(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-205513(P2016-205513A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】射出成形用材料及び燃料電池用ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20161111BHJP
H01M 8/0271 20160101ALI20161111BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20161111BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20161111BHJP
【FI】
F16J15/10 X
H01M8/02 S
B29C45/00
H01M8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-87455(P2015-87455)
(22)【出願日】2015年4月22日
(71)【出願人】
【識別番号】308013436
【氏名又は名称】小島プレス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】神谷 誠
(72)【発明者】
【氏名】村山 僚悟
(72)【発明者】
【氏名】池田 耕太郎
【テーマコード(参考)】
3J040
4F206
5H026
【Fターム(参考)】
3J040AA12
3J040FA06
3J040HA02
3J040HA30
4F206AA11E
4F206AH13
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF06
4F206JL02
5H026AA06
5H026BB00
5H026CC08
5H026EE18
5H026HH05
(57)【要約】
【課題】流動性が良好であって、薄肉部を有するガスケット等の部材を成形するために好適に用いられ得る射出成形用材料を提供すること。また、そのような射出成形用材料を用いて得られる、シール性に優れた燃料電池用ガスケットを提供すること。
【解決手段】射出成形用材料を、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを、溶融状態にて混練し、調製した。また、燃料電池用ガスケットを、そのような射出成形用材料を用いて、射出成形法に従って製造した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを、溶融状態にて混練し、調製してなる射出成形用材料。
【請求項2】
前記ポリプロピレン材料がホモポリプロピレンであり、前記変性ポリプロピレン材料がホモポリプロピレンの変性物である請求項1に記載の射出成形用材料。
【請求項3】
前記ポリプロピレン材料と前記変性ポリプロピレン材料との重量比が、[ポリプロピレン材料]:[変性ポリプロピレン材料]=40:60〜50:50である請求項1又は請求項2に記載の射出成形用材料。
【請求項4】
前記変性ポリプロピレン材料が、無水マレイン酸変性ポリプロピレンである請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の射出成形用材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の射出成形用材料を用いて射出成形されてなる燃料電池用ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用材料及び燃料電池用ガスケットに係り、特に、薄肉部を有するガスケット等の部材を射出成形する際に好適に用いられ得る射出成形用材料、及びそのような射出成形用材料を用いて得られる燃料電池用ガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、配管の継ぎ目等、二つの部材の間を密閉する必要がある箇所においては、所定のシール部材(ガスケット)が挟持されて用いられている。例えば、燃料電池は、一対のセパレータ間に膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly :MEA)等の燃料電池構成部材が納められてなる燃料電池セルの複数が、積み重ねられて構成されているが、それら一対のセパレータの間においては、各燃料電池セルからの水素や酸素等のガスの漏れを防止するために、合成樹脂製のガスケット(燃料電池用ガスケット)が挟持されている。
【0003】
そのような燃料電池用ガスケットは、従来、薄板状のシート材をプレス加工することによって製造されている。また、特開2009−140825号公報(特許文献1)等には、燃料電池を構成する電解質膜の外側に、所定の樹脂材料を射出成形(インサート成形)することにより、ガスケット部を一体的に成形する手法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−140825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プレス加工による燃料電池用ガスケットの製造においては、プレス加工によってシート材から孔部等の不要な部分を打ち抜くため、歩留まりが悪くなると共に、ガスケットの表面にガスの流路等の細かな凹凸形状を形成することが困難であるという問題がある。
