特開2016-211968(P2016-211968A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-211968(P2016-211968A)
(43)【公開日】2016年12月15日
(54)【発明の名称】放射線遮蔽体
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20161118BHJP
【FI】
   G21F3/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-96014(P2015-96014)
(22)【出願日】2015年5月8日
(71)【出願人】
【識別番号】515123214
【氏名又は名称】株式会社RICANAL
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】栗本 有康
(72)【発明者】
【氏名】栗本 有平
(72)【発明者】
【氏名】藤野 隆由
(57)【要約】      (修正有)
【課題】あらゆる放射線に対して遮蔽率を増大した放射線遮蔽体を提供する。
【解決手段】放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層aと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層a’とが順に接合されてなるものである。接着剤層として、シート主体の両面にジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bを有する両面テープを用いても良い。ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bの接着剤としては、ビニール系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、シリコーンゴム系接着剤からなる群から選ばれる1種又は2種類以上を用いることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層と、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層と、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層とが順に接合されてなることを特徴とする放射線遮蔽体。
【請求項2】
放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層と、シート主体の両面にジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層を有する両面テープと、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層とが順に接合されてなることを特徴とする放射線遮蔽体。
【請求項3】
遮蔽材料が、タングステン系、鉛系、チタン系、クロム系、マンガン系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、モリブデン系からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線遮蔽体。
【請求項4】
遮蔽材料が、カルシウム系、バナジウム系、、銅系、亜鉛系、ジルコニウム系、ニオブ系、テクネシウム系、ルテニウム系、ロジウム系、パラジウム系、銀系、カドミウム系、インジウム系、スズ系、アンチモン系、バリウム系、ランタン系、セリウム系、ネオジウム系、サマリウム系、ガドリニウム系、ハフニウム系、タンタル系、レニウム系、オスミウム系、インジウム系、白金系、金系、タリウム系、ビスマス系、ポロニウム系、鉱石、鉱物、セラミックスからなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線遮蔽体。
【請求項5】
接着材層の接着材が、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項6】
接着材層の接着材が、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、カゼイン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項7】
放射線遮蔽材料としてのタングステン粉末が分散されたエラストマー層からなる放射能遮蔽材層であって、タングステン粉末とエラストマーの配合比が、固形分として95:5〜80:20(重量部比)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシート状放射線遮蔽材。
【請求項8】
タングステン粉末が分散されたエラストマー層の製造に使用されるタングステン粉末が、カップリング剤でコーティングされたものであることを特徴とする請求項7に記載のシート状放射線遮蔽材。
【請求項9】
エラストマー層が、(1)ホウ素又はホウ素化合物粉末、又は(2)フェライト粉末を含有することを特徴とする請求項7又は8に記載の放射線遮蔽体。
【請求項10】
タングステン粉末が分散されたエラストマー層を構成するエラストマーが、ポリ塩化ビニルであることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項11】
ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層が、ビニール系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、シリコーンゴム系接着剤からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【請求項12】
接着材層にリチウム、ユウロピウム、セリウム、ストロンチウム、ホウ素から選ばれる1種又は2種以上が混有されてなることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線医療も進み、また原子力発電等原子力利用の現場、更にはそれらから発生する放射性廃棄物による放射線被ばくへの遮蔽については様々なものが開発されているが、放射線遮蔽材の遮蔽能力、材質的問題、製造法等に課題が残っている。
