特開2016-211079(P2016-211079A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-211079腐食環境下で向上した特性を示す鋼組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-211079(P2016-211079A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】腐食環境下で向上した特性を示す鋼組成物
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161118BHJP
   C22C 38/32 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
   C22C38/00 301F
   C22C38/32
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-151216(P2016-151216)
(22)【出願日】2016年8月1日
(62)【分割の表示】特願2014-116855(P2014-116855)の分割
【原出願日】2008年7月2日
(31)【優先権主張番号】60/948,418
(32)【優先日】2007年7月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/042,145
(32)【優先日】2008年3月4日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】516242471
【氏名又は名称】テナリス・コネクシヨンズ・ベー・ブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】特許業務法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グスタボ・ロペス・トウルコニ
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】アルフオンソ・イズキエルド・ガルシヤ
(57)【要約】
【課題】腐食環境下で良好なじん性を示す鋼組成物を提供する。
【解決手段】水素の透過を低下させる保護が鋼の表面にもたらされるように、鋼の組成を選択する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼組成物であって、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で表して、
炭素(C)含有量が0.20〜0.30重量%、
マンガン(Mn)含有量が0.10〜1.00重量%、
ケイ素(Si)含有量が0〜0.50重量%、
クロム(Cr)含有量が0.40〜1.50重量%、
モリブデン(Mo)含有量が0.10〜1.00重量%、
ニオブ(Nb)含有量が0.00〜0.10重量%、
アルミニウム(Al)含有量が0.00〜0.10重量%、
カルシウム(Ca)含有量が0〜0.01重量%、
ホウ素(B)含有量が0〜100ppm、
チタン(Ti)含有量が0〜0.05重量%、
タングステン(W)含有量が0.10〜1.50重量%、
バナジウム(V)含有量が0.00〜0.05重量%、
銅(Cu)含有量が0.00〜0.15重量%、
酸素(O)含有量が0〜200ppm、
窒素(N)含有量が0.00〜0.01重量%、
硫黄(S)含有量が0.00〜0.003重量%、
燐(P)含有量が0〜0.015重量%、かつ
残りが鉄および不可避の不純物であり、
鋼組成物の総体積を基準にしてマルテンサイト含有量が95体積%以上でありかつベイナイト含有量が5体積%未満である微細構造を有し、平均マルテンサイトパケットサイズdpacketが3μm未満であり、粒径dpが70nm以上でありかつ4Aπ/P2[ここで、Aは粒子の投影の面積でありそしてPは粒子の投影の周囲の長さである]に従って計算した平均セメンタイト形状係数が0.62以上であるセメンタイト沈澱物を有し、銅(Cu)含有量が0.15重量%以下という低い値であることにより鋼の表面近くにマッキナワイトの接着性腐食生成物層が形成されて表面下の水素濃度が低くなる、ことを特徴とする鋼組成物。
【請求項2】
Mo/10+Cr/12+W/25+Nb/3+25*Bが0.05重量%から0.39重量%の範囲である式を満足させる請求項1記載の鋼組成物。
【請求項3】
120から140ksiの範囲の降伏応力を示す請求項1および2のいずれか記載の鋼組成物。
【請求項4】
NACE TM0177の試験方法Aに従って原寸試験片が示す特定の最小降伏強度(SMYS)の85%の応力で試験して測定した時の鋼組成物の硫黄応力腐食(SSC)抵抗が720時間である請求項1−3のいずれか記載の鋼組成物。
【請求項5】
管に成形されている請求項1−4のいずれか記載の鋼組成物。
【請求項6】
