I
TH以下となる期間がt
k0となる波形)にすることができる。
【0086】
第2の制御方法は、アーク溶接モードにおける溶接電流i
wは、
図9に示すように、矩形波状の交流電流となるので、溶接電流i
wがレベルの反転を開始する時刻T
a(以下、「タイミングT
a」という。)からその反転が終了する時刻T
a’(以下、「タイミングT
a’」という。)までの期間Δτだけカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す方法である。
【0087】
第3の制御方法は、溶接電流i
wがレベルを反転する期間Δτにおいて、ゼロクロス直前の溶接電流i
wの変化率が急減するタイミングT
cからゼロクロス直後に溶接電流i
wの変化率が元に戻るタイミングT
dまでの期間t
kだけカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す方法である。
【0088】
第2の制御方法と第3の制御方法は、溶接電流i
wがレベルを反転する毎に当該反転期間Δτや当該反転期間Δτ内のカップリングコイル105のインダクタンスLの急増に基づく溶接電流i
wの変化率が急減する期間t
kでは、カップリングコイル105が電流経路R
A,R
Bから切り離されるので、第2,第3の制御方法のおいても、アーク溶接モードにおいて、周期τ
i/2(=1/(2f
i))で繰り返される溶接電流i
wのゼロクロスについて、溶接電流i
wのレベル反転時の波形を
図9の点線で示した波形(溶接電流i
Wの絶対値|i
w|が閾値I
TH以下となる期間がt
k0となる波形)にすることができる。
【0089】
第1の制御方法によるカップリングコイル105の切離し制御(第1実施例)は、C・C切離し回路106のスイッチ操作が溶接開始前のアーク発生時と溶接終了後のアーク消滅時だけであるので、第2の制御方法によるカップリングコイル105の切離し制御(第2実施例)や第3の制御方法によるカップリングコイル105の切離し制御(第3実施例)に対して、C・C切離し回路106の制御が簡単になる。
【0090】
次に、C・C切離し制御部1075がカップリングコイル105を切り離す制御方法について、説明する。
【0091】
まず、第1実施例に係るカップリングコイルの切離し制御について、説明する。
【0092】
図1に示すC・C切離し制御部1075内のブロック構成は、第1実施例に係るカップリングコイルの切離し制御に対応したものである。
【0093】
C・C切離し制御部1075は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、C・C切離し回路106に切離し制御信号S
ccを出力する。C・C切離し制御部1075は、アーク検出部1073からアーク有りのアーク検出信号が出力されると、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる切離し制御信号S
ccを出力し、アーク検出部1073からアーク無しのアーク検出信号が出力されると、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
ccを出力する。
【0094】
アーク検出部1073からアーク無しのアーク検出信号が出力されるケースとしては、作業者がトーチスイッチからアーク発生の操作信号を入力する前の状態にある場合や、アーク溶接モードに移行した後にアーク切れが発生した状態の場合や、アーク溶接終了後に作業者が溶接トーチ2を母材Bから離してアーク切りの操作をした場合などがある。
【0095】
次に、制御部107による第1実施例に係るカップリングコイルの切離し制御の処理手順について、
図10に示すフローチャートと
図11に示す波形図を用いて説明する。
【0096】
なお、以下の処理手順の説明では、制御部107の第1駆動信号生成部1071と第2駆動信号生成部1072がインバータ回路1021とスイッチング回路1032にそれぞれ駆動信号S,/Sと駆動信号S
A,S
Bを出力して溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアーク溶接用の所定の交流電圧v
wを印加しているものとする。
【0097】
制御部107は、作業者からアーク発生の操作信号(
図11の発弧指令信号参照)が入力されたか否かを判別する(S100)。制御部107は、アーク発生の操作信号が入力されなければ(S100:N)、待機し、アーク発生の操作信号が入力されると(S100:Y)、高周波発生部104に高周波発生を指令する高周波制御信号S
f(
図11のS
fのハイレベルの状態を参照)を出力する(S101)。高周波発生部104は、制御部107から高周波制御信号S
fが入力されると、高周波電圧v
fを発生する。その高周波電圧v
fは、カップリングコイル105の二次巻線1052に印加され、カップリングコイル105の一次巻線1051に印加されている電圧v
nに重畳される。
【0098】
