【解決手段】摺動部材(10)は、被摺動部材に対して相対的に摺動し、摺動部材基部(10e)と、摺動部材基部(10e)の表面に散在して固定されるとともに、被摺動部材に摺接する摺接粒子(10b)とを備え、摺接粒子(10b)は、摺動部材基部(10e)の表面から突出している。
上記摺接粒子は、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン粒子、アルミナ粒子、炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化タングステン粒子、窒化ケイ素粒子及び炭化モリブデン粒子のうちの少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の摺動部材。
上記摺動部材基部は、基体と、上記基体の外面に固定され、上記摺接粒子よりも粒径が小さい非摺接粒子とを備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の摺動部材。
上記摺動部材基部の表面の垂直方向から見たときの、上記摺接粒子が占める面積の割合である面密度が20〜70%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の摺動部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の特許文献1及び特許文献2に記載された軸・軸受構造は、次のような問題点を有している。
図8は、特許文献1に記載されたポンプ用軸・軸受構造における、摺動面の概略断面図である。ダイヤモンド焼結体層102Bには、ダイヤモンド部130と、ダイヤモンド部130よりも摩擦係数の高い非ダイヤモンド部とが存在する。そのため、ダイヤモンド焼結体層102Bの表面には非ダイヤモンド部が露出することになる。それゆえ、ダイヤモンド焼結体層102Bの表面全面が摺動するに際して、ダイヤモンド部130以外の部分が相手材と摺動し得る。したがって、摩擦係数をあまり低くできない。同様に、従来の特許文献2に記載された焼結製品においても、その表面には、摩擦係数の低いCDと、それ以外の焼結体の部分が存在する。そして、摺動する相手材とは、CDだけでなく上記焼結体自体も摺動する。このため、摩擦係数の改善は限定的となってしまう。
【0007】
また、ポンプ内部に硬度の高い固体物と水とが混合したスラリー液が通過し、何らかの要因でスラリー液が摺動面に侵入したときには、摺動面の硬度が比較的低い非ダイヤモンド部に、固体物が食い込む、又は傷をつけてしまうことがある。その結果、摩擦係数の上昇や傷による振動等が発生し、軸受の寿命を縮めてしまうことがあった。
【0008】
そこで、特許文献3に開示されているように、スリーブ又は軸受の一方に、ダイヤモンド等の摺動性の良い硬質被膜を数μm被覆し、該硬質皮膜を摺動面とする技術が開発されている。これにより、基体表面全体を硬質皮膜で覆っているため硬質皮膜のみが相手材と摺動し、摺動性が向上する。しかしながら、硬質皮膜は、基体との互いの熱膨張係数が異なることが多い。そのため、摺動時の熱応力が大きくなり、硬質皮膜にクラックや剥離が生じることがある。したがって、硬質皮膜と熱膨張係数を合わせるために、基体の材料選択が制約されるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、摺動性が良く、かつ、基体の材料選択の幅が広い摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の摺動部材は、上記の課題を解決するために、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材であって、摺動部材基部と、上記摺動部材基部の表面に散在して固定されるとともに、上記被摺動部材に摺接する摺接粒子と、を備え、上記摺接粒子は、上記摺動部材基部の表面から突出していることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、摺接粒子は、摺動部材基部の表面に散在して固定され、摺動部材基部の表面から突出している。したがって、被摺動部材は、摺接粒子の先端部と摺接し、摺動部材基部の表面とは摺接しない。これにより、摺動部材は、摩擦係数が低く、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が向上する。
【0012】
また、摺接粒子が摺動部材基部の外表面上に散在しているため、摺接粒子間に摺接粒子が存在しない領域(粒子間領域)が形成される。そのため、摺動部材基部が温度の上昇によって熱膨張するとき、摺動部材基部の外表面上に固定されている摺接粒子は、該熱膨張に付随して移動することができる。換言すれば、摺接粒子は、摺動部材基部の熱膨張に付随して移動する。したがって、摺動部材基部と摺接粒子との熱膨張係数を合わせる必要が無く、摺動部材基部の材料の選択性が広い。
【0013】
また、当該摺動部材を例えばポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合、摺動部材の回転時に、粒子間領域から摺接粒子と被摺動部材との間に適度に水が潤滑剤として供給され、潤滑性が向上する。これは、摺接粒子が固定されると、機械加工では得ることのできない逆テーパ等を含む様々な形状の凹凸で囲まれる粒子間領域が形成されることで、容易に水を貯えられたり、排出したりすることが可能となるからである。
【0014】
本発明の摺動部材において、上記摺動部材基部の表面から上記摺接粒子の先端までの平均高さは、0.8μm以上である構成としてもよい。
【0015】
摺動部材において、摺接粒子が摺動部材基部の表面から突出し、被摺動部材が摺接粒子の先端部と摺接し、摺動部材基部の表面とは摺接しない状態を維持する上では、摺動部材基部の表面から摺接粒子の先端までの平均高さを0.8μm以上とすることが好ましい。
【0016】
また、摺動部材基部の表面から摺接粒子の先端までの平均高さは、前述のように、当該摺動部材を例えばポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合に、水が潤滑剤として供給され、潤滑性が向上する機能を確実にする上では、1.0μm以上とするのがさらに好ましい。さらに、摺動部材基部の表面から摺接粒子の先端までの平均高さは、摺動部材基部が熱膨張したときでもより適度な水を貯えることが可能なように50μm以上が好ましく、水がより適度に潤滑剤として供給されるために150μm以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の摺動部材は、複数の上記摺接粒子により上記被摺動部材を荷重支持する構成である。
【0018】
上記の構成によれば、摺動部材は、複数の摺接粒子により被摺動部材を荷重支持することにより、被摺動部材が摺接粒子の先端部と摺接し、摺動部材基部の表面とは摺接しない状態を維持することができる。
【0019】
本発明の摺動部材において、上記摺接粒子は、硬さが珪砂の硬さ以上であることが好ましい。上記の構成によれば、摺接粒子は、硬さが珪砂の硬さ以上であるので、珪砂を主成分とするスラリー粒子等により、摺接粒子が摩耗する事態を防止することができる。
【0020】
本発明の摺動部材において、上記摺接粒子は、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素、ガラス状カーボン粒子、アルミナ粒子、炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化タングステン粒子、窒化ケイ素粒子及び炭化モリブデン粒子のうちの少なくとも1種以上を含む構成としてもよい。
【0021】
上記の構成によれば、上記の各粒子は摩擦係数が低いので、それら粒子のうちの少なくとも1種以上を摺接粒子として含む摺動部材は、被摺動部材との間に水等の潤滑剤が存在しない無潤滑条件下においても円滑に摺動することができる。さらに、摩擦係数が低いことにより、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が向上する。
