【解決手段】フィクスチャー1は、インプラントの一部を構成する。フィクスチャー1は、縦軸方向9に延びる複数の第1の溝6を有する。フィクスチャー1は、フィクスチャー1を歯槽骨10に圧入する際に回転力が付与されるように構成されている。
インプラントの一部を構成するフィクスチャーであって、縦軸方向に延びる複数の第1の溝を有し、該フィクスチャーを歯槽骨に圧入する際に該複数の第1の溝によって生じる回転力が付与されるように構成されたフィクスチャー。
前記フィクスチャーは、前記縦軸方向に延びる複数の第1の溝と交差する方向に延びる複数の第2の溝をさらに有し、該交差した部分に突起が形成されている、請求項1に記載のフィクスチャー。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
1.本発明のフィクスチャーの構造
図1A〜
図1Cを参照して、本発明のフィクスチャー1の構造の一例を説明する。ここで、
図1Aは、フィクスチャー1の正面図、
図1Bは、フィクスチャー1の部分拡大図(
図1Aに示される部分Aを拡大して示したもの)、
図1Cは、フィクスチャー1の底面図である。
【0019】
図1Aに示されるように、フィクスチャー1は、ベース部2と先端部3とを含む。ベース部2は、略円筒状に形成されている。先端部3は、先細りの形状を有している。このような形状を有するベース部2および先端部3から構成されるフィクスチャー1は、ルートフォーム型のフィクスチャーと呼ばれている。ベース部2の外径は、例えば、約3mm〜5mmである。フィクスチャー1の縦軸方向の長さは、例えば、約10mmである。
【0020】
ここで、フィクスチャー1の縦軸とは、フィクスチャー1の長手方向軸をいい、フィクスチャー1の横軸とは、フィクスチャー1の縦軸に略直交する軸をいう。縦軸方向とは、フィクスチャー1の縦軸に沿って延びる方向をいう(ただし、フィクスチャー1の縦軸から周方向に湾曲するように延びる方向もまた縦軸方向というものとする)。横軸方向とは、フィクスチャー1の横軸に沿って延びる方向をいう。
【0021】
フィクスチャー1には、ベース部2の後端側の端部4から先端部3の端部5に向かって縦軸方向に延びる複数の溝6(複数の第1の溝)が形成されている。
図1Aに示される例では、参照番号9が付された破線によって示される方向が縦軸方向である。ここで、フィクスチャー1が歯槽骨に圧入される際に、歯槽骨内に配置される側を先端側といい、口腔に面する側を後端側という。複数の溝6は、フィクスチャー1のベース部2および先端部3の外周表面の全体を覆うように形成されている。複数の溝6のそれぞれの断面形状はV字の形状である。これらのV字が周方向に連接するように複数の溝6が形成されている(
図1Cを参照)。
【0022】
図1Aを再び参照して、フィクスチャー1には、複数の溝6と交差するように、かつ、横軸方向に延びる複数の溝7(複数の第2の溝)が形成されている。複数の溝7は、フィクスチャー1のベース部2および先端部3の外周表面の全体を覆うように形成されている。複数の溝6と同様に、複数の溝7のそれぞれの断面形状もまたV字の形状である。これらのV字が縦軸方向に連接するように複数の溝7が形成されている。
【0023】
図1Bを参照して、その断面形状がV字の形状である溝6とその断面形状がV字の形状である溝7とが交差する部分には、ピラミッドの形状の突起8が形成されている。突起8の頂部は、例えば、R面取りやC面取りなどの面取りがなされていることが好ましい。
【0024】
2.本発明のフィクスチャーを歯槽骨に圧入する方法
次に、
図2A〜
図2Cを参照して、フィクスチャー1を歯槽骨10に圧入する方法を説明する。
【0025】
図2Aは、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11に位置合わせした状態を示す。ここで、歯槽骨10には、孔11が予め形成されているものとする。歯槽骨10の孔11は、例えば、ドリルなどの手段で形成されることが可能である。歯槽骨10の孔11の内径は、フィクスチャー1の外径と同一であるか、もしくは、フィクスチャー1の外径よりも若干小さいように設計されることが好ましい。
【0026】
フィクスチャー1の先端部3は、フィクスチャー1の縦軸を歯槽骨10の孔11の縦軸に位置合わせするためのガイドの役目を果たす。フィクスチャー1の先端部3が先細り形状を有しているからである。これにより、フィクスチャー1の縦軸を歯槽骨10の孔11の縦軸に容易に位置合わせすることが可能になる。
【0027】
図2Bは、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11に圧入している状態を示す。フィクスチャー1の縦軸と歯槽骨10の孔11の縦軸とを位置合わせした状態で縦軸方向の押圧力がフィクスチャー1に付与されると、フィクスチャー1は、縦軸方向に延びる複数の溝6によって生じる回転力により、回転方向14に沿って回転しながら、歯槽骨10の孔11の中に圧入されていくことになる。
