【課題】端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、基板の損傷を防止するとともに、基板の自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができるフォトマスク基板を提供する。
【解決手段】透明材料からなり、主表面に転写用パターンを形成するためのフォトマスク基板であって、表裏2つの四角形の主表面、及び4つの端面を備える。透明材料内部であって、上記端面から所定深さの位置に、光学的に検出可能な透明材料の改質部が形成されている。
前記改質部は、前記透明材料内部であって、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフォトマスク基板。
前記フォトマスク基板は、表裏2つの四角形の前記主表面と、4つの前記端面を有し、前記改質部は、前記フォトマスク基板の前記4つの端面全周にわたって、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置に形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のフォトマスク基板。
前記改質工程では、パルス長が15fs〜400fsの超短パルスレーザの集光照射を行い、前記所定深さの位置は、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置であることを特徴とする、請求項8又は9に記載のフォトマスク基板の製造方法。
前記改質工程の前に、前記端面の算術平均表面粗さ(Ra)が0.005μm〜0.05μmとなるように研磨する工程を含むことを特徴とする、請求項8乃至10のいずれかに記載フォトマスク基板の製造方法。
前記フォトマスク基板は、表裏2つの四角形の前記主表面と、4つの前記端面を有し、前記改質工程では、前記4つの端面全周にわたって前記端面から所定深さの位置に、前記改質部を形成するものであることを特徴とする、請求項8乃至11のいずれかに記載のフォトマスク基板の製造方法。
透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、
前記フォトマスクを露光装置に導入する工程と、
前記露光装置によって前記フォトマスクを露光し、前記転写用パターンを被転写体上に転写する工程と、
前記フォトマスクを前記露光装置から取り出す工程と、
を含む、表示装置の製造方法であって、
前記フォトマスクを前記露光装置に導入する工程、又は、前記露光装置から取り出す工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、表示装置の製造方法。
透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、
前記フォトマスクを移動することにより、所望の装置に導入し、又は、所望の場所に収納し、又は、所望の地点に搬送する、移動工程と、
を含む、フォトマスクのハンドリング方法であって、
前記フォトマスクの移動工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、フォトマスクのハンドリング方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フォトマスク基板の端面については、主平面とは異なる考慮点が存在することは上記のとおりであるが、このような表示装置製造用フォトマスクにおいても、パターンの微細化や、線幅、欠陥有無の要求仕様が厳しくなるに従い、フォトマスク基板端面の品質を改めて検討する必要が生じていることに本発明者は着目した。例えば、研磨工程で発生し、基板端面に付着した研磨剤やガラスチップ等が洗浄時に主表面に回り込んで、主表面を傷つけることがあった。更に、この研磨剤やガラスチップが洗浄時に除去しきれず、洗浄後に剥離し、基板主表面に付着したり、基板主表面上に形成された薄膜やレジスト膜に付着して、パターン形成精度を妨げるといった問題がフォトマスク製造の歩留り低下するリスクを生んでいる。また、フォトマスクの保管や洗浄の際に、基板端面と冶具とが接触することにより、基板や冶具からの発塵が生じるという問題も、形成しようとするパターンの微細化とともに、より切実かつ深刻な問題になる可能性がある。
【0008】
ところで、表示装置製造用のフォトマスク基板のハンドリングは、殆ど自動化され、人手で行う機会は減ったので、端面の滑りによる基板落下の懸念は、現在はほぼ解消した。その一方、フォトマスク基板をハンドリングする装置において、基板端面を使った光学的検知が行われることがある。たとえば、基板を露光装置に導入したり、露光装置から取り出したり、或いはフォトマスク基板を所定の位置に搬送するための装置において、装置の所定位置でのフォトマスク基板の有無や位置を自動的に感知する光学センサーを用いることがある。この場合、フォトマスク基板に、適切な波長の試験光(例えば、波長500〜700nmのレーザなど)を照射し、その反射光、又は透過光をセンサーで検知する。