Mo/10+Cr/12+W/25+Nb/3+25*Bが0.10重量%から0.26重量%の範囲である式を満足させる請求項2記載の鋼組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の態様は、腐食環境下で良好なじん性を示す鋼組成物に向けたものである。本態様は、また、水素の透過を低下させる保護が鋼の表面にもたらされるようにすることにも関する。更に、熱処理操作ウインドおよび圧延温度における表面耐酸化性に関しても良好な工程制御を与える。
【背景技術】
【0002】
水素が金属の中に入り込むことは、エネルギー貯蔵に関してばかりでなく遷移金属の劣化、例えば剥離、水素脆化、亀裂および腐食などに関しても広範に調査されてきている。金属、例えば鋼など中の水素濃度は、その鋼の腐食速度、鋼の上に生じる腐食膜が示す保護および水素が鋼中で示す拡散の影響を受け得る。水素が鋼中で示す可動性は更に微細構造(沈澱物の種類および量を包含)、粒界および転位密度の影響も受ける。このように、水素吸収量は水素−微細構造の相互作用ばかりでなくまた生じる腐食性生成物が示す保護にも依存する。
【0003】
水素の吸収は、また、吸収される触媒毒種、例えば硫化水素(H2S)などの存在によっても増加し得る。そのような現象は充分には理解されていないが、油抽出で用いられる高強度低合金鋼(HSLA)にとって重要である。鋼が示す高い強度とH2S環境下における高い水素量の組み合わせによって鋼の壊滅的な破壊がもたらされる可能性がある。
【0004】
従って、前記により、攻撃的環境、例えばH2S含有環境下などで示す耐食性を向上させた鋼組成物が継続して求められている。
【発明の概要】
【0005】
本出願の態様は、腐食環境下で向上した特性を示す鋼組成物に向けたものである。本態様は、また、水素の透過を低下させる保護が鋼の表面にもたらされるようにすることにも関する。更に、熱処理操作ウインドおよび圧延温度における表面耐酸化性に関しても良好な工程制御を与える。
【0006】
本開示は、1つの態様において、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で表して、
炭素(C)含有量が約0.2から0.3重量%、
マンガン(Mn)含有量が約0.1から1重量%、
ケイ素(Si)含有量が約0から0.5重量%、
クロム(Cr)含有量が約0.4から1.5重量%、
モリブデン(Mo)含有量が約0.1から1重量%、
ニオブ(Nb)含有量が約0から0.1重量%、
アルミニウム(Al)含有量が約0から0.1重量%、
カルシウム(Ca)含有量が約0から0.01重量%、
ホウ素(B)含有量が約100ppm未満、
チタン(Ti)含有量が約0から0.05重量%、
タングステン(W)含有量が約0.1から1.5重量%、
バナジウム(V)含有量が約0から約0.05重量%以下、
銅(Cu)含有量が約0から約0.15重量%以下、
酸素(O)含有量が約200ppm未満、
窒素(N)含有量が約0.01重量%未満、
硫黄(S)含有量が約0.003重量%未満、かつ
燐(P)含有量が約0.015重量%未満である、
鋼組成物を提供する。
【0007】
別の態様ではこの上に示した元素の必ずしも全部を本鋼組成物に存在させる必要はなくかつ酸性使用の目的で使用可能な他の組成物も意図することは理解されるであろう。1つの態様において、そのような鋼は、下記の組成:
元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で表して、
炭素(C)含有量が約0.2から0.3重量%、
マンガン(Mn)含有量が約0.1から1重量%、
クロム(Cr)含有量が約0.4から1.5重量%、
ケイ素(Si)含有量が約0.15から0.5重量%、
モリブデン(Mo)含有量が約0.1から1重量%、
タングステン(W)含有量が約0.1から1.5重量%、
ニオブ(Nb)含有量が約0から0.1重量%、かつ
ホウ素(B)含有量が約100ppm未満である、
組成を包含し得る。
【0008】
別の態様として、炭素(C)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)およびホウ素(B)を含有して成る鋼組成物を提供する。この鋼組成物は、元素各々の量を総鋼組成物の重量%で表して、Mo/10+Cr/12+W/25+Nb/3+25*Bが約0.05から0.39重量%の範囲である式を満足させる。
【0009】
さらなる態様として、鋼組成物の製造方法を提供する。この方法は、炭素(C)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ホウ素(B)およびこれらの組み合わせの中の少なくとも1つを得ることを含んで成る。この方法は、更に、その得た元素の各々の量を元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で表してMo/10+Cr/12+W/25+Nb/3+25*Bが約0.05から0.39重量%の範囲である式を満足させるように選択することも含んで成る。
【0010】
別の態様として、本組成物をNACE TM0177の試験方法Aに従って原寸試験片が示す特定の最小降伏強度(SMYS)の約85%の応力で試験して測定した時にそれが示す硫黄応力腐食(SSC)抵抗は約720時間である。
【0011】