【0006】
また、燃料電池用ガスケットに対しては、良好なシール性を発揮するために、金属材料や樹脂材料等からなる相手部材との密着性が求められる。そのため、従来より、シート材として、ベースとなるシート状基材の両面に相手部材との密着性に優れた接着層が設けられてなる3層押出しシート材が、用いられている。しかしながら、そのようなシート材は高価であるため、燃料電池用ガスケットの製造コストが高騰してしまう。
【0007】
これに対し、射出成形法を用いて燃料電池用ガスケットを製造する場合には、予め表面に接着層を形成することが出来ないため、射出成形品の表面に対して、後工程にて、相手部材との密着性(シール性)を高めるための接着剤の塗布処理等を行ない、燃料電池用ガスケットを完成させる必要がある。また、シール性を更に高めるために、接着剤の塗布処理前に、射出成形品の表面にプラズマ処理やプライマー処理等を施す場合もあるが、これらの処理によって、燃料電池用ガスケットの製造コストが高騰してしまうという問題がある。
【0008】
なお、特開2007−280719号公報等には、相手部材との接着性(密着性)を確保するために、シール部材を構成する熱可塑性樹脂を酸により変性させることが示されている(同公報の明細書段落[0061]等参照)。しかしながら、そのように変性された熱可塑性樹脂材料は、一般的に流動性が悪いものであり、例えば、そのような材料を用いて射出成形を行なった場合には、ショートショット(欠肉)やウエルドライン等の成形不良が発生し易いという問題を内在しているのである。
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、流動性が良好であって、薄肉部を有するガスケット等の部材を成形するために好適に用いられ得る射出成形用材料を提供することにある。また、本発明は、そのような射出成形用材料を用いて得られる、シール性に優れた燃料電池用ガスケットを提供することをも、その解決課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明にあっては、かかる課題を解決するために、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを、溶融状態にて混練し、調製してなる射出成形用材料を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、このような本発明に従う射出成形用材料の望ましい態様の一つによれば、前記ポリプロピレン材料がホモポリプロピレンであり、前記変性ポリプロピレン材料がホモポリプロピレンの変性物である。
【0012】
また、本発明に従う射出成形用材料の有利な態様の一つによれば、前記ポリプロピレン材料と前記変性ポリプロピレン材料との重量比が、[ポリプロピレン材料]:[変性ポリプロピレン材料]=40:60〜50:50であり、更に、前記変性ポリプロピレン材料が、無水マレイン酸変性ポリプロピレンであることが、好ましい。
【0013】
そして、本発明にあっては、上記した射出成形用材料を用いて射出成形されてなる燃料電池用ガスケットをも、また、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従う射出成形用材料にあっては、主に高い流動性の発現に寄与するポリプロピレン材料と、主に優れた密着性の発現に寄与する変性ポリプロピレン材料とから構成せしめられているところから、射出成形時における材料の流動性が有利に確保されることとなり、以て、射出成形の実施によって得られる射出成形品において、ショートショットやウエルドライン等の成形不良が発生することが、有利に抑制乃至は阻止され得ることとなる。
【0015】
また、そのような射出成形用材料を用いた射出成形の実施によって得られる射出成形品においては、相手部材との優れた密着性が発揮されることとなる。このため、かかる射出成形用材料を用いて成形された射出成形品に対しては、相手部材との密着性を高めるための後処理を省略することが可能となるところから、目的とする製品の製造に係るコストを有利に低減することが可能となる。
【0016】
さらに、本発明に係る射出成形用材料は、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とが溶融状態にて混練せしめられて、調製されているところから、材料全体として均一な組成を有するものとなる。従って、射出成形時には、ポリプロピレン材料に起因する高い流動性が安定的に発揮され、また、得られる射出成形品においては、変性ポリプロピレン材料に起因する優れた密着性が、安定して発揮されることとなる。
【0017】