【0022】
本発明の摺動部材において、上記摺動部材基部は、基体と、上記基体の外面に固定され、上記摺接粒子よりも粒径が小さい非摺接粒子とを備えている構成としてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、摺動部材基部は、基体と、基体の外面に固定され、摺接粒子よりも粒径が小さい非摺接粒子とを備えているので、基体の素材が柔らかい場合であっても、摺接粒子間に入り込んだ粒子により基体が摩耗する事態を防止することができる。例えば、当該摺動部材をポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合に、水に含まれるスラリー粒子が摺接粒子間に入り込む。この場合に、スラリー粒子により基体が摩耗する事態を防止し、基体を保護することができる。
【0024】
本発明の摺動部材は、上記摺動部材基部の表面の垂直方向から見たときの、上記摺接粒子が占める面積の割合である面密度が20〜70%であることが好ましい。面密度を20〜70%とすることにより、当該摺動部材を例えばポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合、ポンプの排出対象となる水に含まれる土砂等のスラリー粒子を粒子間領域へと逃がしやすくなる。面密度が20%より小さい場合には、摺接粒子間隔が広くなりすぎるため、各摺接粒子に加わる負荷が大きくなり耐久性に問題が生じてしまう。そのため、30%以上とすることがより好ましい。また、面密度が70%を越える場合には、摺接粒子間隔が狭くなり、摺接粒子間に水が貯えにくくなる、もしくは貯えられた水が排出されにくくなる。そのため、より好ましくは60%以下、さらにより好ましくは55%以下とする。これにより、摺接粒子と被摺動部材との間へのスラリー粒子の噛み込みによる、相手材である被摺動部材の摩耗を抑制することができる。
【0025】
本発明の摺動部材は、摺接粒子の平均粒子径が10μm〜500μmであることが好ましい。平均粒子径が10μmより小さい場合には、摺接粒子を保持する力が小さいので、摺動部材基部上から脱落しやすくなる。そのため、40μm以上が好ましく、80μm以上とすることがより好ましい。また、平均粒子径が500μmより大きい場合には、製造時に加わる圧力等の条件が大きくなり、設備等で多大な費用を要するため、500μmを上限とする。また、摺接粒子先端の加工をより効率よく行うため、平均粒子径は200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0026】
本発明の摺動部材において、上記摺動部材基部は、基体と、上記基体の表面に形成された金属膜とを備えていてもよい。金属膜は、摺接粒子を固定するための固定部材として機能するとともに、基体が他の粒子と接触することにより摩耗する事態を防止することができる。例えば、当該摺動部材をポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合に、金属膜として、水に含まれるスラリー粒子よりも高硬度な材料を用いれば、基体の素材が柔らかい場合であっても、粒子間領域を通過するスラリー粒子による基体の摩耗を防止できる。すなわち、金属膜によって基体を保護することができる。
【0027】
本発明の摺動部材は、上記摺動部材基部の表面の硬さがHv600kg/mm
2以上とすることが好ましく、Hv800kg/mm
2以上であることがより好ましい。当該摺動部材を例えばポンプの軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いた場合、排出される水に含まれるスラリー粒子の硬さがHv1000kg/mm
2程度であるので、その値に近い硬度を有することにより、スラリー粒子による基体の損傷を軽減することができる。
【0028】
本発明の摺動部材に対する、被摺動部材としてはセラミックス又はサーメットが好ましい。これにより、被摺動部材として耐久性が向上する。
【0029】
本発明の摺動部材において、上記摺接粒子は、上記摺動部材基部上へ電着固定されていることが好ましい。これにより、大気圧条件下で摺動部材基部上に摺接粒子を固定することができる。
【0030】
本発明の摺動部材において、上記摺接粒子は、少なくとも一部が被膜にて被覆されていることが好ましい。上記の構成によれば、摺接粒子の先端の角部を被膜によって表面が円滑な面となるように覆うことができ、摺動部材の摺接面を円滑な面にすることができる。
【0031】
本発明の摺動部材において、上記被膜は、少なくとも上記摺接粒子の先端を覆い、ダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなる構成としてもよい。
【0032】
上記の構成によれば、摺接粒子の先端の角部をダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなる被膜によって表面が円滑な面となるように覆うことができ、軸部材の摺接面をさらに円滑な面にすることができる。
【0033】
本発明の摺動部材において、上記被膜は、先端面の周りを覆うダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなり、上記先端面から側面に至る角部に対応する部分の上記被膜の外面が曲面になっている構成としてもよい。
【0034】
上記の構成によれば、ダイヤモンドライクカーボン膜又はガラス状カーボン膜からなる被膜は、摺接粒子の先端面の周りを覆い、かつ摺接粒子の先端面から側面に至る角部に対応する部分の外面が曲面になっている。したがって、摺動部材の摺接面の円滑性をさらに向上し、角部による被摺動面への攻撃性を緩和することができる。
【0035】
本発明の摺動部材は、軸及び軸受を有する軸・軸受構造に用いられ、上記摺接粒子の先端は、上記軸・軸受構造の軸を中心とする同一円周上にある構成としてもよい。
【0036】
上記の構成によれば、当該摺動部材を当該摺動部材と被摺動部材とからなるポンプ用軸・軸受構造に用いた場合、摺動部材が回転する際に、被摺動部材と摺接するのは摺接粒子のみとなる。したがって、摺動部材は、摩擦係数が低く、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が向上する。
【0037】
本発明のポンプは、上記いずれかの摺動部材を備えている構成である。上記の構成によれば、摺動部材は、摩擦係数が低く、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が向上するので、ポンプの耐久性を向上することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一態様によれば、摺動性が良く、かつ、基体の材料選択の幅が広い摺動部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
〔実施の形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1〜6に基づいて説明すれば、以下のとおりである。本実施の形態では、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材として、土砂(スラリー粒子)を含む水を排出するためのポンプに用いられる回転機構における軸・軸受構造の軸部材について説明する。尚、本実施の形態では、摺動部材としての軸部材について説明するが、本発明の摺動部材は必ずしもこれに限らない。例えば、軸部材に対して相対的に摺動する軸・軸受構造における軸受け部材にも適用することができる。
【0041】
<摺動部材の構成>
軸・軸受構造1Aにおける、本実施の形態の摺動部材としての軸部材10の構成について、
