【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、炭素繊維(B)を10〜100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、炭素繊維(B)としてポリウレタン系又はエポキシ系収束剤で処理され繊維長が1〜8mmの炭素繊維を原料に用いて溶融混練して製造され、樹脂組成物中の炭素繊維の質量平均繊維長が800〜3000μmの範囲にあることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、炭素繊維(B)を10〜100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、炭素繊維(B)としてポリウレタン系又はエポキシ系収束剤で処理され繊維長が1〜8mmの炭素繊維を原料に用いて溶融混練して製造され、樹脂組成物中の炭素繊維の質量平均繊維長が800〜3000μmの範囲にあることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
流動改質剤(C)が、アクリロニトニル−スチレン共重合体、ポリカーボネートオリゴマー及びポリカプロラクトンから選ばれる請求項2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
ポリウレタン系又はエポキシ系収束剤の含有量が、炭素繊維(B)と収束剤の合計100質量%基準で、1〜10質量部%である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
溶融混練して製造する際の押出機の吐出量とスクリュー回転数の比(スクリュー回転数/吐出量)が5以下の条件で製造された請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は、以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
[概要]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、炭素繊維(B)を10〜100質量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、炭素繊維(B)としてポリウレタン系又はエポキシ系収束剤で処理され繊維長が1〜8mmの炭素繊維を原料に用いて溶融混練して製造され、樹脂組成物中の炭素繊維の質量平均繊維長が800〜3000μmの範囲にあることを特徴とする。
【0012】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)の種類に制限はなく、ポリカーボネート樹脂は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0013】
ポリカーボネート樹脂は、式:−[−O−X−O−C(=O)−]−で示される炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは一般には炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0014】
また、ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。なかでも、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0015】
ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限はないが、例えば、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなるポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしてもよい。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いてもよい。またポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このようなポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
【0017】
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0018】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0019】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0020】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0021】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0022】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0023】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
【0024】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
【0025】
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0026】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0027】
また、脂肪族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーの例を挙げると、
エタン−1,2−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、ブタン−1,4−ジオール、ペンタン−1,5−ジオール、ヘキサン−1,6−ジオール、デカン−1,10−ジオール等のアルカンジオール類;
【0028】
シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4−(2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2,2,4,4−テトラメチル−シクロブタン−1,3−ジオール等のシクロアルカンジオール類;
【0029】
エチレングリコール、2,2’−オキシジエタノール(即ち、ジエチレングリコール)、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、スピログリコール等のグリコール類;
【0030】
1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、1,4−ベンゼンジエタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,3−ビス(ヒドロキシメチル)ナフタレン、1,6−ビス(ヒドロキシエトキシ)ナフタレン、4,4’−ビフェニルジメタノール、4,4’−ビフェニルジエタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビスフェノールAビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、ビスフェノールSビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル等のアラルキルジオール類;
【0031】
1,2−エポキシエタン(即ち、エチレンオキシド)、1,2−エポキシプロパン(即ち、プロピレンオキシド)、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,4−エポキシシクロヘキサン、1−メチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、2,3−エポキシノルボルナン、1,3−エポキシプロパン等の環状エーテル類;等が挙げられる。
