(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-214146(P2016-214146A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】真珠形成用キャップ及び養殖真珠の形成方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20060101AFI20161125BHJP
【FI】
A01K61/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-102603(P2015-102603)
(22)【出願日】2015年5月20日
(71)【出願人】
【識別番号】501426688
【氏名又は名称】尹▲ヨン▼夏
(74)【代理人】
【識別番号】100107711
【弁理士】
【氏名又は名称】磯兼 智生
(72)【発明者】
【氏名】坂田 充康
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA23
2B104DA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】貝殻裏面と外套膜との間に真円の真珠を形成することを可能とするキャップとこれを用いた養殖真珠の形成方法を提供する。
【解決手段】貝殻に穴を開けた真珠母貝の当該穴を塞ぐ真珠形成用キャップXとして、裏面の外周面であるフランジ部20が前記貝殻表面の前記穴の周りに当接する平面又は曲面に形成するとともに裏面の中央に外周面よりも表面側に凹む窪み40を形成し、窪み40の内面は真珠質が付着し難い材質により形成する。養殖真珠の形成に際しては、前記窪み40に真珠被着用核を入れて、真珠形成用キャップXで真珠母貝の穴を塞いだ状態で固定し、この状態で真珠母貝を水中で養殖する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻に穴を開けた真珠母貝の当該穴を塞ぐキャップであって、
裏面の外周面が前記貝殻表面の前記穴の周りに当接する平面又は曲面に形成されるとともに裏面の中央に外周面よりも表面側に凹む窪みが形成され、当該窪みの内面は真珠層が付着し難い材質により形成される真珠形成用キャップ。
【請求項2】
前記窪み内面に中央近傍から外縁側に向かう複数の突条が放射状に設けられる請求項1に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項3】
前記各突条は長手方向に関し緩やかな波型の曲線を形成したものである請求項2に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項4】
表面から裏面に至り前記窪み内面の少なくとも一部を通る貫通孔が形成され、当該貫通孔を水密的に塞ぐ着脱可能な内蓋が設けられる請求項1から3のいずれか1項に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項5】
前記貫通孔はネジ穴を形成するものであって、前記内蓋の外周面は当該ネジ穴に係合する雄ネジが形成されるものである請求項4に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項6】
前記窪み全体が前記内蓋の裏面に形成される請求項4又は5に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項7】
前記裏面の前記外周面の内側に前記穴に嵌る裏面側に突出する突出部が形成される請求項1から6のいずれか1項に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項8】
前記窪みは中心が最も深く、当該中心を通り表面から裏面に向かう中心軸を回転軸とし表面側に凸な曲面を回転させた回転面を内面とするものである請求項1から7に記載の真珠形成用キャップ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の真珠形成用キャップを用いた養殖真珠の形成方法であって、
真珠母貝の貝殻に前記真珠形成用キャップの窪みより大きく、前記外周面の最外周よりも小さい穴を開ける穴あけ工程と、
穴あけ工程の後に、前記窪みに真珠被着用核を入れて、前記窪みが前記貝殻の穴の位置に合致するように前記外周面を前記貝殻表面に接触させた状態で前記真珠形成用キャップを前記貝殻に接着固定するキャップ固定工程と、
前記キャップ固定工程の後に、前記真珠母貝を水中で養殖する養殖工程と
を有する
養殖真珠の形成方法。