【0009】
例えば、試験光の照射面をフォトマスク基板の端面とし、その部分が適切な表面粗さをもつ粗面であれば、反射光又は透過光をセンサーで捕らえ、必要に応じてレファレンス値を比較することで、情報が得られる。しかしながら、フォトマスク基板の端面が鏡面であると、照射光の殆どが基板材料中を透過してしまうため、透過光、反射光のいずれをセンサーで捕らえても、フォトマスク基板の有無によるコントラストが得られず、判定できない不都合が生じた。これは、端面を鏡面としたフォトマスク基板の取り扱いを、基板ハンドリング装置によって自動的に行おうとすれば、正しい動作保証がされないことを意味する。
【0010】
上記特許文献1では、前記端面及び前記面取り面の表面粗さ(Ra)を0.03〜0.3μmの範囲とすることで、滑りやすさの抑制と、異物発生のリスク防止の両立を図ったものである。通常、端面や面取り面の表面粗さの数値が小さくなるに従い、異物発生のリスクは減少する傾向はある。しかしながら、同時に、基板の確実な自動ハンドリング性を考慮すると、フォトマスク基板の端面に関しては、更に工夫の余地がある。
また、上記特許文献2では、端面の一部を鏡面とし、残りを粗面としたものであるが、やはり異物発生のリスクとともに、基板の自動ハンドリング性の向上を更に追及する余地がある。
【0011】
本発明者は、こうした状況に鑑み、端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、基板の損傷を防止するとともに、基板の自動ハンドリングの信頼性を確実にするべく、鋭意検討し、本発明を完成した。
本発明の目的は、第1に、端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、基板の損傷を防止するとともに、基板の自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができるフォトマスク基板及びその製造方法を提供することである。また、第2に、上記フォトマスク基板を用いたフォトマスクブランク、及びフォトマスクを提供することである。また、第3に、上記フォトマスクを適用した表示装置の製造方法、及びフォトマスクのハンドリング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成を有する発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透明材料からなり、主表面に転写用パターンを形成するためのフォトマスク基板であって、表裏2つの主表面、及び端面を備えるフォトマスク基板において、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に、前記透明材料の改質部が形成され、前記改質部は、光学的に検出可能であることを特徴とする、フォトマスク基板。
【0013】
(構成2)
前記改質部は、前記改質部以外の前記透明材料に対し、光の屈折率が異なることを特徴とする、構成1に記載のフォトマスク基板。
(構成3)
前記改質部は、前記透明材料内部であって、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置に形成されていることを特徴とする、構成1又は2に記載のフォトマスク基板。
【0014】
(構成4)
前記フォトマスク基板は、表裏2つの四角形の前記主表面と、4つの前記端面を有し、前記改質部は、前記フォトマスク基板の前記4つの端面全周にわたって、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置に形成されていることを特徴とする、構成1乃至3のいずれかに記載のフォトマスク基板。
(構成5)
前記端面の算術平均表面粗さ(Ra)は、0.05μm以下であることを特徴とする、構成1乃至4のいずれかに記載のフォトマスク基板。
【0015】
(構成6)
構成1乃至5のいずれかに記載のフォトマスク基板の主表面の一方に、光学膜が形成されたことを特徴とする、フォトマスクブランク。
(構成7)
構成1乃至5のいずれかに記載のフォトマスク基板の主表面の一方に、転写用パターンが形成されたことを特徴とする、フォトマスク。
【0016】
(構成8)
