【課題】燃料電池全体の製造コストが有利に低減されるように改良された構造を有する燃料電池用ガスケットを提供すること、また、そのような燃料電池用ガスケットを有利に製造する方法を提供すること。
【解決手段】燃料電池を構成するセパレータの間をシールするための燃料電池用ガスケット10であって、枠形状を呈する本体部12と、本体部12の一部が薄肉とされることにより形成される流路部22と、本体部12の内縁側に設けられ、本体部12よりも薄肉のMEA保持部14と、を有し、それら本体部12、流路部22及びMEA保持部14を、合成樹脂材料を射出成形することによって一体的に形成して、構成した。
前記本体部の肉厚に対する前記流路部における最薄部分の肉厚の比、及び、前記本体部の肉厚に対する前記MEA保持部の肉厚の比のうちの少なくとも何れか一方が、1/8以下である請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄肉のシート材をプレス加工することによるガスケットの製造方法にあっては、MEAの取付部分等の孔部分を打ち抜く必要があるため、歩留まりが悪くなるという問題がある。また、プレス加工では、ガスケットの表面に、細かな凹凸形状を呈するガスの流路等を形成することが難しいため、別途、切削加工等によりセパレータの表面にガスの流路を形成する必要がある。それ故に、プレス加工によって製造されるガスケットを使用すると、燃料電池全体の製造コストの高騰を招く恐れがある。
【0006】
一方、特許文献1等に開示されているように、射出成形によって電解質膜にガスケット部を一体的に成形する場合においては、近年、燃料電池を小型化するため、ガスケットを薄肉化することが求められているところから、欠肉(ショートショット)等の成形不良が起こり易く、電解質膜を確実に保持することが出来なくなる恐れがある。また、金型内で、電解質膜を所定位置に保持することは難しいため、射出成形により電解質膜にガスケット部を設けてなる複合体(膜電極接合体)を得ることが困難であるという問題をも内在している。
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、燃料電池全体の製造コストが有利に低減されるように改良された構造を有する燃料電池用ガスケットを提供することにある。また、本発明は、そのような燃料電池用ガスケットを有利に製造する方法を提供することをも、その解決課題とするところである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かかる課題を解決するために、燃料電池を構成するセパレータの間をシールするための燃料電池用ガスケットであって、枠形状を呈する本体部と、前記本体部の一部が薄肉とされることにより形成される流路部と、前記本体部の内縁側に設けられ、該本体部よりも薄肉のMEA保持部と、を有し、それら本体部、流路部及びMEA保持部が、合成樹脂材料を射出成形することによって、一体的に形成されていることを特徴とする燃料電池用ガスケットを、その要旨とするものである。
【0009】
なお、このような本発明に従う燃料電池用ガスケットの望ましい態様の一つによれば、前記本体部の肉厚に対する前記流路部における最薄部分の肉厚の比、及び、前記本体部の肉厚に対する前記MEA保持部の肉厚の比のうちの少なくとも何れか一方が、1/8以下とされている。
【0010】
また、本発明に従う燃料電池用ガスケットの有利な態様の一つによれば、前記合成樹脂材料のメルトマスフローレートが80〜120g/10minである。
【0011】
一方、本発明にあっては、上記した各態様に係る燃料電池用ガスケットの製造方法であって、前記本体部を与える本体成形部位と、前記MEA保持部を与えるMEA保持部成形部位とを有する成形キャビティを備えた成形用金型を用いて、該MEA保持部成形部位の温度を、該本体部成形部位の温度よりも高い状態とし、かかる状態にて、前記成形用金型における、前記本体部成形部位より外側に設けられた複数のゲートより、前記成形キャビティ内に、溶融した前記合成樹脂材料を射出し、充填することを特徴とする燃料電池用ガスケットの製造方法をも、また、その要旨とするものである。
【0012】
なお、かかる本発明に従う燃料電池用ガスケットの製造方法においては、有利には、前記溶融した合成樹脂材料を、前記成形キャビティ内に800mm/s以上の射出速度で射出し、充填することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う燃料電池用ガスケットにあっては、枠形状を呈する本体部と、かかる本体部の一部が薄肉とされることにより形成される流路部とを有しているところから、本体部においてセパレータ間のシール機能が発揮されることに加えて、流路部において、燃料電池セル内のガスを効果的に流通せしめることが出来るようになっている。
