特開2016-211105(P2016-211105A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-211105(P2016-211105A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】多層紙及び多層紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 27/00 20060101AFI20161118BHJP
   D21F 11/04 20060101ALI20161118BHJP
【FI】
   D21H27/00 E
   D21F11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-95380(P2015-95380)
(22)【出願日】2015年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】山本 准司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 宏明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG08
4L055AG48
4L055AG50
4L055AH09
4L055BD18
4L055CE45
4L055EA09
4L055EA32
4L055FA13
(57)【要約】
【課題】簡便な方法で破裂強度とCD方向の曲げこわさを両立できる多層紙を提供する。
【解決手段】3層以上の抄き合わせにより得られる多層紙であって、表層と裏層を除く層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をM、表層及び裏層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をそれぞれA及びBとするとき、M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上であり、かつA及びBがそれぞれ1.3以下である、多層紙。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の抄き合わせにより得られる多層紙であって、表層と裏層を除く層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をM、表層及び裏層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をそれぞれA及びBとするとき、
M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上であり、かつ
A及びBがそれぞれ1.3以下である、多層紙。
【請求項2】
紙層全体の坪量に対する表層及び裏層の坪量の割合が、それぞれ5〜20質量%である請求項1に記載の多層紙。
【請求項3】
請求項1に記載の多層紙の製造方法であって、
ワイヤーパート上に紙料を吐出することを含み、かつ
前記M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上、A及びBがそれぞれ1.3以下となるように各層における吐出速度Jとワイヤー速度Wとの比J/Wを調整することを含む、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層紙及びその製造方法に関する。
【従来技術】
【0002】
一般に紙は、大きく紙と板紙とに分類される。後者の用途には様々なものがあるが、段ボールの原紙となるライナーや中芯原紙と呼ばれるものもその一つである。板紙はその使用用途から、紙と比べて強度を求められる場合が多い。
【0003】
板紙に求められる強度として、破裂強度や曲げこわさが挙げられる。例えば、こわさを向上させるために、増斤や、特定の表面処理剤を使用する技術(特許文献1:特開2000−64193号公報)、抄紙設備やパルプ原料の面から紙層構造の改良を図る技術(特許文献2:特開平3−227500号公報、特許文献3:特開平4−361686号公報)等が提案されている。
【0004】
また従来から、繊維配向の度合(繊維配向比)が強度特性に大きく影響することが知られている。例えば、MD方向の引張強度、曲げこわさ、破裂強度等を高くするためには、MD方向の繊維配向比を高く、つまりMD方向を向く繊維の割合を多くすることが有効である。また、CD方向の引張強度、曲げこわさ等を高くするには、逆にMD方向の繊維配向比を低くすることが有効である。従って、繊維配向の面から破裂強度とCD方向の曲げこわさを両立することは難しいといえる。
【0005】
多層紙を製造する抄紙機において、ワイヤーに対して直交する向きにヘッドボックスを備え、ワイヤーの走行方向に対して直角に紙料を吐出して各層の配向角を異なるようにし、吸湿や乾燥状態での伸縮の異方性が少なく、低坪量であっても折り曲げ強度や引裂き強度等の紙強度に優れた多層紙、及び抄紙機上で当該多層紙を抄紙する方法が提案されている(特許文献4:特開2003−213599号公報)。
【0006】
再生パルプを含有する多層紙において、すべての層の繊維配向比をマシン全幅にわたり一定の範囲とする技術も提案されている(特許文献5:特開2012−214954号公報)。当該技術は寸法安定性の差を少なくすることが課題であり、これを幅方向の繊維配向比のバラつきを制御することで解決する。
【0007】
段ボール箱の最外表面又は最内表面を形成する表面層、及び中芯(フルート)と接着される面を形成する裏面層の2層以上の層を少なくとも具備し、前記表面層の繊維配向を他の層よりもマシン運転方向(流れ方向)へ強くすることで、段ボール等の各種容器に用いられるライナー紙の罫線割れの発生する率を低くする技術も提案されている(特許文献6:特許第04261990号)。本技術では最外層の繊維配向をその他の層よりも強くする。特許文献6及び7の技術は、課題及び解決手段の点において本発明と相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−64193号公報
【特許文献2】特開平3−227500号公報
