(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-204550(P2016-204550A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びフィラメント状成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20161111BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20161111BHJP
B29C 67/00 20060101ALI20161111BHJP
B33Y 70/00 20150101ALI20161111BHJP
【FI】
C08L29/04 D
C08L67/04
B29C67/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-89422(P2015-89422)
(22)【出願日】2015年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川田 憲一
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
4F213AA19
4F213AA24
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL15
4F213WL23
4F213WL27
4F213WL96
4J002BE02W
4J002CF18X
4J002GK01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3Dプリンターにより立体造形物を得る際の支持体用として好適に使用することができる樹脂組成物であって、立体造形物を成形性よく得ることができ、成形後に水により短時間で容易に除去することが可能な樹脂組成物及びフィラメント状成形体の提供。
【解決手段】)ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物であって、ポリビニルアルコール樹脂を35〜90質量%、ポリ乳酸樹脂を10〜65質量%含有し、かつポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂の合計含有量が70質量%以上であり、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられる樹脂組成物。熱溶解積層法による3Dプリンターの造材材料に用いられるフィラメント状成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物であって、ポリビニルアルコール樹脂を35〜90質量%、ポリ乳酸樹脂を10〜65質量%含有し、かつポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂の合計含有量が70質量%以上であり、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料のうち、造形後、溶解処理により除去される支持体を形成する用途に使用される請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物で構成されてなるフィラメント状の成形体であって、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられることを特徴とするフィラメント状成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料、中でも支持体を形成するのに好適な樹脂組成物及びフィラメント状成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
3DCADや3次元コンピューターグラフィックスのデータを元に立体(3次元のオブジェクト)を造形する3Dプリンターは、近年企業を中心に急速に普及している。3Dプリンターは用いる造形材料の種類により、光造形、インクジェット、粉末石膏造形、粉末焼結造形、熱溶融積層造形等の工法がある。
【0003】
近年、個人向けなど、低価格の3Dプリンターの多くが熱溶解積層法を採用している。そして、熱溶解積層法による3Dプリンターは、造形材料としてフィラメント状のものを使用している。特許文献1には、熱溶解積層法による3Dプリンターで供給材料として使用される造形フィラメントが記載されている。
【0004】
また、このような3Dプリンターで複雑な形状の立体造形物を形成する場合には、造形物の底部に支持体を形成し、造形物を一時的に支持することが行われている。このような支持体は、立体造形物が形成された後には、適当な溶媒により溶解させる等の手段により除去される。
【0005】
特許文献2、3には、このような支持体として、水に浸漬させ除去することが可能な材料が開示されている。支持体を水に溶解させて除去できる点は簡易な方法で好ましいものであったが、溶解させるまでに時間がかかるという問題があった。また、造形物を形成する樹脂との相溶性が悪く、立体造形物の成形性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2005−523391号公報
【特許文献2】特開2010−155889号公報
【特許文献3】特開2012−111216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の支持体用として好適に使用することができる樹脂組成物であって、立体造形物を成形性よく得ることができ、成形後に水により短時間で容易に除去することが可能な樹脂組成物及びフィラメント状成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物であって、ポリビニルアルコール樹脂を35〜90質量%、ポリ乳酸樹脂を10〜65質量%含有し、かつポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂の合計含有量が70質量%以上であり、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられることを特徴とする樹脂組成物。
(2)熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料のうち、造形後、溶解処理により除去される支持体を形成する用途に使用される(1)記載の樹脂組成物。
