【課題】圧延機のロールネック用の軸受に用いられる軸受用密封装置を軸受内に配置するときに、軸受用密封装置が有するシールゴムのリップが内輪に引き摺られて変形したままになるのを防止する。
【解決手段】軸受用密封装置(20)は、複数の内輪(14)のうち軸方向で隣り合う2つの内輪(14A、14B)が軸方向で突き合わせられた部分の外周面に形成され、周方向に延びる溝(143)内に配置される。軸受用密封装置は、金具(22、26)と、金具(22)に接着されたシールゴム(24)とを含む。シールゴムは、溝の底面に接触するリップ(24B)を含む。リップは、径方向での弾性変形が可能になっている。金具は、ストッパ(26C)を含む。ストッパは、径方向から見て、リップの先端に重なり、且つ、径方向でリップの先端よりも内側に位置する部分を有する。
圧延機のロールネックに用いられる軸受であって、外輪と、前記外輪の軸方向に並んで配置された複数の内輪とを備える軸受に用いられ、前記複数の内輪のうち前記軸方向で隣り合う2つの内輪が前記軸方向で突き合わせられた部分の外周面に形成された溝であって、前記内輪の周方向に延びる溝内に配置される軸受用密封装置であって、
金具と、
前記金具に接着されたシールゴムとを備え、
前記金具は、
前記軸方向に延びる筒部と、
前記軸方向で前記筒部の一端に形成され、前記筒部の径方向で前記筒部から内側に延びる第1の環状板と、
前記軸方向で前記筒部の他端に形成され、前記筒部の径方向で前記筒部から内側に延び、且つ、前記軸方向から見て、前記径方向で前記第1の環状板よりも内側に位置する部分を有する第2の環状板とを含み、
前記シールゴムは、
前記筒部の内側に位置し、前記筒部及び前記第1の環状板に接着された本体と、
前記本体から前記軸方向に延び、且つ、前記溝の底面に接触し、前記径方向での弾性変形が可能なリップとを含み、
前記第2の環状板は、
前記径方向から見て、前記リップの先端に重なり、且つ、前記径方向で前記リップの先端よりも内側に位置する部分を有するストッパを含む、軸受用密封装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態による軸受用密封装置は、圧延機のロールネック用の軸受に用いられる。当該軸受は、外輪と、外輪の軸方向に並んで配置された複数の内輪とを備える。軸受用密封装置は、溝内に配置される。溝は、複数の内輪のうち軸方向で隣り合う2つの内輪が軸方向で突き合わせられた部分の外周面に形成され、内輪の周方向に延びる。軸受用密封装置は、金具と、シールゴムとを含む。シールゴムは、金具に接着されている。金具は、筒部と、第1の環状板と、第2の環状板とを含む。筒部は、軸方向に延びている。第1の環状板は、軸方向で筒部の一端に形成され、筒部の径方向で筒部から内側に延びている。第2の環状板は、軸方向で筒部の他端に形成され、筒部の径方向で筒部から内側に延び、且つ、軸方向から見て、径方向で第1の環状板よりも内側に位置する部分を有する。シールゴムは、本体と、リップとを含む。本体は、筒部の内側に位置し、筒部及び第1の環状板に接着されている。リップは、本体から軸方向に延び、且つ、溝の底面に接触する。リップは、径方向での弾性変形が可能となっている。第2の環状板は、ストッパを含む。ストッパは、径方向から見て、リップの先端に重なり、且つ、径方向でリップの先端よりも内側に位置する部分を有する。
【0014】
上記軸受用密封装置を溝内に配置する方法は、例えば、以下のとおりである。先ず、軸方向で隣り合う2つの内輪の一方を準備し、当該一方の内輪に対して、軸受用密封装置を組み付ける。その後、軸方向で隣り合う2つの内輪の他方を準備し、当該他方の内輪を軸受用密封装置に組み付ける。これにより、軸受用密封装置が溝内に配置される。
【0015】
ここで、軸受用密封装置が有するシールゴムのリップは、軸受用密封装置が溝内に配置された状態で、溝の底面に接する。そのため、上記方法で軸受用密封装置を溝内に配置する場合、他方の内輪を軸受用密封装置に組み付けるときに、リップが他方の内輪に引き摺られて変形し、且つ、その状態が維持されるおそれがある。この場合、リップによる圧力調整ができなくなる。