図1及び
図2に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態における軸・軸受構造1Aの、軸方向に垂直な断面を示す断面概略図である。
図2は、軸・軸受構造1Aが備える軸部材10の、外面側からみた構成を示す上面図である。
【0042】
図1に示すように、軸・軸受構造1Aは、摺動部材としての軸部材10と、被摺動部材としての軸受け部材11とからなっている。軸部材10は、円筒形状の軸スリーブである。尚、軸部材10は、軸スリーブに限定されるものではなく、軸であってもよい。一方、軸受け部材11は、内部に軸部材10が収容される円筒形状を有しており、軸部材10を軸支する。
【0043】
軸受け部材11は、例えば、硬質のセラミックスや超硬合金等から成り、セラミックスやサーメットであることが好ましい。セラミックスやサーメットを用いることにより、軸受け部材11の耐久性が向上する。軸受け部材11の内側表面は、表面の凹凸が、摺動部材である軸部材10における後述する摺接粒子間の領域深さに達しないことが好ましいが、表面粗さRaが1.0μm以下であれば摩擦等にそれほど影響ないため問題ない。なお、軸受け部材11の表面に、摩擦係数を低く、又は耐摩耗性を向上するための焼結体や膜を形成するような加工がされていても良い。
【0044】
軸部材10は、
図1に示すように、少なくとも、円筒形状の基体10aと、基体10aの外表面上に散在して固定された摺接粒子10bとを備える。また、摺接粒子10bが基体10aの外表面上に散在しているため、摺接粒子10b間に摺接粒子10bが存在しない領域(以下、粒子間領域)12が形成される。尚、
図1においては、基体10aの外表面全体に散在する摺接粒子10bのうち、一部のみを図示している。
【0045】
また、軸部材10は、基体10aの外表面上に、摺接粒子10bを固定するための固定部材(
図1では図示せず)を備えていてもよい。
【0046】
さらに、軸部材10は、粒子間領域12に、摺接粒子10bと同一材料の粒子であって、摺接粒子10bよりも粒子径の小さい粒子を備えていてもよい。該粒子は、軸部材10を製造する際に、摺接粒子10bの原材料となる粉体の粒度分布に起因して不可避的に備えられる粒子である。
【0047】
基体10aは、一般的に用いられる材質によって形成されており、例えば、Co系、Ni系の硬質合金等から成る。基体10aの硬さはHv600kg/mm
2以上であることが好ましい。排出される水に含まれるスラリー粒子の硬さがHv1000kg/mm
2程度であるので、その値に近い硬度を有することにより、スラリー粒子による基体10aの損傷を軽減することができる。また、基体10aの表面粗さRaは、1.0μm以下であることが好ましい。
【0048】
摺接粒子10bは、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon)粒子(以下、DLC粒子という)、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子のうちの少なくとも1種以上を含む。ここで、上記ダイヤモンド粒子には、ダイヤモンドの単結晶粒子、ダイヤモンド焼結体を粉砕した粒子も含まれる。また、上記DLC粒子には、バインダーを使用してDLC粉末を造粒したものや、DLC粉末の焼結体を粉砕した粒子も含まれる。
【0049】
摺接粒子10bは、基体10aの外表面上に、後述の方法により固定されている。摺接粒子10bは、基体10aの外表面上に1粒子の厚さで散在している。すなわち、基体10a上に固定された摺接粒子10bの粒子の上に、別の摺接粒子10bが固定されていることはほとんど無い。また、軸部材10は、摺接粒子10bが存在しない粒子間領域12を有している。したがって、摺接粒子10bとして高価なダイヤモンド粒子を用いたとしても、基体10aの表面上に固定される摺接粒子10bの合計量は、特許文献1のように摺接面としてダイヤモンド焼結体を用いる場合に比べて、大幅に少なくすることができ、製造コストを低くできる。尚、基体10aの外表面上において、2つ以上の異なる摺接粒子10bが隣接している箇所があってもよい。ただし、隣接する異なる摺接粒子10b間は接合されていない。
【0050】
また、各摺接粒子10bの先端、つまり、軸受け部材11側の端部は、軸部材10の軸方向から見たときに、軸部材10の軸を中心とした同一円周上にある。すなわち、各摺接粒子10bの先端によって、
図1に示すように、軸部材10の軸を中心とした円周面である摺接面13が形成される。該摺接面13は、軸部材10が回転するときに、被摺動部材であるところの軸受け部材11と摺接する。
【0051】
さらに、摺接粒子10b間には、
図1及び
図2に示すように、粒子間領域12が形成されている。従来、特許文献1又は特許文献3に記載されているように、基体の上に焼結体や硬質皮膜を形成する場合には、それらの温度が上昇した場合において、基体と、焼結体又は硬質皮膜との互いの熱膨張の差に起因する剥離が生じうる。そのため、基体と、焼結体又は硬質皮膜との互いの熱膨張係数を合わせる必要があった。それゆえ、基体として高価なWCを含む超硬合金を用いる必要があり、基体の材料の選択の幅が狭いという問題があった。このことは特許文献1のようにセグメント方式とした場合でさえも同様であった。これに対して、本実施の形態における軸部材10では、摺接面13を形成する摺接粒子10b間に粒子間領域12が形成されているため、当該問題を解決できる。そのことについて以下に詳細に説明する。
【0052】
まず、上述のような熱膨張の差に起因する剥離は、相対的に熱膨張係数の大きい基体側の熱膨張によって、上記焼結体又は硬質皮膜を破断させる力を及ぼすことに起因している。本実施の形態においても、摺接粒子10bとしてのダイヤモンド粒子及びDLC粒子の熱膨張係数は小さく、基体10aに用いられる合金等の熱膨張係数は相対的に大きい。しかしながら、本実施の形態における軸部材10では、基体10aが温度の上昇によって熱膨張するとき、基体10aの外表面上に固定されている摺接粒子10bは、該熱膨張に付随して移動することができる。換言すれば、摺接粒子10bは、基体10aの熱膨張に付随して、基体10aの中心軸からの放射方向に、粒子間領域12を広くするように移動する。
【0053】
他方、温度の上昇による摺接粒子10bの熱膨張は、そもそも摺接粒子10bの熱膨張係数が小さいことに加えて、粒子間領域12があるため、他の摺接粒子10bに対して影響を及ぼさない。
【0054】
したがって、基体10aと摺接粒子10bとの熱膨張係数を合わせる必要が無く、基体10aの材料の選択性が広くなっており、例えば、Co系、Ni系硬質合金のような熱膨張係数が鉄と同程度である材料を用いることができる。
【0055】
また、粒子間領域12は、その深さ、つまり、基体10aの表面と摺接粒子10bの粒子先端(つまり、摺接面13)との高さの差が0.8μm以上となっている。このため、本実施の形態における摺接面13には、基体10aの表面は含まれず、摺接面13は摺接粒子10bのみから形成されている。これにより、軸部材10と軸受け部材11とからなる軸・軸受構造1Aにおいて、軸部材10が回転する際に、軸受け部材11と摺接するのは摺接粒子10bのみとなる。ここで、摺接粒子10bを構成するダイヤモンド粒子、DLC粒子及び立方晶窒化ホウ素の摩擦係数は低いため、軸部材10は、軸受け部材11との間に水等の潤滑剤が存在しない無潤滑条件下においても円滑に回転することができる。さらに、摩擦係数が低いことにより、摩擦による熱の発生が抑えられ、材料の耐久性が向上する。また、軸・軸受構造1Aに一旦水が通じた後には、粒子間領域12に水が貯えられることによって、軸部材10の回転時に、粒子間領域12から摺接粒子10bと軸受け部材11との間に適度に水が潤滑剤として供給され、潤滑性が向上する。
【0056】