別の態様として、本鋼組成物は、更に、モードIの硫化物応力腐食亀裂じん性(KISSC)と降伏強度の間で実質的に線形の関係を示す。
【0012】
さらなる態様として、本鋼組成物を管に成形する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1に、開示する鋼組成物の態様が示すモードIの硫化物応力腐食亀裂じん性(KISSC)値を降伏強度の関数として示す。
図2図2に、開示する鋼組成物の態様が示す正規化50%FATT値[Charpy試験片の破壊表面が50%の延性面積と50%の脆性面積を示す時の温度]をパケットサイズの関数として示し、この図は、パケットサイズの微調整によって正規化じん性を向上させることができることを示している。
図3図3に、開示する鋼組成物の態様が示す正規化KISSCをパケットサイズの関数として示す。
図4図4に、開示する鋼組成物の態様が示す降伏強度測定値を焼き戻し温度の関数として示す。
【特定態様の詳細な説明】
【0014】
本開示の態様は酸性使用環境用の鋼組成物を提供するものである。興味の持たれる特性には、これらに限定するものでないが、焼き入れ性、微細構造、沈澱物の構造、硬度、降伏強度、じん性、耐食性、硫化物応力腐食亀裂抵抗(SSC)、水素拡散に対抗する保護層の形成および高温における耐酸化性が含まれる。
【0015】
特定の態様として、選択した微細構造パラメーターを持たせた組成物の態様が示すモードIの硫化物応力腐食亀裂じん性(KISSC)と降伏強度(YS)の間の関係が実質的に線形であることも開示する。そのような微細構造パラメーターには、これらに限定するものでないが、粒子微調整、マルテンサイトパケットサイズおよび沈澱物の形状および分布が含まれ得る。
【0016】
他の態様として、更に、下記の微細構造パラメーターの中にそのような関係をもたらす特別な関係が存在することも見いだした:
・ 平均パケットサイズdpacketが約3μm未満である。
・ 粒径dpが約70nm以上でありかつ以下に考察する如き形状係数が約0.62に等しいか或はそれ以上である沈澱物を有すること。
・ 鋼組成物の総体積を基準にした体積分率で表してマルテンサイト量が約95体積%以上の微細構造を有すること。
【0017】
加うるに、選択した範囲内の微細構造パラメーターを持たせた鋼組成物の態様はまた追加的利点も示し得ることも見いだした。例えば、本鋼組成物は酸性環境下で向上した耐食性を示すばかりでなく向上した工程制御も示し得る。
【0018】
特定の態様として、下記の如く選択した元素を添加するか或は制限することによってそのような向上をもたらす:
・ タングステン(W)を添加することによって、鋼が熱間圧延工程中に用いられる燃焼炉内に典型的に生じる雰囲気中で加熱された時にそれが起こす酸化を低下させる。
・ 銅(Cu)の最大含有量を制限することによって、接着性腐食生成物層が生じるようにすることで鋼が示す水素透過性を抑制する。
・ 酸素(O)によって、孤立含有粒子の大きさを約50μm未満にすることで大きさが過剰な含有物が鋼中に生じないようにする。そのような含有物を抑制すると更に水素亀裂を起こさせる核形成部位の形成も抑制される。
・ バナジウム(V)含有量を低くすることによって、焼き戻し曲線の急傾斜の度合(焼き戻し温度と対比させた降伏強度)を小さくすることで工程制御能力を向上させる。
【0019】
特定の態様として、また、Wを含有し、Cu含有量およびV含有量が低くかつ更にこの上で考察した微細構造、パケットサイズおよび沈澱物の形状および大きさも示す鋼組成物も開示する。そのような組成物を以下の表1に特に明記しない限り総組成物の重量%を基準にして示す。以下に示す全ての元素を全ての鋼組成物に含める必要はなく、従って、その示した元素の中の全部ではなく数種を含有する変形も考えられることは理解されるであろう。
【0020】
【表1】
【0021】
炭素(C)
炭素は、当該鋼が示す焼き入れ性を向上させかつ更に焼き入れおよび焼き戻し後の高強度レベルも助長する元素である。
【0022】
1つの態様として、Cの量を約0.15重量%未満にすると、そのような鋼の焼き入れ性はあまりにも低くなりかつ鋼の強度を所望レベルにまで高くすることが不可能になる。他方、C含有量を約0.40%以上にすると、急冷亀裂および遅延破壊が起こる傾向があることで継ぎ目無し鋼管の製造が複雑になる。従って、1つの態様では、C含有量を約0.20−0.30重量%の範囲にする。
【0023】
マンガン(Mn)
マンガンを鋼に添加すると、それは脱酸素および脱硫黄に貢献する。1つの態様では、そのような肯定的効果を得る目的で、Mnの添加量を約0.1重量%以上にしてもよい。その上、Mnを添加するとまた焼き入れ性および強度も向上する。しかしながら、Mnの濃度を高くすると、燐、硫黄および他のトランプ/不純物元素の分離が助長されることで硫化物応力腐食(SSC)亀裂抵抗が悪化する可能性がある。従って、1つの態様では、マンガンの含有量を約0.10から1.00重量%の範囲にする。好適な態様では、Mnの含有量を約0.20から0.50重量%の範囲にする。
【0024】
クロム(Cr)
