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特開2016-215187複合酸化物触媒及びその製造方法、並びに不飽和ニトリルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-215187(P2016-215187A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】複合酸化物触媒及びその製造方法、並びに不飽和ニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20161125BHJP
   C07C 253/24 20060101ALI20161125BHJP
   C07C 255/08 20060101ALI20161125BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161125BHJP
【FI】
   B01J23/30 Z
   C07C253/24
   C07C255/08
   C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-85399(P2016-85399)
(22)【出願日】2016年4月21日
(62)【分割の表示】特願2014-538399(P2014-538399)の分割
【原出願日】2013年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214867(P2012-214867)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】門脇 実
(72)【発明者】
【氏名】加藤 高明
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC55A
4G169BC55B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169CB07
4G169CB53
4G169CB54
4G169DA08
4G169EA04Y
4G169EB18Y
4G169FB30
4G169FB63
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC54
4H006BA08
4H006BA12
4H006BA13
4H006BA14
4H006BA30
4H006BA55
4H006BC13
4H006BE14
4H006BE30
4H006QN24
4H039CA70
4H039CL50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させて対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることのできる複合酸化物触媒、並びに該複合酸化物触媒を用いた不飽和ニトリルの製造方法の提供。
【解決手段】組成式(1)で表される複合酸化物を含む、複合酸化物触媒。Mo1aSbbNbcden・・・(1)(成分ZはCe;a〜e及びnは各元素の原子比、0.1≦a<0.195;0.15≦b≦0.5;0.01≦c≦0.5;0≦d≦0.4;0.005≦e≦0.2;0.60<a/b<0.85)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に用いられ、
下記組成式(1)で表される複合酸化物を含む、複合酸化物触媒。
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)
【請求項2】
SiO2換算で20〜70質量%のシリカをさらに含む、請求項1に記載の複合酸化物触媒。
【請求項3】
下記組成式(1):
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)で表される複合酸化物を含む複合酸化物触媒の製造方法であって、
(I)Mo、V、Sb、Nb、W、及びZを含有し、各原子比が、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である原料調合液を調製する原料調合工程と、
(II)前記原料調合液を乾燥し、乾燥粉体を得る乾燥工程と、
(III)前記乾燥粉体を焼成し、焼成体を得る焼成工程と、
(IV)前記焼成体の粒子表面に存在する突起体を除去する突起体除去工程と、を含む、
複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項4】
前記原料調合工程(I)が、以下の(a)〜(d)の工程:
(a)Mo、V、Sb及び成分Zを含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記(a)工程で得られた水性混合液にシリカゾル及び過酸化水素水を添加する工程、
(c)前記(b)工程で得られた溶液に、Nb、ジカルボン酸及び過酸化水素水を含有する水溶液と、W含有化合物と、を混合する工程、及び
(d)前記(c)工程で得られた溶液に粉体シリカ含有懸濁液を加えて、熟成する工程
を含む、請求項3に記載の複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項5】
プロパン又はイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、請求項1又は2に記載の複合酸化物触媒を用いる不飽和ニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物触媒及びその製造方法、並びに該複合酸化物触媒を用いた不飽和ニトリルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般に市販されている不飽和ニトリルは、主に、オレフィンと、アンモニアと、酸素との接触的アンモ酸化反応によって工業的に製造されたものである。一方で、近年では、オレフィンに代わってプロパン又はイソブタン等のアルカンを原料として気相接触アンモ酸化反応を行ない、対応する不飽和ニトリルを製造する方法が着目されており、その際に用いられる触媒も多数提案されている。
【0003】
特許文献1には、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化の触媒として、Mo、V、Nb、及びBを含有する複合金属酸化物を、酸化物とシリカの全質量に対しSiO2換算で20〜60質量%のシリカに担持した触媒が記載されている。
【0004】
