特開2016-216705(P2016-216705A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特開2016216705-水分散型絶縁皮膜形成用電着液 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216705(P2016-216705A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】水分散型絶縁皮膜形成用電着液
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20161125BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20161125BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20161125BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20161125BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
   C09D179/08 B
   C09D5/02
   C09D5/44
   C09D179/08 D
   H01B3/30 F
   H01B3/30 C
   C08L77/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-65026(P2016-65026)
(22)【出願日】2016年3月29日
(11)【特許番号】特許第5994955号(P5994955)
(45)【特許公報発行日】2016年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-105153(P2015-105153)
(32)【優先日】2015年5月25日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】飯田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】桜井 英章
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
5G305
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002CL031
4J002CM041
4J002EC036
4J002EN106
4J002FA081
4J002FD206
4J002GQ00
4J002HA04
4J002HA05
4J038DJ041
4J038DJ051
4J038JB09
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA14
4J038NA21
4J038PA04
4J038PB09
4J038PC02
5G305AA02
5G305AB01
5G305AB24
5G305AB40
5G305BA03
5G305CA22
5G305CA24
5G305DA30
(57)【要約】
【課題】作製時に熱溶融等の作業が必要なく、容易に、かつ安価に製造することができ、しかも形成する絶縁皮膜の厚膜化が容易であって、保存安定性にも優れた水分散型絶縁皮膜形成用電着液及び該電着液を用いた絶縁物の製造方法を提供する。
【解決手段】電着液11は、ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有し、ポリマー粒子は主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなり、ポリマー粒子は個数基準のメジアン径(D50)が0.05〜0.5μmであり、かつメジアン径(D50)の粒子径の±30%以内に有る粒子が全粒子の50%(個数基準)以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液において、
前記ポリマー粒子は主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなり、
前記ポリマー粒子は個数基準のメジアン径(D50)が0.05〜0.5μmであり、かつ前記メジアン径(D50)の粒子径の±30%以内に有る粒子が全粒子の50%(個数基準)以上であることを特徴とする水分散型絶縁皮膜形成用電着液。
【請求項2】
前記ポリマー粒子の表面電位が−30〜−70mVであることを特徴とする請求項1記載の水分散型絶縁皮膜形成用電着液。
【請求項3】
前記塩基性化合物が疎水性の塩基性化合物である請求項1又は2記載の水分散型絶縁皮膜形成用電着液。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の水分散型絶縁皮膜形成用電着液を用いて金属表面に絶縁皮膜を形成する絶縁物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線等の絶縁物を、電着法により形成する際に用いられる水分散型絶縁皮膜形成用電着液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モーター、リアクトル、トランス等には、電線の表面が絶縁皮膜により被覆された絶縁電線等の絶縁物が用いられている。電線の表面に絶縁皮膜を形成する方法としては、浸漬法や電着法(電着塗装)等が知られている。浸漬法は、例えば被塗装体として平角状の導線等を用い、これを塗料に浸漬して引き上げた後、乾燥させる工程を繰り返し行って、所望の膜厚を有する絶縁皮膜を形成する方法である。一方、電着法は、電着塗料(電着液)に浸漬させた被塗装体と電着塗料に挿入した電極に直流電流を流すことで電気を帯びた塗料粒子を被塗装体側に析出させて絶縁皮膜を形成する方法である。
