【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)論文の発表により公開 Elsevier社、Carbon、第85号 第245〜248頁、発行日 平成27年4月 (2)ウェブサイトへの発表により公開 掲載日 平成27年1月13日、掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008622315000111
【背景技術】
【0002】
水や空気の浄化材として用いられる活性炭は、表面積が大きいほど、吸着対象物を吸着して水や空気を浄化することができる。
【0003】
従来、活性炭の表面積を増大させる賦活方法としてガス賦活法があった。
ガス賦活法では、例えば、活性炭に特定の金属元素(Mg、Mn、Fe、Y、Pt及びGdの少なくとも1種の金属成分)を一定の範囲で添加し、水蒸気や二酸化炭素などを供給することによって、活性炭に形成されるメソ細孔モード直径を30〜45Åの範囲などに制御する方法(特許文献1)があった。
しかし、特許文献1の技術によれば、所定の細孔モード直径を得るためには、それに対応した所定の金属元素を添加する必要があった。また、添加され活性炭前駆体中に含有される金属成分の含有量が少ないと賦活反応時の金属の作用が弱くなる等の理由により、所望の活性炭が得られなくなることがある。逆に多い場合は、活性炭中で金属成分が凝縮しやすくなり、活性炭の物理的強度が著しく低下するため、吸着材等としての実用性を欠くことがあった。
また、微量元素を一般的な木材よりも多く含有するリンゴ剪定枝を炭素化およびガス賦活することにより、薬品などを添加せずメソ孔容積0.1cm
3/g以上の活性炭を得る方法もあった(特許文献2)。
しかし、特許文献2の技術では得られる活性炭の吸着性能が低かったため、活性炭などの炭素材料に、効率的な方法でより微細な孔を形成して表面積を増やしたり、孔径を調整したりすることにより、多数の吸着対象物を吸着することができる浄化材を製造する方法が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る炭素材料の賦活方法について説明する。
本発明の実施形態は、炭素材料に対し、賦活ガスをいわゆる圧力スイングの方法で供給して反応させることを特徴とする。
炭素材料としては、活性炭などの炭素を主成分とする材料を用いることができる。
【0010】
本発明の実施形態では、
図1に示す賦活装置を用いる。
図1の賦活装置は、活性炭1を配置した反応管2に、賦活ガスであるCO
2と不活性ガスであるAr(アルゴン)との一方を選択して流せるようにした装置である。
装置には、上流側から順に、図示しないCO
2およびArの供給源、流量計3、バルブ4、反応管2、圧力計5、バルブ6、図示しない真空ポンプが配置されている。
ガスの流路は、反応管2と圧力計5との間で分岐して、バルブ7を介してガスを排出することもできるようになっている。
【0011】
活性炭を賦活するためには、まず、バルブ6を閉じるとともにバルブ4,7を開放し、反応管にArのみを400mL/minの流量で流しながら、20℃/minの昇温速度で1123Kになるまで昇温する。昇温が完了したら、バルブ4,7を閉じるとともにバルブ6を開放し、内部の気圧が20Pa以下になるまで真空引きする。
次に、バルブ6,7を閉じるとともにバルブ4を開放してCO
2を流し、CO
2の圧力が所定時間で60kPaになるように徐々に上昇させる。
CO
2の圧力が60kPaに到達したら、バルブ4,7を閉じるとともにバルブ6を開放して、反応管を20秒間真空引きし、内部が20Pa以下になるようにする。
その後、再度CO
2の圧力が所定時間で60kPaになるように徐々に上昇させる工程と、20秒間真空引きして20Pa以下になるようにする工程とを所定回数繰り返し、合計時間が120分になったら終了する。
最後に、バルブ6を閉じるとともにバルブ4,7を開放し、Arのみを流しながら、室温になるまで冷却する。
【0012】
<試験1>
図2に示すように、本発明の効果を検証する実験を行った。
炭素材料としては、粒状のやし殻活性炭を使用した。
実施例1として、6分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を20回行って活性炭を賦活した。
実施例2として、12分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を10回行って活性炭を賦活した。
実施例3として、24分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を5回行って活性炭を賦活した。
実施例4として、60分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を2回行って活性炭を賦活した。