特許文献2には、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを、又は気相接触酸化反応によって不飽和カルボン酸を製造する際に用いるシリカ担持触媒であって、特定の金属成分組成、シリカ含有率及び細孔容積を有するものが記載されている。
【0005】
一般に、MoVSbOx系のアンモ酸化用触媒においてV/Sbの比率に着目した場合、VはSbより多い。このような比率とすることは、水熱合成等で合成されるアンモ酸化用触媒では良く知られている(例えば、非特許文献1参照)。このことから、水熱合成以外で調製されるMoV系のアンモ酸化用複合酸化物触媒もSbに対するVの量はなるべく減らさない、もしくは増やすように調整されてきた。
【0006】
特許文献3には、反応収率及び触媒寿命が改善された触媒が示されているものの、依然としてVの量は多く用いられている。一方、実際の反応中では、活性構造中のMoが触媒反応によって、または、副反応によって生成された水と錯体を形成し、逃散してしまうことが知られていた。MoV複合結晶の場合、Moが逃散してしまうと、複合結晶中のVが相対的に増加して原料に対する活性が増加しすぎてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−276618号公報
【特許文献2】特開2002−219362号公報
【特許文献3】WO2012−090979号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ind. Eng. Chem. Res., Vol. 45, NO.2、2006 P607〜614
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した理由から、工業的な生産にはさらなる収率向上が求められている。上記特許文献1〜3に記載された触媒を用いても二酸化炭素(CO2)や一酸化炭素(CO)等、多くの副生成物が生成するため、不飽和ニトリルの収率は十分ではない。また、CO2及びCOは特に用途の無い化合物であり、これらの生成を抑制することは、原料の有効活用にもつながる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させて対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることのできる複合酸化物触媒及びその製造方法、並びに該複合酸化物触媒を用いた不飽和ニトリルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題について本発明者らが検討したところ、CO2及びCOの生成には、バナジウム(V)が関与していることが見出された。従来の触媒には、何らかの要因によりMoやNb等他の金属と複合化していない余剰のVが存在するため、CO2及びCOが多く生成していることが明らかになった。また、反応中にMoが逃散してしまうため複合酸化物触媒中のVが相対的に増加し、原料に対する活性が向上しすぎてしまい、副反応生成に拍車がかかってしまうということも分かった。一方、複合酸化物触媒中のVを減らすことは、これまで考えられてきた活性種の金属組成からは外れてしまうこと、原料に対する活性が下がりすぎてしまう可能性があること等から検討がなされていない。
【0012】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために、Moに対して低V組成で、かつ収率を向上させるべく鋭意研究を行ったところ、MoとVの比、VとSbとの比が特定の範囲に入る場合には、余剰のVを低減しながらも性能が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に用いられ、
下記組成式(1)で表される複合酸化物を含む、複合酸化物触媒。
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)
〔2〕
SiO2換算で20〜70質量%のシリカをさらに含む、前項〔1〕に記載の複合酸化物触媒。
〔3〕
下記組成式(1):
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)で表される複合酸化物を含む複合酸化物触媒の製造方法であって、
(I)Mo、V、Sb、Nb、W、及びZを含有し、各原子比が、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である原料調合液を調製する原料調合工程と、
(II)前記原料調合液を乾燥し、乾燥粉体を得る乾燥工程と、
(III)前記乾燥粉体を焼成し、焼成体を得る焼成工程と、
(IV)前記焼成体の粒子表面に存在する突起体を除去する突起体除去工程と、を含む、
複合酸化物触媒の製造方法。
〔4〕
前記原料調合工程(I)が、以下の(a)〜(d)の工程:
(a)Mo、V、Sb及び成分Zを含有する水性混合液を調製する工程、
(b)前記(a)工程で得られた水性混合液にシリカゾル及び過酸化水素水を添加する工程、
(c)前記(b)工程で得られた溶液に、Nb、ジカルボン酸及び過酸化水素水を含有する水溶液と、W含有化合物と、を混合する工程、及び
(d)前記(c)工程で得られた溶液に粉体シリカ含有懸濁液を加えて、熟成する工程
を含む、前項〔3〕に記載の複合酸化物触媒の製造方法。
〔5〕
プロパン又はイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、前項〔1〕又は〔2〕に記載の複合酸化物触媒を用いる不飽和ニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることができる複合酸化物触媒を実現することができる。また、簡単かつ低コストで該複合酸化物触媒を製造することができる複合酸化物触媒の製造方法を実現することができる。さらに、この複合酸化物触媒を用いることにより、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることができる不飽和ニトリルの製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0016】
〔複合酸化物触媒〕
本実施形態の複合酸化物触媒は、
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に用いられ、
下記組成式(1)で表される複合酸化物を含む。
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)
【0017】