【0016】
上記軸受用密封装置においては、リップが他方の内輪に引き摺られると、軸受用密封装置の金具に設けられたストッパに対して、リップが引っ掛かる。つまり、ストッパにより、リップの変形が阻止される。その結果、軸受用密封装置が溝内に配置された状態で、リップによる圧力調整が可能になる。
【0017】
リップは、好ましくは、ストッパに接触している。この場合、他方の内輪に引き摺られたときに、リップがストッパに引っ掛かり易くなる。
【0018】
ストッパは、好ましくは、径方向で溝の底面よりも外側に位置し、溝の底面との間に隙間を形成する。この場合、軸受用密封装置を溝内に配置するときに、ストッパが溝の底面に擦れるのを防ぐことができる。そのため、溝の底面に擦れることで変形したストッパが、リップによる圧力調整を阻害するのを防ぐことができる。
【0019】
軸方向で隣り合う2つの内輪のうち、一方を第1の内輪とし、他方を第2の内輪とする。第1の内輪は、好ましくは、第1の段差面と、第1の筒状面とを有する。第1の段差面は、軸方向で一端側の端部に形成され、周方向に延びる。第1の筒状面は、第1の段差面に接続され、第1の段差面から軸方向で一端側に延びる。第2の内輪は、好ましくは、第2の段差面と、第2の筒状面とを有する。軸方向で他端側の端部に形成され、周方向に延びる。第2の筒状面は、第2の段差面に接続され、第2の段差面から軸方向で他端側に延びる。軸受用密封装置が配置される溝は、第1の段差面と第2の段差面との間に形成される。
【0020】
上記態様においては、軸受用密封装置が配置される溝を容易に形成することができる。
【0021】
好ましくは、第2の環状板には、軸方向に貫通する孔が形成されている。この場合、第2の環状板に形成された孔を利用して、軸受の内部と外部との圧力差を調整することができる。
【0022】
好ましくは、金具の軸方向での長さは、溝の軸方向での長さよりも短い。この場合、2つの内輪を軸方向で確実に突合せることができる。その理由は、以下のとおりである。
【0023】
2つの内輪の外側には、外輪が配置されている。そのため、2つの内輪が軸方向で突き合わさっているか否かを目視することができない。
【0024】
上記態様では、金具が2つの内輪の軸方向での接触を邪魔しない。そのため、2つの内輪を軸方向で確実に突き合わせることができる。
【0025】
金具は、第1の金具と、第2の金具とを含んでいてもよい。第1の金具は、第1の環状板を含み、シールゴムが接着される。第2の金具は、第2の環状板を含み、第1の金具に固定される。
【0026】
この場合、例えば、軸受用密封装置として、第1の金具にシールゴムが接着された構造のものが既に存在するのであれば、当該既存の軸受用密封装置に対して第2の金具を固定するだけで、目的とする軸受用密封装置を製造することができる。つまり、シールゴムの加硫接着に用いる金型を変更しなくてもよい。その結果、既存の設備を利用することができる。
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図中同一又は相当部分には、同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0028】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による軸受用密封装置20が用いられる軸受10を示す。軸受10は、圧延機のロールネックに用いられる。
【0029】
以下の説明において、軸方向は、軸受10の中心軸線が延びる方向である。図中の左側が軸方向一端側に相当し、図中の右側が軸方向他端側に相当する。径方向は、中心軸線に垂直な方向、つまり、軸方向に垂直な方向である。図中の上側が径方向外側に相当し、図中の下側が径方向内側に相当する。周方向は、中心軸線周りの方向である。
【0030】
1.軸受の全体構成
