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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216860(P2016-216860A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】水系サイズ剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/513 20060101AFI20161125BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/165 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/12 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/152 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/328 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/352 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/358 20060101ALI20161125BHJP
   D06M 13/402 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
   D06M13/513
   C08J5/24CFC
   D06M13/165
   D06M13/12
   D06M13/152
   D06M13/188
   D06M13/224
   D06M13/328
   D06M13/463
   D06M13/352
   D06M13/358
   D06M13/402
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-104591(P2015-104591)
(22)【出願日】2015年5月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 卓真
(72)【発明者】
【氏名】古川 幹夫
【テーマコード(参考)】
4F072
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB09
4F072AB30
4F072AC05
4F072AC08
4F072AD23
4F072AE02
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH21
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL11
4F072AL16
4L033AA09
4L033AB05
4L033AC11
4L033AC15
4L033BA09
4L033BA13
4L033BA14
4L033BA17
4L033BA21
4L033BA46
4L033BA56
4L033BA58
4L033BA71
4L033BA86
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度を向上させ、得られる複合材料の機械物性を向上させることができる水系サイズ剤を提供する。
【解決手段】シランカップリング剤(A)100質量部と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(B)50〜700質量部と、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、第4級アンモニウム塩および無機塩から選ばれる1以上の化合物(C)10〜50質量部と、脂肪酸アミド(D)10〜50質量部と、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ヒンダードフェノール、ベンゾエートおよびヒンダードアミンから選ばれる1以上の化合物(E)1〜100質量部とを含有し、澱粉およびエポキシ樹脂を含有しない水系サイズ剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シランカップリング剤(A)100質量部と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(B)50〜700質量部と、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、第4級アンモニウム塩および無機塩から選ばれる1以上の化合物(C)10〜50質量部と、脂肪酸アミド(D)10〜50質量部と、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ヒンダードフェノール、ベンゾエートおよびヒンダードアミンから選ばれる1以上の化合物(E)1〜100質量部とを含有し、澱粉およびエポキシ樹脂を含有しない水系サイズ剤。
【請求項2】
