(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-207890(P2016-207890A)
(43)【公開日】2016年12月8日
(54)【発明の名称】ヘテロ接合半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20161111BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20161111BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20161111BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20161111BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20161111BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L29/78 301B
H01L29/78 301G
H01L29/78 301H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-89535(P2015-89535)
(22)【出願日】2015年4月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 知義
(72)【発明者】
【氏名】長里 喜隆
(72)【発明者】
【氏名】榊 裕之
【テーマコード(参考)】
5F102
5F140
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GL03
5F102GL04
5F102GL05
5F102GM04
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5F140BC12
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5F140BF01
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5F140BF07
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5F140BJ01
5F140BJ05
5F140BJ06
5F140BJ07
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5F140BJ15
5F140BJ16
5F140BK29
5F140CC02
5F140CC03
5F140CC08
(57)【要約】
【課題】亀裂や欠陥等の発生を抑制すると共に、オン抵抗の小さいヘテロ接合半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体を含むチャネル層10と、チャネル層10上にチャネル層10よりバンドギャップの大きい半導体を含むバリア層12と、を備え、バリア層12は、チャネル層10に接する結晶構造が均一な半導体層からなる第1バリア層12aと第1バリア層12aよりもチャネル層10に対する応力が小さい第2バリア層12bとを含むヘテロ接合半導体装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体を含むチャネル層と、
前記チャネル層上に、前記チャネル層よりバンドギャップの大きい半導体を含むバリア層と、を備えるヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層は、
前記チャネル層に接する結晶構造が均一な半導体層からなる第1バリア層と、
前記第1バリア層よりも前記チャネル層に対する応力が小さい第2バリア層と、
を含むことを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記第2バリア層は、組成が異なる複数の半導体層を繰り返し積層した超格子構造からなることを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層は、結晶構造が均一な半導体層からなる第3バリア層をさらに備え、前記第1バリア層と前記第3バリア層とによって前記第2バリア層が挟まれていることを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層は、40nm以上の膜厚を有することを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、
前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間の領域下の前記バリア層は、前記ソース電極又は前記ドレイン電極が設けられた領域下の前記バリア層よりも膜厚が大きいことを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、
前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間の領域下の前記バリア層は、前記ゲート電極が設けられた領域下の前記バリア層よりも膜厚が大きいことを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、