【0014】
しかも、本発明に従う燃料電池用ガスケットにあっては、それら本体部と流路部、及び本体部の内縁側に設けられる本体部よりも薄肉のMEA保持部が、合成樹脂材料を射出成形することによって、一体的に形成されているところから、燃料電池用ガスケットを形成するための合成樹脂材料を無駄なく利用することが可能になると共に、流路部及びMEA保持部が有利に形成されることとなるのである。
【0015】
一方、本発明に従う燃料電池用ガスケットの製造方法にあっては、上記した本発明に従う燃料電池用ガスケットを、有利に製造可能である。
【0016】
また、本発明に従う燃料電池用ガスケットの製造方法にあっては、MEA保持部成形部位の温度を、本体部成形部位の温度よりも高い状態とし、かかる状態にて、成形キャビティ内に、溶融した合成樹脂材料を射出し、充填することにより、MEA保持部成形部位での合成樹脂材料の流動性が良好に維持されることとなるところから、薄肉のMEA保持部を有利に成形することが可能となる。また、成形キャビティ内において、本体部が、MEA保持部に対して、相対的に早期に硬化し、形成せしめられることとなるところから、本体部とMEA保持部との収縮の差によって、製造されるガスケットにおいて歪みや反りが発生することを有利に阻止することが出来る利点もある。
【0017】
加えて、本発明に従う燃料電池用ガスケットの製造方法においては、本体部成形部位より外側に設けられた複数のゲートより、成形キャビティ内に、溶融した合成樹脂材料が射出、充填されるため、一般的な射出成形品において不可避的に形成されるゲート痕(凸部)が、本発明に従って製造される燃料電池用ガスケットには何等残らない。従って、本発明に係る製造方法によれば、そのようなゲート痕によって、本体部のシール性が低下したり、燃料電池が大型化してしまう等の問題の発生を、有利に回避することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、
図1乃至
図3には、本発明に従う燃料電池用ガスケットの一例が、その平面形態と断面形態において、それぞれ示されている。そこにおいて、燃料電池用ガスケット10(以下、ガスケット10とも称する)は、
図1に示されるように、全体として矩形平板状の枠体形状を呈し、ガスケット10の外周部分を構成する、枠形状を呈する本体部12と、かかる本体部12の内縁側に一体的に設けられ、ガスケット10の内周部分を構成する、MEA保持部14とを有している。なお、ガスケット10(本体部12)の長手方向(
図1の左右方向)の両端側部分には、それぞれ矩形孔状の、複数(ここでは6つ)の孔16(16a〜16f)が形成されている。
【0021】
より具体的には、
図2に示されるように、ガスケット10は、燃料電池セルを構成する一対のセパレータ18、18(
図2においては二点鎖線で示される)間に挟持され、それらセパレータ18、18と略全周に亘って密着して、主として燃料電池セルからの燃料ガスや酸化剤ガス、及び生成される水の漏出を防止する(シールする)機能を果たすものである。そのようなガスケット10の肉厚(厚さ)、より具体的には本体部12の肉厚(厚さ):t1は、要求されるシール性能や電気抵抗等を考慮して決定されることとなるが、ここでは、0.8mmとされている。
【0022】
なお、燃料電池において用いられるセパレータ18、18は、略平板形状を呈し、隣り合う燃料電池セル同士を区切るためのものであって、十分な導電性と強度と耐食性を有するものであればよく、例えば、耐食性を有する金属材料やカーボン(炭素)材料等から構成されている。
【0023】
また、MEA保持部14は、本体部12の内縁側に、所定の幅をもって全周に亘って設けられており、燃料電池セルを構成するMEA20(
図2においては二点鎖線で示される)が、その外周縁部位において、かかるMEA保持部14に貼り付けられることによって、保持されることとなる。
【0024】
なお、MEA(Membrane Electrode Assembly :膜−電極接合体)20としては、所定の固体高分子電解質膜を、その両側から触媒電極[燃料極(負極)及び空気極(正極)]によって挟み込んで構成される、積層構造を有する公知のものが適宜に用いられることとなる。そのようなMEA20を構成する固体高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜[商品名;ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社製]等を使用することが出来る。
【0025】