主表面に転写用パターンを形成するためのフォトマスク基板の製造方法であって、透明材料からなり、表裏2つの主表面、及び端面を備える板状の透明基板であって、前記主表面と前記端面にそれぞれ所定の平滑度をもつ透明基板を用意する工程と、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に超短パルスレーザを集光照射することにより、前記透明材料の改質部を形成する改質工程と、を含むことを特徴とする、フォトマスク基板の製造方法。
【0017】
(構成9)
前記改質工程は、前記透明材料の屈折率を変化させるものであることを特徴とする、構成8に記載のフォトマスク基板の製造方法。
(構成10)
前記改質工程では、パルス長が15fs〜400fsの超短パルスレーザの集光照射を行い、前記所定深さの位置は、前記端面から深さ0.5mm〜10mmの位置であることを特徴とする、構成8又は9に記載のフォトマスク基板の製造方法。
【0018】
(構成11)
前記改質工程の前に、前記端面の算術平均表面粗さ(Ra)が0.005μm〜0.05μmとなるように研磨する工程を含むことを特徴とする、構成8乃至10のいずれかに記載フォトマスク基板の製造方法。
(構成12)
前記フォトマスク基板は、表裏2つの四角形の前記主表面と、4つの前記端面を有し、前記改質工程では、前記4つの端面全周にわたって前記端面から所定深さの位置に、前記改質部を形成するものであることを特徴とする、構成8乃至11のいずれかに記載のフォトマスク基板の製造方法。
【0019】
(構成13)
透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、前記フォトマスクを露光装置に導入する工程と、前記露光装置によって前記フォトマスクを露光し、前記転写用パターンを被転写体上に転写する工程と、前記フォトマスクを前記露光装置から取り出す工程と、を含む、表示装置の製造方法であって、前記フォトマスクを前記露光装置に導入する工程、又は、前記露光装置から取り出す工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、表示装置の製造方法。
【0020】
(構成14)
透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、前記フォトマスクを移動することにより、所望の装置に導入し、又は、所望の場所に収納し、又は、所望の地点に搬送する、移動工程と、を含む、フォトマスクのハンドリング方法であって、前記フォトマスクの移動工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、フォトマスクのハンドリング方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のフォトマスク基板によれば、基板を構成する透明材料内部であって、基板端面から所定深さの位置に、光学的に検出可能な、透明材料の改質部が形成されていることにより、基板の端面が鏡面に仕上げられていても、基板を光学的に検出することが可能であり、基板の自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。また、基板の端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、基板の損傷を防止することができる。
【0022】
また、本発明のフォトマスク基板を用いたフォトマスクブランク、及びフォトマスクによれば、端面が鏡面に仕上られていても、フォトマスクブランクあるいはフォトマスクを光学的に検出することが可能であり、自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができ、また、端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、フォトマスクブランクあるいはフォトマスクの損傷を防止することができる。
また、上記フォトマスクを適用することにより、表示装置の製造方法、及びフォトマスクのハンドリング方法において、自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について詳述する。
本発明のフォトマスク基板は、上記構成1にあるとおり、透明材料からなり、主表面に転写用パターンを形成するためのフォトマスク基板であって、表裏2つの主表面、及び端面を備えるフォトマスク基板において、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に、前記透明材料の改質部が形成され、前記改質部は、光学的に検出可能であることを特徴とする、フォトマスク基板である。
【0025】
図1は、本発明にかかわるフォトマスク基板を例示する全体斜視図(同図(a))および板厚方向の断面図(同図(b))である。
図1(a)に示すとおり、上記フォトマスク基板(以下、単に「基板」とも呼ぶこともある。)1は、表裏2つの四角形の主表面11a,11bと、4つの端面12とを有している。また、