複合酸化物触媒において、生成された不飽和ニトリルの分解反応を防ぐという観点で、成分Zが触媒粒子内で均一に分布していることが好ましい。「均一」とは、触媒粒子中で成分Zの分布に偏りがないことをいう。好ましくは、成分Zを含有する酸化物粒子の80%以上(質量比率)が1μm以下の粒径を有する微粒子として、触媒粒子内に存在することをいう。なお、複合酸化物触媒がシリカを含む場合には、均一性の観点から、触媒粒子の断面を組成分析したときに、成分ZとSiとの信号強度比の分散値(標準偏差を平均値で除した値)が0〜0.5の範囲にあることが好ましく、0〜0.4の範囲にあることがより好ましく、0〜0.3の範囲にあることがさらに好ましい。ここで、信号強度比の分散値は後述する「Dx」で示される。
【0018】
本実施形態の複合酸化物触媒において、不飽和ニトリルの収率向上の観点から、Moに対するVの原子比(a)、VとSbの比(a/b)を、それぞれ0.1≦a<0.2、0.60<a/b<1.00とすることが重要である。本発明者らの検討により、従来の触媒には、他の金属成分とうまく複合化せず、過剰に余ったVが存在し、過剰に余ったVの存在が、CO2及びCOを生成させ、かつ不飽和ニトリルの収率を低下させている要因となっていることが明らかになった。そこで、MoとVの比、VとSbの比に着目し、鋭意検討を重ねた結果、Moに対するVの原子比、VとSbの比を、それぞれ0.1≦a<0.2、0.60<a/b<1.00とすることにより、過剰に余ったVを抑制できることが明らかになった。このように過剰に余ったVを抑制することにより、原料に対する活性を低下させることなく、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることができる。
【0019】
また、本発明者らが検討したところ、Moに対するVの原子比、VとSbの比が上記特定の範囲に入る場合には、目的物収率が向上することもわかった。Moに対するVの原子比が0.1≦a<0.2となる場合には、本来Moが存在するべき場所にVが置換されることにより、プロパン活性に必要な結晶構造中のVの割合が増えるため、活性が向上する。また、VとSbの比が0.60<a/b<1.00となる場合には、V及びMoが触媒焼成時に酸化されにくくなり、V及びMoの酸化物の析出が抑制される。これにより、相対的に複合酸化物触媒中の活性種の量が多くなり、目的生成物選択率が向上すると推測される。上記の観点から、aは、0.12≦a<0.2であることが好ましく、0.13≦a<0.2であることがより好ましい。また、a/bは、0.60<a/b<0.95であることが好ましく、0.60<a/b<0.85であることがより好ましい。a及びa/bが上記範囲であることにより、CO2及びCOの生成をより抑制し、不飽和ニトリルの収率をより向上させることができる。
【0020】
なお、bは、0.15≦b≦0.5であり、0.15≦b≦0.4であることが好ましく、0.15≦b≦0.3であることがより好ましい。また、cは、0.01≦c≦0.5であり、0.01≦c≦0.4であることが好ましく、0.01≦c≦0.35であることがより好ましい。さらに、dは、0≦d≦0.4であり、0≦d≦0.3であることが好ましく、0≦d≦0.25であることがより好ましい。またさらに、eは、0≦e≦0.2であり、0≦e≦0.15であることが好ましく、0≦e≦0.1であることがより好ましい。b、c、d、eが上記範囲内であることにより、CO2及びCOの生成をより抑制し、不飽和ニトリルの収率をより向上させることができる。
【0021】
また、nは、酸素原子の割合を示し、a、b、c、d、及びeにより決まる数値である。Zは、La、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、このなかでもYb、Y、La、Ceが好ましく、Ceがより好ましい。
【0022】
本実施形態の複合酸化物触媒は、SiO2換算で、複合酸化物とシリカとを含む触媒の全質量に対して、20〜70質量%のシリカをさらに含むことが好ましく、40〜65質量%のシリカを含むことがより好ましく、40〜60質量%のシリカを含むことがさらに好ましい。シリカの含有量が20質量%以上であることにより、触媒の強度がより向上する傾向にある。また、シリカの含有量が70質量%以下であることにより、より高い活性を有する傾向にある。
【0023】
触媒構成元素の濃度の測定方法は特に限定されず、一般的な、金属濃度を測定する方法を採用でき、例えば、蛍光X線分析(XRF)を用いることができる。固体粒子状の触媒中の金属の濃度を測定する場合、測定の簡便さ、定量の精度等の観点から、XRFを好適に使用できる。ごく微量の金属を分析する場合は、触媒を適切な溶液に溶解させ、その溶解液を用いてICPや原子吸光により定量することができる。また炭素、水素、窒素の定量を行いたい場合は、CHN分析を好適に使用できる。なお、前記DxはEPMAなどにより求めることができる。
【0024】
〔複合酸化物触媒の製造方法〕
本実施形態の複合酸化物触媒の製造方法は、
下記組成式(1):
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはLa、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、及びBaからなる群より選ばれる1種類以上の元素であり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00である。)で表される複合酸化物を含む複合酸化物触媒の製造方法であって、
(I)Mo、V、Sb、Nb、W、及びZを含有し、各原子比が、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00となるように原料調合液を調製する原料調合工程と、
(II)前記原料調合液を乾燥し、乾燥粉体を得る乾燥工程と、
(III)前記乾燥粉体を焼成し、焼成体を得る焼成工程と、
(IV)前記焼成体の粒子表面に存在する突起体を除去する突起体除去工程と、を含む。
【0025】
〔(I)原料調合工程〕
本実施形態の原料調合工程においては、例えばMo1原子に対するVの原子比a、Sbの原子比b、Nbの原子比c、Wの原子比d、Zの原子比eが、それぞれ、0.1≦a<0.2、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、0.60<a/b<1.00となるように原料調合液を調製する。この組成比は、最終的に得られる複合酸化物触媒の組成比とは異なる値に設定されている。この理由は、後述する触媒の突起体が触媒本体とは異なる組成を有しており、これを触媒本体から除去することによって触媒全体の組成比も変化するため、原料調合工程においてはその変化も加味して組成比を設定するからである。本明細書において「突起体」とは、後述する本焼成により得られた焼成体の表面に滲出及び/又は付着した物を示し、焼成体の表面から突出したり、付着したりした物をいう。
