特開2016-204502(P2016-204502A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2016-204502トラクショングリース組成物およびトラクションドライブ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-204502(P2016-204502A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】トラクショングリース組成物およびトラクションドライブ装置
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20161111BHJP
   C10M 105/04 20060101ALI20161111BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20161111BHJP
   C10M 113/12 20060101ALI20161111BHJP
   F16H 13/08 20060101ALI20161111BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20161111BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20161111BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20161111BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20161111BHJP
【FI】
   C10M169/02
   C10M105/04
   C10M107/02
   C10M113/12
   F16H13/08 C
   C10N20:02
   C10N30:08
   C10N40:04
   C10N50:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-86971(P2015-86971)
(22)【出願日】2015年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100149766
【弁理士】
【氏名又は名称】京村 順二
(72)【発明者】
【氏名】津田 武志
(72)【発明者】
【氏名】高原 加奈子
【テーマコード(参考)】
3J051
4H104
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB05
3J051BD02
3J051BE04
3J051ED08
3J051FA02
4H104AA22B
4H104BA07A
4H104CA01A
4H104EA02A
4H104LA04
4H104LA20
4H104PA03
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】高い耐熱性、高いトラクション係数および長寿命を実現できるトラクショングリース組成物および当該トラクショングリース組成物が封入されたトラクションドライブ装置を提供すること。
【解決手段】合成炭化水素油からなる基油と、シリカからなる増ちょう剤とを含み、前記基油の動粘度が25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、前記増ちょう剤を5質量%〜20質量%含有している、トラクショングリース組成物を提供する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成炭化水素油からなる基油と、
シリカからなる増ちょう剤とを含み、
前記基油の動粘度が25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、
前記増ちょう剤を5質量%〜20質量%含有している、トラクショングリース組成物。
【請求項2】
第1回転部、および当該第1回転部に圧接状態で配置された第2回転部を含むトラクションドライブ機構と、
前記トラクションドライブ機構に封入された請求項1に記載のトラクショングリース組成物とを含む、トラクションドライブ装置。
【請求項3】
前記トラクションドライブ機構は、
固定輪と、
前記固定輪の内側に同心状に配置された前記第1回転部としての太陽軸と、
前記太陽軸と前記固定輪との間に圧接状態で設けられた前記第2回転部としての複数の遊星ローラと、
各前記遊星ローラを回転自在に支持するキャリアとを含む、請求項2に記載のトラクションドライブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクショングリース組成物、および当該トラクショングリース組成物が使用されたトラクションドライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油として知られるグリースは、たとえば、軸受、ブレーキ、クラッチ等の摩擦部分に用いられており、従来、種々のグリース組成物が提供されている。
たとえば、特許文献1は、分子式C3458で示された動粘度が14.3mm/s(40℃)のボトリオコッカスオイル(基油)と、シリカからなる増ちょう剤とを含有するクラッチ用グリース組成物を開示している。
【0003】
特許文献2は、動粘度が5000mm/s(25℃)のシリコーン油(基油)と、増ちょう剤としてのポリイミド樹脂およびシリカとを含有するブレーキ鳴き防止用グリース組成物を開示している。
トラクションドライブ装置が、グリース組成物の用途の一つとして公知である。トラクションドライブ装置は、たとえば、太陽軸と、当該太陽軸に圧接状態で設けられた複数の遊星ローラとを含む。太陽軸を動力源に連結すると、動力源の回転が遊星ローラを介して減速され、トルクが増幅されて低速軸に伝達される。一方、低速軸を動力源に連結すると、動力源の回転が遊星ローラを介して増速されて太陽軸に伝達される。
【0004】
このような構成を有する遊星ローラ型トラクションドライブ装置は、次の(1)〜(4)に示す利点を有するため、工作機械、その他の変速装置、自動車のパワーステアリングの駆動用等に用いられている。
(1)低騒音、低振動で回転が滑らかである。