【特許文献3】特開平4−361686号公報
【特許文献4】特開2003−213599号公報
【特許文献5】特開2012−214954号公報
【特許文献6】特許第04261990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜4に記載の技術では設備的な対応が必要である、コストアップとなる等の問題があった。特許文献5の技術では抄紙機の改造等が必要であるため、実現が容易ではない。かかる事情を鑑み、本発明は簡便な方法で破裂強度とCD方向の曲げこわさを両立できる多層紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、表層及び裏層の繊維配向比を所定の範囲とし、かつそれ以外の層の繊維配向比を表層及び裏層の繊維配向比よりも高くすることで、破裂強度とCD方向の曲げこわさの両立を達成できることを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)3層以上の抄き合わせにより得られる多層紙であって、表層と裏層を除く層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をM、表層及び裏層のマイクロ波分子配向度測定で決定される繊維配向比をそれぞれA及びBとするとき、
M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上であり、かつ
A及びBがそれぞれ1.3以下である、多層紙。
(2)紙層全体の坪量に対する表層及び裏層の坪量の割合が、それぞれ5〜20質量%である(1)に記載の多層紙。
(3)前記(1)に記載の多層紙の製造方法であって、
ワイヤーパート上に紙料を吐出することを含み、かつ
前記M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上、A及びBがそれぞれ1.3以下となるように各層における吐出速度Jとワイヤー速度Wとの比J/Wを調整することを含む、
製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡便な方法で破裂強度とCD方向の曲げこわさが両立できる多層紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.多層紙
以下、本発明の多層紙を詳細に説明する。本発明において「〜」はその両端の値を含む。すなわち「X〜Y」との記載はXとYを含むことを意味する。
【0013】
(1)構造
本発明の多層紙は、パルプを主原料とした3層以上の多層構造からなり、抄き合せて製造される。本発明の多層紙は、複数のヘッドボックスを備える抄紙機による抄き合わせ、あるいは単一のヘッドボックスのみを備える抄紙機による多層抄きで製造されることが好ましい。積層数は3以上であれば限定されないが、例えば3層の場合は表層/中層/裏層、4層の場合は表層/表下層/裏下層/裏層、5層の場合は表層/表下層/中層/裏下層/裏層からそれぞれ構成される。表層及び裏層以外の層とは、3層の場合は中層を、4層の場合は表下層/裏下層/裏層を、5層の場合は表下層/中層/裏下層/裏層を意味する。
【0014】
(2)繊維配向比と機械的特性
繊維配向比とは、繊維の配向(配列)の度合を示す尺度であり、数値が大きいほど配列の度合が強いことを示す。特に断りの無い限り、本発明における繊維配向比はMD方向への繊維の配向の度合を意味する。本発明において繊維配向比は層のマイクロ波透過強度から求められ、具体的にはマイクロ波分子配向度測定装置(王子計測器(株)製)により決定される。
【0015】
本発明では、表層と裏層を除く層の繊維配向比をM、表層及び裏層の繊維配向比をそれぞれA及びBとするとき、M−A≧0.2、M−B≧0.2であり、かつA≦1.3、B≦1.3である。表層と裏層を除く層が複数の層からなる場合は、その積層体をマイクロ波分子配向度測定装置で分析してMを求める。すなわち4層の多層紙である場合、「表下層」及び「裏下層」の積層体の繊維配向比をMとする。
【0016】
M−AおよびM−Bが前記範囲以外であると、CD方向の曲げこわさは若干高くなるが、破裂強度が大きく低下する。よって、M−AおよびM−Bは0.3以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましい。また、寸法安定性の観点からM−AおよびM−Bは0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。
【0017】
表層及び裏層の繊維配向比A及びBはそれぞれ1.3以下である。A及びBがこの範囲以外であると、破裂強度は高くなるが、CD方向の曲げこわさが大きく低下する。A及びBは1.2以下が好ましく、1.1以下がさらに好ましい。
【0018】
引張強度や曲げこわさは、繊維の長軸方向に負荷がかかる場合において最も強くなるため、繊維配向比が高いとMD方向の引張強度とMD方向の曲げこわさは大きくなる一方、CD方向の引張強度とCD方向の曲げこわさは小さくなる。また、繊維配向比が低いとMD方向の引張強度とMD方向の曲げこわさは小さくなる一方、CD方向の引張強度とCD方向の曲げこわさは大きくなる。このように、繊維配向比と引張強度、曲げこわさは直接的に関連する。また、MD方向の引張強度と破裂強度には強い相関があり、MD方向の引張強度が高いほど破裂強度が高くなる。従って、繊維配向比と破裂強度には直接的な関連があり、繊維配向比が高いと破裂強度は大きく、繊維配向比が低いと破裂強度は低くなる。
【0019】
(3)パルプ原料
本発明の多層紙は、必要に応じて機械パルプ(MP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等、抄紙原料として一般的に使用されているものの1種類又は2種類以上と再生パルプとを混合して使用することができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等が挙げられる。環境の観点からは、再生パルプの使用量が多いことが望ましい。再生パルプと他のパルプを混合して使用する場合、各層における両者の比率は任意に設定することができ、特に限定されない。
【0020】