図1(b)に示すとおり、各端面12において、板厚方向の端面12cと表裏2つの主表面11a,11bとの間に、それぞれ面取り面12a,12bが形成されている。
【0026】
本発明のフォトマスク基板1のサイズには特に制限はないが、たとえば表示装置製造用のフォトマスク基板としては、好ましくは、主表面の一辺が300〜1500mm程度の四角形とし、厚さ(板厚)は5〜13mm程度とすることが好適である。面取り面12a,12bの、端面12側からみた寸法(
図1(b)中のW
1,W
3)は、それぞれ0.2〜6mm程度であって、端面12cの幅(
図1(b)中のW
2)としては、3〜12.5mm程度とすることができる。面取り面の幅(
図1(b)中のW
1,W
3)は、表裏で同一でもよく、また異なっていても良い。また、面取り面12a,12bの、主表面11a,11b側からみた寸法(
図1(b)中のW
4)は、0.2〜0.8mm程度であり、表裏で同一でも異なっていても良い。
【0027】
本発明のフォトマスク基板1に使用される透明材料は、合成石英など、フォトマスクを使用する際に用いる露光光とする光(たとえば波長365〜436nm)に対して、実質的に透明なものを適用する。ここで実質的に透明とは、上記露光光の透過率80%以上、好ましくは90%以上であることを意味する。
【0028】
また、上記フォトマスク基板1の2つの主表面11a,11bの一方には、転写用パターンが形成される。この転写用パターンが形成される主表面(表面ともいう。)は、研磨により平坦かつ平滑に加工されて鏡面となっている。特に、転写用パターンが形成される領域(転写領域ともいう)の表面粗さRaは、0.2nm以下であることが好ましい。また、他方の主表面(裏面ともいう。)についても、表面粗さRaが表面と同等となるようにすることが好ましい。
【0029】
本発明のフォトマスク基板1の端面は、表面粗さRaの値で、Ra≦0.05μmとすることが好ましい。より好ましくは、Ra<0.03μm、更に好ましくは、0.005μm≦Ra<0.03μmである。また、研磨時間が若干伸びるが、0.005μm≦Ra<0.02μmとすることもできる。このように基板端面を平滑な面とすることで、フォトマスク基板1端面からの異物発生等の不都合が抑止される。
なお、本発明において、表面粗さRaというときは、算術平均表面粗さ(Ra)を意味するものとする。算術平均表面粗さRaは、日本工業規格(JIS)B0601に準拠して算出される。表面粗さは具体的には表面粗さ計等を用いて測定することができる。
【0030】
更に本発明のフォトマスク基板1は、透明材料内部の、端面12から所定深さの位置に、透明材料の改質部が形成され、この改質部は、光学的に検出可能である。ここで、光学的に検出可能とは、この改質部に試験光を照射し、その透過光、または反射光を光学的手段で受光し、必要に応じてリファレンス値と比較することによって、フォトマスク基板の有無や、位置に関する情報が得られることをいう。
【0031】
この光学的に検出可能な改質部は、改質部以外の透明材料と異なる光学的性質をもつ。たとえば、改質部以外の透明材料とは、光の屈折率が異なることにより、改質部を透過する光の強度、または、改質部で反射する光の強度が、改質部以外の透明材料の場合と異なったものとなる。この場合、改質部の屈折率は、改質部以外の透明材料の屈折率より高くても低くても良いが、後述の方法によれば、簡便な手法で屈折率を高くすることができる。具体的には、この改質部に、試験光が照射されるときに、その光の一部が反射し、又は、吸収され、検出される透過光量、又は、反射光量は、改質部の有無によって異なる数値となる。
【0032】
そこで、例えば、1つの基板端面から試験光を入射し、対向する端面側で透過光を受光するとき、光学センサーなどが示す、透過光の強度が、基板が存在しない時の値(リファレンス値)に対して、有意差があれば、該基板の存在が検知できる。
図2に透過光を用いたフォトマスク基板の検出方法を説明するための構成図を例示する。例えば、試験光として波長が、500〜700nmの光を用いることができる。そして、投光部31から出射した試験光を基板端面から入射させ、対向する端面側からの透過光を受光部32で受光し、センサー表示部33には検出値が表示される。一般にガラス等の透明材料は上記試験光の透過率が高い上に、基板端面が鏡面に仕上られていると、リファレンス値に対する有意差が得られ難い。ところが、本発明のフォトマスク基板1においては、上記のとおり、透明材料内部の、端面12から所定深さの位置に、透明材料の改質部が形成されているため、この光学的性質(例えば屈折率)の異なる改質部に試験光を照射し、その透過光を光学的手段で受光し、必要に応じてリファレンス値と比較することによって、フォトマスク基板の有無や、位置に関する情報が高い信頼性で得られる。