図1を参照して、軸受10は、外輪12と、内輪14と、転動体16と、保持器18と、軸受用密封装置20とを含む。以下、これらの部材について説明する。
【0031】
外輪12は、例えば、炭素鋼からなる。外輪12は、筒形状を有する。なお、
図1では、1つの外輪12のみが示されているが、軸受10は、複数の外輪12を備える。これら複数の外輪12は、軸方向に並んで配置されている。軸方向で隣り合う2つの外輪12の間には、間座が配置されている。
【0032】
内輪14は、例えば、炭素鋼からなる。内輪14は、外輪12の内側に配置されている。内輪14は、外輪12に対して回転可能に配置されている。なお、
図1では、軸方向で隣り合う2つの内輪14のみが示されているが、軸受10は、3つ以上の内輪14を備える。
図1に示すように、上記2つの内輪14は、1つの外輪12に対して、軸方向で両側から挿入されている。以下の説明では、上記2つの内輪14の一方を内輪141とし、他方を内輪142とする。
【0033】
内輪141は、転動面14Aと、鍔部14Bと、小径部14Cとを含む。以下、これらについて説明する。
【0034】
転動面14Aは、内輪141の外周面に形成されており、周方向で全周に亘って延びている。転動面14Aには、転動体16(転動体161)が接する。
【0035】
鍔部14Bは、転動面14Aよりも軸方向で他端側に形成されている。鍔部14Bは、周方向で全周に亘って形成されている。鍔部14Bには、転動体16(転動体161)が接する。鍔部14Bは、端面14Dを有する。端面14Dは、鍔部14Bの軸方向の他端を規定しており、周方向で全周に亘って形成されている。
【0036】
小径部14Cは、鍔部14Bよりも軸方向で他端側に形成されている。小径部14Cは、鍔部14Bよりも小さな外径を有する。小径部14Cは、外周面14Eと、端面14Fとを含む。外周面14Eには、溝14Gが形成されている。溝14Gは、外周面14Eの軸方向一端に形成され、全周に亘って延びている。端面14Fは、小径部14Cの軸方向の他端を規定している。
【0037】
内輪142は、転動面14Hと、鍔部14Iと、小径部14Jとを含む。以下、これらについて説明する。
【0038】
転動面14Hは、内輪142の外周面に形成されており、周方向で全周に亘って延びている。転動面14Hには、転動体16(転動体162)が接する。
【0039】
鍔部14Iは、転動面14Hよりも軸方向で一端側に形成されている。鍔部14Iは、周方向で全周に亘って形成されている。鍔部14Iには、転動体16(転動体162)が接する。鍔部14Iは、端面14Kを有する。端面14Kは、鍔部14Hの軸方向の一端を規定しており、周方向で全周に亘って形成されている。
【0040】
小径部14Jは、鍔部14Hよりも軸方向で一端側に形成されている。小径部14Jは、鍔部14Hよりも小さな外径を有する。小径部14Jは、外周面14Lと、端面14Mとを含む。外周面14Lには、溝14Nが形成されている。溝14Nは、外周面14Lの軸方向他端に形成され、全周に亘って延びている。端面14Mは、小径部14Jの軸方向の一端を規定している。
【0041】
内輪141は、内輪142に対して、同軸上に配置されている。内輪141は、内輪142に対して、軸方向で突き合わされている。これにより、内輪141の端面14Fは、内輪142の端面14Mに対して、軸方向で重なっている。このとき、内輪141の端面14Dと、内輪142の端面14Kとの間に、溝143が形成されている。つまり、溝143は、内輪141と内輪142との軸方向での突き合わせ部分の外周面に形成されている。溝143は、周方向で全周に亘って延びている。
【0042】
溝143には、軸受用密封装置20が配置されている。軸受用密封装置20の詳細については、後述する。
【0043】
転動体16は、外輪12と内輪141との間、及び、外輪12と内輪142との間に配置されている。以下の説明では、外輪12と内輪141との間に配置された転動体16を転動体161とし、外輪12と内輪142との間に配置された転動体16を転動体162とする。なお、