【0026】
(触媒調製)
Moの原料としては、特に限定されないが、具体的には、ヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕、三酸化モリブデン〔MoO3〕、リンモリブデン酸〔H3PMo1240〕、ケイモリブデン酸〔H4SiMo1240〕、五塩化モリブデン〔MoCl5〕等を用いることができる。このなかでも、特にヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕が好ましい。
【0027】
Vの原料としては、特に限定されないが、具体的には、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕、五酸化バナジウム〔V25〕、塩化バナジウム〔VCl4、VCl3〕等を用いることができる。このなかでも、特にメタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕が好ましい。
【0028】
Sbの原料としては、特に限定されないが、具体的には、アンチモン酸化物〔Sb23、Sb25〕、亜アンチモン酸〔HSbO2〕、アンチモン酸〔HSbO3〕、アンチモン酸アンモニウム〔(NH4)SbO3〕、塩化アンチモン〔Sb2Cl3〕、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、金属アンチモン等を用いることができる。このなかでも、特に三酸化二アンチモン〔Sb23〕が好ましい。
【0029】
Nbの原料としては、特に限定されないが、具体的には、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩及びニオブの有機酸塩を用いることができ、特にニオブ酸が好ましい。ニオブ酸はNb25・nH2Oで表され、ニオブ水酸化物又は酸化ニオブ水和物とも称される。さらに、Nbの原料は、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜4のNb原料液の状態で用いることが好ましく、ジカルボン酸としてはシュウ酸が好ましい。
【0030】
Wの原料としては、特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド、トリフェニル化合物、ポリオキソメタレート、ポリオキソメタレートアンモニウム塩等のタングステンの塩;三酸化タングステン、二酸化タングステン、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム水溶液、パラタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸、ケイタングストモリブデン酸、ケイタングステン酸等を用いることができる。このなかでも、メタタングステン酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【0031】
Z(La、Ce、Pr、Yb、Y、Sc、Sr、Baからなる群より選ばれる1種類以上の元素)の原料としては、これらの元素を含む物質であれば特に限定されず、これらの元素を含む化合物や、これらの元素の金属を適当な試薬で可溶化したものを使用することができる。これらの元素を含む化合物としては、通常、アンモニウム塩、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド等を使用することができる。このなかでも、好ましくは硝酸塩、カルボン酸塩等の水溶性原料が使用される。
【0032】
原料の調合において、触媒構成元素の原料の溶解手順、混合手順又は分散手順は特に限定されない。原料を同じ水性媒体中で溶解、混合又は分散させてもよく、或いは原料を個別に水性媒体中に溶解、混合又は分散させた後に水性媒体を混合させてもよい。また、必要に応じて加熱及び/又は攪拌してもよい。
【0033】
本実施形態における複合酸化物触媒が、シリカを含有する触媒、好ましくはシリカに担持されたシリカ担持触媒である場合、原料調合液がシリカ原料を含有するように調製することが好ましい。シリカの原料としては、特に限定されないが、具体的には、シリカゾルを用いることができ、シリカ原料の一部又は全量に、粉体シリカを用いることもできる。
【0034】
本実施形態における原料調合工程は、好ましくは以下の(a)〜(d)の工程:
(a)Mo、V、Sb及び成分Zを含有する水性混合液を調製する工程、
(b)(a)工程で得られた水性混合液にシリカゾル及び過酸化水素水を添加する工程、
(c)(b)工程で得られた溶液に、Nb、ジカルボン酸及び過酸化水素水を含有する水溶液と、W含有化合物を混合する工程、及び
(d)(c)工程で得られた溶液に粉体シリカ含有懸濁液を加えて、熟成する工程
を含む。これにより、焼成前までの段階で各金属種の金属価数がより適正となる傾向にある。
【0035】
以下、上記原料調合工程を、溶媒及び/又は分散媒を水とし、Mo含有化合物、V含有化合物、Sb含有化合物、Nb含有化合物、W含有化合物及びZ含有化合物を含有するシリカ担持触媒の原料調合液を調製する場合を例にとって説明する。ただし、原料調合工程はこれに限定されない。
【0036】
Mo含有化合物、V含有化合物、Sb含有化合物、Z含有化合物を水に添加し、加熱して水性混合液(A)を調製する。水性混合液(A)調製時の加熱温度及び加熱時間は原料化合物が十分に溶解しうる状態になるよう調整することが好ましく、加熱温度は好ましくは70℃〜100℃であり、加熱時間は好ましくは30分〜5時間である。このとき、(A)は原料が溶解しやすいように攪拌されていることが好ましい。また、このとき、容器内は空気雰囲気でもよいが、得られる複合酸化物触媒の酸化数を調整する観点から、窒素雰囲気にすることもできる。水性混合液(A)の加熱が終了した後の状態を水性混合液(A’)とする。水性混合液(A’)の温度は20℃以上80℃以下で保持することが好ましく、より好ましくは40℃以上80℃以下である。水性混合液(A’)の温度が20℃以上であることにより、水性混合液(A’)に溶解している金属種の析出が起こりにくい傾向にある。
【0037】