【請求項10】
前記養殖工程において、養殖開始から一定期間、前記真珠母貝を前記真珠形成用キャップが下になるように位置づける工程が含まれる請求項9に記載の養殖真珠の形成方法。
【請求項11】
前記養殖工程において、前記一定期間経過後、前記真珠母貝の前記貝殻外縁に、形成された真珠の外径よりも小さな隙間のみが形成され得るように前記貝殻を拘束する枠を前記真珠母貝の貝殻外周に嵌め、前記真珠母貝を前記真珠形成用キャップが上になるように位置づける工程が含まれる
請求項10に記載の養殖真珠の形成方法。
【請求項12】
前記キャップ固定工程において接着固定される前記真珠形成用キャップは請求項4から6のいずれか1項に記載の真珠形成用キャップであって、
前記養殖工程において、前記内蓋を開き、形成されている真珠を前記窪みから分離させ、その後内蓋を閉じて元の状態に戻す工程が含まれる請求項9から11のいずれか1項に記載の養殖真珠の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖真珠を形成するために真珠母貝の貝殻に形成した穴を塞ぐキャップ及び、当該キャップを用いた養殖真珠の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖真珠の形成方法の一つに、アコヤ真珠などに用いられる真珠母貝の生殖巣に核と外套膜切片を挿入して養殖する方法がある。この方法によれば、真球に近い形状の真珠を得ることが可能である。また、別の方法として淡水真珠に用いられる真珠母貝の外套膜内部に外套膜切片を挿入して養殖する方法がある。この方法だと一つの貝で多数の真珠を得ることができる。また、淡水真珠においても核と外套膜切片を挿入する方法も存在する。さらに、別の方法として、マベ真珠に用いられる真珠母貝の貝殻裏面に核を貼り付けて養殖する方法がある。この方法によれば比較的大きな真珠を得ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、アコヤ真珠などの生殖巣に核と外套膜切片を挿入する方法で形成される真珠は、生殖巣の大きさに真珠の大きさが制限されるので、例えばアコヤ真珠では最大でも7、8mmの核を入れるのが限界であり、10mmに達する真珠を得ることはほぼ不可能である。また、淡水真珠などの外套膜内に外套膜切片のみを挿入するものは大きさも小さく形状もばらばらである。外套膜内に核も挿入するものは比較的大きなものが作れるが、外套膜内部で形成されるので形状がいびつになることが多い。マベ真珠のような貝殻の裏面に核を貼る方法は大きく形の整った真珠を得ることはできるが、貝殻裏面に核を貼り付ける必要があるので一面側のみに真珠層が形成され、真円の真珠を形成することはできない。以上のことから、マベ真珠のように貝殻裏面と外套膜との間で真珠を形成すれば大きく形の整った真珠を得ることができると考えら得るが、真円の核は貝殻裏面と外套膜との間から排出されてしまい、また、うまく貝殻裏面と外套膜との間にとどめることができても、外套膜から放出される真珠層を形成する分泌物によって貝殻裏面に固定されてしまうこととなる。
本発明は、このような問題に鑑みて、貝殻裏面と外套膜との間に真円の真珠を形成することを可能とするキャップ及び当該キャップを用いた養殖真珠の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。
請求項1に記載の発明は、貝殻に穴を開けた真珠母貝の当該穴を塞ぐキャップであって、 裏面の外周面が前記貝殻表面の前記穴の周りに当接する平面又は曲面に形成されるとともに裏面の中央に外周面よりも表面側に凹む窪みが形成され、当該窪みの内面は真珠質が付着し難い材質により形成される真珠形成用キャップである。なお、真珠質が付着し難い材質には、素材の種類のほか、微細凹凸形状等の表面の形状が含まれる。
請求項2に記載の発明は、前記真珠形成用キャップにおいて、前記窪み内面に中央近傍から外縁側に向かう複数の突条が放射状に設けられるものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の真珠形成用キャップにおいて、前記各突条は長手方向に関し緩やかな波型の曲線を形成したものである。
【0005】
請求項4に記載の発明は、前記真珠形成用キャップにおいて、表面から裏面に至り前記窪み内面の少なくとも一部を通る貫通孔が形成され、当該貫通孔を水密的に塞ぐ着脱可能な内蓋が設けられるものである。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の真珠形成用キャップにおいて、前記貫通孔はネジ穴を形成するものであって、前記内蓋の外周面は当該ネジ穴に係合する雄ネジが形成されるものである。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5に記載の真珠形成用キャップにおいて、前記窪み全体が前記内蓋の裏面に形成されるものである。