図1では、転動体161及び転動体162は、それぞれ、1つのみ図示しているが、軸受10では、転動体161及び転動体162は、それぞれ、複数配置されている。
【0044】
保持器18は、外輪12と内輪141との間、及び、外輪12と内輪142との間に配置されている。以下の説明では、外輪12と内輪141との間に配置された保持器18を保持器181とし、外輪12と内輪142との間に配置された保持器18を保持器182とする。保持器181は、複数の転動体161を周方向で等間隔に保持する。保持器182は、複数の転動体162を周方向で等間隔に保持する。
【0045】
2.軸受用密封装置
続いて、
図2を参照しながら、軸受用密封装置20について説明する。軸受用密封装置20は、金具22、シールゴム24及び金具26を含む。
【0046】
金具22は、筒部22Aと、環状板部22Bとを含む。以下、これらについて説明する。
【0047】
筒部22Aは、軸受10の中心軸線上に配置され、略一定の内径及び外径で軸方向に延びる。径方向から見て、筒部22Aの軸方向一端は、内輪141の小径部14Cと重なる。径方向から見て、筒部22Aの軸方向他端は、内輪142の小径部14Jと重なる。
【0048】
環状板部22Bは、筒部22Aと一体的に形成されている。環状板部22Bは、筒部22Aの軸方向一端に形成されている。環状板部22Bは、筒部22Aの内周面から径方向で内側に延びている。環状板部22Bは、周方向で全周に亘って形成されている。
【0049】
シールゴム24は、本体24Aと、リップ24Bとを含む。以下、これらについて説明する。
【0050】
本体24Aは、軸受10の中心軸線上に配置され、軸方向に延びる筒形状を有する。本体24Aは、筒部22Aの内周面221と、環状板部22Bの軸方向他端側の面222とに接着されている。
【0051】
本体24Aは、筒部24Cと、筒部24Dとを含む。筒部24Cは、筒部24Dよりも軸方向で一端側に位置している。筒部24Cの内径は、筒部24Dの内径よりも小さい。筒部24Cの内周面は、環状板部22Bの内周面223よりも径方向で内側に位置している。筒部24Cは、径方向から見て、内輪141の小径部14Cと重なる。筒部24Dは、径方向から見て、内輪142の小径部14Jと重なる。
【0052】
本体24Aは、環状突起24F、24Gを含む。環状突起24F、24Gは、本体24Aの筒部24Cの内周面から突出している。環状突起24F、24Gは、周方向で全周に亘って形成されている。環状突起24Fは、環状突起24Gよりも軸方向で一端側に位置する。環状突起24F、24Gは、内輪141の小径部14Cに密着している。
【0053】
本体24Aは、延出部24Eを含む。延出部24Eは、環状板部22Bの内周面223と、環状板部22Bの軸方向一端側の面224とに接着されている。延出部24Eの外周縁は、軸方向から見て、内輪141の鍔部14Bと重なる。延出部24Eは、鍔部14Bの端面14Dに接触している。
【0054】
リップ24Bは、本体24Aの筒部24Cと一体的に形成されている。リップ24Bは、筒部24Cの軸方向他方の端面の内周縁部から軸方向に突出している。
【0055】
リップ24Bは、軸方向他端側が一端側よりも小径のテーパ筒形状を有している。リップ24Bの軸方向一端は、筒部24Cに接続されている。
【0056】
リップ24Bは、径方向から見て、本体24Aの筒部24Dと重なる。リップ24Bと、筒部24Dとの間には、空間SP1が形成されている。空間SP1は、軸方向他端側が一端側よりも径方向で大きくなっている。
【0057】
リップ24Bは、接触面241を有する。接触面241は、筒状の内周面である。接触面241は、略一定の内径で軸方向に延びている。接触面241は、リップ24Bが有する弾性力により、内輪142が有する小径部14Jの外周面14Lに密着している。そのため、リップ24Bと小径部14Jとの間には、空間SP2が形成されている。なお、リップ24Bが有する弾性力は、例えば、リップ24Bの径方向での厚み等を調整することで、適宜、設定することができる。