【0033】
なお、上記では、基板端面から試験光を入射し、端面からの透過光を光学センサーなどで検出する場合を説明したが、これに限らず、基板端面から試験光を入射し、端面からの反射光を上記と同様に光学センサーなどで検出し、反射光の強度を測定する検出方法においても、本発明のフォトマスク基板の有無や、位置に関する情報が高い信頼性で得られる。
【0034】
このように、本発明のフォトマスク基板を適用することにより、たとえば装置の所定の位置に基板が配置されたことを検知することが可能である。また、予め、各種基板に対して、想定される検出値を記憶させておき、基板の向きや、基板のサイズを認識できるようにしてもよい。または、基板が誤った向きや姿勢で導入されたときに、これを検知できるようにしておいてもよい。
【0035】
本発明のフォトマスク基板1の改質部は、上記のように、例えば、改質前の透明材料(基板)に対して、改質部の屈折率が異なるものとすることができる。例えば、屈折率が局所的に高くなる加工を施すことによって、改質部を形成することができる。あるいは他の方法で、改質部における透明材料の光学的性質を、改質前の部分と異なるものとなるようにしてもよい。
【0036】
上記のような光学的に検出可能である改質部をもつ本発明のフォトマスク基板1は、例えば以下の方法によって製造することができる。
すなわち、透明材料からなり、表裏2つの主表面、及び端面を備える板状の透明基板であって、前記主表面と前記端面にそれぞれ所定の平滑度をもつ透明基板を用意する工程と、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に超短パルスレーザを集光照射することにより、前記透明材料の改質部を形成する改質工程と、を含むフォトマスク基板の製造方法である。
【0037】
ここで、所定の平滑度とは、例えば、端面においては、改質工程の前に、表面粗さRaの値が、Ra≦0.05μmを満たすようにすることが好ましい。主表面においては、この段階では、特に制限はない。例えば、主表面は、後述のラッピングが施された状態とすることができ、その表面粗さRaは、20nmを超える値であっても良い。主表面に関しては、改質工程の後に、研磨を行って鏡面化することができる。
【0038】
また、上記改質工程では、超短パルスレーザとしては、パルス幅が1ps以下のフェムト秒レーザを使用することが好ましく、パルス幅が15〜400fs、より好ましくは、15〜300fsとする。この超短パルスレーザを、基板端面から入射させ、透明材料内の所定深さの位置に集光することで、その部分の透明材料を改質することができる。あるいは、超短パルスレーザを、基板の主表面から入射させ、透明基板内の所定の位置に集光し、もしくは、集光点を移動させながら入射させて、改質部を形成してもよい。例えば、波長100〜500Hzの超短パルスレーザを、出力10〜100mW程度で使用することができる。
【0039】
対象物質への超短パルスレーザの集光照射を行うと、集光した領域から周囲領域へのエネルギーの移行に比べて、超短パルスレーザのパルス持続時間が短いため、対象とする物質の極めて小さな領域にエネルギーを与えることができる。そして、その周囲の部分に損傷を伴わずに、精緻な加工が可能である。
【0040】
本発明では、この手法によって、対象物質を透明材料とし、その内部の所望の深さの位置に集光する。これにより、レーザ焦点近傍の局所的な部分の透明材料を改質することができる。そして、基板端面の表面には照射の影響を与えない。従って、本発明のフォトマスク基板では、基板端面に予め施した鏡面加工状態を維持し、かつ、内部の改質部分の存在によって、フォトマスク基板の有無や位置が光学的に検知可能とすることができる。
【0041】
上記改質工程におけるフォトマスク基板への超短パルスレーザの集光照射は、例えば
図3に示す方法で行うことができる。
図3は、フォトマスク基板端面から所定深さの位置に超短パルスレーザを集光照射することにより改質部を形成する方法を例示する基板端面方向からの構成図(同図(a))、そのフォトマスク基板の平面図(同図(b))、および同図(b)におけるA部の拡大図(同図(c))である。
【0042】
すなわち、改質前のフォトマスク基板1の端面12に対して、フェムト秒レーザ加工機20により、パルスレーザビームを照射し、所望の深さの位置に集光しつつ走査する。このとき、パルスレーザビームが基板内に集束され、焦点が走査経路に沿って移動するととともに、その部分の透明材料の屈折率を変化させる。具体的には、この方法によれば改質部13では屈折率の増大を生じさせることができる。したがって、このような改質に有効な走査速度で、基板端面に対して、相対的に移動することが好ましい。移動速度としては、例えば0.1〜0.5mm/秒である。そして、このとき、透明材料に対する物理的な損傷は実質的に生じさせず、また端面自体の平滑度を損なうこともない。なお、フェムト秒レーザ加工機を固定しておき、基板を移動させるようにすることができ、あるいは、基板は固定しておき、フェムト秒レーザ加工機を移動させるようにしてもよい。