クロムを鋼に添加すると強度および焼き戻し抵抗が向上する、と言うのは、クロムは焼き入れ中の焼き入れ性を向上させかつ焼き戻し処理中に炭化物を形成するからである。その目的で、1つの態様では、Crを約0.4重量%以上添加する。しかしながら、特定の態様では、Crの濃度を約1.5重量%以上にするとそれの効果が飽和状態になりかつSSC抵抗も悪化する。このように、1つの態様では、Crの濃度を約0.40から1.5重量%の範囲にする。好適な態様では、Crの濃度を約0.40から1.0重量%の範囲にする。
【0025】
ケイ素(Si)
Siは、鋼の中に含有させると脱酸素に貢献する元素である。Siは鋼の焼き戻し軟化抵抗を向上させることから、Siを添加するとまた鋼が示す応力腐食亀裂(SSC)抵抗も向上する。注目すべきは、Si濃度をあまりにも高くすると鋼のじん性およびSSC抵抗が悪化する可能性があるばかりでなく接着性スケールの生成も助長され得る。1つの態様では、Siの添加量を約0−0.5重量%の範囲にしてもよい。別の態様では、Siの濃度を約0.15から0.40重量%の範囲にしてもよい。
【0026】
モリブデン(Mo)
Crの場合と同様に、モリブデンは鋼の焼き入れ性を向上させかつ鋼が示す焼き戻し軟化抵抗およびSSCを有意に向上させる。加うるに、Moはまた燐(P)が粒界で起こす
分離も防止する。1つの態様では、Moの含有量を約0.2重量%未満にすると、それの効果が実質的に有意でなくなる。他の態様では、Moの濃度を約1.5重量%以上にすると、Moが焼き入れ性および焼き戻しに対する反応に対して示す効果が飽和状態になりかつSSC抵抗が悪化する。そのような場合には、過剰量のMoが微細な針様粒子として沈澱して、それが亀裂開始部位として働く可能性がある。従って、1つの態様では、Moの含有量を約0.10から1.0重量%の範囲にする。さらなる態様では、Moの含有量を約0.3から0.8重量%の範囲にする。
【0027】
タングステン(W)
タングステンを添加すると鋼の強度が向上する可能性がある、と言うのは、それは焼き入れ性に肯定的な効果を示しかつ高い焼き戻し軟化抵抗を助長するからである。このような肯定的な効果によって更に鋼が所定強度レベルで示すSSC抵抗も向上する。加うるに、Wは高温耐酸化性を有意に向上させ得る。
【0028】
その上、鋼が高温焼き戻しで示す強度低下を単にMoの添加で補うことを意図すると、大型の針様炭化Moが沈澱することが理由で鋼の硫化物応力腐食亀裂(SSCC)抵抗が悪化する可能性もある。Wが焼き戻し軟化抵抗に対して示す効果はMoの効果と同様であり得るが、Wが示す拡散速度の方が遅いことが理由で大きな炭化物が生じ難いと言った利点を有する。そのような効果はWの原子量がMoのそれよりも約2倍大きいことによるものである。
【0029】
Wの含有量を高くしてもWの効果が飽和状態になりかつ分離によって焼き入れと焼き戻し(QT)を受けさせた鋼が示すSSC抵抗が悪化する。その上、Wを添加した時の効果はWの濃度を約0.2重量%未満にすると実質的に有意でなくなる可能性がある。従って、1つの態様では、Wの含有量を約0.1−1.5重量%の範囲にする。さらなる態様では、Wの含有量を約0.2−0.6重量%の範囲にする。
【0030】
ホウ素(B)
ホウ素を鋼に少量添加すると焼き入れ性が有意に向上する。加うるに、Bを添加すると厚壁QT管が示すSSC亀裂抵抗も向上する。1つの態様では、有害な影響を実質的に回避しながら焼き入れ性を向上させる目的でBの添加量を約100ppm未満に維持する。他の態様では、本鋼組成物に存在させるBの量を約10−30ppmにする。
【0031】
アルミニウム(Al)
アルミニウムは脱酸素に貢献しかつ更に鋼が示すじん性および硫化物応力亀裂抵抗も向上させる。Alは窒素(N)と反応してAlN沈澱物を形成し、それが熱処理中のオーステナイト粒子成長を抑制しかつ微細なオーステナイト粒子の形成を助長する。特定の態様では、Al含有量を約0.005重量%未満にすると、そのような脱酸素および粒子微調整効果が実質的に有意でなくなる可能性がある。その上、Al含有量を過剰にすると非金属含有物の濃度が高くなる結果として欠陥部の数が増加することに付随してじん性が低下する可能性もある。1つの態様では、Al含有量を約0から0.10重量%の範囲にする。他の態様では、Al含有量を約0.02から0.07重量%の範囲にする。
【0032】
チタン(Ti)
チタンの添加量をこれがNをTiNとして固定するに充分な量にしてもよい。ホウ素含有鋼の場合には、BNの形成を有益に回避することができる。それによってBが鋼中に溶質として存在することで鋼の焼き入れ性が向上する。
【0033】
鋼中の溶質であるTi、例えばTiNの形成で使用される量より多い量のTiは、鋼の非再結晶化領域を高い変形温度にまで拡張する。直接焼き入れ鋼の場合、溶質であるTi
はまた焼き戻し中に微細な沈澱物を形成することで鋼が焼き戻し軟化に対して示す抵抗も向上させる。
【0034】
鋼中のNがTiに対して示す親和性は非常に大きいことから、入っているNの全部が固定されてTiNになるようにしようとする場合には、NおよびTi両方の含有量が式1:
Tiの重量%>(48/14)*Nの重量% (式1)
[式中、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す]