(3)(1)又は(2)に記載の樹脂組成物で構成されてなるフィラメント状の成形体であって、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられることを特徴とするフィラメント状成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物及びフィラメント状成形体は、ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂を適量配合してなるものであるため、3Dプリンターにより立体造形物を得る際の支持体として成形性よく立体造形物を得ることができる。そして、立体造形物の成形後に支持体部分を、水により短時間で容易に除去することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂を含む樹脂組成物であって、ポリビニルアルコール樹脂を35〜90質量%、ポリ乳酸樹脂を10〜65質量%含有し、かつポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂の合計含有量が70質量%以上である。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料に用いられるものであり、中でも熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料のうち、造形後、溶解処理により除去される支持体を形成する用途に用いられることが好ましいものである。
【0012】
本発明におけるポリビニルアルコール樹脂としては、平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)が200〜2000であることが好ましく、中でも200〜1500であることが好ましく、さらには300〜1000であることが好ましい。本発明の樹脂組成物からなるフィラメント状成形体とする場合には、重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、フィラメントとすることが困難となる場合がある。また、得られる成形体の強度が低下するため、十分な強度を有していない支持体となり、立体造形物の成形性が悪くなりやすい。一方、重合度が5000を超えると溶融粘度が高すぎて、立体造形物の成形性が悪くなったり、造形後に支持体を短時間で溶解することが困難となりやすい。
【0013】
また、ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、70〜99.9モル%、さらには75〜99.9モル%、特には80〜99.9モル%であることが好ましく、かかるケン化度が70モル%未満では成形時に酢酸臭がしたり、PVA系樹脂が分解しやすくなる恐れがあるため好ましくない。
【0014】
本発明におけるポリビニルアルコール樹脂としては、溶融成形用のものが好ましく、市販品としては、例えば、クラレ社製のクラレポバール CPシリーズが好ましい。
【0015】
本発明におけるポリ乳酸樹脂としては、耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができるが、生分解性、および、成形加工性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。中でもD−乳酸の含有量が3モル%以下のものであることが好ましく、さらにはD−乳酸の含有量が2モル%以下であることが好ましく、1.5モル%以下であることがより好ましい。
【0016】
ポリ乳酸樹脂としては、各種ポリ乳酸を用いることができるが、成形加工性や性能の点から、温度190℃、荷重2.16Kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.3〜15g/10分のものを用いることが好ましい。
【0017】
ポリ乳酸樹脂の市販品としては、例えば、NatureWork社製『4032D』(D−乳酸の含有量が1.4モル%、MFRが3g/10分)、あるいは同社製『3001D』(D−乳酸の含有量が1.4モル%、MFRが10g/10分)が挙げられる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、ポリビニルアルコール樹脂を35〜90質量%含有するものであり、中でも50〜90質量%であることが好ましく、さらには55〜85質量%であることが好ましい。ポリビニルアルコールの含有量が35質量%未満では、熱水溶解性が低い樹脂組成物となり、立体造形物の成形後に水により短時間で容易に除去することができないものとなる。一方、ポリビニルアルコールの含有量が90質量%を超えると、成形時にベタツキが生じて成形性が悪化する。
【0019】
一般に、立体造形物を得るための3Dプリンターの造形材料には、透明性に優れるとの観点からポリ乳酸樹脂が広く用いられている。立体造形物を得る際には、支持体は立体造形物と適度に接着していることが成形加工上好ましいものであり、立体造形物がポリ乳酸樹脂で形成されることを考慮して、支持体用として用いられることが好ましい態様である本発明の樹脂組成物はポリ乳酸樹脂を含有することを必須要件とするものである。つまり、本発明の樹脂組成物はポリ乳酸樹脂を含有することで、支持体用として用いた際に、支持体以外の立体造形物との接着(密着性)に優れ、成形性よく立体造形物を得ることが可能となる。
【0020】
そこで、本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂を10〜65質量%含有するものであり、中でも25質量%以上含有することが好ましく、さらには30〜45質量%含有することが好ましい。ポリ乳酸樹脂の含有量が10質量%未満であると、立体造形物との接着性に劣るものとなり、成形性が悪化する。一方、ポリ乳酸樹脂を65質量%以上含有するものであると、ポリビニルアルコールの含有量が少なくなり、得られた支持体を短時間で容易に除去することができないものとなる。
【0021】
さらには、本発明の樹脂組成物中のポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂の合計含有量は70質量%以上であり、中でも80質量%以上であり、90質量%以上であることが好ましい。つまり、本発明の樹脂組成物中には、ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂以外の樹脂や各種添加剤を30質量%未満の範囲内で含有していてもよい。
【0022】
ポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂以外の樹脂としては、ポリエチレングリコールやポリアクリル酸等が挙げられる。
