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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-207857(P2016-207857A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】電気機器用タンク及び変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/02 20060101AFI20161111BHJP
   H01F 27/12 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
   H01F27/02 Z
   H01F27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-88436(P2015-88436)
(22)【出願日】2015年4月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100115369
【弁理士】
【氏名又は名称】仙波 司
(72)【発明者】
【氏名】米沢 昇
【テーマコード(参考)】
5E050
5E059
【Fターム(参考)】
5E050CA00
5E059BB30
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れた変圧器などの電気機器を提供する。
【解決手段】変圧器1は変圧器変体と絶縁油を収納する円筒型のタンク11とそのタンク11を密閉する上蓋12を有する。タンク11は、Al−Mg系などの耐食性を有するアルミニウム合金の素材板を深絞り加工により一体的に成形されている。この構成により、変圧器1が海岸地域に設置された場合でも腐食による絶縁油の漏洩を防止でき、20年以上の期待寿命を実現することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の本体を収納するための筒形状を有する電気機器用タンクであって、
耐食性を有するアルミニウム合金の素材板に絞り加工をして筒形状のタンクが一体成形されていることを特徴とする、電気機器用タンク。
【請求項2】
前記アルミニウム合金は、純アルミニウム系、Al−Mg系若しくはAl−Mg−Si系の合金であることを特徴とする、請求項1に記載の電気機器用タンク。
【請求項3】
前記筒形状のタンクは、深さが円筒の直径より大きい縦長のタンクであり、
前記円筒絞り加工は、前記タンクの深さより短い所定の深さまで第1の絞り加工をした後、前記タンクの深さまで第2の絞り加工を行う深絞り加工である、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電気機器用タンク。
【請求項4】
前記第2の絞り加工では、前記第1の絞り加工で成形された部分を加熱しながら絞り加工を行うことを特徴とする、請求項3に記載の電気機器用タンク。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電気機器用タンクに、変圧器の本体と前記変圧器の絶縁と冷却を行うための絶縁油とを収納してなる、ことを特徴とする、変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食性に優れた電気機器用タンク及びその電気機器用タンクを用いた変圧器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、配電用変圧器では、どのような環境に配電用変圧器(以下、単に「変圧器」という。)が設置されてもタンクの期待寿命を20年以上にして欲しいというユーザからの要望がある。配電用変圧器が屋外に設置される環境は様々であるが、最も腐食環境が厳しい地域は、腐食因子の一つである海塩が常時飛来している海岸地域である。
【0003】
従来、変圧器が海岸地域に設置されることを想定して、変圧器のタンクの素材にステンレス材を用いたり、タンクの表面に亜鉛鍍金を施したりするなどの防食技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鋼板に下地処理をした後、アルミニウムを溶射し、その後、亜鉛とアルミニウムの混合物を溶射する技術が提案されている。また、特許文献2には、変圧器のタンクをフェライト系ステンレス鋼で製作する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−184743号公報
