【解決手段】水晶の結晶軸のZ′軸と交差する2つの側面を、水晶結晶のm面である第1の面11aと、この第1の面に交わりm面以外の第2の面11bと、この第2の面11bと交わりm面以外の第3の面との3つの面で構成してある。しかも、第2の面11bは、当該ATカット水晶片の主面11dを水晶のX軸を回転軸として−74±3°回転させた面に相当する面であり、第3の面11bcは、主面11dを水晶のX軸を回転軸として−56±3°回転させた面に相当する面である。
水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、水晶結晶のm面である第1の面と、前記第1の面と交わる前記m面以外の第2の面と、前記第2の面と交わる前記m面以外の第3の面との3つの面で構成してあることを特徴とするATカット水晶片。
前記ATカット水晶片は、第1の厚さを持つ第1の領域と、前記第1の厚さより薄い第2の厚さを持ち前記第1の領域の外側に該第1の領域と連続している第2の領域とを含む水晶片であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のATカット水晶片。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この出願に係る発明者は、鋭意研究の結果、ATカット水晶振動子の特性改善を図る余地がまだあることを見出した。
この出願はこのような点に鑑みなされたものであり、この出願の目的は従来に比べ特性改善が可能な新規なATカット水晶片及び水晶振動子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の達成を図るため、この発明のATカット水晶片は、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する側面の少なくとも一方を、水晶結晶のm面である第1の面と、前記第1の面と交わる前記m面以外の第2の面と、前記第2の面と交わる前記m面以外の第3の面との3つの面で構成してあることを特徴とする。
この発明の実施に当たり、前記第2の面は、当該ATカット水晶片の、水晶の結晶軸で表わされるX−Z′面(この面を本明細書では主面という。)を、水晶のX軸を回転軸として−74±5°回転させた面に相当する面とし、前記第3の面は、前記主面を、水晶のX軸を回転軸として−56±5°回転させた面に相当する面とするのが好適である。より好ましくは、前記第2の面は、前記主面を、水晶のX軸を回転軸として−74±3°回転させた面に相当する面とし、前記第3の面は、前記主面を、水晶のX軸を回転軸として−56±3°回転させた面に相当する面とするのが良い。ここで、−74や−56のマイナスとは、前述の主面を、X軸を回転軸として時計周りに回転させる意味である(以下、同様)。
【0008】
さらにこの発明の実施に当たり、当該ATカット水晶片の、水晶の結晶軸のZ′軸と交差する2つの側面双方を、前述の第1〜第3の3つの面で構成するのが好適である。より好ましくは、これら2つの側面を、当該ATカット水晶片の中心点を中心に点対称の関係にするのが好適である(
図1(B))。
【0009】
また、この発明の水晶振動子は、上述したこの発明に係るATカット水晶片と、この水晶片を励振するための励振電極とを具えることを特徴とする。より具体的には、この水晶片の表裏の主面(上記X−Z′面)各々に励振電極を具え、この励振電極から引き出された引出し電極を具えた水晶振動子である。もちろん、これら電極を具えた水晶振動子を収納する容器をさらに具えた形態の水晶振動子も、本発明でいう水晶振動子に含まれる。
【0010】
なお、この発明でいうATカット水晶片には、上述したこの発明に係る水晶片と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片を貫通部を隔てて全部又は一部で囲う枠部と、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1又は2以上の連結部と、を具えた水晶片(以下、枠付き水晶片ともいう)も含まれる(