【0003】
電着法は、他の方法よりも、均一な膜厚で塗装するのが容易であり、また、焼き付け後に高い防錆力や密着性を持つ絶縁皮膜が形成できることから注目されており、様々な改良がなされている。例えば、電着法に用いられる塗料として、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドの粒子であって、所定の平均粒径及び粒度分布を有する粒子を分散させたサスペンジョン型ポリイミド電着塗料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この電着塗料では、長期保存しても変質し難い優れた保存安定性を有するとともに、高い電着速度で、膜性状の均一性が高い電着皮膜を形成することができるとされている。
【0004】
また、電着法に用いられる電着材料として、ポリアミドイミド系材料を主成分として含有し、このポリアミドイミド系材料の分子鎖にポリジメチルシロキサンを導入してなる電着材料が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この電着材料では、所定の分子構造を有するポリアミドイミド系材料を使用することにより、特に、摺動部材等の塗装に求められる耐熱性を付与することができ、また、電着塗膜のひび割れ等を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5555063号公報
【特許文献2】特開2002−20893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の特許文献1では、分子中にアニオン性基を有するポリイミド粒子を用いる必要があることから、粒子の表面電位が大きくなり、電着液の保存安定性は向上する。しかしながら、カルボキシル基若しくはスルホン酸基を有するジアミンを用いるか、或いはイミド結合に寄与しないカルボキシル基若しくはスルホン酸基を有するテトラカルボン酸無水物を用いる必要があることから、使用できるモノマーの種類が制限されてしまい、製造コストが高くなるという課題があった。更に、電着液作製時にポリイミドワニスの粘度を下げるために、このポリイミドワニスを加熱して熱溶融する必要があるが、粒子の均一性を保つための精密な温度管理が必要となることから、更に製造コストが上がる。一方、上記従来の特許文献2では、樹脂に水溶性ポリアミドイミドを使用しており、電着中に水に不溶性の連続膜が導体表面に形成される。このため、皮膜の形成がある程度進行すると、その後の電着効率が悪くなり、所望の厚さを有する絶縁皮膜の形成が困難になるという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、多様なモノマーを用いることが可能であり、電着液の作製時に熱溶融等の作業が必要なく、容易に、かつ安価に製造することができるとともに、形成する絶縁皮膜の厚膜化が容易であって、保存安定性にも優れた水分散型絶縁皮膜形成用電着液及び該電着液を用いた絶縁物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液において、ポリマー粒子は主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなり、ポリマー粒子は個数基準のメジアン径(D50)が0.05〜0.5μmであり、かつメジアン径(D50)の粒子径の±30%以内に有る粒子が全粒子の50%(個数基準)以上であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にポリマー粒子の表面電位が−10〜−70mVであることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に塩基性化合物が疎水性の塩基性化合物であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点の水分散型絶縁皮膜形成用電着液を用いて金属表面に絶縁皮膜を形成する絶縁物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の観点の水分散型絶縁皮膜形成用電着液は、ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有し、ポリマー粒子が主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなる。また、このポリマー粒子は、上記のように、所望のメジアン径(D50)を有し、かつ所望の粒度分布に制御されている。そのため、ポリマーの合成に多様なモノマーを用いることが可能であり、電着液の作製時に熱溶融等の作業が必要なく、容易に、かつ安価に製造することができる。また、形成する絶縁皮膜の厚膜化が容易であって、電着液の保存安定性にも優れる。
【0013】
本発明の第2の観点の水分散型絶縁皮膜形成用電着液は、更にポリマー粒子の表面電位が−10〜−70mVである。この電着液では、上記のようにポリマー粒子のメジアン径(D50)等が制御されているため、ポリマー粒子の表面電位が、このように比較的低い値を示しても、ポリマー粒子の分散安定性が非常に優れる。