【特許文献2】特開2012−114451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ユーザがタンクの腐食により変圧器を取り替える基準の一つに、茶色の錆びの発生がある。茶色の錆は、環境中の酸素と水による酸化還元反応により金属の表面に酸化物などの腐食物が生成される現象である。地上に設置される変圧器では、筒状のタンクが、通常、筒状の胴部の下面に底部を溶接などで接続した構造を有しており、底部には変圧器を地面から僅かに浮かせるための複数の足が溶接などで接続されている。
【0007】
タンクが複数の部材を溶接で接続した構造を有していると、溶接部分に錆が発生し易く、溶接不良や変圧器の発熱の影響や地面に溜まった雨水などにより錆の進行も速くなる。
【0008】
特に、海岸地域に設置される場合、常時飛来する塩化物イオン(Cl)によって錆が激しく進行し、タンクの腐食速度が速くなるので、従来のタンクの素材をステンレス材にしたり、タンク表面に亜鉛鍍金を施したりする防食技術では、変圧器の期待寿命を20以上にすることは困難である。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、素材をアルミニウム合金とし、一体型構造とすることにより防食特性に優れた電気機器用タンク及びそのタンクを用いた変圧器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本第一の発明の電気機器用タンクは、電気機器の本体を収納するための筒形状を有する電気機器用タンクであって、耐食性を有するアルミニウム合金の素材板に円筒絞り加工をして筒形状のタンクが一体成形されていることを特徴とする電気機器用タンクである。
【0011】
本第二の発明の電気機器用タンクは、第一の発明に対して、アルミニウム合金は、純アルミニウム系、Al−Mg系若しくはAl−Mg−Si系の合金であることを特徴とする電気機器用タンクである。
【0012】
本第三の発明の電気機器用タンクは、第一又は第二の発明に対して、筒形状のタンクは、深さが円筒の直径より大きい縦長のタンクであり、円筒絞り加工は、タンクの深さより短い所定の深さまで第1の絞り加工をした後、タンクの深さまで第2の絞り加工を行う深絞り加工であることを特徴とする電気機器用タンクである。
【0013】
本第四の発明の電気機器用タンクは、第三の発明に対して、第2の絞り加工では、第1の絞り加工で成形された部分を加熱しながら絞り加工を行うことを特徴とする電気機器用タンクである。
【0014】
本第五の発明の変圧器は、第一乃至第四のいずれか1つの電気機器用タンクに、変圧器の本体と変圧器の絶縁と冷却を行うための絶縁油とを収納してなることを特徴とする変圧器である。
【発明の効果】
【0015】
本発明による電気機器用タンク等によれば、タンクの素材を耐食性に優れたアルミニウム合金を用い、更にタンクの胴部、底部及び足などの各部を一体成形し、溶接部分を有しないので、美観に優れ、錆の発生難い期待寿命の長い変圧器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る変圧器の外観の一例を示す斜視図
図2】同変圧器の内部の基本的な構造を示す図
図3】同変圧器のタンクを深絞り加工で製造するための構成を示す図
図4】同タンクの深絞り加工において、ダイスがブランクに当接する位置に下降した時点の加工状態を示す図
図5】同タンクの深絞り加工において、1段階目の絞り加工をしている途中の時点の加工状態を示す図
図6】同タンクの深絞り加工において、1段階目の絞り加工が終了した時点の加工状態を示す図
図7】同タンクの深絞り加工において、2段階目の絞り加工が終了した時点の加工状態を示す図
図8】同タンクの深絞り加工において、ダイスとブランクホルダーを初期位置に戻したときの加工状態を示す図
図9】同変圧器の足付きタンクの足の部分をプレス加工で形成するための構成を示す図
図10】同足付きタンクの胴部を深絞り加工で製造するための構成を示す図
図11】同変圧器の足付きタンクの一例を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る電気機器用タンクの実施形態について、図面を参照して説明する。実施の形態において、同じ符号を付した構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明を省略する場合がある。
【0018】