図11)。また、この発明でいう水晶振動子には、上述の枠付き水晶片と、励振電極と、引出電極とを具えた水晶振動子や、さらにこの水晶振動子を収納する容器を具えた水晶振動子も含まれる。
【0011】
また、この発明のATカット水晶片を製造する際は、以下の(a)、(b)の工程を含む製法で行うのが良い。
(a)ATカット水晶ウエハ表裏の当該水晶片形成予定部分に耐エッチングマスクを形成し、このマスクから露出する部分をフッ酸系エッチャントでエッチングする工程。ただし、表裏の耐エッチング性マスク同士は、水晶のZ′軸方向に沿ってΔzずらしておく。マスクズラシ量Δzは、水晶ウエハの厚みをT1としたとき、T1≦Δz≦1.5・T1の範囲から選ばれる値にする。すなわち、マスクズラシ量ΔzをT1〜1.5・T1の範囲から選ばれる値にする。また、エッチング時間は、水晶ウエハの厚さT1を水晶ウエハの片面からエッチングできる時間の70〜125%の範囲から選ばれる時間とする。
(b)上記(a)工程が済んだ後に、水晶ウエハの耐エッチングマスクで覆っていた部分の、当該水晶片の振動領域となる第1の領域のみに、第2の耐エッチングマスクを残し、又は新たに形成し、この第2の耐エッチングマスクから露出する部分を所定厚みhだけエッチングして、第1の領域に連続する第1の領域より厚さが薄い第2の厚さT2を持つ第2の領域を形成する工程。この好適な製法によれば、第1〜第3の3つの面から成る側面を持つこの発明に係るATカット水晶片を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明のATカット水晶片によれば、そのZ′側面が所定の3つの面で構成されるため、この水晶片のZ′方向の端部に断面視で独特の嘴状の構造部を持つ水晶片を実現できる。そのため、ATカット本来の振動以外の不要な振動を上述の独特の構造部で減衰できるので、ATカット水晶振動子本来の振動を優位に生じさせることができる。従って、従来に比べて特性の改善されたATカット水晶振動子を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明のATカット水晶片及びこれを用いた水晶振動子の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
1. ATカット水晶片の構造
図1(A)〜(C)は、実施の形態のATカット水晶片11の説明図である。特に、
図1(A)は水晶片11の平面図、
図1(B)は
図1(A)中のM−M線に沿った水晶片11の断面図、
図1(C)は
図1(B)中のN部分を拡大して示した断面図である。
【0016】
ここで、
図1(A)、(C)中に示した座標軸X,Y′、Z′は、それぞれATカット水晶片での水晶の結晶軸を示す。なお、ATカット水晶片自体の詳細は、例えば、文献:「水晶デバイスの解説と応用」。日本水晶デバイス工業会2002年3月第4版第7頁等に記載されているので、ここではその説明を省略する。
【0017】
この発明に係るATカット水晶片11の特徴は、水晶のZ′軸に交差する側面(Z′面)の形状にある。すなわち、特に
図1(B)及び(C)に示したように、このATカット水晶片11は、水晶のZ′軸に交差する2つの側面(Z′面)各々を、第1の面11a,第2の面11bおよび第3の面11cの、3つの面で構成してある。しかも、第1の面11aは、水晶結晶のm面である。第2の面11bは、第1の面11aと交わっていて、m面以外の面から成る面であり、具体的には、この水晶片11の主面11dを水晶のx軸を回転軸としてθ2だけ回転させた面に相当する面である。第3の面11cは、第2の面11bと交わっていて、m面以外の面から成る面であり、具体的には、この水晶片11の主面11dを水晶のx軸を回転軸としてθ3だけ回転させた面に相当する面である。なお、第1の面は主面11dと交わっている。また、この第1の面11aは、m面であるので、主面11dとはθ1の関係をもった面に相当する。このθ1はATカット水晶片の設計に応じて決められる角度であり、36°近傍(典型的には35°15′±1°程度)である。
