(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-210908(P2016-210908A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】除錆防錆剤および除錆防錆方法
(51)【国際特許分類】
C09D 131/04 20060101AFI20161118BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20161118BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20161118BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20161118BHJP
C09D 9/00 20060101ALI20161118BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
C09D131/04
B05D3/12 E
C09D5/08
C09D7/12
C09D9/00
C23F11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-96501(P2015-96501)
(22)【出願日】2015年5月11日
(71)【出願人】
【識別番号】591074390
【氏名又は名称】安田 謙一
(71)【出願人】
【識別番号】515018585
【氏名又は名称】岡本 眞佐枝
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】安田 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 眞佐枝
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
4K062
【Fターム(参考)】
4D075BB20Z
4D075BB60Z
4D075CA33
4D075CA34
4D075CA47
4D075CA48
4D075DB01
4D075DB02
4D075DC05
4D075DC15
4D075DC18
4D075DC21
4D075EA05
4D075EA13
4D075EB19
4D075EC07
4J038CF021
4J038JA35
4J038LA03
4J038LA06
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA27
4J038PA18
4J038PB05
4J038PC02
4J038RA06
4J038RA12
4J038RA16
4K062AA01
4K062BA08
4K062BB16
4K062BC08
4K062CA02
4K062DA05
(57)【要約】
【課題】処理対象物を溶液に漬ける含浸処理等は不要であり、鉄橋等の既設構造物といったような大型の処理対象物に対する除錆防錆処理に適用されて好適な除錆防錆剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る除錆防錆剤は、成膜成分と除錆防錆添加剤とからなる。この除錆防錆剤は、処理対象物の表面に塗布されることで、成膜成分由来の膜体が処理対象物の表面に形成されるとともに、該膜体内に除錆防錆添加剤が保持された状態で処理対象物に対して除錆防錆添加剤に由来する除錆防錆作用が発揮される。そして、塗装処理に先立って成膜成分由来の膜体を処理対象物の表面から引き剥がすことで、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるようになっていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物の表面に発生した錆を除去する除錆機能と、錆の除去後のさらなる錆の発生を防ぐ防錆機能とを兼ね備える除錆防錆剤であって、
成膜成分と除錆防錆添加剤とからなり、
処理対象物の表面に塗布されることで、成膜成分由来の膜体が処理対象物の表面に形成されるとともに、該膜体内に除錆防錆添加剤が保持された状態で処理対象物に対して除錆防錆添加剤に由来する除錆防錆作用が発揮され、
塗装処理に先立って成膜成分由来の膜体を処理対象物の表面から引き剥がすことで、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるようになっていることを特徴とする除錆防錆剤。
【請求項2】
処理対象物の表面に塗布された際に、除錆防錆添加剤に由来する防錆被膜を処理対象物の表面に形成する、請求項1記載の除錆防錆剤。
【請求項3】
成膜成分が酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであり、
除錆防錆添加剤が、少なくともカルボン酸、タンニン酸、リン酸を含む、請求項1又は2記載の除錆防錆剤。
【請求項4】