前記ゲート電極は、絶縁層及び金属層の積層構造であることを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘテロ接合半導体装置であって、
前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、
前記第1バリア層は、前記チャネル層とのヘテロ接合側に配置され、前記第2バリア層は、前記ゲート電極側に配置されていることを特徴とするヘテロ接合半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の異なる種類の半導体を接合させ、その界面領域に誘起されたキャリア(二次元電子ガス)をチャネルとしたヘテロ接合電界効果トランジスタ(HJFET:Hetero−Junction−FET)等のヘテロ接合半導体装置が利用されている。
【0003】
例えば、III族窒化物ベースのチャネル層、チャネル層上に形成されたIII族窒化物ベースのバリア層、バリア層上に形成された窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)とを含む多層のキャップ層を備えた窒化物ベースのヘテロ接合半導体装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−227501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、HJFET等のヘテロ接合半導体装置では、導通時におけるオン抵抗を低減させるために、チャネル層とバリア層との界面領域での分極を大きくし、誘起される二次元電子ガスの濃度を高くすることが望まれる。そのためには、バリア層の組成を変更した構成やバリア層の膜厚を厚くした構成が提案されている。しかしながら、バリア層の組成を変更したり、バリア層の膜厚を厚くしたりすると、基板やチャネル層とバリア層との界面にその格子定数の差によって大きな応力が生じ、亀裂や欠陥が発生する問題がある。したがって、バリア層の組成の変更やバリア層の膜厚の増加には限界がある。例えば、AlGaN/GaNのヘテロ接合を含むヘテロ接合半導体装置では、バリア層の膜厚は40nm未満とされている。
【0006】
一方、バリア層が薄い構成では、ゲート電極の端部領域において非導通時(オフ時)のドレイン電圧の印加によって高電界が生じる。これによって、界面準位や表面準位が増加し、これらの界面準位や表面準位にキャリアがトラップされ、フェルミ準位のピニング作用等によりオン抵抗が増加したり、電気的特性の変動を生じたりするおそれがある。また、ゲート電極の端部領域における高電界はコラプス現象の一因にもなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの態様は、半導体を含むチャネル層と、前記チャネル層上に、前記チャネル層よりバンドギャップの大きい半導体を含むバリア層と、を備えるヘテロ接合半導体装置であって、前記バリア層は、前記チャネル層に接する結晶構造が均一な半導体層からなる第1バリア層と、前記第1バリア層よりも前記チャネル層に対する応力が小さい第2バリア層と、を含むことを特徴とするヘテロ接合半導体装置である。
【0008】
ここで、前記第2バリア層は、組成が異なる複数の半導体層を積層した超格子構造からなることが好適である。
【0009】
また、前記バリア層は、結晶構造が均一な半導体層からなる第3バリア層をさらに備え、前記第1バリア層と前記第3バリア層とによって前記第2バリア層が挟まれていることが好適である。
【0010】
また、前記バリア層は、40nm以上の膜厚、より好ましくは100nm以上の膜厚を有することが好適である。
【0011】
また、前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間の領域下の前記バリア層は、前記ソース電極又は前記ドレイン電極が設けられた領域下の前記バリア層よりも膜厚が大きいことが好適である。
【0012】
また、前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、前記ゲート電極と前記ドレイン電極の間の領域下の前記バリア層は、前記ゲート電極が設けられた領域下の前記バリア層よりも膜厚が大きいことが好適である。
【0013】
また、前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、前記ゲート電極は、絶縁層及び金属層の積層構造であることが好適である。
【0014】
また、前記バリア層は、III−V族半導体により形成されていることが好適である。
【0015】
また、前記バリア層上に、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備え、前記第1バリア層は、前記チャネル層とのヘテロ接合側に配置され、前記第2バリア層は、前記ゲート電極側に配置されていることが好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、亀裂や欠陥等の発生を抑制すると共に、オン抵抗の小さいヘテロ接合半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を示す断面模式図である。
【
図2】第2の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を示す断面模式図である。
【