を満足させるようにすべきである。
【0035】
1つの態様では、Ti含有量を約0.005重量%から0.05重量%の範囲にする。さらなる態様では、Tiの含有量を約0.01から0.03重量%の範囲にする。注目すべきは、1つの態様では、Tiの含有量を約0.05重量%以上にすると鋼のじん性が悪化する可能性がある。
【0036】
ニオブ(Nb)
溶質であるニオブは、溶質であるTiと同様に、焼き戻し中に非常に微細な窒化炭素(Nb−窒化炭素)として沈澱しそして鋼が焼き戻し軟化に対して示す抵抗を向上させる。そのような抵抗によって鋼に焼き戻しをより高い温度で受けさせることが可能になる。その上、転位密度がより低くなることに加えてNb−窒化炭素沈澱物が所定強度レベルで示す球状化度合がより高くなることでSSC抵抗が向上する可能性もある。
【0037】
Nb−窒化炭素は穴開け前の高温加熱中の鋼に溶解し、圧延中に沈澱を起こすことはほとんどない。しかしながら、Nb−窒化炭素は管を静止空気中で冷却している間に微細な粒子として沈澱してくる。そのような微細なNb−窒化炭素粒子の数が比較的多くなると、それらは粒子の粗大化を抑制しかつ焼き入れ段階前のオーステナイト化中に過剰な粒子成長が起こらないようにする。
【0038】
Nb含有量を約0.1重量%未満にすると、上述した如きいろいろな効果が有意に起こる一方、Nb含有量を約0.1重量%以上にすると鋼の熱延性およびじん性の両方が悪化する。従って、1つの態様では、Nb含有量を約0から0.10重量%の範囲にする。他の態様では、Nb含有量を約0.02から0.06重量%の範囲にする。
【0039】
バナジウム(V)
バナジウムを鋼中に存在させるとそれは焼き戻し中に非常に微細な粒子の形態で沈澱を起こすことで焼き戻し軟化に対する抵抗を向上させる。その結果として、Vを添加すると継ぎ目無し管が約650℃以上の焼き戻し温度であっても高い強度レベルを達成するに役立ち得る。そのような高い強度レベルは超高強度鋼製管が示すSSC亀裂抵抗の向上に好ましいものである。バナジウム含有量が約0.1重量%以上の鋼は傾きが非常に急な焼き戻し曲線を示すことで鋼製造工程の制御が低下する。鋼の操作ウインド/工程制御を向上させる目的で、Vの含有量を約0.05重量%以下に制限する。
【0040】
窒素(N)
鋼の窒素含有量を低くするにつれてじん性およびSSC亀裂抵抗が向上する。1つの態様では、N含有量を約0.01重量%以下に制限する。
【0041】
燐(P)および硫黄(S)
鋼中の燐および硫黄の濃度を低いレベルに維持する、と言うのは、PおよびSは両方ともSSCCを助長する可能性があるからである。
【0042】
Pは、鋼中に一般に存在する元素であり、粒界で分離を起こすことが理由で鋼が示すじ
ん性およびSSC抵抗にとって有害である可能性がある。従って、1つの態様では、Pの含有量を約0.025重量%以下に制限する。さらなる態様では、Pの含有量を約0.015重量%以下に制限する。SSC亀裂抵抗が向上、特に直接焼き入れ鋼の場合に向上するように、P含有量を約0.010重量%に等しいか或はそれ以下にする。
【0043】
1つの態様では、鋼のじん性およびSSC抵抗に有害である含有物の生成を回避する目的で、Sを約0.005重量%以下に制限する。特に、直接焼き入れで製造されたQ&T鋼が示すSSC亀裂抵抗を高くしようとする場合には、1つの態様として、Sを約0.005重量%に等しいか或はそれ以下に制限しかつPを約0.010重量%にほぼ等しいか或はそれ以下に制限する。
【0044】
カルシウム(Ca)
カルシウムはSと化合して硫化物を形成しかつ含有物の形状を丸くすることで鋼が示すSSC亀裂抵抗を向上させる。しかしながら、鋼の脱酸素が充分でないと、そのような鋼が示すSSCC抵抗が悪化する可能性がある。Ca含有量を約0.001重量%未満にすると、Caの効果が実質的に充分でなくなる。他方、Caの量を過剰にすると製造された鋼製品の表面欠陥の原因になる可能性がありかつ鋼のじん性および耐食性を低下させる可能性がある。1つの態様として、Caを鋼に添加する場合、それの含有量を約0.001から0.01重量%の範囲にする。さらなる態様では、Caの含有量を約0.005重量%未満にする。
【0045】
酸素(O)
酸素は一般に鋼中に不純物として存在していてQT鋼のじん性およびSSCC抵抗を悪化させ得る。1つの態様では、酸素の含有量を約200ppm未満にする。
【0046】
銅(Cu)
鋼中に存在する銅の量を低くすると、接着性腐食生成物層が形成されることで水素が鋼を透過する度合が抑制される。1つの態様では、銅の含有量を約0.15重量%未満にする。さらなる態様では、Cuの含有量を約0.08重量%未満にする。
【実施例】
【0047】
指針式
酸性使用に適した鋼組成物の態様の開発の指針を示す目的で実験式を開発した。この上に示した特性の中の1つ以上に特別な利点を与える組成物を式2に従って同定することができる。その上、約120−140ksi(約827−965MPa)の範囲内の降伏強度を示す組成物も式2:
最小<Mo/10+Cr/12+W/25+Nb/3+25*B<最大 (式2)[式中、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す]
に従って同定することができる。
【0048】
式2に従う組成物が構築されるか否かを決定する目的で、当該組成物に含める様々な元素の量(重量%)を式2に入れそして式2の計算値を得る。式2の計算値が最小値と最大値の範囲内に入る組成物は式2に従う組成物であると決定する。1つの態様において、式2の最小および最大値はそれぞれ約0.05−0.39重量%の範囲内で多様である。別の態様において、式2の最小および最大値はそれぞれ約0.10−0.26重量%の範囲内で多様である。
【0049】
降伏強度が約120−140ksiの範囲になることを目標として、式2に従う鋼組成物サンプルを実験室および産業規模で製造することを通していろいろな元素の影響および各鋼化学組成物が穏やかな酸性条件下で示す性能を調査した。
【0050】
以下の実施例で考察するように、化学組成物および熱処理条件を適切に選択することで良好なSSC抵抗を示す高強度鋼を得ることができる。
【0051】
高い鋼焼き入れ性を確保する目的でMo、B、CrおよびWの組み合わせを用いる。その上、強度レベルを高くしながらSSC抵抗が改善されるに充分な焼き戻し中の軟化に対する抵抗および充分な微細構造および沈澱特徴が得られるようにMo、Cr、NbおよびWの組み合わせを用いる。
【0052】
本実施例は開示する組成物の態様を更に例示する目的で示すものでありかつ決して本開示の態様を制限すると解釈されるべきでないことは理解され得るであろう。
【0053】
表2に、式2に従って構築した3種類の組成物、即ち低Mn−Cr変形、V変形および高Nb変形(以下の実施例3にサンプル14、15および16としてより詳細に考察)を例示する。特に明記しない限り、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す。
【0054】
【表2】
【0055】
強度レベルがいろいろなQT鋼が示すじん性を比較する目的で、正規化50%FATT(破壊発現転移温度)(選択降伏強度値と呼ぶ)を式3に従って計算した。式3は、FATTをYSと対比させた実験データから経験的に引き出した式である。
【0056】
【数1】
【0057】
簡単に述べると、各サンプル毎に降伏強度と50%FATTを測定しそして式3を用いて50%FATT値を選択降伏強度値に正規化した(1つの態様では約122ksi)。この正規化によって降伏強度による特性偏差値が有利に実質的に除去されることで、結果に対して1つの役割を果たす他の係数の解析が可能になる。
【0058】
同様に、降伏強度レベルがいろいろな鋼が示す測定KISSC値を比較する目的で、ΔKISSCをΔYSと対比させた実験データから経験的に引き出した式4:
【0059】
【数2】
【0060】
に従って正規化KISSC値を計算した。1つの態様では、KISSC値を約122ksiに正規化した。
【0061】
当該組成物の態様が示す正規化50%FATTと正規化KISSC値の両方ともそれぞれ図2および3に示すようにパケットサイズの逆平方根に関係していることを見いだした。これらの結果は、50%FATTで測定した如きじん性とKISSCで測定した如きSSC抵抗の両方ともパケットサイズの微調整によって改善されることを示している。
【0062】
Q&T材料の沈澱物の形態を比較する目的で、形状係数パラメーターを式5:
形状係数=4πA/P2 (式5)
[式中、AおよびPは、それぞれ、平面の上に投影された粒子の面積および周囲の長さである]
に従って測定した。1つの態様では、自動画像分析が備わっている透過電子顕微鏡(TEM)を用いて周囲の長さを測定してもよい。形状係数は、粒子が丸い場合には約1に相当し、そして粒子が細長い場合には約1より小さい。
【0063】
応力腐食抵抗
応力腐食に対する抵抗をNACE TM 0177−96方法A(一定負荷)に従って実験した。その結果を以下の表3に示す。大きさが約70nm以上の沈澱物、例えばセメンタイトなどが示す形状係数が約0.62に等しいか或はそれ以上の時にはSSC抵抗が改善されることが観察された。
【0064】
【表3】
【0065】
前記データおよびさらなる光学顕微鏡法、走査電子顕微鏡法(SEM)、透過電子顕微鏡法(TEM)、配向画像形成顕微鏡法(OIM)およびこれらの組み合わせにより、下記の微細構造および沈澱パラメーターが有益であることを見いだした。
・ 鋼の平均パケットサイズ(dpacket)が約3μm未満。
・ 粒径(dp)が約70nm以上の沈澱物が示す形状係数が約0.62に等しいか或はそれ以上。
【0066】
熱処理の管理
熱処理管理(工程制御)の容易さを降伏強度を焼き戻し温度挙動と対比させた傾きを評価することで量化した。代表的な測定値を表4および図4に示す。
【0067】
【表4】
【0068】
表4に従い、バナジウムを入れると降伏応力−温度曲線の傾きが急になり、このことは、バナジウム含有鋼組成物では良好な工程制御を達成するのが困難であることを示している。
【0069】
V含有量を低くした鋼組成物(Mn−Cr変形)は、試験を受けさせた他の組成物に比べて傾きが小さい焼き戻し曲線をもたらし、このことは、工程制御能力が改善されると同時にまた高い降伏強度も達成されることを示している。