処理対象物に対する塗装処理に先立って行われる除錆防錆方法であって、
成膜成分と除錆防錆添加剤とからなる除錆防錆剤を、処理対象物の表面に塗布する塗布工程と、
成膜成分を固化させることで処理対象物の表面に膜体を形成させる成膜工程と、
所定時間、処理対象物の表面に膜体が形成された状態を維持し、該膜体を硬化させる養生工程と、
硬化した膜体を処理対象物から引き剥がす剥離工程と、
を含み、
養生工程において、膜体内に除錆防錆添加剤が保持された状態で、該除錆防錆添加剤に由来する処理対象物に対する除錆防錆作用が発揮され、
剥離工程において、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるようになっていることを特徴とする除錆防錆方法。
【請求項5】
養生工程において、除錆防錆添加剤に由来する防錆被膜が処理対象物の表面に形成される、請求項4記載の除錆防錆方法。
【請求項6】
成膜成分が酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであり、
除錆防錆添加剤が、少なくともカルボン酸、タンニン酸、リン酸を含む、請求項4又は5記載の除錆防錆方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面に付着の錆を除去するとともに、さらなる錆の発生を防止するための除錆防錆剤、およびこの除錆防錆剤を用いた除錆防錆方法に関する。本発明に係る除錆防錆剤、および除錆防錆方法は、特に鉄橋等の既設構造物を構成する鋼材に対する除錆防錆処理に用いられて好適である。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る除錆防錆剤は、金属表面に発生した金属酸化物を含む錆を除去するとともに、さらなる酸化物の発生を防止する除錆防錆剤に関するが、このような除錆機能と防錆機能とを兼ね備えた組成物の従来例としては、例えば特許文献1、2を挙げることができる。特許文献1には、ヒドロキシアルキルイミノカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、クエン酸、アルカリ剤、および水を含み、pHが3.5〜5.5の強酸に調整された除錆防錆剤が開示されている。特許文献2には、リン酸、油脂系湿潤剤、界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、メタノール、水からなる塗装前処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−114505号公報
【特許文献2】特開2013−036077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の除錆防錆剤、或いは特許文献2に記載の塗装前処理剤を用いれば、研磨剤などを鋼材表面に吹き付けて錆を落とすサンドブラスト処理、或いは電動サンダなどの動力工具を使って錆を落とす研削処理などの錆落とし処理(ケレン処理)が不要となり、錆落とし作業の容易化が期待できる。また、錆落とし作業後の防錆効果も期待できる。
【0005】
但し、特許文献1に記載の除錆防錆剤は、当該除錆防錆剤の使用に先立って、処理対象物を硫酸酸洗液やアルカリ洗液などに30分以上含浸させる「前処理」を行うことが必要であり、作業効率良く錆落とし作業を進めることができない。何よりも、特許文献1に記載の除錆防錆剤は、パイプ、熱交換器、鋼板、棒材、線材などの鋼材、或いはプリント配線基板やリードフレームなどの電子回路部品などを処理対象物とするものであり、これら処理対象物に対して、硫酸酸洗液やアルカリ洗液により前処理を施したうえで、20〜40℃の除錆防錆剤に30〜60秒間含浸させることで、除錆防錆処理を行うものとなっており、2度の溶液に対する含浸処理が必要である。このため、上述の線材等の鋼材、リードフレームなどの電子回路部品といったような小型の対象物に対しては、特許文献1に記載の除錆防錆剤を用いて除錆防錆処理を行うことは可能であるものの、鉄橋等の既設構造物といったような大型の処理対象物に対して除錆防錆処理を行うことは実質的に不可能である。
【0006】
特許文献2に記載の塗装前処理剤も同様であり、塗装前処理剤に処理対象物を含浸させることが必要であるため、鉄橋等の既設構造物といったような大型の処理対象物に対して除錆防錆処理を行うことは実質的に不可能である。
【0007】