(B)の水酸基価が200mgOH/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の水系サイズ剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水系サイズ剤で表面が処理されたことを特徴とするガラス繊維。
【請求項4】
請求項3に記載のガラス繊維を用いて製織されたことを特徴とするガラス繊維クロス。
【請求項5】
請求項4に記載のガラス繊維クロスを用いることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項4に記載のガラス繊維クロスを用いることを特徴とする複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械物性に優れた複合材料を得ることができる水系サイズ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器または電子通信機器等に使用されるプリント基板の補強材料には、ガラス繊維クロスが用いられている。近年、電子機器の小型化、薄肉化の進行に伴い、前記ガラス繊維クロスは薄くすることが求められている。ガラス繊維クロスを薄くするには、ガラス繊維の繊維径をさらに細くし、かつ束ねる本数を減らす必要がある。
【0003】
しかしながら、従来よりも繊維径を細くし束ねる本数を減らしたガラス繊維を用いて、従来から行われている、ガラス繊維に澱粉を含んだサイズ剤で被覆し、製織後、澱粉をヒートクリーニング処理する方法でガラス繊維クロスを製造すると、機械物性が低下するという問題があった。
【0004】
ヒートクリーニング処理を必要としない水系サイズ剤として、特許文献1では、エポキシ樹脂と、エチレンオキサイドが付加されたビスフェノールAエーテルと、シランカップリング剤とを含む水系サイズ剤が提案されている。しかしながら、特許文献1の水系サイズ剤を用いた場合、エポキシ樹脂を含むため静電気が発生したり、エポキシ樹脂がシランカップリング剤と反応するため糸質が変動したりして、製織性が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明者らは、特許文献2において、ヒートクリーニング処理を必要とせず、エポキシ樹脂を含まない水系サイズ剤として、シランカップリング剤と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテルと、柔軟剤と、帯電防止剤とを含む水系サイズ剤を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−162171号公報
【特許文献2】特開2015−78446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度を向上させ、得られる複合材料の機械物性を向上させることができる水系サイズ剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、澱粉およびエポキシ樹脂を除外した特定の配合組成を用いることにより、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度が向上し、得られる複合材料の機械物性が向上することを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)シランカップリング剤(A)100質量部と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(B)50〜700質量部と、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、第4級アンモニウム塩および無機塩から選ばれる1以上の化合物(C)10〜50質量部と、脂肪酸アミド(D)10〜50質量部と、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ヒンダードフェノール、ベンゾエートおよびヒンダードアミンから選ばれる1以上の化合物(E)1〜100質量部とを含有し、澱粉およびエポキシ樹脂を含有しない水系サイズ剤。
(2)(B)の水酸基価が200mgOH/g以下であることを特徴とする(1)に記載の水系サイズ剤。
(3)(1)または(2)に記載の水系サイズ剤で表面が処理されたことを特徴とするガラス繊維。
(4)(3)に記載のガラス繊維を用いて製織されたことを特徴とするガラス繊維クロス。
(5)(4)に記載のガラス繊維クロスを用いることを特徴とするプリプレグ。
(6)(4)に記載のガラス繊維クロスを用いることを特徴とする複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度を向上させ、得られる複合材料の機械物性を向上させることができる水系サイズ剤を提供することができる。本発明の水系サイズ剤で表面処理したガラス繊維から得られるガラス繊維クロスは、薄い場合であっても機械物性に優れるため、電気機器等に使用されるプリント基板として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、シランカップリング剤(A)と、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(B)と、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、第4級アンモニウム塩および無機塩から選ばれる1以上の化合物(C)と、脂肪酸アミド(D)と、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ヒンダードフェノール、ベンゾエートおよびヒンダードアミンから選ばれる1以上の化合物(E)を含有し、澱粉およびエポキシ樹脂を含有しない。ここでいう「含有しない」とは、実質的に含まないことを意味し、本発明の効果を損なわない範囲であれば、微量含んでもよい。