【0003】
放射線は粒子線であるアルファ線、ベータ線、中性子線等と、電磁波であるガンマ線、エックス線があり、アルファ線は透過力が弱く紙1枚程度でも遮蔽でき、ベータ線も数mm厚さのアルミ箔で防ぐことができる。しかし、ガンマ線は透過力が強く、コンクリートであれば50cm、鉛でも10cmの厚みが必要となる。中性子線はさらに透過力が強く、水やコンクリートの厚い壁に含まれる水素原子によってはじめて遮断できる。
【0004】
これらの放射線遮蔽材としては、これまでに鉛等の高比重金属、コンクリートが多く用いられているが、鉛は規制対象物質として扱われることも多く、放射線取扱施設で使用する材料としては好ましくなく、かつ廃材として処分する場合も環境面、コスト面等の問題が増加している。また、コンクリートは、特許文献1、2、3、4にあるように、高い遮蔽率を得るためには厚みを増す必要があり、固定建造物であれば問題ないが、放射性物質の保管・搬送に用いるドラム缶やコンテナの容器サイズになると収容できる量も少なくなり、さらに容器重量が重くなり搬送に問題を生じるとともに、コンクリートは水和反応の進捗とともにひび割れを起こすことも多く、内容物の漏れ出しの危険性もある。
【0005】
また、特許文献5、6、7のように、鉛に代わる高比重金属等を樹脂類に混練してシートとして使用する例も多くあり、熱可塑性樹脂等に高比重金属等をバンバリーミキサーやニーダーのように強いせん断力を持つ機械を用いて混練し、混練後シートに加工して製品としている。シート化した放射線遮蔽材は適応個所の形状に応じて適宜カットして使用することができる。
放射線の遮蔽率は遮蔽材の密度に大きく影響されるが、これら遮蔽シートは、特許文献6、7に記述されているように、高比重金属等の充填率が低く、よって遮蔽材の密度が小さいことにより、そのエックス線遮蔽率が0.2mmPb程度と非常に小さいものとなっているが如く放射線遮蔽率は高いとは言えない。
また、シートに加工する場合、シート厚を薄くして作業性を良くすると放射線遮蔽率が低下し、逆に厚くするとカットしにくく、かつ、適応個所の形状に合わせられなくなってしまう。さらに、薄いシートを積層することで放射線遮蔽率を高くすることは可能ではあるが、シート枚数の増加による重量増、形状の保持が困難になるといったこともあり、幅広い適用は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−153690号
【特許文献2】特開2010−8224号
【特許文献3】特開2013−29467号
【特許文献4】特開2004−236196号
【特許文献5】特開2013−18878号
【特許文献6】特開2011−99791号
【特許文献7】特開2007−212304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層と、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層と、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層とが順に接合されてなる放射線遮蔽体であり、透過力が強いガンマ線、中性子線を含む放射線全てにおいて高い放射線遮蔽率を発揮しつつ、50μm程度の薄膜から10cmを越える板厚までの放射線遮蔽体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、下記構成の放射線遮蔽体である。
[1] 放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層と、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層と、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層とが順に接合されてなることを特徴とする放射線遮蔽体。
[2] 放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第1の放射能遮蔽材層と、シート主体の両面にジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層を有する両面テープと、放射線の透過率を減衰或いは遮蔽する遮蔽材料である第2の放射能遮蔽材層とが順に接合されてなることを特徴とする放射線遮蔽体。
[3] 遮蔽材料が、タングステン系、鉛系、チタン系、クロム系、マンガン系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、モリブデン系からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の放射線遮蔽体。
[4] 遮蔽材料が、カルシウム系、バナジウム系、、銅系、亜鉛系、ジルコニウム系、ニオブ系、テクネシウム系、ルテニウム系、ロジウム系、パラジウム系、銀系、カドミウム系、インジウム系、スズ系、アンチモン系、バリウム系、ランタン系、セリウム系、ネオジウム系、サマリウム系、ガドリニウム系、ハフニウム系、タンタル系、レニウム系、オスミウム系、インジウム系、白金系、金系、タリウム系、ビスマス系、ポロニウム系、鉱石、鉱物、セラミックスからなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の放射線遮蔽体。
[5] 接着材層の接着材が、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
[6] 接着材層の接着材が、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、カゼイン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