請求項7に記載の発明は、前記真珠形成用キャップにおいて、前記裏面の前記外周面の内側に前記穴に嵌る裏面側に突出する突出部が形成されるものである。
請求項8に記載の発明は、前記真珠形成用キャップにおいて、前記窪みは中心が最も深く、当該中心を通り表面から裏面に向かう中心軸を回転軸とし表面側に凸な曲面を回転させた回転面を内面とするものである。
【0006】
請求項9に記載の発明は、前記真珠形成用キャップを用いた養殖真珠の形成方法であって、真珠母貝の貝殻に前記真珠形成用キャップの窪みより大きく、前記外周面の最外周よりも小さい穴を開ける穴あけ工程と、穴あけ工程の後に、前記窪みに真珠被着用核を入れて、前記窪みが前記貝殻の穴の位置に合致するように前記外周面を前記貝殻表面に接触させた状態で前記真珠形成用キャップを前記貝殻に接着固定するキャップ固定工程と、前記キャップ固定工程の後に、前記真珠母貝を水中で養殖する養殖工程とを有するものである。
請求項10に記載の発明は、前記養殖真珠の形成方法の前記養殖工程において、養殖開始から一定期間、前記真珠母貝を前記真珠形成用キャップが下になるように位置づける工程が含まれるものである。
請求項11に記載の発明は、前記養殖真珠の形成方法の前記養殖工程において、前記一定期間経過後、前記真珠母貝の前記貝殻外縁に、形成された真珠の外径よりも小さな隙間のみが形成され得るように前記貝殻を拘束する枠を前記真珠母貝の貝殻外周に嵌め、前記真珠母貝を前記真珠形成用キャップが上になるように位置づける工程が含まれるものである。
請求項12に記載の発明は、前記養殖真珠の形成方法の前記キャップ固定工程において接着固定される前記真珠形成用キャップは請求項4から6のいずれか1項に記載の真珠形成用キャップであり、前記養殖真珠の形成方法の前記養殖工程において、前記内蓋を開き、形成されている真珠を前記窪みから分離させ、その後内蓋を閉じて元の状態に戻す工程が含まれるものである。なお、分離後閉じる内蓋は別の内蓋に交換してもよい。
【発明の効果】
【0007】
以上のような構成により本発明は、次のような効果を奏する。
請求項1に記載の発明は、窪み内に真珠被着核を入れて真珠母貝の貝殻に開けた穴に固定すると、真珠被着核は窪みによって貝殻の裏と外套膜との間で位置がずれることが抑制され、また、貝殻の裏面から表面側に凹むことになるので、球形等の立体的な形状真珠の形成が可能となる。さらに、真珠質が付着し難い材質に窪み内面が形成されることで、真珠被着核や形成される真珠が真珠層によって窪み内面に固定されることが抑制され、これによって形成される真珠外表面全面に真珠質を行き渡らせることが可能となる。
請求項2に記載の発明は、窪み内面に突条を放射状に設けることで、真珠被着核や形成される真珠が窪み内面に接触する面積が小さくなり、真珠被着核等が窪みに真珠層によって接着されることをより抑制することができる。
請求項3に記載の発明は、放射状の突条を波型とすることで水流によって真珠被着核や形成される真珠が振動し、さらに真珠被着核等が窪み内面に真珠層によって接着することを抑制することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明は、内蓋を設けることで、定期的に内蓋を外して内部を確認することができ、さらに、形成されている真珠の窪み内面からの剥離や位置の調整などのメンテナンス、内蓋の清掃や交換などが可能となる。
請求項5に記載の発明は、内蓋の固定をネジによる締結で行うことで、強固に内蓋を固定できるともに、必要に応じて簡易に内蓋を外すことができる。
請求項6に記載の発明は、窪み全体が内蓋に形成されることで、内蓋を外すと窪み全体を外すことができるので、窪み全体を清掃したり、交換したりすることが可能となる。
請求項7に記載の発明は、貝殻に形成した穴に嵌る突出部を形成することで真珠形成用キャップをより強固に貝殻に固定することが可能となる。
請求項8に記載の発明は、窪みを丸い窪みとすることで真円真珠を形成する場合に好適となる。
【0009】
請求項9に記載の発明は、真珠被着核は真珠形成用キャップの窪みによって貝殻の裏と外套膜との間で位置がずれることが抑制された状態で保持され、貝殻の裏面よりも表面側に凹んだ窪み内で真珠層が付着するので立体的な形の真珠が形成されることとなる。そして、窪み内面が真珠質が付着し難い素材により内面が形成されているので、真珠被着核や形成される真珠が窪み内面に固定されにくくなり、これによって形成される真珠外表面全面に真珠質を行き渡らせ全周が真珠層で形成された真珠を得ることができる。