(2)歯車に比べて高速回転が可能である。
(3)バックラッシュがほとんどなく、高精度の回転を得ることができる。
(4)構造が単純であるため、安価でコンパクトである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−170230号公報
【特許文献2】特開2012−236929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トラクションドライブ装置は、常に圧接力を受けるため温度が上昇し易い。特に、自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用した場合には、周囲の環境の影響によって、その温度が100℃以上にまで上昇する場合がある。
しかしながら、現状、トラクショングリース組成物に必要とされる高いトラクション係数を発現しながら、さらに、100℃を超える環境下での使用にも耐え得る高い耐熱性を兼ね備えるグリース組成物は提供されていない。たとえば、2,4−ジシクロヘキシル−2−メチルペンタン、ジベンジルトルエン水素化物等の合成ナフテンや、アルキルベンゼン等の基油を用いて調製されたグリース組成物がある。この種のグリース組成物は、環状構造を有しているため比較的高いトラクション係数を発現できるが、耐熱性が低く、離油度および蒸発量が大きいという欠点がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い耐熱性、高いトラクション係数および長寿命を実現できるトラクショングリース組成物および当該トラクショングリース組成物が封入されたトラクションドライブ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のトラクショングリース組成物は、合成炭化水素油からなる基油と、シリカからなる増ちょう剤とを含み、前記基油の動粘度が25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、前記増ちょう剤を5質量%〜20質量%含有している(請求項1)。
本発明のトラクションドライブ装置は、第1回転部(3)、および当該第1回転部(3)に圧接状態で配置された第2回転部(4)を含むトラクションドライブ機構と、前記トラクションドライブ機構に封入された前記トラクショングリース組成物(G)とを含む(請求項2)。
【0009】
本発明のトラクションドライブ装置では、前記トラクションドライブ機構は、固定輪(2)と、前記固定輪(2)の内側に同心状に配置された前記第1回転部としての太陽軸(3)と、前記太陽軸(3)と前記固定輪(2)との間に圧接状態で設けられた前記第2回転部としての複数の遊星ローラ(4)と、各前記遊星ローラ(4)を回転自在に支持するキャリア(5)とを含んでいてもよい(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、合成炭化水素油からなる基油の動粘度が25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、シリカからなる増ちょう剤が5質量%〜20質量%含有されているため、高い耐熱性、高いトラクション係数および長寿命を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る遊星ローラ型動力伝達装置の模式的な断面図である。
図2図2は、図1の(2)−(2)切断線における断面図である。
図3図3は、実施例および比較例の離油度を示す図である。
図4図4は、比較例の離油度を示す図である。
図5図5は、実施例および比較例のトラクション係数を示す図である。
図6図6は、比較例のトラクション係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る遊星ローラ型動力伝達装置の模式的な断面図である。図2は、図1の(2)−(2)切断線における断面図である。
本発明のトラクションドライブ装置の一例としての遊星ローラ型動力伝達装置は、ハウジング1と、ハウジング1に固定された固定輪2と、固定輪2の内側に同心状に配置された本発明の第1回転部の一例としての太陽軸3と、太陽軸3と固定輪2との間に圧接状態で設けられた複数(図1では4個)の本発明の第2回転部の一例としての遊星ローラ4と、各遊星ローラ4を回転自在に支持してこれら遊星ローラ4の公転によって回転するキャリア5とを備えている。固定輪2の内側には、太陽軸3および遊星ローラ4に接するようにグリースGが充填されている。
【0013】
固定輪2は、その両側のガイド環6,6とともに、ねじ7によってハウジング1に固定されている。各遊星ローラ4は、キャリア5に突設されたローラ軸8によって回転自在に支持されている。キャリア5は、有底筒形に形成され、その筒形内部に低速側の入出力軸9が挿入して結合されている。
隣り合う遊星ローラ4,4の間には、遊星ローラ4に接触する複数(図1では4個)の含油ローラ10が配置されている。含油ローラ10は、たとえば、超高分子量ポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂と、ナフテン系鉱油やシリコンオイル等の潤滑油との混合物を、上記各樹脂の融解温度に加熱し、冷却によって固形化して得られたものを円筒形に形成したものである。含油ローラ10の内部の小孔には、上記潤滑油が含浸されている。また、含油ローラ10は、樹脂粉末と潤滑剤粉末とを加圧成形することによって作製されていてもよい。含油ローラ10の支持体11に対する支持状態は、回転自在が望ましいが非回転に設定してもよい。
【0014】
支持体11は、キャリア5の端面に、キャリア5とは別体に設けられた部材である。支持体11は、係合凹部11aを有しており、この係合凹部11aにローラ軸8が係合されている。
太陽軸3が回転すると、遊星ローラ4が自転しながら公転し、この公転とともにキャリア5が回転する。このとき、支持体11は遊星ローラ4のローラ軸8と係合しているから、キャリア5とともに回転する。支持体11に支持された含油ローラ10は、遊星ローラ4に追随するように公転するとともに、遊星ローラ4に接触しながら自転する。これにより、固定輪2と遊星ローラ4との転動面に油膜が形成される。この際、各含油ローラ10は、支持体11の支持によってその半径方向位置が一定に保たれるから、固定輪2と遊星ローラ4との間に巻き込まれることがない。