さらに、MEA保持部14は、その肉厚:t2が、本体部12の肉厚:t1よりも薄くされている。そのようなMEA保持部14の肉厚:t2は、MEA20を確実に保持することが出来ると共に、射出成形が可能な範囲で、適宜に決定されることとなるが、好ましくは、0.1mm以上の厚さとされ、ここでは、0.1mmとされている。
【0026】
加えて、ガスケット10においては、
図1に示されるように、本体部12の一部が薄肉とされることにより、複数(ここでは4つ)の流路部22(22a〜22d)が形成されている。具体的には、
図3に示されるように、各流路部22は、それぞれ、本体部12に形成された複数の溝23によって構成されており、セパレータ18との間で、所定の断面積を有するガスの流路が形成されることとなる。
図1に示されるように、ガスケット10の本体部12における一方の面(
図1における紙面垂直方向手前側の面)に、孔16aとMEA保持部14とを連通させる流路部22a、及びMEA保持部14と孔16fとを連通させる流路部22dが形成されており、本体部12の他方の面(
図1における紙面垂直方向奥側の面)には、MEA保持部14と孔16cとを連通させる流路部22b、及び孔16dとMEA保持部14とを連通させる流路部22cが形成されている。
【0027】
そして、孔16aから供給され、流路部22aを通じて導入された燃料ガス(水素を含むガス)と、孔16dより供給され、流路部22cを通じて導入された酸素ガス(例えば空気)とが、MEA20の両面において、電池反応に供されることとなるのである。即ち、それら燃料ガスと酸素ガスとが、MEA20を挟んで、互いに対流せしめられ、MEA20を介して化学反応せしめられる。それにより生ずる燃料ガスと酸素ガスとの化学反応エネルギが、電気エネルギに変換されることにより、継続的に電力が発生せしめられるのである。反応後の燃料ガスは、流路部22dを通じて、孔16fから排出される一方、反応後の酸素ガスは、流路部22bを通じて、孔16cから排出されることとなる。
【0028】
ここで、ガスケット10の流路部22a〜22dにおける最薄部分(溝23部分)の肉厚:t3は、本体部12の肉厚:t1よりも薄くされている。かかる流路部22a〜22dの最薄部分の肉厚:t3は、燃料ガス及び酸素ガスの流量等に応じて、適宜に決定されることとなるが、本実施形態では、0.2mmとされている。
【0029】
そして、かくの如き構造を有するガスケット10は、本体部12と流路部22とMEA保持部14とが、合成樹脂材料を射出成形することにより、一体的に形成されているのである。
【0030】
そのようなガスケット10を構成する合成樹脂材料としては、例えば、PP(ポリプロピレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PA(ポリアミド)、POM(ポリアセタール)、PC(ポリカーボネート)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PMMA(アクリル)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、エポキシ、フェノール、不飽和ポリエステル及び熱可塑性エラストマー等を採用することが出来、加えて、これらの合成樹脂材料の変性物、並びに、これらのうちの複数種からなる混合材料を用いることも、可能である。
【0031】
なお、本発明において、射出成形に供される合成樹脂材料としては、流動性が高いものが有利に用いられ、好ましくは、メルトマスフローレートが80〜120g/10minである合成樹脂材料が用いられる。合成樹脂材料のメルトマスフローレートとは、JIS K7210(試験温度:230℃、公称荷重:2.16kg)に規定される方法によって測定されたものを意味する。
【0032】
ところで、上述の如き構造を有する燃料電池用ガスケット10は、以下のようにして製造されることとなる。
【0033】
先ず、
図4及び
図5には、ガスケット10を製造する際に好適に用いられる射出成形装置における成形用金型の一例が、示されている。成形用金型24は、
図4に示されるように、上下方向において互いに対向配置されて使用される、上型26と下型28より構成されている。上型26の下面(下型28との対向面)には、キャビティ形成凹所30が設けられており、下型28の上面(上型26との対向面)には、キャビティ形成凹所32、及びかかるキャビティ形成凹所32の外方に形成された複数(
図4においては1つのみ図示)のゲート形成凹所34が、設けられている。
【0034】