また、各種添加剤としては、本発明の目的を妨げない範囲の各種の添加剤を配合することができる。ポリ乳酸樹脂の耐久性を改良する目的で、カルボジイミド系化合物を添加してもよい。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、上記のようなポリビニルアルコール樹脂とポリ乳酸樹脂とを混合することによって得ることができる。両樹脂を混合する方法は特に限定されないが、例えば、二軸の混練押出機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0024】
次に、本発明のフィラメント状成形体は、本発明の樹脂組成物で構成されてなるものである。フィラメントの形状とすることで、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料として好適に使用することができる。フィラメント状成形体としては、モノフィラメント状のもの、マルチフィラメント状のもののいずれであってもよい。
【0025】
また、本発明のフィラメント状成形体は、直径が1mm以上のものであることが好ましく、中でも1.2mm以上であることが好ましく、さらには1.4mm以上のものであることが好ましい。直径とは、フィラメント状成形体の長手方向に対して垂直に切断した断面における長径を測定したものである。長径が1mm未満であると、細くなりすぎて、汎用の熱溶解積層法による3Dプリンターに適さないものとなる。なお、汎用の熱溶解積層法による3Dプリンターに適したフィラメント状成形体の直径の上限としては、3mm程度である。
【0026】
本発明のフィラメント状成形体として、モノフィラメント形状の成形体を得る方法について説明する。本発明の樹脂組成物を、温度180〜200℃で溶融し、紡糸速度5〜30m/分で紡出して引き取り、これを20〜80℃の液浴中で冷却固化後、ボビン等に巻き取るなどの方法が挙げられる。なお、モノフィラメントの形状にする際、ある程度の範囲内の倍率で延伸が施されていてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物(成形体)の評価に用いた測定法は次のとおりである。
【0028】
(1)混練押出操業性:
樹脂組成物のペレットを得る際のストランドカッティングの状況により、以下の3段階で評価した。
◎:ストランドの水切りが充分であり、カッティングペレットが問題無くカッターから払い出せた場合
〇:水切りが若干不不充分であり、ベタツキにより時々払い出し不調が生じた場合
×:水切りが不充分であり、ベタツキにより払い出し困難であった場合
【0029】
(2)熱水溶解性:
得られた評価用のプレートを80℃の温水中に20時間浸漬した。浸漬後のプレートの状況により、以下のような3段階で評価した。
◎:プレートが完全な糊状状態であった場合
〇:プレートの形状が一応保持されていたが、微小な外力で簡単に崩壊した場合
×:ほぼ完全にプレートの形状が保持されており、外力によってもほとんど崩壊しなかった場合
【0030】
また、実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。なお、メルトフローレート(MFR)の測定条件は、温度190℃、荷重2.16kgであった。
〔ポリ乳酸樹脂〕
・NatureWorks社製ポリ乳酸樹脂『4032D』(D−乳酸の含有量1.4モル%、MFR3g/10分)、『3001D』(D−乳酸の含有量1.4モル%、MFR10g/10分)
〔ポリビニルアルコール樹脂〕
・クラレ社製溶融成形用ポリビニルアルコール系樹脂『CP−1220T10』(融点160〜170℃、MFR7g/10分、溶融粘度3.3×10
4poise、ガラス転移温度42℃)
〔その他樹脂・添加剤〕
・ポリエチレングリコール:マルゼン社製 『PEG4000N』
・カルボジイミド化合物:松本油脂社製 モノカルボジイミド『EN160』
【0031】
実施例1
二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリ乳酸樹脂として『4032D』を40質量%、ポリビニルアルコール樹脂として『CP−1220T10』を60質量%となるようにドライブレンドして押出機の根元供給口から供給し、混練温度185℃、スクリュー回転数150rpm、吐出18kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された樹脂ストランドを水冷バスで冷却後、ペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物のペレットを80℃×10時間熱風乾燥した。これを、エクストルーダー型溶融紡糸機に供給し、紡糸温度185℃で溶融し、直径5mmの紡糸孔を1孔有する丸断面形状の口金から吐出した。なお、このときの吐出量は、糸径(直径)が1.75mmになるように調整した。引き続き50℃の液浴中で冷却固化して引き取り、モノフィラメントを得た。
次に、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料として、このモノフィラメントを用いて、熱水溶解性評価用のプレート(縦5cm×横5cm×厚み3.2mm)を成形した。
【0032】
実施例2〜6、比較例1〜2
ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂およびその他樹脂や添加剤の含有量を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物のペレットを得た。
そして、得られた樹脂組成物のペレットを用いて、実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
さらに、このモノフィラメントを用いて、実施例1と同様にして熱水溶解性評価用のプレートを得た。
【0033】
実施例1〜6、比較例1〜2で得られた樹脂組成物及びモノフィラメントの評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1〜6で得られた樹脂組成物は、混練押出操業性と熱水溶解性にともに優れていた。このため、これらの樹脂組成物は、熱溶解積層法による3Dプリンターの造形材料、中でも、造形後、溶解処理により除去される支持体を形成する用途に使用することが好適なものであった。
【0036】
一方、比較例1で得られた樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂が過多であったため、熱水溶解性に劣る結果となった。比較例2で得られた樹脂組成物は、ポリビニルアルコール樹脂が過多であったため、混練押出操業性に劣る結果となった。