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特開2016-204592ポリヒドロキシウレタン水分散体組成物、及び該水分散体組成物を用いてなるガスバリア性水性コーティング剤、ガスバリア性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-204592(P2016-204592A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシウレタン水分散体組成物、及び該水分散体組成物を用いてなるガスバリア性水性コーティング剤、ガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20161111BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08K3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-91350(P2015-91350)
(22)【出願日】2015年4月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】宇留野 学
(72)【発明者】
【氏名】武藤 多昭
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】花田 和行
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CK021
4J002CK051
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ056
4J002FD016
4J002GH00
4J002HA06
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】水系塗料やコーティング剤の被膜形成用樹脂として使用可能であり、ヒドロキシポリウレタン樹脂を利用した場合の従来技術の課題を克服し、粘土鉱物との良好な複合化によってガスバリア性を向上させた、実用化が可能な良好な安定性を有するポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を提供すること。
【解決手段】(A)カルボキシル基と水酸基とを有するアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)層状粘土鉱物とを含有してなる水分散体組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が1〜50質量部であり、水分散体組成物中の(A)成分と(B)成分との合計含有量が10〜50質量%であるポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルボキシル基と水酸基とを有するアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)層状粘土鉱物とを含有してなる水分散体組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が1〜50質量部であり、水分散体組成物中の(A)成分と(B)成分との合計含有量が10〜50質量%であることを特徴とするポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【請求項2】
前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有するものである請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、モノマー単位由来の炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示される、カルボキシル基又はその陰イオン若しくはその塩を含む化学構造を示す。]
[上記一般式(11)中、R3は炭化水素又は芳香族炭化水素であり、該構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。R4、R5、R6は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、R7は、ないか、水素原子或いは塩構造となるための対イオンのいずれかを示す。]
【請求項3】
前記一般式(1)で示される繰り返し単位の部分と、更に、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有する前記一般式(1)で示される繰り返し単位の部分とが混在している請求項2に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【請求項4】
前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、カルボキシル基の含有量が酸価10mgKOH/g〜100mgKOH/gとなる範囲であり、且つ、水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【請求項5】
前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうち1〜30質量%を、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【請求項6】
前記(B)の層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト及びマイカからなる群から選択される少なくともいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を必須成分とすることを特徴とするガスバリア性水性コーティング剤。
【請求項8】
基材の少なくとも一方に請求項1〜6のいずれかに記載のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物によるポリヒドロキシウレタン樹脂−粘土鉱物複合被膜層が形成され、且つ、該複合被膜層の厚みが0.1〜100μmであり、フィルムの酸素透過率が、23℃、65%の恒温恒湿度下において50mL/m2・day・atm以下であるガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、コーティング剤用のバインダー樹脂として利用できる、ポリヒドロキシウレタン樹脂と、粘土鉱物との複合化を可能にした、水分散体組成物の技術に関する。特に、水分散塗料材料として使用でき、しかもポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造中に二酸化炭素を組み込むことが可能であることから、高度な環境対応製品の提供が可能であり、また、被膜の機能性の観点からも、従来の溶剤系塗料と遜色のない、耐熱性塗料、ガスバリア性塗料としての性能を示すポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体組成物を提供できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、強度、柔軟性、耐摩耗性、耐油性に優れた樹脂であり、塗料や接着剤用の樹脂として広く使用されている。近年、新規なポリウレタン系の樹脂として化学構造中にウレタン結合と水酸基を併せ持つヒドロキシポリウレタン樹脂が開発され、その工業的な応用が期待されている(特許文献1参照)。既存のポリウレタン樹脂が、イソシアネート化合物とポリオールとを原料として得られるのに対して、ヒドロキシポリウレタン樹脂は、エポキシ化合物、二酸化炭素及びアミン化合物を原料に用い、これらの原料の組み合わせにより製造される。原料として使用された二酸化炭素は、ヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中に−CO−O−結合として組み込まれることから、温室効果ガスである二酸化炭素の有効利用の観点からも注目されるべき樹脂材料である。
【0003】
ヒドロキシポリウレタン樹脂は、既存のポリウレタン樹脂と同様に機械強度に優れた樹脂とできるが、さらに、既存ポリウレタン樹脂の構造中にはない水酸基に由来した機能性を生かした応用が検討されている。例えば、水酸基の架橋反応を利用した耐熱性塗料としての応用(特許文献2参照)や、水酸基由来のガスバリア性を利用したガスバリア性フィルムへの応用が検討されている(特許文献3参照)。
【0004】
これらの従来技術にもあるように、ヒドロキシポリウレタンの応用用途として、塗料、コーティング分野が有望である。しかし、これまでに開発されているヒドロキシポリウレタン樹脂は、ウレタン結合と共に水酸基を有する化学構造をもつため、有機溶剤に対する溶解性が低く、各用途で使用される基材や加工装置に応じて異なることも多く、多様な溶剤組成への対応が困難である点が応用上の問題となっている。これに対し、ヒドロキシポリウレタン樹脂を水分散体とすることで、この問題を解消すると同時に、近年、溶剤系塗料からの置き換えが進んでいる水系の塗料として応用することが検討され、提案されている(特許文献4参照)。
