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特開2016-204304造影剤、造影剤腎症予防剤およびリポソーム懸濁液
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  • 特開2016204304-造影剤、造影剤腎症予防剤およびリポソーム懸濁液 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-204304(P2016-204304A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】造影剤、造影剤腎症予防剤およびリポソーム懸濁液
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/04 20060101AFI20161111BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   A61K49/04 A
   A61K9/127
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-87501(P2015-87501)
(22)【出願日】2015年4月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】山下 恵子
(72)【発明者】
【氏名】清水 克彦
(72)【発明者】
【氏名】細野 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB13
4C076BB14
4C076CC17
4C076FF16
4C085HH01
4C085HH17
4C085JJ05
4C085KB99
4C085LL07
(57)【要約】
【課題】造影剤腎症を予防するための造影剤および造影剤腎症予防剤を提供する。
【解決手段】造影剤を投与する前または投与と同時に酸素運搬体を投与することを特徴とする造影剤、および生理食塩水と酸素運搬体とを含有する造影剤腎症予防剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤を投与する前または投与と同時に酸素運搬体を投与することを特徴とする造影剤。
【請求項2】
前記酸素運搬体はヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームであることを特徴とする、請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
前記酸素運搬体は平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の造影剤。
【請求項4】
前記酸素運搬体は、前記造影剤の投与前に補液に混合して投与されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項5】
前記酸素運搬体は、前記造影剤の投与時に前記造影剤に混合し、前記造影剤の投与と同時に投与されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項6】
前記酸素運搬体は、投与後、腎臓の低酸素部位に酸素を運搬することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の造影剤。
【請求項7】
生理食塩水と酸素運搬体とを含有する造影剤腎症予防剤。
【請求項8】
前記酸素運搬体がヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームである、請求項7に記載の造影剤腎症予防剤。
【請求項9】
用事に造影剤と混合して冠動脈からカテーテルで投与できる、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液。
【請求項10】
造影剤による腎虚血に併用して投与される前記腎虚血を解消するヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液。
【請求項11】
造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備える造影剤腎症予防セット。
【請求項12】
生理食塩水と、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備える造影剤投与前に投与される造影剤腎症予防セット。
【請求項13】
造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備えるプレフィルドシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影剤腎症を予防するための、造影剤、造影剤腎症予防剤およびリポソーム懸濁液に関する。
【背景技術】
【0002】
造影剤は、血管造影、CT(computed tomography;コンピュータ断層撮影)造影等の画像診断において必要不可欠な体内診断薬であり、画像診断の際に画像にコントラストを付けたり、特定の組織を強調して撮影するために患者に投与される。例えば、狭心症、心筋梗塞等の冠動脈疾患は、冠動脈の狭窄または閉塞のため虚血に陥り、心筋に必要な酸素が不足して胸痛発作が起きる疾患であり、この冠動脈疾患の診断で行う冠動脈造影、または治療で行う冠動脈形成術においては、造影剤の使用が必要不可欠である。
【0003】