摺接粒子間の領域の深さは、1.0μm以上とするのがさらに好ましい。さらに、粒子間領域12の深さは、基体が熱膨張したときでもより適度な水を貯えることが可能なように50μm以上が好ましく、水がより適度に潤滑剤として供給されるために150μm以下とすることが好ましい。
【0057】
また、基体10aの表面の垂直方向から見たときの、摺接粒子10bが占める面積の割合である面密度は、20〜70%であることが好ましい。ここで、面密度が大きいことは、摺接粒子10b間の間隔が狭いことを意味し、反対に面密度が小さいことは、摺接粒子10b間の間隔が広いことを意味する。上記面密度を20〜70%とすることにより、スラリー粒子を粒子間領域12へと逃がしやすくなる。すなわち、軸部材10と軸受け部材11との間に侵入したスラリー粒子は、摺接粒子10bと軸受け部材11との間に挟み込まれるよりも、粒子間領域12へと送り込まれやすくなる。そして、スラリー粒子は、基体10aの外表面全体に形成されている粒子間領域12を通過して、軸・軸受構造1Aの外部へと排出され得る。これにより、摺接粒子10bと軸受け部材11との間へのスラリー粒子の噛み込みによる、相手材である軸受け部材11の摩耗を抑制することができる。なお、面密度が20%未満においては、摺接面13を形成する摺接粒子10bが少ないため、軸受け部材11への面圧が高くなり、軸受け部材11を傷つけ易くなる。また、面密度が70%を超えると、粒子間領域12が狭くなり、比較的大きなスラリー粒子が通過できなくなるため、スラリー粒子の噛み込みが増え得る。また、面密度が70%を超える場合には、摺接粒子間に水が貯えにくくなる、もしくは貯えられた水が排出されにくくなる。そのため、より好ましくは面密度は60%、さらにより好ましくは55%以下である。
【0058】
また、摺接粒子10bの平均粒子径は10μm〜500μmであることが好ましい。平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置:株式会社島津製作所、SALD−2100により計測される値である。平均粒子径が10μmより小さい場合には、摺接粒子10bを保持する力が小さいので、基体10a上から脱落しやすい。そのため、基体10a上からの脱落をより一層防止するために、摺接粒子10bの平均粒子径は、40μm以上が好ましく、80μm以上とすることがより好ましい。平均粒子径が500μmより大きい場合、製造時に加わる圧力等の条件が大きくなり、設備等で多大な費用を要するため、摺接粒子10b先端の加工が難しくなる。また、摺接粒子先端の加工をより効率よく行うため、平均粒子径は200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0059】
<摺接粒子の固定方法>
本実施の形態における、基体10aの外表面上への摺接粒子10bの固定は、電着又はスパークプラズマ焼結(Spark Plasma Sintering)(以下、SPSという)を用いて行うことができる。各固定方法について、以下に説明する。
【0060】
(電着を用いた固定方法)
本実施の形態における、電着を用いた摺接粒子の固定方法について、
図3を用いて説明する。
図3は、軸部材10の摺接粒子10bが、基体10a上に電着された状態を示す断面図である。
【0061】
基体10aの表面上への摺接粒子10bの固定は、周知の電着の方法で行うことができる。例えば、基体10aの表面上に、摺接粒子10bの粉末を配置することによって摺接粒子10bを付着させる。その後、ニッケル液中で通電することにより、基体10aの表面にニッケルメッキが施され、それに伴って、
図3に示すように、摺接粒子10bがニッケルメッキ膜20にある程度埋め込まれ、基体10a上に固定される。または、例えば、外表面以外の面をマスキングした基体10aを、摺接粒子10bを含むニッケルメッキ液の中に配置する。このとき、摺接粒子10bがニッケルメッキ膜20に埋め込まれる深さを、平均粒子径の50%以上とすることが好ましい。その後、電解法によりニッケルメッキ液中で通電することにより、
図3に示すように、基体10aの外表面にニッケルメッキ膜20が施されるとともに、ニッケルメッキ液中の摺接粒子10bがニッケルメッキ膜20にある程度埋め込まれ、基体10a上に固定される。すなわち、ニッケルメッキ膜20は、摺接粒子10bを固定するための固定部材として機能する。この方法によれば、特許文献1のように高圧条件下でダイヤモンド焼結を行う必要がなく、大気圧条件下で基体10a上に摺接粒子10bを固定することができる。尚、電着に用いるメッキ液としては、他の金属や合金によるメッキ液を用いてもよい。また、メッキ液中の摺接粒子10bの濃度を調整することにより、摺接粒子10b間の粒子間領域12の大きさや、摺接粒子10bの上記面密度を調整することができる。
【0062】
(SPSを用いた固定方法1)
本実施の形態における、SPSを用いた摺接粒子10bの固定方法の一例について、
図4を用いて説明する。
図4の(a)は、SPSを用いて摺接粒子10bを基体10a上に固定するときの流れを示す図であり、(b)は、摺接粒子10bが基体10a上にSPSにより固定された状態を示す断面図である。
【0063】
SPSは、粉体焼結等に通常用いられる方法として知られている。SPSは、簡単には、試料に対して高圧に加圧すること、プラズマ形成等によって粒子間の接合を促進すること、及び高温に迅速に加熱すること、を同時に行うという利点を有する方法である。
【0064】
まず、基体10a上に摺接粒子粉末層30をのせ、その後SPS装置にて、例えば950℃、30MPaの条件下で加圧成形を行う。それにより、加圧成形後の基体10aに、摺接粒子10bが1粒子の厚みで散在する。基体10a上に保持されなかった他の摺接粒子10bは、除圧後に除去することができる。そのため、基体10aに保持されなかった、摺接粒子粉末層30の他の摺接粒子10bは、再利用することができる。
【0065】
尚、特許文献1に記載のダイヤモンド焼結の際に印加される圧力よりも低い圧力で加圧成形するため、製造コストを特許文献1の技術に比べて低くすることができる。
【0066】
(SPSを用いた固定方法2)
本実施の形態における、SPSを用いた摺接粒子10bの固定方法の他の例について、
図5を用いて説明する。
【0067】
図5に示されるように、まず、摺接粒子10b及び硬質金属粉末の混合粉末を基体10a上に載置後、SPS装置を用いて加圧成形する。SPS装置を用いた加圧成形によって、基体10a上に摺接粒子−金属複合体51が形成される。ここで、硬質金属粉末としては、例えばコバルト合金粉末が用いられるが、他の合金又は金属粉末を用いることもできる。
【0068】
上記摺接粒子−金属複合体51は、基体10aの外表面に少し突き刺さり固定された摺接粒子10bと、その周囲に形成された硬質金属膜50とによって形成されている。すなわち、硬質金属膜50は、摺接粒子10bの基体10aへの固定を補助するための固定部材として機能する。上記SPS装置による加圧成形においては、従来の特許文献1のような数GPaといった高圧は必要なく、高くとも100MPa程度の圧力で加圧すればよい。この加圧成形により、硬質金属膜50と摺接粒子10bとの間には結合が形成され、基体10a上における摺接粒子10bの固定が促進される。
【0069】
本固定方法によれば、摺接粒子10b間の領域である粒子間領域12に、摺接粒子10bを基体10aに固定するための固定部材としての硬質金属膜50が形成される。また、硬質金属膜50としてスラリー粒子よりも高硬度な材料を用いれば、基体10aの素材が柔らかい場合であっても、粒子間領域12を通過するスラリー粒子による基体10aの摩耗が防止できる。すなわち、硬質金属膜50によって基体10aを保護することができる。このとき、摺接粒子10bの先端から硬質金属膜50の上端までの深さは、スラリー粒子の粒子径よりも大きいことが好ましい。特にスラリー粒子が多く混在すると推定される箇所でのポンプ使用時は、該深さを30μm以上、より好ましくは50μm以上、もしくは、摺接粒子10bの平均粒子径が100μmを超える場合には、摺接粒子10bの平均粒子径の40%以上とすることが好ましい。