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、この技術は、水分散体を得るためにヒドロキシポリウレタンの水酸基をハーフエステル法によってカルボキシル基化したものであることから、ハーフエステル部分の加水分解に起因して、水分散体の保存安定性が悪い点で課題が残っており、問題を完全に解決したものではなかった。また、ヒドロキシポリウレタンの水酸基を反応に利用し減少させる点は、耐水性の向上に寄与するといった利点を有する反面、水酸基の機能性を利用する用途においては、欠点を有するものとなる。別の手法として、原料としてカルボン酸を含有するアミン化合物を使用し、カルボキシル基を有するポリヒドロキシウレタンを得る方法が考案されている(特許文献5参照)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、この方法は、合成反応系内でカルボキシル基とアミノ基がイオン結合を形成して、環状カーボネートとの反応が進行しにくく、また、DMF(ジメチルホルムアミド)などの高沸点溶剤中での反応が必要であり、高分子量化も困難であるといった欠点を有する。更に、使用した高沸点溶剤は、転相乳化後に減圧留去ができないという問題もあり、水分散体(エマルジョン)の製造方法としては完全なものではなかった。
【0006】
上記したようにヒドロキシポリウレタン樹脂被膜は、ガスバリア性被膜としての機能を有している。一方で、ヒドロキシポリウレタン樹脂のガスバリア性を向上させる手法として、粘土鉱物と複合化させる方法が提案されている(特許文献6)。一般に、粘土鉱物を樹脂中に分散させるためには、層間の金属カチオンイオンを有機オニウム塩に置換する等の疎水化処理が必要であり、上記した方法でも、粘土鉱物を疎水化処理した後、複合化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第3072613号明細書
【特許文献2】特開2011−102005号公報
【特許文献3】特開2012−172144号公報
【特許文献4】特開2007−297544号公報
【特許文献5】特開平6−25409号公報
【特許文献6】特開2015−007197号公報
【特許文献7】特開2005−139436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、粘土鉱物の疎水化処理は複雑な工程を必要とし、また、本発明者らの検討によれば、有機オニウム塩の一部が樹脂の結晶化を阻害し、ガスバリア性を低下する要因ともなり得ることから、未変性の粘土鉱物が分散可能な水溶媒中にて樹脂との複合化を行うことができれば、ガスバリア性の発揮には好ましいと考えられる。これに対し、本発明者らの検討によれば、水中での複合化において粘土鉱物は未変性状態で使用可能であるが、水系樹脂の分散にアニオン性基を有する樹脂を使用した場合、アニオン性基と粘土鉱物層表面のアニオン性イオンが反発作用を有し、分散状態が不安定となる。これに対し、例えば、特開2005−139436号公報に、カルボキシル基を有するポリウレタン樹脂の水分散体を得る場合に、第3成分として、カチオン性を有する成分を添加することが提案されている。しかし、このような第3成分の添加は、前記有機オニウム塩と同様に、樹脂の結晶化を阻害することから、有効な方法とはいえない。
【0009】
従って、本発明の目的は、水系塗料やコーティング剤の被膜形成用樹脂として使用可能であり、ヒドロキシポリウレタン樹脂を利用した場合の従来技術の課題を克服し、粘土鉱物との良好な複合化によってガスバリア性を向上させた、実用化が可能な良好な安定性を有するポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を提供すること、及び、該水分散体組成物を使用し、ガスバリア性水性コーティング剤や、ガスバリア性に優れたフィルムを提供することにある。また、この水性コーティング剤によって形成される塗膜(被膜層)が、粘土鉱物を利用したものでありながら、凝集物のない、粘度鉱物が微分散していることによってもたらされる光沢度を示す外観に優れたものにできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は本発明によって解決される、すなわち、本発明は、(A)カルボキシル基と水酸基とを有するアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂と、(B)層状粘土鉱物とを含有してなる水分散体組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が1〜50質量部であり、水分散体組成物中の(A)成分と(B)成分との合計含有量が10〜50質量%であることを特徴とするポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を提供する。
【0011】
上記した本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体組成物の好ましい形態としては、前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有するものであることが挙げられる。
[上記一般式(1)中のXは、ないか、モノマー単位由来の炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよく、エーテル結合を介してY1及び/又はY2と結合する構造であってもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示される、カルボキシル基又はその陰イオン若しくはその塩を含む化学構造を示す。]
[上記一般式(11)中、R3は炭化水素又は芳香族炭化水素であり、該構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。R4、R5、R6は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、R7は、ないか、水素原子或いは塩構造となるための対イオンのいずれかを示す。]
【0012】
また、上記した本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体組成物の好ましい形態としては、前記一般式(1)で示される繰り返し単位の部分と、更に、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有する前記一般式(1)で示される繰り返し単位の部分とが混在していることが挙げられる。
【0013】
更に、上記した本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、カルボキシル基の含有量が酸価10mgKOH/g〜100mgKOH/gとなる範囲であり、且つ、水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲であること;前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物の重付加反応により得られたものであり、全質量のうち1〜30質量%を、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占めること;前記(B)の層状粘土鉱物が、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト及びマイカからなる群から選択される少なくともいずれかであることである。
【0014】
また、本発明は別の実施の形態として、上記したポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を必須成分とすることを特徴とするガスバリア性水性コーティング剤を提供する。
【0015】