【0012】
本発明の水系サイズ剤は、シランカップリング剤(A)を含有することが必要である。 (A)は、ガラス繊維または得られる複合材料の機械物性を改善する目的で用いられる。(A)としては、一般式:Y−R−Si(CH3−nで示される加水分解性のシラン化合物が好ましい。官能基Yとしては、例えば、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基が挙げられ、これらの中でも、ビニル基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基が好ましい。Rとしては、直鎖状、分岐状のアルキレン基、フェニレン基、イミノ基等が挙げられ、またRを介さずに、YがSiに直接結合してもよい。官能基Xとしては、例えば、メトキシ基またはエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、アセトキシ基、オキシム基、イソプロペノキシ基、アミノ基が挙げられる。nは2または3の整数であることが好ましい。nが2または3の場合、複数のXは、互いに同一であっても異なってもよい。前記加水分解性のシラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。中でも、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度が特に向上することから、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0013】
本発明の水系サイズ剤は、ポリオキシアルキレンビスフェノールAエーテル(B)を含有することが必要である。(B)は、ガラス繊維の表面を被覆し、製織、整経時に発生する摩擦を低減し、毛羽、糸切れの発生を抑制する目的で用いられる。(B)としては、皮膜形成性が高く、毛羽、帯電防止および潤滑性付与の効果が高いものであり、特に帯電防止、毛羽の抑制に優れることから、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテルであることが好ましい。
【0014】
(B)の水酸基価は200mgKOH/g以下であることが好ましく、150mgKOH/gであることがより好ましい。(B)の水酸基価が200mgKOH/g以下である場合、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度がより向上し、得られる複合材料の機械物性がより向上する。一方、(B)の水酸基価が200mgKOH/gを超えると水に分散することが困難になり水系サイズ剤を作製することができない場合がある。
【0015】
(B)の含有量は、シランカップリング剤(A)100質量部に対して、50〜700質量部であることが必要であり、150〜450質量部であることが好ましい。(B)の含有量が50質量部未満の場合、紡糸の際に糸切れが頻発しガラス繊維を得ることが困難となる場合があるので好ましくない。一方、(B)の含有量が700質量部を超える場合、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度が低くなり、得られる複合材料の機械物性が低下するので好ましくない。
【0016】
本発明の水系サイズ剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、第4級アンモニウム塩および無機塩から選ばれる1以上の化合物(C)を含有することが必要である。(C)は、繊維の帯電性を低下させる目的で用いられる。
【0017】
ポリオキシアルキレンアルキルエステルとしては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエステルが挙げられ、第4級アンモニウム塩としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムパラトルエンスルホネート、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、パルミチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライドが挙げられ、無機塩としては、例えば、アンモニウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩が挙げられ、具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化リチウム、塩化マグネシウムが挙げられる。(C)は、上記のうち1種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0018】