次いで、水性混合液(A)、あるいは、加熱が終了した後の水性混合液(A’)に、シリカゾルを加える。シリカゾルは、担体として機能する。シリカゾルを加えるときの温度は、80℃以下が好ましい。80℃以下でシリカゾルを添加した場合には、シリカゾルの安定性が比較的高く、原料調合液のゲル化が抑制される傾向にある。シリカゾルを添加するタイミングは後述する熟成開始時でも、熟成途中でも、原料調合液を乾燥する直前でもよい。シリカゾルを水性混合液(A’)に加えることが好ましい。さらに、得られる複合酸化物の酸化数を調整する観点から、適量の過酸化水素水を水性混合液(A’)に、必要に応じて添加することが好ましい。過酸化水素水を添加するタイミングとしては、水性混合液(A’)自体に添加しても、水性混合液(A’)を調合する途中に添加してもよく、シリカゾル添加前でも添加後でもよい。このとき、得られる複合酸化物触媒の酸化数を適正な範囲に調整する観点から、過酸化水素水の添加量は、H22/Sb(モル比)として、0.01〜5が好ましく、より好ましくは0.5〜3であり、さらに好ましくは1〜2.5である。
【0038】
水性混合液(A’)に過酸化水素水を添加した後の加熱温度及び加熱時間は、過酸化水素水による液相酸化反応が十分に進行しうる状態になるよう調整することが好ましく、加熱温度は好ましくは30℃〜70℃であり、加熱時間は好ましくは5分〜4時間である。加熱時の攪拌の回転数は、同様に過酸化水素水による液相酸化反応が進行しやすい適度な回転数に調整することができる。過酸化水素水による液相酸化反応を十分に進行させる観点から、加熱の間、攪拌状態を保つことが好ましい。こうして調製された水性混合液を(A’’)とする。
【0039】
次に、Nb含有化合物とジカルボン酸とを水中で加熱撹拌して混合液(B0)を調製する。ジカルボン酸の例としては、シュウ酸〔(COOH)2〕が挙げられる。次いで、混合液(B0)に、過酸化水素水を添加し、水性混合液(C)を調製することが好ましい。このとき、H22/Nb(モル比)は、Nb含有化合物と錯体を形成させてNb含有化合物を溶解状態で安定化させること、触媒構成元素の酸化還元状態を適正に調節すること、並びに、得られる触媒の触媒性能を適正にすること等の観点から、0.5〜20とすることが好ましく、1〜10とすることがより好ましい。
【0040】
次いで、目的とする組成に合わせて、水性混合液(A’’)、水性混合液(C)、W含有化合物、粉体シリカを好適に混合して、水性混合液(D)を得る。続いて、得られた水性混合液(D)を熟成処理し、原料調合液を得る。ここで用いる粉体シリカは、水性混合液(A’’)、水性混合液(C)及びW含有化合物を混合して得られた溶液に添加することが、得られる触媒の触媒性能を適正にする観点から好ましい。また、粉体シリカは、そのまま添加することも可能であるが、より好ましくは粉体シリカを水に分散させた液、すなわち粉体シリカ含有懸濁液として添加することが好ましい。このときの粉体シリカ含有懸濁液中の粉体シリカ濃度は、1〜30質量%が好ましく、より好ましくは3〜20質量%である。粉体シリカ濃度が1質量%以上であることにより、スラリーの粘度が低いことに起因して、触媒粒子の形状が歪となることを抑制できる傾向にある。また、触媒粒子にくぼみが発生すること等も抑制できる傾向にある。粉体シリカ濃度が30質量%以下であることにより、原料調合液の粘性が大きいことに起因する、原料調合液のゲル化、配管内のつまりを回避できる傾向にあり、乾燥粉末を容易に得ることが可能となる。さらに、触媒性能もより向上する傾向にある。
【0041】
水性混合液(D)の熟成とは、水性混合液(D)を所定時間静置するか撹拌することをいう。熟成時間は、90分以上50時間以下が好ましく、90分以上6時間以下がより好ましい。熟成時間が上記範囲であることにより、好適な酸化還元状態(電位)を有する水性混合液(D)が形成されやすくなり、得られる複合酸化物の触媒性能がより向上する傾向にある。ここで、工業的に噴霧乾燥機による乾燥を経て複合酸化物触媒を製造する場合、通常は噴霧乾燥機の処理スピードが律速となり、一部の水性混合液(D)が噴霧乾燥された後、全ての混合液の噴霧乾燥が終了するまでに時間を要する。この間、噴霧乾燥処理されていない水性混合液の熟成は継続される。したがって、熟成時間には、後述する工程(II)における乾燥前の熟成時間だけでなく、乾燥開始後から終了までの時間も含まれる。また、熟成温度は、Mo成分の縮合や、V及び他の金属種又は複数の金属による金属酸化物の析出を防ぐ観点から、25℃以上が好ましい。また、Nbと過酸化水素とを含む錯体の加水分解が起こりすぎないようにし、好ましい形態のスラリーを形成する観点から、熟成温度は、65℃以下が好ましく、25℃以上65℃以下がより好ましく、45℃以上60℃以下がさらに好ましい。熟成の時間を延ばすこと、また、熟成の温度を上げること等を行う、もしくはそれらを組み合わせて行うことで焼成時に触媒をより還元させることが可能になる。本発明者らが鋭意検討したところ、焼成後の触媒の還元率とスラリーの酸化還元電位が一定の相関をもつことがわかった。スラリーの酸化還元電位が高くなると、焼成後の触媒は酸化的になり、スラリーの酸化還元電位が低くなると、焼成後の触媒は還元的になる。そのため、スラリーの酸化還元電位は、400〜600mVが好ましく、より好ましくは450〜550mVであり、さらに好ましくは470〜510mVである。
【0042】
〔(II)乾燥工程〕
本実施形態の乾燥工程は、原料調合液を乾燥し、乾燥粉体を得る工程である。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥又は蒸発乾固によって行うこともできる。気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応で流動床反応方式を採用する場合、反応器内での流動性を好ましい状態にする等の観点から、微小球状の乾燥粉体を得ることが好ましいので、噴霧乾燥を採用することが好ましい。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式又は高圧ノズル方式のいずれであってもよい。乾燥熱源としては、スチーム、電気ヒーター等によって加熱された空気を用いることができる。
【0043】
噴霧速度、原料調合液の送液の速度、遠心方式の場合のアトマイザーの回転数等は、得られる乾燥粉体の大きさが好適になるように調整することが好ましい。乾燥粉体の平均粒子径は、好ましくは35〜75μmであり、より好ましくは40〜70μmであり、さらに好ましくは45〜65μmである。焼成後も平均粒子径は大きく変化することはない。
【0044】
〔(III)焼成工程〕