【実施例1】
【0070】
水素吸収に対抗する保護層の形成に対して銅含有量が示す影響
【0071】
a)材料
鋼組成物の特定態様の化学組成を表5に示す。とりわけTi、Nb、Vを添加した4種類の中炭素(約0.22−0.26重量%)鋼に試験を受けさせた。これらの組成物は主に銅およびモリブデンの添加量が異なり、特に明記しない限り、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す。
【0072】
【表5】
【0073】
b)微細構造および腐食生成物の特徴付け
サンプル1−4が示す微細構造をpHのレベルを変えて走査電子顕微鏡法(SEM)およびX線回折で検査した。これらの観察の結果を以下に考察する。

pHが2.7の時のSEM観察
・ 腐食生成物層が一般に2層観察された。鋼表面近くに観察された1つの層を内部層として表し、そして内部層の上部に観察された別の層を外部層として表した。
・ 内部層には合金用元素が豊富に存在しかつこの層は非化学量論的合金FeS[(Fe、Mo、Cr、Mn、Cu、Ni、Na)z(S、O)x]で構成されていた。
・ 外部層は多角形態を有する硫化物結晶で構成されていた:Fe+SまたはFe+S+O。
・ 更に、鋼に存在させるCuの含有量を高くすればするほどS:O比が低くなりかつ腐食生成物の付着度が低くなることも観察した。
・ 生じた硫化物化合物が示す保護はあまり高くなかった。

pHが2.7の時のX線観察
・ X線分析で内部層はマッキナワイト(正方FeS)であると同定した。
・ 鋼表面に近づくにつれて正方FeSの分率が高くなることを観察した。
・ 硫化物腐食生成物中に存在するS:O比が小さくなればなるほど鋼中のCu含有量が高くなりかつ立方FeSの分率が高くなった。立方FeSは腐食率がより高いことに関係していた。

pHが4.3の時のX線観察
・ 接着性マッキナワイト層のみが存在することを観察した。外部の立方硫化物結晶は観察されなかった。
【0074】
c)水素透過
・ 鋼中のCu濃度が高くなるにつれてマッキナワイト層中のS:O比が小さくなり、層の間隙率がより高くなった。
・ 結果としてまた表面下のH濃度も高くなった。
【0075】
d)重量損失 鋼中のpHが約2.7および4.3の時に重量損失が起こることを観察し
た。
【0076】
e)予備的結論
・ マッキナワイトおよび立方FeSそれぞれの内部および外部腐食生成物が生じた。
・ 最初にマッキナワイトの内部層が固体状態反応によって生じる結果として内部層中に鋼合金用元素が存在した。
・ Fe(II)がマッキナワイト層から移動して正方および立方FeSとして沈澱した。・ 攻撃性が高い方の環境、例えばpHが2.7の環境では立方硫化物が沈澱を起こす。・ Cu濃度が高ければ高いほど透過性が高いマッキナワイト層が生じ、その結果としてH吸収率が高くなった。
【0077】
このように、Cuの増加(S:Oの低下)に伴って観察される腐食度合の増大を推進する要因が少なくとも2つ存在することを見いだした、即ち(a)腐食生成物の接着性が低い結果としてさらなる腐食に対する腐食層バリヤーが比較的劣ること、および(b)マッキナワイトの間隙率が高くなることで表面下のH濃度が高くなること。
【0078】
f)物理的特徴付け−硫化物応力亀裂抵抗
・ 降伏強度と微細構造が決まっている場合、Cu含有量が低い鋼が示す腐食抵抗値KISSCの方が高かったが、これは、接着性腐食生成物層が生じたことで表面下の水素濃度が低くなったことによるものである。
【実施例2】
【0079】
W含有量が高温耐酸化性に対して示す影響
サンプル6C−9に関して粒子成長、焼き戻し抵抗、セメンタイト形状係数、耐酸化性および耐腐食性を試験し、それらの概略を以下の表6に示すが、特に明記しない限り、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す。
【0080】
a)材料:
【0081】
【表6】
【0082】
b)粒子成長(SEM)
・ オーステナイト化を約920−1050℃の温度範囲内で起こさせた後に検出した粒子の大きさには実質的な差がなく、このことは、粒子の大きさがW含有量から実質的に独立していることを示している。
【0083】
c)焼き戻し抵抗
・ 硬度変化を焼き戻し温度の関数として測定した時に焼き戻し抵抗に対する影響は実質的に全く観察されなかった。
【0084】
d)セメンタイト形状係数
・ セメンタイトの形状係数にもSSC抵抗に影響を与えると思われる他の沈澱物の形状係数にも実質的に全く影響がないことを検出した。
【0085】
e)耐酸化性
・ W含有組成物に関して9%CO2+18%H2O+3%O2および9%CO2+18%H2O+6%O2雰囲気の両方における耐酸化性の改善を約1200℃−1340℃の範囲の温度で検出した。
・ サンプル8および9の各々が示した重量上昇の度合は基礎サンプル6Cのそれに比べて低く、従って、酸化度合も低かった。
・ Wを添加すると平衡状態において鉄カンラン石の量が増加し、従って酸化速度論的に増加した。Wを鋼に添加するとスケール除去プロセスが助長されることで鉄カンラン石生成速度が遅くなると期待する。
