(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-210043(P2016-210043A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】表面処理方法
(51)【国際特許分類】
B28B 11/08 20060101AFI20161118BHJP
E01C 19/44 20060101ALI20161118BHJP
E01C 23/08 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
B28B11/08
E01C19/44
E01C23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-93924(P2015-93924)
(22)【出願日】2015年5月1日
(71)【出願人】
【識別番号】515119789
【氏名又は名称】株式会社OSHIROX
(74)【代理人】
【識別番号】110002055
【氏名又は名称】特許業務法人JAZY国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宰之
【テーマコード(参考)】
2D052
2D053
4G055
【Fターム(参考)】
2D052AA01
2D053AA22
2D053AD01
2D053AD03
4G055AA01
4G055BA31
4G055BA62
(57)【要約】
【課題】コンクリート等の成形後、長時間を経過した場合でも、セメント成分を溶剤で溶かすことで独自の風合いの表面を形成する表面処理方法を提供する。
【解決手段】この発明は、骨材がセメントの中に散在する対象物の表面処理方法であって、上記対象物の表面少なくとも一部にマスクを貼り付けるステップと、上記マスクが貼り付けられた対象物の表面上に溶剤を流し込み、上記対象物の表面のうち上記マスクが貼られておらず露呈している表面部分のセメントを上記溶剤により溶解し、粗面化するステップと、上記溶剤を除去するステップと、上記マスクを上記コンクリートの表面から剥がすステップと、を有し、上記溶剤は、揮発性の強酸及び金属分散剤を含んでいることを特徴とすることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材がセメントの中に散在する対象物の表面処理方法であって、
上記対象物の表面の少なくとも一部にマスクを貼り付けるステップと、
上記マスクが貼り付けられた対象物の表面上に溶剤を流し込み、上記対象物の表面のうち上記マスクが貼られておらず露呈している表面部分のセメントを上記溶剤により溶解し、粗面化するステップと、
上記溶剤を除去するステップと、
上記マスクを上記対象物の表面から剥がすステップと、を有し、
上記溶剤は、揮発性の強酸及び金属分散剤を含んでいることを特徴とする
表面処理方法。
【請求項2】
上記溶剤に含まれる金属分散剤により、上記セメントの溶解に伴い遊離するカルシウムイオンを補足し、再凝集及び上記対象物の付着を防止する
請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
上記溶剤により一部表面が溶解され粗面化された対象物の表面を所定の色彩のコーティング剤によりコーティングするステップを更に有する
請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項4】
上記揮発性の強酸はメタンスルホン酸である
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
上記対象物とは、コンクリート又はモルタルのいずれかである
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタル等を対象とする表面処理方法に係り、特に主成分であるセメントを溶剤で溶かすことで独自の風合いの表面を形成する表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物において、壁面は建造物自体の個性を作り出すものとして、そのデザインが重要視されてきており、コンクリートによる壁面についても、その表面に独自の風合いの模様等を作り出すことが嘱望されている。
【0003】
ここで、例えば、特許文献1では、硬化した透水性コンクリートの表面をブラッシングすることにより、透水性コンクリート表面の骨材を覆うペースト又はモルタルを除去して骨材を表面に露出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−49402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、透水性コンクリートの成形後、48時間を経過してしまうと、骨材を覆っているペースト又はモルタルが硬くなり、除去が困難な場合もあった。また、金属製ブラシによりブラッシングをする必要があり、その作業には熟練を要し、コストと時間を要していた。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、コンクリートやモルタル等の対象物の成形後、長時間を経過した場合でも、セメント成分を溶剤で溶かすことで独自の風合いの表面を形成することが可能な表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記したような課題を解決するために、本発明の一つの態様に係る表面処理方法は、骨材がセメントの中に散在する対象物の表面処理方法であって、上記対象物の表面の少なくとも一部にマスクを貼り付けるステップと、上記マスクが貼り付けられた対象物の表面上に溶剤を流し込み、上記対象物の表面のうち上記マスクが貼られておらず露呈している表面部分のセメントを上記溶剤により溶解し粗面化するステップと、上記溶剤を除去するステップと、上記マスクを上記対象物の表面から剥がすステップとを有し、上記溶剤は、揮発性の強酸及び金属分散剤を含んでいることを特徴とする。