(C)の含有量は、シランカップリング剤(A)100質量部に対して、10〜50質量部であることが必要であり、20〜40質量部であることが好ましい。(C)の含有量が10質量部未満の場合、ガラス繊維の帯電を防止することが困難になり、製織することが困難となる場合があるので好ましくない。一方、(C)の含有量が50質量部を超える場合、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度が低くなり、得られる複合材料の機械物性が低下するので好ましくない。
【0019】
本発明の水系サイズは、脂肪酸アミド(D)を含有することが必要である。(D)は、繊維の柔軟性を向上する目的で用いられる。脂肪酸アミドとしては、例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミドや、ポリエチレンアミンと脂肪酸との反応物が挙げられる。前記ポリエチレンアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンぺンタミンが挙げられ、前記脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられる。
【0020】
(D)の含有量は、シランカップリング剤(A)100質量部に対して、10〜50質量部であることが必要であり、20〜40質量部であることが好ましい。(D)の含有量が10質量部未満の場合、紡糸の際に糸切れが頻発しガラス繊維を得ることができないので好ましくない。一方、(D)の含有量が50質量部を超える場合、ガラス繊維とマトリクス樹脂間の界面剪断強度が低くなり、得られる複合材料の機械物性が低下するので好ましくない。
【0021】
本発明の水系サイズ剤は、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ヒンダードフェノール、ベンゾエートおよびヒンダードアミンから選ばれる1以上の化合物(E)を含有することが必要である。(E)は、ガラス繊維表面に微小な凹凸を形成しガラス繊維と接触する部材との摩擦を低減し、製織性、整経性を向上させる目的で用いられる。(E)としては、ヒンダードアミン誘導体が好ましい。ヒンダードアミン誘導体を用いることにより、製織機上のフィーダー部の巻き状態が安定し製織性が向上する。また、ヒンダードアミン誘導体は、マトリクス樹脂との界面剪断強度が特に高いことから、プリント基板の補強材料とした際に、優れた機械物性を示す。
【0022】
(E)の含有量は、シランカップリング剤(A)100質量部に対して、1〜100質量部であることが必要であり、1〜10質量部であることが好ましい。(E)の含有量が1質量部未満の場合、10質量部を超える場合いずれであっても、ガラス繊維とマトリクス樹脂の界面剪断強度が低くなり、得られる複合材料の機械物性が向上しないので好ましくない。
【0023】
本発明の水系サイズ剤は、無機繊維、天然繊維、合成繊維のような繊維の表面に付着させて用いる。無機繊維としては、例えば、ガラス、炭素、グラファイト、ムライト、酸化アルミニウムが挙げられる。天然繊維としては、例えば、綿、セルロース、天然ゴム、アマ、麻、カラムシ、サイザル、羊毛が挙げられる。合成繊維としては、例えば、熱可塑性樹脂を含む繊維が挙げられ、例えば、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を含む繊維が挙げられる。
【0024】
本発明の水系サイズ剤で表面が被覆された繊維は、柔軟性、低摩擦性および低帯電性に優れ、毛羽の発生が抑制されるため、優れた製織性を有する。
【0025】
本発明の水系サイズ剤は、開繊性を向上させる目的として、さらに微粒子を含んでもよい。微粒子としては、ポリマー微粒子、無機微粒子が挙げられる。
【0026】
ポリマー微粒子を構成するポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ダイマー酸ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンイミン、ポリオキシメチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリレート、ポリウレタンアクリレートが挙げられる。これらのポリマーからなる微粒子の中でも、開繊性を向上させる効果が高いことから、ポリウレタンポリアクリレートの微粒子であることが好ましい。
【0027】
無機微粒子を構成する無機物としては、例えば、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、シリカ、クレイ、窒化ホウ素、グラファイト、金属ジカルコゲナイド、ヨウ化カドミウム、硫化銀のほか、例えば、インジウム、タリウム、スズ、銅、亜鉛、金および銀から選ばれる1以上の金属を含む金属無機物が挙げられる。中でも、開繊性を向上させる効果が高いことから、窒化ホウ素であることが好ましい。上記微粒子は、上記のうち1種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0028】