【0058】
リップ24Bは、案内面242を有する。案内面242は、軸方向で接触面241よりも他端側に形成されている。案内面242の軸方向一端は、接触面241の軸方向他端と接続されている。案内面242は、軸方向他端側が一端側よりも大径のテーパ筒状面である。
【0059】
リップ24Bは、接触面243を有する。接触面243は、軸方向で案内面242よりも他端側に形成されている。接触面243の軸方向一端は、案内面242の軸方向他端と接続されている。接触面243は、軸方向他端側が一端側よりも大径のテーパ筒状面である。接触面243は、金具26(具体的には、ストッパ26C)に接している。
【0060】
金具26は、筒部26Aと、環状板部26Bとを含む。以下、これらについて説明する。
【0061】
筒部26Aは、軸受10の中心軸線上に配置され、略一定の内径及び外径で軸方向に延びる。径方向から見て、筒部26Aの軸方向一端は、内輪141の小径部14Cと重なる。径方向から見て、筒部26Aの軸方向他端は、内輪142の小径部14Jと重なる。筒部26Aには、金具22の筒部22Aが圧入されている。
【0062】
環状板部26Bは、筒部26Aと一体的に形成されている。環状板部26Bは、筒部26Aの軸方向他端に形成されている。環状板部26Bは、筒部26Aの内周面から径方向で内側に延びている。環状板部26Bは、周方向で全周に亘って形成されている。軸方向から見て、環状板部26Bの内周縁は、金具22が有する環状板部22Bの内周縁よりも径方向で内側に位置している。
【0063】
環状板部26Bには、孔261が形成されている。孔261は、環状板部26Bを軸方向に貫通している。孔261は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0064】
環状板部26Bは、金具22が有する筒部22Aの軸方向他端面に接している。環状板部26Bは、内輪142の鍔部14Iが有する端面14Mに接している。ここで、孔261の一部は、軸方向から見て、径方向で鍔部14Iの外側に位置している。孔261の他の一部は、軸方向から見て、径方向でシールゴム24の筒部24Dの内側に位置している。つまり、孔261を介して、リップ24Bと筒部24Dとの間に形成された空間SP1と、軸受10の内部(外輪12と内輪14との間に形成された空間SP3)とが繋がっている。
【0065】
環状板部26Bは、ストッパ26Cを含む。ストッパ26Cは、環状板部26Bの内周縁部に形成されている。ストッパ26Cは、円環形状を有する。
【0066】
ストッパ26Cは、軸方向から見て、内輪142の小径部14Jの外周面14Lよりも径方向で外側に位置している。つまり、ストッパ26Cは、径方向で小径部14Jとの間に隙間を形成する。
【0067】
ストッパ26Cは、ストッパ面263を有する。ストッパ面263は、円環形状を有する。ストッパ面263は、ストッパ26Cの軸方向一端側の面に形成されている。
【0068】
図3を参照しながら、ストッパ面263とリップ24Bの接触面243との関係について説明する。
【0069】
ストッパ面263は、リップ24Bの接触面243に接している。このとき、ストッパ面263の内周縁は、接触面243の内周縁よりも径方向で内側に位置している。ストッパ面263の外周縁は、接触面243の外周縁よりも径方向で外側に位置している。つまり、ストッパ面263は、軸方向及び径方向の何れから見ても、接触面243に重なっている。別の表現をすれば、ストッパ26Cは、軸方向及び径方向の何れから見ても、リップ24Bの先端(軸方向他端)に重なっている。
【0070】
軸受用密封装置20は、例えば、以下のようにして、製造することができる。
【0071】