【0014】
本発明の第3の観点の水分散型絶縁皮膜形成用電着液は、更に塩基性化合物が疎水性の塩基性化合物であるため、調整後の電着液の液保存安定性をより向上させることができる。
【0015】
本発明の第4の観点の絶縁物の製造方法では、水分散型絶縁皮膜形成用電着液を用いて金属表面に絶縁皮膜を形成する。そのため、厚みのある絶縁皮膜を備えた絶縁電線等を、容易に、かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の電着塗装装置を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の水分散型絶縁皮膜形成用電着液は、ポリマー粒子、有機溶媒、塩基性化合物及び水を含有する。ポリマー粒子は主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド及び/又はポリエステルイミドからなる。このように、ポリマー粒子としてアニオン性基を有しないものを使用しているため、その合成に多様なモノマーを使用できる。主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド、ポリエステルイミドとは、少なくとも、その主鎖末端以外の炭素原子にアニオン性基を有しないポリアミドイミド、ポリエステルイミドをいう。アニオン性基とは、−COOH基(カルボキシル基)や−SO3H(スルホン酸基)等のように、塩基性溶液中でプロトン等が脱離して−COO-基等のマイナス電荷を帯びる性質を有する官能基をいう。主鎖中にアニオン性基を有する高分子(ポリマー)は、その合成に使用するモノマーにもアニオン性基を有するものを使用しなくてはならず、使用できるモノマーが制限されるため、製造コストが上がる。一方、このようなアニオン性基を有しないものは、その合成に使用できるモノマーの選択肢も増えるため、より低コスト化を図ることができる。
【0019】
<高分子(ポリマー)>
また、ポリマー粒子を構成する高分子に、ポリアミドイミド又はポリエステルイミドを使用した理由は、耐熱性、可とう性、製造コストの面で、他のポリマーよりも優れるからである。ポリマー粒子を構成するポリアミドイミドは、モノマーに、芳香族ジイソシアネート成分を含むジイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分を用い、これらを重合反応させて得られる。
【0020】
ジイソシアネート成分としては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが使用できる。
【0021】
また、酸成分としては、トリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5−トリメリット酸(1,2,5−ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−(2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が使用できる。
【0022】
これらジイソシアネート成分と酸成分とを等量ずつ混合し、有機溶媒中で加熱して重合反応させることにより、ポリアミドイミド樹脂ワニスを得ることができる。なお、上記イソシアネート成分と酸成分はそれぞれ1種類ずつ用いても良いし、複数の種類を組み合わせて使用しても良い。また、上記有機溶媒には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクタム等を使用することができる。
【0023】
一方、ポリマー粒子を構成するポリエステルイミドは、トリカルボン酸無水物とアミンから形成されるイミド、アルコールとカルボン酸又はそのアルキルエステルから形成されるポリエステル、そして、イミドの遊離酸基又は無水基がエステル形成反応に加わることで形成される。このようなポリエステルイミドは、トリカルボン酸無水物、ジカルボン酸化合物又はそのアルキルエステル、アルコール化合物、及びジアミン化合物を公知の方法で反応させることにより得られる。
【0024】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物等が挙げられる。このうち、トリメリット酸無水物が最も好ましい。
【0025】
また、ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸等の単環芳香族ジカルボン酸、2−メチル1,4−ベンゼンジカルボン酸等のアルキル基含有フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の多核芳香族ジカルボン酸、シクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。また、これらのアルキルエステルを使用しても良い。
【0026】
また、アルコール化合物としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上のアルコール、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート等のイソシアヌレート環を有するアルコール等が挙げられる。
【0027】
また、ジアミン化合物としては4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が使用できる。
【0028】