さらに、本発明は別の実施の形態として、上記したポリヒドロキシウレタン水分散体組成物によるポリヒドロキシウレタン樹脂−粘土鉱物複合被膜層が形成され、且つ、該複合被膜層の厚みが0.1〜100μmであり、フィルムの酸素透過率が、23℃で、65%の恒温恒湿度下において50mL/m2・day・atm以下であるガスバリア性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水系塗料やコーティング剤の被膜形成用樹脂として使用可能な水中にポリヒドロキシウレタン樹脂を分散してなる水分散体が提供される。本発明によって提供されるポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体は、従来技術で提供される樹脂の水分散体と比較して、安定性に優れ、長期間の保存が可能であり、且つ、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基を一定量にコントロールできることから、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体から得られる塗膜(被膜層)の性能も、従来の溶剤型ポリヒドロキシウレタン樹脂から得られる塗膜と同等の性能を得ることができる。加えて、本発明の水分散体組成物は、ガスバリア性を向上させることが知られている粘土鉱物を良好な状態で分散したものとなるので、ガスバリア性により優れた被膜を容易に作製することができる。また、粘土鉱物を良好な状態で微分散できたことで、粘土鉱物を分散したものでありながら、形成される塗膜(被膜層)は、凝集物のない、光沢のある外観に優れたのものになるので、高い実用性が期待される。本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物は、水系の塗料の被膜形成用樹脂として利用ができるので、これを用いることで、溶剤系の塗料で問題となっている使用時における有機溶剤の環境中への放出がなくなり、塗膜(被膜層)の性能を満足し得、且つ、環境負荷を低減した水系塗料等の提供ができる。また、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、二酸化炭素を原材料(形成材料)として使用して製造することが可能な樹脂であり、水系材料であることによる環境負荷の低減に加えて、更なる環境負荷の低減にも貢献することができるので、この点でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の水分散体について測定した粒度分布の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物は、(A)カルボキシル基と水酸基を有するアニオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂、(B)層状粘土鉱物、を含有する水分散体組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が1〜50質量部であり、該組成物中の(A)成分と(B)成分との合計含有量が10〜50質量%であることを特徴とする。特に、前記(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の化学構造が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有するものであることが好ましい。
【0019】
[上記一般式(1)中のXは、ないか、モノマー単位由来の炭化水素又は芳香族炭化水素からなる化学構造を示し、該構造中には酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びエステル結合を含んでいてもよい。−Y1−は、下記式(2)〜(5)のいずれか1つの化学構造を示し、また、−Y2−は、下記式(2)、(6)〜(10)のいずれか1つの化学構造を示し、式(4)、(5)、(7)〜(10)中のRは、水素原子かCH3を示す。−Z−は、下記一般式(11)で示される、カルボキシル基又はその陰イオン若しくはその塩を含む化学構造を示す。]
【0020】
【0021】
[上記一般式(11)中、R3は炭化水素又は芳香族炭化水素であり、該構造中には酸素原子、窒素原子を含んでもよい。R4、R5、R6は、それぞれ独立して、その構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、R7は、ないか、水素原子或いは対イオンとで形成した塩構造のいずれかを示す。]
【0022】
本発明を構成する(A)のカルボキシル基と水酸基とを有するアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂が、その構造中に有する繰り返し単位である上記一般式(1)で示される構造は、樹脂中のすべての繰り返し単位が同一の構造であってもよいが、上記で規定した構造が複数混在するものであってもよい。例えば、ポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に有する繰り返し単位が、一般式(1)中のY1とY2がいずれも式(2)の化学構造のものであってもよいし、これと、例えば、一般式(1)中のY1が式(3)で、Y2が式(6)の化学構造のものとが混在したポリヒドロキシウレタン樹脂であってもよい。
【0023】
上記したように、本発明を構成する(A)の、カルボキシル基と水酸基とを有するアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、繰り返し単位中に、少なくとも、前記一般式(11)で表される水を加えて転相乳化を可能にするための「COOR7」部分を含む構造を有するものであるが、本発明においては、全ての樹脂が上記構成を満足するものでもよいが、これに限定されず、下記の構造を有する樹脂が混在する構成のものも好ましく使用できる。具体的には、前記一般式(1)中の−Z−が、前記一般式(11)に替えて、その構造中に、酸素原子、窒素原子を含んでいてもよい、炭素数1〜100の炭化水素又は炭素数6〜100の芳香族炭化水素である化学構造を有するものである前記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する樹脂が、混在している構成のものであってもよい。
【0024】
一般的なポリマーエマルジョンの製造方法として、界面活性剤を乳化剤として使用する強制乳化法と、ポリマー鎖中に親水性基を導入しポリマー鎖自らに乳化粒子を形成させる自己乳化法がある。本発明の水分散体組成物は、上記した自己乳化型に属するものであり、前記一般式(11)の構造に示されているように、使用する樹脂の構造中に、乳化に必要な親水性基としてアニオン性基であるカルボキシル基を導入したことで、自己乳化を可能にしたことを特徴としている。このため、一般式(1)中の−Z−が、炭化水素又は芳香族炭化水素である構造のものを混在させる程度は、樹脂全体で、その酸価が10mgKOH/g〜100mgKOH/gの範囲内となるようにすることが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)で示される構造の(A)のアニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、以下の工程により製造できる。1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート(以下、単に環状カーボネートと略す)を有する化合物Aと、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物Bの重付加反応より得られる。
【0026】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の高分子鎖を形成する環状カーボネートとアミンとの反応においては、環状カーボネートの開裂は2種類であり、以下のモデル反応が示す2種類の構造が発生することが知られている。
従って、重付加反応により得られるポリヒドロキシウレタンを表す前記一般式(1)のY1とY2の構造は、式(2)か(3)の何れかの構造となりその存在はランダムである。
【0027】
本発明を特徴づける(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用する環状カーボネートとしては、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0028】
【0029】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を、重付加反応に使用することで、得られるポリウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素を原材料として有効利用する立場からはできるだけ多くなる方がよいが、例えば、上記した合成方法によって得られる(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素を1〜20質量%の範囲で含有させることができる。
【0030】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、エポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを併用してもよい。
【0031】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、が好ましいものとして挙げられる。
【0032】
本発明を特徴づける(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、一分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれも環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物について、構造式を挙げて例示する。なお、以下に列挙した構造式中にあるRは、水素原子、CH3、のいずれかである。
