【実施例】
【0025】
以下、実施例について説明する。まず原材料のCuを溶解して芯材となるインゴットを作製した。ある線径まで細くした高純度Cuワイヤを芯材として予め準備して、そのワイヤ表面に、電解メッキ法でPd被覆層、Au表皮層を形成した。電解メッキ液は、半導体用途で市販されているメッキ液を使用した。その後に、最終径まで伸線して、最後に加工歪みを取り除くために熱処理を施した。必要に応じて、線径30〜100μmまでダイス伸線した後に、拡散熱処理を施してから、さらに伸線加工を施した。これにより、外径18μmと20μm、被覆層の厚さ0.06μm、表皮層の厚さ0.003μmのボンディングワイヤを作製した。
【0026】
ボール部の形成には、市販の自動ワイヤボンダー(K&S製Iconn型)を用いた。放電トーチの電流は60mAに固定し、FAB径がワイヤ径の1.7〜2.0倍になるように放電時間を調整した。非酸化雰囲気ガスの流量は0.4〜0.6L/minとした。形成されたボール表面部のPd分布、ボール形状を評価した。
【0027】
Pd分布の評価は、ボール径/ワイヤ径の比率が、1.7〜2.0倍の範囲のボール部を50個採取し、樹脂に埋め込み研磨することにより、ワイヤの長手方向のボール断面を露出させて光学顕微鏡で観察し、ボール部表面に対する被覆層の被覆率を測定し50個の平均値を算出して評価した。被覆率が50%未満であれば不良であるため×印、被覆率が50%以上70%未満であれば実用上の大きな問題はないと判断し△印、被覆率が70%以上90%未満であれば○印、被覆率が90%以上であればPd分布が良好であるため◎印で、表1〜4中の「Pd分布」の欄に表記した。
【0028】
ボール形状の評価は、ボール径/ワイヤ径の比率が、1.7〜2.0倍の範囲のボール部を50個採取し、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察して、ボール部の真球性を評価した。異常形状のボール発生が5個以上であれば不良であるため×印、異形が3〜4個である場合には実用上の大きな問題はないと判断し△印、異形が1〜2個である場合には○印、異形が発生しなかった場合にはボール形成は良好であるため◎印で、表1〜4中の「FAB形状」の欄に表記した。
【0029】
表1及び表2に、外径18μm、被覆層の厚さ0.06μm、表皮層の厚さ0.003μmのボンディングワイヤを作成し、非酸化雰囲気ガス条件と共に評価をした結果を示す。また表3及び表4に、外径20μm、被覆層の厚さ0.06μm、表皮層の厚さ0.003μmのボンディングワイヤを作成し、非酸化雰囲気ガス条件と共に評価をした結果を示す。表1〜表4において、「ワイヤA」は、芯材の表面に被覆層及び表皮層を備えるボンディングワイヤを用いた場合、「ワイヤB」は、芯材の表面に被覆層を備える(表皮層が形成されていない)ボンディングワイヤを用いた場合を示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
【0033】
【表4】
【0034】
表1及び表3に示すように、炭化水素を含む非酸化雰囲気ガス中でボール部を形成することにより、ボール表面のPd被覆率が向上したボール部を形成することができることが確認できた。
【0035】
No.1〜16,65〜80に示す通り、炭化水素としてメタンを0.25〜12.50体積%含むことにより、ボール表面のPd被覆率が向上したボール部を形成することができることが確認できた。また、No.5〜16,69〜80に示す通り、メタンの濃度を1.25体積%以上とすることにより、表皮層の有無に関わらず、Pd分布の評価結果が○以上となった。
【0036】
No.17〜32,81〜96に示す通り、炭化水素としてエタンを0.14〜7.00体積%含むことにより、ボール表面のPd被覆率が向上したボール部を形成することができることが確認できた。また、No.21〜32,85〜96に示す通り、エタンの濃度を0.70体積%以上とすることにより、表皮層の有無に関わらず、Pd分布の評価結果が○以上となった。
【0037】
No.33〜48,97〜112に示す通り、炭化水素としてプロパンを0.10〜5.00体積%含むことにより、ボール表面のPd被覆率が向上したボール部を形成することができることが確認できた。また、No.37〜48,101〜112に示す通り、プロパンの濃度を0.50体積%以上とすることにより、表皮層の有無に関わらず、Pd分布の評価結果が○以上となった。
【0038】
No.49〜64,113〜128に示す通り、炭化水素としてブタンを0.08〜4.00体積%含むことにより、ボール表面のPd被覆率が向上したボール部を形成することができることが確認できた。また、No.53〜64,117〜128に示す通り、ブタンの濃度を0.40体積%以上とすることにより、表皮層の有無に関わらず、Pd分布の評価結果が○以上となった。
【0039】
また、No.2〜4,6〜8,10〜12,14〜16,18〜20,22〜24,26〜28,30〜32,34〜36,38〜40,42〜44,46〜48,50〜52,54〜56,58〜60,62〜64,66〜68,70〜72,74〜76,78〜80,82〜84,86〜88,90〜92,94〜96,98〜100,102〜104,106〜108,110〜112,114〜116,118〜120,122〜124,126〜128に示す通り、非酸化雰囲気ガスがさらに水素を1.0体積%以上含むことにより、ボール形成性が向上することが確認できた。また、水素濃度が2.5体積%のときと、5.0体積%のときで、ボール形成性に差は見られなかった。