そして、上記した特性を有する射出成形用材料を用いて、射出成形法に従って得られる燃料電池用ガスケットにあっては、成形不良の発生が有利に抑制乃至は阻止されていると共に、優れたシール性が発揮されることとなる。加えて、射出成形により、材料が無駄なく利用されることとなって歩留まりが向上されると共に、燃料電池用ガスケットの表面にガスの流路等の凹凸形状が有利に形成可能とされるところから、かかる燃料電池用ガスケットの製造コストが効果的に低減され得ることとなるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に従う燃料電池用ガスケットの一例を示す平面説明図である。
【
図2】
図1におけるA−A断面拡大部分説明図である。
【
図3】
図1におけるB−B断面拡大部分説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
ところで、本発明に従う射出成形用材料は、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とが、溶融状態にて混練せしめられ、調製されてなるものである。なお、そのような射出成形用材料中には、得られる射出成形品(ガスケット10)に対して所望の物性を付与するために、ポリプロピレン材料及び変性ポリプロピレン材料以外の各種の添加物が、本発明の目的しない限りの量的割合において添加されていても、何等差し支えない。
【0021】
かかる射出成形用材料を構成するポリプロピレン材料の種類は、特に限定されるものではなく、射出成形用材料として一般的に用いられる各種のポリプロピレン材料が、適宜に選択されて用いられることとなる。ここで、ポリプロピレン材料を構成するポリプロピレンは、一般に、コモノマー(主としてエチレン)との共重合の形態において、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーの3種に分類される。それらの中でも、本発明においては、剛性が高い等の特徴を有するホモポリマー(ホモポリプロピレン)が、有利に用いられる。なお、ホモポリプロピレンとは、プロピレンの単独重合体であって、プロピレンを連鎖移動剤としての水素のみを用いて重合させることにより得られるものである。
【0022】
また、ポリプロピレン材料は、一般に射出成形時の流動性が高いといった特徴を有するものであるところ、本発明においては、好ましくは、メルトマスフローレート(MFR)が80〜120g/10minの範囲内にあるポリプロピレン材料が使用される。なお、ポリプロピレン材料のMFRとは、JIS K7210(試験温度:230℃、公称荷重:2.16kg)に規定される方法によって測定されたものを意味し、溶融したポリプロピレン材料の射出成形時における流動性を示す指標となるものである。MFRが80g/10minよりも低いポリプロピレン材料を用いると、射出成形時の流動性が低くなり、成形用金型内への充填が困難となって、ショートショットやウエルドライン等の成形不良の発生が惹起される恐れがあり、その一方、MFRが120g/10minよりも高いポリプロピレン材料は、物性として脆くなり、得られるガスケットにおいて割れの問題が発生する可能性がある。
【0023】
さらに、ポリプロピレン材料のMFRと、かかるポリプロピレン材料を構成するポリプロピレンの分子量とは相関関係にあり、一般に、ポリプロピレンの分子量が小さい程、ポリプロピレン材料のMFRが高くなる傾向がある。従って、ポリプロピレン材料を構成するポリプロピレンの分子量は、成形される射出成形品の強度が確保される程度において小さいものであることが好ましい。
【0024】
一方、射出成形用材料を構成する変性ポリプロピレン材料は、基材となるポリプロピレンの変性物である変性ポリプロピレンからなるものであって、特に限定されるものではなく、従来より公知の各種変性ポリプロピレン材料の中から、適宜に選択されて、用いられることとなる。このような、変性ポリプロピレン材料は、ポリプロピレンに官能基が導入されていることにより、金属材料や樹脂材料等からなる相手部材(例えば、セパレータ16等)に強力に接着(密着)するという特徴を備えている。
【0025】
変性ポリプロピレン材料を構成する変性ポリプロピレンとしては、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸、又はその無水物でグラフト変性したポリプロピレンや、プロピレンとアクリル酸若しくはメタアクリル酸との共重合体、或いは、それらのうちの複数種を組み合わせてなるもの等を例示することが出来る。それらの中でも、相手部材の表面との濡れ性に優れ、得られる射出成形品におけるシール性(密着性)を向上させ易い点から、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが有利に用いられる。
【0026】