【0018】
また、上記の角度θ2、θ3は、詳細は後述の「3.実験結果の説明」の項で説明するが、発明者の実験によれば、下記が好ましいことが分かっている。θ2=−−74°±5°、θ3=−56°±5°、より好ましくは、θ2=−74°±3°、θ3=−56°±3°である。
【0019】
また、この実施の形態の水晶片11では、水晶のZ′軸に交差する2つの側面(Z′面)各々が、水晶片11の中心点O(
図1(B)参照)を中心に、点対称の関係になっている。なお、ここでいう点対称とは、若干の形状差があったとしても実質的に同一とみなせる点対称の状態も含む。
また、この実施の形態の水晶片11の平面形状は、水晶のX軸に沿う方向を長辺とし、水晶のZ′軸に沿う方向を短辺とする矩形の形状としてある。
また、この実施の形態の水晶片11は、第1の領域R1と第2の領域R2とを有する構造としてある。第1の領域R1は、水晶片11の振動領域を構成する領域であり、厚さがT1を持つ領域である。第2の領域R2は、第1の領域R1の外側に第1の領域R1と連続していて第1の領域R1の厚さより薄い第2の厚さT2を持つ領域である。第1の領域R1と第2の領域R2とは、段差hで連続している。段差hの寸法は、第1の領域R1に振動エネルギーを効果的に閉じ込めることができる値とする。具体的には、段差hは、T1に対し3〜20%の範囲から選ばれる値であり、典型的には数μmである。
【0020】
2. ATカット水晶片11の製法例
次に、
図2〜
図7を参照して、実施形態のATカット水晶片11の製法例について説明する。この水晶片11は、フォトリソグラフィ技術およびウエットエッチング技術により水晶ウエハから多数製造できる。そのため、
図2〜
図7では、水晶ウエハ11wの平面図と、その一部分Pを拡大した平面図を示してある。さらに、
図2〜
図7中の一部の図面では、水晶ウエハ11wの一部分PのQ−Q線に沿う断面図や、R部分(
図5(B)参照)の拡大図も併用している。
【0021】
この製法例では、先ず、水晶ウエハ11wを用意する(
図2)。ATカット水晶片11の発振周波数は、周知の通り、水晶片11の主面(X−Z′面)の厚みでほぼ決まる。この場合の水晶ウエハ11wは、第1の厚さとしての厚みT1を持つウエハとする(
図2(B))。
【0022】
次に、この水晶ウエハ11wの表裏両面に、水晶片の外形を形成するための耐エッチング性マスク13を周知のフォトリソグラフィ技術により形成する。この実施形態の場合の耐エッチング性マスク13は、水晶片の外形に対応する部分、各水晶片を保持するフレーム部分、および、水晶片とフレーム部分とを連結する連結部(
図2(A)中に11xで示した部分)で構成してある。しかも、耐エッチング性マスク13のうちの、水晶片11を形成する部分は、その表裏のマスク同士がZ′軸に沿って所定寸法Δz(
図2(B)参照)ずれた形状としてある。具体的には、水晶片の+Y′面側に設ける耐エッチング性マスクを−Y′面側に設ける同マスクに対して+Z′方向に、Δzずれるように、表裏のマスクを相対的にずらす。このマスクズラシ量Δzは、水晶ウエハ11wの厚さT1に対し、T1≦Δz≦1.5・T1で与えられる範囲の、当該水晶振動子の特性に応じた適正な値とする。なお、この外形形成時のエッチング時間及びマスクズラシ量Δzの詳細については、後の「3.実験結果の説明」の項にて説明する。
【0023】
耐エッチング性マスク13の形成が済んだ水晶ウエハ11wを、フッ酸を主とするエッチング液中に所定の時間浸漬する。この処理により、水晶ウエハ11wの耐エッチング性マスク13で覆われていない部分が溶解されて、水晶片11の大まかな外形が得られる。このウエットエッチングでは、水晶結晶のZ軸方向のエッチングが優位に進むので、水晶結晶のm面に相当する第1の面11aが現れる(