カップリングコイル105の一次巻線1052の電圧v
nに高周波電圧v
fが重畳されると、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に印加されている交流電圧v
wが数k[V]〜十数k[V]の高周波高電圧となり、これにより溶接トーチ2の先端と母材Bの間の絶縁が破壊され、アークが発生するようになる。
【0099】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生したか否かを判別する(S102)。
【0100】
制御部107は、アークの発生を検出すると(S102:Y。
図11の時刻T
1参照)、高周波発生部104に高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力すると同時に(S103)、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図11のハイレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す(S104)。例えば、C・C切離し回路106がIGBTの場合、制御部107は、ハイレベルの切離し制御信号S
ccを出力する。
【0101】
高周波発生部104は、制御部107から高周波停止を指定する高周波制御信号S
fが入力されると、高周波電圧v
fの発生を停止する。C・C切離し回路106は、制御部107からハイレベルの切離し制御信号S
ccが入力されると、オン動作をしてカップリングコイル105の両端を短絡する。
【0102】
高周波電圧v
fの発生が停止すると、溶接電源1はアーク溶接モードに移行する。アーク溶接モードに移行すると、カップリングコイル105の両端が短絡されるので、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にはv
dの溶接電圧v
dnが印加され、
図9の点線で示す矩形波状の溶接電流i
wが流れる。
【0103】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、アークが消滅したか否かを判別する(S105)。制御部107は、アークが消滅したと判別すると(S105:Y。
図11の時刻T
2参照)、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図11のローレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入し(S106)、カップリングコイル105の切離し制御の処理を終了する。
【0104】
第1実施例に係るカップリングコイル105の切離し制御によれば、
図11に示すように、アーク溶接モードの期間は切離し制御信号S
ccがハイレベルとなり、カップリングコイル105が電流経路R
A,R
Bから切り離されるので、溶接電流i
wのゼロクロス付近での溶接電流i
wの変化が緩慢になることがなく、アーク切れの発生を防止することができる。
【0105】
次に、第2実施例に係るカップリングコイルの切離し制御について、説明する。
【0106】
図12は、第2実施例に係るカップリングコイルの切離し制御を行うためのC・C切離し制御部1075内のブロック構成を示す図である。
【0107】
第2実施例に係るC・C切離し制御部1075は、カップリングコイル105の切り離し制御のための機能ブロックとして、溶接電流i
wの流れる方向が反転している期間を検出するレベル反転期間検出部1075Aと、レベル反転期間検出部1075Aから出力されるレベル反転期間検出信号に基づいて、C・C切離し回路106への切離し制御信号を生成する切離し制御信号生成部1075Bを備える。
【0108】
レベル反転期間検出部1075Aは、電流検出回路1033から出力される電流i
w(瞬時値)の変化率(di
w/dt。微分値)の絶対値|di
w/dt|を算出する。更に、反転タイミング検出部1073は、算出した絶対値|di
w/dt|を所定の閾値I
Rと比較し、I
R<|di
w/dt|であれば、溶接電流i
wのレベルが反転している期間であることを示し、|di
w/dt|=0であれば、溶接電流i
wのレベルが変化していない期間であることを示すレベル反転期間検出信号を出力する。
【0109】
図9に示されるように、溶接電流i
wがピーク値+I
P若しくはピーク値−I
Pにある期間では、|di
w/dt|=0になるから、|di
w/dt|<I
Rであり、レベル反転期間検出部1075Aからは溶接電流i
wのレベルが変化していないことを示すレベル反転期間検出信号が出力される。
【0110】
一方、溶接電流i
wがピーク値+I
Pからピーク値−I
Pに反転する期間(T
a−T
a’の期間)と溶接電流i
wがピーク値−I
Pからピーク値+I
Pに反転する期間(T
b−T
b’の期間)では、I
R<|di
w/dt|となるから、レベル反転期間検出部1075Aからは溶接電流i