かくして、成形用金型24にあっては、図示しない型締装置による下型28の上型26に対する相対的な接近移動により、上型26と下型28とが型閉じされるようになっている一方、型締装置による下型28の上型26に対する相対的な離隔移動により、上型26と下型28とが型開きされるようになっている。そして、上型26と下型28とが型閉じされたときに、上型26のキャビティ形成凹所30と、下型28のキャビティ形成凹所32との間で、ガスケット10の外面形状に対応した形状を有する成形キャビティ(36)が形成されることとなる。
【0035】
また、上型26には、下型28のゲート形成凹所34に対応する位置に、それぞれ、ゲート形成凹所34に向かって延びるスプルー38と、上型26の下面に開口し、かかるスプルー38とゲート形成凹所34とを連通させるための円孔状のゲート孔40とが、形成されている。即ち、
図5に示されるように、上型26の下面には、キャビティ形成凹所30の外方部位に、かかるキャビティ形成凹所30を全周に亘って取り囲むように、複数(ここでは12個)のゲート孔40が形成されているのである。これにより、上型26と下型28との型閉じ状態において、図示しない射出装置から射出される溶融した合成樹脂材料が、スプルー38及びゲート孔40を通じて、成形キャビティ(36)内に導入されることとなる。なお、
図5中において、42及び44は、それぞれ、流路部22を形成するための、上型26のキャビティ形成凹所30の一部に設けられている凸部である。
【0036】
なお、図示しない射出装置は、ガスケット10を形成するための合成樹脂材料を射出可能な、例えばプランジャー式、インラインスクリュ式、プリプランジャー式、スクリュプリプランジャー式等の公知の構造を有するものであり、上型26の上方に、上下方向に延出した状態で配置されている。
【0037】
さらに、成形用金型24には、上型26及び下型28のそれぞれの特定部分の温度を調整する機構が、設けられている。具体的には、
図4に示されるように、上型26に、キャビティ形成凹所30の近傍に形成された第一媒体流路46、及びかかる第一媒体流路46よりも外側(ゲート孔40側)に形成された第二媒体流路48が設けられている一方、下型28にも同様に、キャビティ形成凹所32の近傍に形成された第一媒体流路50、及びかかる第一媒体流路50よりも外側に形成された第二媒体流路52が設けられている。そして、それらの媒体流路46、48、50、52が、図示しない金型温度調整装置に接続されている。
【0038】
そのような第一及び第二媒体流路46、48及び50、52が接続される金型温度調整装置は、公知のヒータや送水ポンプ等を内蔵し、外部から導入された熱媒体としての水を、ヒータにより予め設定された温度にまで加熱して熱水乃至は温水とすると共に、かかる熱水乃至は温水を、送水ポンプにより、媒体流路46、48、50、52に供給し、循環させるように構成されている。
【0039】
ここで、本実施形態の成形用金型24にあっては、上型26の第一媒体流路46及び下型28の第一媒体流路50とそれらに接続される金型温度調整装置内の流路(図示せず)とからなる第一循環路と、上型26の第二媒体流路48及び下型28の第二媒体流路52とそれに接続される金型温度調整装置内の流路(図示せず)とからなる第二循環路との二つの循環路が設けられ、それら二つの循環路内を、それぞれ独立して温度調整された熱水乃至は温水からなる熱媒体が、それぞれ独立して循環せしめられるようになっている。
【0040】
そして、上記の如き構造を有する成形用金型24を用いて、目的とするガスケット10を製造する際には、例えば、以下のような手順に従って、その作業が進められることとなる。
【0041】
すなわち、先ず、
図6に示されるように、成形用金型24を構成する上型26及び下型28を型閉じして、上型26のキャビティ形成凹所30と下型28のキャビティ形成凹所32とによって、成形キャビティ36を形成する。ここで、成形キャビティ36においては、その外側部分に、本体部12を成形するための本体部成形部位54が形成されると共に、かかる本体部成形部位54の内側に、MEA保持部14を成形するためのMEA保持部成形部位56が形成されることとなる。
【0042】
また、本体部成形部位54の外側には、上型26の下面と下型28のゲート形成凹所34とによって、溶融した合成樹脂材料の射出成形のための複数のゲート58が形成される。かかるゲート58は、ゲート孔40を介して、スプルー38と成形キャビティ36とに連通されている。これにより、射出装置から射出された合成樹脂材料が、各ゲート58を通じて、成形キャビティ36内に導入されるようになっている。
【0043】
そして、本実施形態の成形用金型24においては、成形キャビティ36内に、合成樹脂材料を射出し、充填する操作を行なう前に、上型26及び下型28のそれぞれの特定部分の温度が、それぞれ、予め設定された目標温度になるように調整されるようになっている。
