【解決手段】シンチレータ13は、ハロゲン化合物を主成分とし、酸化炭素成分を含まない蛍光体27である。酸化炭素成分を含まないとは、IR分析法によって酸化炭素成分が検出されない範囲である。シンチレータ13は、真空蒸着法により真空中の酸化炭素分圧が0.78×10
【背景技術】
【0002】
アクティブマトリクス方式を用いた平面形の放射線検出器が、主に医療用の放射線診断用検出器として広く用いられている。
【0003】
この放射線検出器は、マトリクス状に並んだ複数の光電変換素子を有する光検出器、およびこの光検出器上に形成されたシンチレータを備えている。そして、放射線検出器に入射した放射線をシンチレータで光に変換し、その光を光検出器によって電気信号に変換することにより、画像を取得している。
【0004】
シンチレータの材料としては、Tl賦活ヨウ化セシウム(CsI/Tl)などのハロゲン化合物や、テルビウム賦活硫酸化ガドリニウム(Gd
2O
2S/Tb)などの酸化物系化合物が用いられている。
【0005】
シンチレータの特性には、感度や解像度といった基本的な特性のほかに、時間的な応答特性がある。例えば、シンチレータへの放射線照射を停止した後、引き続きシンチレータから弱い光が放出される残光現象があり、また、シンチレータへの放射線照射後(第1照射と呼ぶ)、再度照射(第2照射と呼ぶ)したときに、第1照射の画像が第2照射の画像に重なって見えるゴースト現象がある。ゴースト現象は、第1照射に起因して蓄積したエネルギーが第2照射に刺激されて発光する現象である。
【0006】
残光特性は放射線照射後の数十秒で消滅するが、ゴースト現象はシンチレータの状態によって発光後、数分経っても残存していることがある。このようなゴースト現象は、放射線検出器にとって好ましいものではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に放射線検出器の断面図、
図2に放射線検出器の斜視図をそれぞれ示す。
【0013】
放射線検出器11は、光を電気信号に変換する光検出器12、この光検出器12の表面に設けられ入射する放射線としてのX線を光に変換するシンチレータ(シンチレータ層)13、このシンチレータ13上に設けられシンチレータ13で変換した光を光検出器12へ反射させる反射層14、光検出器12上にシンチレータ13および反射層14を覆って設けられこれらを外気や湿気から保護する保護体15を備えている。
【0014】
そして、光検出器12は、シンチレータ13から入射する光を電気信号に変換するもので、ガラス基板16、このガラス基板16上に設けられた光電変換部17、行方向に沿って配設された複数の制御ライン(またはゲートライン)18、列方向に沿って配設された複数のデータライン(またはシグナルライン)19、各制御ライン18が電気的に接続された図示しない制御回路、各データライン19が電気的に接続された図示しない増幅/変換部を備えている。
【0015】
光検出器12には、光電変換部17を構成する複数の画素20がマトリクス状に形成されているとともに、各画素20内にそれぞれ光電変換素子としてのフォトダイオード21が配設されている。フォトダイオード21は、アモルファスシリコン(以下a−Si)によって構成され、シンチレータ13から入射する光を電荷に変換する。各画素20は、フォトダイオード21に電気的に接続された薄膜トランジスタ(TFT)22、フォトダイオード21にて変換した電荷を蓄積する図示しない蓄積キャパシタを具備している。但し、蓄積キャパシタは、フォトダイオード21の容量が兼ねる場合もあり、必ずしも必要ではない。各薄膜トランジスタ22は、フォトダイオード21への光の入射にて発生した電荷を蓄積および放出させるスイッチング機能を担う。薄膜トランジスタ22は、ゲート電極23、ソース電極24およびドレイン電極25のそれぞれを有している。このドレイン電極25は、フォトダイオード21および蓄積キャパシタに電気的に接続されている。
【0016】
制御ライン18は、各画素20間に行方向に沿って配設され、同じ行の各画素20の薄膜トランジスタ22のゲート電極23に電気的に接続されている。また、データライン19は、各画素20間に列方向に沿って配設され、同じ列の各画素20の薄膜トランジスタ22のソース電極24に電気的に接続されている。
【0017】