【0070】
なお、このように、粒子間領域12に硬質金属膜50が形成される構成では、摺接粒子間の領域の深さは、硬質金属膜50の表面と摺接粒子10bの粒子先端(すなわち摺接面13)との高さの差である。この点は、以下に示す、SPSを用いた固定方法3の場合にも同様である。
【0071】
(SPSを用いた固定方法3)
本実施の形態における、SPSを用いた摺接粒子10bの固定方法の他の例について、
図6を用いて説明する。
【0072】
図6は、基体10a上に硬質金属粉末層60を載置後、その上に摺接粒子粉末層30をのせた状態を示す断面図である。
【0073】
図6に示すように、まず基体10a上に、硬質金属粉末層60を載置し、その上に摺接粒子粉末層30をのせる。ここで、硬質金属粉末としては、例えばコバルト合金粉末が用いられ得るが、他の合金又は金属粉末を用いることもできる。
【0074】
その後、SPS装置を用いた加圧成形によって、硬質金属粉末層60は圧密化され、基体10aの表面上に硬質金属膜50を形成する。それとともに、摺接粒子粉末層30が、硬質金属膜50に押し付けられ、硬質金属膜50に摺接粒子10bが少し埋め込まれて固定される。すなわち、硬質金属膜50は、摺接粒子10bを基体10aに固定するための固定部材として機能する。このとき、硬質金属膜50上には、摺接粒子10bが1粒子の厚さで散在して固定される。
【0075】
上記SPSを用いた固定方法2においては、摺接粒子−金属複合体51を形成していたのに対して、本方法では、基体10a上において、硬質金属膜50と摺接粒子10bとが分離している。そのため、摺接粒子粉末層30を形成する摺接粒子10bの大部分は、上記SPS装置を用いた加圧成形後、回収することができ、再利用することができる。これにより、コストを安くすることができる。
【0076】
<摺接粒子の加工方法>
本実施の形態における、基体10a上に固定された摺接粒子10bの加工方法について以下に説明する。
【0077】
基体10a上に上述の方法により固定された摺接粒子10bの粒子先端が、同一円周上にあるように加工する。すなわち、基体10aの回転中心軸から、最外にある粒子先端までの距離を等しくして、摺接粒子10bの粒子先端が同一円周上にあるようにする。この加工方法としては、ダイヤモンドや、炭化珪素等の砥石で削る、放電加工する、といった方法を用いることができる。当業者においては、本実施の形態における摺接粒子10bのような高硬度な材料を研削する方法として、適当なものを選択すればよい。
【0078】
摺接粒子10bの粒子先端を加工するに際して、当該摺接粒子10bは、加工中に基体10a上から脱落し得る。このとき、摺接粒子10bが脱落した箇所は、新たな粒子間領域12となる。
【0079】
なお、上記の(SPSを用いた固定方法2)(SPSを用いた固定方法3)の場合、摺接粒子10bの先端が軸部材10の軸を中心とする同一円周上になるように加工すると共に、摺接粒子10b間の領域である粒子間領域12に存在する硬質金属膜50と摺接粒子10bの先端との高さの差が、0.8μm以上となるように、硬質金属膜50を研削する加工を行う。これにより摺接面13は摺接粒子10bのみから形成される。また、硬質金属膜50が基体10aを覆うため、硬質金属膜50として硬質な材料を用いれば、基体10aの素材をステンレス鋼のように柔らかい材質を用いても、スラリー粒子による基体10aの摩耗を防止できる。
【0080】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について、
図7に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明すること以外の構成は、上記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0081】
図7は、本実施の形態における軸部材10の断面図である。
図7に示されるように、本実施の形態の軸部材10は、基体10aの外表面上に、摺接粒子10bと共に、摺接粒子10b間の粒子間領域12において、摺接粒子10bよりも粒子径の小さい硬質粒子40を固定している点で、上記実施の形態1と異なっている。
【0082】
硬質粒子40は、例えば、炭化ケイ素やその他の高硬度な粒子等である。硬質粒子40は、硬さがHv1000kg/mm
2以上のものが好ましい。また、硬質粒子40は、摺接粒子10b間の粒子間領域12に固定される。粒子間領域12に固定された硬質粒子40は、スラリー粒子等が基体10aを損傷することを防ぐことができる。
【0083】
なお、本実施の形態2における、粒子間領域12の深さは、硬質粒子40の先端と摺接粒子10bの先端との高さの差であり、実施の形態1と同様に、0.8μm以上となっている。
【0084】
このように摺接粒子10bと硬質粒子40とを混合し、その混合比又は硬質粒子40の粒子サイズを調節することで、基体10a上に固定される摺接粒子10bの面密度を容易に調節することが可能となる。
【0085】
ここで、上記硬質粒子40の粒子間の距離は、50μm以下であることが好ましい。これによって、粒子サイズが50μm程度であるスラリー粒子(例えば、シリカ粒子)が、硬質粒子40の間を通り抜けて基体10aに当たることを防ぐことができる。
【0086】
尚、摺接粒子10bよりもサイズの大きい硬質粒子40が基体10aの表面上に固定された場合には、その後に、硬質粒子40の先端が、摺接粒子10bよりも0.8μm以上低くなるように、硬質粒子40の先端を加工すればよい。それにより、摺接面13は摺接粒子10bのみによって構成され、硬質粒子40は、スラリー粒子から基体10aを保護することができる。
【0087】
〔実施の形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について、
図9の(a)及び(b)並びに
図10の(a)及び(b)に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明する構成以外の構成は、上記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
<摺動部材(軸部材)の構成>
図9の(a)は、本実施の形態における軸部材10の横断面図である。
図9の(b)は、
図9の(a)に示した軸部材10の一部の拡大図である。
【0089】
図9の(a)及び(b)に示すように、本実施の形態の軸部材10は、基体10aの外表面上に固定された摺接粒子10bが、少なくとも先端に被膜10b2を有している。被膜10b2は、DLC(ダイヤモンドライクカーボン:Diamond-like Carbon)膜又はガラス状カーボン膜からなる。すなわち、摺接粒子10bは、被覆対象粒子10b1及び被膜10b2から構成され、少なくとも被覆対象粒子10b1の先端が被膜10b2にて覆われている。したがって、被膜10b2の上面は、軸部材10の摺接面13となっている。被覆対象粒子10b1は、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子のうちの少なくとも1種以上を含むものである。
【0090】
被膜10b2の膜厚は、5μm〜10μmとすることが好ましい。このように、本実施の形態の軸部材10は、摺接粒子10bが被覆対象粒子10b1及び被膜10b2から構成されている点において、上記実施の形態1の軸部材10と異なっている。
【0091】
なお、
図9の(a)及び(b)に示した例では、軸部材10は、基体10aの露出している面、及び被覆対象粒子10b1における基体10aから露出している面が被膜10b2により覆われている。したがって、この場合の粒子間領域12の深さは、被覆対象粒子10b1の先端を覆う被膜10b2の高さと基体10aの上面を覆う被膜10b2の上面の高さとの差となる。
【0092】
また、