本実施の形態においては、電気機器として柱上設置型の変圧器を例に説明する。本実施の形態の変圧器は、高圧配電線路に印加される高圧(例えば、6600ボルト)を家庭や事務所などで使用する低圧(例えば、100ボルト若しくは200ボルト)に変圧する油入自冷式の配電用変圧器である。
【0019】
図1は、変圧器1の外観の一例を示す斜視図である。図2は、変圧器1の内部の基本的な構造を示す図である。なお、図2では、作図の便宜上、変圧器1のタンク11を密閉するための上蓋12を省略している。
【0020】
本発明に係る変圧器1は、タンク11の構成に特徴があるので、図1には、簡略化した変圧器1の外観形状を示している。また、以下の説明では、タンク11以外の構成については説明を簡略化し、タンク11の構造および製造方法について詳細に説明する。
【0021】
図1に示す変圧器1は、主として、円筒型のタンク11と、タンク11に充填される冷却用および絶縁用の絶縁油13(図2参照)と、タンク11内に絶縁油12に浸漬させて配設される単相3線式の変圧器本体14(図2参照)と、絶縁油13及び変圧器本体14を収納したタンク11を密閉する上蓋12とで構成される。
【0022】
タンク11は上端が開口された円筒形をなし、その開口面にはフランジ部111(図2参照)が一体的に形成されている。タンク11の開口面は、上蓋12によって密閉されている。上蓋12は、タンク11のフランジ部111を蔽い、当該上蓋12に設けられた4個のロック部材121によってフランジ部111に締結されている。タンク11の胴部112の上部に、2個の高圧ブッシング15A,15Bと3個の低圧ブッシング(図1では見えていない。)が設けられている。
【0023】
変圧器本体14は変圧器の電気回路を構成する部分である。変圧器本体14は、例えば、環状鉄心141(図2参照)と、その環状鉄心141のリムに巻回された低圧コイル(二次巻線。図2では見えていない。)と、低圧コイルの外側に同心状に巻回された高圧コイル142(一次巻線)と、接続部143とを備えている。
【0024】
高圧コイル142には2個の入力端子が設けられ、その入力端子が接続部143を介して2個の高圧ブッシング15A,15Bに接続されている。高圧コイル142には、高圧ブッシング15A,15Bから、例えば6600ボルトの高圧が印加される。低圧コイルには3個の出力端子(1個はアース端子)が設けられ、それらの出力端子が3個の低圧ブッシングに接続されている。低圧コイルの一方の出力端子から、例えば100ボルトの低圧が出力され、低圧コイルの他方の出力端子から、例えば200ボルトの低圧が出力される。
【0025】
円筒状のタンク11は、アルミニウム合金の板材(加工材)を用いた絞り加工により、フランジ部111、胴部112及び底部113が一体的に成形されている。本実施の形態に係るタンク11は、開口面の内径D[mm]に対して胴部112の長さ(タンク11の高さ)H[mm]が凡そ2倍のサイズを有する縦長の円筒容器であるので、絞り加工を2段階で行う深絞り加工によってタンク11が一体成形されている。
【0026】
深絞り加工に用いられる加工材には、純アルミニウム(Al)系、アルミニウム−マグネシウム(Al−Mg)系、アルミニウム−マグネシウム−シリコン(Al−Mg−Si)系などの耐食性に優れたアルミニウム合金が使用されている。
【0027】
次に、タンク11を一体成形する深絞り加工について、説明する。
【0028】
図3は、タンク11を深絞り加工するための構成を示す図である。タンク11の深絞り加工を行う構成には、パンチ16、ダイス17、ブランクホルダー18、プレス装置19及び加熱器20が含まれる。
【0029】
パンチ16は、タンク11の内部空間を形成するための雄の金型である。パンチ11は、タンク11の内径Dよりも所定の長さdだけと短い直径を有し、タンク11の胴部112の長さHよりも長い円柱状の部材である。所定の長さdは、タンク11の厚みに相当する長さである(図2参照)。パンチ16は、地面に固定されている。
【0030】
ダイス17は、ブランク(加工材)21をパンチ16で挟み、当該パンチ16を押し込むことによってブランク(加工材)21を円筒形に成形するための雌の金型である。ダイス17は、胴部112の長さHと略同一の長さを有し、下面の中央にタンク11の内径Dと略同一の直径を有する円形の凹溝171(雌型)が穿設されている。凹溝171は、ブランク(加工材)21を挟んでパンチ16を押し込むための溝である。
【0031】