実施例5として、120分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を1回行って活性炭を賦活した。
また、初期のやし殻活性炭に手を加えないものを比較例1とした。
【0013】
次に、実施例1〜5および比較例の活性炭の吸着性能を測定するため、N
2(窒素)ガスを流した。
図3は、流したN
2ガスの相対圧(P/P
0)を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりに吸着されたN
2ガスの体積(cm
3/g)を測定した結果を縦軸に示した吸着等温線である。
相対圧0.2〜1.0の範囲において吸着したN
2ガスは、比較例1では250cm
3/g程度であった。
これに対し、実施例5では400cm
3/g程度、実施例4では425cm
3/g程度、実施例3では450cm
3/g程度、実施例2では500cm
3/g程度、実施例1では600cm
3/g程度となった。
このように、圧力スイングによる賦活を行った実施例1〜5は、吸着性能において、初期状態の比較例1を大きく上回っていることがわかった。
【0014】
図4は、活性炭に形成された孔の径を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりの所定径の孔の容量の総和を示した細孔径分布図である。
これによれば、径が1nm未満の孔および径が2.5nm超の孔では、縦軸において実施例1、実施例3、実施例5、比較例1にほとんど差がなかったが、径が1〜2.5nmの孔では、縦軸において実施例1、実施例3、実施例5が比較例1を上回っていることがわかった。
すなわち、実施例1、実施例3、実施例5では、比較例1に比較して、微細な径の孔が多数形成されているか、あるいは微細な径の孔が深く形成されていることがわかった。
【0015】
また、
図5において、S
αsはαsプロット法によって求めた比表面積(m
2/g)、V
microはαsプロット法によって求めたミクロ孔容積(cm
3/g)、wは平均細孔径(nm)、burn offは重量減少率(%)を示している。
これによれば、圧力スイングの回数を増やすほど、比表面積やミクロ孔容積が増え、活性炭の吸着性能が向上することがわかった。
【0016】
このように、本発明によって活性炭の微細な孔、比表面積やミクロ孔容積を増大させることができる理由は、圧力スイングの回数を増やすことによってCO
2が活性炭内部に拡散しやすくなり、賦活を促進するためと考えられる。
【0017】
<試験2>
次に、比較例2として、CO
2の流量を徐々に上昇させる実施例5とは異なり、CO
2の流量を開始から120分間48mL/minに保って1123Kで活性炭を賦活した。
また、比較例3として、温度を1143Kに変更したほかは比較例2と同様の条件で活性炭を賦活した。
なお、本発明の実施例1で流されるCO
2の流量を平均すると48mL/minとなる。
【0018】
初期状態の活性炭である比較例1と、比較例2,3と、本発明の実施例1とを比較した。
図6は、流したN
2ガスの相対圧(P/P
0)を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりに吸着されたN
2ガスの体積(cm
3/g)を測定した結果を縦軸に示した吸着等温線である。
相対圧0.0〜1.0の範囲において吸着したN
2ガスは、比較例1では250cm
3/g程度、比較例2では525cm
3/g程度、比較例3では550cm
3/g程度、実施例1では600cm
3/g程度となった。
このように、圧力スイングによる賦活を行った実施例1は、CO
2の流量を同じにした比較例2,3に比較しても、吸着性能が向上していることがわかった。
【0019】
図7は、活性炭に形成された孔の径を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりの所定径の孔の容量の総和を示した細孔径分布図である。
これによれば、径が0.5nm未満の孔および径が2.5nm超の孔では、縦軸において実施例1と、比較例2,3とにほとんど差がなかったが、径が0.5〜2.0nmの孔では、縦軸において実施例1が比較例2,3を上回っていることがわかった。
すなわち、実施例1では、CO
2の流量が同じ比較例2,3に比較して、微細な径の孔が多数形成されているか、あるいは微細な径の孔が深く形成されていることがわかった。
【0020】
また、
図8において、S
αsはαsプロット法によって求めた比表面積(m
2/g)、V
microはαsプロット法によって求めたミクロ孔容積(cm
3/g)、wは平均細孔径(nm)、burn offは重量減少率(%)を示している。
これによれば、圧力スイングによる賦活を行った実施例1は、温度およびCO
2の流量を同じにした比較例2に比較して、重量減少率はほとんど変わらないが、比表面積やミクロ孔容積が増え、活性炭の吸着性能が向上することがわかった。