これらを反応させてポリエステルイミドを合成する方法としては、例えばポリエステルイミド原料モノマーを一括投入してイミド化及びエステル化を同時に行う方法、イミド酸成分(トリカルボン酸無水物、ジアミン化合物、アルコール化合物)以外のポリエステル形成成分(カルボン酸化合物、アルコール化合物)を予め反応させた後、イミド酸成分を添加してイミド化する方法等が挙げられる。合成反応は、クレゾール等の有機溶剤存在下で行っても良いし、無溶剤下で行っても良い。合成されたポリエステルイミドを必要に応じて溶剤で希釈することで、ポリエステルイミド樹脂ワニスが得られる。希釈用溶剤には、N−メチル2−ピロリドン又はクレゾール類等を使用することができる。
【0029】
また、ポリマー粒子を構成する高分子は、シロキサン結合を有しないものであることが好ましい。シロキサン結合を有すると、シロキサン結合が熱分解しやすいため、絶縁皮膜の耐熱性が劣化する不具合が生じることがあるからである。シロキサン結合の有無は、シロキサン結合を含有するモノマーを使用することに起因するため、シロキサン結合を含有しないモノマーを使用することにより、シロキサン結合を有しないポリマーとすることができる。
【0030】
また、ポリマー粒子を構成する高分子の平均分子量等については、特に限定されないが、高分子の平均分子量があまりにも小さすぎると、電着液調製後の液保存安定性が悪くなる場合もあること等から、例えば重量平均分子量が50000〜500000の範囲を満たすことが好ましい。高分子の平均分子量が小さすぎると、電着液調製後の液保存安定性が悪くなる場合がある理由としては、平均分子量が小さいと、単位質量当たりのポリマーのモル数が増加することになるため、電着液中に所定の割合で含まれる塩基性化合物で電荷を帯びることができなかったポリマーの数が増加し、これらが電着液調製後に凝集して沈殿を生じさせること等が推察される。
【0031】
<ポリマー粒子の粒子径、粒度分布、表面電位>
また、ポリマー粒子は個数基準のメジアン径(D50)が0.05〜0.5μmであり、かつメジアン径(D50)の粒子径の±30%以内に有る粒子が全粒子の50%(個数基準)以上である。即ち、このポリマー粒子は、該粒子からなる粉末について個数基準の粒度分布を測定したときに、メジアン径(D50)が0.05〜0.5μmの範囲内を示し、かつ当該粒度分布において全粒子数の50%以上の粒子が、メジアン径(D50)の±30%の範囲内([D50−0.3D50]μm〜[D50+0.3D50]μmの範囲内)に分布するものである。なお、本明細書において、上記個数基準のメジアン径(D50)及びメジアン径(D50)の±30%の範囲内に分布する粒子の割合(以下、全て個数基準)は、いずれもレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製 型式名:LA-960)にて測定した個数基準の粒度分布に基づくものである。電着液中に含まれるポリマー粒子のメジアン径(D50)を上記範囲に限定したのは、メジアン径(D50)が小さくなりすぎると、後述の絶縁層を形成するときの電着中に、ポリマー粒子が連続膜を形成して、次第に電着効率が低下し、絶縁層の厚膜化が困難になるからである。メジアン径(D50)の制御により、電着によって絶縁層の形成がある程度進行しても、その後の電流の流れを良好に保つことができる理由は、溶媒中に含まれる導電性のある水が、ポリマー粒子間に存在しやすくなるためである。一方、メジアン径(D50)が大きくなりすぎると、電着液の保存安定性が悪くなり、沈殿が生じてしまう。また、メジアン径(D50)の±30%の範囲内に分布する粒子の割合を50%以上とする理由は、該粒子の割合が少なくなりすぎても、電着液の保存安定性が悪くなり、沈殿が生じてしまうからである。また、保存安定性の観点から、ポリマー粒子は、メジアン径(D50)が0.08〜0.25μmであり、かつメジアン径(D50)の±30%の範囲内に分布する粒子の割合は75%以上であることがより好ましい。
【0032】
ポリマー粒子の表面電位は、−10〜−70mVの範囲であることが好ましく、−30〜−70mVの範囲であることが更に好ましい。ポリマー粒子の表面電位の絶対値が大きくなると、ポリマー粒子間の静電反発が強くなり、粒子の分散性は高くなるが、表面電位の絶対値が小さくなると、粒子間の静電反発が弱くなり、粒子の分散性が低くなることで電着液の保存安定性が悪くなる。電着液の保存安定性が悪いと、沈殿の発生やゲル化等の不具合が生じる。このため、電着液の保存安定性を良好に保つためには、一般に、使用するポリマー粒子は、表面電位が高い絶対値を示すことが望ましい。ポリアミドイミド等からなるポリマー粒子は、従来の、アニオン性基を有するポリイミドからなる粒子等に比べて低コストであるものの、アニオン性基を有しないため、表面電位の絶対値を高くすることが困難である。一方、本発明では、使用するポリマー粒子のメジアン径(D50)及び粒度分布を、上述のように制御することによって、その表面電位の絶対値がある程度低い場合であっても、ポリマー粒子を液中で安定して分散させ、これにより、電着液の保存安定性を良好に保つことができる。ポリマー粒子の表面電位の絶対値が下限値未満では、上述のメジアン径(D50)等の制御によっても、保存安定性を良好に保つことが困難になる場合があるため好ましくない。一方、ポリアミドイミド等からなるポリマー粒子であって、上限値を超えるポリマー粒子を得るのは、現状困難である。なお、ポリマー粒子の表面電位は、後述する電着液の調製過程において、電着液中に含まれる固形分(ポリアミドイミド樹脂)と塩基性化合物の質量比を調整することにより、制御することができる。