再生パルプの原料となる古紙としては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌等の選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙、感熱紙、ノーカーボン紙等を含むオフィス古紙等の洋紙系古紙や、段ボール、石膏ボード剥離紙、紙管、包装用紙、塗工板紙、ボール紙等の板紙系古紙等を使用することができる。
【0021】
(4)坪量
本発明の多層紙の坪量は100〜300g/mであることが望ましい。抄き合わせにおける各層の坪量範囲は、所定の範囲内で調整できるが、本紙層全体の坪量に対する表層及び裏層の坪量割合は、それぞれ5〜20質量%が好ましく、10〜15質量%がより好ましい。表層及び裏層の坪量割合が低すぎると、CD方向の曲げこわさが低くなり、高すぎると破裂強度が低くなる傾向がある。
【0022】
(5)填料
本発明の多層紙は填料を含んでいてもよい。填料の種類は特に制限されないが、例えば、重質炭酸カルシウムや軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸カルシウム−シリカ複合物、酸化チタン、クレー、シリカ、タルク、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイト等の無機填料;尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料;を単独又は適宜2種類以上を組み合わせて使用できる。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料も使用することができる。酸性抄紙の場合は、前記填料から酸溶解性のものを除いた填料が使用され、その単独又は適宜2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
本発明では特に、リサイクル可能でかつ紙の不透明度や白色度を比較的低コストで向上させることができるため、炭酸カルシウムを使用して紙面pHが6.0〜9.5となるように中性抄紙することが好ましい。填料の含有量は、少なすぎるとコストアップとなり、多すぎると印刷時や断裁時に紙粉が発生しやすいこと等から、対パルプ絶乾質量あたり1〜20質量%が好ましい。ここでいう填料の含有量とは、再生パルプに由来する填料や抄紙の際に添加された填料等の総量である。
【0024】
(6)製紙用薬品
本発明の多層紙には、必要に応じて各種の製紙用薬品を添加できる。具体的には、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン性澱粉、両性澱粉、各種変性澱粉、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂等の内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、AKD系サイズ剤、ASA系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤等の内添サイズ剤;等を挙げることができる。また、歩留剤、濾水性向上剤、凝結剤、硫酸バンド、ベントナイト、シリカ、染料、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等を用いることができる。
【0025】
(7)表面処理
本発明の多層紙には、必要に応じて、片面又は両面に表面処理剤を塗布することができる。表面処理剤の種類や組成は特に限定されないが、表面強度の向上を目的とした水溶性高分子物質として、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉等の澱粉;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール等の変性アルコール;スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド等を単独又は併用して用いることができる。
【0026】
本発明の多層紙を印刷用紙に使用する際には、筆記適性向上あるいはプリンターでの印字適性向上のため、吸水抵抗性があることが好ましい。吸水抵抗性を高めるために、前記の水溶性高分子物質の他に、スチレンアクリル酸、スチレンマレイン酸、オレフィン系化合物等の表面サイズ剤を併用塗布してもよい。
【0027】
表面処理剤の塗布量は特に制限されず、通常、両面当たり0.5〜5g/m程度である。また、水溶性高分子物質と表面サイズ剤からなる表面処理剤を塗布する場合、水溶性高分子物質と表面サイズ剤との混合比率は公知の範囲で行えばよい。表面処理剤を塗布する場合、塗工装置は一般に使用されるものを用いることができ、例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター、バーブレードコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等をオンマシン又はオフマシンで用いることができる。
【0028】
さらに、本発明においては紙表面にカレンダー処理を施すこともできる。カレンダー装置の種類と処理条件は特に限定はなく、金属ロールからなる通常のカレンダーやソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダー等の公用の装置を適宜選定し、品質目標値に応じて、これらの装置の制御可能な範囲内で条件を設定すればよい。
【0029】
(8)多層紙の用途
本発明の多層紙は、印刷用紙、情報用紙、新聞用紙、はがき用紙、包装用紙、ライナーや白板紙等の板紙等に使用することができる。坪量等の諸物性や製造方法等は、各用途に応じて適宜設定してよい。
【0030】
2.製造方法
本発明の多層紙は、各層の紙料をそれぞれ調製し、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の多層抄紙が可能な抄紙機を適宜選択して製造することができる。本発明では長網型湿式抄紙機が好ましい。
【0031】
本発明の多層紙の製造方法の一例として、ワイヤーパート上に紙料を吐出することを含む方法であって、かつ以下の工程(1)〜(3)を含む方法を挙げることができる。