制御回路は、各薄膜トランジスタ22の動作状態、即ちオンおよびオフを制御する。
【0018】
増幅/変換部は、例えば各データライン19に対応してそれぞれ配設された複数の電荷増幅器、これら電荷増幅器が電気的に接続された並列/直列変換器、この並列/直列変換器が電気的に接続されたアナログ−デジタル変換器を有している。
【0019】
そして、光検出器12の表面には樹脂製の保護層26が形成されている。
【0020】
なお、光検出器12には、C−MOSもしくはCCDを用いる場合もある。
【0021】
また、シンチレータ13は、入射するX線を光に変換するもので、例えば、ヨウ化セシウム(CsI):タリウム(Tl)、あるいはヨウ化ナトリウム(NaI):タリウム(Tl)などのハロゲン化合物を主成分とする蛍光体27が、真空蒸着法によって光検出器12の表面に形成されている。本実施形態のシンチレータ13は、Tl賦活ヨウ化セシウム(CsI/Tl)を主成分とし、酸化炭素成分を含んでいない。シンチレータ13は、真空蒸着法によって柱状結晶構造に形成されており、柱状結晶構造によってファイバー効果を発揮するため、放射線検出器11の高解像度化に寄与し、さらに、結晶性があるため、シンチレータ13として必要な発光特性を発揮することに寄与している。
【0022】
また、反射層14は、例えば、粒状TiO
2をペースト状の樹脂に分散させたものを、シンチレータ13上に膜状に塗布することに形成されている。TiO
2の粒径、樹脂の粘土を適切に選択することにより、ファイバーを形成する個々の柱状結晶間の隙間に樹脂およびTiO
2の粒が落下するのが防止される。
【0023】
また、保護体15は、CsI/Tlには吸湿性がある問題に対処している。シンチレータ13、すなわちCsI/Tlの柱状結晶が水蒸気を含んだ大気中に晒した状態で放置すると、前述の隣接する柱状結晶同士が融合して、ファイバー効果を損なわれる。その結果、放射線検出器としての解像度が低下する。したがって、保護体15を設けることが好ましい。保護体15の一例としては、AL箔を用い、保護体15の周辺部を吸湿性が少ない接着剤28を用いて光検出器12に接着することにより、光検出器12と保護体15との間でシンチレータ13を封止し、CsI/Tlの吸湿性の問題に対処している。
【0024】
そして、放射線検出器11の基本動作は、次の順序となる。
【0025】
放射線検出器11に入射したX線をシンチレータ13で光に変換する。
【0026】
シンチレータ13で変換された光は光検出器12のフォトダイオード21に入射する。このとき、シンチレータ13内で光検出器12に対して反対方向に向かった光は反射層14で反射され、光検出器12の方向に戻される。
【0027】
光検出器12のフォトダイオード21に入射した光は光電子として電気信号に変換され、この電気信号が読み出されて画像が取得される。
【0028】
また、シンチレータ13の特性には、感度や解像度といった基本的な特性のほかに、時間的な応答性がある。例えば、シンチレータ13へのX線照射を停止した後、引き続きシンチレータ13から弱い光が放出される残光現象があり、また、シンチレータ13へのX線照射後(第1照射と呼ぶ)、再度照射(第2照射と呼ぶ)したときに、第1照射の画像が第2照射の画像に重なって見えるゴースト現象がある。ゴースト現象は、第1照射に起因して蓄積したエネルギーが第2照射に刺激されて発光する現象である。残光特性はX線照射後の数十秒で消滅するが、ゴースト現象は膜の状態によって発光後数分経っても残存していることがある。
【0029】
ここで、第1照射のエネルギーの蓄積について考察する。CsIの発光は、CsI結晶中で入射X線が高速電子を経て電子−正孔対に変換され、再結合するときに起こる現象である。正孔は2個のヨウ素イオン(化学式:2I
-)から、1個の電子が取出され、化学式I
2-となることにより形成される。これは、1個の価電子を共有した2個のヨウ素が部分的に結合し、ダンベル状の構造をしたものである。取り出された電子は、タリウムイオンTl
+に局在する。電子が局在したTlのサイトが、正イオンが局在電子で中和された意味合いでTl
0と表記する。発光に寄与する電子の状態が必ずしもTl局在したものと、限定することはできないが、常温でのCsI/Tlの発光効率がTl濃度に依存することから、Tl局在電子の発光に対する寄与は大きいと考えられる。電子が局在するTlサイトは、CsI結晶中であまり移動しない。一方、正孔であるI