図9の(b)において符号10cにて示す粒子は、摺接粒子10bの製造後の摺接粒子10bの使用が開始された当初には、粒径が小さくて高さが不足するために、摺接粒子10bとはなり得ない非摺接粒子である。このような非摺接粒子10cは、基体10aに摺接粒子10bを設けた場合に、生じることがある。非摺接粒子10cは、硬質粒子40と同じ働きをすることができる。
【0093】
<被膜を有する摺接粒子の摺接面の形成方法>
(第1の形成方法)
図10の(a)は、被膜10b2を有する摺接粒子10bの摺接面13の第1の形成方法を示す、軸部材10の横断面を示す模式図である。
【0094】
第1の形成方法では、まず、各被覆対象粒子10b1の先端が、前述したように、軸部材10の軸方向から見たときに、軸部材10の軸を中心とした同一円周上に存在するように、被覆対象粒子10b1を加工する。次に、被覆対象粒子10b1の少なくとも先端面が覆われるように、被膜10b2を形成する。
【0095】
(第2の形成方法)
図10の(b)は、被膜10b2を有する摺接粒子10bの摺接面13の第2の形成方法を示す、軸部材10の横断面を示す模式図である。
【0096】
第2の形成方法では、まず、各被覆対象粒子10b1の少なくとも先端面が覆われるように、被膜10b2を形成する。次に、摺接粒子10bの先端、すなわち被覆対象粒子10b1の先端面を覆う被膜10b2の上面が、前述したように、軸部材10の軸方向から見たときに、軸部材10の軸を中心とした同一円周上に存在するように、被膜10b2を加工する。
【0097】
(DLC膜の形成方法)
DLC膜(被膜10b2)は、被覆対象粒子10b1にDLC膜をコーティングすることにより形成可能である。この手法では、真空あるいは大気圧におけるプラズマを用いた蒸着技術による手法、及び有機溶媒などの液中から炭素膜を電気的に析出させる手法などが知られている。現在は、真空装置を用いた蒸着法によるコーティング法が主流である。
【0098】
真空装置を用いた蒸着法によるDLC膜のコーティング法は、炭素供給源として固体炭素を用いる手法と炭化水素系の原料を用いる手法とに大別される。固体炭素(グラファイト)を炭素供給源とする手法としては、アークイオンプレーティング、非平衡マグネトロンスパッタリング及びフィルタードアークイオンプレーティングが知られている。また、炭化水素系ガス(CH
4、C
6H
6、C
2H
2等)を炭素供給源とする手法としては、高周波プラズマCVD、パルス方式直流プラズマCVD、イオン化蒸着及びプラズマイオン注入・成膜が知られている。
【0099】
上記の非平衡マグネトロンスパッタリング(アンバランスドマグネットスパッター法)により、被覆対象粒子10b1に5μm〜10μmの膜厚のDLC膜を形成したところ、被覆対象粒子10b1(摺接粒子10b)の角部が被膜に覆われて丸くなった。
【0100】
以上のように、本実施の形態の軸部材10は、摺接粒子10bが、被覆対象粒子10b1及び被膜10b2からなり、少なくとも被覆対象粒子10b1の先端が被膜10b2にて覆われ、被膜10b2の上面が軸部材10の摺接面13となっている。
【0101】
これにより、摺接粒子10bすなわち被覆対象粒子10b1の先端の角部を被膜10b2によって表面が円滑な面となるように覆うことができ、軸部材10の摺接面をさらに円滑な面にすることができる。
(ガラス状カーボン膜の形成)
ガラス状カーボン膜(被膜10b2)は、被覆対象粒子10b1に対して熱硬化性樹脂を主成分とするガラス状カーボン用樹脂組成物を塗布し、硬化した後、不活性雰囲気中又は真空下で焼成炭化することにより形成することができる。
【0102】
〔実施の形態4〕
本発明のさらに他の実施形態について、
図11の(a)及び(b)並びに
図10の(a)及び(b)に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明する構成以外の構成は、上記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0103】
<摺動部材(軸部材)の構成>
図11の(a)は、本実施の形態における軸部材10の横断面図である。
図11の(b)は、
図11の(a)に示した摺接粒子10bの拡大図である。
【0104】
図11の(a)及び(b)に示すように、本実施の形態の軸部材10では、基体10aの外表面上に固定された摺接粒子10bは、被覆対象粒子10b1と、DLC膜又はガラス状カーボン膜からなる被膜10b2とを有する。被覆対象粒子10b1は、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子のうちの少なくとも1種以上を含むものである。
【0105】
被覆対象粒子10b1は、記軸・軸受構造の軸を中心とする同一円周上に存在する先端面(摺接面13)が露出し、被膜10b2は、被覆対象粒子10b1の先端面の周りを覆い、かつ被覆対象粒子10b1の先端面から側面に至る角部に対応する部分の外面が曲面になっている。
【0106】
被膜10b2の膜厚は、5μm〜10μmとすることが好ましい。このように、本実施の形態の軸部材10は、摺接粒子10bが被覆対象粒子10b1及び被膜10b2から構成されている点において、上記実施の形態1の軸部材10と異なっている。
【0107】
なお、
図11の(a)に示した例では、軸部材10は、基体10aの露出している面、及び被覆対象粒子10b1の先端面を除く基体10aから露出している面が被膜10b2により覆われている。したがって、この場合の粒子間領域12の深さは、摺接粒子10b(すなわち被覆対象粒子10b1)の先端面の高さと基体10aの上面を覆う被膜10b2の上面の高さとの差となる。
【0108】
<被膜を有する摺接粒子の摺接面の形成方法>
本実施の形態の軸部材10において、被膜10b2を有する摺接粒子10bは、次のようにして形成することができる。
【0109】
まず、
図10の(a)に示した第1の形成方法、または
図10の(b)に示した第2の形成方法により、先端面に被膜10b2を有する摺接粒子10bを形成する。次に、摺接粒子10bの先端面を被覆対象粒子10b1の先端面が露出するまで被膜10b2を除去するように加工する。
【0110】
第2の形成方法により先端面に被膜10b2を有する摺接粒子10bを形成した場合には、被覆対象粒子10b1の露出した先端面が平坦になるまで、被覆対象粒子10b1の先端面を加工する。
【0111】
以上のように、本実施の形態の軸部材10では、摺接粒子10bは、被覆対象粒子10b1と、DLC膜又はガラス状カーボン膜からなる被膜10b2とを有し、被覆対象粒子10b1は、記軸・軸受構造の軸を中心とする同一円周上に存在する先端面(摺接面13)が露出し、被膜10b2は、被覆対象粒子10b1の先端面の周りを覆い、かつ被覆対象粒子10b1の先端面から側面に至る角部に対応する部分の外面が曲面になっている。
【0112】
これにより、軸部材10は、摩擦係数が低い、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子のうちの少なくとも1種以上を含む摺接粒子を使用することによる、無潤滑条件下での円滑な回転、及び材料の耐久性向上等の効果を確実に発揮することができる。しかも、被膜10b2は、被覆対象粒子10b1の先端面の周りを覆い、かつ被覆対象粒子10b1の先端面から側面に至る角部に対応する部分の外面が曲面になっているので、軸部材10は摺接面の円滑性をさらに向上することができる。
【0113】
〔実施の形態5〕
本発明のさらに他の実施形態について、
図12および
図13に基づいて説明すれば、以下のとおりである。尚、本実施の形態において説明する構成以外の構成は、上記の実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、上記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0114】
<摺動部材の構成>