【0033】
<電着液の調製>
このようなポリマー粒子を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液は、例えば、次のような方法で得ることができる。先ず、モノマーとしての芳香族ジイソシアネート成分を含むジイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分をそれぞれ準備し、これらとともに、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒をフラスコ内へ所定の割合で投入する。フラスコには、撹拌機や、冷却管、窒素導入管、温度計等を備えた四つ口フラスコを用いるのが好ましい。上記ジイソシアネート成分と酸成分の配合比は、モル比で1:1となる割合とするのが好ましい。また、有機溶媒の割合は、合成後に得られる樹脂の質量の1〜3倍に相当する割合とするのが好ましい。これらをフラスコ内へ投入した後は、好ましくは80〜180℃の温度まで昇温させ、好ましくは2〜8時間反応させる。
【0034】
その後、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒で希釈させ、不揮発分として上記合成した樹脂を、好ましくは20〜50質量%の割合で含有するポリアミドイミド樹脂ワニスが得られる。
【0035】
このように合成されたポリアミドイミド樹脂ワニスから、上述のポリマー粒子を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液を調製するには、上記調製したポリアミドイミド樹脂ワニスを、必要に応じて有機溶媒で更に希釈し、塩基性化合物を加えた後、好ましくは回転速度8000〜12000rpmにて撹拌しながら、常温下で水を添加して十分に分散させる。これにより、調製後の電着液中に含まれるポリマー粒子を上述の粒度分布、即ちメジアン径(D50)の±30%の範囲内に分布する粒子の割合が50%以上になるように制御することができる。電着液中の各成分の好ましい割合は、ポリアミドイミド樹脂/有機溶媒/水/塩基性化合物=1〜10質量%/70〜79質量%/残部/0.05〜0.1質量%である。希釈に使用する有機溶媒には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクタム等を使用することができる。このうち、樹脂の溶解性が高く、調整後の電着液の液保存安定性をより向上させることができることから、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを使用するのが特に好ましい。また、塩基性化合物(分散剤又は中和剤)には、2−アミノエタノール、ピリジン、ピペリジン又はトリエチルアミン等の親水性の塩基性化合物や、トリ−n−プロピルアミン又はジブチルアミン等の疎水性の塩基性化合物を使用することができる。このうち、調整後の電着液の液保存安定性をより向上させることができることから、疎水性の塩基性化合物が特に好ましい。その理由は、疎水性の塩基性化合物であれば、電着液の調整後、分散しているポリマー粒子の周囲に疎水性の塩基性化合物が存在することで、分散媒である親水性の有機溶媒又は水が入り込み難く、粒子の膨潤が抑制され、ポリマー粒子の凝集や沈降が起こり難くなるためと推察される。
【0036】
以上の工程により、上述のポリマー粒子を含有する水分散型絶縁皮膜形成用電着液が得られる。なお、この実施形態では、ポリアミドイミドからなるポリマー粒子を含有する電着液の製法について説明したが、ポリエステルイミドからなるポリマー粒子を含有する電着液の場合も、モノマーの種類が異なる点や、有機溶媒が異なる点以外は、同様の手順及び条件により得ることができる。
【0037】
<絶縁物の製造>
続いて、上記水分散型絶縁皮膜形成用電着液を用いて金属表面に絶縁皮膜を形成する絶縁物の製造方法について、電線の表面に絶縁皮膜が形成された絶縁電線の製造方法を例に図面に基づいて説明する。図1に示すように、電着塗装装置10を用いて上記電着液11を電着塗装法により電線12の表面に電着させて絶縁層21aを形成する。具体的には、予め、円筒状に巻き込んである横断面円形の円柱状の電線13を、直流電源14の正極に陽極16を介して電気的に接続しておく。そして、この円柱状の電線13を図1の実線矢印の方向に引上げて次の各工程を経る。
【0038】
先ず、第1の工程として、円柱状の電線13を一対の圧延ローラ17,17により扁平に圧延して、横断面長方形の平角状の電線12を形成する。電線としては、銅線、アルミ線、鋼線、銅合金線、アルミ合金線等が挙げられる。次いで、第2の工程として、電着液11を電着槽18に貯留し、好ましくは5〜60℃の温度に維持して、この電着槽18内の電着液11中に平角状の電線12を通過させる。ここで、電着槽18内の電着液11中には、通過する平角状の電線12と間隔を設けて直流電源14の負極に電気的に接続された陰極19が挿入される。電着槽18内の電着液11中を平角状の電線12が通過する際に、直流電源14により直流電圧が平角状の電線12と電着液11との間に印加される。なお、このときの直流電源14の直流電圧は1〜300Vとするのが好ましく、直流電流の通電時間は0.01〜30秒とするのが好ましい。これにより、電着液11に分散したポリマー粒子(図示せず)が平角状の電線12の表面に電着されて絶縁層21aが形成される。
【0039】