本発明の水系サイズ剤は、繊維の集束性の向上、毛羽の発生抑制を目的として、さらにエポキシ樹脂以外の水溶性樹脂を含んでいてもよい。水溶性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、アクリロイルモルホリン系樹脂が挙げられる。水溶性樹脂は、上記のうち1種を単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0029】
本発明の水系サイズ剤は、さらにpH調整剤、硬化剤、硬化触媒、機能性フィラー、帯電防止助剤、柔軟剤、増粘剤、レベリング剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤等を含んでもよい。pH調整剤としては、例えば、酢酸が挙げられる。硬化剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、アミン−エポキシ付加生成物、ポリアミドポリアミン、芳香族ポリアミン、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類が挙げられる。硬化触媒としては、例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリスエチルヘキシル酸塩が挙げられる。機能性フィラーとしては、例えば、熱伝導性フィラー、電磁波遮蔽粒フィラー、断熱フィラー、高誘電フィラーが挙げられる。
【0030】
本発明の水系サイズ剤中における、(A)〜(E)を合計した固形分濃度は、2〜10質量%であることが好ましい。水系サイズ剤は、固形分濃度が2質量%未満であると、繊維に均一に被覆することが困難になり、繊維は、毛羽が立ち易くなり、耐熱性、機械物性が低下する場合がある。一方、固形分濃度が10質量%を超えると、繊維への固形分の付着量が増すことで、繊維表面のべたつき、過剰な微粒子の付着により、製織性が低下する場合がある。
【0031】
本発明の水系サイズ剤は、上記の(A)〜(E)を水中に分散させることによって製造することができる。より具体的には、最初に(A)を水に混合し、25℃以下の温度で撹拌し、加水分解反応を進める。この加水分解反応がある程度進んだ段階で、(B)〜(E)をさらに加え、撹拌する。上記の(B)〜(E)を、それぞれ、上記の(A)を含む水に加えて混合してもよく、上記の(B)〜(E)を混合したものを、上記の(A)を含む水に加えて混合してもよい。
【0032】
上記の(A)〜(E)の混合物に硬化剤を加える場合、攪拌翼、ビーズミル、3本ロールミル、ジェットミルを用いて、上記の(A)〜(E)の混合物および硬化剤を混合すればよい。上記の(A)〜(E)の混合物と硬化剤は、無機物等の固形物を混合しない場合に限り、ディスパーまたは振動攪拌を用いて混合してもよい。ディスパーを使用する場合、回転数は500〜3000rpmであることが好ましく、振動攪拌を使用する場合、振動数は30〜50Hzであることが好ましく、ビーズミルを使用する場合、チラーを用いることが好ましい。回転数や振動数を上記範囲内としたり、またチラーを用いたりすることにより、効果的に攪拌熱による発熱を抑制しながら水系サイズ剤を得ることができる。
【0033】
本発明の水系サイズ剤で表面が処理されたガラス繊維は、上記水系サイズ剤を、公知の方法(例えば、ローラーサイジング法、ローラー浸漬法、スプレー法)でガラス繊維に塗布することにより得ることができる。製織性、耐熱性の観点から、ガラス繊維に付着する水系サイズ剤(固形分)の量は、ガラス繊維と、ガラス繊維に付着した水系サイズ剤(固形分)との合計100質量部に対して、0.10〜0.30質量部であることが好ましく、0.15〜0.25質量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明のプリプレグは、ガラス繊維クロスにマトリクス樹脂を含浸させ硬化させることにより得ることができる。具体的な方法としては、例えば、ガラス繊維クロスに0.1〜2.0MPaの水圧や空気圧を加えて開繊し、さらにエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂を含浸させ、50〜150℃で0.05〜2時間かけることにより半硬化状態のプリプレグを得ることができる。マトリクス樹脂を含浸する方法としては、樹脂溶液にガラス繊維クロスを浸漬する方法が挙げられる。
【0035】
半硬化状態のプリプレグを、さらに150〜200℃で0.5〜4時間かけて硬化させることにより、プリント基板の補強材料に適した複合材料とすることができる。本発明の複合材料は、ガラス繊維とマトリクス樹脂の界面接着性が高く、耐熱性に優れ、吸湿状態でもハンダ熱の影響を受けることがない。
【0036】
本発明の水系サイズ剤は、従来の水系サイズ剤のように、澱粉およびエポキシ樹脂を含んでいない。このため、本発明の水系サイズ剤を用いることにより、長時間使用しない場合での糸質の変動や製織性の低下が抑制される。また、ヒートクリーニング工程が不要となり、従来これらの工程で生じていたガラス繊維の劣化が抑制される。前記抑制効果は、特に、電子機器等の小型化、薄肉化に伴い、ガラス繊維を束ねる本数を減らし、さらにガラス繊維の繊維径を小さくする場合に顕著である。本発明のガラス繊維クロスを用いることにより、プリント基板用のガラス繊維−樹脂の複合基板の剛性が向上し、破壊されにくい。
【0037】