(1)各層毎に吐出速度(「ジェットの速度」ともいう)Jとワイヤー速度Wとの比J/Wを複数変更して抄造テストを行い、各層毎にJ/W比と繊維配向比すなわちA、B、及びMとの関係を詳細に把握する。この際、J/W比(%)に関して、100%を中心として105〜95%の間を1%程度の間隔にて順次変更して実施することが望ましい。ワイヤー速度Wより吐出速度Jが遅い状態を「引きの状態」(J/W比<100%)、吐出速度Jが速い状態を「押しの状態」(J/W比>100%)という。
【0032】
単一ヘッドボックスを用いる多層抄紙機では、各層毎の個別の抄造が困難であるため、各層毎のJ/W比を順次変更して各層抄き合せた状態でサンプル採取を行い、次いでサンプルに水を付ける等して各層を完全に剥離して繊維配向比を評価し、J/W比との関係を把握する。きれいに剥離できない場合、粘着テープ等を用いて層を剥離してJ/W比を変更した層を単離し、繊維配向比を評価する。
【0033】
(2)上記により見出した、各層のJ/W比と繊維配向比(A、B、及びM)の関係から、M−A及びM−Bがそれぞれ0.2以上であり、かつA及びBがそれぞれ1.3以下でとなるように各層のJ/W比条件を決定し、これを採用して各層を製造する。
(3)製造された各層を抄き合わせして多層紙を製造する。
(4)さらに必要により、各層の繊維配向比の測定結果をJ/W比にフィードバックして調整した後に、各層を抄き合わせる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが本発明は実施例に限定されない。以下の実施例では3層の抄き合わせで多層紙を用いた。各層を順に「表層」「中層」「裏層」とした。評価及び測定方法は以下のとおりである。
[繊維配向比]
マイクロ波を使用したマイクロ波分子配向度測定装置(王子計測器(株)製)により測定した。
[破裂強度]
JIS 8131:2009による板紙−破裂強さ試験方法により測定した。
[CD方向の曲げこわさ]
ISO 2493により測定した。
【0035】
[実施例1]
(1)各層の原料
表層のパルプとして針葉樹見晒クラフトパルプ(NUKP)10質量%、未使用段ボールの古紙パルプ(FRPD)90質量%、中層と裏層のパルプとして段ボール古紙パルプ(RPD)100質量%を使用した。表層には、硫酸バンド2.5質量%、ロジン系サイズ剤0.45質量%を添加した。また、中層には、紙力増強剤として両性澱粉0.8質量%、硫酸バンド2.0質量%、ロジン系サイズ剤0.12質量%を添加した。裏層には、紙力増強剤として両性澱粉0.25質量%、硫酸バンド2.0質量%、ロジン系サイズ剤0.22質量%添加した。
【0036】
(2)各層のJ/W比
事前に各層に関してJ/W比を複数変更して抄造テストを行いJ/W比と繊維配向比の関係を把握した。この関係から表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.2、1.5、1.2となるようにJ/W比を設定した。
(3)抄き合わせ
抄紙速度を750m/分、各層の米坪をそれぞれ、25g/m、115g/m、30g/mとした計3層で抄き合わせ、170g/mのライナー原紙を得た。
【0037】
[実施例2]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.3、1.5、1.2となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
【0038】
[比較例1]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.5、1.3、1.7となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
[比較例2]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.2、1.2、1.3となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
【0039】
[比較例3]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.2、1.1、1.3となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
[比較例4]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.7、1.5、1.7となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
[比較例5]
表層、中層、裏層の繊維配向比がそれぞれ1.5、1.7、1.4となるJ/W比に設定し抄造した以外は、実施例1と同様にしてライナー原紙を得た。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1より、3層以上の抄き合わせを行う多層紙において、表層及び裏層を除く層の繊維配向比から表層及び裏層の繊維配向比を引いた値がそれぞれ0.2以上であり、かつ表層及び裏層の繊維配向比が1.3以下である実施例1及び実施例2のライナー原紙は、比破裂強度とCD方向の曲げこわさが優れていることが分かる。これに対し、表層又は裏層の繊維配向比が1.3以上である比較例1、4、5のライナー原紙は、実施例1、2のライナー原紙よりも比破裂強度が高いものの、CD方向の曲げこわさが低いことが分かる。
【0042】
表層及び/又は裏層の繊維配向比が1.3以下であるが、中層の繊維配向比から表層及び裏層の繊維配向比を引いた値が0.2未満である比較例2、3のライナー原紙は、実施例1、2のライナー原紙よりもCD方向の曲げこわさが高いものの、比破裂強度が低いことが分かる。また、中層の繊維配向比から表層及び裏層の繊維配向比を引いた値が0.2以上であるが、表層及び裏層の繊維配向比が1.3より高い比較例5のライナー原紙は、実施例1、2のライナー原紙よりも比破裂強度が高いものの、CD方向の曲げこわさが低いことが分かる。
【0043】
以上、本発明の多層紙は優れた破裂強度とCD方向の曲げこわさを併せ持つ。