本発明は、以上のような従来の除錆防錆処理剤の抱える問題を解決するためになされたものであり、処理対象物を溶液に漬ける含浸処理等は不要であり、鉄橋等の既設構造物といったような大型の処理対象物に対する除錆防錆処理に適用されて好適であるとともに、実用性に優れた除錆防錆剤および除錆防錆方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、処理対象物の表面に発生した錆を除去する除錆機能と、錆の除去後のさらなる錆の発生を防ぐ防錆機能とを兼ね備える除錆防錆剤を対象とする。この除錆防錆剤は、成膜成分と除錆防錆添加剤とからなる。そして、処理対象物の表面に塗布されることで、成膜成分由来の膜体が処理対象物の表面に形成されるとともに、該膜体内に除錆防錆添加剤が保持された状態で処理対象物に対して除錆防錆添加剤に由来する除錆防錆作用が発揮され、塗装処理に先立って成膜成分由来の膜体を処理対象物の表面から引き剥がすことで、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるようになっていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の除錆防錆剤は、処理対象物の表面に塗布された際に、上記除錆防錆添加剤に由来する防錆被膜を処理対象物の表面に形成する。
【0010】
成膜成分が酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであり、除錆防錆添加剤が、少なくともカルボン酸、タンニン酸、リン酸を含むものとする。カルボン酸の具体例としては、没食子酸などの芳香族カルボン酸、クエン酸、酒石酸などのヒドロキシ酸、酢酸などを挙げることができる。
【0011】
また、本発明は、処理対象物に対する塗装処理に先立って行われる除錆防錆方法を対象とする。この除錆防錆方法は、成膜成分と除錆防錆添加剤とからなる除錆防錆剤を、処理対象物の表面に塗布する塗布工程と、成膜成分を固化させることで処理対象物の表面に膜体を形成させる成膜工程と、所定時間、処理対象物の表面に膜体が形成された状態を維持し、該膜体を硬化させる養生工程と、硬化した膜体を処理対象物から引き剥がす剥離工程とを含む。そして、養生工程において、膜体内に除錆防錆添加剤が保持された状態で、該除錆防錆添加剤に由来する処理対象物に対する除錆防錆作用が発揮され、剥離工程において、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるようになっていることを特徴とする。
【0012】
養生工程において、除錆防錆添加剤に由来する防錆被膜が処理対象物の表面に形成されるものとする。
【0013】
成膜成分が酢酸ビニル樹脂系エマルジョンであり、除錆防錆添加剤が、少なくともカルボン酸、タンニン酸、リン酸を含むものとする。カルボン酸の具体例としては、没食子酸などの芳香族カルボン酸、クエン酸、酒石酸などのヒドロキシ酸、酢酸などを挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、成膜成分に由来の膜体内に除錆防錆剤が保持された状態で処理対象物に対して除錆防錆作用が発揮されるようにしたので、従来の除錆防錆剤のような、処理対象物を溶液内に含浸させることなく、処理対象物に対して除錆防錆添加剤に由来する除錆防錆作用を発揮させることができる。このように、本発明に係る除錆防錆剤を用いれば、処理対象物の大きさに制限されることなく、該処理対象物に対して除錆防錆作用を及ぼすことができるので、本発明は、特に既設構造物(鉄橋等)を構成する鋼材に対する除錆防錆剤として極めて有用である。
【0015】
加えて、本発明においては、塗装処理に先立って成膜成分由来の膜体を処理対象物の表面から引き剥がすことで、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができる。従って、本発明によれば、研磨剤などを鋼材表面に吹き付けて錆を落とすサンドブラスト処理や電動サンダなどの動力工具を使って錆を落とす研削処理などの錆落とし処理(ケレン処理)が不要となり、錆落とし作業の格段の容易化を図ることができる。
【0016】
また、本発明によれば、処理対象物の表面に発生した錆を膜体内に保持したまま、該錆を処理対象物から分離することができるので、サンドブラスト処理やケレン処理では不可避であった錆等が周囲に飛び散ることに起因する環境汚染問題を一掃できる。また、処理対象物から落とされた錆等は膜体に取り込まれた状態で集めることができるので、その後の錆の廃棄処理が格段に容易となる利点もある。
【0017】
加えて、本発明に係る除錆防錆剤を用いれば、先の除錆防錆添加剤に由来する除錆機能に加えて、膜体と処理対象物との間に作用する接着力により、錆を処理対象物から剥がすことができる。つまり、本発明によれば、除錆防錆添加剤に由来する化学的な除錆機能に加えて、膜体の接着力という物理的な除錆機能が発揮されるので、より確実に錆を処理対象物から落とすことができる。
【0018】
また、処理対象物の表面に塗布された際に、除錆防錆添加剤に由来する防錆被膜が処理対象物の表面に形成されると、膜体を引き剥がした後の防錆被膜に由来する防錆効果が期待でき、処理対象物の腐食を抑制ないし防止できる。すなわち、一次防錆効果が期待できる。さらに、膜体を処理対象物の表面から引き剥がして除錆処理を施した後も、数日から数週間程度の短期間であれば、防錆被膜に由来する防錆効果が発揮され、除錆処理後、直ちに防錆塗料を塗布せずとも防錆効果が維持されるため、その後の塗装作業の作業性が格段に向上する利点もある。