【0043】
本発明においては、好ましくは、4つの端面のすべてのそれぞれに対し、所望の領域に、フェムト秒レーザを照射し、端面から基板内側の、例えば深さ0.5mm〜10mmの位置に、改質部を形成することが好ましい。このように、端面全周にわたって、その所定深さの位置に、所定の幅で形成されることがより好ましいが、端面全周のうち、少なくとも一部に、改質部が形成されることにより、本発明の効果が得られればよい。
【0044】
上記の所定の幅とは、光学的検出に困難を伴わない程度であり、例えば、幅3〜10mmであり、より好ましくは、端面幅W
2(
図1(b))とほぼ等しい幅(したがって、基板厚みから面取り面の幅を除いた部分の幅)で形成する。
上記のフェムト秒レーザ照射により、透明材料の内部に一次元、二次元、又は三次元の形状をもつ改質部を形成することができる。例えば、点状、線状、網目状など所望の形(パターン)に形成することができるが、透過光測定、反射光測定などによって、フォトマスク基板(又はその改質部)が確実に検出される形状を選ぶことが好ましい。
【0045】
本発明のフォトマスク基板の製造方法には、以下の工程を有することができる。
・ラッピング 透明材料からなるフォトマスク基板のラッピングにより、主表面の平坦度を所定範囲とする。
・端面研磨 基板端面に研磨用ブラシなどを接触させ、基板端面を鏡面化する。
・主表面の第1研磨 基板主表面の精密研磨を行う。研磨剤として酸化セリウムなどが使用できる。
・主表面の最終研磨 基板主表面を所望の表面粗さ(例えばRaが0.2nm程度)とするための最終研磨を行う。例えば、研磨剤としてコロイダルシリカなどが適用できる。
【0046】
本発明のフォトマスク基板の上記改質工程は、上記端面研磨の後であって、上記主表面の第1研磨の前に行うことが好ましい。上記端面研磨によって端面の表面粗さRaが0.05μm以下、好ましくは、0.03μm未満、より好ましくは、0.005μm以上0.03μm未満、更に好ましくは、0.005μm以上0.02μm以下となるように加工された状態で、改質工程を行うと、超短パルスレーザの透明材料内部への入射、集光が容易になるので望ましい。
なお、本発明のフォトマスク基板の製造方法においては、上記のほかに、更に主表面の研磨工程を増加させてもよいし、その他の工程が追加されても良い。
【0047】
上述のとおり、本発明のフォトマスク基板は、端面の表面粗さRaの値でRa≦0.05μmとすることが好ましい。より好ましくは、Ra<0.03μm、更に好ましくは、0.005μm≦Ra<0.03μmである。更には、0.005μm≦Ra<0.02μmとすることもできる。また、4つの端面のすべてがこの表面粗さRaの範囲にあることが好ましく、また、より好ましくは、面取り面についても、この範囲内の表面粗さRaである。
【0048】
以上説明したように、本発明のフォトマスク基板によれば、基板を構成する透明材料内部であって、基板端面から所定深さの位置に、光学的に検出可能な、透明材料の改質部が形成されていることにより、基板の端面が鏡面に仕上げられていても、基板を光学的に検出することが可能であり、基板の自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。また、基板端面を鏡面に仕上げられるので、基板の端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、基板の損傷を防止することができる。
【0049】
本発明は、透明材料のみからなる上記フォトマスク基板のほか、上記本発明のフォトマスク基板を有するフォトマスクブランクについても提供するものである。
具体的には、透明材料からなる上記フォトマスク基板の主表面の少なくとも一方に、遮光膜、半透光膜などの光学膜が形成されたフォトマスクブランクや、さらに、エッチングストッパ膜、電荷調整膜などの機能性膜のうち少なくとも1つが形成されたフォトマスクブランクを含む。また、これらのフォトマスクブランクの表面には、更にフォトレジスト膜など、パターン形成に必要な膜が形成されていてもよい。
【0050】
上記遮光膜、半透光膜の材料は、Cr系の場合、Cr単体のほか、Crの化合物(Crの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物、酸化窒化炭化物など)を使用することができる。