先ず、シールゴム24が接着された金具22を準備する。金具22は、例えば、筒状の金具を準備し、当該筒状の金具をプレス加工することで製造できる。シールゴム24を金具22に接着する方法としては、例えば、シールゴム24を加硫成形しながら、金具22に接着する方法を採用することができる。
【0072】
続いて、金具26を準備する。金具26は、例えば、筒状の金具を準備し、当該筒状の金具をプレス加工することで製造できる。つまり、ストッパ26Cは、環状板部26Bに曲げ加工を施すことで、環状板部26Bの内周縁部に形成することができる。
【0073】
続いて、シールゴム24が接着された金具22に対して、金具26を固定する。具体的には、金具26の筒部26Aに対して、シールゴム24が接着された金具22の筒部22Aを圧入する。これにより、軸受用密封装置20が製造される。
【0074】
軸受用密封装置20は、例えば、以下のようにして、溝143に配置される。
【0075】
先ず、
図4Aに示すように、内輪141の小径部14Cに対して、軸受用密封装置20を組み付ける。このとき、シールゴム24の環状突起24F、24Gは、小径部14Cの外周面14Eに密着している。シールゴム24の延出部24Eは、内輪141の鍔部14Bに接している。
【0076】
続いて、
図4Bに示すように、内輪141に組み付けられた軸受用密封装置20に対して、内輪142を組み付ける。具体的には、シールゴム24が有する筒状のリップ24Bに対して、内輪142の小径部14Jを挿し込む。このとき、小径部14Jの中心軸とリップ24Bの中心軸とが径方向でずれている場合には、案内面242により、小径部14Jが案内された後、小径部14Jがリップ24Bに挿し込まれる。このとき、リップ24Bの接触面241は、小径部14Jの外周面14Lに接している。
【0077】
図4Cに示すように、小径部14Jの端面14Mが小径部14Cの端面14Fに接触するまで、小径部14Jをリップ24Bに挿し込むことにより、軸受用密封装置20が溝143内に配置される。このとき、金具26の環状板部26Bは、内輪142の鍔部14Iに接している。また、リップ24Bの接触面241は、小径部14Jの外周面14Lに接している。そのため、リップ24Bの接触面241よりも軸方向一端側(基端側)の部分と小径部14Jとの間には、空間SP2が形成されている。
【0078】
軸受10は、圧延機のロールネックに用いられる。ここで、圧延機が圧延する被加工材は、高温に加熱されている。被加工材を圧延するときには、多量の冷却水が使用される。つまり、圧延機は、温度変化が激しい環境下で使用される。そのため、軸受10の内部に圧力変化が生じやすい。軸受10の内部が負圧になると、上記冷却水が軸受10の内部に吸い込まれ易くなる。
【0079】
軸受10においては、軸受10の内部が負圧になったとき、
図2に仮想線で示すように、リップ24Bが変形し、接触面241が外周面14Lから浮き上がる。このとき、接触面241と外周面14Lとの間に隙間が形成される。また、このようにリップ24Bが変形するときには、接触面243がストッパ面263から離れる。このとき、接触面243とストッパ面263との間に隙間が形成される。
【0080】
ここで、内輪141の小径部14Cと内輪142の小径部14Jとの突き合わせ面間には、僅かではあるが、隙間が形成されている。当該隙間は、空間SP2と、内輪141、142の内側の空間とを接続している。当該空間は、軸受10の外側の空間と接続されている。
【0081】
上記のようにして、接触面241と外周面14Lとの間、及び、接触面243とストッパ面263との間に、隙間が形成されると、空間SP2が空間SP1と接続される。つまり、空間SP1、空間SP2及び空間SP3が繋がる。その結果、軸受10の内部に発生した負圧を解消することができる。
【0082】