【0019】
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる成膜成分は、溶媒系に比べて環境汚染を引き起こし難い点で優れている。かかる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量は、除錆防錆剤の全量に対して、60〜75重量%(60重量%以上、75重量%以下)の範囲にあることが好ましい。酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量が60重量%未満となると、処理対象物の表面に形成される膜体の機械的強度(引張強度)が不足し、膜体が千切れ易くなるため、膜体を処理対象物から剥がすことが困難となり、引き剥がし作業の作業効率性の低下を招く。実用利便性も低下する。さらに、膜体の接着力が低下するため、膜体に錆を確りと吸着することができず、効率的に錆を処理対象物から除去することが困難となる。逆に酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量が75重量%を超えると、膜体の機械的強度と接着力とが大きくなり過ぎるため、当該膜体を処理対象物から引き剥がすことが困難となり、この場合も引き剥がし作業の作業効率性と実用利便性の低下を招く。これに対して、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量が上記範囲内(60重量%以上、75重量%以下)であると、得られた膜体は、適度な機械的強度と接着力とを備えるものとなるため、錆を保持する膜体を簡単且つ確実に処理対象物から引き剥がすことが可能となり、引き剥がし作業(除錆作業)を効率的に進めることができる。
【0020】
カルボン酸、タンニン酸、およびリン酸の含有量は、除錆防錆剤の全量に対して、25〜40重量%(25重量%以上、40重量%以下)であることが好ましい。これら酸の含有量が25重量%未満となると、良好な除錆防錆作用が発揮されなくなるおそれがあり、40重量%を超えると、コストアップとなる。特にタンニン酸の含有量は、除錆防錆剤の全量に対して0.5〜0.8重量%(0.5重量%以上、0.8重量%以下)であることが好ましい。0.5重量%未満となると、処置対象物(鋼材表面)に対する反応性が低下し、0.8重量%を超えると、溶解し難くなるとともにコストアップとなる。なお、カルボン酸およびタンニン酸は、鋼材表面と反応して有機酸−鉄系の被膜を形成する機能がある。リン酸は、鋼材表面をエッチングして、錆や錆層を浮かせる効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例および比較例として、表1に示す組成を有する組成物を作成した。表1中の各成分の数字は重量%を示す。
【0023】
上記各組成物の除錆機能と防錆機能とを確認するため、錆面鋼板(表面に錆の層を有する鋼板)を使用して試験を行った。具体的には、錆面鋼板の表面に3〜4mm厚で上記各組成物を塗布したのち(塗布工程)、その状態で3時間放置して養生させて、鋼板の表面に膜体を形成させた(成膜工程、養生工程)。3時間の放置後、鋼板の表面から硬化した膜体を剥がし取った(剥離工程)。次に、鋼板を屋外に2週間暴露し、2週間経過後の鋼板の外観状態を目視にて確認した。剥離工程時の膜体の剥離し易さの評価結果、膜体への錆の転位具合(除錆具合)、および2週間経過後の鋼板の外観状態の確認結果を表2に示す。
【0025】
上記表2に示したように、実施例1〜4として挙げた組成物は、剥離工程時において、千切れ難く、良好な剥離性を有するとともに、良好な除錆機能と防錆機能を発揮することが確認できた。比較例1より、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量が60重量%を下回ると、千切れ易くなり、剥がし難くなることが確認できた。また、比較例2より、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの含有量が75重量%を上回ると、膜体が難くなり、剥がし難くなることが確認できた。さらに、比較例2より、タンニン酸の添加量が0.5重量%を下回ると、除錆後の防錆機能が低下することが確認された。以上のように、本発明に係る除錆防錆剤では、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの最適な含有量は、60重量%以上、75重量%以下の範囲であること、およびタンニン酸の添加量は0.5重量%以上であることが良好であることが確認できた。
【0026】
上記実施例では、錆面鋼材に対して、一度の除錆防錆剤を使った処理により、除錆処理等を行う例を示したが、本発明に係る除錆防錆剤、および除錆防錆方法はこれに限られず、一度のみならず、除錆防錆剤を使った処理を繰り返すことにより、鋼材表面の錆を除去するようにしてもよい。本発明に適用されるカルボン酸は、クエン酸に限られず、酢酸等であってもよい。