図3(B))
【0024】
次に、水晶片11に第1の領域と第2の領域とを形成するために、水晶ウエハ11wの水晶片11の部分の、第1の領域を形成する予定領域上に、第2の耐エッチング性マスク13xを公知のフォトリソグラフィ技術により形成する(
図4)。この第2の耐エッチング性マスク13xは、例えば、耐エッチング性マスク13を形成する際に、このマスク13の第2の耐エッチング性マスク形成予定領域上にフォトレジストを残存させておき(図示せず)、このフォトレジストをマスクとして耐エッチング性マスク13を選択的に除去する方法、または、新規に第2の耐エッチング性マスクを形成する方法で得ることができる。
【0025】
次に、第2の耐エッチング性マスク13xの形成が済んだ水晶ウエハ11wを、フッ酸を主とするエッチング液中に、再度、所定の時間浸漬する。ここで、所定の時間とは、特に
図1(B)や
図5(C)に示したように、水晶片11に、上述した第1の領域R1と、この第1の領域に段差hで連続する第2の領域R2と、が生じるように、水晶ウエハ11wの第2の耐エッチング性マスク13xから露出する部分をエッチングする。
【0026】
ここまでの処理により、水晶片11のZ′側面が所定の第1〜第3の面11a、11b、11cで構成された、この発明に係るATカット水晶片11を多数有する水晶ウエハが得られる(
図5)。続いて、上記の水晶ウエハから、耐エッチング性マスク13,13xを除去して、水晶面を露出する(図示せず)。その後、この水晶ウエハ全面に、周知の成膜方法により、水晶振動子の励振電極および引出電極形成用の金属膜(図示せず)を形成する。次に、この金属膜を、周知のフォトリソグラフィ技術およびメタルエッチング技術により、電極形状にパターニングして、励振電極15aおよび引出電極15bから成る電極15を形成する。これにより、水晶片11、励振電極15aおよび引出電極15bを具える水晶振動子17を得ることができる(
図6)。なお、励振電極15aは、設計に応じ、水晶片11の第1の領域R1全域に又は第1の領域R1の一部の領域に設ける。
【0027】
なお、一般には、水晶振動子17を好適な容器に実装した構造物を水晶振動子と称することが多い。その典型的な例を、
図7を用いて説明する。なお、
図7は、水晶振動子17を容器21に実装する手順を平面図およびそのS−S線に沿う断面図によって示したものである。
【0028】
図6に示した状態では、水晶振動子17は、水晶ウエハ11wに連結部11xを介して結合している状態である。そこで、先ず、連結部11xに適当な外力を加えて、水晶振動子17を水晶ウエハ11wから分離し、個片化する(
図7(A))。一方、容器として、例えば、周知のセラミックパッケージ21を用意する。この場合のセラミックパッケージ21は、水晶振動子17を収納する凹部21a(
図7(B),(C))と、その凹部21aの底面に設けた水晶振動子固定用のバンプ21bと、パッケージ21の裏面に設けた実装端子21cとを具えている。バンプ21bと実装端子21cとはビヤ配線(図示せず)により電気的に接続してある。
【0029】
このパッケージ21の凹部21a内に、水晶振動子17を実装する。詳細には、バンプ21b上に導電性接着材23(
図7(E))を塗布し、この接着材23により、バンプ21bに水晶振動子17を引出電極15bの箇所で固定する。その後、水晶片11の発振周波数調整を周知の方法により所定値に調整し、次に、パッケージ21の凹部21a内を適度な真空又は不活性ガス雰囲気等にした後、蓋25により凹部21aを周知の方法により封止する。このようにしてパッケージ21に水晶振動子が収納された構造の水晶振動子が得られる。
【0030】
3. 実験結果の説明
次に、
図8、
図9、
図10を参照して実験結果を説明する。なお、ここでは主に発振周波数が38.4MHzの水晶振動子での実験結果を示す。また、実験結果の一部では発振周波数が48MHzの水晶振動子での実験結果も併せて示す。