【0032】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0033】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0034】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0035】
・ポリカーボネート樹脂の製造方法
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち、特に好適なものについて具体的に説明する。
【0036】
・・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0037】
ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体は、前述のとおりである。なお、カーボネート前駆体の中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0038】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0039】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0040】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限はないが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0041】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0042】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族フェノールが好ましい。このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロペニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−ヒドロキシ安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0043】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0044】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0045】
・・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。
溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0046】
ジヒドロキシ化合物は、前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。中でも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、特にジフェニルカーボネートがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0047】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、中でも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0048】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物との混合比率;エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0049】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0050】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、例えばアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0051】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、芳香族ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0052】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0053】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0054】
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上であり、また、通常100ppm以下、好ましくは20ppm以下である。
【0055】
・ポリカーボネート樹脂(A)に関するその他の事項
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、適宜選択して決定すればよいが、粘度平均分子量[Mv]で通常10000以上、好ましくは16000以上、より好ましくは17000以上、より好ましくは18000以上であり、また、通常40000以下、好ましくは30000以下である。
【0056】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4Mv
0.83 から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0058】
ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これによりポリカーボネート樹脂の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造されたポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
【0059】
なお、末端水酸基濃度の単位は、ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)である。
【0060】
ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂単独(ポリカーボネート樹脂単独とは、ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、例えば、モノマー組成や分子量が互いに異なる複数種のポリカーボネート樹脂を含む態様を含む意味で用いる。)で用いてもよく、ポリカーボネート樹脂と他の熱可塑性樹脂とのアロイ(混合物)とを組み合わせて用いてもよい。さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0061】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0062】
さらにポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生されたポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネート樹脂(A)のうち、80質量%以下であることが好ましく、中でも50質量%以下であることがより好ましい。再生されたポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このようなポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0063】