また、上記遮光膜、半透光膜は、Si系の膜とすることもできる。この場合は、Siの化合物(SiONなど)、又は遷移金属シリサイド(MoSiなど)の化合物を用いることもできる。MoSiの化合物としては、MoSiの窒化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物などが例示される。
また、上記エッチングストッパ膜の材料は、上記遮光膜や半透光膜とはエッチング特性が異なるもの、すなわちエッチング選択性を有するものが選択されるとする。従って、エッチングストッパ膜の直上にある膜がCr系の場合には、エッチングストッパ膜はSi系の膜とし、直上の膜がSi系である場合には、エッチングストッパ膜はCr系の膜とすることができる。エッチングストッパ膜の材料の具体例は、上記遮光膜、半透光膜の材料として列記されたものと同様のものから選択することができる。
【0051】
上記遮光膜、半透光膜などの光学膜や、エッチングストッパ膜、電荷調整膜などの機能性膜などの成膜方法はスパッタ法など、公知の手段を適用できる。各膜は、単層で構成されている場合のほか、積層で構成されていてもよい。
【0052】
また、本発明は、上記フォトマスクブランクの光学膜などをパターニングして形成した、フォトマスク基板の主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクについても提供する。上記光学膜などをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィー法を適用することが微細パターンを形成できるので好適である。また、本発明は、転写用パターンの一部のみを形成したフォトマスク中間体もフォトマスクとし、本発明に含まれるものとする。
【0053】
本発明のフォトマスク基板を用いたフォトマスクブランク、及びフォトマスクによれば、フォトマスクブランクあるいはフォトマスクを光学的に検出することが可能であり、自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。また、端面の表面粗さにより発生する異物を極力低減し、フォトマスクブランクあるいはフォトマスクの損傷を防止することができる。
【0054】
また、本発明は、上記本発明のフォトマスク基板を用いたフォトマスクを適用する表示装置の製造方法についても提供する。
すなわち、透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、前記フォトマスクを露光装置に導入する工程と、前記露光装置によって前記フォトマスクを露光し、前記転写用パターンを被転写体上に転写する工程と、前記フォトマスクを前記露光装置から取り出す工程と、を含む、表示装置の製造方法であって、前記フォトマスクを前記露光装置に導入する工程、又は、前記露光装置から取り出す工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、表示装置の製造方法である。
【0055】
上記のフォトマスクを光学センサーによって検知するとは、フォトマスクの存在有無を検知するほか、フォトマスクの位置、サイズ、姿勢(主表面の向きなど)を検知することを含み、要するにフォトマスクの状態に関する情報を得ることである。
【0056】
上記の露光装置としては、いわゆるFPD(Flat Panel Display)用、又は、LCD(液晶)用として知られるものであり、大型フォトマスク(主表面の一辺が300mm以上)の様々な規格、サイズのものを搭載可能なものがある。例えば、このような露光装置は、i線〜g線を含む光を露光光とした等倍露光を行うものがあり、所定の光学系(NA0.08〜0.15程度)を備えたプロジェクション露光タイプと、近接露光を行うプロキシミティ露光タイプがある。これらの露光装置内に、又はこれらの装置に付随して設けられる自動ハンドリング装置において、上記本発明を好ましく適用することができる。
【0057】
こうしたフォトマスク等の自動ハンドリング装置において、基板の有無や位置を確認するために、ひとつ又は複数の光学センサーを取り付けて利用することができる。この光学センサーは、例えば500〜700nmの波長の試験光を出射し、フォトマスク(又はフォトマスク基板、フォトマスクブランク、フォトマスク中間体、以下同様。)の端面に向けて照射する。そして、その反射光、又は透過光を検知して、フォトマスクの存在や位置を検知することができる。
【0058】
このとき、改質を施していないフォトマスクにおいては、フォトマスクの有無によるコントラストが低く、誤認による誤作動が生じるリスクがあったが、本発明の改質部を備えたフォトマスクを投入することにより、安定して確実に検知が行えるようになり、自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。