【0033】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。
【0034】
【0035】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。
【0036】
本発明を構成する(A)の、アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記に列挙したような、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成されてなる五員環環状カーボネート構造を有する、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物と、少なくとも2つのアミノ基を有するアミノ化合物との重付加反応によって製造されたものであることが好ましい。この際に使用される好ましいアミノ化合物としては、下記一般式(12)で示される、分子内に少なくとも2つの1級アミノ基と、少なくとも1つの2級アミノ基のどちらも有する化合物が挙げられる。下記一般式(12)で示されるアミノ化合物は、従来公知の多官能アミンを併用することができる。
[一般式(12)中のR4、R5、R6は、それぞれ独立して、その化学構造中にエーテル結合を含んでもよい炭素数1〜10のアルキレン基である。]
【0037】
上記一般式(12)で示される化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イミノビスプロピルアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミンなどが挙げられ、これら化合物の1種又は2種類以上を使用することが可能である。
【0038】
上記アミン化合物と併用できる多官能アミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン(別名:ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミン(別名:メタキシレンジアミン)などの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0039】
一般式(12)で示されるアミノ化合物の構造中の2級アミノ基は、環状カーボネートとの反応が起こらず、主鎖中に2級アミノ基を主鎖に含んだポリヒドロキシウレタンの合成ができることは、既に「J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2005,43,5899−5905」に報告されている。本発明においても、反応形態は、上記文献に記載されている通りであるので、2級アミノ基を含むポリヒドロキシウレタンを次反応の中間体として利用することとなる。ここで、環状カーボネート化合物と一般式(10)で示される化合物を含むアミン化合物との反応条件は、例えば、両者を混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させればよく、このようにすることで、2級アミノ基を含むポリヒドロキシウレタンを得ることができる。
【0040】
上記反応は、無溶剤で行うことも可能であるが、本発明においては次工程の反応及び乳化工程を考慮して、親水性溶剤中で行うことが好ましい。この際に使用し得る親水性溶剤の好ましいものを例示すると、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、特に好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するものであるテトラヒドロフランが挙げられる。
【0041】
本発明を構成する(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造は、上記したように、特に触媒を使用せずに製造を行うことができるが、反応を促進させるためには、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量としては、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部の範囲内で使用する。
【0042】
次に、(A)アニオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂へのカルボキシル基導入反応について説明する。本発明では、例えば、前記した方法により得られた2級アミノ基を主鎖に含むポリヒドロキシウレタンの2級アミノ基と、環状酸無水物の反応によって(A)アニオン性ヒドロキシポリウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する。
【0043】
上記の反応に使用可能な環状酸無水物は、特に限定されるものではなく、複数のカルボキシル基を有する化合物のカルボキシル基が分子内で脱水縮合したものであれば使用可能である。具体的には、例えば、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、マレイン酸無水物、カロン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族酸無水物や、その誘導体、フタル酸、トリメリット酸無水物、1,2−ナフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物などの芳香族酸無水物、1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,1−シクロペンタン二酢酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、などの脂環族酸無水物などがいずれも使用可能である。これらの中でも特に好ましい化合物としては、分子量の低い化合物が、少量の使用で乳化安定性を示すことから、例えば、コハク酸無水物やマレイン酸無水物などが挙げられる。
【0044】
本発明者らの検討によれば、上記した反応で使用する環状酸無水物の使用量や、環状酸無水物の種類、環状カーボネートの種類によって、得られる(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂中のカルボキシル基量を制御することができる。また、本発明者らの検討によれば、カルボキシル基量と乳化粒子径はほぼ比例関係にあり、カルボキシル基量が多くなるほど乳化粒子径は小さくなる。逆に、カルボキシル基が少なくなると乳化粒子径が大きくなり、ある程度の大きさからは乳化状態が不安定となる。このような理由から、本発明の水分散体組成物を構成する水中に分散した(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂の乳化粒子径は、0.01μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。その用途にもよるが、より好ましくは0.01μm〜2μmの範囲内のものになるように調整されたものであることが好ましい。また、カルボキシル基の導入量は、(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂における酸価が、10mgKOH/g〜100mgKOH/gとなるように配合比を調整するのが好ましい。また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量にも影響を受けるため、重量平均分子量が10000〜100000の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
上記したようにして製造される本発明の水分散体組成物を利用することで、被膜層やフィルムを形成することができるが、これらが、ガスバリア性を有するものとなることも、本発明の特徴の一つである。ガスバリア性は、樹脂の構造中の水酸基の存在により発揮されるものであり、形成したフィルムのガスバリア性の程度は、使用する被膜形成樹脂の構造中の水酸基量に依存する。本発明者らの検討によれば、このような目的を達成するために必要となる樹脂の構造中における水酸基量の好ましい範囲は、水酸基価が150mgKOH/g〜300mgKOH/gの範囲である。更に、本発明の水分散体組成物は、上記した樹脂の特性に加え、ガスバリア性を向上させる機能を有する粘土鉱物が、良好な状態に分散されているため、これを利用することで、樹脂のみで構成した水分散体を利用した場合よりも高いガスバリア性を有するものとできる。
【0046】