その一方で、造影剤の使用に伴い副作用が生じることが知られており、副作用には熱感、悪心、嘔吐、蕁麻疹等のアレルギー反応の他に造影剤腎症(CIN:contrast-induced nephropathy)がある。腎機能障害等の危険因子を有さない患者では造影剤腎症の発症率は5〜10%とされているが、危険因子を有する患者ではその発症率は10〜30%とされている。造影剤腎症を発症した患者は、腎機能予後および生命予後ともに不良であることが知られているため、腎機能が低下した患者では造影剤を用いた検査を控える傾向にある。例えば、急激な冠動脈狭窄によって生じる急性冠症候群で入院した患者では、造影剤投与の前に造影剤腎症のリスクを予め把握するために腎機能のチェックが必然となる。とりわけ、例えば、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)の患者では造影剤腎症の発症のリスクが高い。このため、慢性腎臓病患者では、造影剤腎症を懸念するあまり、本来ならば実施すべき冠動脈流造影等の検査が保留されることもある。
【0004】
しかしながら、必要な検査を受けられないために原疾患の治療ができない、または原疾患の予後が悪化することもある。そのため、これまでに、造影剤腎症の発症率を軽減する手法が幾つか考案されている。
【0005】
非特許文献1には、造影剤腎症のリスクが高い慢性腎臓病患者では、造影剤腎症を予防するため、生理食塩水(0.9%食塩水)などの等張性輸液製剤を造影検査の前後に経静脈的投与をすることが推奨されている。輸液により造影剤による尿細管障害を軽減する主なメカニズムは2つあり、1つは尿細管での造影剤濃度を低下させることにより直接の尿細管障害を抑制することと、2つ目は血管内血漿量が増加するためにレニン・アンジオテンシン系、バソプレシンなどが抑制され、また血管拡張作用がある一酸化窒素(NO)やプロスタグランジン産生が抑制されないため、造影剤によって起こる動脈収縮が抑制されることで、輸液により造影剤腎症を予防できると期待される。
【0006】
一方、造影剤による腎障害の発症機序として、腎血管収縮、腎虚血、活性酸素による腎障害などが想定されていることから、血管拡張作用のある薬剤や抗酸化作用のある薬剤が造影剤による腎障害を予防、軽減するのではないかと期待されるものの、非特許文献1では、N−アセチルシステイン(NAC:N-acetyl cysteine)投与、ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP:human atrial natriuretic peptide)投与、アスコルビン酸投与、スタチン投与などの薬物療法は、予防効果が確立していないとして、推奨されていない。また、造影剤は、血液透析によって血中から除去でき、1回の透析により60〜90%の造影剤が除去され得るものの、非特許文献1では、造影剤投与後の血液透析は、造影剤腎症発症リスクを軽減するエビデンスが無いとして、造影剤投与後の血液透析療法は推奨されていない。
【0007】
また、特許文献1には、少なくとも造影剤投与中にヒトに対して酸素を投与しつつ投与されるように用いられる造影剤、および造影剤がヒトに対して酸素とともに投与されることを特徴とする造影剤の投与方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−087073号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本腎臓学会、日本医学放射線学会、日本循環器学会(共同編集)、「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012」、2012年4月30日、p.50−79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1で推奨される生理食塩水などの等張性輸液製剤の投与、特許文献1に記載された造影剤の投与方法だけでは、特に、慢性腎臓病(CKD:chronic kidney disease)患者などの腎機能が低下している患者において、造影剤腎症(CIN:contrast-induced nephropathy)を十分に予防することができない。
また、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の造影剤の投与方法を用いても、腎髄質における腎血管収縮を伴う低酸素状態を解消することは困難であると考えられた。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、造影剤腎症を予防するための造影剤および造影剤腎症予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、造影剤腎症の主な原因が、造影剤そのものの尿細管上皮細胞に対する毒性、および造影剤によって分泌される血管収縮因子による腎血流低下によって起こる腎虚血であると考えられ、特に、腎髄質は酸素分圧が低いことにより酸素予備能が小さく、造影剤使用に伴う血流低下によってさらに酸素分圧が低下し、腎髄質虚血で腎機能が低下すると考えられることに鑑み、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、造影剤を投与する前または投与と同時に酸素運搬体を投与することを知得し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(18)である。
(1)造影剤を投与する前または投与と同時に酸素運搬体を投与することを特徴とする造影剤。
(2)上記酸素運搬体はヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームであることを特徴とする、(1)に記載の造影剤。