本実施の形態に係るタンク11を一体成形するための深絞り加工は、パンチ16を固定し、当該パンチ16にブランク21を載せた状態でダイス17をブランク21の上方から下降させて当該ブランク21を円筒状に絞る方式である。そのため、ダイス17は、下面側に凹溝171が設けられている。ダイス17は、パンチ16の上方位置に、ダイス17の凹溝171の中心軸M1をパンチ16の中心軸M2に合わせて昇降可能に設置されている。
【0032】
ブランク21は、上述したアルミニウム合金の薄板からなる加工材である。ブランク21は、タンク11の厚みdよりも厚い所定の厚みを有する、例えば、円形の薄板である。
【0033】
ブランクホルダー18は、ダイス17とパンチ16でブランク21を挟んだ状態でダイス17を下降させることによりブランク17を円筒形に絞る際、当該ブランク21の外側の面(ダイス17が当接する面)に生じるシワを抑えるための部材である。ブランクホルダー18は、中央に凹溝171の内径と略同一の直径を有する貫通孔181が設けられた所定の厚みを有するリング状の部材である。ブランクホルダー18は、パンチ16とダイス17の間に、ブランクホルダー18の貫通孔181の中心軸M3をパンチ16の中心軸M2に合わせて昇降可能に設置されている。
【0034】
プレス装置19は、ダイス17とブランクホルダー18の昇降を制御する装置である。プレス装置19は、タンク11の深絞り加工では、所定の高圧を加えてダイス17を2段階に下降させる。プレス装置19は、1段階目でパンチ16の上端がダイス17の凹溝171の深さの略中央の位置に上昇するまでダイス17を下降させ、2段階目でパンチ16の上端がダイス17の凹溝171の底の位置に上昇するまでダイス17を下降させる。
【0035】
プレス装置19は、タンク11の深絞り加工において、ダイス17がブランク21に当接し、当該ダイス17とブランクホルダー18でブランク21を挟持するタイミングで、ブランクホルダー18の下降を開始する。プレス装置19は、ダイス17とブランクホルダー18でブランク21を挟持した状態でブランクホルダー18を下降させる。
【0036】
加熱器20は、タンク11の深絞り加工において、2段階目の絞り加工をする際に成形された胴体の部分に熱を加えるための機器である。タンク11は、高さHが内径Dの倍近い縦長の大型円筒容器であるので、絞り加工中にブランク21の延性性能がカバーしきれず、割れが生じる恐れがある。このため、2段階目の絞り加工でブランク21を加熱することでブランク21の延性性能を高め、割れの発生を防止するようにしている。
【0037】
次に、タンク11を一体成形する深絞り加工のプロセスについて、図3図8を用い説明する。タンク11は、以下の手順で一体成形される。
【0038】
(ステップ1)ダイス17を初期位置(パンチ16の上方の所定の位置)に設定した状態で、加工油を塗布したブランク21をブランクホルダー18の上面に載置する。このとき、ブランクホルダー18は、上面がパンチ16の上端より僅かに高くなる所定の高さ位置に保持されている(図3の状態参照)。
【0039】
(ステップ2)プレス装置19によりダイス17を所定の高圧で下降させる。ダイス17の下面がブランク21の上面に当接し、当該ダイス17とブランクホルダー18とでブランク21が挟持されるタイミングになると(図4の状態参照)、プレス装置19はブランクホルダー18をダイス17とともに下降させる。
【0040】
(ステップ3)ブランクホルダー18をダイス17がともに下降すると、パンチ16がダイス17に対して相対的に上昇し、ブランク21はダイス17の凹溝171に押し込まれようになる。そして、ダイス17とブランクホルダー18の下降に応じて、ダイス17とブランクホルダー18に挟持されているブランク21の周辺部分が引き延ばされるように変形しながら、ブランク21の中央部分がダイス17の凹溝171の中に吸い込まれていく(図5の状態参照)。
【0041】
(ステップ5)プレス装置19は、ダイス17を所定の高さ位置まで下降すると、1段階目の深絞り加工を終了し、加熱器20による加熱を開始して2段階目の深絞り加工に移行する。所定の高さ位置は、パンチ16がブランク21をダイス17の凹溝171の凡そ半分の深さ(H/2)まで押し込む位置である(図6の状態参照)。なお、深絞り加工の1段階目と2段階目は、加熱処理があるか否かで区別した便宜上の加工区分であり、1段階目の深絞り加工と2段階目の深絞り加工は連続して行われる。
【0042】
(ステップ6)プレス装置19は、2段階目の深絞り加工に移行すると、1段階目の深絞り加工と同様に、ダイス17とブランクホルダー18を下降させ、ダイス17が所定の下降位置に到達すると、ダイス17とブランクホルダー18を停止させる。所定の下降位置は、パンチ16によって押し込まれたブランク21がダイス17の凹溝171の底面に当接する位置である(図7の状態参照)。ダイス17とブランクホルダー18の下降を停止させることにより加工動作は終了する。このとき、ブランク21の周縁部がダイス17とブランクホルダー18に挟持された状態となっている。この部分は、フランジ部111が成形される部分である。