本発明の水分散体組成物を構成する樹脂の構造中に存在しているカルボキシル基は、水分散体とする際に、そのままの状態であってもよいが、水中でのイオン化を促進するために、カルボキシル基の一部、好ましくは全部を中和して、中和塩としておくことが好ましい。カルボキシル基を架橋や修飾反応に使用するために中和せずに残すことも可能であるが、乳化のためのイオン性基としてのみ利用する場合は、中和剤をカルボキシル基の当モル量か1〜10%程度の過剰量使用することで、全てを中和塩とすることが好ましい。
【0047】
上記において、中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン、リチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基などが挙げられ、これらは併用できる。これら塩基性化合物の中でも特に好ましい化合物は、塗膜形成時に揮発可能なものであり、トリエチルアミンを用いることが好ましい。トリエチルアミンなどを用いて中和塩とした場合は、塗膜形成時に塩基性化合物が揮発するので、塗膜(被覆膜)の耐水性が向上する。
【0048】
前記で説明した方法によって得られた、水中でイオン性基となるカルボキシル基又はその塩を含有する(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その溶剤溶液に水を徐々に添加することで転相させ、O/W型のエマルジョンを得ることができる。転相させる際に添加する水の使用量は、ポリヒドロキシウレタンの樹脂の化学構造、樹脂の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、粘度、といったファクターに依存するが、概ね50部〜200部程度である。転相を行う際に使用する装置は、合成反応に使用する装置と同様の装置でよいが、連続式の乳化機や分散機を使用することもできる。通常、転相工程は、特に加熱する必要はなく、転相前の樹脂溶液に対する水の溶解性を低くするために、10℃〜30℃程度の温度で行うことが効率的であり、好ましい。
【0049】
更に、転相乳化して作製したO/W型エマルジョンを減圧条件下で加熱することで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用した溶剤を揮発させ、樹脂分のみが水中に分散してなる本発明で使用する樹脂の水分散体を得ることができる。この際の加熱条件及び減圧条件は、揮発させる溶剤の沸点により異なるが、水が先に蒸発しないことが好ましい条件であり、概ね、300Torr〜50Torr、20℃〜70℃の範囲で調整する。なお、本発明で使用する樹脂の水分散体は、水中に(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂を分散させてなるものであるが、最終的な溶媒が必ずしも水単独である必要はなく、転相前の溶剤が残存していても使用可能であり、用途に合わせて調節すればよい。
【0050】
本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物は、前記のようにして得られたポリヒドロキシウレタンの水分散体に対して、粘土鉱物を分散させることで、容易に本発明の水分散体を製造することができる。この際、予め水に膨潤・分散させた粘土鉱物を用いることも好ましい形態である。
【0051】
粘土鉱物は、層状構造を有する珪酸塩鉱物等で多数のシートが積層することで構成された、層状構造を有する物質である。本発明では、この(B)層状粘土鉱物を使用する。具体的には、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、カオリナイト、マイカなどが挙げられ、特に好ましいものは、モンモリロナイト、サポナイト、マイカ(雲母)である。これら粘土鉱物は天然物でも合成物でも使用可能である。
【0052】
上記特性を有する粘土鉱物は、通常、水により膨潤し、層間の距離が広くなる。本発明の水分散体組成物では、膨潤した粘土鉱物の層間に樹脂が侵入することで、分散状態が安定すると共に、被膜形成時に粘土鉱物が均一に分散された被膜の形成が可能となる。粘土鉱物の層間には、通常、ナトリウムイオンなどのカチオン物質が挿入されており、通常は本発明で使用するヒドロキシポリウレタン樹脂のようにアニオン性のカルボキシル基を導入したポリマーは、層間への侵入が起こりにくいと考えられる。しかし、本発明で使用する(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂を適用した場合は、均一な分散がなされることを見出した。本発明者らは、その理由を、下記のように考えている。すなわち、本発明で使用する樹脂は、その構造中の、カルボキシル基に近接した部位に2級アミド基を有しており、この2級アミド基のカチオン性が寄与することで、樹脂が、粘土鉱物の層間に侵入しやすくできたものと考えている。
【0053】
粘土鉱物が均一に分散されてなる樹脂被膜は、ガスバリア性が高くなることは広く知られており、本発明の分散体組成物を用いて形成した被膜においても、同様の効果が発揮される。本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を構成する粘土鉱物の使用量は、ポリヒドロキシウレタン樹脂(A)成分100質量部に対して、粘土鉱物(B)成分が1〜50質量部であることを要する。(B)成分である層状粘土鉱物の量が、上記範囲よりも多くなると塗膜が固く割れやすくなったり透明性が悪くなったりし、一方、(B)成分の量が上記範囲よりも少ないと、ガスバリア性の向上効果が弱くなる。好ましい範囲としては、(A)成分100質量部に対して(B)成分が3〜20質量部である。
【0054】
また、本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物の濃度は、(A)アニオン性ポリヒドロキシウレタン樹脂成分と、(B)層状粘土鉱物成分の合計含有量が、水分散体中の濃度として10〜50質量%であることを要す。好ましくは、20〜40質量%である。塗膜を得る際の各種加工方法に合わせて最適な濃度に調整することができる。
【0055】
本発明のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を製造する際の、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体中への粘度鉱物の分散方法は特に限定されない。例えば、樹脂の水分散体中へ、粘土鉱物をそのまま添加し分散させる方法であっても、予め、水に分散させた粘土鉱物を添加する方法であってもよく、いずれも適用が可能である。水膨潤性粘土鉱物の分散は、樹脂の水分散体と比べて水単独の方が効率的であるため、生産効率の点では、後者の方が好ましい。
【0056】
水中、或いは、ポリヒドロキシウレタン樹脂水分散体中に粘土鉱物を分散する場合、通常の撹拌のみで行うこともできるが、特に高濃度で分散させる場合には、時間が長くかかる場合がある。したがって、生産工程の短縮のため、70℃以上に加熱して撹拌することが好ましく、また分散液は高チキソトロピー性を示すため、撹拌装置や超音波分散機などの分散機を使用する方が、より効果的である。
【0057】
本発明の水分散体組成物は、加工時(使用時)の必要特性に合わせて各種レオロジー調整剤を添加することができる。また、本発明の水分散体組成物には、必要に応じて各種添加剤を加えてもよく、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。
【0058】
また、本発明の水分散体組成物は、水に溶解・分散可能な硬化剤を配合して使用することで、架橋塗膜を作成できるものになる。この際に使用できる硬化剤としては、特に制限はないが、例えば、水酸基と反応可能な水分散性成分、ポリイソシアネート類、ブロックイソシアネート類、エポキシ化合物、アルミニウムやチタニウムなどの金属キレート化合物、メラミン樹脂、アルデヒド化合物、などが挙げられる。また、カルボキシル基と反応可能は架橋剤も使用可能であり、前記化合物に加えて水分散性カルボジイミドなども使用可能である。
【0059】
本発明の水分散体組成物を使用して塗膜(被覆膜)を得る方法としては、本発明の水分散体を基材となるフィルムに、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーターなどによって塗布し、水及び残存している溶剤を揮発させることが挙げられる。このようにすることで、基材と、該基材の少なくとも一方に、本発明の水分散体組成物によって形成したポリヒドロキシウレタン被膜層とを有してなる本発明のフィルムを得ることができる。
【0060】
上記で基材として使用するフィルム材料は、特に限定されるものではなく、従来から包装材料として使用される高分子材料は全て使用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系樹脂、その他ポリイミド等とこれらの樹脂の共重合体等が挙げられる。また、これらの高分子材料には、必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を適宜に含ませることができる。