ここで、上記のように、リップ24Bには、軸受10の内部の圧力を調整するために、弾性変形をすることが求められている。そのため、内輪142の小径部14Jを挿し込むときに、リップ24Bが小径部14Jに引き摺られて変形し、且つ、その状態が維持されると、リップ24Bによる圧力調整ができなくなるおそれがある。なお、リップ24Bの変形が維持される状態とは、例えば、リップ24Bの先端(軸方向他端)がリップ24Bの軸方向中間部分と小径部14Jとの間に挟まれた状態等である。
【0083】
そこで、軸受用密封装置20においては、リップ24Bの先端の近くに、ストッパ26Cが配置されている。これにより、
図5に仮想線で示すように、リップ24Bが小径部14Jに引き摺られて変形すると、リップ24Bの先端がストッパ26Cに引っ掛かる。そのため、リップ24Bが小径部14Jに引き摺られて変形しても、リップ24Bの先端(軸方向他端)がリップ24Bの軸方向中間部分と小径部14Jとの間に挟まれるのを回避できる。つまり、リップ24Bによる圧力調整が可能な状態で、軸受用密封装置20を溝143内に配置することができる。
【0084】
軸受用密封装置20においては、シールゴム24が接着された金具22に対して、ストッパ26Cを有する金具26が組み付けられた構造とされている。そのため、例えば、シールゴム24が接着された金具22によって構成される軸受用密封装置が既に存在している場合には、当該軸受用密封装置を利用して、上記軸受用密封装置20を製造することができる。その結果、例えば、シールゴム24を金具22に加硫接着するときの金型を変更する必要がない。つまり、既存の設備を利用することができる。
【0085】
軸受10においては、軸受用密封装置20が溝143内に配置された状態で、金具22の環状板部22Bに接着されたシールゴム24の延出部24Eが溝143の一方の側面(端面14D)に接触し、且つ、金具26の環状板部26Bが溝143の他方の側面(端面14K)に接触している。そのため、例えば、軸受用密封装置20に対して内輪142を組み付けるときに、内輪142の小径部14Jが内輪141の小径部14Cに対して軸方向で重なる前に、金具26が内輪142の端面14Kに接触したとしても、延出部24Eが軸方向に圧縮されることにより、小径部14Jを小径部14Cに接触させることができる。つまり、内輪141の小径部14Cと内輪142の小径部14Jとを軸方向で確実に突き合わせることができる。
【0086】
軸受10においては、ストッパ26Cが小径部14Jの外周面14Lよりも径方向で外側に位置している。そのため、軸受用密封装置20に内輪142を組み付けるときに、ストッパ26Cが外周面14Lに引っ掛かって変形するのを防ぐことができる。また、ストッパ26Cが外周面14Lに引っ掛かって、内輪141の小径部14Cと内輪142の小径部14Jとを軸方向で突き合わせることができなくなるのを防ぐことができる。
【0087】
軸受用密封装置20においては、リップ24Bの先端がストッパ26Cに接している。そのため、リップ24Bが内輪142の小径部14Jに引き摺られたときに、リップ24Bの先端がストッパ26Cに接触し易くなっている。
【0088】
[第2の実施の形態]
図6を参照しながら、本発明の第2の実施の形態による軸受用密封装置20Aについて説明する。軸受用密封装置20Aは、第1の実施の形態の軸受用密封装置20と比べて、金具26を備えていない。その代わりに、金具22が環状板部22Cを備えている。
【0089】
環状板部22Cは、筒部22Aと一体的に形成されている。環状板部22Cは、筒部22Aの軸方向他端に形成されている。環状板部22Cは、筒部22Aの内周面から径方向で内側に延びている。環状板部22Cは、周方向で全周に亘って形成されている。軸方向から見て、環状板部22Cの内周縁は、金具22が有する環状板部22Bの内周縁よりも径方向で内側に位置している。
【0090】
環状板部22Cは、内輪142の端面14Kに接している。環状板部22Cには、孔225が形成されている。孔225は、複数であってもよいし、1つであってもよい。孔225を介して、空間SP1と空間SP2とが繋がっている。
【0091】
環状板部22Cは、ストッパ22Dを含む。ストッパ22Dは、環状板部22Cの内周縁部に形成されている。ストッパ22Dは、円環形状を有する。