【0028】
図2Cは、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11に完全に圧入した状態を示す。歯槽骨10の孔11の底面とフィクスチャー1の先端部3の端部5との間に隙間が生じないようにフィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入することによって、フィクスチャー1の歯槽骨10の孔11への圧入は完了する。
【0029】
3.本発明のフィクスチャーによって達成される効果
上述したように、フィクスチャー1は回転しながら歯槽骨10の孔11の中に圧入されていくため、回転することなく歯槽骨の孔の中に圧入されていく従来の圧入方式のフィクスチャーに比べて、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11に強固に固着させることが可能である。また、圧入によりフィクスチャー1を歯槽骨に固着することから、従来のねじ込み方式のフィクスチャーに比べて、歯槽骨の孔周辺の骨組織の損傷を低減することが可能である。これにより、時間が経過するにつれて損傷した骨組織が次第に溶解されることがなく、フィクスチャー1と歯槽骨10との間に隙間を生じさせることがないため、アバットメントをフィクスチャー1に装着する際にフィクスチャー1と歯槽骨10との固着が弱くなってしまうということがない。
【0030】
さらに、フィクスチャー1は、縦軸方向に延びる複数の溝6と、横軸方向に延びる複数の溝7とを有していることから、ねじ山や溝を外周に有していない従来の圧入方式のフィクスチャーや縦軸方向の溝を有していない従来のねじ込み方式のフィクスチャーに比べて、フィクスチャー1と歯槽骨10の孔11との接触可能な表面積を増加させることが可能である。これにより、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11にさらに強固に固着させることが可能である。
【0031】
さらに、フィクスチャー1は、溝6と溝7とが交差する部分に突起8を有していることから、この突起8により、フィクスチャー1にかかる応力を縦軸方向および横軸方向の両方にそれぞれ分散させることが可能である。これにより、フィクスチャー1と接触する歯槽骨10の孔11周辺の骨組織の損傷を低減することが可能である。
【0032】
さらに、突起8の頂部が面取りされている場合には、フィクスチャー1にかかる応力が突起8の頂部に集中することを回避することができる。その結果、フィクスチャー1と接触する歯槽骨10の孔11周辺の骨組織の損傷をさらに低減することが可能である。
【0033】
さらに、フィクスチャー1の外径よりも歯槽骨10の孔11の内径が若干小さい場合には、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入する際、先細り形状の先端部3がくさび効果を奏することになる。これにより、フィクスチャー1が歯槽骨10の孔11により強固に固着することが可能である。
【0034】
次に、
図3A〜
図3Bを参照して、フィクスチャー1による血液循環効果を説明する。
【0035】
図3Aは、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11に完全に圧入した状態(すなわち、
図2Cに示される状態)におけるフィクスチャー1および歯槽骨10の縦断面図である。
図3Bは、
図3AのA−A端面図である。
【0036】
図3Aに示されるように、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入した状態では、歯槽骨10の孔11と横軸方向に延びる複数の溝7との間に周方向の隙間12が生じる。同様に、
図3Bに示されるように、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入した時点では、歯槽骨10の孔11と縦軸方向に延びる複数の溝6との間に縦軸方向の隙間13が生じる。
【0037】
縦軸方向の隙間13と周方向の隙間12は、血液が縦軸方向および周方向に移動するための血液循環路の役目を果たす。これにより、血液が循環されることによって歯槽骨10の孔11の周辺の骨組織の新生を促進するという効果が得られる。この効果により、骨組織の活発な内部成長が起こるため、縦軸方向の隙間13および周方向の隙間12の両方が次第に骨組織で埋まっていくことになる。その結果、アバットメントをフィクスチャー1に装着する際には、フィクスチャー1と歯槽骨11とが強固に固着されることになる。