本実施形態の焼成工程は、乾燥粉体を焼成し、焼成体を得る工程である。乾燥粉体を焼成するための焼成装置としては、例えば、回転炉(ロータリーキルン)を用いることができる。また、乾燥粉体をその中で焼成する焼成器の形状は特に限定されないが、管状(焼成管)であることが、連続的な焼成を実施することができる観点から好ましく、特に円筒状であることが好ましい。加熱方式は、焼成温度を好ましい昇温パターンになるよう調整しやすい等の観点から外熱式が好ましく、電気炉を好適に使用できる。焼成管の大きさ及び材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができる。
【0045】
焼成工程では、2回に分けて焼成することが望ましい。最初の焼成を前段焼成、後の焼成を本焼成とした場合、前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、本焼成を450〜700℃の温度範囲で行うことが好ましい。前段焼成と本焼成とを連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してから、改めて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれていてもよい。
【0046】
焼成は、空気雰囲気下又は空気流通下で行うことができる。複合酸化触媒を好ましい酸化還元状態に調整する観点から、焼成の少なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施することが好ましい。焼成をバッチ式で行う場合は、複合酸化触媒を好ましい酸化還元状態に調整する観点から、不活性ガスの供給量は乾燥粉体1kg当たり、50NL/hr以上が好ましく、より好ましくは50〜5000NL/hrであり、さらに好ましくは50〜3000NL/hrである。ここで、「NL」は、標準温度・圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定した気体の体積を意味する。
【0047】
本実施形態の複合酸化物触媒の製造方法においては、前段焼成体の還元率は、7〜15%が好ましく、8〜12%がより好ましく、9〜12%がさらに好ましい。還元率がこの範囲にあることにより、収率がより向上するなどの触媒製造の観点で好ましい。還元率を所望の範囲に制御する方法としては、具体的には、前段焼成温度を変更する方法、焼成時の雰囲気中に酸素等の酸化性成分を添加する方法、又は、焼成時の雰囲気中に還元性成分を添加する方法等が挙げられる。また、これらを組み合わせてもよい。
【0048】
〔(IV)突起体除去工程〕
本実施形態の突起体除去工程は、焼成体の粒子表面に存在する突起体を除去する工程である。突起体の多くは突出した酸化物の結晶やその他の不純物である。特に、複数の金属を含む焼成体の場合、焼成体の大部分を形成する結晶とは組成の異なる酸化物が、焼成体本体部から滲出したような形状で形成されることがある。このような突起体は流動性を低下させる要因になるため、触媒表面から除去すべきである。突起体の除去をグラムスケールで行う場合には、下記の装置を用いることが可能である。すなわち、底部に1つ以上の穴を有する穴あき板を備え、上部にペーパーフィルターを設けた垂直チューブを用いることができる。この垂直チューブに焼成体を投入し、下部から空気を流通させることで、それぞれの穴から気流が流れて焼成体同士の接触を促し、突起体の除去が行われる。
【0049】
〔不飽和ニトリルの製造方法〕
本実施形態の不飽和ニトリルの製造方法は、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、本実施形態の複合酸化物触媒を用いる。以下、反応器に充填した本実施形態の複合酸化物触媒に、プロパン、アンモニア及び酸素含有ガスを接触させて、プロパンの気相接触アンモ酸化反応を行うことによりアクリロニトリルを製造する方法について説明する。
【0050】
(原料)
原料のプロパン及びアンモニアは必ずしも高純度である必要はなく、エタン、エチレン、n−ブタン、イソブタン等の不純物を3vol%以下含むプロパンや、水等の不純物を3vol%以下程度含むアンモニアのような工業グレードのガスを使用できる。酸素含有ガスとしては、特に限定されないが、例えば、空気、酸素を富化した空気、純酸素、又はこれらをヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、窒素等の不活性ガス若しくは水蒸気で希釈したガスが挙げられる。このなかでも、工業スケールで用いる場合には簡便さから空気を用いることが好ましい。
【0051】
(反応条件)
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応は、特に限定されないが、具体的には、以下の条件で行うことができる。反応に供給する酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は好ましくは0.1〜6であり、より好ましくは0.5〜4である。反応温度は好ましくは300〜500℃であり、より好ましくは350〜500℃である。反応圧力は好ましくは5×104〜5×105Paであり、より好ましくは1×105〜3×105Paである。接触時間は好ましくは0.1〜10(sec・g/cm3)であり、より好ましくは0.5〜5(sec・g/cm3)である。反応条件が上記範囲であることにより、CO2及びCOの生成をより抑制し、不飽和ニトリルの収率をより向上できる傾向にある。
【0052】
本実施形態において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cm3)=(W/F)×273/(273+T)
ここで、W、F及びTは次のように定義される。
W=充填触媒量(g)
F=標準状態(0℃、1.013×105Pa)での原料混合ガス流量(Ncm3/sec)
T=反応温度(℃)
【0053】
また、本実施形態の複合酸化物触媒を用いたプロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応は、特に限定されないが、具体的には、以下の条件で行うことができる。反応に供給する酸素のプロパン又はイソブタンに対するモル比は好ましくは0.1〜6であり、より好ましくは0.5〜4である。反応に供給するアンモニアのプロパン又はイソブタンに対するモル比は好ましくは0.3〜1.5であり、より好ましくは0.7〜1.2である。反応温度は好ましくは350〜500℃であり、より好ましくは380〜470℃である。反応圧力は好ましくは5×104〜5×105Paであり、より好ましくは1×105〜3×105Paである。接触時間は好ましくは0.1〜10(sec・g/cm3)であり、より好ましくは0.5〜5(sec・g/cm3)である。反応条件が上記範囲であることにより、CO2及びCOの生成をより抑制し、不飽和ニトリルの収率をより向上できる傾向にある。