また、変性ポリプロピレン材料の基材となるポリプロピレンは、共に射出成形用材料を構成する、前述したポリプロピレン材料を構成するポリプロピレンと同一のものであることが好ましい。これにより、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料との相溶性が良好となり、それらが均一に混ざり易くなるため、得られる射出成形用材料が、より有利に全体として均一な組成を有するものとなるのである。更に、変性ポリプロピレン材料はホモポリプロピレンの変性物であることが、より好ましい。
【0027】
ここで、射出成形用材料を構成するポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料との混合比率(重量比)は、何等限定されるものではなく、射出成形時において必要な流動性及び成形される射出成形品において要求される相手部材との密着性(シール性)を確保することが出来る範囲で、適宜に決定されることとなる。例えば、射出成形用材料におけるポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料との重量比は、[ポリプロピレン材料]:[変性ポリプロピレン材料]=40:60〜50:50(ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料の合計を100とする)とされていることが、望ましい。
【0028】
すなわち、そのような重量比([ポリプロピレン材料]:[変性ポリプロピレン材料]=40:60〜50:50)の範囲に対して、ポリプロピレン材料の配合量が相対的に少なくなる(変性ポリプロピレン材料の配合量が相対的に多くなる)と、得られる射出成形用材料の射出成形時の流動性が低くなり、成形用金型内への充填が困難となって、ショートショットやウエルドライン等の成形不良の発生が惹起される恐れがある。一方、変性ポリプロピレン材料の配合量が相対的に少なくなる(ポリプロピレン材料の配合量が相対的に多くなる)と、射出成形によって得られる射出成形品において、相手部材との密着性が低下して、所望のシール性が得られなくなるという問題が生じる恐れがある。
【0029】
そして、本発明に従う射出成形用材料においては、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とが、溶融状態にて混練せしめられて、調製されている。即ち、従来のように、予めペレット化されたポリプロピレン製ペレットと変性ポリプロピレン製ペレットとを、射出成形機のホッパに投入し、それらが射出成形の直前に混合されるのではなく、所定の混練機が用いられて、溶融せしめられたポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とが、混練(捏和)せしめられているのである。このように、ポリプロピレン材料及び変性ポリプロピレン材料を溶融状態で混練し、調製することにより、本発明に従う射出成形用材料にあっては、射出成形時に優れた流動性を発揮すると共に、得られる射出成形品においては、優れた密着性を発揮することとなるのである。
【0030】
なお、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを溶融状態にて混練せしめる際に用いられる混練機(攪拌装置)としては、公知の各種の機構を備えるものを用いることが可能である。例えば、単軸押出機、二軸(多軸)押出機、ニーダ、加圧ニーダ、及びバンバリーミキサ(インテンシブミキサ又はインターナルミキサとも言う)を、挙げることが出来る。その中でも、各種の押出機においては、得られた射出成形用材料を、そのままペレット化して取り出すことが出来るため、工業的な生産において有利に使用される。
【0031】
また、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを溶融状態にて混練せしめる際の温度は、それらポリプロピレン材料及び変性ポリプロピレン材料が十分に溶融し、且つ熱分解しない範囲内で、適宜に設定されることとなるが、好ましくは180℃〜220℃の範囲とされる。
【0032】
さらに、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料とを溶融状態にて混練せしめて得られる射出成形用材料にあっては、材料全体としてのMFRが15〜120g/10minの範囲となるように調製されることが好ましい。即ち、MFRが15g/10minよりも低い材料では、射出成形時の流動性が低くなり、成形用金型内への充填が困難となって、ショートショットやウエルドライン等の成形不良の発生が惹起される恐れがあると共に、MFRが120g/10minよりも高い材料を調製することは、それ自体が困難なことである。
【0033】
ところで、
図1乃至
図3には、上述した射出成形用材料を用いて、射出成形法に従って製造された燃料電池用ガスケットの一例が、その平面形態と断面形態において、それぞれ示されている。そこにおいて、燃料電池用ガスケット10(以下、ガスケット10とも称する)は、
図1に示されるように、全体として矩形平板状の枠体形状を呈し、外周部分を構成するガスケット本体12と、内周部分を構成する薄肉のMEA保持部14とを有している。
【0034】
すなわち、ガスケット10は、