wのレベルが反転していることを示すレベル反転期間検出信号が出力される。
【0111】
レベル反転期間検出信号には、例えば、ローレベルを溶接電流i
wのレベルが変化していない状態(|di
w/dt|=0の状態)に割り当て、ハイレベルを溶接電流i
wのレベルが反転している状態(|di
w/dt|=0でない状態)に割り当てた2値信号若しくはその逆の論理の2値信号を用いることができる。
【0112】
切離し制御信号生成部1075Bは、レベル反転期間検出部1075Aから出力される反転期間検出信号に基づいて、C・C切離し回路106に制御信号S
ccを出力する。切離し制御信号生成部1075Bは、例えば、レベル反転期間検出部10775Aから検出される反転期間検出信号がハイレベルであれば、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる制御信号S
ccを出力し、反転期間検出信号がローレベルであれば、C・C切離し回路106にON動作(開放動作)をさせる制御信号S
ccを出力する。
【0113】
次に、制御部107による第2実施例に係るカップリングコイルの切離し制御の処理手順について、
図13に示すフローチャートと
図14の波形図を用いて説明する。
【0114】
なお、
図14(a)は、
図11の「アークの点弧と消弧」、「高周波制御信号S
f」、「アーク検出信号」及び「切離し制御信号S
cc」に対応する波形図である。また、
図14(b)は、
図11の「カップリングコイルの有無」に対応する図であるが、作図の関係で、溶接電流i
wがゼロクロスする部分を拡大した図で示している。
【0115】
以下の処理手順の説明でも、制御部107の第1駆動信号生成部1071と第2駆動信号生成部1072がインバータ回路1021とスイッチング回路1032にそれぞれ制御信号S,/Sと制御信号S
A,S
Bを出力して溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアーク溶接用の所定の交流電圧v
wを印加しているものとする。
【0116】
制御部107は、作業者からアーク発生の操作信号が入力されたか否かを判別する(S200)。制御部107は、アーク発生の操作信号が入力されなければ(S200:N)、待機し、アーク発生の操作信号が入力されると(S200:Y)、高周波発生部104に高周波発生を指令する高周波制御信号S
f(
図14のS
fのハイレベルの状態を参照)を出力する(S201)。高周波発生部104は、制御部107から高周波制御信号S
fが入力されると、高周波電圧v
fを発生する。その高周波電圧v
fは、カップリングコイル105の二次巻線1052に印加され、カップリングコイル105の一次巻線1051に印加されている電圧v
nに重畳される。
【0117】
カップリングコイル105の一次巻線1052の電圧v
nに高周波電圧v
fが重畳されると、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に印加されている交流電圧が数k[V]〜十数k[V]の高周波高電圧となり、これにより溶接トーチ2の先端と母材Bの間の絶縁が破壊され、アークが発生するようになる。
【0118】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生したか否かを判別する(S202)。
【0119】
制御部107は、アークの発生を検出すると(S202:Y。
図14の時刻T
1参照)、高周波発生部104に高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力して(S203)、高周波電圧v
fの発生を停止させる。
【0120】
続いて、制御部107は、電流検出回路1033で検出される溶接電流i
wの微分値の絶対値|di
w/dt|を算出し、その絶対値|di
w/dt|を所定の閾値I
Rと比較して溶接電流i
wのレベルが反転するタイミングT
a若しくはT
b(
図9参照)になっているか否かを判定する(S204)。
【0121】
制御部107は、溶接電流i
wのレベルが反転するタイミングT
a若しくはT
bになっていなければ(S204:N)、ステップS207に移行し、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図14(b)のローレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入する。
【0122】
一方、制御部107は、溶接電流i
wのレベルが反転するタイミングT
a若しくはT
bになっていれば(S204:Y)、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図14(b)のハイレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す(S205)。続いて、制御部107は、溶接電流i