【0092】
ストッパ22Dは、軸方向から見て、内輪142の小径部14Jの外周面14Lよりも径方向で外側に位置している。つまり、ストッパ22Dは、径方向で小径部14Jとの間に隙間を形成する。
【0093】
ストッパ22Dは、ストッパ面226を有する。ストッパ面226は、円環形状を有する。ストッパ面226は、ストッパ22Dの軸方向一端側の面に形成されている。
【0094】
ストッパ面226は、リップ24Bの接触面243に接している。このとき、ストッパ面226の内周縁は、接触面243の内周縁よりも径方向で内側に位置している。ストッパ面226の外周縁は、接触面243の外周縁よりも径方向で外側に位置している。つまり、ストッパ面226は、軸方向及び径方向の何れから見ても、接触面243に重なっている。別の表現をすれば、ストッパ22Dは、軸方向及び径方向の何れから見ても、リップ24Bの先端(軸方向他端)に重なっている。
【0095】
このような軸受用密封装置20Aは、例えば、以下の方法により、製造することができる。
【0096】
先ず、筒状の金具を準備し、当該筒状の金具をプレス加工して、環状板部22Bを形成する。続いて、環状板部22Bが形成された筒状の金具に対して、シールゴム24を加硫接着する。その後、シールゴム24が加硫接着された筒状の金具をプレス加工して、環状板部22C及びストッパ22Dを形成する。その結果、目的とする軸受用密封装置20Aが得られる。つまり、ストッパ22Dは、環状板部22Cを曲げ加工することで、環状板部22Cの内周縁部に形成することができる。
【0097】
本実施の形態では、リップ24Bの先端の近くに、ストッパ22Dが配置されている。これにより、リップ24Bに内輪142の小径部14Jを挿し込むときに、
図7に仮想線で示すように、リップ24Bが小径部14Jに引き摺られて変形すると、リップ24Bの先端がストッパ22Dに引っ掛かる。そのため、リップ24Bが小径部14Jに引き摺られて変形しても、リップ24Bの先端(軸方向他端)がリップ24Bの軸方向中間部分と小径部14Jとの間に挟まれるのを回避できる。つまり、リップ24Bによる圧力調整が可能な状態で、軸受用密封装置20Aを溝143内に配置することができる。
【0098】
また、軸受用密封装置20と比べて、金具26を必要としない。そのため、軸受用密封装置20Aに必要な部品点数を少なくすることができる。
【0099】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施の形態によって、何等、限定されない。
【0100】
例えば、上記第1の実施の形態では、内輪142に引き摺られていないときにおいても、リップ24Bの先端が金具26のストッパ26Cに接していたが、内輪142に引き摺られてリップ24Bが変形するときに、リップ24Bの先端がストッパ26Cに引っ掛かるのであれば、リップ24Bの先端がストッパ26Cに接していなくてもよい。
【0101】
例えば、上記第1及び第2の実施の形態では、ストッパ26C、22Dが周方向で全周に亘って形成されていたが、ストッパ26C、22Dは周方向に適当な間隔で複数形成されていてもよい。
【0102】
例えば、上記第1及び第2の実施の形態において、ストッパ26C、22Dは、環状板部26B、22Cを曲げ加工することで、環状板部26B、22Cの内周縁部に形成されていたが、環状板部26Bの内周縁に対してストッパを溶接してもよい。
【0103】
例えば、上記第1の実施の形態では、金具26の環状板部26Bが内輪142の端面14Kに接していたが、環状板部26Bが端面14Kに接していなくてもよい。
【0104】
例えば、上記第1の実施の形態では、金具26の環状板部26Bに孔261が形成されていたが、孔261はなくてもよい。この場合、
【0105】
例えば、上記第1の実施の形態では、金具22の環状板部22Cに孔225が形成されていたが、孔225はなくてもよい。