2-は、隣接する通常のヨウ素イオンI
-と下記の式により交換されることにより、ヨウ素原子の位置を変えることなく移動することができる。
【0030】
I
2-(正孔)+I
-→I
-+I
0+I
-→I
-+I
2-(正孔)
【0031】
その後、電子と正孔は初期には互いにある離れた位置にあり、それらがお互いに引き合い、移動して結合する。しかし、この場合の電荷の移動は、電子が導電体もしくは半導体中を移動するのではなく、上記の式のようなモデルで結果的に起こる現象であることを考えると、ある時間がかかる。この発光の遅れは不可避であり、これが残光の原因の一部である。上記の式で見られる正孔の移動は常温では活発に起こっているとされ、その結果である残光は、通常、真空蒸着法で製作されるCsI/Tlのシンチレータ13に関して、医療用などの用途では問題にならない。
【0032】
しかし、電子と正孔が再結合する前に、あるトラップサイトに電荷が捕獲されることにより、ゴースト現象の原因となるエネルギーの蓄積が起こっていると考えられ、また、捕獲された電荷は消滅せずに長時間残存している。それらの電荷が第2照射により、トラップの障壁を乗り越え、再結合・発光することにより、画像に現れている。
【0033】
そして、ゴースト現象を低減するために必要なことは、X線照射に由来する、電子、正孔の移動を阻害する要因を排除することである。これら電荷は、格子欠陥・不純物といった局部的な電荷バランスを乱す部分に捕獲されている。したがって、それらの要因を排除することが必要である。
【0034】
そこで、様々な異なる条件でCsI/Tlのシンチレータ13を作成し、それらシンチレータ13とゴースト特性との相関を調査した。
【0035】
まず、ゴースト特性について定義する。
【0036】
図3はゴースト特性の測定方法を示す。まず、光検出器12上に成膜したシンチレータ13の中央部に、厚さ3mmの帯状の鉛プレート31を設置した状態で、第1照射として強いX線(70kV−320mAs)を照射する。なお、mAsという単位は、X線管に対する負荷であり、管電流(mA)に照射時間(s)を乗じたものである。このとき、鉛プレート31に覆われていない部分のシンチレータ13には、ゴースト特性の原因となる電荷の蓄積が起こっている。
【0037】
鉛プレート31を外した状態で60秒間放置し、第2照射として通常の撮影を想定した線量のX線(70kV−44.8mAs)を照射し、画像を取得する。この第2照射の前に、X線を照射しない暗画像を取得しておく。
【0038】
第2照射の画像(明画像)から暗画像を差し引き、ゴーストを含む差分画像が描出される。ここで、鉛プレート31で覆われていない部分の感度は、覆われている部分よりも感度が高い。この差分をゴースト特性とし、鉛プレート31で覆われた部分の感度と比で%表示する。
【0039】
次に、
図4に示すCsI/Tlのシンチレータ13の成膜工程について説明する。
【0040】
真空槽34内で、CsIを充填したCsIるつぼ35とTlIを充填したTlIるつぼ36を、光検出器12と対向させて配置する。そして、真空槽34を図示しない真空ポンプで排気し、圧力が1×10
-3Pa以下に到達したところで、真空槽34内に圧力が0.4PaとなるようにArガスを導入する。
【0041】
CsIるつぼ35とTlIるつぼ36を図示しないヒーターで加温する。そして、各るつぼ35,36の温度が十分上昇し、CsIとTlIの蒸発が開始した時点で、シャッター37,38を同時に開放し、光検出器12上にCsI/Tl膜を堆積させる。CsIるつぼ35とTlIるつぼ36の温度はいずれも材料の蒸発する速度を決定するので、光検出器12上のCsI/Tl膜に対して必要なTl濃度が得られるように、各温度を調整する。ここでは、Tl濃度を1%±0.2%となるように調整した。
【0042】
光検出器12上のCsI/Tlの膜厚が約600μmとなったところでシャッター37,38を閉じ、蒸着を終了する。るつぼ35,36の加温を止め、真空槽34内の温度が十分に冷えたところで、真空槽34内に窒素ガスを導入し、光検出器12を取り出す。
【0043】
次に、ゴースト特性の測定について説明する。
【0044】