【0008】
上記溶剤に含まれる金属分散剤により、上記セメントの溶解に伴い遊離するカルシウムイオンを補足し、再凝集及び上記対象物の付着を防止してもよく、上記溶剤により一部表面が溶解され粗面化された対象物の表面を所定の色彩のコーティング剤によりコーティングするステップを更に有してもよい。そして、上記揮発性の強酸はメタンスルホン酸であってもよく、上記対象物は、コンクリート又はモルタルのいずれかでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンクリートやモルタル等の対象物の成形後、長時間を経過した場合でも、セメント成分を溶剤で溶かすことで独自の風合いの表面を形成することが可能なコンクリート表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る表面処理方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る表面処理方法の処理手順を説明するための工程図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る表面処理方法の処理手順を説明するための工程図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る表面処理方法により処理されたコンクリート表面の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0012】
先ず、本実施形態に係るコンクリートやモルタル等の対象物の表面の処理方法の概要を説明する。本実施形態に係る表面処理方法は、コンクリートやモルタル等の対象物の主成分であるセメントを溶剤で溶かすことで、コンクリート等の表面に新たな表情と機能を与えるものであるが、コンクリート等の表面を一皮剥くという意味からピーリンング手法とも称される。
【0013】
そして、この実施形態に係る表面処理方法によれば、以下の作用をもたらす。
【0014】
第1に、コンクリートやモルタル等の表面を処理することで、コート剤がより浸透するようになり、耐久性も大幅に向上する。
【0015】
第2に、コンクリートやモルタル等の対象物の表面にざらつきを与えることによって、滑り止め効果を高めることができる。床面に施工する場合、高い滑り止め効果が期待できるため、公の施設などに最適な工法である。
【0016】
第3に、コンクリート等の表面において素地を削り出すことにより、独特の風合いを表現することができる。また、コンクリート等の表面を溶かす独自の溶剤により、模様等を表現することもでき、カラーコート施工との組み合わせによれば表現の幅は更に広がることは勿論である。
【0017】
以下、これをふまえて、本実施形態について詳述する。
【0018】
本実施形態に係るコンクリートやモルタル等の対象物の表面処理方法では、揮発性の強酸によりコンクリート等に含まれるセメント成分を溶かすことを特徴としている。セメント成分が溶け出すと、これに合わせてカルシウムイオンが遊離するが、金属分散剤によりカルシウムイオンを補足することでカルシウムイオンの再凝集、及びコンクリート等への付着を防止する。このような揮発性の強酸と金属分散剤を含む溶剤により、コンクリート等の表面を処理するものである。
【0019】
即ち、溶剤は、揮発性の強酸、及び金属分散剤を含んでいる。
【0020】
コンクリート等の表面を処理する目的として従来は塩酸や硫酸などが用いられていたが、これらは太陽光と反応してコンクリート表面を黄変させることがある。これに対して、本実施形態で採用する揮発性の強酸は処理対象であるコンクリート等の黄変を生じることがないことから表面処理に好適であるといえる。
【0021】
より具体的には、揮発性の強酸としてはMSA(メタンスルホン酸)を用いる。メタンスルホン酸(組成式:CH
3SO
3H)は、メチルスルホン酸とも称され、強酸性という特質を有している。一般には、ジメチルスルフィドの過マンガン酸カリウム、硝酸による酸化、メタンの三酸化硫黄によるスルホン化などにより工業的に製造される。
【0022】
一方、金属分散剤は、処理対象であるコンクリート等の表面処理時に遊離する未反応セメントを効率よく補足し、該未反応セメントの処理面への再付着を強く抑制する。
【0023】
ここで、「分散」とは、対象物質が媒体に細かく均一に浮遊あるいは懸濁している状態をいう。分散剤は、このような分散の機能を発揮させる薬剤の総称であり、分散を容易に行い優れた分散体を得るために添加される。
【0024】
一般に、分散剤には、次のような種類がある。
a)高分子型分散剤
分散の機能の発揮が少量でも高く、安定的に分散体を得ることができる。長期間の分散の安定性にも優れている。例えば、水系であればポリカルボン酸系など、非水系ではあればポリエーテル系などが挙げられる。
b)界面活性剤型分散剤
粒子の表面に吸着し所謂湿潤効果を発揮する。例えば、水系であればアルキルスルホン酸系など、非水系であればアルキルポリアミン系などが挙げられる。
c)無機型分散剤
特に水系での粒子の表面への吸着が強い。例えば、ポリリン酸塩系などが挙げられる。
【0025】
このような分散剤の特質に鑑みて、本実施形態では、分散剤には無機型分散剤のうち金属分散剤を使用する。本実施形態で使用する金属分散剤は、コンクリートのカルシウムイオンを補足し、これらが再凝集する事を防いでいる。