図3】第3の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を示す断面模式図である。
【
図4】第4の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を示す断面模式図である。
【
図5】第5の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施の形態>
第1の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置は、
図1に示すように、チャネル層10、バリア層12、ゲート電極14、ソース電極16、ドレイン電極18及び保護膜20を含んで構成される。
【0019】
チャネル層10は、後述するバリア層12との界面においてヘテロ接合を構成する半導体層である。チャネル層10は、バリア層12と格子整合性の良い半導体材料により形成される。チャネル層10の膜厚は、特に限定されるものではないが、数百nm程度とすることが好適である。
【0020】
チャネル層10は、基板自体としてもよいし、他の基板上に形成されてもよい。他の基板上にチャネル層10を形成する場合、基板は、例えば、炭化シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、窒化ガリウム、シリコン等からチャネル層10と格子定数及び熱膨張率が近いものを選択すればよい。また、基板とチャネル層10の間に必要に応じてバッファ層、遷移層、核形成層等を形成してもよい。
【0021】
バリア層12は、チャネル層10上に積層され、チャネル層10との界面においてヘテロ接合を形成する半導体層である。バリア層12は、チャネル層10よりもバンドギャップが大きく、チャネル層10との格子整合性の良い半導体材料により形成される。これにより、チャネル層10とバリア層12との界面において自発分極又はピエゾ分極が生じ、その分極効果によってチャネル層10とバリア層12との界面にキャリア(電子)の密度が高い二次元電子ガス(2DEG)が生じる。
【0022】
また、チャネル層10のバリア層12との界面領域にドーパントを添加してδドープすることにより二次元電子ガス(2DEG)を生じさせるようにしてもよい。例えば、バリア層12をAlGaNとした場合、n型ドーパントとしてシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)及び酸素(O)の少なくとも1つをδドープすればよい。
【0023】
チャネル層10及びバリア層12の組み合わせは、結晶性の良いヘテロ界面を形成するものであれば特に限定されるものではなく、III族元素とV族元素をそれぞれ1種類以上含むIII−V族半導体化合物、II族元素とVI族元素をそれぞれ1種類以上含むII−VI族半導体化合物、IV族元素を含むIV族半導体等から適宜選択して組み合わせればよい。例として、バリア層12/チャネル層10の組み合わせとしてAlGaN/GaN、AlGaAs/GaAs、AlN/GaN、InAlN/GaN、AlGaNP/GaNP、InAlGaAsP/InGaP、AlN/InN、GaP/Si、Ga
2O
3/GaN等が挙げられる。例えば、チャネル層10をi型のGaNとし、バリア層12をi型のAl
xGa
1−xNとすればよい。バリア層12のAlとGaとの化学量論的組成比xは、特に限定されるものではないが、大電力用のヘテロ接合半導体装置ではバリア層12全体の組成比xの平均値を0.1以上0.3以下とすることが好適である。
【0024】
本実施の形態におけるバリア層12は、第1バリア層12aと第2バリア層12bとが積層された複合層とする。ここで、第1バリア層12aは、チャネル層10に接し、結晶構造が均一な半導体層である。また、第2バリア層12bは、第1バリア層12aよりもチャネル層10に対する応力が小さい層である。例えば、第2バリア層12bは、異なる組成比を有する複数の半導体層を繰り返し積層した超格子構造とすることが好適である。また、第2バリア層12bは、第1バリア層12aとは異なる組成比を持つ均一な結晶構造の半導体とすることも好適である。この場合、第2バリア層12bを構成する材料の格子定数が第1バリア層12aを構成する材料の格子定数よりもチャネル層10を構成する材料の格子定数に近い組成比とすればよい。これによって、第1バリア層12aよりもチャネル層10に対する応力が小さい第2バリア層12bとすることができる。
【0025】
チャネル層10をGaNとし、バリア層12をAl
xGa
1−xNとした場合、第1バリア層12aは均一な結晶構造を有する単層のAl
xGa
1−xNとし、第2バリア層12bは組成比xを異ならせた2種類のAl
xGa
1−xN(
図1中の符号12b−1,12b−2で示す)を交互に繰り返し積層させた超格子構造とすることが好適である。例えば、第1層12b−1は組成比xを0にしたGaN層とし、第2層12b−2は組成比xを1にしたAlN層とし、これらを交互に積層した超格子構造とすればよい。バリア層12に他の半導体材料を適用した場合も、同様に、第2バリア層12bは組成比を変えた2種類の半導体層を交互に繰り返し積層させた超格子構造とすればよい。
【0026】
このとき、第1バリア層12aと第2バリア層12bとの格子定数が一致するように第1層12b−1と第2層12b−2の膜厚比を設定することが好適である。例えば、第1バリア層12aのAl
xGa