【0031】
3−1.マスクズラシ量Δzと水晶片のZ′面の形状
先ず、マスクズラシ量Δzが水晶片11のz′面の形状にどう影響するかを説明する。ここでは、発振周波数が38.4MHzの水晶振動子での実験結果を示す。従って、この場合の第1の領域R1の厚さT1は約40.4μmである。
図8(A)〜(D)は、マスクズラシ量Δzを異ならせた状態で上述した製法でかつ下記のエッチング条件で試作した各実験試料(水晶振動子)の、
図1(C)に示したN部分に相当する断面図である。具体的には、
図8(A)に示したものは、マスクズラシ量Δz=0の場合に形成される試料での断面図、
図8(B)に示したものは、マスクズラシ量Δz=27μmの場合に形成される試料での断面図、
図8(C)に示したものは、マスクズラシ量Δz=39μm場合に形成される試料での断面図、
図8(D)に示したものは、マスクズラシ量Δz=51μmの場合に形成される試料での断面図である。
これらの試料のマスクズラシ量Δz=27μm、39μm、51μm各々を、水晶ウエハの第1の領域R1の厚さT1(この例では40.4μm)で正規化して求まる比率は、27/40.4≒66.8%、39/40.4≒96.5%、51/40.4≒126.2%である。
【0032】
このようにマスクズラシ量Δzを設定した水晶ウエハを、水晶ウエハの片面から水晶ウエハの厚さT1分をエッチングすることができる時間、フッ酸系のエッチャントに浸漬する。なお、このエッチングは、ここでは水晶ウエハの両面から行うので、エッチング時間が、原理的には、水晶ウエハの片面から水晶ウエハの厚さT1の半分をエッチングできる時間であれば、水晶ウエハを貫通できるが、サイドエッチング起因のエッチング残渣等を防ぐために、ここではその2倍、すなわち、板厚T1をエッチングできる時間としている。そこで、この明細書及び
図9(A)では、外形エッチング量を、次のように定義する。すなわち、上記のように、水晶ウエハの片面から水晶ウエハの厚さT1をエッチングできる外形エッチング量の場合は、外形エッチング量=T1/T1=100%と表す。同様に、例えば、厚さT1の晶ウエハをその片面から75%エッチングできる外形エッチング量を、0.75T1/T1=75%と表し、同様に125%エッチングできる外形エッチング量を、1.25T1/T1=125%と表す。そして、発明者の実験によれば、この発明のATカット水晶片を得るための外形エッチング量は、エッチング残渣を防止する等の観点から、70〜125%の範囲から選ばれる値とするのが良いことが分かった。次に、第2の領域R2が得られるように、上述した製法でエッチングをする。
【0033】
このようにエッチングをした各試料の
図8(A)〜(D)に示した断面図を比較すると以下のことが分かる。
マスクズラシ量Δz=0の場合は、
図8(A)に示したように、水晶片のZ′面は、一部に顕著な突起31が残る形状になる。また、マスクズラシ量Δz=27μmの場合は、
図8(B)に示したように、Z′面は、Z′方向に凸状の多面(4面以上の)構造33を有した形状になる。また、マスクズラシ量Δz=39μmの場合は、
図8(C)に示したように、Z′面は、水晶結晶のm面35を含む4面の構造を有した形状になる。また、マスクズラシ量Δz=51μmの場合は、
図8(D)に示したように、Z′面は、第1〜第3の面11a〜11cからなる3つの面を有したこの発明に係る形状になる。
【0034】
図9(A)は、第1〜第3の3つの面からなるこの発明に係る水晶片を得ることができるマスクズラシ量Δzと、外形エッチング量との関係を説明する図である。この
図9(A)において、横軸は外形エッチング量、横軸はマスクズラシ量である。なお、横軸のマスクズラシ量と縦軸の外形エッチング量はいずれも、上記したように、水晶片の第1の領域の厚さT1(μm)の比で示してある。また、この
図9(A)では、発振周波数が38.4MHzと同48MHzの2種類の水晶振動子での実験結果を示してある。