次に、表面に絶縁層21aが電着された平角状の電線12に対し、焼付処理を施すことにより、電線12の表面に絶縁皮膜21bを形成する。この実施の形態では、表面に上記絶縁層21aが形成された電線12を、焼付炉22内を通過させることにより行う。上記焼付処理は、近赤外線加熱炉、熱風加熱炉、誘導加熱炉、遠赤外線加熱炉等により行われることが好ましい。また焼付処理の温度は200〜500℃の範囲内であることが好ましく、焼付処理の時間は1〜10分間の範囲内であることが好ましい。ここで、焼付処理の温度を200〜500℃の範囲内に限定したのは、200℃未満では絶縁層21aを十分に硬化できず、500℃を超えると樹脂が熱分解してしまうからである。また、焼付処理の時間を1〜10分間の範囲内に限定したのは、1分未満では絶縁層21aを十分に硬化できず、10分を超えると樹脂が熱分解してしまうからである。なお、焼付処理の温度は焼付炉内の中央部の温度である。焼付炉22を通過することにより、電線12の表面を絶縁皮膜21bで被覆した絶縁電線23が製造される。
【実施例】
【0040】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0041】
<実施例1>
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン747g、イソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート298g(1.19モル)、及び酸成分として無水トリメリット酸227g(1.18モル)を投入して130℃まで昇温させた。この温度で約4時間反応させることにより、数平均分子量が17000のポリマー(ポリアミドイミド樹脂)を得た。なお、以下の表1には、得られたポリマーの数平均分子量とともに、重量平均分子量を示す(後述の各実施例及び各比較例において同じ)。
【0042】
その後、上記合成したポリアミドイミド樹脂を、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用し、ポリアミドイミド樹脂(不揮発分)の濃度が30質量%となるように希釈したポリアミドイミドワニス(ポリアミドイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン=30質量%/70質量%)を得た。なお、上記重縮合反応によって、ポリアミドイミド(ポリマー)が合成されたことは、FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により確認した。
【0043】
次いで、上記得られたポリアミドイミドワニス1.7gを、N−メチル−2−ピロリドン6.3gで更に希釈し、塩基性化合物である2−アミノエタノール0.01gを加えた後、この液を回転速度10000rpmの高速で撹拌しつつ、常温下(25℃)で水を2g添加してポリアミドイミド微粒子が水に分散した電着液(ポリアミドイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン/水/2−アミノエタノール=5質量%/75質量%/19.9質量%/0.1質量%)を得た。
【0044】
続いて、上記調製した電着液を用いて絶縁物を作製した。具体的には、先ず、電着液を電着槽内に貯留し、この電着槽内の電着液の温度を25℃とした。次いで、幅2mm、長さ2mm、厚さ0.3mmとなる銅板を陽極とし、上記電着槽内の電着液に挿入されたステンレス鋼板を陰極とし、銅板とステンレス鋼板との間に直流電圧100Vを印加した状態で、銅板を電着槽内の電着液中に30秒間保持した。これにより銅板の表面に絶縁層が形成された。
【0045】
次に、表面に絶縁層が形成された銅板について焼付処理を行った。具体的には、絶縁層が形成された銅板を、250℃の温度に保持された焼付炉に3分間保持することにより行った。これにより、以下の表1に示す膜厚の絶縁皮膜が形成された絶縁物を得た。なお、焼付炉内の温度は、熱電対で測定した炉内中央部の温度である。
【0046】
<実施例2〜8>
実施例1と同様にして得られた不揮発分30質量%のポリアミドイミドワニスを使用して、調製後の電着液中の各成分の割合が、以下の表1に示す割合になるように、各成分の使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして電着液を得た。
【0047】
更に、上記調製した電着液をそれぞれ用い、実施例1と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0048】
<実施例9>
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、ポリエステルイミドの原料(モノマー)として、カルボン酸類、アルコール類、及びジアミンを配合し、更に触媒を配合して、235℃まで昇温した後、3時間保持して数平均分子量が20000のポリマー(ポリエステルイミド樹脂)を得た。なお、上記カルボン酸類には、無水トリメリット酸196g及びテレフタル酸179g、上記アルコール類には、エチレングリコール97g及びトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート253g、上記ジアミンには、4,4’メチレンジフェニルジアミン99gを使用し、また触媒には、テトラプロピルチタネート(TPT)1.2gを使用した。カルボン酸と水酸基とのエステル化反応、ジアミンと無水物基とのイミド化反応の過程で水が生成することに基づき、配合モノマー量から計算される理論水量と上記ポリエステルイミド樹脂の合成で生成した水量とが一致したことにより、反応の完了を確認した。