wのレベル反転が終了するタイミングになっているか否かを判定する(S206)。この判定は、溶接電流i
wの微分値の絶対値|di
w/dt|がゼロになっているか否かによって行われる。
【0123】
制御部107は、溶接電流i
wのレベル反転が終了していなければ(S206:N)、ステップS205に戻り、C・C切離し回路106への切離し制御信号S
ccを継続し、溶接電流i
wのレベル反転が終了すると(S206:Y)、ステップS207に移行し、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
ccを出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入する。
【0124】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、アークが消滅したか否かを判別する(S208)。制御部107は、アークが消滅したと判別すると(S208:Y。
図14の時刻T
2参照)、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる制御信号S
ccを出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入して(S209)、カップリングコイル105の切離し制御の処理を終了する。
【0125】
第2実施例に係るカップリングコイル105の切離し制御によれば、
図14に示すように、溶接電流i
wのレベルが反転する各期間に切離し制御信号S
ccがハイレベルとなり、カップリングコイル105が電流経路R
A,R
Bから切り離されるので、第2実施例でも溶接電流i
wのゼロクロス付近での溶接電流i
wの変化が緩慢になることがなく、アーク切れの発生を防止することができる。
【0126】
次に、第3実施例に係るカップリングコイルの切離し制御について、説明する。
【0127】
図15は、第3実施例に係るカップリングコイルの切離し制御を行うためのC・C切離し制御部1075内のブロック構成を示す図である。
【0128】
第3実施例に係るC・C切離し制御部1075は、第2実施例に係るC・C切離し制御部1075に対して、第2実施例が溶接電流i
wの変化率を用いて溶接電流i
wがレベル反転を開始するタイミングT
aを検出するのに対し第3実施例が溶接電流i
wの変化率を用いて溶接電流i
wの変化率が急減するタイミングT
cを検出する点が異なる。
【0129】
また、第2実施例では、溶接電流i
wの変化率を用いて溶接電流i
wがレベル反転を終了するタイミングT
a’を検出するが、第3実施例では、タイミングT
cを検出してから期間t
kの時間に相当する時間t
k’を計時することにより、溶接電流i
wの変化率が急増するタイミングT
d’を検出する点が異なる。タイミングT
d’はタイミングT
dに相当するタイミングである。
【0130】
タイミングt
cでカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離すと、溶接電流i
wが急峻にゼロクロスをするようになるので、溶接電流i
wの変化率di
w/dtからタイミングT
dを直接検出することはできない。このため、第3実施例では、タイミングT
cからタイミングT
dまでの時間に相当する時間τ
kを予め求めて置き、タイミングT
cを検出すると、カップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離すとともに、時間を計時し、計時時間がτ
kになったタイミングT
d’でカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入するようにしている。
【0131】
すなわち、第3実施例に係るカップリングコイル105の切離し制御は、カップリングコイル105のインダクタンスLの急増による悪影響が出始めるタイミングT
cからその悪影響が解消し始めるタイミングT
dまでの期間t
kに相当する期間t
k’にだけカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す制御である。
【0132】
従って、第3実施例に係るC・C切離し制御部1075内のブロック構成は、第2実施例に係るC・C切離し制御部1075内のブロック構成に対して、レベル反転期間検出部1075Aを電流変化率急変タイミング検出部1075A’に変更したものである。
【0133】
電流変化率急変タイミング検出部1075A’は、電流検出回路1033から出力される電流i
w(瞬時値)の変化率の絶対値|di
w/dt|を算出し、その絶対値|di
w/dt|を所定の閾値I
k(<I
R)と比較し、|di
w/dt|≦I
kであれば、溶接電流i
wの変化率が急変するタイミングT
c若しくはT
c’を検出したことを示す電流変化率急変タイミング検出信号を出力する。
【0134】
なお、タイミングT
cは、溶接電流i
wが正から負にゼロクロスするときに当該溶接電流i