【実施例】
【0061】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0062】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン(株)製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液にイソプロパノール1,400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0063】
上記で得られた粉末を、FT−IR(堀場製作所製、FT−720 以下の製造例でも同様の装置で測定)にて分析でしたところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。また、HPLC(日本分光製、LC−2000;カラムFinepakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0064】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0065】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス(株)製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%であった(計算値)。
【0066】
<水中に分散させる前の実施例で使用するカルボキシル基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の製造>
[実施例用の樹脂合成例1]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業製)16.3部、ジエチレントリアミン(東京化成工業製)9.6部、さらに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)189部を加え、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として42.1mgKOH/gであった。アミン価の測定方法については、後述する。次いで、この樹脂溶液に、無水フタル酸(東京化成工業製)13.8部を加え40℃で反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、水を加えて転相乳化する前の本発明で好適に使用するカルボキシル基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂を得た。
【0067】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記の樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、80℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂合成例1で得た樹脂製の樹脂フィルムを得た。この樹脂フィルムの外観、機械強度、酸素透過率(ガスバリア性)、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。それぞれの測定方法については後述する。その結果を表1に示した。
【0068】
[実施例用の樹脂合成例2]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、メタキシレンジアミン(三菱ガス化学製)を25.4部、イミノビスプロピルアミン(東京化成製)を6.1部、テトラヒドロフランを206部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として25.5mgKOH/gであった。次いで、樹脂合成例1で用いた無水フタル酸に変えて、無水マレイン酸4.6部を使用した以外は、樹脂合成例1と同様に反応させて、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0069】
[実施例用の樹脂合成例3]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器内に、製造例2で得た化合物I−Bを100部、へキサメチレンジアミンを29.9部、トリエチレンテトラミン(東京化成工業製)を9.4部、テトラヒドロフランを236部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として26.2mgKOH/gであった。次いで、樹脂合成例1で用いた無水フタル酸に変えて、無水マレイン酸12.6部を使用した以外は、樹脂合成例1同様に反応させて、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0070】
[実施例用の樹脂合成例4]
実施例1で用いたのと同様の反応容器内に、化合物I−Aを100部、ジエチレントリアミンを24.1部、テトラヒドロフランを220部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として107.0mgKOH/gであった。次いで、樹脂合成例1で用いた無水フタル酸に変えて、無水マレイン酸22.9部を使用した以外は、樹脂合成例1と同様に反応させて、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0071】
[比較例用の樹脂合成例a]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業製)を27.1部、さらに、反応溶媒としてテトラヒドロフラン204部を加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた比較例用の樹脂は、2級アミノ基を含まないポリヒドロキシウレタン樹脂であった。次いで、反応溶液を60℃に保ったまま、無水マレイン酸を9.2部、付加反応用触媒(兼中和剤)として、トリエチルアミンを9.4部加え、60℃で2時間の反応を行い、反応を終了した。反応後の比較例用の樹脂溶液をFT−IRで分析したところ、酸無水物カルボニル由来の1800cm-1のピークは完全に消失していた。得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0072】
[比較例用の樹脂合成例b]
製造例1で得た化合物I−Aを100部、メタキシレンジアミンを31.8部、テトラヒドロフランを225部とし、無水マレイン酸を18.3部、トリエチルアミンを18.9部とした以外は、樹脂合成例aと同様に反応を行い、比較例用の樹脂溶液を得た。得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0073】
[比較例用の樹脂合成例c]
上記で使用したと同様の反応容器内に、製造例1で得た化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、テトラヒドロフランを198部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行い、比較例用の樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液は、カルボキシル基を含まない通常のポリヒドロキシウレタン樹脂である。得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0074】
(評価)
以上で説明した実施例用の樹脂合成例1〜4及び比較例用の樹脂合成例a〜cでそれぞれ得た各樹脂、及び各樹脂で作製した各フィルムについて、以下の方法及び基準で評価した。各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0075】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各合成例で使用したヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例用の樹脂合成例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%、であり、これより実施例用の樹脂合成例1のポリウレタン中の二酸化炭素濃度は(100部×20.5%)/139.7全量=14.7質量%となる。
【0076】
[分子量]
DMFを移動相としたGPC測定(東ソー製、GPC−8220;カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000;以下の実施例も同様)により測定した。ポリスチレン換算値として重量平均分子量を表す。
【0077】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれもヘイズメーター(スガ試験機(株)製 HZ−1)により測定した。ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