また、比較例3は、比較例2と比較すると、温度を上げたことにより比表面積やミクロ孔容積が増えているが、酸化により重量が初期状態から71%も減少してしまう。
他方、実施例1は、比較例3よりも吸着性能が向上しているにもかかわらず、比較例3よりも重量減少率が小さく、歩留りがよくなっている。
【0021】
<試験3>
また、活性炭繊維においても、粒状活性炭と同様の効果が生じるか、実験を行った。
この試験では、炭素材料として活性炭繊維を使用した。
実施例1'として、6分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を20回行って活性炭を賦活した。
実施例3'として、24分間でCO
2の分圧を60kPaまで上昇させ、真空引きする工程を5回行って活性炭を賦活した。
従来の賦活方法による比較例2'として、CO
2の流量を開始から120分間48mL/minに保って1123Kで活性炭を賦活した。
また、初期の活性炭繊維に手を加えないものを比較例1'とした。
【0022】
次に、実施例および比較例の活性炭の吸着性能を測定するため、N
2(窒素)ガスを流した。
図9は、流したN
2ガスの相対圧(P/P
0)を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりに吸着されたN
2ガスの体積(cm
3/g)を測定した結果を縦軸に示した吸着等温線である。
相対圧0.0〜1.0の範囲において吸着したN
2ガスは、比較例1'では550cm
3/g程度であるのに対し、比較例2'では750cm
3/g程度となった。
また、実施例3'では700cm
3/g程度、実施例1'では850cm
3/g程度となった。
【0023】
図10は、活性炭に形成された孔の径を横軸に示し、それぞれの活性炭1gあたりの所定径の孔の容量の総和を示した細孔径分布図である。
これによれば、径が0.5nm未満の孔では、縦軸において実施例3'、比較例1'、比較例2'にほとんど差がなかったが、実施例1'はこれらを下回っていた。径が0.5〜3nmの孔では、縦軸において実施例1'が比較例1'、比較例2'を上回るとともに、実施例3'は比較例1'を上回るが比較例2'を下回っていることがわかった。径が3nm超の孔では、縦軸において実施例1'、実施例3'、比較例1'、比較例2'にほとんど差はなかった。
【0024】
また、
図11において、S
αsはαsプロット法によって求めた比表面積(m
2/g)、V
microはαsプロット法によって求めたミクロ孔容積(cm
3/g)、wは平均細孔径(nm)、burn offは重量減少率(%)を示している。
これによれば、実施例1'は、温度およびCO
2の流量を同じにした比較例2'に比較して、重量減少率はほとんど変わらないが、比表面積やミクロ孔容積において比較例2'を上回っていることがわかった。
また、実施例3'は、比表面積やミクロ孔容積において比較例2'を下回っているが、重量減少率が比較例2'よりも小さくなっている。
【0025】
以上から、圧力スイングを行った実施例1',3'は、吸着性能において、初期状態の比較例1'を大きく上回っていることがわかった。
また、圧力スイングを5回行った実施例3'は、1gあたりの吸着量においては比較例2'を下回っている。しかし、比較例2'の重量減少率が51%であるのに対し、実施例3'の重量減少率は32%であり歩留りに優れるから、総合的な吸着性能では実施例3'が比較例2'を上回っている。
さらに、圧力スイングを20回行った実施例1'は、比較例2'に対して、吸着性能において優れるとともに、重量減少率が小さく歩留りにも優れていることがわかった。
【0026】
図12は活性炭の表面を撮影したSEM画像であって、(a)は未処理の粒状やし殻活性炭である比較例1を、(b)は圧力スイングを20回繰り返した粒状やし殻活性炭である実施例1を、(c)はCO
2の流量を開始から120分間48mL/minに保って1123Kで賦活した粒状やし殻活性炭である比較例2を、(d)は未処理の活性炭繊維である比較例1'を、(e)は圧力スイングを20回繰り返した活性炭繊維である実施例1'を、(f)はCO
2の流量を開始から120分間48mL/minに保って1123Kで賦活した活性炭繊維である比較例2'を、それぞれ示している。
図12はμmサイズの画像であるため、(a)と(b)とではほとんど差異がなく、(d)と(e)とでもほとんど差異がない。これは、上記の試験からわかるように、圧力スイングで活性炭を賦活した実施例1,1'では、活性炭にnmサイズの孔が多数形成されるためである。
他方、(c)は(a)(b)に比べて粒状やし殻活性炭に大きな窪みが形成されていることがわかる。また、(f)も、(d)(e)に比べて活性炭繊維に大きな窪みが形成されていることがわかる。すなわち、CO
2の流量を開始時から一定に保つ従来の賦活方法では、大きすぎる孔が形成されてしまい、比表面積および吸着性能がそれほど大きくならず、かつ、重量が大きく減少してしまうことがわかる。