[炭素繊維(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、炭素繊維(B)を含有する。炭素繊維としては、PAN系(ポリアクリロニトリル系)、ピッチ系、レーヨン系等のいずれをも使用できる。
【0064】
本発明では、原料の炭素繊維(B)の繊維長として1〜8mmであるものを使用する。繊維長がこのような範囲にあることで、樹脂組成物を溶融混練して製造した組成物中に分散する炭素繊維(B)の質量平均繊維長を800〜3000μmに収まる樹脂組成物を生産性良く製造することができる。原料炭素繊維(B)の繊維長は、好ましくは7.5mm以下、より好ましくは7.0mm以下、さらに好ましくは6.5mm以下、特には6mm以下が好ましく、また、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2mm以上、さらには好ましくは2.5mm以上である。ここで、原料炭素繊維(B)の繊維長とは、数平均繊維長を意味するが、市販されている炭素繊維は均一な繊維長を有しているものが殆どであり、繊維長が決まれば市販品の中からほぼ均一な繊維長の製品を入手することができる。
【0065】
また、原料炭素繊維(B)の繊維径は、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは9μm以下、さらに好ましくは8μm以下、中でも7.5μm以下、とりわけ7.0μm以下、さらには6.5μm以下、特には6μm以下であることが好ましく、また好ましくは3.5μm以上、4μm以上であることがより好ましい。繊維径がこのような範囲にあることで、強度、特に弾性率がより向上し、電磁波シールド性に優れた樹脂組成物が得られやすくなる。ここで、原料炭素繊維(B)の繊維径は、数平均繊維径を意味するが、市販されている炭素繊維は均一な繊維径を有しているものが殆どであり、繊維径が決まれば市販品の中からほぼ均一な繊維径の製品を入手することができる。
【0066】
本発明では、炭素繊維(B)は収束剤が施されたものを用いる。収束剤としては、ポリアミド系やオレフィン系の収束剤などもあるが、本発明では、ウレタン系又はエポキシ系の収束剤を用いたものを使用する。ウレタン系又はエポキシ系の収束剤で処理した炭素繊維(B)を用いると、特に電磁波シールド性が良好なる。ウレタン系又はエポキシ系の収束剤の中では、ウレタン系のものが特に好ましい。
【0067】
ウレタン系又はエポキシ系の収束剤の量は、炭素繊維(B)とウレタン系又はエポキシ系の収束剤の合計100質量%基準で、0.5〜10質量%であることが好ましく、収束剤の量が0.5質量%未満では電磁波シールド性が悪くなりやすく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、中でも2質量%以上、特に2.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、中でも6質量%以下、とりわけ5質量%以下、特には4質量%以下であることが好ましい。
【0068】
炭素繊維(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、10〜100質量部である。10質量部未満では強度と電磁波シールド性が不十分であり、逆に100質量部を超えると耐衝撃性や流動性が不十分となる。炭素繊維(B)の含有量は、好ましくは13質量部以上、より好ましくは15質量部以上であり、また好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下、中でも50質量部以下、とりわけ40質量部以下、特には30質量部以下が好ましい。
【0069】
[流動改質剤(C)]
本発明の樹脂組成物は流動改質剤(C)を含有することが好ましい。流動性改良剤は、ポリカーボネート樹脂の流動性を向上させる成分であり、各種の低分子化合物あるいは高分子化合物が使用できる。本発明で特に好ましいのは、アクリロニトニル−スチレン共重合体、ポリカーボネートオリゴマー及びポリカプロラクトンから選ばれる1種、又は2種以上の組み合わせである。
【0070】
アクリロニトリル−スチレン共重合体は、シアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合した熱可塑性共重合体である。ここでシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物を挙げることができ、特にアクリロニトリルが好ましい。また芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン等のスチレン及びスチレン誘導体が挙げられ、これらのうち好ましいのはスチレンである。なお、これらは単独で、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0071】
アクリロニトリル−スチレン共重合体中におけるシアン化ビニル化合物と芳香族ビニル化合物由来の構造単位のそれぞれの好ましい割合としては、全体を100質量%とした場合、シアン化ビニル化合物由来の構造単位が10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%、芳香族ビニル化合物由来の構造単位が90〜60質量%、より好ましくは85〜70質量%である。更に共重合時において、これらのビニル化合物に、共重合可能な他のビニル系化合物を混合して使用することもでき、これらの混合割合は、アクリロニトリル−スチレン共重合体中で前記他のビニル系化合物由来の構造単位が15質量%以下になることが好ましい。また共重合反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、公知のものが使用可能である。
【0072】
アクリロニトリル−スチレン共重合体は、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合あるいは塊状・懸濁重合等の方法により製造されるが、いずれの方法によるものでもよい。
また、アクリロニトリル−スチレン共重合体の分子量を反映するメルトフローレート(MFR)としては220℃、荷重10kgで5〜50g/10分が好ましく、10〜30g/10分がより好ましい。
【0073】
アクリロニトリル−スチレン共重合体は、AS樹脂またはSAN樹脂として市販されているものを広く採用することができる。
【0074】
ポリカーボネートオリゴマーは、好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパンで代表的に例示する芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンで代表されるカーボネート前駆体との反応や、芳香族二価フェノールとジフェニルカーボネート等とのエステル交換反応によって得られ、芳香族二価フェノール系化合物は単独で用いても混合して用いてもよい。
【0075】
ポリカーボネートオリゴマーは、その平均重合度が2〜15であることが好ましい。ポリカーボネートオリゴマーの平均重合度が2未満では成形時に成形品からブリードアウトするのが防止し難くなりやすく、平均重合度が15を越えると外観が低下する虞がある。ポリカーボネートオリゴマーの重合度の調整は、ホスゲンを用いる界面重合法では、フェノール及び/又はアルキル置換フェノールを重合系に添加して、末端封鎖すればよい。
【0076】
ポリカプロラクトンは、カプロラクトン、特にε−カプロラクトンの重合物、すなわち[−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−CH