【0044】
具体的には、上述したような金型温度調整装置を連続的に作動せしめることで、上型26の第一媒体流路46と下型28の第一媒体流路50とを含む第一循環路と、上型26の第二媒体流路48と下型28の第二媒体流路52とを含む第二循環路との二つの循環路内において、異なる温度に調整された熱媒体の循環が、それぞれ独立して行なわれるのであり、以て、それら上型26と下型28との間に形成される成形キャビティ36内の特定部位の温度が、それぞれ、予め設定された目標温度とされるのである。
【0045】
そして、ここでは、上型26及び下型28のMEA保持部成形部位56側(内側)に配設された第一媒体流路46及び50内を流通する熱媒体の温度が、上型26及び下型28の本体部成形部位54側(外側)に配設された第二媒体流路48及び52内を流通する熱媒体の温度よりも高くされていることにより、MEA保持部14を成形するためのMEA保持部成形部位56の温度が、本体部12を成形するための本体部成形部位54の温度よりも高い状態となるように、調整されているのである。
【0046】
なお、それらMEA保持部成形部位56及び本体部成形部位54の目標温度は、使用される合成樹脂材料や、成形されるMEA保持部14の肉厚(t2)及び本体部12の肉厚(t1)等に応じて、適宜に設定されることとなるが、好ましくは、MEA保持部成形部位56の温度が80〜100℃の範囲となり、本体部成形部位54の温度が50〜80℃の範囲となるように、調整される。なお、ガスケット10の形成材料として、後述する、ポリプロピレン材料と変性ポリプロピレン材料の混合材料を用いる場合には、MEA保持部成形部位56内の温度が100℃程度となるように、また、本体部成形部位54内の温度が80℃程度となるように、各々、調整される。
【0047】
次いで、このように成形キャビティ36内の温度が調整された状態下において、射出装置から、溶融せしめられた合成樹脂材料(60)を射出して、成形キャビティ36内に充填せしめるのである。
【0048】
なお、本実施形態においては、合成樹脂材料として、高い流動性を有するポリプロピレン材料と、かかるポリプロピレン材料の変性物である変性ポリプロピレン材料とを、予め溶融状態にて混練せしめてなる混合材料が用いられている。そのような混合材料は、十分な流動性を発揮する一方、製造されたガスケット10が、セパレータ18との間で適度な密着性(シール性)を発揮することとなるため、ガスケット10の形成材料として、好ましく使用されることとなる。
【0049】
図7には、溶融した合成樹脂材料60が、成形キャビティ36内に射出され、充填途上にある状態が示されている。そこにおいて、ゲート58を通じて成形キャビティ36内に射出された合成樹脂材料60の流れは、図中の白抜き矢印にて示されるような方向に、指向するようになるのである。即ち、ゲート58が、成形キャビティ36の外側に配設されているために、合成樹脂材料60は、先ず、本体部成形部位54内に充填され、その後、MEA保持部成形部位56内に充填されることとなる。
【0050】
また、溶融した合成樹脂材料60は、高速で射出されることが好ましく、そのため、本実施形態では、合成樹脂材料60を高速で射出することが可能な射出装置が用いられ、かかる射出装置における設定値で800mm/sの射出速度において、合成樹脂材料60が射出され、充填されることとなる。なお、望ましくは、成形キャビティ36内に、溶融した合成樹脂材料60を、800mm/s以上の射出速度で、射出し、充填する。
【0051】
かくして、成形キャビティ36内に、溶融した合成樹脂材料60を射出、充填し、成形用金型24(成形キャビティ36)内において、充填された合成樹脂材料60の固化が完了した後に、成形用金型24の上型26と下型28とが型開きされ、
図8に示されるような、射出成形品62が得られる。このとき、上型26と下型28との型開きによって、ゲート孔40部位に、不可避的にゲート痕64が残ることとなるが、本実施形態にて得られる射出成形品62にあっては、ゲート痕64が、本体部12の外側に一体的に形成された複数のゲート部66に形成されるようになっている。
【0052】
そして、得られた射出成形品62に対して、打ち抜き加工(プレス加工)を実施して、孔16a〜16fの形成と同時に複数のゲート部66の除去を行なうことにより、
図1に示されるガスケット10が製造されるのである。
【0053】
以上の説明から明らかなように、本発明に従うガスケット10は、枠形状を呈する本体部12と、かかる本体部12の一部が薄肉とされることにより形成される流路部22とを有しているところから、本体部12においてセパレータ18、18間のシール機能が発揮されることに加えて、流路部22において燃料電池セル内におけるガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)の流通を効果的に行なわしめることが出来るようになっている。