本発明のガラス繊維やガラス繊維クロスやプリプレグや複合材料は、プリント基板の補強材料として好適に用いることができるほか、スマートフォン、タブレット、パワーデバイス、パソコン、家庭用ゲーム機等のコンピュータ類の部品;DVDプレーヤー、DVDレコーダーの部品、HDDレコーダーの部品、家庭用テレビ、プラズマディスプレイ、液晶テレビ等のディスプレイ電源ユニット等の部品;携帯電話、各種AV機器、OA機器等の部品;カーステレオ、カーナビゲーションシステム、インバーター、照明、自動車電装部材、自動車エンジン部材、自動車ブレーキ部材、自動車内装部材、宇宙航空材料、スポーツ用途、アウトドア用途、一般産業資材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
水系サイズ剤、ガラス繊維、ガラス繊維クロスおよび硬化した複合材料の特性を測定、評価する方法は下記のとおりである。
(1)水系サイズ剤のガラス繊維への付着量
JIS R 3420に準拠し、強熱減量として以下のように測定した。
水系サイズ剤の付着したガラス繊維を110℃で1時間熱風乾燥し、ガラス繊維から水分(水系サイズ剤由来の水分)を除去した。水を除去した後のガラス繊維の重量Wを測定した後、そのガラス繊維を電気炉用いて625℃の環境下で30分間静置し、ガラス繊維からさらに水系サイズ剤(固形分)を除去した。水系サイズ剤(固形分)を除去した後のガラス繊維の重量Wを測定した。
水系サイズ剤のガラス繊維への付着量は、以下の式から求めた。
ガラス繊維への付着量=[(水分除去後のガラス繊維重量W)−(水系サイズ剤(固形分)除去後のガラス繊維重量W)]/(水分除去後のガラス繊維重量W)×100
【0040】
(2)ガラス繊維とエポキシ樹脂との界面剪断強度
未処理のガラス繊維フィラメントから一本のガラス繊維を引き出し、その一本のガラス繊維に4〜8%で調整したサイズ剤で処理を行い20〜25℃の環境下で24時間乾燥した。乾燥後、ガラス繊維に液状のエポキシ樹脂(ADEKA社製エポキシ樹脂 EP4500)と硬化剤(ADEKA社製硬化剤 GM650)を接触させ、繊維上に樹脂の玉を10個以上作製した。作製後、40℃で1時間エージングし、さらに100℃で1時間のエージングを行い、繊維上にある樹脂玉を硬化させた。
得られた樹脂玉を有する繊維から、界面剪断測定装置(東栄産業社製)を用いて、引張速度0.12mm/分で、樹脂玉を引き抜き、その際の引抜強力(=F)を測定した。界面剪断強度は、以下の式から求めた。
界面剪断強度=F/(πDL)
式中、Dはガラス繊維の直径、Lは繊維軸方向の樹脂玉の長さを示す。
本発明においては、界面剪断強度が40MPa以上の場合、合格とした。
【0041】
(3)ガラス繊維クロスの通気度
東洋精機製のフラジールパーミヤメーターを用いて測定した。
本発明においては、通気度が60cc/(cm・s)未満の場合、開繊性が良好と判断し、60cc/(cm・s)以上の場合、開繊性が不良と判断した。
【0042】
(4)複合材料の機械物性(曲げ強度、曲げ弾性率)
JIS K 6911の3点曲げ試験に準拠し、曲げ強度および曲げ弾性率を求めた。なお、測定速度は5mm/分、支点間距離は16mmで行なった。
本発明においては、曲げ強度が600MPa以上の場合、合格とした。
【0043】
(5)(B)の水酸基価
(B)10gを、無水酢酸およびピリジン(無水酢酸/ピリジン(体積比)=1/5)の混合液5mLに溶解させた後、100℃で1時間、無水酢酸と(B)中の水酸基とを反応させた。その後、さらに蒸留水を添加し、100℃で10分間撹拌して、過剰の無水酢酸を分解し、試料液を得た。0.5モル/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて試料液の滴定を行い、滴定量W(mL)を求めた。同様に、(B)を用いない場合(上記の混合液のみ)についても滴定を行い、滴定量W(mL)を求めた。
下記式より、水酸基価を算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(W−W)×f×28.05/10
(f:0.5モル/L水酸化カリウム水溶液の力価)
【0044】
水系サイズ剤を構成する材料を、以下に示す。
(1)(A)
(A1)N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩と、90%酢酸と、水とからなる混合溶液(東レ・ダウコーニング社製、Z6032)
【0045】
(2)(B)
(B1)ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(吉村油化学社製、GF690、水酸基価123mgKOH/g)
(B2)ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル(三洋化成社製、ニューポール BPE−60、水酸基価228mgKOH/g)
(B3)ポリオキシプロピレンビスフェノールAエーテル(三洋化成社製、ニューポール BP−5P、水酸基価211mgKOH/g)
【0046】
(3)(C)
(C1)ポリオキシエチレンアルキルエステル(一方社油脂工業社製、ノイラン)
【0047】
(4)(D)
(D1)カチオン性脂肪酸アミド(一方社油脂工業社製、KSK)
【0048】
(5)(E)
(E1)ヒンダードアミン(吉村油化学社製、VL−1、平均粒子径40nm)
(E2)ベンゾトリアゾール(センカ社製、シャインガード BZ−07)