2−CO−O−]の繰返し単位を有するものであり、重合体中にかかる構成単位を、少なくとも70質量%以上、好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含有する重合体又は共重合体である。ポリカプロラクトンがε−カプロラクトンと他の単量体との共重合体である場合、ε−カプロラクトンと共重合する単量体としては、β−プロピオラクトン、ピバロラクトン、ブチロラクトンなどのラクトンモノマー、エチレンオキシド、1,2−プロピオンオキシド、1,3−プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシド、スチレン、メチルメタクリレート、ブタジエン等の不飽和単量体及びテレフタル酸ジメチル、ジフェニルカーボネート等のカップリング剤等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ポリカプロラクトンのメチレン鎖の水素原子の一部はハロゲン原子、炭化水素基で置換されていてもよく、また、ポリカプロラクトンの末端は、エステル化、エーテル化などにより末端処理をしてあってもよい。
【0077】
ポリカプロラクトンの数平均分子量としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量で、4000〜50000が好ましく、より好ましくは5000〜40000、更には8000〜30000であることが好ましい。
ポリカプロラクトンの製造法としては、特に限定されないが、アルコール、グリコール、水等の適当な開始剤及びチタニュウムテトラブトキシド、塩化スズ等の触媒を用い、ε−カプロラクトンを開環重合する方法が用いられる。
【0078】
流動改質剤(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、また20質量部以下であることがより好ましく、さらには18質量部以下であることが好ましい。流動改質剤(C)の含有量が上記下限より少ないと、流動改質剤(C)を配合したことによる流動性向上による成形性や耐衝撃性の改善効果を十分に得ることができにくく、上記上限より多いと耐熱性、耐衝撃性が低下する傾向にあり、また外観不良が生じやすくなる。
【0079】
[離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0080】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0081】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0082】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0083】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0084】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0085】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。また、数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0086】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましく、ポリエチレンワックスが特に好ましい。
【0087】
なお、離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0088】
[カーボンブラック]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックとしては、その種類、原料種、製造方法に制限はなく、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のいずれをも使用することができる。その数平均粒径には特に制限はないが、5〜60nm程度であることが好ましい。数平均粒子径がこのような範囲にあるカーボンブラックを含有することにより、高温下でブリスターが発生し難い組成物を得ることが容易となる。
【0089】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(単位:m
2/g)は、通常1000m
2/g未満が好ましく、なかでも50〜400m
2/gであることが好ましい。窒素吸着比表面積を1000m
2/g未満にすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。なお、窒素吸着比表面積は、JIS K6217に準拠して測定することができる。
【0090】
また、カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート)吸収量は、300cm
3/100g未満であることが好ましく、なかでも30〜200cm
3/100gであることが好ましい。DBP吸収量を300cm
3/100g未満にすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の流動性や成形品の外観が向上する傾向にあり好ましい。
なお、DBP吸収量(単位:cm
3/100g)はJIS K6217に準拠して測定することができる。また本発明で使用するカーボンブラックは、そのpHについても特に制限はないが、通常、2〜10であり、3〜9であることが好ましく、4〜8であることがさらに好ましい。
【0091】
カーボンブラックは、単独でまたは2種以上併用して使用することができる。更にカーボンブラックは、バインダーを用いて顆粒化することも可能であり、他の樹脂中に高濃度で溶融混練したマスターバッチでの使用も可能である。溶融混練したマスターバッチを使用することによって、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良が達成できる。上記樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。
【0092】
カーボンブラックの好ましい含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、0.5〜5質量部であり、より好ましくは0.8質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上であり、また、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。
【0093】
[その他の成分]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外のその他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、上記した以外の各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0094】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
その他の樹脂を含有する場合は、ポリカーボネート樹脂(A)及びその他の樹脂の合計100質量部中の、40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0095】
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、難燃剤、滴下防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、ガラス繊維、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0096】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂(A)及び炭素繊維(B)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。二軸混練押出機を使用する場合は、炭素繊維(B)はサイドフィードすることが好ましい。
【0097】
溶融混練の温度は特に制限されないが、240〜320℃の範囲であることが好ましい。