【0049】
その後、上記合成したポリエステルイミド樹脂を、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用して、ポリエステルイミド樹脂(不揮発分)の濃度が50質量%となるように希釈したポリエステルイミドワニス(ポリエステルイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン=50質量%/50質量%))を得た。ポリエステルイミドが生成していることはFT−IRで確認した。
【0050】
このようにして得られた不揮発分50質量%のポリエステルイミドワニスを使用し、調製後の電着液中の各成分の割合が、以下の表1に示す割合になるように、各成分の使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして電着液を得た。
【0051】
更に、上記調製した電着液をそれぞれ用い、実施例1と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0052】
<実施例10>
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン747g、イソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート298g(1.19モル)、及び酸成分として無水トリメリット酸227g(1.18モル)を投入して160℃まで昇温させた。この温度で約4時間反応させることにより、数平均分子量が25000のポリマー(ポリアミドイミド樹脂)を得た。
【0053】
その後、上記合成したポリアミドイミド樹脂を、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用し、ポリアミドイミド樹脂(不揮発分)の濃度が20質量%となるように、希釈したポリアミドイミドワニス(ポリアミドイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン=20質量%/80質量%)を得た。なお、上記重縮合反応によって、ポリアミドイミド(ポリマー)が合成されたことは、FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により確認した。
【0054】
次いで、上記得られたポリアミドイミドワニス2.5gを、N−メチル−2−ピロリドン5.5gで更に希釈し、塩基性化合物である2−アミノエタノール0.01gを加えた後、この液を回転速度10000rpmの高速で撹拌しつつ、常温下(25℃)で水を2g添加してポリアミドイミド微粒子が分散した電着液(ポリアミドイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン/水/2アミノエタノール=5質量%/75質量%/19.9質量%/0.1質量%)を得た。更に、上記調製した電着液をそれぞれ用い、実施例1と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0055】
<実施例11>
実施例10と同様にして得られた不揮発分20質量%のポリアミドイミドワニス2.5gを1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)5.5gで希釈した以外は実施例10と同様にして電着液を得た。
【0056】
更に、上記調製した電着液を用いて、実施例10と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0057】
<実施例12>
実施例10と同様にして得られた不揮発分20質量%のポリアミドイミドワニス2.5gを1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)5.5gで希釈し、塩基性化合物であるトリ−n−プロピルアミン0.02gを使用した以外は、実施例10と同様にして電着液を得た。
【0058】
更に、上記調製した電着液を用いて、実施例10と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0059】
<比較例1〜3>
実施例1と同様にして得られた不揮発分30質量%のポリアミドイミドワニスを使用して、調製後の電着液中の各成分の割合が、以下の表1に示す割合になるように、各成分の使用量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして電着液を得た。但し、水を添加する際、高速回転による撹拌は行わず、全量を一度に添加した。
【0060】
更に、上記調製した電着液をそれぞれ用い、実施例1と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0061】
<比較例4>