【0038】
従来の圧入方式およびねじ込み方式のフィクスチャーでは、フィクスチャーを歯槽骨の孔に埋入した時点でフィクスチャーと歯槽骨の孔が密接に接触することによってほとんど隙間が生じないため、このような効果はほとんど得られない。
【0039】
本発明のフィクスチャー1によれば、歯槽骨10の孔11の周辺の骨組織の損傷を低減するとともに、フィクスチャー1と歯槽骨10との固着を強固なものにすることが可能である。
【0040】
4.本発明のフィクスチャーの代替的な構造
次に、
図4〜
図6を参照して、本発明のフィクスチャーの代替的な構造を説明する。
【0041】
図4は、本発明のフィクスチャー1の構造の他の一例を示す。ここで、
図4は、フィクスチャー1の正面図である。
図4に示されるフィクスチャー1の構造は、先端部3に縦軸方向に延びる複数の溝6が形成されているが、先端部3に横軸方向に延びる複数の溝7が形成されていない点を除いて、
図1A〜
図1Cに示されるフィクスチャー1の構造と同一である。従って、
図1A〜
図1Cに示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0042】
図4に示されるフィクスチャー1によれば、
図1A〜
図1Cに示されるフィクスチャー1によって達成される効果と同様の効果を達成することが可能である。
【0043】
加えて、先端部3に横軸方向に延びる複数の溝7を形成することなく、先端部3に縦軸方向に延びる複数の溝6を形成することによって、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入する当初に複数の溝6によって回転力がより効果的に生じることが可能である。これにより、フィクスチャー1が歯槽骨10の孔11の中により容易に圧入されることが可能である。
【0044】
図5は、フィクスチャー1の構造の他の一例を示す。ここで、
図5は、フィクスチャー1の正面図である。
図5に示されるフィクスチャー1の構造では、ベース部2と先端部3とが区別されることなく一体的に円筒状に形成されている。このような形状を有するフィクスチャー1は、シリンダー型のフィクスチャーと呼ばれている。
図5に示されるフィクスチャー1の構造は、先端部3が先細り形状ではない点を除いて、
図1A〜
図1Cに示されるフィクスチャー1の構造と同一である。従って、
図1A〜
図1Cに示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0045】
図5に示されるフィクスチャー1によれば、先端部3を先細り形状とすることによって達成される効果(すなわち、フィクスチャー1の縦軸を歯槽骨10の孔11の縦軸に位置合わせするためのガイドの役目を果たすという効果)を除いて、
図1A〜
図1Cに示されるフィクスチャー1によって達成される効果と同様の効果を達成することが可能である。
【0046】
図6は、フィクスチャー1の構造の他の一例を示す。ここで、
図6は、フィクスチャー1の正面図である。
図6に示されるフィクスチャー1の構造では、ベース部2と先端部3とが区別されることなく一体的に円筒状に形成されている。このような形状を有するフィクスチャー1は、シリンダー型のフィクスチャーと呼ばれている。
図6に示されるフィクスチャー1の構造は、先端部3が先細り形状ではない点を除いて、
図4に示されるフィクスチャー1の構造と同一である。従って、
図4に示される構成要素と同一の構成要素には同一の参照番号を付し、その説明を省略する。
【0047】
図6に示されるフィクスチャー1によれば、先端部3を先細り形状とすることによって達成される効果(すなわち、フィクスチャー1の縦軸を歯槽骨10の孔11の縦軸に位置合わせするためのガイドの役目を果たすという効果)を除いて、
図4に示されるフィクスチャー1によって達成される効果と同様の効果を達成することが可能である。
【0048】
さらに、
図5、
図6に示されるフィクスチャー1によれば、
図1A〜
図1C、
図4に示されるフィクスチャー1に比べて、フィクスチャー1と歯槽骨10の孔11との接触可能な表面積を増加させることができるため、フィクスチャー1を歯槽骨10に強固に固着させることが可能であるとともに、加工が容易であるという点で有利である。これにより、コストを削減することが可能である。
【0049】
なお、図面を参照して上述したフィクスチャー1の構造は例示にすぎない。本発明のフィクスチャーは、図面を参照して上述したフィクスチャー1の構造に限定されない。フィクスチャーを歯槽骨に強固に固着させることが可能である限り、様々な形状のフィクスチャーを採用することが可能である。
【0050】