【0059】
またさらに、本発明は、上記本発明のフォトマスク基板を用いたフォトマスクを適用するフォトマスクのハンドリング方法についても提供する。
すなわち、透明材料により形成され、表裏2つの主表面と、及び端面をもつフォトマスク基板であって、前記透明材料内部の、前記端面から所定深さの位置に前記透明材料の改質部が形成されたフォトマスク基板の、前記主表面の一方に転写用パターンを備えるフォトマスクを用意する工程と、前記フォトマスクを移動することにより、所望の装置に導入し、又は、所望の場所に収納し、又は、所望の地点に搬送する、移動工程と、を含む、フォトマスクのハンドリング方法であって、前記フォトマスクの移動工程において、前記フォトマスクを光学センサーによって検知し、前記光学センサーは、前記フォトマスクの端面から所定の深さにある、前記透明材料の前記改質部に照射された試験光の透過光、又は反射光を検出することを特徴とする、フォトマスクのハンドリング方法である。
【0060】
こうしたフォトマスクのハンドリング方法においても、本発明の改質部を備えたフォトマスクを投入することにより、安定して確実に検知が行えるようになり、自動ハンドリングの信頼性を確実にすることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をより具体的に説明する。
石英ガラスからなる透明なフォトマスク基板(主表面の大きさが800mm×920mm、厚さ10mm)を5枚用意した。それぞれの端面(端面幅W
2:7.0mm)は、下記表1に示したように、加工方法が異なることによって、表面粗さRaが異なるものとした。但し、基板1と基板5は、端面のRaを0.02μmとする鏡面加工を施した。また、基板2と基板3は、端面のRaを0.10μmまたは0.15μmとする準鏡面となるように加工を施した。
【0062】
ここで基板5についてはその端面に前述の
図3に示す方法で改質を行った。すなわち、基板とフェムト秒レーザ加工機を相対的に移動しつつ、
図3(a)に示すようにビームを走査して、フェムト秒レーザ(パルス幅225fs、周波数250KHz、出力40mW)を入射させた。そして、基板端面から深さ5mmの位置に集光させた。これにより、基板内部の透明材料に改質部が形成され、形状は微細ドットの帯状となった。これを、基板の4つの端面すべてに対して行い、端面全周にわたって改質部を形成した。
【0063】
次に、前述の
図2に示す方法で、レーザータイプ透過型センサーを用いて、基板の透過光を測定した。すなわち、基板1〜5の各基板端面に、レーザータイプ透過型センサーの投光部を配置して試験光(波長660nmのレーザー光)を照射し、対向する端面側に配置した受光部により透過光を検出した。この検出結果を以下の表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すとおり、基板5、すなわち、本発明の改質部が形成されたフォトマスク基板は、上記透過光の検出値が、参考例の改質を施していない基板1より十分に低く、このような検出方法によって基板の有無、及び位置を検出するコントラストが十分にとれることがわかった。
【0066】
一方、端面をRaで0.20μmの非鏡面としたフォトマスク基板4は、上記透過光の検出値が低く、検出コントラストが十分にとれるものの、主表面の最終研磨の工程後の検査で、主表面に傷が多数検出された。これは、基板端面が非鏡面であったために、主表面の最終研磨の際に、端面から脱離したガラスチップや研磨剤が、主表面に回り込み、損傷させたと考えられる。
また、端面を準鏡面としたフォトマスク基板2、3は、上記透過光の検出値がやや高く、安定した検出に懸念が残った。また、主表面の傷も多少検出された。
【0067】
なお、参考用として、
図4(a)に、端面の表面粗さRaが0.13μmの基板の端面写真と、
図5(a)にその表面粗さ測定結果を示す。また、
図4(b)には、端面のRa=0.02μmの基板の端面写真と、
図5(b)にはその表面粗さ測定結果を示す。表面粗さ測定は、東京精密(株)製の測定器(カットオフ値0.25mm、評価長さ1.25mm)を用い、測定は、端面の長手方向にスタイラスを相対移動させて行った。これらの結果から、
図4(a)の端面においては、ガラスチップや吸着した研磨剤などの異物を極めて発生しやすい表面状態であり、鏡面研磨することより(
図4(b))、この異物発生源がほぼ解消されることが明らかに理解できる。
以上から明らかなとおり、本発明のフォトマスク基板は、自動ハンドリング装置において、確実に検知され、ハンドリングされることができる一方、基板端面の表面粗さに起因する、異物や基板表面欠陥の問題が解消される、優れた作用効果を奏する。