この
図9(A)中の近似直線上に位置する条件及びその近傍条件が、Z′側面が第1〜第3の面で構成されるこの発明の水晶片が得られる条件である。従って、この
図9(A)から、外形エッチング量を70〜125%の範囲とし、かつマスクズラシ量を100〜150%の範囲(
図9(A)中のVで示す四角の範囲)とするのが良いことが分かる。
【0035】
3−2.水晶片のZ′面の形状と水晶振動子の特性
次に、水晶片のZ′面が
図8(A)〜(D)を用いて説明した形状を持つ各試料(水晶振動子)と、それらが示す特性、具体的には、常温でのクリスタルインピーダンス(CI)との関係を、
図9(B)及び
図10(A)〜(D)を参照して説明する。
先ず、
図10(A)はマスクズラシ量=0の水晶振動子のCI分布、
図10(B)はマスクズラシ量=27μmの水晶振動子のCI分布、
図10(C)はマスクズラシ量=39μmの水晶振動子のCI分布、
図10(D)はマスクズラシ量=51μmの水晶振動子のCI分布である。いずれの試料も容器サイズが1.6×1.2mmの水晶振動子での実験結果である。また、
図9(B)は、これら4種類の水晶振動子群のCIの平均値(Avg)、最大値(Max)、最小値(Min)をまとめた特性図である。
図9(B)及び
図10(A)〜(D)から分かるように、水晶片のZ′面を、m面とそれとは異なる2つの結晶面との合計3つの面で構成したこの発明に係る水晶振動子の場合、
図8(A)、(B)の比較例のものよりCI値が半分程度に改善できることが分かる。また、
図8(C)に示した比較例のものと平均値は同等であるが、CI値の平均値が15Ω付近まで低減でき、この比較例より5Ω程度改善できることが分かる。
【0036】
4.他の実施形態
上述においては、この発明のATカット水晶片およびこれを用いた水晶振動子の実施形態を説明したが、この発明は上述の実施形態に限られない。例えば、上述の例では、Z′方向の両端の側面がこの発明にかかる第1〜第3の面の3つの面で構成された例を説明したが、場合によっては、片側側面のみが第1〜第3の面の3つの面で構成される場合があっても良い。ただし、両側面が第1〜第3の面の3つの面で構成された方が、水晶振動子の特性は優れる。また、上述の例では38.4MHz、48MHzの周波数の水晶振動子の例で説明したが、他の周波数の水晶振動子にも本発明は適用できる。
【0037】
また、この発明でいうATカット水晶片及び水晶振動子は、
図11に示した構造のものであっても良い。先ず、
図11(A)に示したように、この発明に係る水晶片11と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片11を貫通部11yを隔てて全部で囲う枠部11zと、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1つの連結部11xと、を具えた水晶片及び水晶振動子である。また、
図11(B)に示したように、この発明に係る水晶片11と、この水晶片と一体に形成されていてこの水晶片11を貫通部11yを隔てて一部で囲う枠部11zと、同じく一体に形成されていてこれら水晶片と枠部とを連結する1つの連結部11xと、を具えた水晶片及び水晶振動である。なお、連結部が2つ以上あっても良い。ただし、連結部が1つの方が、水晶片11から枠部への振動漏れや、枠部から水晶片への応力の影響を軽減し易い。また、連結部11xを設ける位置は
図11の例に限られず、設計に応じて変更できる。
【0038】
また、上述の例では水晶のX軸に沿う辺を長辺とし、Z′に沿う辺を短辺とする水晶片の例を示したが、水晶のX軸に沿う辺を短辺とし、Z′に沿う辺を長辺とする水晶片にも本発明は適用できる。また、上述の例では平面形状が矩形の水晶片の例を説明したが、角部がR加工やC加工されたような水晶片に対しても本発明は適用できる。また、第2の領域を水晶片11のZ′方向にのみ設けた例を示したが、X方向にも設ける場合があっても良い。