例えば、フィクスチャー1は、縦軸方向に延びる複数の溝6が形成されているが、横軸方向に延びる複数の溝7が形成されていない構造を有していてもよい。このような構造によっても、フィクスチャー1を歯槽骨に圧入する際に縦軸方向に延びる複数の溝6によって回転力が生じることから、従来の圧入方式のフィクスチャーに比べて、フィクスチャー1を歯槽骨に強固に固着することが可能である。また、圧入によりフィクスチャー1を歯槽骨に固着することから、従来のねじ込み方式のフィクスチャーに比べて、歯槽骨の孔周辺の骨組織の損傷を低減することが可能である。これにより、時間が経過するにつれて損傷した骨組織が次第に溶解されることがなく、フィクスチャー1と歯槽骨10との間に隙間を生じさせることがないため、アバットメントをフィクスチャー1に装着する際にフィクスチャー1と歯槽骨10との固着が弱くなってしまうということがない。さらに、縦軸方向に延びる複数の溝6が形成されていることから、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入した時点で縦軸方向に延びる複数の溝6と歯槽骨10の孔11との間に縦軸方向の隙間13が生じることになる。
縦軸方向の隙間13は、血液が縦軸方向に移動するための血液循環路の役目を果たす。これにより、血液が循環されることによって歯槽骨10の孔11の周辺の骨組織の新生を促進するという効果が得られる。この効果により、骨組織の活発な内部成長が起こるため、縦軸方向の隙間13が次第に骨組織で埋まっていくことになる。その結果、アバットメントをフィクスチャー1に装着する際には、フィクスチャー1と歯槽骨11とが強固に固着されることになる。さらに、従来の圧入方式のフィクスチャーに比べて、フィクスチャーと歯槽骨との接触可能な表面積を増やすことが可能である。
【0051】
このように、骨組織の損傷を低減しつつ、フィクスチャーを歯槽骨に強固に固着させるという効果を、縦軸方向に延びる複数の溝6が形成されているが、横軸方向に延びる複数の溝7が形成されていない構造を有するフィクスチャー1によっても達成することが可能である。従って、このような構造を有するフィクスチャー1もまた本発明の範囲内である。
【0052】
さらに、縦軸方向に延びる複数の溝6の構成(溝の断面形状、溝の間隔、溝の幅、溝の深さなど)は、図面を参照して上述したものに限定されない。フィクスチャー1を歯槽骨に圧入する際に複数の溝6によって回転力が生じるように複数の溝6が構成されている限り、複数の溝6は、任意の構成を有し得る。また、複数の溝6をフィクスチャー1の外周表面の全体を覆うように形成する必要はない。例えば、複数の溝6をフィクスチャー1の外周表面の一部分を覆うように形成するようにしてもよい。
【0053】
さらに、横軸方向に延びる複数の溝7の構成(溝の断面形状、溝の間隔、溝の幅、溝の深さなど)は、図面を参照して上述したものに限定されない。フィクスチャー1と歯槽骨10の孔11との接触可能な表面積を増加させることによって、フィクスチャー1を歯槽骨10に強固に固着させることが可能であるように複数の溝7が構成されている限り、複数の溝7は、任意の構成を有し得る。また、複数の溝7をフィクスチャー1の外周表面の全体を覆うように形成する必要はない。例えば、複数の溝7をフィクスチャー1の外周表面の一部分を覆うように形成するようにしてもよい。
【0054】
さらに、縦軸方向に延びる複数の溝6の構成および横軸方向に延びる複数の溝7の構成は、上述した条件を満たす限り、任意の構成を有し得ることから、それらの構成に応じて、複数の溝6と複数の溝7とが交差した部分に形成される複数の突起13の構成も変化し得る。複数の突起13のそれぞれの形状は、ピラミッドの形状に限定されない。複数の突起13のそれぞれの形状は、様々な形状(例えば、四角柱、三角柱、半円柱など)であり得る。複数の突起13の高さのそれぞれは、同一の高さであってもよいし、異なる高さであってもよい。例えば、フィクスチャー1の後端側から先端側に向かって突起13の高さを徐々に高くするようにしてもよい。このように突起の高さを変化させることによって、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中に圧入する際に、突起8の高さが高い部分を歯槽骨10の孔11の中に食い込み易くすることが可能である。これにより、フィクスチャー1を歯槽骨10の孔11の中にさらに強固に固着させることが可能である。
【0055】
さらに、横軸方向に延びる複数の溝7のそれぞれは、雄ねじ状の溝であってもよい。これにより、フィクスチャー1を圧入方式のフィクスチャーとしてだけでなく、ねじ込み方式のフィクスチャーとしても用いることが可能である。
【0056】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。