[7] 放射線遮蔽材料としてのタングステン粉末が分散されたエラストマー層からなる放射能遮蔽材層であって、タングステン粉末とエラストマーの配合比が、固形分として95:5〜80:20(重量部比)であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のシート状放射線遮蔽材。
[8] タングステン粉末が分散されたエラストマー層の製造に使用されるタングステン粉末が、カップリング剤でコーティングされたものであることを特徴とする[7]に記載のシート状放射線遮蔽材。
[9] エラストマー層が、(1)ホウ素又はホウ素化合物粉末、又は(2)フェライト粉末を含有することを特徴とする[7]又は[8]に記載の放射線遮蔽体。
[10] タングステン粉末が分散されたエラストマー層を構成するエラストマーが、ポリ塩化ビニルであることを特徴とする[7]〜[9]のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
[11] ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層が、ビニール系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、シリコーンゴム系接着剤からなる群から選ばれる1種又は2種類以上であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
[12] 接着材層にリチウム、ユウロピウム、セリウム、ストロンチウム、ホウ素から選ばれる1種又は2種以上が混有されてなることを特徴とする[1]〜[11]のいずれか1項に記載の放射線遮蔽体。
【0009】
上記において、ジスプロシウム(Dy)を添加混合させた接着剤層をもうけることは、放射性コバルト、放射性プルトニウム等からの高エネルギー放射線を散乱させる効果が高くなって、あらゆる放射線の遮蔽率を格段に向上させることができる。
また、リチウム、ユウロピウム、セリウム、ストロンチウムなどを添加することは、放射線遮蔽率を更に向上させることができて、好ましいものである。
さらに、中性子の遮蔽効果を有するホウ素又はホウ素化合物粉末、グラファイト粉末を添加することができる。
さらにまた、フェライト粉末を添加することで放射線遮蔽率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高い放射線遮蔽能力を持つジスプロシウムが分散された接着剤層は放射線の散乱効果を高め、あらゆる放射線に対して遮蔽率を増大した放射線遮蔽体を提供することができる。
本願発明によれば、単に接着剤としてジスプロシウムが分散されたものを使用するだけで、容易に優れた放射線遮蔽性能を有する放射線遮蔽体を製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本願発明に係る放射線遮蔽体の斜視図である。
図2】本願発明に係る放射線遮蔽体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の接着材層にはジスプロシウムが分散されるが、ジスプロシウムとしては単体又は酸化物の粉末が採用される。その粒径としては、平均粒径が30μm以下、好ましくは平均粒径が1〜20μmのものが使用される。
また、接着剤に添加混合する割合としては、接着剤100重量部に対して60〜400が好ましい。
そして、接着材としては、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ABS樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上が採用できる。
また、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、カゼイン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種又は2種類以上の接着剤を採用することもできる。
【0013】
好ましい例である、放射線遮蔽材のタングステン粉末が分散されたエラストマー層は、例えばポリ塩化ビニルと可塑剤にカップリング剤でコーティングされたタングステン粉末等を高濃度で混合させ、加熱してシート状に製造することができる。
また、リチウム化合物(例えば炭酸リチウム微粉末)等を添加することによって更に放射能遮蔽率を向上させることができる。
【0014】
本発明において、ポリ塩化ビニルエラストマー、ポリプロピレンエラストマーとタングステン粉末の混合比は、重量比で3:97〜25:75が好ましく、5:95〜20:80がより好ましい。
エラストマー材料の混合比が3:97より小さいとシートを形成することが困難となり、また硬化後の強度が不足してしまう。一方でエラストマー材料の混合比が25:75より大きいと、遮蔽材(タングステン)の密度が低くなり、高い放射線遮蔽率を確保できなくなる。
本発明では、エラストマーに対して、カップリング剤でコーティングされたタングステン粉末を添加混合することが好ましい。
カップリング剤としては、 特に好ましくはシラン系カップリング剤、その他としてチタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びジルコアルミニウム系カップリング剤等を用い、タングステン粉末粒子表面に薄くコーティングする。
【0015】
カップリング処理されたタングステン粉末粒子は、雰囲気に直接触れなくなるために、高温多湿な環境下でも酸化が進まずに、タングステン粉末粒子とエラストマーとを強力に接合することができる。
次に、カップリング剤にてコーティングされたタングステン粉末を、ニーダー等の攪拌、混合用装置にてエラストマー樹脂と混合する。
エラストマー樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の熱可塑性エラストマー樹脂がより環境への適合性や、強度、柔軟性を得るために適当である。
タングステンとエラストマー樹脂(可塑剤を含む)の両者を均一に混合した後にカレンダ成形・ロール圧延、プレス加工、押し出し成形、T−ダイ押出法、射出成形等の手段にて所望のシート状に成形することができる。