【0054】
気相接触酸化反応及び気相接触アンモ酸化反応における反応方式は、固定床、流動床、移動床等従来の方式を採用できる。このなかでも、反応熱の除去が容易な流動床反応器が好ましい。また、気相接触アンモ酸化反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下に本実施の形態を、実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔アクリロニトリル(不飽和ニトリル)の収率〕
実施例と比較例においては、アクリロニトリルの収率は次の定義に従う。生成したアクリロニトリルのモル数は、予め濃度既知のアクリロニトリルのガスをガスクロマトグラフィー(GC:株式会社島津製、製品名GC2014)にて分析して検量線を採った後に、アンモ酸化反応によって生成したガスをGCに定量注入し、測定した。
アクリロニトリルの収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
【0057】
〔CO2及びCOの収率〕
実施例と比較例においては、CO2及びCOの収率は次の定義に従う。生成したCO2及びCOのモル数は、予め濃度既知のCO2ガス及びCOガスをガスクロマトグラフィー(GC:株式会社島津製、製品名GC2014)にて分析して検量線を採った後に、アンモ酸化反応によって生成したガスをGCに定量注入し、測定した。
CO2又はCOの収率(%)=(生成したCO2又はCOのモル数)/[(供給したプロパン又はイソブタンのモル数)×(プロパン又はイソブタンの炭素数)]×100
【0058】
[実施例1]
(乾燥粉体の調製)
乾燥粉体(D1)を次のようにして製造した。
水1.771gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を340.5g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を46.9g、三酸化二アンチモン〔Sb23〕を66.2g、さらに硝酸セリウム〔Ce(NO33・6H2O〕を4.2g加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性原料液(A1)を調製した。
【0059】
シュウ酸/ニオブのモル比が2.5のニオブ混合液(B0)257.6gに、30質量%のH22を含有する過酸化水素水を40g添加し、室温で10分間攪拌混合して、水性原料液(B1)を調製した。
【0060】
得られた水性原料液(A1)を70℃に冷却した後に34.0質量%のSiO2を含有するシリカゾル564.7gを添加し、さらに、30質量%のH22を含有する過酸化水素水80gを添加し、55℃で30分間撹拌を続けた。次に、水性原料液(B1)、メタタングステン酸アンモニウム水溶液を26.5g(濃度50%)、粉体シリカ192gを水1728gに分散させた分散液を、水性原料液(A1)に順次添加した後に、50℃で2.5時間攪拌熟成し、原料調合液であるスラリー状の水性混合液(C1)を得た。
【0061】
得られた水性混合液(C1)を、遠心式噴霧乾燥器(乾燥熱源は空気。以下同様。)に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体(D1)を得た。乾燥器の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。
【0062】
(分級操作)
得られた乾燥粉体(D1)を目開き25μmの篩を用いて分級し、分級品である乾燥粉体(E1)を得た。得られた乾燥粉体(E1)の25μm以下の粒子含有率は0.2質量%であり、平均粒子径は54μmであった。粒子含有率及び平均粒子径はBECKMAN COULTER製LS230(商品名)により測定した(以下同様。)。
【0063】
(乾燥粉体(E1)の焼成)
得られた乾燥粉体(E1)を80g/hrの供給量で、回転炉内の直径(内径。以下同様。)3インチ、長さ89cmの連続式のSUS製円筒状焼成管に供給した。その焼成管内に1.5NL/minの窒素ガスを乾燥粉体の供給方向と対向する方向(すなわち向流。以下同様。)、及び同じ方向(すなわち並流。以下同様。)にそれぞれ流し、合計の流量を3.0NL/minとした。焼成管を4回転/分の速度で回転させながら、最高焼成温度である360℃まで4時間かけて昇温し、360℃で1時間保持できるように炉の温度を設定して前段焼成を行った。焼成管出口で回収した前段焼成体を少量サンプリングし、窒素雰囲気下400℃に加熱した後、還元率を測定したところ、10.2%であった。回収した前段焼成体を60g/hrの供給量で、回転炉内の直径3インチ、長さ89cmの連続式のSUS製焼成管に供給した。その焼成管内に1.1NL/minの窒素ガスを乾燥粉体の供給方向と対向する方向、及び同じ方向にそれぞれ流し、合計の流量を2.2NL/minとした。680℃まで2時間で昇温し、680℃で2時間保持した後、600℃まで8時間かけて降温できるように炉の温度を設定して、本焼成を行った。
【0064】
(突起体の除去)
底部に直径1/64インチの3つの穴のある穴あき円盤を備え、上部にペーパーフィルターを設けた垂直チューブ(内径41.6mm、長さ70cm)に焼成体(F1)を50g投入した。次いで、それぞれの穴を経由して、その垂直チューブの下方から上方に向けて、室温にて空気を流通させて、焼成体同士の接触を促した。このときの気流が流れる方向における気流長さは56mm、気流の平均線速は332m/sであった。24時間後に得られた複合酸化物触媒(G1)中には突起体が存在しなかった。
【0065】
複合酸化物触媒(G1)のa/b組成比を、蛍光X線分析(装置:リガク株式会社製、RINT1000(商品名)、Cr管球、管電圧50kV、管電流50mA。以下同様。)により測定した。得られた結果を表1に示す。このときに得られた複合酸化物触媒(G1)の組成はMo10.190Sb0.200Nb0.1020.03Ce0.005n/53.2wt%−SiO2であった。
【0066】
(プロパンのアンモ酸化反応)
上記で得られた複合酸化物触媒(G1)を用いて、以下の方法により、プロパンを気相接触アンモ酸化反応に供した。内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に複合酸化物触媒を35g充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1:3:18のモル比の混合ガスを接触時間3.0(sec・g/cm3)で供給した。この触媒について30日間連続反応を行ったときのアクリロニトリル(AN)の反応収率を表1に示す。