先ず、窒素ガス雰囲気下において、N−メチル−2−ピロリドン32.92mlに、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)1gを添加し、反応容器内で撹拌した。次に、氷浴中で、アミン成分である2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル2g(6.2ミリモル)とトリエチルアミン0.6g(6.2ミリモル)を、上記反応容器内へ添加して溶解させた。その後、酸成分である無水トリメリット酸クロライド2.6g(12.4ミリモル)を加えて一晩撹拌した。また、ソフトセグメント成分であるアミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン(DMS−A12)5.9g(6.2ミリモル)を加えて撹拌した。次いで、最終的に上記酸成分と当モルになるようにトリエチルアミンを、沈殿が生じないようにゆっくりと添加した。更に、純水100mlをゆっくりと加え、水溶性ポリアミドイミド電着液(ポリアミドイミド樹脂/N−メチル−2−ピロリドン/水/トリエチルアミン=8質量%/22質量%/69質量%/1質量%)を得た。生成したポリマー(ポリアミドイミド樹脂)の数平均分子量は5000であった。
【0062】
更に、上記調製した電着液を用い、実施例1と同様の方法及び条件で絶縁物を作製した。
【0063】
<比較試験及び評価>
実施例1〜12及び比較例1〜4で得られた電着液等について、以下の(i)〜(vi)の評価を行った。これらの結果を以下の表1に示す。
【0064】
(i) メジアン径(D50):各実施例及び比較例で合成したポリマー粒子について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製 型式名:LA-960)を用いて個数基準のメジアン径(D50)を測定した。
【0065】
(ii) D50の±30%の範囲内に分布する粒子の割合:上記装置より測定した個数基準の粒度分布から、メジアン径(D50)の±30%の範囲内([D50−0.3D50]μm〜[D50+0.3D50]μmの範囲内)に分布する粒子の全粒子数に占める割合を算出した。
【0066】
(iii)表面電位:ゼータ電位計(Dispersion Technology社製 型式名:DT1202)を用いて、各実施例及び比較例で合成したポリマー粒子の表面電位を測定した。
【0067】
(iv) 膜厚:各実施例及び比較例で作製した絶縁物について、銅板表面に形成された絶縁皮膜の膜厚を、マイクロメータ(ミツトヨ社製 型式名:MDH-25M)を用いて測定した。
【0068】
(v) 液保存安定性:各実施例及び比較例で調製した電着液を、室温で一定時間放置した後、沈殿の有無を目視により確認した。表1中、「A」は一ヶ月経過した後も目視では沈殿が全く確認されなかった場合を示し、「B」は一週間経過後は沈殿が確認されなかったが一ヶ月経過後沈殿が確認された場合を示し、「C」は電着液調製直後は沈澱が確認されなかったが一週間経過後に沈殿が確認された場合を示し、「D」は電着液調製直後に沈殿が確認された場合を示す。
【0069】
(vi) 分子量:各実施例及び比較例で調製した電着液中のポリマー粒子について、該粒子を構成する高分子の数平均分子量と重量平均分子量を測定した。具体的には、高速GPC装置(東ソー社製:HLC-8320GPC)を使用し、排除限界分子量4×107以上のカラム(東ソー社製:TSKgel Super AWM-H)を用い、示唆屈折率計にて検出した数値を標準ポリスチレン換算して分子量測定を行った。ここで、流量は0.600cc/分であり、制御温度は40℃であり、サンプリング速度は5×10-3cc/秒であり、サンプル注入量は0.010ccであった。なお、移動相には、ジメチルアセトアミドに吸着抑制剤として臭化リチウム1ミリモルとリン酸100ミリモルを添加したものを用いた。
【0070】
【表1】
【0071】
表1から明らかなように、実施例1〜12と比較例1〜4を比較すると、ポリマー粒子のメジアン径(D50)が所定の範囲を満たさず、メジアン径(D50)の±30%の粒子径の範囲内に分布する粒子数が所定の割合に満たない比較例1、比較例3では、粗大ポリマー粒子が凝集することにより沈殿が発生し、液保存安定性が悪い結果となった。
【0072】
また、メジアン径(D50)の±30%の範囲内に分布する粒子数が全粒子数の50%以上であるが、メジアン径(D50)が非常に小さい比較例2では、粗大ポリマー粒子がなく、液保存安定性等の評価は良好な結果が得られたものの、D50が非常に小さく、電着中にポリマー粒子が連続膜を形成して電着効率が悪くなったため、絶縁体膜の膜厚が非常に薄くなった。また、水溶性アミドイミドからなるポリマー粒子を使用した比較例4でも、連続膜の形成により電着効率が悪くなったため、絶縁体膜の膜厚が非常に薄くなった。
【0073】
これに対して、主鎖中にアニオン性基を有しないポリアミドイミド、ポリエステルイミドからなるポリマー粒子であって、そのメジアン径(D50)が所定の範囲を満たし、かつメジアン径(D50)の±30%の粒子径の範囲内に分布する粒子数が所定の割合を満たしている実施例1〜12では、電着液の作製時に熱溶融等の作業も必要なく、また、アニオン性基を有するポリイミドよりも安価な材料を使用し、表面電位が比較的低いにも拘わらず、電着法により膜厚が20μm以上の絶縁皮膜を形成でき、また、液保存安定性も良好な結果が得られた。特に、ポリアミドイミド樹脂ワニスの希釈にDMIを使用し、更に塩基性化合物に疎水性の塩基性化合物を使用した実施例12では、液保存安定性の評価において最も優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン等の電源用パワーインダクタのほか、車載用インバータのトランス、リアクトル、モーター等に使用される絶縁電線や、その他の絶縁物の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
11 電着液
図1