【0043】
(ステップ7)深絞りの加工動作が終了すると、プレス装置19は、ダイス17とブランクホルダー18を上昇させる。この動作によって、パンチ16がダイス17に対して相対的に下降し、円筒状に一体成形されたブランク21がダイス17とともに初期位置まで持ち上げられる(図8の状態参照)。なお、ブランクホルダー18は、所定の高さ位置(初期位置)に上昇すると、上昇動作が停止され、その後は、ダイス17と凹溝171に張り付いている円筒状に成形されたブランク21がダイスの初期位置まで上昇する。
【0044】
(ステップ8)ダイス17が初期位置まで戻されると、ダイス17に設けられた図示省略の押し出し機構によって、凹溝171から成形されたブランク21が押し出され、タンク11の深絞り加工は終了する。その後、タンク11の開口面に成形されている鍔の部分を円形に成形した後、外側にカールさせる加工を行ってフランジ部111を成形する、胴部112の所定の位置に高圧ブラッシング15A,15Bや低圧ブラッシングを取り付けるための穴を穿設するなどの所要の加工を行って、タンク11の一体成形加工が完了する。
【0045】
上記の実施の形態では、底部113に足が設けられていないタンク11について、一体成形の方法を説明したが、底部113に足が設けられている場合でも、プレス加工と深絞り加工によってタンク11を一体的に成形することができる。
【0046】
例えば、図9に示すように、パンチ22、ダイス23を用いて、タンク11の足114(図11参照)の部分をプレス加工で先に形成した後、図10に示すように、パンチ16’、ダイス17’、ブランクホルダー18’を用いて、タンク11の胴部112の部分を上述した深絞り加工により成形することで、図11に示す足付きのタンク11’を一体的に成形することができる。
【0047】
図11に示す足付きのタンク11’は、タンク11’の底面を外側に突出するように溝を形成して突出部を足114としたものである。足114の形状は、円形でもよく、棒状でもよい。
【0048】
図9に示す足114を成形するためのプレス加工の金型構成は、棒状の足114を成形するための金型構成である。パンチ22は、基盤の上面に所定の幅と高さを有する棒状の凸部221が2個平行に形成された雄の金型である。ダイス23は、基盤の下面の2個の凸部221に対向する位置に所定の幅と深さを有する線状の凹溝231がそれぞれ成形された雌の金型である。ブランクホルダー24は、パンチ22の2個の凸部221に対向する位置に当該凸部221の幅よりも広い幅を有する線状の貫通孔241が設けられたブランク21の抑え部材である。
【0049】
タンク11’の足114は、図9(a)に示すように、ダイス23を初期位置(パンチ22の上方の所定の位置)に設定した状態で、加工油を塗布したブランク21をブランクホルダー24の上面に載置し、図9(b)に示すように、図示省略のプレス装置によりダイス22を所定の高圧で下降させることにより成形される。
【0050】
ダイス23を所定の高圧で下降させると、当該ダイス23とブランクホルダー24で挟まれたブランク21がパンチ22に押し付けられ、当該パンチ22の凸部221がブランク21をダイス23の凹溝231に押し込むことで、2個の凸部211が成形される。2個の凸部211は、タンク11’の足114に相当する部分である。
【0051】
次に、足114が成形されたブランク21を、図10に示すように、ダイス17’を初期位置(パンチ16’の上方の所定の位置)に設定した状態でブランクホルダー18’の上面に載置し、プレス装置19によりダイス17’を所定の高圧で上述した深絞り加工の手順で下降させることによりタンク11’の胴部112が形成される。
【0052】
パンチ16’は、パンチ16に対して、頭部に2個の棒状の凸部161が設けられている点が異なる。パンチ16’の凸部161は、絞り加工の際にブランク21に形成された2個の凸部211の溝の部分に嵌入させるための部分である。一方、ダイス17’は、ダイス17に対して、凹溝171の底面に2個の棒状の凹溝172が形成されている点が異なる。ダイス17’の凹溝172は、パンチ16’がブランク21をダイス17’の凹溝171に押し込んだとき、ブランク21の2個の凸部211を嵌入させて2個の凸部211が凹溝171の底面に衝突するのを防止するためのものである。