【0086】
f)耐腐食性
・ Wを添加すると耐腐食性がもたらされる可能性がある。
・ サンプル8および9の両方ともサンプル6Cに比べて耐孔食性が向上したことが分かった。
【実施例3】
【0087】
酸性使用に適したさらなる鋼組成物の微細構造および物理的特徴付け
サンプル13C−16に関して微細構造検査(SEM)、硬度、降伏強度、パケットサイズの関数としてのじん性、沈澱およびKISSCを試験し、それらの概略を以下の表7に示すが、特に明記しない限り、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す。
【0088】
a)材料:
【0089】
【表7】
【0090】
特定の態様では、サンプルに産業工程を模擬することを意図した熱間圧延を受けさせた。
【0091】
b)顕微鏡法
・ 焼き入れ鋼の微細構造を検査する目的で配向画像形成顕微鏡法を実施した。
・ 焼き入れおよび焼き戻しを受けさせた組成物は全部が焼き入れ後に実質的に完全なマルテンサイト微細構造を示し、パケットサイズは約2.2から2.8μmの範囲であった。
・ 化学的組成を変えても熱処理工程を変えることで同様なパケットサイズを達成することができる。
【0092】
そのような組成物に焼き入れを受けさせると、各オーステナイト粒子内にマルテンサイトが生じる。各オーステナイト粒子内のマルテンサイトの配向度合を検査することでパケットを同定することができる(亜結晶粒の生成と同様)。隣接して位置するパケットの配向度合が非常に異なる場合、それらは粒界と同様な挙動を示すことで、亀裂の伝播より起こり難くなる。このように、そのようなサンプルはより高いKISSC値およびより低いCharpy転移温度を示す。
【0093】
c)硬度
・ V変形組成物(サンプル15)では沈澱硬化が起こることが理由で所定硬度を達成するには高い焼き戻し温度が必要であった。しかしながら、そのような組成物では焼き戻し曲線の傾きがより急なことで工程制御が複雑になった(表5を参照)。
【0094】
d)降伏強度
・ 「高い」および「低い」降伏強度を得る目的で鋼に熱処理を受けさせた。
・ Vの含有量を制限するのが重要であることを見いだした、と言うのは、Vを鋼に入れると鋼が焼き戻し温度に非常に敏感になることを確認したからである。
【0095】
e)パケットサイズと対比させたじん性
・ 50%FATTはパケットサイズに伴って増大した。
・ KISSCはパケットサイズの微調整によってほぼ直線的な様式で改善された(図3)。
【0096】
f)沈澱(サンプル13C、15、16)
・ 基礎組成物(13C)とNb組成物(サンプル16)の平均沈澱物サイズは匹敵していたが、V組成物(サンプル15)では約半分小さく、これは、焼き戻しに対する抵抗および焼き戻し曲線の傾きを説明するものである。
・ サンプル15および16ではサンプル13Cに比べて測定形状係数値が高かった。
【0097】
g)硫化物応力亀裂抵抗
・ サンプル13C、14、15および16に関して測定したKISSC値を降伏強度と対比させてプロット(図1)することでそれらの特性の関係を検査した。
・ KISSCと降伏強度の間に良好な相互関係が存在することを観察した。YSが高くなればなるほどKISSCが低くなった。
・ 降伏強度が一定であれば鋼の組成を変えても硫化物応力亀裂抵抗には実質的に統計学的差が存在しないと思われる。このような観察は最終的微細構造(粒子微調整、パケットサイズ、沈澱物の形状および分布)が同様であることによるものであると思われる。
・ 降伏強度が約122から127ksi(約841から876MPa)のサンプルに応力負荷をSMYSの約85%のレベルで受けさせた時、VおよびNb組成物は破壊を起こすことなく約720時間に及んで耐えた。
【実施例4】
【0098】
微細構造が水素拡散性に対して示す影響
サンプル10C−12に関して降伏強度および硬度を焼き戻し温度の関数として測定した焼き戻し曲線を検査し、それらの概略を以下の表8に示すが、特に明記しない限り、元素の量を鋼組成物の総重量を基準にした重量%で示す。更に、水素透過度も試験した。
【0099】
a)材料
【0100】
【表8】
【0101】
b)焼き戻し曲線(サンプル10、11)
・ Vが多い材料(サンプル11)が示した焼き戻し曲線の傾きは非常に急であった(降伏強度および硬度を温度と対比させて測定)。
・ V含有量を制限すると熱処理工程制御が改善された。
【0102】
c)水素透過度(サンプル9、10、11)
・ この3種類の鋼が示すH捕捉能力は降伏応力が一定であるならば匹敵していた。
・ 同様に、この3種類の鋼が示した可逆的H脱捕捉能力も降伏応力が一定であるならば匹敵していた。
【0103】
この上の説明で本教示の基本的な新規特徴を示し、記述しかつ指摘してきたが、当業者は本教示の範囲から逸脱することなくその例示した如き装置の細部の形態をいろいろに削除し、置換しそして変えることばかりでなくそれらを使用することができることは理解されるであろう。従って、本教示の範囲を前記考察に制限すべきでなく、添付請求項で本教示の範囲を限定すべきである。
図1
図2
図3
図4