(3)上記酸素運搬体は平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の造影剤。
(4)上記酸素運搬体は、上記造影剤の投与前に補液に混合して投与されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の造影剤。
(5)上記酸素運搬体は、上記造影剤の投与時に上記造影剤に混合し、上記造影剤の投与と同時に投与されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の造影剤。
(6)上記酸素運搬体は、投与後、腎臓の低酸素部位に酸素を運搬することを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の造影剤。
(7)生理食塩水と酸素運搬体とを含有することを特徴とする造影剤腎症予防剤。
(8)上記酸素運搬体がヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームであることを特徴とする、(7)に記載の造影剤腎症予防剤。
(9)用事に造影剤と混合して冠動脈からカテーテルで投与できることを特徴とする、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液。
(10)造影剤による腎虚血に併用して投与される上記腎虚血を解消することを特徴とする、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液。
(11)造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備えることを特徴とする造影剤腎症予防セット。
(12)生理食塩水と、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備え、造影剤投与前に投与されることを特徴とする造影剤腎症予防セット。
(13)造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備えることを特徴とするプレフィルドシリンジ。
(14)患者に造影剤を投与する造影剤投与工程と、上記患者に酸素運搬体を投与する酸素運搬体投与工程とを備え、
上記造影剤投与工程の前に、または上記造影剤投与工程と同時に、上記酸素運搬体投与工程を実施することを特徴とする造影剤腎症の予防方法。
(15)上記造影剤投与工程の前に上記酸素運搬体投与工程を実施し、上記酸素運搬体投与工程において、上記酸素運搬体は補液に混合して上記患者に投与されることを特徴とする、(14)に記載の造影剤腎症の予防方法。
(16)上記造影剤投与工程とともに上記酸素運搬体投与工程を実施し、上記酸素運搬体は上記造影剤に混合して上記患者に投与されることを特徴とする、(14)に記載の造影剤腎症の予防方法。
(17)上記酸素運搬体はヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームであることを特徴とする、(14)〜(16)のいずれか1項に記載の造影剤腎症の予防方法。
(18)上記酸素運搬体は平均粒子径が1μm以下であることを特徴とする、(14)〜(17)のいずれか1項に記載の造影剤腎症の予防方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、造影剤腎症を予防するための造影剤および造影剤腎症予防剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、ヒト天然血液の酸素解離曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、造影剤腎症(CIN:contrast-induced nephropathy)とは、他には原因がないのに造影剤の血管投与後3日以内に起こる腎機能障害であり、血清クレアチニン(sCr:serum creatinine)値が、造影剤投与前に対し、25%以上または0.5mg/dL以上増加した場合をいう(欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR:European Society of Urogenital Radiology)の定義による)。
【0017】
造影剤腎症の発症機序については不明な点が多いものの、腎臓の微少血管の収縮や造影剤のレオロジー特性が原因となって尿細管上皮細胞の低酸素状態が起きる機序と、腎血流の低下による腎髄質が虚血となる機序と、が主たる機序の一つであると考えられている。
本発明においては、酸素運搬体が低酸素分圧部位で酸素を速やかに放出するため、尿細管上皮細胞における低酸素状態が解消される。また、腎血流の低下の機序としては、エンドセリン等の血管作動性物質の合成・分泌の不均衡による腎虚血と、虚血後の再潅流によって生じるフリーラジカルによる血管内皮障害等が関与すると考えられている。そして腎皮質より腎髄質へいくに従って酸素分圧が低くなるところ、酸素分圧が低い腎髄質は各種イオン輸送のために酸素需要が高いので障害を受けやすい。本発明においては、酸素運搬体が低酸素分圧部位で酸素を速やかに放出するため、腎髄質の酸素需要が充足される。
造影剤による腎虚血はすべての患者で造影剤が腎臓に到達すると同時に起こっていると考えられるが、腎機能が正常な患者では低酸素状態から速やかに回復することができるので造影剤腎症を発症し難いのに対し、腎機能が低下した患者では低酸素状態から回復することが難しく、低酸素状態が持続して腎臓組織が障害されるため、さらに腎機能が低下して、造影剤腎症を発症すると考えられる。本発明の造影剤は、低酸素状態を速やかに解消できるので、造影剤腎症の発症を防止できると考えられる。