wの変化率(di
w/dt)が急変するタイミングであり(
図9参照)、タイミングT
c’は、溶接電流i
wが負から正にゼロクロスするときに当該溶接電流i
wの変化率(di
w/dt)が急変するタイミングである。
【0135】
また、電流変化率急変タイミング検出部1075A’は、タイミングT
cを検出すると、計時を開始し、予め設定されている時間τ
kを計時すると、タイミングT
c’を検出したことを示す電流変化率急変タイミング検出信号を出力する。
【0136】
電流変化率急変タイミング検出信号には、レベル反転期間検出信号と同様に、例えば、ローレベルを溶接電流i
wの変化率の絶対値|di
w/dt|がI
k<|di
w/dt|若しくは|di
w/dt|=0の状態に割り当て、ハイレベルを溶接電流i
wの変化率の絶対値|di
w/dt|が0<|di
w/dt|≦I
kの状態に割り当てた2値信号若しくはその逆の論理の2値信号を用いることができる。
【0137】
切離し制御信号生成部1075Bは、電流変化率急変タイミング検出部1075A’から出力される電流変化率急変タイミング検出信号に基づいて、C・C切離し回路106に制御信号S
ccを出力する。切離し制御信号生成部1075Bは、例えば、電流変化率急変タイミング検出部1075A’から検出される電流変化率急変タイミング検出信号がハイレベルであれば、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる制御信号S
ccを出力し、電流変化率急変タイミング検出信号がローレベルであれば、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる制御信号S
ccを出力する。
【0138】
次に、制御部107による第3実施例に係るカップリングコイルの切離し制御の処理手順について、
図16に示すフローチャートと
図17の波形図を用いて説明する。
【0139】
なお、
図17(a)は、
図11の「アークの点弧と消弧」、「高周波制御信号S
f」、「アーク検出信号」及び「切離し制御信号S
cc」に対応する波形図である。また、
図17(b)は、
図11の「カップリングコイルの有無」に対応する図であるが、作図の関係で、溶接電流i
wがゼロクロスする部分を拡大した図で示している。
【0140】
以下の処理手順の説明でも、制御部107の第1駆動信号生成部1071と第2駆動信号生成部1072がインバータ回路1021とスイッチング回路1032にそれぞれ制御信号S,/Sと制御信号S
A,S
Bを出力して溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアーク溶接用の所定の交流電圧v
wを印加しているものとする。
【0141】
制御部107は、作業者からアーク発生の操作信号が入力されたか否かを判別する(S300)。制御部107は、アーク発生の操作信号が入力されなければ(S300:N)、待機し、アーク発生の操作信号が入力されると(S300:Y)、高周波発生部104に高周波発生を指令する高周波制御信号S
f(
図17のS
fのハイレベルの状態を参照)を出力する(S301)。高周波発生部104は、制御部107から高周波制御信号S
fが入力されると、高周波電圧v
fを発生する。その高周波電圧v
fは、カップリングコイル105の二次巻線1052に印加され、カップリングコイル105の一次巻線1051に印加されている電圧v
nに重畳される。
【0142】
カップリングコイル105の一次巻線1052の電圧v
nに高周波電圧v
fが重畳されると、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間に印加されている交流電圧が数k[V]〜十数k[V]の高周波高電圧となり、これにより溶接トーチ2の先端と母材Bの間の絶縁が破壊され、アークが発生するようになる。
【0143】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、溶接トーチ2の先端と母材Bとの間にアークが発生したか否かを判別する(S302)。
【0144】
制御部107は、アークの発生を検出すると(S302:Y。
図17の時刻T
1参照)、高周波発生部104に高周波停止を指令する高周波制御信号S
fを出力して(S303)、高周波電圧v
fの発生を停止させる。
【0145】
続いて、制御部107は、電流検出回路1033で検出される溶接電流i
wの微分値の絶対値|di
w/dt|を算出し、その絶対値|di
w/dt|を所定の閾値I
kと比較して溶接電流i
wの変化率が急変するタイミングT
c(
図9参照)若しくはT
c’になっているか否かを判定する(S304)。
【0146】
制御部107は、溶接電流i
wの変化率が急変する反転するタイミングT
c若しくはT
c’になっていなければ(S304:N)、ステップS308に移行し、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図17(b)のローレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入する。