(E3)トリアジン(センカ社製、シャインガード TA−04)
(E4)ヒンダードフェノール(センカ社製、シャインガード HP−12)
【0049】
(6)その他
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(シキボウ社製、エポリカ)
・澱粉(日澱化学社製、パイオスターチ)
【0050】
実施例1〜14、比較例1〜13
表1に示す種類と質量部の(A)〜(E)と、水とを混合して、固形分濃度が4〜8質量%である水系サイズ剤を作製した。
得られた水系サイズ剤を、ノズルから紡出した複数のガラス繊維フィラメント(繊維総本数:40本)からなるガラスヤーンに付着させ、ガラス繊維を1本の束(ストランド)に集束させた。次いで、このストランドを、撚りをかけずにケークに巻き取った。得られたケークから解舒したガラスロービングを、撚りをかけながら(撚り数:0.5Z)、ボビンに巻き付け、ガラス繊維ヤーン(平均繊維径:4.1μm、番手:1.3tex)を得た。このようにして、表面が処理されたガラス繊維を得た。
得られた製織用のガラス繊維を、経糸、緯糸いずれにも用いて、津田駒工業社製のエアージェット織機で製織し、ガラス繊維クロスを得た。
得られたガラス繊維クロスを、水で開繊処理し、シランカップリング処理を行い、120℃の乾燥工程にて乾燥を実施した後、エポキシ樹脂のワニスに浸漬し、ワニスから取り上げた後、150℃で5分間、170℃で1.5〜2時間の加熱処理を行い、硬化した複合材料を作製した。なお、水での開繊処理は、0.1〜5.0MPaの水圧を加えて行い、シランカップリング処理は、アミノシランカップリング剤を用いて行った。またエポキシ樹脂のワニスとして、NBMA規格のFR−4組成のエポキシ樹脂100質量部をメチルエチルケトン14質量部で希釈したワニスを用いた。
【0051】
実施例1〜14、比較例1〜13で得られた水系サイズ剤、ガラス繊維、ガラス繊維クロス、および硬化した複合材料について、各種測定、評価を行った。測定結果および評価結果を表1、2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜14は、(E)を含む水系サイズ剤を用いたため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が高かった。また、(E)を含む水系サイズ剤を用いて得られた実施例1〜14の複合材料は、いずれも、(E)を含まない水系サイズ剤を用いて得られた比較例9の複合材料と対比して、曲げ強度や曲げ弾性率が高かった。
実施例1は、水酸基価が200mgKOH/g以下の(B)を含む水系サイズ剤を用いたため、水酸基価が200mgKOH/gを超える(B)を含む水系サイズ剤を用いた実施例10、11よりも、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度がやや高かった。その結果、実施例1で得られた複合材料は、実施例10、11で得られた複合材料よりも、曲げ強度や曲げ弾性率がやや高かった。
【0055】
比較例1は、水系サイズ剤中の(B)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、紡糸の際に糸切れが頻発しガラス繊維を得ることができなかった。
比較例2は、水系サイズ剤中の(B)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。
比較例3は、水系サイズ剤中の(C)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、製織時に静電気が大量に発生しガラス繊維クロスを得ることができなかった。
比較例4は、水系サイズ剤中の(C)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。
比較例5は、水系サイズ剤中の(D)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、紡糸の際に糸切れが頻発しガラス繊維を得ることができなかった。
比較例6は、水系サイズ剤中の(D)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。
比較例7は、水系サイズ剤中の(E)の含有量が本発明で規定する範囲より少なかったため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。
比較例8は、水系サイズ剤中の(E)の含有量が本発明で規定する範囲より多かったため、製織時に大量の静電気が発生しガラス繊維クロスを得ることができなかった。
比較例9は、水系サイズ剤中に(E)を含んでいなかったため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。
比較例10、11は、水系サイズ剤中にエポキシ樹脂を含んでいたため、製織時に静電気が大量に発生しガラス繊維クロスを得ることができなかった。
比較例12、13は、水系サイズ剤中に澱粉を含んでいたため、ガラス繊維とエポキシ樹脂間の界面剪断強度が低かった。その結果、得られた複合材料は、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。