【0016】
上記エラストマーとしては、熱可塑性エラストマー、例えば、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ウレタン系、エステル系、アミド系などが挙げられ、熱硬化性エラストマーとしては、天然ゴムや合成ゴム、例えばアクリルゴム、ニトリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリイソブチレンゴムが挙げられる。
さらに、タングステンを含むシートの作成では、特に塩化ビニル系のものを用いた場合に、より放射能遮蔽率が向上することが確認された。
塩素を含有する場合、放射能遮蔽率が向上するため、ポリ塩化ビニルエラストマーと混合する可塑剤にも塩素含有のものを使用することが好ましい。
上記タングステン粉末としては、平均粒子径が0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。平均粒子径が0.5μmより小さいと、タングステンの高濃度配合が困難となり、一方、平均粒子径が10μmより大きいと、使用しにくくなってしまう。
【0017】
本発明では、ジスプロシウム(Dy)を含む接着剤層を接着剤として使用するが、これらは、放射性コバルトやプルトニウムの高エネルギー放射線を散乱する効果が高く、その結果隣接する放射線遮蔽材層の遮蔽効果を高めることができる。
【0018】
本発明では、上記のようにリチウムを添加することも好ましいが、リチウム化合物としては、炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、水酸化リチウム、ヘキサフルオトリロリン酸リチウム、ニオブ酸リチウム、n-ブチルリチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、オロリン酸リチウムが挙げられる。
【0019】
上記の構成成分以外にも、放射線遮蔽能力を有するホウ素又はホウ素化合物粉末、モリブデン粉末、銀粉末、その他の化合物を添加しても良い。また、その形状は球状に限らず燐片状、針状、繊維状その他でもよい。
【0020】
本発明に係る放射線遮蔽体の構造は、図1にその斜視図を示すごとくである。
例えば図1の(1)に示すごとく、右側から第1の放射能遮蔽材層aと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、第2の放射能遮蔽材層a’とで順に構成されている。
また、(2)に示されるごとく、右側から第1の放射能遮蔽材層aと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、第2の放射能遮蔽材層a’と、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、第3の放射能遮蔽材層a’’で順に構成されている。
なお、図2の(3)に示されるごとく、右側から、カバー用の布層cと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、第1の放射能遮蔽材層aとで順に構成されていても良い。
さらに、図2の(4)に示されるごとく、右側から、カバー用の布層cと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと、第1の放射能遮蔽材層aと、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bと第2の放射能遮蔽材層a’とで順に構成されていても良い。
すなわち、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bを介して、複数層の放射能遮蔽材層を自由に貼り合わせて放射線遮蔽体を構成することができる。
それらの組み合わせによって、種々の厚みの、種々の放射能遮蔽率の遮蔽体を製作することができ、遮蔽放射能のレベルや遮蔽放射能用具のサイズ・重量等、目的・用途に応じた放射線遮蔽体を提供することができる。
【0021】
本発明にかかる放射線遮蔽体を適用することで、様々な形状、厚みの放射線遮蔽材硬化物を作製でき、放射線環境下での作業空間確保のための放射線遮蔽室、放射性物質を含む廃棄物の保管容器、医療現場での放射線被ばくを防止するための防護服や防護機器、カーテン、壁紙等に使用することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について具体的な実施例を示す。
実施例1:
【0023】
「シート状タングステン放射能遮蔽材を製作」
(1)下記のポリ塩化ビニルコンパウンドを使用した。
(a)塩化ビニルポリマー:「TH−3800」平均重合度:3500〜4100(大洋塩ビ(株)製)
可塑剤:「W−4010」(アジピン酸系ポリエステル)(DIC(株)製)
安定剤:「AC−255」Ba/Zn系液状ワンパック安定剤((株)ADEKA製)
ゲル化剤(加工助剤・強化剤):「メタブレンP−531A」(三菱レイヨン(株)製)
アクリル系加工助剤

(b)配合量
塩化ビニルポリマー:可塑剤=1:1
安定剤:ポリ塩化ビニル重量に対して4%(上記1:1ほ配合に対して外入れ)
ゲル化剤(加工助剤・強化剤):ポリ塩化ビニル重量に対して5%(上記1:1ほ配合に対して外入れ)

(2)加工方法
上記ポリ塩化ビニルと可塑剤と安定剤とゲル化剤とアクリル系加工助剤の混合物をヘンシエルミキサに入れ、120℃以下で混合し、約10〜20分間攪拌分散した。
次いで、上記分散混合物を、加熱ロールミキサ(混練機)水平列2本ロールにて混練し、樹脂がある程度ロールに巻き付いたところで、随時タングステン粉を投入して、シート状タングステン放射能遮蔽材を製作した。
加工温度は140〜160℃にて、樹脂温は約160℃程度とした。
【0024】
次いで、以上により製作した第1のシート状タングステン放射能遮蔽材の表面に、ジスプロシウム(Dy)が分散されて含有する接着材層bを塗布した後、その表面に第2のシート状タングステン放射能遮蔽材を押圧して接着して複層からなるシート状タングステン放射能遮蔽材を製作した。
図1
図2