【0147】
一方、制御部107は、溶接電流i
wの変化率が急変する反転するタイミングT
c若しくはT
c’になっていなければ(S304:Y)、計時を開始した後(S305)、C・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる切離し制御信号S
cc(
図17(b)のハイレベルの切離し制御信号S
cc参照)を出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離す(S306)。
【0148】
続いて、制御部107は、計時時間がt
k’になっているか否かを判定する(S307)。制御部107は、計時時間がt
k’になっていなければ(S307:N)、ステップS306に戻り、C・C切離し回路106への切離し制御信号S
ccを継続する。そして、計時時間がt
k’になると(S307:Y)、ステップS308に移行し、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる切離し制御信号S
ccを出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入する。
【0149】
続いて、制御部107は、アーク検出部1073から出力されるアーク検出信号に基づいて、アークが消滅したか否かを判別する(S309)。制御部107は、アークが消滅したと判別すると(S309:Y。
図17の時刻T
2参照)、C・C切離し回路106にOFF動作(開放動作)をさせる制御信号S
ccを出力してカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bに挿入して(S310)、カップリングコイル105の切離し制御の処理を終了する。
【0150】
上述した第3実施例では、アーク溶接モードにおいて、タイミングT
c若しくはT
c’で電流経路R
A,R
Bから切り離したカップリングコイル105をタイミングT
d若しくはT
d’で電流経路R
A,R
Bに挿入するようにしているが、タイミングT
c若しくはT
c’で電流経路R
A,R
Bから切り離したカップリングコイル105をタイミングT
cに続くタイミングT
a’(若しくはタイミングT
c’に続くタイミングT
b’)で電流経路R
A,R
Bに挿入するようにしてもよい。
【0151】
すなわち、溶接電流i
wのレベルが反転する期間Δτのうち、溶接電流i
wの変化率の絶対値|di
w/dt|が|di
w/dt|≦I
kに急減してから溶接電流i
wがピーク値+I
P若しくはピーク値−I
Pになるまでの期間だけカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離すようにしてもよい。
【0152】
上述した第2,第3実施例では、電流検出回路1043で検出した溶接電流i
wのデジタル演算処理によって溶接電流i
wがレベルの反転を開始するタイミングT
a,T
bを検出していたが、溶接電流i
wのアナログ信号処理によってタイミングT
a,T
bを検出するようにしてもよい。
【0153】
また、上述した第1〜第3実施例では、溶接電流i
wの検出信号を用いてタイミングT
a,T
bを求めるようにしているが、アーク溶接モードにおいては、矩形波状の溶接電流i
wと矩形波状の電圧v
dとの間には一定の位相関係が生じるので、直流−交流変換部103から出力される矩形波状の電圧v
d(
図4のv
d参照)を用いてタイミングT
a,T
bを求めるようにしてもよい。
【0154】
また、矩形波状の電圧v
dは、駆動信号S
A若しくは駆動信号S
Bの矩形波に同期しているので、駆動信号S
A若しくは駆動信号S
Bのレベルが反転するタイミングに同期させてタイミングT
a,T
bでC・C切離し回路106にON動作(短絡動作)をさせる切離し制御信号S
ccを出力させるようにしてもよい。
【0155】
以上説明したように、本実施の形態に係る溶接電源1によれば、アーク溶接モードにおいては、溶接電流i
wのレベルがゼロクロスする付近の、カップリングコイル105のインダクタンスLの特性に起因してレベル変化が急激に緩やかになる期間t
kではカップリングコイル105を電流経路R
A,R
Bから切り離すので、カップリングコイル105のインダクタンスLの特性に起因して溶接電流i
wのレベル変化が急激に緩やかになる現象をなくすことができる。
【0156】
これにより、溶接電流i
wのレベルの反転が速やかに行われるので、溶接電流i
wのレベル反転時に生じるアーク切れを防止することができる。
【0157】
本発明は、上述した作用・効果を奏するので、カップリングコイル105を用いた非接触式アークスタート方方式の交流TIGアーク溶接電源及びその交流TIGアーク溶接電源を用いたアーク溶接装置に広く適用することができる。