図2に示されるように、ガスケット本体12において、燃料電池セルを構成する一対のセパレータ16、16(
図2においては二点鎖線で示される)間に挟持され、それらセパレータ16、16の表面と略全周に亘って密着して、燃料電池セルからの燃料ガスや酸化剤ガス、及び生成される水の漏出を防止する機能を果たすものである。一方、MEA保持部14においては、燃料電池セルを構成するMEA(Membrane Electrode Assembly :膜−電極接合体)18(
図2においては二点鎖線で示される)が、その外周縁部において貼り付けられて、保持されることとなる。
【0035】
なお、ここで用いられるセパレータ16、16は、略平板形状を呈し、隣り合う燃料電池セル同士を区切るためのものであって、十分な導電性と強度と耐食性を有するものであればよく、例えば、耐食性を有する金属材料やカーボン(炭素)材料等から構成されている。
【0036】
また、ガスケット10(ガスケット本体12)の長手方向(
図1の左右方向)の両端側部分には、燃料ガスや酸化剤ガス、及び生成される水の通路を構成する、それぞれ矩形孔状の、複数(ここでは6つ)の孔20が形成されている。更に、
図3に示されるように、ガスケット本体12の一部が薄肉とされることにより、それぞれ凹凸形状を呈する、複数(ここでは4つ)の流路部22が形成されている。
【0037】
そして、本発明に係る射出成形用材料を用いてガスケット10を製造する際には、例えば、先ず、ポリプロピレン材料としてのホモポリプロピレンと、変性ポリプロピレン材料として、ホモポリプロピレンを無水マレイン酸でグラフト変性した無水マレイン酸変性ポリプロピレンとを、重量比で、[ポリプロピレン材料]:[変性ポリプロピレン材料]=50:50の割合において、溶融状態にて混練せしめる。次いで、この混練物を公知の手法によりペレット化して、射出成形用材料のペレットを得る。この射出成形用材料のペレットを、公知の射出成形機のホッパに投入する。その後、成形されるべきガスケット10の外形形状に対応した成形キャビティを有する成形用金型を用いて、射出成形を従来法に従って実施する。これにより、
図1に示されるような形状を有する、目的とするガスケット10を得ることが可能である。なお、ガスケット10の製造方法は、上記の特定の射出成形用材料を用いた射出成形法に従って製造するものであれば、具体的な手順などが、特に限定されるものではない。
【0038】
このようにして得られたガスケット10においては、射出成形時における流動性に優れた射出成形用材料を用いて、射出成形によって得られたものであるところから、ショートショットやウエルドライン等の成形不良の発生が、有利に抑制乃至は阻止され得ているのである。
【0039】
特に、ガスケット10は、MEA保持部14や流路部22といった、ショートショット等の成形不良が比較的発生し易い薄肉部を有するものであるところ、本発明に従う射出成形用材料を用いて成形されていることにより、それら薄肉なMEA保持部14及び流路部22における成形不良の発生をも、有利に抑制乃至は阻止され得ることとなるのである。
【0040】
また、そのようなガスケット10においては、変性ポリプロピレン材料により与えられる金属材料等に対する優れた密着性に基づいて、セパレータ16との優れた密着性が発揮されることとなる。このため、成形されたガスケット10に対して、セパレータ16との密着性を高めるための後処理の実施を省略することが可能となるところから、ガスケット10の製造に係るコストを有利に低減することが可能となる。
【0041】
さらに、ガスケット10の成形材料として用いられる射出成形用材料が、全体として均一な組成を有するものであるところから、ポリプロピレン材料に起因する高い流動性及び変性ポリプロピレン材料に起因する優れた相手部材との密着性に基づく特徴が、ガスケット10全体において、有利に安定して発揮されることとなるのである。
【0042】
かくして、本発明に従う射出成形用材料を用いて射出成形されてなる燃料電池用ガスケット10にあっては、成形不良の発生が有利に抑制乃至は阻止されていると共に、優れたシール性が発揮されることとなる。加えて、射出成形により、材料が無駄なく利用されることとなって歩留まりが向上されると共に、燃料電池用ガスケット10の表面に流路部22等の凹凸形状を有利に形成可能となるところから、かかる燃料電池用ガスケット10の製造コストが、より効果的に低減され得ることとなるのである。
【0043】
なお、本発明は、前記実施形態に係る燃料電池用ガスケット10の他にも、射出成形用材料を用いた射出成形によって得られる各種の射出成形品、例えば、自動車用部品、機械装置、家電製品、及び携帯電子機器等の様々な製品又はその構成部材の何れに対しても有利に適用され得るものであり、特に、二つの部材の間を密閉する必要がある箇所において用いられるシール部材に対して、有利に適用され得るものである。
【0044】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0045】
10 ガスケット 12 ガスケット本体
14 MEA保持部 16 セパレータ
18 MEA 20 孔
22 流路部