シンチレータ13の成膜後、シンチレータ13上に反射層14を塗布し、シンチレータ13を保護体15で封止することにより、放射線検出器11が完成するが、ここでは、シンチレータ13の成膜が完了した時点で、
図3で説明した測定方法によってゴースト特性を測定した。
【0045】
ゴースト特性の測定は、前述の60秒後の値だけでなく、180秒後の値も測定し、180秒後の値を60秒後の値で割ることにより得られるゴースト減衰率も算出した。このゴースト減衰率は、ゴースト現象が消失するのにかかる時間と関係がある評価項目である。
【0046】
併せて、シンチレータ13の不純物をICP−MS分析法とIR分析法(赤外分光分析法)のそれぞれを用いて測定した。
【0047】
ICP−MS分析法は、プラズマをイオン源として使用し、発生したイオンを質量分析部で検出する分析法であり、54元素(Li、Be、Na、Mg、Al、K、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、Ba、Hf、Ta、W、Re、Ir、Pt、Au、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の濃度を分析した。検出限界は、K、Ca、Feに対しては3ppm。Na、Mg、Alに対しては、1ppm。その他の元素に対しては0.5ppmである。
【0048】
IR分析法は、対象物に赤外線を照射し、吸収されたスペクトルを測定することによって定性を行う分析法である。
【0049】
そして、
図5は、シンチレータ13の成膜条件を変更し、成膜条件と不純物の測定結果とゴースト特性の結果とを示したものである。ICP−MS分析法では、何らかの不純物の元素が検出された場合は○、全ての元素が検出されなかった場合は×で示す。IR分析法では、1725cm
-1でのピークが強く出た場合は○、1725cm
-1でのピークが弱く出た場合は△、1725cm
-1でのピークが出なかった場合は×で示す。
【0050】
まず判ったことは、いずれのサンプル1〜4も、ICP−MS分析法では、不純物は検出されなかった。一方、IR分析法では、官能器C=Oに由来する1725cm
-1での吸収が認められるものと認められないものがあった。すなわち、酸化炭素COが検出されたものと検出されなかったものがあった。
【0051】
酸化炭素COが検出されなかったものは、酸化炭素COの検出されたものに比べて、ゴースト特性が良好なだけではなく、ゴースト減衰率が極端に小さいことが判った。
【0052】
酸化炭素COがシンチレータ13に混入する経路としては、真空槽34内の残留ガスが考えられる。そこで、真空槽34に装着した質量分析器のデータを調査したところ、IR分析法で酸化炭素COが検出されなかったサンプル4の真空中の酸化炭素CO分圧は0.35×10
-4Pa、酸化炭素COの検出が少なかったサンプル3の真空中の酸化炭素CO分圧は0.78×10
-4Paで、他のサンプル1および2よりも低いことが判った。
【0053】
そして、サンプル1〜4について、真空中の酸化炭素CO分圧を調査し、酸化炭素CO分圧とゴースト特性およびゴースト残存率との相関をプロットしたところ、
図6のゴースト特性、
図7のゴースト減衰率のような結果となり、真空中の酸化炭素CO分圧がゴースト特性に大きく影響があることが判った。
【0054】
このように、IR分析法で酸化炭素COの成分が検出されないように、真空槽34内の残留ガスを確実に除去するなどの製造プロセスを調整することにより、優れたゴースト特性を発揮するシンチレータ13が得られることが判った。
【0055】
したがって、本実施形態のシンチレータ13は、ハロゲン化合物を主成分とし、酸化炭素成分を含まないことにより、ゴースト現象を低減できる。
【0056】
また、IR分析法によって酸化炭素成分が検出されない範囲であることにより、酸化炭素成分を含まないことを特定できる。
【0057】
また、シンチレータ13は、真空蒸着法によって真空中の酸化炭素分圧が、サンプル3の0.78×10
-4Paよりも少ない雰囲気で形成されていることにより、酸化炭素成分を含まないシンチレータ13を形成することができる。
【0058】
なお、本実施形態のシンチレータ13は、シンチレータパネルにも適用できる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。