【0054】
従って、セパレータ18、18に対して、燃料電池セル内におけるガスの流通の確保を目的とした流路部を形成するための2次加工(切削加工)を行なうことが不要となるのであり、これによって、燃料電池全体の製造コストを低減することが可能となるのである。
【0055】
しかも、ガスケット10を構成する本体部12、流路部22、及び本体部12の内縁側に設けられたMEA保持部14とが、合成樹脂材料を射出成形することにより、一体的に形成されているところから、ガスケット10を形成するための合成樹脂材料を無駄なく利用して、合成樹脂材料の歩留まりを向上することが可能になると共に、所望の形態(肉厚)を有する流路部22及びMEA保持部14が有利に形成されることとなるのである。
【0056】
また、本実施形態のガスケット10においては、本体部12の肉厚:t1が0.8mmとされている一方、MEA保持部14の肉厚:t2が0.1mmとされており、且つ流路部22の最薄部分の肉厚:t3が0.2mmとされている。かくして、本体部12の肉厚:t1に対して、MEA保持部の肉厚:t2及び流路部22の最薄部分の肉厚:t3が十分に小さくされている。これにより、本体部12、MEA保持部14、及び流路部22のそれぞれに要求される性能が、バランスよく達成されたガスケット10となっている。
【0057】
すなわち、本体部12の肉厚:t1が、十分なシール性を発揮するために必要な潰し代が確保される厚さとされている一方、MEA保持部14の肉厚:t2が、燃料電池セル、ひいては燃料電池全体の小型化に有利に寄与する厚さとされており、且つ流路部22の最薄部分の肉厚:t3が、かかる流路部22の断面積を確保して、ガスをスムーズに流通せしめることが出来る厚さとされているのである。なお、従来から実施されている、シート材のプレス加工によるガスケットの製造においては、一般的に、製品の最大肉厚部の肉厚(ここではt1)に対する最小肉厚部の肉厚(ここではt2)の比が、1/8以下となると、製造が技術的に困難である。
【0058】
従って、本体部12の肉厚:t1に対するMEA保持部14の厚さ:t2の比、及び、本体部12の肉厚:t1に対する流路部22a〜22dにおける最薄部分の肉厚:t3の比のうち少なくとも何れか一方が、1/8以下となるように設定されることで、本発明の利益をより有利に享受することが出来ることとなるのである。
【0059】
さらに、ガスケット10は、メルトマスフローレートが80〜120g/10minである、流動性が高い合成樹脂材料を用いて形成されているところから、欠肉(ショートショット)等の成形不良の発生が抑制され、以て、ガスケットとして要求される性能を有利に発揮することが出来るようになっている。
【0060】
そして、上述せる如き燃料電池用ガスケット10の製造方法にあっては、MEA保持部成形部位56の温度が、本体部成形部位54の温度よりも高い状態にて、成形キャビティ36に、溶融した合成樹脂材料60を射出し、充填することにより、MEA保持部成形部位56での合成樹脂材料60の流動性が良好に維持されることとなるところから、薄肉のMEA保持部14を有利に成形することが可能である。また、成形キャビティ36内において、MEA保持部14よりも厚肉の本体部12が、MEA保持部14に対して相対的に早めに硬化せしめられることとなるところから、本体部12とMEA保持部14との収縮の差によって、製造されるガスケット10において歪みや反りが発生することを有利に阻止することが出来る利点もある。
【0061】
なお、本実施形態においては、そのようなMEA保持部成形部位56及び本体部成形部位54の温度が、二つの循環路を備える金型温度調整装置によって、効率的に調整されるようになっている。即ち、成形用金型24において、MEA保持部成形部位56側(内側)に配設された第一媒体流路46及び50を含む第一循環路内を流通せしめられる熱媒体の温度が、本体部成形部位54側(外側)に配設された第二媒体流路48及び52を含む第二循環路内を流通せしめられる熱媒体の温度よりも高くされていることにより、容易に、MEA保持部成形部位56の温度を本体部成形部位54の温度よりも高い状態に調整することが、出来るのである。
【0062】