【0018】
造影剤による腎虚血はすべての患者で起こっている可能性が高く、酸素運搬体を投与することによる不利益よりも、酸素運搬体を投与して造影剤腎症を予防することにより期待される利益の方が大きい。脳梗塞でも虚血による低酸素分圧領域は生じ得るが、脳梗塞を予防するためには、酸素運搬体の投与よりも、血管の閉塞を防止することがより重要である。また、癌でも虚血による低酸素分圧領域は生じ得るが、そうして生じた低酸素領域に酸素を供給するよりも、原因となっている癌細胞を化学療法、放射線療法、外科的療法などによって除去することがより有利な結果を招くと考えられる。したがって、酸素運搬体の投与は、造影剤を投与することにより必発の腎虚血による造影剤腎症を予防するために、特に有利と考えられる。
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は以下の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0020】
[造影剤]
本発明の造影剤は、造影剤を投与する前またはその投与と同時に酸素運搬体を投与することに特徴がある。換言すれば、本発明の造影剤は、酸素運搬体を投与した後またはその投与と同時に投与される造影剤である。また、造影剤の投与方法としては、当該造影剤を投与する前または投与するのと同時に酸素運搬体を投与することを特徴とする。本発明者らは、造影剤を投与する前または投与と同時に酸素運搬体を投与すると、造影剤とともに酸素運搬体が体内を循環し、低酸素分圧部位で酸素を放出することにより低酸素状態に陥ることを防止、または低酸素状態に一時的に陥っても速やかに解消することで、造影剤腎症を予防するものと考え、本発明を完成させた。
【0021】
〈造影剤の種類〉
酸素運搬体を投与した後または酸素運搬体の投与と同時に投与する造影剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ヨード造影剤またはMRI(magnetic resonance imaging:核磁気共鳴画像法)造影剤である。
ヨード造影剤には、非イオン性ヨード造影剤とイオン性ヨード造影剤とが含まれる。非イオン性ヨード造影剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは、イオプロミド、イオメプロール、イオパミドール、イオキシラン、イオジキサノール、イオキサグル酸、イオヘキソール、イオペントール、イオトロラン等が例示される。また、イオン性ヨード造影剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、イオタラム酸メグルミン、ジアトリゾ酸メグルミン、ジアトリゾ酸メグルミンナトリウム等が例示される。イオン性ヨード造影剤は非イオン性ヨード造影剤に比べて一般的には造影剤腎症のリスクが高いとされているため、本発明の造影剤は、酸素運搬体を投与した後に、または酸素運搬体の投与と同時に投与される造影剤として、非イオン性ヨード造影剤は勿論のこと、イオン性ヨード造影剤を用いる場合において、より利用価値が高い。
また、MRI造影剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは、ガドジアミド水和物、ガドテリドール、ガドテル酸メグルミン、ガドペンテト酸メグルミン、フェルモキシデス等が例示される。
【0022】
(造影剤の投与経路)
酸素運搬体を投与した後または酸素運搬体の投与と同時に投与する造影剤の投与経路は、例えば非経口注入であり、具体的には静脈内、動脈内投与である。造影剤は、生理食塩水等の等張輸液と混合して投与することが好ましい。
注射剤を用いての非経口注入の場合は、さらに、抗菌剤、安定化剤、緩衝剤(PBS(phosphate buffered saline;リン酸緩衝生理食塩水)溶液)、溶解補助剤、賦形剤等を単独または組み合わせて用いることができる。
【0023】
〈酸素運搬体〉
上記酸素運搬体は、非経口注入が可能で、酸素を運搬でき、低酸素分圧下で酸素を放出するものであれば特に限定されない。
【0024】
酸素運搬体の平均粒子径は、特に限定されないが、上限が、1μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、250nm以下であることがさらに好ましく、下限が、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、150nm以上であることがいっそう好ましい。特には、150〜250nmの範囲内であることが好ましい。
酸素運搬体の平均粒子径の上限を、天然赤血球(直径7〜8μm)と比較して非常に小さいサイズとすることで、血管収縮により血流が阻害されて、虚血により低酸素状態に陥った部位(酸素分圧が、通常の末梢組織の酸素分圧40mmHgよりもさらに低い)に対して、天然赤血球では通過困難な狭窄部位を通過して、より多くの酸素を供給することが可能となる。また、酸素運搬体の平均粒子径を小さくしすぎないことによって、酸素運搬体の体積あたり、または質量あたりの酸素運搬量を確保し、低酸素分圧部位に対して、より多くの酸素を供給することが可能となる。
【0025】
酸素運搬体としては、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームが好ましい。ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームは、低酸素状態の腎虚血部位で酸素を放出しやすいうえ、肝臓または脾臓で代謝されるので、腎臓に集積せず、腎臓に負担をかけないことも有利な点である。
【0026】
《ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム》
ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームを用いることで、腎虚血部位の、通常の末梢組織(酸素分圧:40mmHg)よりもさらに低酸素状態の部位に、酸素を供給し易くなる。特に、酸素分圧40mmHgと0mmHgの間の酸素運搬量を多くするために、酸素放出能を制御した、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム(本発明において「ヘモグロビン含有リポソーム」という場合がある。)が好ましい。
【0027】
造影剤による腎虚血は、腎髄質がもともと低酸素分圧であることもあって、酸素分圧約20mmHg以下、特に低い箇所は約10mmHg以下にまで低下する。これは、末梢組織の酸素分圧約40mmHg、ガン部位の酸素分圧約30mmHg未満よりも一段と低い酸素分圧である。天然の赤血球は酸素分圧が30mmHg〜40mmHg程度で約60%〜25%酸素を放出し、50mmHgでも約15%放出するため、比較的広い範囲の酸素分圧(0mmHg〜50mmHg)で酸素を放出する。したがって、特に酸素分圧が低い腎髄質への局所的な酸素運搬能としては好ましくない。一方、ヘモグロビン含有リポソームは特に40mmHg以上ではほとんど酸素を放出しないので、酸素分圧のより低い腎虚血部位まで効率良く酸素を運搬し、放出することができる。したがって、造影剤による腎虚血の改善が期待される。
【0028】
ヘモグロビン含有リポソームは、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液(本発明において「ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液」という場合がある。)の形態で用いることが好ましい。
【0029】
(ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液)
ヘモグロビン含有リポソームは、ヒト天然赤血球から赤血球膜を除去したヘモグロビンをリポソーム化することにより得られる。腎虚血による低酸素状態の部位において効率よく酸素を供給するため、ヘモグロビン含有リポソームのヘモグロビン濃度、リポソーム膜形成脂質濃度、ステアリン酸濃度、およびアロステリック因子濃度を適切に設定することが好ましい。
【0030】
・リポソーム膜形成脂質
リポソーム膜形成脂質は天然または合成の脂質が使用可能である。特にリン脂質が好適に使用され、これらを常法に従って水素添加したものがあげられる。さらに、リポソーム膜形成脂質には所望によりステロール等の膜強化剤や荷電物質として高級飽和脂肪酸が添加される。リン脂質として水素添加大豆リン脂質、膜強化剤としてコレステロール、荷電物質としてステアリン酸が好適に使用される。
【0031】
・リポソーム内水相に含有されるヘモグロビン
リポソーム内水相に含有されるヘモグロビンは、公知の方法によりヒト期限切れ濃厚赤血球製剤より白血球、血小板、血漿および赤血球膜を除去した後、溶血、精製、濃縮したヒト由来濃厚ヘモグロビンが得られる。
【0032】
・リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質濃度
リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度が高過ぎると、リポソーム懸濁液の粘度が高くなるので、血管中に投与した場合、循環器系に負担をかける事になり、また投与される総脂質量が多くなるので安全性の面で懸念がある。一方、リポソーム膜形成脂質の濃度が低過ぎると、必然的に含有される薬剤または生理活性物質の濃度も低くなるので、用途に対する効果が期待出来なくなる。したがって、リポソーム懸濁液中のリポソーム膜形成脂質の濃度は、好ましくは3.05〜5.10w/v%であり、より好ましくは3.25〜4.87w/v%である。
【0033】
・リポソーム表面修飾剤(リポソーム凝集抑制剤)
リポソーム表面への蛋白吸着抑制またはリポソーム凝集抑制の防止、リポソームの血管内投与後の血中での安定性向上等を目的として、一端に疎水性部を有し、かつ、他端に親水性高分子を有する化合物がリポソームの表面修飾に用いられる。ポリエチレングリコールとリン脂質が共有結合したポリエチレングリコール結合リン脂質は、このような化合物の好適な例の一つである。
【0034】
・リポソーム懸濁液中のステアリン酸濃度
リポソーム膜形成脂質の成分の一つとして、荷電物質であるステアリン酸を使用することが好ましい。リポソーム膜形成脂質中のステアリン酸組成比が高くなるほど(ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のステアリン酸濃度が高くなるほど)、ヘモグロビン収率が向上する傾向があるが、同時に、リポソームからのヘモグロビン漏れ出しが認められるようになる。また、リポソーム膜形成脂質中のステアリン酸組成比が低くなるほど(ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のステアリン酸濃度が低くなるほど)、ヘモグロビン収率が低下するが、それだけではなく、ステアリン酸以外のリポソーム膜構成脂質の一つであるホスファチジルコリンの組成比が高くなる。ホスファチジルコリンは高価であるので、コストアップに繋がる。したがって、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液中のステアリン酸濃度は、好ましくは0.45〜0.73w/v%であり、より好ましくは0.47〜0.71w/v%である。
【0035】