溶融混練して製造する際の押出機の吐出量とスクリュー回転数の比(スクリュー回転数/吐出量)は5以下とすることが好ましい。このような条件で製造することにより、得られる樹脂組成物(ペレット)における炭素繊維の質量平均繊維長を800〜3000μmの範囲とすることが容易となり、樹脂組成物の強度、剛性、耐衝撃性及び電磁波シールド性を良好なものとすることができる。スクリュー回転数/吐出量は、好ましくは150rpm/100kg/h以下、より好ましくは120rpm/100kg/h以下であり、また、好ましくは50rpm/20kg/h以上である。
【0098】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、樹脂組成物中における炭素繊維が、その質量平均の平均繊維長で800〜3000μmであることを特徴とする。このような繊維長で樹脂組成物中に分散していることで、優れた強度、剛性、耐衝撃性及び電磁波シールド性を有することができる。質量平均繊維長は1000μm以上であることが好ましい。
【0099】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、優れた強度、剛性、耐衝撃性及び電磁波シールド性を示す。
すなわち、ISO規格527−1及びISO527−2に準拠して測定される引張特性として、引張強度が好ましくは130MPa以上、より好ましくは140MPa以上を、また、引張弾性率は好ましくは14000MPa以上、より好ましくは15500MPa以上を示す。
また、ISO規格178に準拠して測定される曲げ特性として、曲げ強度が好ましくは180MPa以上、より好ましくは210MPa以上を、また、曲げ弾性率は好ましくは11500MPa以上、より好ましくは13000MPa以上を示す。
そして、ISO179−1及び2に準拠して測定されるシャルピー衝撃強さが、ノッチなしで好ましくは24kJ/m
2以上、より好ましくは30kJ/m
2以上を、また、ノッチ付きで好ましくは5kJ/m
2以上、より好ましくは7kJ/m
2以上を示す。
さらに、電磁波シールド性は、KEC法に準拠し600MHzにおいて測定される電磁波シールド効果(単位:dB)の値が、好ましくは−28dB以下、より好ましくは−29dB以下という優れた性能を示すことが可能である。
なお、上記した各特性値の測定の詳細は、実施例に記載される。
【0100】
[成形品]
上記したポリカーボネート樹脂組成物(ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0101】
成形体を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ−ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0102】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高度の電磁波シールド性を有し、かつ流動性と強度や剛性に優れるので、各種の電子電気機器、OA機器、自動車等の輸送機器、各種機械機器等の分野に好適に利用できる。特にこれを成形した成形品は、デジタルカメラ、レンズ或いは各種携帯端末、パーソナルコンピューター等の筺体、ボディ、ハウジング等に特に好適である。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
以下の実施例及び比較例に使用した各原料成分は、以下の表1のとおりである。
【0104】
【表1】
【0105】
(実施例1〜12、比較例1〜4)
上記表1に記載した各成分を、下記の表2、表3に示す割合(全て質量部にて表示)にて配合し、タンブラーミキサーにて均一に混合した後、最上流部C1から最下流部C12のシリンダー構成からなる東芝機械社製噛合い型同方向回転二軸スクリュー押出機「TEM37BS」を用い、押出機上流部のバレルより押出機にフィードし、炭素繊維はサイドフィードして、シリンダー温度300℃〜330℃にて、以下の吐出量と回転数の生産条件A、B及びCのいずれかを適用して溶融混練させ、ダイスからストランド状に押出し、水冷後カッティングして、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
生産条件A:吐出量25kg/hr、回転数:70rpm(回転数/吐出量=2.8)
生産条件B:吐出量60kg/hr、回転数:120rpm(回転数/吐出量=2)
生産条件C:吐出量25kg/hr、回転数:200rpm(回転数/吐出量=8)
【0106】
[生産性の評価]
上記のペレットを製造した工程における生産性を、以下の○〜Xの基準で、評価判定した。
○:ストランド断線が極めて少なく、安定してペレタイジング可能
△:ストランド断線が1分間に数回発生するが、メッシュコンベアで対応可能レベル
×:ダイスから樹脂が出た瞬間に断線する状態が1分間に数十回発生
【0107】
[組成物ペレット中の炭素繊維の質量平均繊維長の測定]
上記で得られた樹脂組成物のペレット約1グラムをメチレンクロライドで溶解した後、濾過し、炭素繊維を単離し、単離した炭素繊維をガラス上に極力重ならないように広げ、光学顕微鏡(オリンパス社製「BX-50」)にて12.5倍で観察し、撮影を行った。得られた写真にある3000個の炭素繊維について、その繊維長さを測定し、加算平均して質量平均繊維長を求めた。
【0108】
[ISO多目的試験片の成形]
上記で得られたペレットを100℃、5時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所製「J55−60H」)を用い、シリンダー設定温度280〜300℃、金型温度100℃、射出時間2秒、成形サイクル40秒の条件で射出成形を行い、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
【0109】
[引張特性]
上記ISO試験片(4mm)を用い、ISO規格527−1及びISO527−2に準拠して、引張強度(単位:MPa)と引張弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0110】
[曲げ特性]
ISO178に準拠して、上記ISO試験片(4mm)を用い、23℃において、曲げ強度(単位:MPa)と曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0111】
[シャルピー衝撃強度]
上記で得られたペレットを、射出成形機(住友重機械工業社製「SG75MII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、成形サイクル45秒の条件で、ISO179−1、2に基づく4mm厚の耐衝撃性試験片を作製し、ノッチなし及びノッチ付きの試験片について23℃の温度でシャルピー衝撃強度(kJ/m
2)を測定した。
【0112】
[電磁波シールド性]
上記で得られたペレットを100℃で5時間乾燥後、射出成形機(日本製鋼所社製「J180AD」)にて、シリンダー設定温度320℃、金型温度120℃、射出速度1.6秒の条件で射出成形し、100mm×150mm×2mm厚の平板状試験片を得た。
得られた試験片についてKEC(関西電子工業振興センター)法準拠の電磁波シールド性測定装置にて600MHzにおける電磁波シールド効果(単位:dB)を測定した。
【0113】
[表面粗さ]
上記で得られた平板状試験片について、表面粗さ形状測定機(KEYENCE社製「レーザーマイクロスコープVK−X100」、波長658nm赤色レーザー、出力0.95mW、パルス幅1ns)を用い、400倍で観察し、表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)を測定した。
以上の評価結果を、以下の表2及び表3に示した。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】