【0067】
〔実施例2〜9、比較例1〜8〕
表1に示す組成を有する触媒を調製し、該触媒を用いて実施例1と同様の方法でプロパンのアンモ酸化反応を行った。それぞれの触媒を用いた反応の収率を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
各実施例の結果から、本実施形態の触媒はAN収率が高く、CO2及びCO収率が低いことが示された。特に、比較例と比べてCO2及びCO収率の減少は著しく、アクリロニトリルのみならず、アセトニトリルや青酸等の有用な副生成物の分解も抑制されていると推察できる。
【0070】
本出願は、2012年9月27日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−214867)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の複合酸化物触媒は、プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させて対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、CO2及びCOの生成を抑制し、不飽和ニトリルの収率を向上させることのできる触媒として好適に用いることができる。
【手続補正書】
【提出日】2016年4月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に用いられ、
下記組成式(1)で表される複合酸化物を含む、複合酸化物触媒。
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはCeであり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a≦0.195、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0.005≦e≦0.2であり、0.60<a/b<0.85である。)
【請求項2】
SiO2換算で20〜70質量%のシリカをさらに含む、請求項1に記載の複合酸化物触媒。
【請求項3】
プロパン又はイソブタンを相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、請求項1又は2に記載の複合酸化物触媒を用いる不飽和ニトリルの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
即ち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応又は気相接触アンモ酸化反応に用いられ、
下記組成式(1)で表される複合酸化物を含む、複合酸化物触媒。
Mo1aSbbNbcden・・・(1)
(式中、成分ZはCeであり、a、b、c、d、e、及びnは、各元素の原子比を表し、0.1≦a≦0.195、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0≦d≦0.4、0.005≦e≦0.2であり、0.60<a/b<0.85である。)
〔2〕
SiO2換算で20〜70質量%のシリカをさらに含む、〔1〕に記載の複合酸化物触媒。
〔3〕
プロパン又はイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させて、対応する不飽和ニトリルを製造する方法において、〔1〕又は〔2〕に記載の複合酸化物触媒を用いる不飽和ニトリルの製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
Wの原料としては、特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ペルオキソカルボン酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、ハロゲン化物、アセチルアセトナート、アルコキシド、トリフェニル化合物、ポリオキソメタレート、ポリオキソメタレートアンモニウム塩等のタングステンの塩;三酸化タングステン、二酸化タングステン、タングステン酸、メタタングステン酸アンモニウム水溶液、パラタングステン酸アンモニウム、ケイタングステン酸、ケイタングストモリブデン酸を用いることができる。このなかでも、メタタングステン酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
複合酸化物触媒(G1)のa/b組成比を、蛍光X線分析(装置:リガク株式会社製、RINT1000(商品名)、Cr管球、管電圧50kV、管電流50mA。以下同様。)により測定した。得られた結果を表1に示す。このときに得られた複合酸化物触媒(G1)の組成はMo10.190Sb0.200Nb0.1000.03Ce0.005n/53.2wt%−SiO2であった。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
参考例1]
(乾燥粉体の調製)
乾燥粉体(D1)を次のようにして製造した。
水1.771gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH46Mo724・4H2O〕を340.5g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を46.9g、三酸化二アンチモン〔Sb23〕を66.2g、さらに硝酸セリウム〔Ce(NO33・6H2O〕を4.2g加え、攪拌しながら95℃で1時間加熱して水性原料液(A1)を調製した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0067
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0067】
〔実施例2、参考例3,4、実施例58、参考例9、比較例1〜8〕
表1に示す組成を有する触媒を調製し、該触媒を用いて実施例1と同様の方法でプロパンのアンモ酸化反応を行った。それぞれの触媒を用いた反応の収率を表1に示す。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0068
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0068】
【表1】