・リポソーム懸濁液中のヘモグロビン濃度
リポソーム懸濁液の酸素運搬の主役はヘモグロビンである。リポソーム懸濁液中のヘモグロビン濃度が高過ぎると、ヘモグロビンをリポソーム化するためのリポソーム形成脂質濃度が必然的に高くなり、生体に投与される総脂質濃度が高くなって安全性の面で懸念がある。また、リポソーム懸濁液中のヘモグロビン濃度が低過ぎると、酸素運搬の主役であるヘモグロビンの絶対量が不足して、酸素運搬量設定に不利となる。したがって、リポソーム懸濁液中のヘモグロビン濃度は5.6〜6.7w/v%であり、より好ましくは5.7〜6.6w/v%である。
【0036】
・リポソーム懸濁液中のヘモグロビンメト化率
ヘモグロビンは酸化されて、メトヘモグロビンとなると酸素運搬能を失うので、人工酸素運搬体としてのヘモグロビン含有リポソームにおいては、ヘモグロビンの酸化防止(ヘモグロビンメト化防止)は、重要な課題の一つである。ヘモグロビンのpHが過度に低下すると、ヘモグロビンの酸化が促進するので、製造工程では、低温条件を保つと同時に、ヘモグロビンのpH制御を行い、公知の方法(特開2006−104069)により、脱酸素化剤使用による脱酸素化および脱酸素化状態のまま製剤バッグに無菌充填した後、脱酸素化状態を維持出来るように外包装を行う。リポソーム懸濁液製造直後および有効保存期間中のヘモグロビンメト化率は10%以下である。ヘモグロビンメト化率がこれより高くなると、リポソーム懸濁液の酸素運搬効率の面で不利となる。
【0037】
・アロステリック因子濃度
アロステリック因子とは、酸素解離曲線(ヘモグロビンの酸素飽和度と酸素分圧の関係を示す曲線である。ヒト赤血球の酸素解離曲線は図1を参照されたい。)に影響を与える因子である。
ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液としては、アロステリック因子を含有しないヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液およびアロステリック因子を含有したヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液のいずれも使用することができる。
【0038】
アロステリック因子は酸素解離曲線を天然赤血球と比較して右にシフトさせ、その結果として末梢組織(酸素分圧約40mmHg)における酸素運搬効率を高くする。天然赤血球における酸素運搬効率とは、通常の血液循環における肺の酸素分圧である100mmHgと酸素供給先である末梢組織の酸素分圧40mmHgとの間のヘモグロビンの酸素飽和度の差を示す。図1が示すように、ヒト天然赤血球では肺(酸素分圧100mmHg)で酸素飽和度が約100%であり、末梢組織(酸素分圧40mmHg)で酸素飽和度が約75%なので、通常の血液循環において、肺と末梢組織との間で、酸素飽和量の約25%を組織に供給する。
【0039】
腎虚血部位では酸素不足に陥っており、酸素分圧は通常の末梢組織の酸素分圧40mmHgよりもさらに低くなっている。このような酸素分圧が40mmHgよりもさらに低い低酸素分圧部位に酸素を供給するためには、酸素分圧40mmHgと酸素分圧0mmHgとの間での酸素運搬効率が重要であり、酸素解離曲線を天然赤血球と比較して、より左にシフトさせることが有利であり、適切な範囲で左にシフトさせれば、天然赤血球と比較して、酸素分圧100mmHg〜40mmHgの間の部位では酸素を離し難く、酸素分圧40mmHg以下の部位で酸素を離し易くすることができる。
【0040】
酸素分圧40mmHgを下回る低酸素分圧部位への酸素運搬量を増加させるためには、酸素解離曲線を右にシフトさせる作用のあるアロステリック因子を添加しないか、または、その添加量を少なくすることが有利である(特開2009−234929号公報、特開2010−215517号公報)。
【0041】
アロステリック因子の添加量を少なくする場合には、腎虚血部位などの酸素分圧が40mmHgよりもさらに低い低酸素部位と、通常の末梢組織などの酸素分圧40mmHg以上の低酸素分圧部位とのいずれにおいても効率よい酸素供給を行えるように、アロステリック因子の濃度を適切に設定することが望ましい。
【0042】
アロステリック因子としては、特開昭57−26621号公報に記載のものも使用出来るが、安全性、保存安定性、価格、入手のし易さ、効果の点でフィチン酸が好ましく、フィチン酸12ナトリウムがより好ましい。また、フィチン酸12ナトリウム濃度は、好ましくは0.033〜0.045w/v%であり、より好ましくは0.035〜0.043w/v%である。
【0043】
〈酸素運搬体の投与〉
酸素運搬体の投与は、造影剤の投与前または造影剤の投与と同時に行われる。
酸素運搬体を造影剤の投与前に投与する場合は、造影剤の投与開始時に酸素運搬体の投与を終了していればよく、特に限定されないが、造影剤投与開始の15分〜20分前が好ましく、造影剤投与開始の15〜18分前がより好ましく、造影剤投与開始の15分前がいっそう好ましい。なお、造影剤投与前の酸素運搬体の投与は、連続投与のみならず、1回または2回以上の短時間休止を伴う断続的投与も含む。
【0044】
酸素運搬体は適当な補液と混合して投与することが好ましい。適当な補液としては、好ましくは、生理食塩水、0.45%食塩水、154mEq/L炭酸ナトリウム水溶液、152mEq/L炭酸水素ナトリウム水溶液等の輸液が例示される。これらの中では、生理食塩水が好ましい。
【0045】
酸素運搬体の投与を造影剤の投与前に行うことにより、酸素運搬体があらかじめ体内を循環しており、その後の造影剤投与による尿細管上皮細胞の低酸素部位において速やかに酸素を放出することができ、かつ低酸素状態を持続させず、特に腎髄質の酸素需要を充足すると考えられる。また、酸素運搬体の投与を造影剤の投与前に行うので、酸素運搬体の投与による副作用と造影剤の投与による副作用とを切り分けることが容易であり、安全性が高い。