【0053】
上記のプレス加工と深絞り加工の組み合わせにより、図11に示す底部113に足114が設けられたタンク11’を一体的に成形することができる。
【0054】
以上、本実施の形態によれば、純アルミニウム(Al)系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系などの耐食性に優れたアルミニウム合金の素材を用いて深絞り加工により、変圧器1のタンク11若しくは足付きのタンク11’を一体的に形成しているので、腐食環境の厳しい海岸地域においても、20年以上の期待寿命を有する変圧器1を実現することができる。
【0055】
タンク11,11’を深絞り加工で一体的に成形することにより、従来のような溶接箇所をなくしているので、溶接の不具合による絶縁油13の漏洩を防止することができる。特に、足付きのタンクでは、タンクの底部に足が溶接で取り付けられるので、足の溶接部分に錆が生じ易いが、本実施の形態に係る足付きのタンク11’では、足114の部分も底部113に一体成形されているので、耐食性の高いタンク11,11’を実現することができる。
【0056】
また、一体成形加工により、従来よりもタンク11,11’を製造するための加工数が大幅に低減し、タンク11,11’の生産性が向上する。従って、タンク11,11’を用いた変圧器1の生産性を向上させることができる。
【0057】
上記の実施の形態では、タンク11,11’を深絞り加工により一体的に成形する方法について説明したが、タンク11,11’の高さHが内径Dの2倍以上となる縦長の筒形状でなければ、絞り加工により一体的に成形すればよい。また、タンク11,11’は、ヘラ絞り加工や鍛造や鋳物などの他の一体成形が可能な加工方法によって製造してもよい。これらの方法でもタンク11,11’の溶接箇所をなくすことができるので、上記の効果を奏することができる。
【0058】
上記の実施の形態では、タンク11,11’の素材及び製造方法について説明したが、上蓋12についてもタンク11,11’と同様に、純アルミニウム(Al)系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系などの耐食性に優れたアルミニウム合金の素材を用いて、絞り加工や鍛造、鋳物などの方法で製造するようにしてもよい。
【0059】
上記の実施の形態では、純アルミニウム(Al)系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系などのアルミニウム合金を用いたタンク11,11’について説明したが、そのタンク11,11’の表面に酸化チタンの膜を形成して防錆効果を向上させるようにしてもよい。
【0060】
上記の実施の形態では、円筒状のタンク11,11’について説明したが、タンク11,11’の形状は円筒状に限定されるものではなく、直方体形状やその他の立体形状でもあってもよい。
【0061】
上記の実施の形態では、放熱フィンを有しないタンク11,11’について説明したが、変圧器1のタンク11,11’は、放熱フィンを有しているものであってもよい。この場合、タンク11,11’の胴部112に複数本の放熱フィンを設ける場合、複数本の放熱フィンを絞り加工で一体的に成形し、その放熱フィンをタンク11,11’の胴部112に溶接等で接続するとよい。この場合も溶接箇所を可能な限り少なくすることができるので、従来よりも耐食性と漏油防止効果を高めることができる。
【0062】
上記の実施の形態では、柱上設置型の変圧器を例に説明したが、本発明に係るタンクは、地上設置型の変圧器、柱上設置型若しくは地上設置型の自動電圧調整器、柱上設置型若しくは地上設置型のリアクトルなどの他の種類の電気機器のタンクにも適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 変圧器(電気機器)
11,11’ 変圧器のタンク
111 フランジ部
112 胴部
113 底部
114 足
12 上蓋部
121 ロック部材
13 絶縁油
14 変圧器本体
141 環状鉄心
142 高圧コイル
143 接続部
15A,15B 高圧ブッシング
16,16',22 パンチ
161,211,221 凸部
17,17',23 ダイス
171,172,231 凹溝
18,24 ブランクホルダー
181,241 貫通孔
19 プレス装置
20 加熱器
21 ブランク(アルミの板材)
図1
図2
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