<評価基準>
〇:全光線透過率90%以上 ヘイズ0.5%以下
×:〇に該当しないもの
【0078】
[酸価、水酸基価]
いずれも各樹脂について、JIS K−1557に準拠した滴定法により測定し、樹脂1gあたりの各官能基の含有量を、KOHのmg当量で表した。なお、単位はmgKOH/gである。
【0079】
[機械強度]
作製した各樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度及び破断点伸度を測定した。測定はJIS K−6251に準拠して、オートグラフ〔島津製作所(株)製、AGS−J(商品名)〕を使用した測定法によって、室温(25℃)で測定を実施した。
【0080】
[ガスバリア性(酸素透過率)]
作製した各樹脂フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過率を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置(MOCON社製 OX−TRAN 2/21ML)を使用して、温度23℃で、湿度65%の恒温恒湿条件下にて酸素透過率を測定した。なお、使用したフィルムは乾燥後の膜厚が50μmであるため、膜厚20μmに換算した値を表1に記載した。
【0081】
【0082】
<粘土鉱物の調製>
[製造例3:粘土鉱物分散液Aの調製]
ホモディスパーを用いて、水95部と、粘土鉱物としてモンモリロナイト(クニミネ工業製 クニピアF)5部を予備混合した後、超音波分散機(株式会社ソニックテクノロジー製)を用いて、粘土鉱物層間の膨潤と分散を行った。粘土鉱物が均一に分散したことを確認し、これを粘土鉱物分散液Aとした。
【0083】
[製造例4:粘土鉱物分散液Bの調製]
ホモディスパーを用いて、水95部と、粘土鉱物として合成マイカ(コープケミカル製 ソマシフ ME−100)5部を予備混合した後、超音波分散機を用いて、粘土鉱物の分散液を得た。これを粘土鉱物分散液Bとした。
【0084】
[実施例1]
(樹脂の水分散体の製造)
撹拌及び減圧蒸留が可能な反応容器内に、実施例用の樹脂合成例1で得られた樹脂溶液(THF溶液)100部及びトリエチルアミン2.9部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去した。減圧は、THFの留出が無くなり、水が留出するまで行い、冷却後に、水を加え固形分を23質量%に調整(以下の実施例も同様に調整)することにより、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を得た。得られた水分散体の外観は、半透明状で均一であり、水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)は、d50=0.0790μmであった。図1に、測定した水分散体の粒度分布を示した。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し評価したところ、良好な安定を示した。
【0085】
(ポリヒドロキシウレタン水分散体組成物の製造)
上記で得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体5部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌して、本実施例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物が分散してなる水分散体組成物を得た。得られた水分散体組成物の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し、後述する方法にて評価したところ、良好な安定を示した。
【0086】
上記で得たポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を、厚み40μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)〔東洋紡製、パイレンP1111(商品名)、酸素透過率実測値:1500mL20μm/m2・day・atm)を用い、そのコロナ処理面上に、乾燥時の膜厚が5μmになるように塗布し、100℃にて乾燥することで、基材上に被覆層を形成して複層フィルムを得た。水分散体組成物の保存安定性を評価すると共に、上記で得られたフィルムを用いて塗膜外観、光線透過率、表面光沢、ガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については、後述する。結果を表2に示した。
【0087】
[実施例2]
先に説明した実施例用の樹脂合成例1で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン2.9部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体(固形分23%)を得た。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体10部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例のポリヒドロキシウレタン水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0088】
[実施例3]
先に説明した実施例用の樹脂合成例1で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン2.9部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を得た。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例の、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体(固形分23%)を得た。そして、得られた水分散体を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0089】
[実施例4]
先に説明した実施例用の樹脂合成例1で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン2.9部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体(固形分23%)を得た。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体40部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0090】
[実施例5]
先に説明した実施例用の樹脂合成例2で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン1.4部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体(固形分23%)を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)はd50=0.08040μmであった。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物(固形分23%)を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0091】
[実施例6]
先に説明した実施例用の樹脂合成例3で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン4.7部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体(固形分23%)を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)はd50=0.0127μmであった。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例4で調製した粘土鉱物分散液Bの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0092】
[実施例7]
先に説明した実施例用の樹脂合成例4で得られた樹脂溶液100部に、トリエチルアミン6.4部を加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体(固形分23%)を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)はd50=0.0071μmであった。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例4で調製した粘土鉱物分散液Bの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、本実施例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0093】