請求項10に記載の発明は、養殖の初期段階で窪みが下方に位置するので、真珠被着核及び形成される真珠が安定し、真珠母貝の軟体に対して重みがかからないので真珠母貝への負担も少なくすることができる。
請求項11に記載の発明は、窪みを上方にすることで形成された真珠が外套膜と貝殻の間に落下して自由に動けるようになる結果よりきれいな真珠を形成することができる。また、貝は落下した真珠を異物として本能的に吐き出そうしても枠によって真珠が外部に排出することを防止することができる。
請求項12に記載の発明は、真珠形成用キャップの窪み内面に形成される真珠が固定されてしまうことを防ぐことができ、より確実に全周面に真珠層を形成することができる。また、取り外した内蓋の裏面を清掃したり、内蓋を交換したりすることが可能であるので、この点においてもよりきれいな真珠を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る真珠形成用キャップの斜視図である。
【
図2】(a)は実施形態に係る真珠形成用キャップの縦断面図であり、(b)は実施形態に係る真珠形成用キャップの底面図である。
【
図3】真珠母貝に真珠被着用核を入れた真珠形成用キャップを固定した状態を示す部分拡大縦断面図である。
【
図4】真珠母貝に枠を嵌めた状態を示す側面図である。
【
図5】(a)は真珠形成用キャップの変形例を示す斜視図であり、(b)は真珠形成用キャップの変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に実施形態に係る真珠形成用キャップXの斜視図を示し、
図2(a)に真珠形成用キャップXの縦断面図を示し、
図2(b)に真珠形成用キャップXの底面図を示す。真珠形成用キャップXは円筒部10、フランジ部20、内蓋部30、窪み40、ボルトヘッド部50を有する。円筒部10は合成樹脂や金属で形成される偏平な円筒体であり、内周面に雌ネジ11が形成される。フランジ部20は円筒部10側面ほぼ中央位置の外周面に一体に形成される側方に張り出す円形の板状体である。フランジ部20の裏面は後述する貝殻表面に形成される穴周り当接する真珠形成用キャップXの裏面の外周面を構成し、フランジ部20から裏面側に突出する円筒部10部分は突出部を構成する。内蓋部30は合成樹脂や金属で形成される円筒部10内部の貫通孔に嵌る偏平な円柱体であり側面に円筒部10内周面に形成される雌ネジ11に係合する雄ネジ31が形成される。これにより、内蓋分30は円筒部10に水密的に係合する。円筒部10の上面は中央に向かってやや高くなるように形成されている。窪み40は、内蓋部30の裏面に形成される内蓋部30の中心軸を回転軸とし表面側に凸な回転軸上に中心を持つ円弧を回転させた回転面を内面とする、底中央の位置がフランジ部20の裏面よりもさらに表面側に位置する凹所である。窪み40の内面には中央に円形の突起41が形成されるとともに、当該円形の突起41を中心に突条42が外縁に向かって放射状に形成されている。各突条42の形状は緩やかな波型、ここでは緩やかなS字状に形成される。窪み40の内面はフッ素樹脂加工、シリコーン高分子加工、SLIP(Slippery Liquid-Infused Porous Surfaces)加工等の非粘着性を有するコーティング加工が施される。また、非粘着性を高めるために窪み表面に微細な凹凸加工を施すようにしてもよい。このような加工処理によって窪み40内面に真珠質が付着し難い材質が形成されることとなる。ボルトヘッド部50は内蓋部30の表面に一体に形成される一般的なボルトのヘッド部と同じ形状を有する六角柱状の突起である。
【0012】
次に、以上のような構成を有する真珠形成用キャップXを用いた養殖真珠の形成方法について説明する。まず、アコヤ貝、イケチョウ貝、マベ貝、アワビ、シロチョウ貝、クロチョウ貝などの真珠母貝の貝殻に真珠形成用キャップXの円筒部10の裏面側が嵌る穴を開ける。穴の形成は貝柱や外套線上の位置を避け、外套線よりも貝殻の縁部側に設けることが望ましい。
穴を形成したら、真珠形成用キャップXの窪み40に真珠被着用核を入れて、穴に真珠形成用キャップXの円筒部10の裏面側外周が嵌るようにして嵌め入れ、フランジ部20の裏面を貝殻表面に接触させた状態でフランジ部20を接着剤によって貝殻表面に接着固定する。この状態の真珠形成用キャップX近傍の拡大断面図を
図3に示す。図に示すように真珠形成用キャップXの窪み40に入れられた真珠被着用核Cは外套膜Mに上から押さえられるように接触した状態となる。