【0046】
酸素運搬体の投与を造影剤の投与と同時に行う場合は、造影剤の投与中に酸素運搬体の投与の少なくとも一部が行われればよく、酸素運搬体投与の開始は、特に限定されないが、造影剤投与開始の15分〜20分前が好ましく、造影剤投与開始の15分〜18分前がより好ましく、造影剤投与開始の15分前がいっそう好ましく、酸素運搬体の投与の終了は、特に限定されないが、造影剤投与の終了時点とすることが好ましい。なお、造影剤投与中の酸素運搬体の投与は、連続投与のみならず、造影剤投与中において1回または2回以上の短時間休止を伴う断続的投与も含む。
【0047】
酸素運搬体は、造影剤と混合して投与してもよいし、適当な補液と混合して投与してもよい。適当な補液としては、好ましくは、生理食塩水、0.45%食塩水、154mEq/L炭酸ナトリウム水溶液、152mEq/L炭酸水素ナトリウム水溶液等の輸液が例示される。これらの中では、生理食塩水が好ましい。
【0048】
酸素運搬体の投与を造影剤の投与と同時に行うことにより、酸素運搬体が造影剤と一緒に腎臓に到達して、造影剤投与による低酸素分圧部位が生じれば速やかに酸素を放出するので、尿細管上皮細胞が低酸素状態に陥りにくく、腎髄質の酸素需要を充足すると考えられる。
【0049】
また、酸素運搬体が体内で代謝されることにより血中濃度が減少するので、酸素運搬体の血中濃度を維持または上昇させるために、造影剤投与後に酸素運搬体を投与することも好ましい。
【0050】
〈酸素運搬体の投与経路〉
酸素運搬体の投与経路は、例えば非経口注入であり、具体的には静脈内、動脈内投与である。上述のとおり、造影剤および/または適当な補液と混合して投与することが好ましい。
注射剤を用いての非経口注入の場合は、さらに、抗菌剤、安定化剤、緩衝剤(PBS溶液)、溶解補助剤、賦形剤等を単独または組み合わせて用いることができる。
【0051】
〈造影剤が投与される患者〉
本発明の造影剤が投与される患者は、待機的または緊急的に造影剤投与を伴う検査を受ける患者である。ここで、待機的に造影剤投与を伴う検査を受ける患者とは、当該検査を所定時間前に受けることが予定されており、所定時間待機してから当該検査を受ける患者である。また、緊急的に造影剤投与を伴う検査を受ける患者とは、当該検査を受けることは予定されておらず、当該検査を受けるまでに待機することなく、緊急的に当該検査を受ける患者である。
【0052】
〈造影剤投与中の輸液〉
本発明においては、少なくとも造影剤投与中に、患者に対して輸液が行われることが好ましい。輸液が行われることにより、造影剤腎障の予防効果がより高くなる可能性があるからである。輸液方法は、特に限定されるものではないが、0.1mL/kg/hr〜1000mL/kg/hrとすることが好ましく、0.5mL/kg/hr〜2.0mL/kg/hrとすることがより好ましく、1.0mL/kg/hrとすることがさらに好ましい。
【0053】
待機的検査を受ける患者の場合、例えば、造影剤投与の12時間前から輸液を1mL/kg/hrにて行い、造影剤投与が終了してから12時間後まで1mL/kg/hrにて行うことが好ましい。また、緊急的検査を受ける患者の場合、例えば、造影剤投与の10分〜50分前から輸液を1〜2mL/kg/hrにて行い、造影剤投与が終了してから12時間後まで1〜2mL/kg/hrにて行うことが好ましい。
【0054】
輸液としては、例えば、生理食塩水、0.45%食塩水、154mEq炭酸ナトリウム水溶液、152mEq/L炭酸水素ナトリウム水溶液、塩化アンモニウム注射液、塩化カリウム注射液、塩化ナトリウム注射液、デキストラン注射液、ヒドロキシエチルデンプン注射液、ブドウ糖・デキストラン剤、術後回復液、脱水補給液、酢酸リンゲル液、リンゲル液、マンニトール配合剤、N−アセチルシステイン、カリペプチドなどを挙げることができる。これらの輸液は1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。輸液としては、生理食塩水、0.45%食塩水、154mEq炭酸ナトリウム水溶液、および152mEq/L炭酸水素ナトリウム水溶液からなる群から選択される1、種類以上が好ましく、生理食塩水が特に好ましい。生理食塩水の濃度は、特に限定されるものではないが、0.8wt%〜1.0wt%が好ましく、0.9wt%が特に好ましい。
【0055】
〈併用してもよい他の薬剤〉
抗酸化剤(N−アセチルシステイン)、腎血流改善薬(エンドセリン拮抗薬、アデノシン拮抗薬、心房性利尿ペプチド、カルシウム拮抗薬、低用量ドーパミン、ドーパミンD1作動薬、プロスタグランジンE1など)は、単独では造影剤腎症の予防効果は確認されていないが、本発明の造影剤と併用することで、造影剤腎症の予防効果を増強することが期待できる。
【0056】
[造影剤腎症予防剤]
本発明は、生理食塩水と上述の酸素運搬体とを含有する造影剤腎症予防剤を提供する。酸素運搬体としては、ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームが好ましい。ヘモグロビン溶液を内水相とするリポソームは、上述のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の形態が好ましい。
【0057】
[リポソーム懸濁液]