【0026】
本実施形態に係るコンクリートやモルタル等の対象物の表面処理方法の適用対象としては、例えば打設後10年以内であって表面にノロが少し残っているプレストレストコンクリート(PC;Prestressed Concrete)及び鉄筋コンクリート(RC;Reinforced Concrete)がある。ノロとは、タイル貼りの下地に用いられるセメントペーストのことをいう。
【0027】
より詳細には、PCは、コンクリートの中に鋼材を入れて補強した複合材である。RCはコンクリートと鉄筋との複合材である。一般に、コンクリートは、セメント、水、細骨材(砂)、粗骨材(砂利)、混和材、及び空気で構成されている。細骨材と粗骨材を併せて骨材と称することにする。本実施形態に係る表面処理方法では、このようなコンクリート及びノロの主成分のうち、セメントのみを溶剤で溶かすことで、独自の風合いの模様等を表面に形成するものである。
【0028】
コンクリート等の主成分であるセメントには、ポルトランドセメントや混合セメントなどの水硬性セメントがある。ポルトランドセメントには、一般的な建築に用いられる普通ポルトランドセメントや短時間で高い強度を実現する早強ポルトランドセメント、水和熱が低い中庸熱ポルトランドセメントなどがある。一方、混合セメントは、このようなポルトランドセメントを主体として他の混合材を混合したもので、シリカセメントやフライアッシュセメント等がある。ポルトランドセメントと混合セメントは、建築用のコンクリートに好適なものとして汎用されている。
【0029】
なお、セメントと水を混ぜたものはセメントペーストと称され、セメントペーストに細骨材(砂)を混ぜたものはモルタルと称される。本実施形態は、コンクリートの主成分であるセメントを前述したような溶剤で溶かすことで表面処理を行うものであるが、コンクリートのほか、セメントペーストやモルタル等に対しても適用可能である。
【0030】
以下、
図1のフローチャートを参照して、本実施形態に係る表面処理方法の工程を説明する。ここでは、
図2の概念図を適宜参照する。
【0031】
表面処理の対象としては、
図2(a)に示されるように骨材(砂利、砂)3がセメント2の中に散在したコンクリートを想定して説明を進める。但し、モルタルにも適用可能であることは勿論である。
【0032】
先ず、
図2(b)に示されるように、コンクリート1の表面に所望とする意匠を形成するために、コンクリート1の表面の一部にマスク4を貼り付ける(S1)。表面処理を施す対象のコンクリート1としては、前述したように、例えば打設後10年以内のPCやRCが挙げられる。但し、コンクリートに限らず、モルタルを対象とすることもできる。
【0033】
続いて、
図2(c)に示されるように、マスク4が貼り付けられたコンクリート1の表面に溶剤5を流し込み、マスク4の貼られていない露呈した表面部分のセメント2を溶解する(S2)。溶剤5は、揮発性の強酸、及び金属分散剤を含んでいる。揮発性の強酸としてはMSA(メタンスルホン酸)を用いることができるが、これには限定されない。
【0034】
セメント2が溶解すると、これに合わせてカルシウムイオンが遊離するが、溶剤5に含まれる金属分散剤によりカルシウムイオンを補足することで再凝集、及びコンクリート1への付着を防止するようにしている。
【0035】
こうして、所定時間経過し、表面のセメント2の溶解が完了すると、
図2(d)に示されるように、溶剤5を除去して(S3)、マスク4をコンクリート1の表面から剥がす(S4)。以上の工程により、マスク4が貼られていた表面1bは平坦面のままとし、マスク4が貼られていなかった表面1aはセメント2を溶解し一部の骨材3が表面より露呈するように粗面化することで、滑り止めの効果を発揮するようにできる。また、マスク4の形状やサイズを所望とするデザインに合致するように形成することで、表面に所望とする意匠を形成することも可能となる。
【0036】
こうして、表面に吸水防止加工を施し(S5)、コンクリートの表面処理方法に係る一連の処理を終了する。
【0037】
なお、吸水防止加工を施した後に、所望とする色彩のコーティング剤により表面をコーティングしてもよい。その場合には、
図3に示されるように、一部粗面化された表面に所定の膜厚のコーティング層6が形成されることになる。
【0038】
最後に、
図4は、本実施形態に係るコンクリート表面処理方法により処理されたコンクリートの表面の様子を示している。これら
図4(a)乃至(i)に示されるように、多様な模様を形成することができると共に、上記コーティングの併用により、色彩についても多様な色彩を表面に施すことが可能となる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係るコンクリート表面処理方法によれば、コンクリートの表面を処理することで、コート剤の浸透性が高まり、耐久性も大幅に向上する。さらに、コンクリートの表面にざらつきを与えることによって、滑り止め効果を向上させることができる。そして、溶剤によりコンクリート表面の素地を削り出すことで、独特の風合いや模様を表現することができる。カラーコート施工との組み合わせによれば表現の幅は更に広がる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良・変更が可能であることは勿論である。例えば、溶剤によりコンクリートの表面の少なくとも一部を溶解した後、溶剤を除去し、更に金属製のブラシでブラッシングして、表面の粗面化を更に進めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 コンクリート
2 セメント
3 骨材
4 マスク
5 溶剤
6 コーティング層