窪み40に入れる真珠被着用核は貝殻を研磨して球状にしたものを用いるが、真珠層が外表面に形成されれば種々の形状、素材のものを用いることが可能である。真珠被着用核の大きさは、窪み40の内面よりも小さなものが用いられ、ここでは、窪み40内面の半径よりも小さな半径の球形で、窪み40の深さの3倍程度の直径を有するものを用いる。なお、使用する真珠母貝の大きさによって、使用する真珠形成用キャップXの大きさも変わるが、アコヤ貝のような比較的小さな貝であっても直径15mm程度の真珠被着用核を挿入できる大きさの窪み40を有する真珠形成用キャップXを使用することが可能である。
【0013】
真珠母貝に真珠被着用核を窪み40に入れた真珠形成用キャップXを接着固定したら、真珠母貝を真珠形成用キャップXが下になるようにして、真珠母貝の生息できる水中に入れて真珠母貝を養殖する。真珠母貝の外套膜からは真珠層を構成する炭酸カルシウムや蛋白質が分泌され、真珠被着用核にもこれらの分泌物によって結晶化した真珠層が形成される。また、窪み40内面は真珠質が付着し難い材質で形成されているので、真珠被着用核や形成途中の真珠が窪み40内面に付着しにくく、また、窪み40内面には突条42が設けられることで接触面積が小さくなり、さらに、突条40が緩やかなS字状に形成されることで水流によって真珠被着用核や形成途中の真珠が振動するので、これらの構造によっても真珠被着用核や形成途中の真珠が窪み40内面に付着することが抑制される。また、真珠被着用核が真珠母貝の軟体の下に位置すること、真珠被着用核の重みが軟体にかからず真珠母貝への負担を低減することができる。
この養殖期間中に定期的に内蓋部30をスパナを用いてボルトヘッド部50に係合させて回転させることで開き、内部の様子を確認するとともに形成途中の真珠が窪み40内に付着している場合はこれを剥がし、窪み40内を清掃又は内蓋部30を交換して、形成途中の真珠を窪み40内に入れて内蓋部30を再び円筒部10に係合固定するようにする。また、この際、形成途中の真珠の向きを変えることもできる。
【0014】
一定期間が経過して、一定の大きさの真珠袋が形成されたら、真珠母貝の貝殻Sに
図4に例示するような枷Rを嵌める。枷Rは真珠母貝の貝殻Sの縁部から形成途中の真珠Pが抜けないように、貝殻Sが開く大きさを拘束するものである。具体的には枷Rは二の略水平部材R1とこれらの端部を連結する垂直部材R2とからなることで側面視略コの字状に形成され、上下いずれか一方の略水平部材R1を一方の貝殻表面に接着剤にて固定することで、他方側の略水平部材R1が他方の貝殻の大きく開くことを邪魔し、これによって貝殻が開く幅を規制する。枷Rを嵌めたら真珠母貝の向きを真珠形成用キャップXが上になるように変えて、さらに水中で養殖を継続する。このように向きを変えることで、形成途中の真珠は窪み40から外套膜と貝殻の間に脱落する。真珠母貝は本能的に落下した形成途中の真珠を排出しようとするが、枷Rによって外部に排出することができないので、真珠は真珠母貝内に留まり、より綺麗な真珠が形成されることとなる。
このように、本実施形態に係る真珠形成用キャップを用いて養殖真珠を形成すると、貝殻と外套膜との間に窪みにより大きな空間を形成するので、生殖巣や外套膜内に挿入するよりも大きな真珠被着用核を用いることができ、貝殻と外套膜との間で真珠を形成するにも係らず真珠被着用核の全周に真珠層を形成することができる。
【0015】
なお、上記実施形態では、真珠形成用キャップの内蓋表面には六角ボルトヘッドを設けたが、
図5(a)に示す真珠形成用キャップYのように六角レンチが嵌る六角穴50aを設けたり、ドライバーで回すことができるプラスやマイナスの穴を設けたりしてもよい。また、内蓋部30を設けることは必須ではなく、
図5(b)に示す真珠形成用キャップZのように表面を完全に閉じた形状のものを利用してもよい。
また、二枚貝においては
図4に示すような枷を用いることができるが、アワビの場合は、開口が一つなので
図4に示すような枷はそのままでは使用することができない。そこで、アワビの場合に用いる場合はアワビ開口に対向する面を板体で覆い、枷の一の略水平部材をアワビの貝殻に固定し、他方の略水平部材を当該板体に固定する。この際、略水平部材の固定位置を適当なものすることで、貝殻外縁と板体の間に隙間が形成されつつ形成される隙間を真珠が抜けない大きとなるようすることができる。
【符号の説明】
【0016】
X、Y、Z 真珠形成用キャップ
S 貝殻
M 外套膜
R 枷
10 円筒部
20 フランジ部
30 内蓋部
40 窪み
42 突条
50 ボルトヘッド部