1−xNの組成比xを0.3とし、第1層12b−1をGaN層及び第2層12b−2をAlN層とした場合、第1層12b−1として7分子層(約1.80nm)のGaN層と第2層12b−2として3分子層(約0.77nm)のAlN層を交互に積層させた超格子構造とすることが好適である。また、これらの定数倍の膜厚を有する層を積層させた構造としてもよい。これによって、第2バリア層12b全体としての組成比xを第1バリア層12aの組成比である0.3に一致させることができる。なお、第2バリア層12b全体における組成比と第1バリア層12aの組成比は完全に一致させる必要はなく、格子定数の不整合による影響が大きくならない程度に一致していればよい。第1バリア層12aと第2バリア層12bの組成比を一致させることによって、第1バリア層12aと第2バリア層12bの格子定数を揃えることができ、格子不整合による歪みを原因とするバリア層12内での亀裂や欠陥の発生を抑制することができる。
【0027】
なお、第2バリア層12bに超格子構造を適用した場合、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察により超格子構造であることを確認することができる。また、第1バリア層12aと第2バリア層12bとの組成を異ならせた場合、バリア層12の深さ方向に沿った二次イオン質量分析(SIMS)により組成を確認することができる。
【0028】
バリア層12の膜厚t1は、40nm以上とすることが好適である。結晶構造が均一な第1バリア層12aと、第1バリア層12aよりもチャネル層10に対する応力が小さい第2バリア層12bとを積層したバリア層12とすることによって、バリア層12を40nm以上に厚くしたとしてもチャネル層10との格子不整合の影響を低減することができる。したがって、バリア層12内における亀裂や欠陥等の発生を抑制でき、亀裂や欠陥によるヘテロ接合半導体装置の電気的特性の低下を防ぐことができる。
【0029】
一方、バリア層12を40nm以上に厚くすることによって、チャネル層10とバリア層12との界面に生ずる二次元電子ガスからバリア層12を抜けてバリア層12の表面(又は、バリア層12と後述する保護膜20との界面)に到達するキャリアの数を低減することができる。これにより、バリア層12の表面(又は、保護膜20との界面)の欠陥等に起因する表面準位(界面準位)の影響を小さくすることができる。すなわち、表面準位(界面準位)にトラップされるキャリアが低減され、キャリアのトラップによるフェルミ準位のピニング作用等を抑制でき、ゲート電極14とドレイン電極18の間の領域に従来より高濃度の2次元キャリアガスを発生させることができる。また、表面準位(界面準位)に起因するヘテロ接合半導体装置の電気的特性の劣化を防ぐことができる。さらに、主電流通路である二次元電子ガスとゲート電極14との距離が大きくなり、ドレイン電極18に電圧を印加した時のゲート電極14の近傍の電界を弱めることができる。これにより、ゲート電極14の近傍における表面準位(界面準位)を低減することができる。その結果、ゲート電極14とドレイン電極18との間に高電圧を印加したとしてもゲート−ドレイン間の抵抗は増加せず、コラプス現象を小さくすることができる。さらに、ゲート電極14からのリーク電流も抑制することができる。特に、バリア層12の膜厚t1は、100nm以上とすることがより好適である。バリア層12を100nm以上に厚くすることによって、バリア層12の厚膜化による上記効果がより顕著となる。
【0030】
また、バリア層12において第1バリア層12aの膜厚は10nm以上とすることが好適である。第1バリア層12aの膜厚を10nm以上とすることによって、チャネル層10とバリア層12との界面に生ずる二次元電子ガスから第1バリア層12aを抜けて第2バリア層12bの超格子に閉じ込められるキャリアの数を低減することができる。
【0031】
なお、チャネル層10及びバリア層12は、有機金属気相成長法(MOCVD)や分子線エピタキシー法(MBE)等の既存の方法によって形成することができる。MOCVDやMBEにおいて用いる原材料(原料ガス)及び成膜条件は、チャネル層10及びバリア層12を構成する半導体材料に応じて適宜選択すればよい。
【0032】
例えば、チャネル層10をGaN及びバリア層12をAlGaNとする場合、アンモニアガスとトリメチルアルミニウム(TMA)及びトリメチルガリウム(TMG)を用いたMOCVDにより成膜することができる。チャネル層10及びバリア層12の組成比xを変更する際には、アンモニアガス、TMA、TMGの供給流量の比を適宜変更しつつ基板温度、原料供給圧力及び成膜時間との関係において所望の組成比xの膜が形成されるように成膜を行えばよい。チャネル層10及びバリア層12として他の半導体材料を適用した場合も既存の成膜方法によって成膜を行えばよい。
【0033】
ゲート電極14は、ヘテロ接合半導体装置においてソース電極16とドレイン電極18との間の領域に設けられ、キャリアの移動を制御するための電極である。本実施の形態では、ゲート電極14は、バリア層12とショットキー接合を形成するようにバリア層12上に設けられる。例えば、バリア層12がAlGaNである場合、ゲート電極14は、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、タングステン(W)、鉛(Pb)、銅(Cu)、チタン−ニッケル(TiN)、タングステン−シリコン(WSi)、ニッケル−金(NiAu)等の金属又は合金、p型のAlGaN、p型のGaN等から選択して用いればよい。特に、ゲート電極14をp型のAlGaN又はp型のGaNとすることによって、ゲート電極14に電圧を印加しない状態においてオフ状態となるノーマリーオフのヘテロ接合半導体装置を形成することができる。バリア層12として他の半導体材料を適用した場合も当該半導体材料とショットキー接合を形成する材料を選択して用いればよい。ゲート電極14は、フォトリソグラフィ等の既存のマスク技術を用いて、バリア層12上の適切な領域にスパッタリング法や蒸着法等により形成することができる。