[比較例1]
比較例用の樹脂合成例aで得た樹脂溶液に、反応時に既に使用しているトリエチルアミンを加えないこと以外は、実施例1と同様にして、濃度23%に調整した、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)は、d50=0.0179μmであった。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、比較例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た比較例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表3に示した。
【0094】
[比較例2]
比較用の樹脂合成例bで得た樹脂溶液に、反応時に既に使用しているトリエチルアミンを加えないこと以外は実施例1と同様にして転相乳化を行って、濃度23%に調整した、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を得た。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布(日機装製 UPA−EX150にて測定)はd50=0.001μmであった。次いで、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体20部と、製造例3で調製した粘土鉱物分散液Aの10部を混合し、ホモディスパーで均一に撹拌することにより、比較例の、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂と粘土鉱物とが分散してなる水分散体組成物を得た。そして、得られた水分散体組成物を用い、実施例1で使用したと同様の基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た比較例の水分散体組成物及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表3に示した。
【0095】
[比較例3]
比較用の樹脂合成例cで得たカルボキシル基を含まないヒドロキシポリウレタン樹脂溶液100部に、イオン交換水100部を徐々に加えながら転相乳化を試みた。しかし、30部を加えた時点で樹脂が分離したため中止した。
【0096】
(評価)
上記で得た実施例1〜7及び比較例1、2の各水分散体組成物の特性、及び、各水分散体組成物を用いて得た塗料で作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。結果を表2、3にまとめて示した。
【0097】
[安定性]
実施例1〜7及び比較例1、2の各水分散体組成物を、密閉したポリ容器に入れ、50℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、一ヶ月、三か月、六か月後の状態を観察し、それぞれ、以下の基準で評価し、結果を表2、3中に示した。
<評価基準>
〇:ポリマー粒子及び粘土鉱物の沈降は無く、外観上の変化が見られない。
△:ポリマー粒子及び粘土鉱物が沈降しているが撹拌により簡単に再分散する。
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降。撹拌しても再分散できない。
【0098】
[塗膜外観]
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した各複層フィルムについて、塗布面(コーティング層)の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を表2、3中に示した。
<評価基準>
〇:透明〜半透明均一な被膜が形成されており、目視で確認できる凝集物が無い
×:凝集物によるスジ引き等と被膜が不均一、或いは目視できる凝集物がある
【0099】
[表面光沢]
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した各複層フィルムについて、光沢計(スガ試験機製 UGA−5D)を使用し、入射角60°における光沢値を標準版の光沢値を92とした相対値として測定した。結果を表2、3中に示した。
【0100】
[耐水性]
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で1時間後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表2、3中に示した。
<評価基準>
〇:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0101】
[ガスバリア性]
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した表面に塗膜(コート層)を有する各フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX−TRAN 2/21ML)を使用して、温度23℃で、湿度65%の恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。なお、先に表1中に示した実施例用の樹脂合成例1〜4で作製したフィルムの酸素透過率は、膜厚20μmに換算した値であるのに対し、表2、3に示した実施例1〜7、比較例1、2のフィルムのガスバリア性の測定値は、表面に塗膜(コート層)を有するフィルム構成体としての酸素透過度である。該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られたコート層の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所製)を使用して実測し、5μmであることを確認している。結果を表2、3中に示した。
比較のため、各水分散体組成物の調製に使用した樹脂の水分散体を用い、上記と同様にコート層の厚みを5μmにした表面に塗膜(コート層)を形成したフィルムについて、ガスバリア性を評価した。その結果を表2中に示した。
【0102】
【0103】
【0104】
表2から明らかなように、本発明の技術により粘土鉱物とポリヒドロキシウレタン樹脂が均一に分散された水分散体組成物を得ることができる。特に、従来処方で製造した比較例のヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を用いた場合と比べて、粘土鉱物の分散性安定性に優れており、これは、本発明で使用したポリヒドロキシウレタン樹脂中に、アミド結合を介してカルボキシル基が導入されていることに由来していると考えられる。すなわち、アニオン性のカルボキシル基のみで親水化したポリヒドロキシウレタン樹脂のポリマー鎖は、粘土鉱物の層間に侵入しにくいことに比べて、本発明に使用したポリヒドロキシウレタン樹脂は、このアミド結合の存在により、粘土鉱物の層間へのポリマー鎖の侵入が阻害されず、均一な分散体を製造することができたと考えられる。この結果、表2に示されているように、粘土鉱物を利用したものでありながら、実施例の水分散体組成物を用いて形成した塗膜(被膜層)は、いずれも凝集物のない、粘度鉱物が微分散していることによってもたらされる光沢度を示す外観に優れたものになることが確認された。
【0105】
また、従来ヒドロキシウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する際のエステル結合と比較して、アミド結合は耐加水分解性に勝るため、ポリマー分散粒子の安定性も良好であった。さらに、本発明の、粘土鉱物とポリヒドロキシウレタン樹脂が均一に分散された水分散体組成物を使用して被膜を形成することで、簡易に、粘土鉱物−ポリヒドロキシウレタン樹脂の複合被膜を得ることができ、粘土鉱物の分散状態が良好なことから、高いガスバリア性を実現できることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、工業的に要求される長期間の保存が可能なポリヒドロキシウレタン樹脂−粘土鉱物の水分散体組成物を提供することができる。更に、該水分散体組成物を使用して、簡易にポリヒドロキシウレタン−粘土鉱物複合被膜の形成が可能であり、この被膜はガスバリア層として使用できる。また、形成される被膜は、粘土鉱物を利用したものでありながら、凝集物のない、粘度鉱物が微分散していることによってもたらされる光沢度を示す外観に優れたものになることから、広範な分野での利用が期待される。さらに、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、その原料に二酸化炭素を使用することができるものであるので、地球環境保護の面からも期待される技術である。
図1