以上の実施の形態では、摺動部材が軸・軸受構造の軸部材あるいは軸受け部材である場合について説明した。しかしながら、摺動部材は、軸部材あるいは軸受け部材に限定されることなく、すなわち形状を特に限定されることなく、被摺動部材に対して相対的に摺動する部材であればよい。そこで、本実施の形態では、一例として摺動部材が平板形状の部材である場合について説明する。本実施形態において説明する摺動部材の構成は、以上に説明した全ての他の実施の形態の摺動部材に対して適用可能である。
【0115】
図12は、本発明のさらに他の実施の形態の摺接部材であって、摺動部材基部が基体のみからなる摺接部材の構成を示す縦断面図である。
【0116】
図12に示すように、摺動部材10は、摺動部材基部である平板形状の基体10aと、基体10aの外表面上に散在して固定された摺接粒子10bとを備える。
【0117】
摺接粒子10bは、他の実施の形態でも明らかなように、基体10aから突出し、かつ被摺動部材に摺接し、被摺動部材を荷重支持する。基体(摺動部材基部)10aの表面から摺接粒子10bの先端までの平均高さは、0.8μm以上である。摺接粒子10bは、硬さが珪砂の硬さ以上である。珪砂は、先述した土砂(スラリー粒子)の主成分である。なお、上記平均高さは、2.0μm以上であってもよい。
【0118】
摺接粒子10bは、ダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-like Carbon)粒子(以下、DLC粒子という)、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子のうちの少なくとも1種以上を含む。ここで、上記ダイヤモンド粒子には、ダイヤモンドの単結晶粒子、ダイヤモンド焼結体を粉砕した粒子も含まれる。また、上記DLC粒子には、バインダーを使用してDLC粉末を造粒したものや、DLC粉末の焼結体を粉砕した粒子も含まれる。
【0119】
摺接粒子10bに含まれる少なくとも1種以上の粒子としては、先述したダイヤモンド粒子、ダイヤモンドライクカーボン粒子、立方晶窒化ホウ素及びガラス状カーボン粒子に加えて、アルミナ粒子、炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化タングステン粒子、窒化ケイ素粒子及び炭化モリブデン粒子を挙げることができる。アルミナ粒子には、単結晶のものおよび多結晶のものが含まれる。
【0120】
図13は、本発明のさらに他の実施の形態の摺接部材であって、摺動部材基部が基体および基体の外表面上に設けられた表面形成部からなる摺接部材の構成を示す縦断面図である。
【0121】
図13に示す摺動部材10では、摺動部材基部10eは、基体10aと基体10aの外表面上に設けられた表面形成部10dとを有する構成である。したがって、この摺動部材10では、摺動部材基部10eの表面から摺接粒子10bの先端までの平均高さは、表面形成部10dの表面から摺接粒子10bの先端までの平均高さとなる。
【0122】
表面形成部10dは、
図3に示したニッケルメッキ膜20、硬質金属膜50(
図5参照)、摺接粒子10bよりも粒子径の小さい硬質粒子40の層(
図7参照)、あるいはその他の何等かの膜や形成物である。したがって、この摺動部材10は、摺動部材基部10eと、摺動部材基部10eの外表面上に散在して固定された摺接粒子10bとを備える。
【0123】
本実施の形態の摺動部材10のその他の構成、ならびに機能および利点等は、前述した他の実施の形態の摺動部材10と同様である。
【0124】
〔変形形態〕
摺接粒子10b間の領域の深さが0.8μm以上である他の形態として、ダイヤモンド粒子と結合材との焼結体であるダイヤモンド焼結体において、表面に露出している結合材の部分だけ研削加工する形態が考えられる。この場合、ダイヤモンド焼結体の表面において、結合材とダイヤモンド粒子との高さの差が、0.8μm以上となるように研削加工する。例えば、ダイヤモンド粒子よりも柔らかく、結合材よりも硬い研磨材を用いて表面加工すればよい。このようにして研削加工されたダイヤモンド焼結体のブロックを、被摺動部材に対向する摺動部材の面に貼り付ければよい。ブロックの形状としては、例えば、球状や、一面のみが被摺動部材に対応する曲面を有する角柱形状であってもよい。
【0125】
また、被摺動部材表面の凹凸が、摺動部材における摺接粒子10b間の領域深さに達していなければ、摺動部材の基体の摩耗を抑制するだけでなく、被摺動部材の摩耗をも抑制することになるため、本発明に、被摺動部材の表面の凹凸を摺動部材における摺接粒子10b間の領域深さよりも小さくすることで、より摺動性の高い摺動部材を得ることができる。上記では、ダイヤモンド焼結体の一例であるが、ダイヤモンドライクカーボン焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体及びガラス状カーボン焼結体も同様に用いることができる。
【0126】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0127】
〔実施例1〕
内径30mmの黒鉛型に、φ30×6.5mmtの硬質コバルト合金(例えば、Co-Cr-Mo-B-Si合金)の上に平均粒子径40μmのダイヤモンド粒子粉末を2g充填し、SPS装置により30MPa、900℃で5分間焼成した。脱型の際、ほとんどのダイヤモンド粒子粉末は粉状の状態であり、基体には1粒子の厚みのダイヤモンド粒子のみが接合された。基体(硬質コバルト合金)の表面の垂直方向から見たときの、ダイヤモンド粒子が占める面積の割合である面密度は、40%であった。
【0128】
次に、基体の表面に接合されたダイヤモンド粒子に対して研削加工を行い、ダイヤモンド粒子の先端を加工した。それにより、ダイヤモンド粒子の先端によって、基体の軸を中心とした円周面である摺接面を形成した。ダイヤモンド粒子間の領域の深さ、つまり、基体の表面とダイヤモンド粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は1.0μmであった。
【0129】
その後、加工後の基体から、18×12×6mmt(試験面は18×12の面)のチップを作製した。該チップを、φ140/106×6mmtの窒化ケイ素リングと、面圧2kg/cm
2、周速2m/secの条件で1時間摩擦摩耗試験を実施した。このとき、チップとリングとの間に潤滑剤は何も無い条件で試験を行った。
【0130】
なお、摩擦摩耗試験は、チップまたはリングの重量変化により計測している。チップには基体と摺接粒子とが含まれるため、基体及び摺接粒子の両者の摩擦摩耗を計測することになる。
【0131】
〔実施例2〕
12×12×53mmの鋼材の表面に、平均粒子径140μmの単結晶ダイヤをニッケル電着した。このとき、ニッケル電着に用いる電着液中には、あらかじめ粒子径0.5μmの微粒ダイヤを添加しており、上記鋼材の表面に形成されるニッケルメッキ膜中に、上記微粒ダイヤを混在させた。上記鋼材の表面の垂直方向から見たときの、上記単結晶ダイヤが占める面積の割合である面密度は、20%であった。
【0132】
次に、鋼材表面に電着により固定された、平均粒子径140μmの単結晶ダイヤ粒子に対して研削加工を行い、該ダイヤ粒子の粒子先端の高さを揃えるように加工した。上記ダイヤ粒子間の領域の深さ、つまり、上記鋼材の表面と上記ダイヤ粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は65μmであった。
【0133】
その後、加工後の鋼材から、18×12×6mmt(試験面は18×12の面)のチップを作製した。該チップを、φ140/106×6mmtの炭化チタンリングと、面圧2kg/cm
2、周速2m/secの条件で1時間摩擦摩耗試験を実施した。このとき、チップとリングとの間に潤滑剤は何も無い条件で試験を行った。
【0134】
〔実施例3〕