【0015】
次に、グリースGを構成するグリース組成物について詳細に説明する。
グリース組成物は、基油および増ちょう剤を含有している。
基油としては、合成炭化水素油が使用される。合成炭化水素油として、さらに具体的には、エチレン、プロピレン、ブテンおよびこれらの誘導体などを原料として製造されたα−オレフィンを、単独または2種以上混合して重合したものが挙げられる。α−オレフィンとしては、好ましくは、炭素数6〜18のものが挙げられ、さらに好ましくは、1−デセンや1−ドデセンのオリゴマーであるポリ−α−オレフィン(PAO)が挙げられる。
【0016】
基油の含有割合は、たとえば、80質量%〜95質量%である。
基油の物性については、次の範囲が好ましい。すなわち、動粘度(JIS K 2283に準拠)は、25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、好ましくは、28000mm/s〜30000mm/s(40℃)である。
基油の動粘度が25000mm/s未満であると、油膜の保持能力が低下してせん断抵抗の低下が発生し、高いトラクション係数を得ることが難しい。遊星ローラ型動力伝達装置においては、0.060以上、好ましくは、0.065〜0.1のトラクション係数を発現できることが好ましい。一方、基油の動粘度が32000mm/sを超えると、グリース組成物の低温流動性が低下する。そのため、たとえば自動車用途のように、気温や各部の動作熱等によって周辺温度が零下から100℃を超える高温まで絶えず変化するような過酷な環境で使用することは困難である。すなわち、基油の動粘度を25000mm/s〜32000mm/s(40℃)とすることによって、低い温度域から100℃を超える(たとえば、120℃程度)高い温度域に至るまで、幅広い温度域において高いトラクション性能を発揮できる。
【0017】
増ちょう剤としては、シリカが使用される。シリカは無機物であるため、グリース組成物の増ちょう剤として一般的に使用されるジウレア化合物のような有機物に比べて熱による劣化が小さい。そのため、グリース組成物の耐熱性の向上に寄与する。
使用するシリカとしては、特に制限されず、たとえば、一次粒子の平均粒子径が1.5μm〜100μm程度のものを使用してもよい。また、シリカのBET法による比表面積としては、たとえば、50m/g〜900m/gであってもよい。また、シリカの一次粒子の形状は、たとえば、球状、針状、立方体状、鱗片状、無定形状等、どのような形状であってもよい。
【0018】
増ちょう剤(シリカ)の含有割合は、5質量%〜20質量%であり、好ましくは、6質量%〜7質量%である。
シリカの含有割合が5質量%未満であると、グリース組成物のちょう度(60W)が大きく(軟化)なって過度に流動性が高くなり、グリース状を保持できなくなる。一方、シリカの含有割合が20質量%を超えると、逆にちょう度(60W)が小さく(硬化)なり、トラクションドライブ機構において適正な油膜形成および流動状態を保持できなくなる。
【0019】
また、グリース組成物は、基油および増ちょう剤の他に任意成分として、たとえば、1質量%〜5質量%程度の割合で、極圧剤、油性剤、防錆剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
そして、上記グリース組成物は、たとえば、必須成分としての合成炭化水素油(基油)およびシリカ増ちょう剤、さらに必要に応じてその他の添加剤を混合し、攪拌した後、ロールミル等を通すことによって得ることができる。
【0020】
このようにして得られたグリース組成物は、合成炭化水素油からなる基油の動粘度が25000mm/s〜32000mm/s(40℃)であり、シリカからなる増ちょう剤が5質量%〜20質量%含有されているため、高い耐熱性、高いトラクション係数および長寿命を実現できる。たとえば、0.060以上のトラクション係数、0.10〜0.30の離油度を達成できる。したがって、上記グリース組成物を使用することによって、たとえば、100℃を超えるような高い温度環境下においても、図1および図2の遊星ローラ型動力伝達装置のようなトラクションドライブ装置を良好に駆動できる。特に好ましくは、120℃以下の温度環境下で良好に使用できる。また、0.10〜0.30の離油度を達成できるため、油の過剰な流失を抑えつつ、長期に亘って油膜を形成することができ(長寿命化)、高い耐熱性を確保することもできる。
【0021】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は他の形態で実施することもできる。
上記トラクショングリース組成物が用いられた本発明のトラクションドライブ装置は、図1および図2の遊星ローラ型動力伝達装置の構成に制限されず、たとえば、自動車用パワーステアリングの駆動用のトラクションドライブ装置、自動車等のエンジンを過給するスーパーチャージャの駆動用のトラクションドライブ装置、自動車等のエンジンルーム内のエアコン用コンプレッサーやオルタネータ等の補機の駆動用のトラクションドライブ装置等に使用できる。
【0022】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
<実施例1〜3および比較例1〜13>
各実施例および各比較例について表1に示す処方で、基油、増ちょう剤および添加剤を配合することによって、試験用グリース組成物を調製した。得られた試験用グリース組成物の離油度およびトラクション係数を測定した。評価結果を表1および図3図6に示す。
【0024】
表1において、基油の動粘度はJIS K 2283に準拠して測定された値である。また、離油度はJIS K 2220に準拠して測定した値であり、トラクション係数はEHL試験機(PCS Instruments社製「EHD2」)を使用して測定した値である。
【0025】
【表1】
【0026】
表1および図3,4から、実施例1〜3のグリース組成物では適正な離油度を示し、高い耐熱性および高寿命を実現できることが分かった。また、表1および図5,6から、実施例1〜3のグリース組成物はいずれも、0.060以上のトラクション係数を満足していることが分かった。
【符号の説明】
【0027】
2…固定輪、3…太陽軸、4…遊星ローラ、5…キャリア、G…グリース
図1
図2
図3
図4
図5
図6