【0034】
ソース電極16及びドレイン電極18は、ヘテロ接合半導体装置に電流を流すための電極である。ソース電極16とドレイン電極18との間に電圧を印加すると共にゲート電極14に印加する電圧を変化させることによってソース電極16とドレイン電極18との間の電流が制御される。ソース電極16及びドレイン電極18は、バリア層12とオーミック接合を形成するようにバリア層12上に設けられる。例えば、バリア層12がAlGaNである場合、ソース電極16及びドレイン電極18は、チタン(Ti)、金(Au)等の金属又はそれらの合金から選択して用いればよい。また、例えば、チタン(Ti)/アルミニウム(Al)/ニッケル(Ni)の積層構造やチタン(Ti)/アルミニウム−銅(AlCu)の積層構造としてもよい。バリア層12として他の半導体材料を適用した場合も当該半導体材料とオーミック接合を形成する材料を選択して用いればよい。ソース電極16及びドレイン電極18は、フォトリソグラフィ等の既存のマスク技術を用いて、バリア層12上の適切な領域にスパッタリング法や蒸着法等により形成することができる。
【0035】
保護膜20は、バリア層12の表面を保護するために設けられる膜である。保護膜20は、バリア層12の表面においてゲート電極14、ソース電極16及びドレイン電極18が設けられていない領域に形成される。例えば、バリア層12がAlGaNである場合、保護膜20は、酸化シリコン(SiO
2)、窒化シリコン(SiN)、アルミナ(Al
2O
3)等から選択して用いればよい。バリア層12として他の半導体材料を適用した場合もバリア層12よりも化学的及び機械的に安定な材料を適用すればよい。保護膜20を形成することによって、バリア層12の表面を化学的及び機械的に保護すると共に、バリア層12との界面における界面準位を低減することができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置によれば、亀裂や欠陥の発生を抑制しつつバリア層12を厚膜化することができ、オン抵抗を小さくすることができる。したがって、電力損失の少ないヘテロ接合半導体装置を提供することができる。
【0037】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置は、
図2に示すように、第1バリア層12a、第2バリア層12bに加えて第3バリア層12cを積層したバリア層12を備える。なお、第3バリア層12c以外の構成は、第1の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置と同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
第3バリア層12cは、第2バリア層12bを挟んで第1バリア層12aとは反対側に設けられる。第3バリア層12cは、第1バリア層12aと同様に結晶構造が均一な半導体層とする。すなわち、第3バリア層12cは、第1バリア層12aと同一材料でもよいが、異なっていてもよい。それらの材料としては、バリア層12/チャネル層10の組み合わせとして挙げた上記の材料から選択すればよく、それらの組み合わせも適宜選択してもよい。バリア層12の膜厚t1は、第1の実施の形態と同様に、40nm以上、より好ましくは100nm以上とすることが好適である。
【0039】
このように、チャネル層10側のみならず、表面側(ゲート電極14側)にも結晶構造が均一な第3バリア層12cを設けることによって、ゲート電極14から第2バリア層12b内に注入されトラップされるキャリアを低減することができる。したがって、ヘテロ接合半導体装置の電気的特性の変動を抑制することができる。
【0040】
<第3の実施の形態>
第3の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置は、
図3に示すように、ゲート電極14とドレイン電極18の間の領域下のバリア層12の膜厚t1がソース電極16及びドレイン電極18が設けられた領域下のバリア層12の膜厚t2よりも大きい。ゲート電極14とドレイン電極18の間の領域下のバリア層12の膜厚t1は、第1の実施の形態と同様に、40nm以上、より好ましくは100nm以上とすることが好適である。なお、バリア層12の膜厚以外の構成は、第1の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置と同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
第1の実施の形態と同様にバリア層12を形成した後、ソース電極16及びドレイン電極18となる領域のバリア層12をエッチングにより薄膜化した上でソース電極16及びドレイン電極18を形成することで当該構成を得ることができる。エッチング処理は、湿式エッチング又は乾式エッチング等の既存の方法を適用すればよい。バリア層12をAlGaNとした場合、湿式エッチングとしては、例えば、KOH等の強塩基を用いるエッチングを適用することができる。また、乾式エッチングとしては、Cl