摺接粒子として、ダイヤモンド粒子とDLC粒子とを重量比で1:1で混合した平均粒子径30μmのダイヤ−DLC粒子を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件にて電着(単結晶ダイヤのニッケル電着)及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は30%であった。また、ダイヤ−DLC粒子間の領域の深さ、つまり、鋼材の表面とダイヤ−DLC粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は2.0μmであった。
【0135】
そして、リングとして窒化ケイ素リングを用いたこと以外は、実施例2と同様の条件にて、摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に潤滑剤は何も無い条件で試験を行った。
【0136】
〔実施例4〕
ダイヤモンド粒子間の領域の深さ、つまり、基体の表面とダイヤモンド粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差が0.2μmであること以外は、実施例1と同様にして、摩擦摩耗試験用チップを作製し、摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に潤滑剤は何も無い条件で試験を行った。
【0137】
〔実施例5〜8〕
摺接粒子として、平均粒子径40μm〜180μmのダイヤモンド粒子を用いて、実施例2と同様の条件にて電着(単結晶ダイヤのニッケル電着)及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は10%〜80%であり、ダイヤ粒子間の領域の深さは2.0μm〜80μmであった。実施例4〜6は窒化ケイ素リング、実施例7は炭化チタンリングを用いて、実施例2と同様の条件にて摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に、硬度の高い固体物と水とが混合したスラリー液が存在する条件下で試験を行った。なお、スラリー濃度は後述する表2に示す濃度とした。
【0138】
〔実施例9〕
摺接粒子として、平均粒子径80μmのDLC粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件にて、SPS装置を用いた摺接粒子の接合、及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は60%、DLC粒子間の領域の深さ、つまり、基体の表面とDLC粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は50μmであった。
【0139】
そして、実施例1と同様の条件にて、摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に、硬度の高い固体物と水とが混合したスラリー液が存在する条件下で試験を行った。
【0140】
〔実施例10〕
摺接粒子として、平均粒子径460μmの立方晶窒化ホウ素粒子(CBN)を用いたこと以外は、実施例2と同様の条件にて電着(単結晶ダイヤのニッケル電着)及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は30%であった。また、立方晶窒化ホウ素粒子間の領域の深さ、つまり、鋼材の表面とダイヤ−DLC粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は100μmであった。
【0141】
そして、リングとして窒化ケイ素リングを用いたこと以外は、実施例2と同様の条件にて、摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に、硬度の高い固体物と水とが混合したスラリー液が存在する条件下で試験を行った。
【0142】
〔実施例11〕
摺接粒子として、平均粒子径60μmのガラス状カーボン粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件にて電着(単結晶ダイヤのニッケル電着)及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は50%であった。
【0143】
摺接粒子として、平均粒子径60μmのガラス状カーボン粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件にて、SPS装置を用いた摺接粒子の接合、及び摺接粒子表面の加工を行った。摺接粒子の面密度は50%、ガラス状カーボン粒子間の領域の深さ、つまり、基体の表面とガラス状カーボン粒子の先端(すなわち、摺接面)との高さの差は20μmであった。
【0144】
そして、実施例1と同様の条件にて、摩擦摩耗試験を行った。このとき、チップとリングとの間に、硬度の高い固体物と水とが混合したスラリー液が存在する条件下で試験を行った。
【0145】
表1は、実施例1〜4において作製され、試験を行った摺動部材の、各種条件及び試験結果を示す表である。
【0146】
【表1】
【0147】
表1に示すように、実施例1〜3のように、摺接粒子の先端が基体の軸を中心とする同一円周上にあり、かつ摺接粒子間の領域の深さが0.8μm以上である場合には、摺動性が良く、耐摩耗性に優れる摺動部材が得られることが確認された。摺接粒子間の領域の深さが0.8μmよりも浅い0.2μmであった実施例4においては、摩擦係数は、実施例3よりも若干大きくなったものの、良好な結果が得られた。
【0148】
表2は、実施例2〜3、5〜8において作製され、試験を行った摺動部材の、各種条件及び試験結果を示す表である。
【0149】
【表2】
【0150】
表2に示すように、実施例2〜3、5〜8において作製された摺動部材は、スラリー液が存在する条件下においても、摺動性が良く、耐摩耗性に優れていた。しかしながら、基体表面に固定された摺接粒子の面密度が10%又は80%の場合には、面密度が20%〜70%の場合よりも、チップの摩耗量が約10倍大きかった。したがって、耐摩耗性をより一層向上させるためには、面密度が20%〜70%であることが好ましいことが確認された。
【0151】
表3は、実施例9、実施例10及び実施例11において作製され、試験を行った摺動部材の、各種条件及び試験結果を示す表である。
【0152】
【表3】
【0153】
表3に示すように、摺接粒子としてDLC粒子、立方晶窒化ホウ素粒子(CBN)あるいはガラス状カーボン粒子を用いて作製した摺動部材においても、ダイヤモンド粒子を用いて作製した摺動部材と同様に、スラリー液が存在する条件下においても、摺動性が良く、耐摩耗性に優れるという特性を有していることが確認された。
【0154】
〔粒子の突出の有無による効果の確認〕
摺動部材10について、摺動部材基部10e(基体10a)の表面から摺接粒子10bが突出していることによる効果(摩擦係数)について確認した。その結果を表4に示す。
【0155】
実施例Aおよび比較例の基体は、炭化タングステンの粒子を含むコバルト合金である。実施例A〜Cに示す摺動部材のチップおよびリングは、実施例1の場合と同様の方法にて製造した。また、試験は、実施例1と同様の条件にて行った。ただし、面圧4.2kg/cm
2とした。
【0156】
平均高さは、摺動部材基部10e(基体10a)の表面から摺接粒子10bの先端までの平均高さであり、比較例は0(突出無し)、実施例Aは1.4μm(突出有り)、実施例Bは1.2μm(突出有り)、実施例Cは1.2μm(突出有り)とした。この結果、摩擦係数は、比較例(突出無)では0.58であったのに対し、実施例Aでは0.2、実施例Bでは0.23、実施例Cでは0.25となった。
【0157】
【表4】
【0158】
表4に示すように、突出している摺接粒子10bを有する摺動部材10は、突出している摺接粒子10bを有していない摺動部材と比べて、摩擦係数が小さく、被摺動部材に対して相対的に摺動する摺動部材として、良好な機能を有することが確認できた。