本発明は用事に造影剤と混合して冠動脈からカテーテルで投与するヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液を提供する。このリポソーム懸濁液は、造影剤による腎虚血に併用して造影剤による腎虚血に併用して投与されるので、腎虚血による低酸素状態を解消することができる。造影剤およびヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液は、いずれも、上述したものが好ましい。
【0058】
[造影剤腎症予防セット]
本発明の造影剤腎症予防セットは、造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備える。この造影剤腎症予防セットは、造影剤投与前に投与されることが好ましい。造影剤およびヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液は、いずれも、上述したものが好ましい。
【0059】
[プレフィルド製品]
本発明は、プレフィルド製品として、例えば、造影剤とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備えるプレフィルドシリンジ、生理食塩水とヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液とを備えるプレフィルドシリンジなどを提供する。
プレフィルドシリンジは、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液のプレフィルドシリンジと、造影剤または生理食塩水のプレフィルドシリンジを単にセットにしたものでもよいが、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液と造影剤または生理食塩水との二連プレフィルドシリンジとしてもよい。
造影剤およびヘモグロビン溶液を内水相とするリポソーム懸濁液は、いずれも、上述したものが好ましい。
【0060】
[造影剤腎症の予防方法]
本発明の造影剤腎症の予防方法は、造影剤を投与された患者が造影剤腎症を発症しないようにするための方法であり、患者に造影剤を投与する造影剤投与工程と、当該患者に酸素運搬体を投与する酸素運搬体投与工程とを備え、造影剤投与工程の前に、または造影剤投与工程と同時に、酸素運搬体投与工程を実施することを特徴とする。
造影剤、酸素運搬体、これらの投与方法は、既に述べたとおりである。
【0061】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、心臓カテーテル検査を施行する患者を対象として本発明の造影剤を投与することを想定した例である。
【0063】
対象患者をCKD(chronic kidney disease;慢性腎臓病)ではない患者(「非CKD患者群」という。)とCKD患者(「CKD患者群」という。)との2群に分け、さらに、それぞれの群を、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液を投与する群(「投与群」という。)と投与しない群(非投与群)の2つに分ける。
CKDの有無および投与の有無により、患者は4群に分けられる。
【0064】
心臓カテーテル検査に用いるヨード造影剤はイオパミドールを使用する。
心臓カテーテル検査自体の承諾およびヨード造影剤使用に対する説明とインフォームド・コンセント(説明と同意)は、通常の診療と同様に行う。
さらに、投与群患者には、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液の投与に対するインフォームド・コンセントを行う。
【0065】
全患者群に、検査12時間以上前より0.9%生理食塩水の持続点滴(1mL/kg/時)を行う。この生理食塩水の点滴は心臓カテーテル検査終了から12時間後まで行う。
【0066】
ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液投与群では、心臓カテーテル手技開始前15分(造影剤投与15分以上前)より経静脈的にヘモグロビン含有リポソーム懸濁液投与を行う。一方、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液非投与群では、ヘモグロビン含有リポソーム懸濁液投与は行わずに通例検査通りに心臓カテーテル手技を行う。心臓カテーテル手技の終了時点でヘモグロビン含有リポソーム懸濁液投与を中止する。
【0067】
患者に対して造影剤腎症の発症の有無を診断する。造影剤腎症の診断は、心臓カテーテル後、12時間〜48時間で血液検査を行い、造影剤投与前値(コントロール値)より、血清クレアチニンが25%以上または0.5mg/dL以上の増加が見られる場合に造影剤腎症の発症と判断する。
【0068】
非CKD患者群およびCKD患者群のいずれでも造影剤腎症発症率の有意な低下が認められると予想できる。特に、CKD患者群では、造影剤腎症発症率の大幅な低下が認められると予想できる。したがって、CKDのような腎臓機能障害のある患者に対して、造影剤による検査をせざるを得ない場合には、少なくとも造影剤投与中のヘモグロビン含有リポソーム懸濁液投与が特に有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、造影剤腎症を十分に予防できる。造影剤腎症に罹患すると退院が遅れて入院期間が長期化し、その治療にも莫大な医療費が必要となる上、造影剤腎症はいったん発症し、慢性腎臓病へと移行するとその改善は難しい。特に、慢性腎臓病患者では造影剤腎症の発症率が高く、腎機能を低下させやすい。しかしながら、本発明によれば造影剤腎症を十分に予防できるため、患者自身の肉体的・精神的・経済的負担を軽減でき、さらに患者のQOLを大きく向上させることができ、これにより得られる社会的利益は計り知れない。
図1