また、本体部成形部位54の外側に設けられた複数のゲート58から、成形キャビティ36内に溶融した合成樹脂材料60を射出し、充填することにより不可避的に形成されるゲート痕(凸部)64が、本体部12の外側に形成されるゲート部66に形成されるようになっているところから、ガスケット10の本体部12表面には、ゲート痕64が残らないようになっている。従って、そのようなゲート痕64によって、本体部12のシール性が低下したり、燃料電池が大型化してしまう問題を、本発明に係るガスケット10においては有利に回避することが出来るのである。
【0063】
さらに、本体部成形部位54を全周に亘って取り囲むように複数のゲート58が形成されている(
図5に示される、複数のゲート孔40の配設形態参照)ところから、各ゲート58から成形キャビティ36内に射出され、充填される合成樹脂材料60の流動長が有利に短くされている。そのため、合成樹脂材料60が有利に流動性を保ったまま成形キャビティ36内を流動せしめられることとなり、以て、欠肉やウエルドライン等の成形不良の発生が有利に抑制されることとなる。
【0064】
加えて、合成樹脂材料60を高速で射出することにより、合成樹脂材料60は成形キャビティ36内で効果的に流動し、成形不良の発生が有利に阻止される。なお、合成樹脂材料60を高速で射出することに伴なって、成形用金型24に掛かる圧力が高くなるため、成形用金型24の歪みや、成形される射出成形品62においてバリが発生する恐れがある。それらの不具合を阻止するためには、成形用金型24において、高い型締め力に耐え得る、硬く、歪み難い金型材料を使用したり、成形用金型24(上型26及び下型28)の厚さを十分に厚くする等の対策を施すことが、好ましい。
【0065】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0066】
例えば、ガスケットの形態は、上述の態様に何等限定されるものではなく、要求特性及びレイアウト(セパレータの形態)等に応じて適宜に設計され得るものである。また、ガスケット(本体部)におけるシール性をより一層向上せしめるために、かかる本体部に凸状の筋を設けることも可能である。
【0067】
また、
図9に示されるようにして、射出成形品62において、MEA保持部14の更に内側(内縁)に余肉部68(
図9における二点鎖線より内側の部分)を形成することも有効である。このような余肉部68を形成することにより、射出成形時に薄肉のMEA保持部14の内縁部の一部(例えば、
図9におけるD部)に欠肉等の成形不良が発生した場合であっても、孔16の形成及びゲート部66の除去を行なうためのプレス加工の際に、かかる余肉部68を除去することで、成形不良の発生箇所も同時に除去することが出来ることとなる。
【0068】
さらに、本体部成形部位及びMEA保持部成形部位の温度を調整するために用いられる熱媒体としては、例示の水に限られず、公知の油(オイル)等を用いることも可能である。更にまた、それら本体部成形部位及びMEA保持部成形部位の温度を調整する手段としては、例示されている熱媒体としての水を用いる構造のものに代えて、或いはそれに加えて、成形用金型に埋設された電気ヒータ等の公知の加熱機器にて、成形キャビティ内の温度を調整するようにした構造のものを用いても良い。
【0069】
加えて、前述の実施形態のように、予め設定された温度に調整された熱媒体(水)によって成形キャビティ(本体部成形部位、MEA保持部成形部位)の温度を調整する他、例えば、熱電対等の温度センサを設けて成形キャビティ内の温度を直接測定し、その測定値に基づいて、適宜に温度が変更(制御)された熱媒体によって、そのような成形キャビティ内の温度を調整するようにすることも可能である。
【0070】
なお、ガスケットを射出成形する際においては、例示の手法に加え、以下に挙げるような公知の種々の改良を加えることも出来る。
【0071】
例えば、超音波射出成形手法を採用することによって、合成樹脂材料の流動性を大きく改善することが出来る。即ち、成形用金型全体を超音波振動により共振させながら射出成形を行なうことで、溶融した合成樹脂材料と成形キャビティの内面との間で滑りを発生させて、射出の際の流動抵抗を低減させることが出来る。
【0072】
また、成形キャビティ内における合成樹脂材料の流動性を向上させるために、成形キャビティの内面を合成樹脂材料との接触角が大きい材料によって表面処理することも出来る。これにより、合成樹脂材料と成形キャビティ内面との間に滑りを発生させ、流動抵抗を低減させることが出来る。
【0073】
さらに、ゲートは、例示の形態に何等限られず、公知の各種の形態を採用することが可能である。例えば、幅広のフィルムゲートを採用することで、成形キャビティ内における合成樹脂材料の流動長を更に有利に短縮し、成形不良の発生を効果的に抑制することも出来る。
【0074】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。