2、BCl
3、CCl
2F
2等の塩素系ガスを用いるプラズマエッチングや反応性イオンエッチング等を適用することができる。
【0042】
このように、ゲート−ドレイン間の領域とソース電極16及びドレイン電極18の領域のバリア層12の膜厚を変えることにより、ソース電極16及びドレイン電極18のコンタクト抵抗と2次元キャリアガスの濃度とを独立して制御することができる。すなわち、ゲート−ドレイン間の領域におけるバリア層12の膜厚を大きくすることで当該領域における2次元キャリアガスの濃度を高く維持してオン抵抗を低減すると共に、ソース電極16及びドレイン電極18のコンタクト抵抗も低減することができる。
【0043】
なお、本実施の形態ではソース電極16及びドレイン電極18の領域におけるバリア層12の膜厚を小さくする態様について説明したが、ソース電極16及びドレイン電極18の少なくとも一方の領域におけるバリア層12の膜厚を小さくすればよい。また、ソース電極16とドレイン電極18の領域におけるバリア層12の膜厚は等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
<第4の実施の形態>
第4の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置は、
図4に示すように、ゲート電極14とドレイン電極18の間の領域下のバリア層12の膜厚t1がゲート電極14が設けられた領域下のバリア層12の膜厚t3よりも大きい。ゲート電極14とドレイン電極18の間の領域下のバリア層12の膜厚t1は、第1の実施の形態と同様に、40nm以上、より好ましくは100nm以上とすることが好適である。なお、バリア層12の膜厚以外の構成は、第1の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置と同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
第1の実施の形態と同様にバリア層12を形成した後、ゲート電極14となる領域のバリア層12をエッチングにより薄膜化した上でゲート電極14を形成することで当該構成を得ることができる。エッチング処理は、湿式エッチング又は乾式エッチング等の既存の方法を適用すればよい。バリア層12をAlGaNとした場合、湿式エッチングとしては、例えば、KOH等の強塩基を用いるエッチングを適用することができる。また、乾式エッチングとしては、Cl
2、BCl
3、CCl
2F
2等の塩素系ガスを用いるプラズマエッチングや反応性イオンエッチング等を適用することができる。
【0046】
このように、ゲート−ドレイン間の領域とゲート電極14の領域のバリア層12の膜厚を変えることにより、ヘテロ接合半導体装置のゲート電圧の閾値電圧と2次元キャリアガスの濃度とを独立して制御することができる。すなわち、ゲート−ドレイン間の領域におけるバリア層12の膜厚を大きくすることで当該領域における2次元キャリアガスの濃度を高く維持してオン抵抗を低減すると共に、ゲート電圧の閾値電圧を高くすることができる。
【0047】
<第5の実施の形態>
第5の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置は、
図5に示すように、ゲート電極14がMIS(Metal−Insulator−Semiconductor)構造にされている。なお、ゲート電極14以外の構成は、第4の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置と同様であるので同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
MIS構造は、半導体層であるバリア層12に絶縁層14a及び金属層14bが積層された構造である。絶縁層14aは、酸化シリコン(SiO
2)や窒化シリコン(SiN)等とすることが好適である。また、金属層14bは、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ポリシリコン等とすることが好適である。
【0049】
MIS構造のゲート電極14を採用することによって、ゲート電極14とソース電極16との間のリーク電流を低減することができる。さらに、入力インピーダンス等の電気的特性においてSi−MOSトランジスタとの互換性が良くなり、既存のSi−MOSトランジスタをヘテロ接合半導体装置に置き換える際に有利である。
【0050】
なお、上記第1〜第5の実施の形態におけるヘテロ接合半導体装置の構成を適宜組み合わせて適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の実施の形態に係る発明の適用範囲は、ヘテロ接合電界効果トランジスタ(HJFET:Hetero−Junction−FET)に限定されるものでなく、ヘテロ接合界面に生ずる二次元電子ガスを利用するものであれば様々なタイプのヘテロ接合半導体装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 チャネル層、12 バリア層、12a 第1バリア層、12b 第2バリア層、12c 第3バリア層、14 ゲート電極、14a 絶縁層、14b 金属層、16 ソース電極、18 ドレイン電極、20 保護膜。